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梅と共に

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第三章

「もうこれからは」
「そうしてね」
「うん」
 妙美は小さな声でこくりと頷いた、そしてこの日から妙美は誰かを噛むことも他の悪いこともしなくなった。姉と一緒に冬の梅の木を見ながら。
 秋だった、この時は。大学生になっていた妙子はやっと就職が決まって笑顔で家に帰った。それで家にいた母に笑顔で言った。
「お母さん、やっとね」
「ええ、家にも連絡が来たわ」
 母も娘に笑顔で言う。
「就職決まったわね」
「うん、スーパーにね」
「妙ちゃん高校の時からスーパーでアルバイトしてるしね」
「スーパーのことはね」
 それこそどういった職場か知っているのだ、細かいことまで。
「知ってるし」
「大丈夫よね」
「うん、やっていけるわ」
「それにしてもよかったわ」
 母はにこりとして娘に言う。
「就職が決まって」
「そうよね、本当にね」
「それじゃあよね」
「卒論頑張って」 
 そしてだというのだ。
「卒業するから」
「そっちも頑張ってね」
「それでもね、今とてもね」
 就職が決まったからだ、それで。
「私今とても嬉しいわ」
「喜んでるわね」
「とてもね、本当にやっと決まったから」
「秋になったけれどね」
「秋だけれど」
 子供の頃から成長した顔だった、身体も成長している。しかし今の妙子は子供の頃の笑顔のまま母に言うのだった。
「実りの秋よね」
「そうね、まさにね」
「それになったわ、じゃあ」
 母と話をしながら家の庭の方を見る、そしてだった。
 母にだ、笑顔のままこう言った。
「今からね」
「お庭に出てなのね」
「梅、見るわね」
「今もそうするのね」
「うん、高校に合格した時も大学に合格した時もそうしたし」
「今もよね」
「見るから」
 その梅の木をというのだ。
「そうするから。出ていいわよね」
「何で自分のお家のお庭に出るのにお母さんが駄目って言うの?」
 母は笑って娘に返した。
「そんなこと言う筈ないじゃない」
「そうよね、じゃあね」
 妙子は明るい笑顔で庭に出た、そしてだった。
 秋の梅を見た、梅の木は秋の赤や黄色くなった葉、それも落ち葉の絨毯の中にあった。周りは色から寂しさになろうとしている。
 しかしその梅を見て妙子は笑顔になって家の中にいる母に言った。
「妙美は?」
「まだ学校よ」
 家にはいないというのだ。
「お父さんもまだね」
「そうよね、まだね」
「けれど二人にもね」
「このこと伝えてくれるのね」
「当たり前じゃない、妙ちゃんのいいことなのよ」
 だからこのことは当然だというのだ。
「就職が決まったからね」
「スーパーのお仕事は大変だけれど」
 lこのことはよく知っている、何しろ高校の頃から働いているからだ。
「頑張るわね」
「大変って知ってると頑張れるわよ」
「それでよね」
「そう、やっていけるから」
 だからだというのだ。
「気を確かに持ってね」
「やっていくわね」
 妙子は明るくなっている顔で寂しくなろうとしている庭の中にある梅を見て笑顔でいた、その梅は今の彼女にとってはとても喜ばしいものだった。 
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