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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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オリジナルストーリー 目覚める破壊者
  61話:彼が帰るべき場所

 
前書き
 
大変遅くなりましたぁぁぁぁぁ!!
もう来週は試験勉強で、受験勉強もしろとか言われ、かくかくしかじか…

今回でオリジナルストーリーは最後になるんですが…はっきり言って、かなり難産でした。かなり書きにくかったです、はい。
ちょっと試しに使ってみた書き方とかもあるので、誤字も含めて感想くれると嬉しいです。ではでは。



……ついでに一言。

シドォォォォォォーーー!!遂に逝ったぁぁぁぁぁ!!

  

 
 


―――門寺 士の逃走。

大ショッカーとの戦いの後、彼はどこかへいなくなってしまった。
結界を張っておいて、尚且つアースラからの探索も行ったが、それでも彼を発見する事は叶わなかった。

そんな状態のまま、三日の時が過ぎようとしていた。

クロノ達アースラクルーが引き続き捜索をする中、なのは達は通常通り学校に通っていた。
学校には当然アリサやすずかもおり、なのは達は二人に彼が無事なこと、そして彼が今逃走中だということを話した。二人共彼が無事だったことには反応が薄かったが、後者はとても驚いていた。

三人共学校には通いながらも、気持ちは彼の方へ向かったままだった。
何故彼はいなくなってしまったのか、彼の思惑は一体……?

そしてその日、なのは達はバラバラに下校した。
アリサやすずかは一緒に帰ろうと提案したが、それを一人でいたいと言って三人は断った。それにはアリサもすずかも表情を変えたが、三人の意を汲んでそれぞれバラバラに帰っていった。

「……はぁ…」

そんな中、なのはは今日何度目になるかわからないため息を吐いた。ため息一つで幸せが一つなくなるという話があるが、それが本当なら当分の間なのはに幸せがやってこない事になってしまうが……
ボスッ、ボスッ、と一歩一歩しっかり足を踏みしめて歩く。昨日一昨日で雪が降った海鳴に、白くない歩道はほとんどなく、油断するとこの間のようにコケてしまう。

それでも頭の中は、やはり彼の事でいっぱいだった。彼がいなくなって―――というより連れ去られて約一年が経とうとしている。しかも後一週間と経たない内に年越しだ。ようやく彼に会ったというのに、これでは落ち着けず年越しどころではない。

「―――…あっ…」

気付くとなのははいつの間にか、海鳴の裏山のふもとまでやってきていた。おそらく何か月かここに通い続けたから、体が覚えてしまったのだろう。顔を下に向けたままでもここに着いたのが、その証拠と言えるだろう。
なのはは一旦ポケットから携帯を取り出して時間を確認する。下校して二時間近く経とうとしていたことに気づき、流石に帰ろうと踵を返して……

―――ふと、なのはは足を止めた。

あの時―――彼と一年ぶりに出会った時も、この場所だった。その時の彼は操られていたようだし、目を覚ました彼自身は、覚えていないかもしれないが……

そう、あの時もここで―――

そう考えた瞬間、なのはは再び踵を返して、今度は裏山を上り始めた。

杞憂であればそれはそれでいい。だけど彼がもし、今あの高台に立っていたら……
もしじっと海鳴の景色を、これが見納めとばかりに見渡していたら……

そんな考えが浮かんだが、なのははすぐに頭を振ってその考えを消し去る。
でもなんとなく―――ほんとになんとなくだが…彼があそこに立っているような気がした。

段々と雲行きが怪しくなってくる中、なのはは少しずつ高台へと進んでいく。
はぁ、と吐く息が白くなり、また気温が下がってきた事がわかる。やっぱり冬だなぁ、と思ったその時、

「士君、服大丈夫かなぁ…」

と進む先を見上げながら呟く。その呟きも白く染まり、空に溶けていく。
確かジャケットを着ていた筈だが、流石にそれだけだと寒くないだろうか。頭に浮かんだ寒がってる彼に、少し笑みがこぼれる。

しかしもうすぐ高台だというところまで来ると、自然と表情が引き締まる。
この間のように足を踏み外さないように気をつけながら、一歩ずつ高台へ向かっていく。

「――――――」
〈――――――〉

その途中、何かが耳に入ってきた。思わず顔を上げて周りを見渡した。
周りは勿論木、木、木。人影の一つも見当たらない。聞こえてきたのは聞き覚えのある声と…何処か機械的な声?

そう思った瞬間、なのはは高台目がけて駆け昇る。途中で雪に足を取られそうになるが、片手を階段について立ち直る。
息を荒くし、階段を駆けあがる。数日前の戦いの疲労がまだ残っているのか、足が重く感じる。

ようやく最後の段に足を乗せ、高台に到着する。疲労して膝に手をついて息を整える。

〈―――能力リミッター、完了しました。これで少しは…〉

だがこの声が聞こえた瞬間、ガバッと顔を勢いよく上げる。

そこには両手を落下防止の柵に置いて、前のめりの体勢で街を眺める人物―――おそらく士の背中が見えた。

服装はさっき頭で描いたものではなく、コートのような黒い上着を着ていた。その右手首にある白い腕輪には光る赤い宝石が。

「あぁ、ありがとなトリス。お前にも随分無茶させちまった」
〈いえ、私は大事なところで何もできませんでしたので…〉
「それ言われたらなぁ…」

柵に乗せていた手で頬をポリポリとかいて答える彼。少しずつ落ち着いてきた体を、ゆっくりと起こす。
そして息がちゃんと落ち着くのを待って、なのはは一歩踏み出した。

「ていうか、もう大丈夫なのか?その…異常とかは?」
〈先日起動した際には見つかりませんでしたが……もう少し探ってみます〉
「あ、いや無いなら別に―――」
〈マスター〉
「…わかったわかった、頼むよ」

それを聞いた腕輪の宝石―――トリスが一、二度宝石部分を光らせる。
ふぅ、と彼が静かに息を吐いて天を仰ぐ。

「しかし、だいぶ寒くなってきたなぁ…雪も降ってきたし。もしかして去年より寒いんじゃねぇ、これ?」
「…天気予報じゃそこまでじゃないって言ってたよ?士君のその服が薄いんじゃないの?」

士の愚痴のように零した言葉に、なのはが口を開いた。しかしそれに対して士は、そこまで驚いた様子もなく再び声を出した。

「そうなんだけどさぁ…流石に無一文で買い物はできんだろ?」

そう言えばそうか、となのはは思い出した。この世界―――地球の日本のお金は円で統一されている。基本彼は仕事や任務でミッドや他の世界に行く時は、こっちのお金を置いて行っている筈だ。
そうなれば買う訳にはいかないし、まして盗んだりできるような彼ではない。

そんな事を考えていると、急に彼が小さく笑った。

「まぁ、よくお前もここに来たな?」
「…うん、この間もここで会えたし、もしかしたらと思って」
「そっか」

そう言うと彼はようやくこちらに顔を向けてくれた。そこで一つ驚いたのは、彼が珍しくサングラスをかけていたことだ。

「そのサングラス、どうしたの?」
「あぁ、拾ったからかけてる」

そんな彼の返しに、なのはは疑問を覚えた。

少し前に学校でメガネの話題になったことがある。確か発端は駆紋がかけているメガネが伊達だというところからだったか。
その伊達メガネを皆でかけ回した後、何故か沢渡が持ってきていたサングラスもかけ回したのだが……彼の時はとことん似合わず、沢渡に散々笑われていた。
その時は彼も「お前らの前ではぜってぇメガネかけねぇ」と断言していた筈だが……

どうしたのだろうと思う中、彼は笑みを浮かべて口を開いた。

「でもほんと―――〝最後にお前に会えて〟よかった」

その言葉に、えっと声を上げて今まで止まらずにいた足を止めてしまった。















「それって…どういう、こと…?」

思わず聞き返してしまった。その言葉を聞いても、彼の笑みは消えなかった。
何気に重要なことをヘラヘラとした表情で言ってのけている。しかしそれが逆に変に思えてくる。

「言った通りだ、俺はお前らのところには〝戻らない〟」

ははは、と乾いた笑い声を上げる士。色の濃いサングラスで目が見えない中、なのはは変な感覚を覚えていた。

「なんで…?」
「ん?」
「なんで、帰ってこないの…?」

なのはの質問にも、彼は笑顔を止めなかった。動揺した様子もない、どうやらこの質問が来るのは予想していたようだ。
だがそれでも答える気がないらしい。一向に口を開く様子はない。

「可笑しいよ、そんなの…。やっと…やっとまた会えたんだよ?それなのに―――」
「あぁ、それでも俺は戻れない」

今度はなのはの言葉にかぶせて、きっぱりと言い切った。
なのははそれでも何か言おうと口を開く。だが頭で考えていることが、言葉に…声にならない。

「…そんな悲しい顔すんじゃねぇよ」

言葉にできないもどかしさがにじみ出るなのはの表情を見てか、彼はそんな事を言ってくる。
それを聞いたなのはは、思わず下唇を噛む。

「…士君は、これからどうするつもりなの?」
「ん~、そうさなぁ。奴らを放っとく訳にはいかないし、取りあえずまずは大ショッカー潰しかね?」

その後は考えてねぇな、とまたも笑いながら彼は言う。

「ま、俺の事なんか忘れて、幸せに生きるんだな」

そして彼はそう言ってなのはに向かって歩き始める。




―――そんな事、言って欲しくなかった。
君の事を忘れろ、だなんて……幸せに生きろ、なんて言われても…そこに君はいないんだよ?そんなの…幸せなものか。




「まぁ、その…なんだ…」

そう言いながら、彼はなのはの横までやってきてポンッとなのはの頭に手を置いて、

「―――じゃあな…『サヨナラ』だ」

なのはの横を通り抜けていく。




―――「サヨナラ」…?
またな、じゃない。そんな言葉、君の口から初めて言われた気がする。

……なんで?なんでサヨナラなの?
どうして、君はいなくなっちゃうの?元に戻ったんだったら…目を覚ましたんだったら、戻ってきてよ…帰ってきてよ……

……嫌だ…嫌だ、嫌だっ!
また離れ離れになるなんて…またあんな思いをするなんて……!



一緒にいてくれないなんて、絶対に――――















「―――っ…」

不意に彼の足が止まった。
目の前には障害も何もない。ただもう数メートル歩けば階段、そしてこれを降りていけばこの裏山も降りることになる。

だが、彼の足は動かなかった。何故か?

「…なのは……」
「………」

彼の左腕の裾を、頭を垂らしたなのはが掴んでいるからだ。
しかしこれにはなのは自身も、自分が何をしているか理解するまで数秒を要した。なんかやってることが恋人っぽい……なんて考えてしまい、その事が顔に出そうになる。

だがそんな煩悩を超える感情が、今の彼女にはあった。

「…なのは、離してくれ」
「―――やだ…」


―――この手は離す訳にはいかない。


「……頼む、離してくれっ…」
「―――ヤダっ…」


―――彼を絶対に行かせない。


「…離せ、なのは…!」
「―――嫌だっ!」


―――もう離れたくない!


その思いを手に込めて、彼の上着の袖をしっかりと固く握りしめる。何があってもこの手は離さない、という思いで…彼と一緒にいたい一心で。


「―――離せって言ってるだろっ!」


「っ…!?」

だが次の瞬間、彼の怒号が響き渡った。思わずビクッと体を揺らしてしまい、手の力が緩みそうになる。しかしそこは踏みとどまり、もう一度袖を掴み直し顔を上げた。
顔を上げた先、その視界に入った彼の表情は…先程と違ってサングラス越しでも怒りの物だとすぐにわかった。

「…頼むから…離してくれ…!」

だが、彼の表情から読み取れるものはそれだけではなかった。
怒りの感情の奥に、悲しみなのか苦しみなのか、そんなものが感じられた。はっきりしないのは、やはりサングラスの所為だろうか?

「これ以上…俺の決意を……揺るがすなよ…!」

決意。彼が口にした言葉が、一瞬頭を過る。
彼がどんな思いを抱えているのか、どんな決意をしたのか、なのはにはわからない。

だからこそ―――

「話してくれなきゃ、わかんないよ!私、わかんないままなんて嫌だ!何もわかんないままこの手を離して…『家族』と離れ離れになるのなんか、絶対に嫌っ!!」

言葉で伝えてくれなきゃ…ちゃんと真正面から向き合ってくれなきゃ、何もわからない。なのははそれが許せなかった。

「話してよ!私達と一緒にいられない理由も、士君が決めたっていう決意も!話してくれなきゃ、何もわからないよ!!」

そんななのはの、一生懸命な言葉に……

―――彼は、奥歯をギリッと鳴らした。
その音が苛立ちから来るのか、はたまた別の何かか。しかしなのはにはもう、そんな事を考えている余裕はなかった。

ただ彼に言葉を、思いを…ちゃんと伝えようとすることで、精一杯だった。

「……やっぱり、ダメだ。俺は…」

その思いを受け止めても、彼は言葉を濁しただけ。結局彼の真意は話されずに……

「士!」
「士君!」

だがそこへ新たな声が。彼はその声がした方向―――高台への階段の方へと視線を送った。
そこには少し前のなのはと同じように、肩で息をしながら階段を上がってくるフェイトとはやての姿があった。

最後の段まで到達して、息を整える二人。それを見た彼は驚きの声を上げる。

「なのは、お前まさか…!」
「うん。ここに着いて士君の姿を確認した時、二人に連絡したんだ。今までの話も、二人に伝わってる」

なんとまぁ用意周到なこって…、とぼやく彼。
そこでようやく息が整った二人が、顔を上げて彼をしっかりと目で捉える。

「ふざけるんやないで、士君。私らを置いて行くなんて」
「私達もなのはと同じ気持ちだよ。聞かせてよ、士の思いを!」

はやてとフェイトの言葉に、彼はじっと黙ったまま立ち尽くす。

少しの沈黙が過ぎると、彼はかけていたサングラスを外す。その瞳は外したその時は閉じられていたが、彼はゆっくりと開く。

「「「―――っ!?」」」

彼の開かれた瞳を見た瞬間、三人は目を見開いた。


その瞳の黒目の部分が、淡い“青色の混じったマゼンタ色”に染まり揺れていた。


「士君…その目…」
「…あぁ、これがお前らの元を離れようと思った、理由の一つだ」

まるで炎のように揺れるその色は、以前の彼にはなかった物だ。

「この間戦った時、俺は意識を失っていた」
「…強制的に融合事故を起こされて、でしょ?」

はやての言葉に、彼は一度首を縦に振る。

「あぁ。だけど、融合事故を起こすにはユニゾンしていないといけない」
「でもデバイスがないと…」
「それを大ショッカーは実現しちまった」

どうやらエイミィが言っていた事は正しかったらしい。融合型デバイスなしのユニゾン、奴らはそれができる程の技術(ちから)を得てしまっていた。

「―――奴らは俺のリンカーコアに、改造を施したんだ」
「「「っ!?」」」

彼の言葉に、三人はまたも目を見開く。
人のリンカーコアをいじくる。それはミッドなどの魔法が知れ渡っている世界では、まさに禁忌とされているものだった。常識では考えない、危険な行為だ。

「リンカーコアの一部から普通とは別の回路を作り、そこに本人とは全く別の人格を繋げる。後はその人格を融合型デバイスと同じように仕立てれば、ユニゾンに近い状態が出来上がる、という仕組みらしい」

という俺も詳しくは知らないがな、と後に付け加える。
正直三人は空いた口がふさがらない、という心境だった。普通に考えてもあり得ないと思える事を、彼は平然と言ってのけているのが、驚きだった。

「俺は奴らに捕まった後、緑色の液体の入ったポッドに入れられて気を失ってたからな。ていうかベタすぎないか、緑色の液体とか…」

何故か独り言のように、話の方向が別のところを向き始めていた。
おっといけない、と彼は急いでそれを修正して、

「んで、今俺の目が変なのも、それの影響」

そう言って彼は自ら自分の目を指差す。彼が嫌っていたサングラスをかけていたのも、おそらくはその目を見られない為。
そして、彼は再び言葉を紡ぐ。

「正直言って、その『植えつけられた人格』は、まだ生き残ってる」
「「「っ!」」」

あの時彼の体を支配していた、彼曰く「植えつけられた人格」。確かに外側からの魔力攻撃で、彼を元に戻したが…それで「植えつけられた人格」を消し去る結果には至らなかったのだ。

「今はそいつが眠ってるだけだが、いつ目覚めるかもわからない。そうなれば、お前達を襲うと思う…」
「だから…だから私達から離れるの…?」

なのはの言葉に、あぁと短く答える。目を閉じ、肩の力を抜くように息を吐いた。

「お前らに被害が出ないように、お前らから離れるべきなんだよ」

だから離してくれないか、と後ろにいるなのはに頼む彼の表情は、本気の物だった。その表情に三人は少し怯んでしまう。

彼の決意は固く、その表情からも真剣に考えた結果だというのがわかる。この決意は早々変わることがない事も。










しかし、それで引き下がる程彼女達の思いも弱くはない。



「…悪いけど、もう一度だけ言わせてもらうで士君―――ふざけとんのか!」

最初にそう言い放ったのは、はやてだった。その表情はいつもの温和なものではなく、今までに見たことがほとんどない怒りの表情だった。

「私らに被害が出ないようにやて?もうこちとら被害出とるわ!今更そんな事ゆうても遅いんや!」

自分達がどれだけ彼の事を心配して、枕を濡らしたか…どれだけ彼の事を探し回ったか……
どれだけ自分の心が届かない事を嘆いたか…どれだけ心を傷つけられたか……





「そうだよ、士」

はやての次に口を開いたのは、はやての隣にいるフェイトだ。
彼女の優しさと悲しみを混ぜ合わせたような赤い瞳は、まっすぐに彼を捉えていた。

「もし士がその人格に体を乗っ取られたとしても、私達がまた必ず取り戻すから。だから…離れるなんて選択、しないでよ…!」

目に涙を溜めながら、必死に思いを伝えようとするフェイト。
どれだけ彼女達が彼を取り戻そうと奮闘したか…どれだけ彼との時間を取り戻したかったか……





「士君…一つ、聞いていい?」

そして最後に、なのはが声をかけてきた。

「今士君が言ったこと、嘘じゃないよね?」
「……あぁ、そうだ…」
「でも、〝本当の事〟でもないよね?」
「っ…!」

なのはの言葉を聞いた瞬間、彼は簡単に表情を変えた。そして思わず、なのはの顔を見る為に振り向いた。
やっぱり、と思いつつ、なのははじっと彼の顔を見つめ返しながら、

「士君は基本嘘つかないけど、本当の事とか本音とかを隠す時、目を閉じて息を吐いてから言うよね?」

彼の「何故?」という顔に、なのはは素直に答えた。そしてそれは彼にとって、かなり図星だった。

「わかるよ、それぐらい。だって―――私達、『家族』だもん」

なのはの言葉に、またも目を見開いた彼。

そう、なのはは彼を家族と認識し始めた頃―――だいたい六、七年前ぐらいから、彼の姿を目で追っていた。
ある時の彼の仕草に、その時は気にしなかったが、今思い返せばわかる。という事も多々あったのだ。それぐらい、彼女は彼を見てきていた。

だからさっきの行動も、そう思い言ってみたのだ。

「教えてよ、士君。私達を避ける…本当の理由を」

彼の顔をに見つめながら言った。横から見た彼は難しい顔をしていて、目を閉じて下唇を噛んでいた。

なのは、フェイト、はやて。三人、彼をじっと見据え、彼の言葉を待つよ。










「俺は……」

三人の思いを聞いた彼は、弱々しく口を開いた。

「俺は…もう誰も傷つけたく、ないんだ…」

彼らしからぬ、細々とした言葉。それには三人共同様に驚きを見せる。

「あの時も…そうだった…」



PT事件の―――プレシアの事。
あの時自分が油断していなければ、もっと周りに注意を向けれいれば……彼女は生きられたかもしれない。

闇の書事件の―――リインフォースの事。
もっと自分に力があれば、彼女が生き残り、もっとより良い方向になってたかもしれない。

プレシアが死んだ所為で、フェイトが悲しみ……
リインフォースが死んだ所為で、はやて達と幸せになる筈だった未来が消えた……



「俺に力があれば…皆悲しまずに、傷つかずに済んだ…」

そして今回は彼が、彼自身の手でなのは達を傷つけた。その事実が、さらに彼の心を傷つけた。

「俺がいたら、また皆が傷つく。最悪、俺がこの手で皆を―――」

殺す事になるかもしれない。
彼はそう言って、自らの手を強く固く握りしめた。

「大切なものが…この両手で守り抜こうとしていたものが、零れ落ちていく…」

強く握ったその手を自分の前に持ってきて、それを見るように項垂れる。片手でできた拳を、もう片方の手で包むように握る。

「それが嫌なんだ…。俺はもう、大切な誰かが傷つくとこなんか見たくない…ましてその原因が俺自身にあったなら……悔やんでも、悔やみきれない…!」

少し嗚咽が交じりながら、自分の心を抉るように…彼は静かに語る。

その涙を見て、三人はようやく彼の本心がわかった。
彼が言った通り、彼は誰にも傷ついて欲しくないのだ。彼女達が傷つかないように、その笑顔が消えないように……

「だから、俺は―――」












―――ほんま、何遍も言うつもりはなかったけど…


「ほんまふざけとんのか!!」


そんな言葉が、裏山に木霊する。
途中で言葉を切られた彼は目を大きく開き、またなのはもフェイトも驚いたようすではやてを見た。

「自分に力があったら、リインフォースを救えた?アホぬかせ!そんな過去の事を引っ張り出してどうしよう言うんや!」

明らかに先程よりも激昂しているはやて。それはもう後ろに仁王のオーラができているのではないか、と疑いたくなる程のものだった。

「別にリインフォースの事を忘れた訳やあらへん。でも私は!あの子の分まで生きようと決めとるんや!あの子が残してくれたもの―――私のこの力と、あの子の欠片を受けて…しっかり胸張って生きてこうって!」

そう言って手を自分の手に添える。彼女の中には、リインフォースが残してくれた力が。首からぶら下がる欠片は彼女のデバイスとして、今尚彼女を支えている。
確かにリインフォースが消えたのは悲しかったし、悔しかった。彼と同じように考えた事も少なからずある。

「でもリインフォースを…私の『家族』を勝手な理由付けの為の材料にすることなんか、絶対に許さへん!」

そう、彼女が怒る理由の一つがこれだ。今は亡き自分の「家族」を、身勝手な決断の理由に使って欲しくない。そんな事の為に、彼女は消えていったんじゃない。

そして、二つ目の理由が―――

「それにほら、見えるやろ!私の足!」

そう言ってはやては自らの足を指差した。彼はまだ一言も言っていないが、はやてが歩けるようになったことは彼に知られていなかった筈だ。

「もう歩けるぐらいに完治したんや!これで私もなのはちゃんやフェイトちゃん達と一緒に走れるし、色んなところに行ける!」

治った足で、今まで行けなかった場所へ。それは以前、彼が彼女に言った言葉だった。

「まだこちとら我がまま一つ言ってないんや!聞いてくれるんやろ、我がまま!だったら居なくなったりせんで、一緒に海とか…一緒にどっか行こうや!自分から言ったくせに、約束破るとか男らしくないやないか!」

これが二つ目の理由。約束した、とは言えないが、彼は確かに我がままの一つや二つ…と言っていた。しかしまだ彼女は言ってこなかったのだ。
元より彼女はその為に足のリハビリを頑張っていた、とも言える。皆と一緒に出掛けて、楽しい思いでを作りたい。その一心で……

「だから……どっか行くとか、そんな事言うな!」









「はやての言う通りだよ」

はやての隣にいるフェイトも、はやての言動に少々驚きながらも口を開いた。

「私はあの時、プレシア母さんとリニス、そしてアリシアに会って、それでもこの世界を選んだ。大切な人達がいて、守りたいものがあるから。それをくれたのは士、紛れもなく君なんだよ?」

フェイトは、PT事件でなのはと彼に救われた。
特にプレシアと対峙している時の彼の言葉には、落ちそうな心を引っ張り上げてもらった。彼のおかげでプレシアと…自らの生みの親と向き合う事が出来た。

「それなのに士は、それを逃げる理由に使ってる。いくら私でも、これにはさすがに怒るよ?」

優しい声色だが、かれを見つめる目はあまり笑っていないことから、彼女が言ったことは本当だという事がうかがえる。

「プレシア母さんの事は、誰の所為でもない。そうでしょ?」

フェイトもはやてと同じように、プレシアの死を悲しんだ時だってある。でもそんな事をしても、プレシアは帰ってこない。

だから彼女は悲しんで立ち止まるよりも、顔を上げて前へ進む事を選んだのだ。

「でももし、プレシア母さんが死んだ事に罪を感じているなら…それを士一人で背負い込もうとしないで、私にも背負わせて欲しい!」

自分は彼に救われた。なら自分も、彼の為にできることを…やれることを……

「私は一緒に背負えるだけの覚悟を持ってるつもりだよ!だから士も、私達を頼ってよ!そしたら私達は、絶対その信頼に応えるから!」












「士君、前に言ってたよね?〝世界を敵に回してでも、守りたいものがある〟って。それって、私達の事?」

それは今も、変わってない?
なのはの言葉に、彼は動かなかった。だが、彼女にはそれが肯定の意だとすぐにわかった。

「守ってもらえるのは、確かに嬉しいんだけど……守られてるだけなのは、私嫌だ」

それは先の戦いで決めた事。どれだけかかっても、必ず彼と一緒に戦うと…彼に背中を預けられながら戦うと。

「士君が、世界が相手になっても私達を守ってくれるなら……私達も、世界を相手にしてでも士君を守るよ」

彼の後ろから、彼の顔を見ながら言う。彼の顔は変わらず、驚いている表情だが、彼女は止めるつもりはない。

「私達はどんなことがあっても、士君を見放したりするつもりはないよ?どんな事になっても、士君を守るから…」

なのははそう言って、彼の服の袖から手を離し―――その代わりに、彼の手を両手で掴んだ。
そのことに彼はさらに目を見開く事になったが、なのはは振り向いてきた彼の顔を見つめる。

「だから、居なくなったりしないでよ…!例えどんな君でも、私達は受け入れるから!君の本当の気持ち……教えてよっ!!」




















なのはへ向けていた顔を正面に向け直し、彼は握られていない手で顔を覆った。前にいる二人には目が見えないように、後ろのなのはにも見えにくいようになった。

「……俺は…俺は…」

隠した手の下から、頬に光るもの―――彼の涙が流れた。


「―――皆と…一緒に居たい…!!」


涙を流す彼は、嗚咽交じりに口を開く。

「皆と、離れるなんて…皆と会えなくなるなんて……嫌だ…!」

彼は下唇を強く噛み、顔を覆っていない手に力を込める。その手を掴んでいるなのはは、強く掴まれて痛みを感じ、表情を歪める。
だがそれは彼の思いの強さを示している。それだけ彼は、本当は離れたくないと、皆と一緒に居たいと思っているということだ。

「俺は…俺は…!」
「―――大丈夫。大丈夫だよ士君」

泣き崩れそうになる彼を、支えるように手を握り返した。

「君が望むなら、私達は側にいるから。居たいと思うなら、居ればいいよ。私達は絶対…君を拒絶しないから」
「そうだよ士。帰ってきてよ」
「私達は、士君を追い返したりしないから!」

前にいたフェイトとはやても、彼の近くにやってきてそう言った。
三人共目に涙を溜め、必死に説得する。彼女達も彼と同じように、一緒に居たいから。同じ時間を一緒に過ごしたいから。

「…ありがとう、皆……!」

彼はそう言って、顔を覆っていた手で涙を拭う。それは彼の、決意の表れだ。

「俺は―――ここに、皆のところに…残るよっ…」

涙を拭った目を開き、決意の言葉を三人に放った。
彼女達はそれを聞いて、同じように涙を拭って彼に笑顔を向けた。

「うん…!」
「お帰り、士…!」
「お疲れ様や…」

笑顔でそう言う三人。すると彼の顔の変化を、三人同時に見つけた。

「あれ…?」
「士君、その目…」
「え…?」

指摘されて彼は手を目元まで持っていく。何がなんだかわからない彼に、はやてが持っていた手鏡を取り出し見せた。

「っ、これ…!」

鏡を覗いた彼は、目を見開いて驚いた。

彼の目―――さっきまで青めのマゼンタ色だった目が、彼本来の黒色に戻っていた。

「これって…?」
「もしかして、士の中の人格が…?」
「いや、それはない!だってあいつは…」
「でもあの目の色が危ない知らせだったなら、しばらくは心配せえへんでもええんやないの?」

そう…かもな。と小さく呟き、彼は手鏡をはやてに返した。
何か肩の荷が下りたように、息を吐いて天を仰いだ。再び頬を流れた涙を見て、三人は今度は笑みを浮かべた。

「「「士(君)!」」」
「ん……え…?」

顔を戻し涙を拭って前を見ると、三人は彼に向けて手を差し出していた。
それを見た彼は少し驚いた様子で首を傾げた。

「行こっ、士君!」
「皆待ってるから」
「帰ろう、皆のところに!」

三人のそれぞれの言葉を聞いて、彼は頭を掻きながら垂らして、笑みを浮かべた。
そして―――

「あぁ、行こう」

そう言って彼も手を差し出した。三人はほぼ同時にその手を掴んで、引っ張っていく。

(あぁ、そうだ…)

彼はあの時感じた、あの温もりが…これだったんだ、と思った。
あの時の光が…あの時の温もりが……自分の心を落ち着かせてくれる。

(戻ってきたんだ…ここに…)


こうしてようやく彼は―――門寺 士は、彼女達のところに帰ってきたのだった。



 
 
 

 
後書き
 
はい、こんなのになりました。
一応今回でオリジナルストーリーは終わりですが、次回は一話だけ閑話を出したいと思っています。


この閑話、はっきり言って―――作者の願望をそのまま出すつもりでいます。
だって…だって勉強辛いんだもん!息抜きで小説(約一時間程)書くんですが、それでも突っ込まれたり…時間ができなかったり……

そもそも十時までしかインターネット繋げられなくて、しかも自室で使えないとかいう環境が可笑しいんですよ!ねぇ!?そうですよねぇ!?
フィルターもかかってて、変なところで規制かかったりするから、色々面倒なんですよ!

最近は夜な夜な自室にノーパソ持ち込んで深夜書いてたりするんですが…朝方の作者にはちょっとつらかったり…


だから、受験を前に己の願望を目いっぱい出させていただきます。賛否両論出るとは思いますが、よろしくお願いします。

そんな願望だけの次回は、早くて今週中。おそくてテスト中、もしくはテスト明けの六月中になると思います。
かなり短めになると思うので、待っててくださいね。よろしくお願いします。
  
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