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第三章


第三章

「そうなってしまったのです」
「そうだったんですか。無意識のうちにですね」
「そうなってしまったのです」
「成程。それでは」
「どうすれば飛べるかですね」
「それはできますか?」
 切実な顔でだ。彼は医師に問うた。
「それはできますか?」
「できます」
 医師は彼に結論から話した。
「それは可能です」
「けれど」
「はい、それでもです」
「苦労が必要ですね」
 苦い顔でだ。医師は朝彦に告げた。
「それもかなりの」
「かなりのですか」
「それでも宜しいでしょうか」
「やります」
 即断だった。朝彦はすぐに医師に答えた。
「それでも。飛びたいですから」
「怖くともですね」
「確かに怖いです」
 このことはだ。彼にしては絶対のことだった。
 それでだ。医師にもすぐに答えたのだった。その言葉を聞いてだ。
 医師も頷きだ。そのうえでだった。
 朝彦をだ。ある場所に連れて行った。そこは。
 精神病院だった。そこに連れて行くとだ。
 鰐に似た顔をしていて眼鏡をかけた白衣の老人が出て来た。白髪はかなり薄くなっており地がかなり見えている。その彼を指し示してだ。
 医師はだ。朝彦に話した。
「この方がです」
「今の私の治療をしてくれる方ですか」
「そうです。精神科医の」
「矢車佳彦です」 
 その鰐に似た顔の老人が名乗ってきた。
「宜しく御願いします」
「矢車先生ですか」
「はい、お話は香我美晋太郎先生から聞いています」
 その医師を見ての言葉だ。
「ではそれではです」
「早速ですね」
「治療を開始しましょう」
 こうしてだった。すぐにだ。
 朝彦はその矢車の治療を受けた。矢車はまずは彼の精神分析からはじめた。
 色々とだ。事情をあらためて聞きだ。そのうえでだった。
 彼にだ。こう話したのだった。
「怪我のせいですね」
「やっぱりそうですか」
「はい、ジャンプ中にバランスを崩して怪我をされ」
 そのせいだとだ。朝彦に話すのである。
「そのせいで無意識の内に恐怖ができてしまい」
「そうらしいですね。香我美先生も仰っていました」
 朝彦はこのことも話した。
「やっぱりそうなんですね」
「怪我をするとどうしても恐怖が表に出てしまいます」
「だからジャンプ台に立つともう」
「無意識の恐怖が全身を覆いです」
 まさにだ。それによってだというのだ。
「貴方は飛べなくなるのです」
「一体どうすればいいでしょうか」
 朝彦は切実な顔になり矢車に尋ねた。
「僕は絶対に飛びたいのですが」
「はい、そうですね」
 矢車もだ。それはわかっているというのだ。それでだ。
 彼に対してだ。こう言ったのだった。
「ではです」
「治療ですね」
「思われて下さい」
 朝彦に言うのはこのことだった。
 
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