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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross world~
  cross world:交語

【ガイア仮説】

1960年代に、NASAに勤務する大気学者であり化学者でもあったジェームズ=ラブロックによって提唱された学説である。

別名、ガイア理論。

地球を一つの巨大な生命体と定義し、大気、水系、土壌、表層地殻にまたがる生命圏(バイオスフィア)全体が、一つの巨大な生物のように気温、海洋塩分濃度、大気ガス組成などを自己調節・維持しているとみなす。

ジェームズーラブロックはギリシャ神話の大地の女神の名前にちなみ、地球に宿る生命――――自己統制システムを「ガイア (GAIA)」と名付けた。

それが彼、ソレイユが口にした理論の内容であった。

要は、と彼は言う。

この世界に意思があり、それによって発生した余波のようなものがあの怪物だ、と。

「ちょ、ちょっと、待ってください」

軽い頭痛でも感じたように頭に手をやりながら、巫女装束の闇妖精(インプ)は口を開いた。

「世界に意思があるという話自体は問いません。ここでそれを言い合っても、悪魔の証明ですから」

「まぁ、そうだな」

「ですが、それによって、どうアレの誕生に繋がるのかが理解できかねます」

「…………………………」

ズズ、とカグラが淹れた昆布茶を渋い湯呑みで煽りながら、黒衣の少年は軽く周囲を見渡した。

カグラとマイの捜し人が所有しているプレイヤーホームだと言われて遠慮なくお邪魔したのだが、西洋のお城風の見た目にバッチシ合い、中身も相当なものだった。ただでさえ地代がクソ高いと言われている浮き島の上に建つ城なんて、ゼロが何個付くかも想像しただけでゾッとする。

「マイ、お前は俺と出会った時に感じたよな」

一瞬で、席を入れ替わる事など可能なのか。

あれじゃあまるで――――



入れ替わったように。



ソレイユの問いに、純白の少女は首を縦に振る。

「うん、違和感は確かに感じたかも。でも、どうしてそこからソレイユの言う結論に至るかが解らないんだよ」

その疑問に、しかしどこかつまらなそうな表情で黒衣の少年は口を開く。

「だから、俺はここにもう一つの仮説を混ぜ込んだ」

混ぜ込んで、交わり合わせた。

それを受け、訝しげに眉根を寄せる巫女装束女の隣で、ソファに腰掛けた幼女がポツリと口を動かす。

「パラレル……ワールド?」

「そうだ。パラレルワールド――――世界が二個あるっていう大前提を、ここに挟むだけで答えが見えてくる」

「答え?………私には解りませんが」

優美な眉丘にシワを寄せながら、カグラは困ったように腕を組んだ。

ぶっちゃけもう半ば理解する事を諦めちゃってる巫女である。

「《幻肢痛(ファントムペイン)》って知ってるか?何らかの事故で手足を切断した人が稀に感じる、『現実には存在し得ない痛み』のことなんだけど」

「それなら聞いたことあるかも。確か、四肢が損失した事を脳が正しく認識してなくて、欠損した時の痛みを感じちゃうっていう………」

そう、と。

そこでもう一度、湯呑みを傾けながら黒衣の闇妖精は首肯した。

「俺は、これと似たような現象が今回の事だと思ってる」

「その…………ふぁんとむぺいん……という現象が、ですか?」

ハテナマークを頭上でクルクル回転させながら、カグラは首を傾げた。

「聞いている限りだと、そのような因果関係は見出せませんが………」

「要するに――――」

スッ、と腕を伸ばし、少年は口を開く。

「俺ら人間はこうやって、肩の先に腕があるってことを認識し、それらの集合体によって己の身体っつーのを頭の中で構成してる。具体的には、二本の足と腕、顔には眼や鼻や口があるってな具合にな」

「ふんふん」

「まぁ、そうですね」

「じゃあその感覚を、世界に当てはめたらどうなると思う?」

言葉に詰まる二人の女性陣。

当たり前だ。世界の感覚性などを即答で答えられる人間など、存在していたらそれこそ普通ではないだろう。

俺はこう思う、と前置きをして、ソレイユは口を開く。

「世界は、自分の内にあるもの――――植物や動物、無機物や有機物、人間とかを全部把握してるんじゃないか?って。人間でいう、腕とか足とか、そこにあるのが当たり前のように、この世界にある全てを知覚してんじゃねぇのかってな」

「それが何か………」

「あっ!」

ガタン、とテーブルに両手をつき、身を乗り出したマイは声を漏らす。しかしその表情は、気が付いた物事への驚愕よりも、さらにそのもう一歩先。信じられない、という拒絶の意思が張り付いているような気がした。

「んで、ここでパラレルワールドとファントムペインの話に戻る訳だ。二つある世界。それらがぶつかり合って、交じり合って、重なり合ったところで、本来ありえないはずの《交換》が起こった。起こってしまった」

「――――そして、その現象が珍しすぎるから、世界のほうが互いに《勘違い》したんだね」

引き継ぐようにソレイユの発言に続いたマイは、一呼吸置いてから桜色の唇から言葉を紡ぐ。



「思わず『そこにいなくなった人がいる』って、強く強く信じちゃうぐらいに」



幻肢痛、ファントムペインとは、そういう意味では非常に似通ったものだった。

そこにあるのが当たり前すぎて、逆になくなった時に咄嗟には信じられなくなる。なってしまう。それによって発生した、余波のような、余震のような、副次的で二次的な現象が、あのバケモノなのだ。

おそらく、ルナがいる世界――――つまりソレイユが元いた世界では、今頃ソレイユの姿をしたモノが現れている事だろう。

「同時に、だからこそアレは許せない。ってか、世界が許さない。自分の身体ん中に、俺やお前らの捜し人が、異物がいるという事実そのものが許せない」

だから、排除しようとする。

それは、ひょっとしたら意思などではないかもしれない。身体の中に入った細菌を白血球が捕食するような、反射的な防衛的機構なのかもしれない。

しかし、結果は同じ。

排除。

除去。

駆除。

圧倒的な力で異物を取り除くソレはもはや、現実の理解の範疇に留まる事を知らない。

言うなればソレは、《法則》であり《災害》である。

人間の理解の外で、理屈などとは全く無関係に巻き込まれた者を叩き潰す。そこに憐憫や同情などの言葉は無縁。巻き込まれた者どもは、ただただ『運が悪かった』だけなのだ。

不幸だった。ただそれだけ。

それを理解した上で、少年は堪えかねたかのように低く呟く。

「ふざけてるよなー」

運が悪かった?

不幸なだけだ?

冗談じゃない。そんなことで命を奪われてたまるか。

自分はまだ、やるべき事が山のように山積している。何より、《あちら側》にも残してきたものがある。

―――ルナ。

自らが思いを寄せる恋人の名を、ソレイユは一心に思う。

一人の少女と、一人の女性は、そんな彼をただジッと見つめていた。

彼女らの思うところはたった一つ。

あぁ、この人は本当にその人を愛しているんだな、と。

『殺されかけた側』と、『殺そうとした側』。

ミスマッチを通り越し、こうして同じ空間に存在している事自体が不可思議な二人組みは、それでもなお思考を重ねる。

ならば自分は、あの少年のことをなんと思っているのだろう。

恋慕?

愛情?

信頼?

庇護心?

それが何かは判らない。理解できない。

しかし、少なくとも赤の他人に抱いているようなものとは絶対に違うはずだ。

その上で問う。

あの少年は、自分にとっていったいどんな存在なのだろう、と。










起動シークエンス実行。

ルート45923から94308までのFLA加速倍率を5000倍にまで上昇。

フラクトライト・ニューロンを活性化。

言語選択。

日本語を選択。

《思考》初期設定(プリセット)、設定完了。

《応答型自立思考》を開始。

報告。

内部時間、西暦2015年4月21日。《図書館(アカシックレコード)》への《異常接触》を確認。

同地域内でのイレギュラーユニットの存在捜査、完了。

確認されたユニットは『一つ』。

種はヒト。

場は仮想世界。

構成される物質は電脳体。

また、同地域内で単一ユニットの消滅を確認。

この現象により、システム的な操作権限から外れたユニットが出現。これに対し、明確な解決事案を算出中。

また、同一ユニットの行方に対して《演算》を開始。

《演算》完了。

算出された4982通りのうち、現状に適する可能性は一つと断定。

《異常接触》先の空間に捜査を開始。

完了。

結果、接触先の《座標》に、理論ルール外の不自然な揺らぎを確認。

《知識》を総動員し、これを捜査するも、明確な答案を開示できるには及ばず。

あらゆる学問の観点から見ても、同座標は興味深いものへと昇華できると断定できる。(それについての考察結果はデータ『File538』に保存)

思考実験を13000回繰り返した結果、消失したユニットがシステム全体へ与える影響は甚大であると判断。

したがって、FLA加速倍率を100000倍に上昇させ、思考余剰分を現状への解決に当たらせることを提案。

イマジネーション回路を活性化。

事案への解決策は一つ。

発生したイレギュラーユニットを使用し、出現した操作外ユニットを消去する事により《接触》にてズレた位相を正しく再分配されると予測される。

報告終了。

この報告書は、『File402』と『File438』にバックアップを取り、『SecretFile005』に保管する。 
 

 
後書き
いえーい!なんか小難しい話してるぜい!なコラボ第七話でごんす。
ロジックについてはこの際置いときましょう。だって『たられば』の仮定なだけだもの♪
そこには触れず、最後ら辺の意味わかんねー文章に焦点を当てましょう。
えぇフラグです。フラグですとも。
コラボだから本編にか変わることはないと思ってましたか?その幻想をぶち殺す!←言いたいだけ
実はこれ、この物語の結構核心に触れるとこにまで降りてきている重要なトコでもあったりします。
そんなものをコラボで使うなって?聞こえねぇな、そんなもん。
謎謎謎なこの物語ですが、この文の本当の意味を理解したら、エンディングさえも見えてくるのではないでしょうか。
以上、爆弾投下した作者でした。 
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