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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第60話 幾ら力が欲しいって言ってもあり過ぎて良い訳じゃないよね

 
前書き
前回のあらすじ

地上で激戦開幕

以上
 

 
 長く薄暗い地下水路を源外が操る万能戦車は走る。
 地上とは違い薄暗く狭い地下水路内には殺人メイド達の姿は全く見られなかった。
 もし、無策のまま地上を進んでいたなら、殺人メイド達の荒波に飲み込まれてしまっていただろう。

「へっ、どうやら腐ってもメイドのようだな。こんな薄暗くて小汚い所にゃ居ないようだな」
「にしても偉く臭いなぁ此処は、服に臭いが染み付いたらどうすんだよ?」

 後部甲板にて銀時は自分の着ている服に水路の鼻につく刺激臭が移る事を気にしていた。
 仕切りに鼻に服の一部を押し付けて何度も鼻をひくつかせている。

「銀ちゃん大人げないアル。男だったらもっとどっしりと構えているもんアルよ!」
「神楽の言う通りよ。そんなだから近頃の男子は皆草食系って馬鹿にされてるんじゃないの?」

 横目で見ていた神楽とフェイトが罵倒してきた。彼女達から見れば銀時のその仕草はどうもあまり好ましくないようだ。
 地上での戦闘の後、ただただ何事もなくこの地下水路を走っている間、一同は疲れを残さないようにこうして甲板に座り体力を温存していたのであった。

「うっせぇなぁ。ジャンプ主人公が臭ったら格好がつかねぇだろうが! 良い男ってなぁ必然的に良い臭いがするんだよ。こう、溢れ出るフェロモンの臭いって奴がさぁ」
「それって、加齢臭とか?」
「一辺マジでしばき倒すぞクソガキ」

 またしても銀時とフェイトは互いに睨み合いを始めてしまった。回りに居た仲間達は最早つきあいきれないとばかりにそんな二人から目を逸らす事にした。
 既に見慣れた光景であったからだ。そして、それを止める事が無駄な労力になると言うことも既に承知しているからとも言える。

「やれやれ、家のご主人様は本当に銀時と仲が悪いねぇ」
「本当アル。私とアルフはもう結構仲良くなってるのに向こうは全然駄目みたいアルな」
「嬉しい事言ってくれるねぇ、こんなあたしとも仲良くなってくれるなんてさ」

 嬉しかったのか、それとも照れくさかったのか。指で鼻を擦りながらアルフは言った。
 
「やれやれ、これから生死を賭けた戦いに赴く奴等とは思えん光景じゃのぉ。お前等相当肝っ玉が強いようだな」

 万能戦車を運転しながら源外は声高らかに笑った。彼の言葉を聞き、一同はようやく思い出した。そうだ、この先に待っているのはあの殺人メイド達の産みの親でもありこの事件の元凶でもある奴が待っているのだ。
 そいつを倒し、この事件を終わらせる事こそが、今の銀時達の目的でもあったのだ。

「そろそろ水路を出るな。まぁ出たとしてもこの先は道の悪い配管だらけの場所だ。恐らく奴等も其処に手回しはしてないだろうよ」
「だと良いんだけどねぇ、さてと―――」

 そっと腰を上げ、アルフは未だに醜い喧嘩をしている銀時とフェイトの仲裁に入った。水路を抜けた先は沢山の配管が行き交うまるで迷路の様な場所だった。足場も悪く見通しも悪い。源外の言う通り此処で待ち伏せをするには向かない場所と言えた。

「しっかし偉い場所に出ちゃったもんだねぇ。でも、じいさんの言う通り、敵なんて人っ子一人居ないみたいだね。さっすがじいさん。無駄に年とってないみたいだね」
「へっ、年寄り扱いすんじゃねぇよ。ただお前等よりちょっとだけ生まれたのが早いだけだっての」
「ははっ、御免御免、そんなにヘソを曲げないでよ」

 アルフと源外が楽しそうに語っている。フェイトでもそうだったが彼女もまた順応が早いようだ。まぁ、フェイトの場合は多少屈折してはいるのだが。

「ねぇ、源外さん!」
「ん?」

 上の方から声がした。万能戦車に取り付けられたサブシートに座っていたなのはが身を乗り出して源外を見下ろしていたのだ。

「後どれくらいでつくの?」
「さてな。だがこのまま邪魔が入らなけりゃもうすぐ天主につくだろうよ」
「分かった。ねぇ、私も下に下りて良い? 此処だと退屈なんだ」
「好きにしな。足を滑らさないように気をつけて降りて来いよ」
「うん!」

 源外の許しを得て、なのはは嬉しそうにサブシ―トから身を乗り出して甲板にやってきた。

「どうした?」
「あそこだと一人だから寂しいんだもん。此処だったらお父さんや神楽ちゃん。それにフェイトちゃんやアルフさんに源外さんと定春が居るから寂しくないからね」
「やれやれ、手の掛かるガキだなぁ全く」

 面倒臭そうに言うが、内心ちょっぴり嬉しそうにも見て取れた。
 そんな時であった。

「待ちなさい! 其処の無骨な戦車!」
「あん?」

 突如声がした。上の方からだった。一同は一斉に声のしたであろう上を見上げる。
 其処には五つの影が映っていた。良く目を凝らすと、其処には五人の美少女が立っていた。
 五人とも、何処かで見たようなヒラヒラで派手な服を身に纏っている。
 
「からくり達の自由を守る為、日々邪悪な人間達と戦い続けるメイド服美少女戦士【ご奉仕戦隊・メイドV(ファイブ)】此処に参上!」

 五人のからくりメイド達がそれぞれポージングして名乗りを上げる。今までの無感情なからくりメイド達とは違い何処かはっちゃけた感じの見えるメイド達だった。
 その余りにも場違いとも取れる仕草に、銀時達は言葉がなかった。

「何だ……あいつら―――」
「流山の奴、どうやら相当頭をやっちまったみてぇだなぁ」

 銀時は勿論の事、流石の源外もあれを目にしたせいか呆れ果ててしまった。
 呆れて物も言えないとは正しくこの事を言うのであろう。

「皆さん、注意して下さい。姿格好や言動こそふざけているようですが、彼女達は今までの強化型メイドを更に強化したカスタムタイプです。恐らく此処の性能は銀時様やフェイト様に匹敵するかも―――」

 たまが皆に伝える。彼女の分析能力で解析した結果なのだろう。一同の脳裏に戦慄が過ぎる。

「さぁ、からくりの未来の為に邪悪な人間達をおしおきするわよぉ!」

 リーダー格と思われるカスタムメイドの掛け声を皮切りにメイドVは一斉に襲い掛かってきた。驚くべき光景が其処にあった。
 なんと、五体のカスタムメイド達は自由自在に空を飛ぶのだ。
 狭い配管をまるで縫うように跳びまわる五人のカスタムメイド達。これでは逆に銀時達にとって不利な状況となってしまった。

「フェイト、迎撃するよ!」
「分かった!」
「加勢するアル!」

 フェイトとアルフ、そして神楽の三名が迫り来る五体のカスタムメイド達を迎撃した。デバイスや腕から魔力弾が、傘の穂先から鉛弾が放たれる。だが、それらを用いても彼女達カスタムメイド達を葬る事は出来なかった。彼女達は迫り来る攻撃の雨を華麗に交わし、更に速度を増して追いすがってきたのだ。

「駄目だ! あいつら動きが早すぎて捉えられない」
「他に攻撃手段はないのかよ?」
「近づいて直に殴れば何とかなるだろうけど、此処じゃ空も飛べないし、第一力も半減してるから……多分押し負けると思う」

 悔しそうに唇を噛み締めながらフェイトは言った。先の戦いにて銀時達が味わった世界の壁。その壁を今フェイト達も痛感していたのだ。

「源外さん、まだ武器って置いてたっけ?」
「サブシートにまだ幾つかある筈だ。そいつを使えばまぁ足しにゃなるだろうよ」
「分かった!」

 再びはしごを上りサブシートへと辿り着くなのは。彼女の座っていた場所にはまだ幾つかの武器が収められていた。
 それこそ多種多様な重火器は勿論の事、爆弾や使い方の分からない奇妙な作りの武器まで多種多様にあった。
 だが、果たしてこれらの武器で奴等に対抗出来るだろうか?

「覚悟しなさい! 邪悪な人間共!」
「けっ、言うに事欠いて俺達を悪役扱いたぁなぁ。上等じゃねぇか、こうなったらてめぇら纏めて月に代わって成敗してやらぁ!」

 木刀を抜き放ち、銀時は臨戦態勢を取った。追いついてきたカスタムメイド達が猛然と襲い掛かってくる。
 空中から鷹が兎を狩るかの様に猛スピードで突進してきたのだ。
 しかもそれが五体全員で襲い掛かってくるのだ。一糸乱れぬ連携を前に、一同はただ防戦一方となってしまった。

「おいじいさん! 何とかなんねぇのかよ! このままだとジリ便だぞ」
「無茶言うな! この砲塔は前方しか撃てねぇんだ。後方に回られちまったら打つ手がねぇ」
「ちっ!」

 不満げに銀時は舌打ちを打った。その間にもメイドVの怒涛の連続攻撃が行われており、それらを銀時達がギリギリの感じで捌いてかわし続けている。

「ホホホッ、か弱い人間が何時までかわし続けられるかしらぁ?」
「私達からくり家政婦はエネルギーさえ供給されれば何時までも戦い続けられるわ。だけど貴方達人間はいずれ疲れて動けなくなるでしょうね。そうしたら貴方達は只の木偶の棒にはや代わり」

 周囲を跳び回りながら不気味な事を叫びながら攻撃を仕掛けてくる。とても平成初期にやってたセーラー服美少女戦士をパロッた輩とは思えない言動が木霊している。
 とは言うが、彼女等の言う通りからくりである以上疲労の文字は皆無に等しい。このままではいずれ彼女等の言う通りの結末を迎えるのは明白の事だった。

「銀ちゃん、不味いアル。そろそろ私お腹空いてきたアル」
「シリアスな場面で何言ってんだてめぇは。とは言うが俺もそろそろシリアス展開に飽きてきた。さてどうするか?」

 この時、銀時の脳内には幾つかの妙案が浮かんでいた。

1.説得してこの場をやり過ごす。
2.突如坂田銀時は秘めた力を覚醒させ敵を瞬殺する。
3.窮地を察し心強い仲間が駆けつけて来てこの場を救ってくれる。
4.どうにもならない。人生とは非情だ。

 と、この4つの妙案が浮かんでいた。

「ってな具合に俺的には2か3が良いと思うんだがお前等はどれが良いと思う?」
「いきなり何言い出すんだい銀時。ってか、2とか3とか言われても分からないから!」

 新八が居ないので代わりにアルフがツッコミを入れた。因みに銀時の脳内など誰も分かる筈がないのであしからず。

「私的には3がおススメアル! 何か3って言葉に神秘性を感じるアル! 力と技のコラボレーションアルよ!」
「あぁ、やっぱあんた等について行くにはあの眼鏡が居ないと駄目だわ。心底あんたらのボケについていけないわ」

 青ざめて頭を抑えるアルフ。相当この二人のボケがきついようだ。

「アルフ! 今はそんな天然パーマのアホな妄想に付き合ってないで手伝ってよ! こっちはバリアジャケット纏ってられる時間が限られてるんだから急がないと不味いんだからねぇ!」

 アルフとは打って変わりフェイトはかなり焦っている様子だった。それもその筈。源外の工房からずっとバリアジャケット纏った状態だった為にかなり時間を浪費してしまったのだ。
 因みに今の所25分経過している。後5分以内に片をつけないとバリアジャケットが崩壊し元の私服状態に戻ってしまう。
 かなりやばい状況でもあった。

「あんだとテメェ! 俺のナイスな妙案をアホな妄想とか抜かすたぁどういう了見だぁゴラァ!」
「妄想を妄想と言って何が悪いの? 因みに私の考えだと4が正解だと思うわね。少なくとも2と3は絶対にありえない。特に3は必ずあり得ないと断言出来るわ!」

 またしてもこんな時に互いに睨み合う両者。もしかしてこの二人、本当は仲良かったりしないだろうか?

「だぁもう! こんな時でも喧嘩しないでよ! 只でさえ絶体絶命的状況なのにさぁ! こんな事してる間にも敵が来たら大変な事に―――」

 状況説明しながらも視線を動かしてみる。が、其処で展開されていたのはメイドVが万能戦車の甲板の上で呑気に座りながら銀時とフェイトの醜い喧嘩をただじっと凝視している光景だった。

「え? 何してるの、あんた達」
「いやぁ、人間って何て同族同士で争うのか凄い興味があって」
「でも、何か思ってたのと違って凄い醜い光景だね。私達カラクリじゃ絶対にやらない事だよ」
「だから人間は愚かなんだね。伍丸弐號様の言う通りね」

 と、勝手に解釈し納得してしまう五人のカスタムカラクリメイド達。

「あぁ、もう嫌だこの世界。早くもとの世界に帰りたい」

 一人泣き崩れるアルフ。どうやらこの世界は相当生き辛い場所のようだ。

「まぁ、元気だしなよ犬っころ。生きてればその内良い事あるって」
「そうそう、まぁ私達が相手である以上来世になるだろうけどそんなに落ち込んじゃ駄目だって」

 何故かからくり家政婦達に慰められる使い魔。とても奇妙な光景であった。

「うぅっ……敵に慰められるなんて……喜んで良いのか悲しんで良いのかさっぱり分からないんだけど」
「笑えば良いんじゃネ?」

 呑気な事を言いつつすっかりやる気をそがれてしまった神楽が他人事の様に呟いていた。

「さぁて、遊びも此処までにしましょうか! 今度こそ貴方達を葬ってみせましょう!」

 再度メイドVは上空へと舞い上がる。またしても接近戦で来るかと思われたが、何とメイド達の持っていたモップの先端が輝きだした。
 その突如の事だった。輝いたモップから無数の光の筋が弧を描きこちらに襲い掛かってきたのだ。

「あいつら、あんなえげつない攻撃まで出来るってのかぃ!」

 愚痴りながらも即座に対応する。戦車の後方一面に防御用の結界を張り巡らせて被害を抑えようと試みる。だが、この世界の抑圧のせいか結界にも強度がない。数発の光弾を受けた辺りで決壊に亀裂が走り始めてきたのだ。
 結界が破れれば後はあの光弾の餌食となるだけである。どうすれば良いか。

「ねぇねぇ、これ使えないかなぁ?」

 そんな時だった。サブシートで使える武器を探していたなのはが取り出したのはこれまた一段と無骨な武器であった。その外見はとても銃器とは言い難い。まるで大砲だ。何しろその武器の全長が本来の重火器の約3倍近くは大きい。それに持ち手が左右にそれぞれ儲けられており其処を垂直に持って撃つと言う形状になっていた。
 その様はまるで某赤い巨人が使っていた兵器と酷似、って言うかその物っぽかったのだ。

「おい、何だあの無骨な大砲は? 何か俺の本能があれを撃っちゃいけないって囁いてるんだけど。あれ撃つと俺達全員星になっちまうんじゃね?」
「あぁ、ありゃ駄目だ。あの嬢ちゃんじゃ撃てねぇ代物だよ」

 見上げた源外が言い切る。一体あれは何と言う武器なのだろうか?

「おいじじい。あれは一体何だ?」
「あぁ、ついさっき金髪の嬢ちゃんの持ってたデバイスと強化型メイドの内部構造を調べて得たデータを元に俺作で作ったからくりデバイスみたいなもんだ。要するにあれは使用者の体内にある魔力を増幅させてぶっ放す大砲よぉ。その名もズバリ【射出音銃】だ!」
「おいぃぃぃぃ! 何その物騒な名前! 確実にアレじゃねぇか! もうあれ以外思いつかねぇよ! っつぅか何とんでもないもんついで感覚で作ってんだよこのクソジジイ!」

 簡単な説明だが銀時には分かった。あの兵器は使用者の魔力を増幅して一種のエネルギー砲に変換して射出する兵器なのだろう。もしそうならばとんでもない話だ。他の魔導師が撃つならたいした威力にならないだろう。だが、今それを撃とうとしているのはなのはだ。彼女の魔力は許容量が全く分からないのだ。先のメイド達を倒したあの両手から放たれた閃光と良い、もしなのはがそんな物騒な物を放てばどれ程の被害が出るか全く予想出来ないのだ。

「とりあえずこれ使ってみるよ。もしかしたらなんとかできるかも知れないし」
「止めろ! それを撃つな! 俺達皆吹っ飛んじまう―――」

 制止を呼びかけた銀時だったが、時既に遅しだった。発射ボタンに指を掛けていたなのはの指が無情にも発射ボタンを押したのだ。その瞬間だった。巨大な砲台から発射されたのは一面を真っ白に染め上げる程の閃光と凄まじい衝撃。そして轟音だった。
 何も見えない。何も聞こえない。何も感じられない。ただ、余りの衝撃に意識が刈り取られる事だけが理解出来た。
 



 万能戦車の後方から光弾を放っていたメイドV達は、突如として放たれた閃光を見た。それが何なのか理解する頃には既に彼女達はその閃光に飲み込まれていた。全身が強大なエネルギーに包まれていき、その体が崩壊していく。断末魔の叫びなどあげる暇すらなかった。
 一瞬、そう。まさに一瞬だった。その一瞬の内に五体のカスタムメイド達は残骸すら残さずこの世から消え去ってしまったのだ。




     ***




 地上での激闘は熾烈を極めていた。真選組、守護騎士、更には管理局の局員達の連合部隊に対し、強化改造を施された殺人メイド達との激闘が行われていたのだ。初めは連合部隊が優勢をとっていたが、やがて質量に勝る殺人メイド達が徐々に優勢に立ち始めていたのだ。

「不味いな」

 土方がふと呟いた。回りを見れば既に何人かの隊士や局員達が傷つき後方へと運ばれて行く光景が見られる。騎士達の顔にも疲れの色が見え始めた。
 元々こちら側の世界では魔導師や騎士達は本領を発揮出来ない。常に重しを背負った状態で戦わされてる状態なのだ。 
 それに加えて相手は向こう側の技術を使う強化型メイドの軍勢。分の悪い戦いであった。

「副長! 既に我が隊の損害が甚大です! このままでは全滅する危険性すらありえます!」
「怯むんじゃねぇ! 俺達が此処で退いたら江戸その物があいつらに蹂躙されるんだぞ! 死ぬ気で守りぬけ!」

 怒号を上げて激を飛ばす。とは言う物の状況は厳しい。こちらの戦力は減る一方なのに敵方の戦力は増える一方なのだ。
 だが、此処で自分達が退く訳にはいかない。此処で自分達が退けば、奴等は無力な市民達を蹂躙する筈だ。奴等に心などない。奴等はただ与えられた命令に忠実に行動する残虐な殺人鬼達なのだ。
 ふと、地面に振動が伝わってきた。地震かと思われたが違った。その振動は徐々に大きくなってくる。それと同時に土方の本能が告げている。
 此処に居ては危険だ。すぐに下れ! と。

「土方さん、すぐに隊を下げてください! 此処に居たら危険です!」
「何?」

 突如、青ざめた表情でクロノが進言してきた。何時もの彼らしくない慌てた表情だ。

「一体どうしたんだ? それにこの振動は何だ?」
「地面の下から強大な魔力が感知されました。恐らく、魔砲です! それも今まで感知したことがない程の―――」
「……隊に連絡しろ! すぐに此処から下れ! 巻き添えを食うぞ、とな!」

 すぐに近くに居た連絡員に伝令を飛ばす。隊士達はそれこそあれよあれよと殺人メイド達から真っ先に逃げ出した。無様であろうと滑稽であろうと構わない。急いでその場から逃げなければならないのだ。
 そんな隊士達や局員達を葬ろうとメイド達は不気味な笑みを浮かべながら迫ってくる。
 だが、その直後であった。突如メイド達が歩いていた地面が盛り上がりだしたのだ。そして、盛り上がった地面は音を立てて引き裂け、中から飛び出したのは凄まじい程のエネルギーを持った光だった。
 その光は付近に居た殺人メイド達を瞬く間に飲み込んで行き、跡形もなく蒸発させてしまった。
 その光景を目の当たりにした一同は絶句した。

「お、おい……あれが、お前等の言う魔砲って奴なのか?」
「そ、そうですけど……こんな、あり得ない」
「あり得ないって?」
「魔力量が常識じゃ考えられないんです。とんでもない程の魔力をつぎ込んだ魔砲です。僕だって、こんな常識はずれの魔砲なんて見た事がない。こんなのが撃てる魔導師がいたら、それはもう化け物としか言いようがありませんよ」

 クロノが語る。彼ですらあれだけの魔砲を見た事がないと言う。土方は再度例の光を凝視した。光は一向に納まる傾向を見せず、ただただ天を貫く光の柱となっている。
 その光に向い殺人メイド達は真っ直ぐに突き進む。まるで命令されているかの如くメイド達は光の中へと歩んでいく。そして、その姿を、その体を、その命を光の中へと溶かして行く。
 その光景は正に圧倒的だった。さっきまで優勢であった筈の殺人メイド達が突如現れた光の中へと消えて行くのだ。あの強大な殺人メイド達が跡形もなく消え去って行く。

「あれは、魔力エネルギー……だが、何て膨大なエネルギーなんだ」
「だけどよ、この世界にあたしら以外に魔力を使える奴なんて居るのか?」
「居る筈がない。この世界で魔力が育つ筈がないんだ。では、一体誰が、誰がこれだけの膨大な魔力を持っていると言うんだ?」

 巨大な光の柱を前にして、騎士達もまた驚愕の思いに駆られていた。とても自分達では出せない程の強大なエネルギーだ。それこそ、星に向けて放てば星一つを粉々に出来そうな程の―――

「もし、もしこれだけの強大な力を持つ奴が……我々の敵になったとしたら……我々には勝ち目はない」
「おいシグナム。何弱気になってんだよ?」
「あれを見てそう思わないか? あのエネルギー……私達ヴォルケンリッターが全員合わさった所で、太刀打ち出来るような代物じゃない。一瞬の内に消し炭にされてしまう」
「じゃ、じゃぁ、どうしろってんだよ?」
「そんな事決まっている」

 後ろから声がした。振り返ると、其処にはシャマルとザフィーラの姿があった。二人もまた、あの膨大な魔力エネルギーを目の当たりにしているのだ。

「見る限り、これを放っている術者はまだあの魔力を自在にコントロール出来ていない様子だ。だったら、それを物にする前にその魔力を持つ術者を倒す」
「そして、その魔力を闇の書に移すのよ。そうすれば私達の目的は完遂される。あれだけのエネルギーなら闇の書を満たす事も可能だわ」
「でもさぁ、もしその持ち主が私等の知り合いだったらどうするんだよ?」

 ヴィータが不安げな表情を浮かべた。だが、そんな彼女にもたらされた答えはあまりにも非情な答えだった。

「例えその持ち主が我等の顔見知りであったとしても関係ない。そいつが我等に牙を剥く前に滅ぼす。それだけだ」
「ヴィータちゃん。私達が本来守るのはこの江戸でもなければ江戸の市民でもない。私達の主【八神はやて】只一人なのよ」
「その通りだ。我々は主を守る為ならば何人であろうとも切り伏せる。昔と同じであろうが」

 三人の騎士達の言葉が胸に突き刺さる。そうだ、昔と同じだ。
 主を守る為にこの世界を犠牲にする。それはかつても今も、そしてこれからもそうだ。
 当たり前の事なのだ。なのに何故だろうか? 鉄槌の騎士の心は何時までも重く沈んだままであった。
 やがて、地上に居た殆どの殺人メイドを飲み込んだ後、その光は消えてしまい、後に残ったのは巨大な穴であった。




     ***




 徐々に意識が戻って来る。その際に体に感じたのは全身を強打した痛みと、言い様のない疲労感だった。そして、目を開けると、目の前に居たのは銀時とたまの二人だけだった。

「やっと起きたか?」
「あ……あれ?」
「立てるか? って言ってもまだ無理そうだな」

 そっと銀時がなのはを抱き抱える。未だになのはの頭はくらくらしており、状況の把握が出来ていない。

「此処は? それに、源外さんや神楽ちゃん達は?」

 なのはが尋ねると、銀時もたまも答えを渋った。何故即座に答えてくれないのか?
 疑問に思ったなのはは銀時の腕から離れてよろよろと歩き出した。
 そして見てしまった。今自分達が居たのは巨大なパイプ管の中であり、そして其処から見える外の光景は正に絶句と呼べる光景だった事を。

「こ、これは……」

 言葉がなかった。目の前に広がっていたのは滅茶苦茶に破壊されたパイプの群れと、天井に大きく開いた巨大な穴だった。
 その部屋自体がかなりの損傷を被っている。まるで、何か巨大なエネルギーで吹き飛んだかのような―――

「あ、あぁっ! あああぁぁぁっ!」

 その光景を目の当たりにして、なのはは思い出した。そう、この惨状を引き起こしたのは自分だったのだ。あの時、咄嗟に取り出した大砲を発射したが為にこの惨状が出来上がってしまったのだ。
 だが、それだけではない。あれを発射した際に自分の体に妙な高揚感を覚えた。
 そう、それはなのはが両手から閃光を発したときとほぼ同じ現象だったのだ。
 つまり、この惨状を引き起こしたのは自分自身。そして、そのせいで神楽や源外、定春やフェイトにアルフ達は皆―――

「なのは、落ち着け!」
「私のせいだ! 私のせいでこんな事に!」
「違う! お前のせいじゃない」
「違くないもん! 私には分かるもん! あの光は、あの時私が両手から出した光と同じ光だった……私が、私が―――」

 なのはが泣き崩れた。視線は動揺の余り右往左往しており、まるで発狂したかの様に頭を抑えて泣き叫んでいる。そんななのはに必死に銀時は呼び掛けた。だが、その声すら銀時には届かない。今のなのはには銀時の言葉ですら届かないでいるのだ。

「私が、私があんな光を出そうなんて思わなければ、思わなければ―――」
「しっかりしろ! 自分を見失うな!」

 なのはの両肩を掴み、銀時が必死に呼び掛ける。銀時の脳裏に一抹の不安が過ぎる。
 なのはが今までに見せなかった精神の崩壊。もし本格的に彼女の精神が崩壊してしまったら、その先に何が待つのか?
 ジュエルシード。かつて銀時達が異世界で出会った恐るべきロストロギア。対象物に憑依し、その魔力量に応じてその姿を変貌させる恐るべき結晶。
 その結晶の一つが、なのはの中に未だにあるのだ。そのジュエルシードがもし、起動して、もし暴走したらどうなるか?
 あれだけの高エネルギーを持つなのはがもしジュエルシードの暴走を抑えられなかったらどうなるのか?
 想像する事など出来なかった。想像などしたくなかった。
 そうだ、彼女の崩壊とジュエルシードの暴走は、そのままこの江戸、そして地球の終焉を意味しているのだから。

「気をしっかりもて! それでも俺の娘か?」

 咄嗟の事だった。咄嗟に銀時はなのはの頬を叩いた。彼女の父となって初めて、銀時はなのはを叩いたのだ。

「お……とうさん……」

 頬を叩かれた痛み。そして父の手の暖かさを肌で感じたなのはが銀時を見る。
 銀時の目は強く光っていた。その強い光がなのはの崩壊し掛けていた心をどうにか繋ぎとめてくれていたのだ。

「良いか、お前の光で誰も死んじゃいない! 神楽も、じじいも、脳内お花畑やその使い魔だって誰も死んじゃいねぇ! だから自分を責めるな」
「でも、でも、それじゃ皆は? 他の皆はどうしたの?」
「あいつらがそうそうくたばる訳ねぇだろうが。あいつらを殺すんだったらそれこそ江戸を滅ぼさなきゃならねぇ程の奴等だろうが。勿論、俺だってそうだけどな」

 自分を指差して銀時は言う。にっと笑みを浮かべて言うその顔が、なのはに安心感を与えてくれた。

「それになぁ、お前はあの光はお前だけが出せると誤解してるみたいだが、あんなのは俺達侍にとっちゃ当たり前のように出せるもんなんだよ」
「え? そうなの!?」
「あったりまえだろうが! 俺位の侍になったらあれだよ。すかしっ屁をするよりも簡単に出せるんだよ」

 銀時が余裕たっぷりの表情で言い放った。それを聞いた途端なのはの表情に何時もの表情が戻り始めた。

「それじゃ、私があの光を出せたのは?」
「お前が俺の娘だからに決まってるだろう。カエルの子はカエルって言葉もある位だ。侍の子は侍ってな。だから安心しろ。その内お前もあの光をすかしっ屁する位の感覚で操れるようになるからよ」
「うん。分かったよ、お父さん!」

 嬉しそうになのはは頷く。そして自分の両足で立ち上がり先へと進んでいく。その姿を見て銀時はほっと胸を撫で下ろした。

「銀時様」
「あん?」

 そんな銀時にたまが声を掛けてきた。

「銀時様。何故あの様な嘘を?」
「あぁでも言っとかないとあいつの自我は崩壊してただろう。それに、今はあいつに魔力がある事を自覚させる訳にゃいかねぇ。そうなったらあいつは否応なしに巻き込まれちまうからな」
「それは、父親であるが故の事と言う事ですか?」
「たま、これだけは言っておくぞ。もし、本当の事をあいつに言ったりしたら―――」

 銀時の手が木刀の柄を握る。

「その時は、俺はお前を斬る!」
「……承知しました。銀時様が魔法を尻から出すと言う事となのは様の中に魔力がある事は内密にしておきます」
「うん、前の事はどうでも良いがとにかく内緒で頼むぜ」

 明らかにどうでも良い事を内密にしようとしていたたまに言い返すのも面倒なのでそれで了承する事にした。

「さぁ、行こうぜ。お前の親父さんを止めによ」
「了解しました。それにしても、銀時様」
「あん?」
「貴方は悪い父親ですね。娘の為とは言え嘘を吹き込むなんて」
「……今更良い父親になろうなんざ考えちゃいねぇよ。ただ、俺はあいつの泣き顔が見たくないから嘘をついただけだよ」

 面倒臭そうに頭を掻き毟りながら銀時は言った。その仕草がたまには照れ隠しにも見えた。

「二人共ぉ、早く行こうよぉ!」

 遥か前の方でなのはが手を振っているのが見える。すっかり元気になったなのはを見てひと安心とばかりに銀時もそれに応じるかの様に手を振ってみせる。
 こうして、三人は薄暗い道を進んだ。目指すはターミナルの中枢。其処に今回の事件の黒幕、林博士こと伍丸弐號が居る筈だ。




     つづく 
 

 
後書き
次回、芙蓉編最終話

【親子の絆は死んでも続く】

お楽しみに 
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