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魔法をもらって

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第一章

               魔法をもらって
 刈谷菫礼はごく普通の小学校の通うごく普通の小学五年生だ、ついでに言えば学校の成績もスポーツも普通だ、顔立ちも普通で大きな目と長い睫毛が目立ちパーツはこれといって悪くないがやはりこちらも普通だ。
 それで菫礼はいつもクラスメイト達にこうぼやいていた。
「うちのお兄ちゃん凄いもてるけれど」
「お兄さん顔いいからね」
「背も高いしね」
 クラスメイト達もこう菫礼に返す。
「女の子みたいな顔でね」
「それでいてスポーツも出来て」
「そうなのよね、私とそっくりの顔なのに」
 それでだとだ、菫礼は言うのだった。
「何でお兄ちゃんはもててね」
「菫礼ちゃんはっていうのね」
「そう言うのね」
「もてたいとは思わないけれど」
 それでもだとだ、菫礼はぼやき続ける。
「それでもね、お兄ちゃんみたいにね」
「格好よくね」
「そうなりたいのね」
「女の子だから格好よくじゃないわ」
 そこは違うというのだ、男は格好よくだが女はどうかというと。
「もうね、お姫様みたいなね」
「綺麗になりたいのね」
「そうなのね」
「そうだけれど無理よね」
 願望を言う、しかしそれでもすぐにその願望を自分で否定する。
「私がお兄ちゃんみたいになれるのって」
「女の子だから綺麗になりたい」
「そう言うのね」
「そう、背も低いし胸もね」
 ここで自分が着ている制服の胸のところを見る、そこはというと。
 平らだ、その平らの胸を見て言うのだった。
「こんなのだから」
「私達の歳だと普通でしょ」
「まだ大きくならないわよ」
「いや、そろそろじゃない」
 大体小学五年の頃からが女の子の成長期だ、胸だけでなく背も高くなっていく。それで菫礼もこう言うのだ。
「だからまだかまだかって思ってるけれど」
「焦ってもどうにもならないじゃない」
「そうよ」
 そう言う菫礼にこう返したクラスメイト達だった。
「牛乳飲むなり身体動かすなりして」
「そうしていけばね」
「大きくなるのね」
「そう、少なくとも牛乳もスポーツも悪いことはないわよ」
 クラスメイトの一人がこのことを指摘した。
「菫礼ちゃんテニス好きだからテニスをはじめてみたら?」
「そうね、テニスってお洒落だしね」
 菫礼のテニスに対するイメージはこうしたものだ、だからテニスをしているのだ。
 それでだ、今もこう言うのだった。
「本格的にはじめてみようかしら」
「牛乳も忘れないでね」
「胸が大きくなって綺麗になって」
 そしてだというのだ。
「お兄ちゃんみたいになりたいから」
「格好よくじゃないけれど綺麗に」
「そうなるのね」
「何とかね」
 そうすると言うのだった、菫礼は彼女の中でこのことを誓った。普通ではなく綺麗になろうとだ。
 それでテニススクールに入って毎日牛乳を必死に飲んだ、そうして背も普通だがモデルの様に長身になろうとも誓った。
 スポーツに牛乳に励んだ、それでテニススクールでも一人で残って最後まで練習をした。スクールの背先生達もその菫礼を見て言う。
「あの娘熱心よね」
「ええ、刈谷さんはね」
 こうだ、コーチの控え室で話すのだった。
「あの娘最後まで残ってね」
「必死にやってね」
「あの娘いい選手になるかもね」
「テニスプレイヤーにね」
 なれるというのだ、こう話すのだった。
「やっぱり真面目にやってる娘って伸びるからね」
「そうそう」
 こうした話をしていた、皆菫礼に注目していた。
 そしてその菫礼にだ、ある日コーチの一人である小山田遥が来た。黒く長い髪を後ろでポニーテールにしており細く黒い眉が長く伸びている。 
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