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軍需産業

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第五章


第五章

「それと共にだ」
「軍需産業についてですか」
「どうするかを検討しますか」
「無論撤退も考える」
 それはやはり念頭に置いていた。しかしだ。
 念頭に置けるものは一つではない。あらたにこのことも置くというのだった。
「だが。存続もだ」
「考えていくのですか」
「それもまた」
「そうだ。ただしだ」
 ここでだ。川口は役員達に話した。
「それならそれで政府には色々と便宜を計ってもらおう」
「採算の取れない分野の製品を政府に提供する代わりに」
「それと共にですね」
「それなら事業を拡大できだ」
 それと共にだった。
「人も増やせるからな」
「政府の肝いりとしてですね」
「それも我が国の政府の」
「日本政府の」
「そうだ。技術者も労働者もだ」
 その人手不足が懸念されていたソフトウェアもだというのだ。
「だからだ。考慮していくべきだ」
「それが我がグループ全体の利益になるなら」
「ならばですね」
「その通りだ。まずはクロワーズグループについての調査だ」
 本当にだ。日本に入って来るかどうかだということについてだ。
「調べてくれ。いいな」
「はい、わかりました」
「それなら」
 こうしてだった。まずはだ。
 クロワーズグループについて調べられた。その結果だ。
 そのことは事実だった。確かにだ。
 日本政府、つまり国防省はだ。クロワーズグループに兵器の契約を打診していた。そしてそこから様々な分野での便宜もだ。
 それも確かだった。そのことを確めてだ。
 川口は決断を下した。それは。
「軍需産業を続ける」
「そうしてですね」
「そのうえで」
「そのクロワーズグループに便宜を計ろうという分野」
 それについてもだった。
「我々が取るぞ」
「そうしてさらなる利益を手に入れますか」
「軍需産業から」
「採算の採れない分野でもだ」
 それでもだというのだ。そこからでもだ。
「テコにしてそうしてだ」
「収益を得るのがですね」
「ビジネスですね」
「今回がそれだ。ならだ」
「はい、軍需産業は存続させましょう」
「そのうえで」
 他の分野での利益を挙げるというのだった。こうして川口重工の軍需産業からの撤退はなくなった。
 このことはすぐに八条にも伝わった。彼はそのことを移動中に聞いた。鉄道の個室において話を聞いた。彼の向かい側の席には由良がいる。由良が彼に報告したのだ。
「ということです」
「そうか。続けてくれるか」
「正式に決まりました」
「よし。話は奇麗にまとまった」
 八条はここまで聞いてだ。その整った顔に笑みを浮かべた。
 そしてだ。こう由良に話した。
「実は全て決まっていたのだ」
「全てとは?」
「川口重工の得意分野は多い」
 そのだ。川口重工についての話からはじめたのだった。
「建設やコンピューター関連と」
「化粧品等の他にも」
「あのグループはいいグループだ」
 客観的に見てだ。そうだというのだ。
「だから。そうした分野でだ」
「政府としても仕事を頼みたかった」
「当然軍需産業でもだ」
「だからですか」
「クロワーズグループに話を打診してだ」
「そのうえで川口重工に決断を促したのですか」
「成功した」
 八条の考えがだ。そうなったというとだ。それは。
「総理の御考えはな」
「長官の御考えではなかったのですか」
「そうだ、総理のだ」
 日本の内閣総理大臣であるだ。伊東のだというのだ。小柄ながら才媛として知られ辣腕家として国内からも国外からも警戒もされている。
 全てはその彼女のだ。考えだというのだ。
「クロワーズグループにも食品産業での許可を出すが」
「クロワーズバーガーですね」
「それのさらなる進出の話は取り付けた」
「それは見返りですか」
「川口重工への当て馬になってもらったことにな」
「ううむ、深いですね」
 由良は伊東のだ。見返りまで考えていた深謀にだ。思わず唸った。
 その彼にだ。八条は話した。
「私は川口重工が撤退することを恐れていたがだ」
「総理は違いましたか」
「その話を逆に利用されてだ」
「そこまでされたのですか」
「政治は色々なやり方がある」
 八条はまた言った。
「中にはこうしたやり方もあるということだな」
「一つの分野には留まらないというのですね」
「川口重工の軍需産業からの撤退を止め」
 さらにだった。
「そして各分野に進出してもらいグループとしても発展してもらう」
「それがそのまま雇用者の確保にもなりますし」
「国家の発展にもなる」
「そこまでつなげることなのですね」
「そうなるな。私としても勉強させてもらった」
 八条は唸る様にして言った。
「政治には色々なやり方がある」
「そして目的を実現させていくこともですね」
「そうしたことがわかった」
 こう話すのだった。そうしてだ。
 彼は鉄道で目的地に向かうのだった。彼がまだ日本の国防相だった頃の話だ。そしてこうした経験がだ。彼を中央政府初代国防長官として辣腕を振るわせることになったのだ。まさに政治であった。


軍需産業   完


                2011・8・31
 
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