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曹操聖女伝

作者:モッチー7
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曹操聖女伝第6章

 
前書き
趣旨は封神演技を題材とした作品やPSPのJEANNE D'ARC等の様々な作品の様々な設定をパクリまくる事で、曹操が三国志演義内で行った悪行の数々を徹底的に美化していくのが目的です。
モッチーがどの作品のどの設定をパクったのかを探すのも良いかもしれません。 

 
連戦連敗なうえに呂布に先立たれた袁術は、袁紹に援軍を要請したが、子供の病気を理由に断っている。そこで仕方なく袁術自ら袁紹に自己談判しようとしたが、曹操はこれを阻止するため、徐州に朱霊(字は文博)と徐璆(字は孟玉)を派遣し、袁術を捕える事に成功した。
孫策軍立会いの下、曹操は袁術に質問する。
「どうしても解らない事がある。貴方ほどの野心家がどうして孫堅の名声に箔を付ける役回りを演じていたのか?」
袁術は鼻で笑った。
「フン!孫氏は所詮、朕の属国にすぎん!その様な者がどうやって朕を踏み台に出来る!?」
「貴様!」
曹操は袁術に飛びかかろうとした孫策を制止し、質問を続けた。
「ならば!民衆から貰ったモノを大いに自慢してたちどころに私の罵詈雑言を止めてみよ!」
袁術は曹操をぎゃふんと言わせるような答えを言おうと考えていた。しかし、待てども待てども答えが出ず、静寂が支配する時間が続く。
「どうした?何故黙る?」
袁術は結局答えが出ず、自分の涙で自分の頬を濡らした。
「……無い……」
哪吒が悪態を吐く。
「無いって……何で無いんだよ!」
袁術は泣きながらこう叫んだ。
「朕は、もう1人の民も持たぬ国王だったのか。水の一杯も恵んでもらえぬ国王だったのか。そこまで人の心は離れていたのか」
袁術は絶望してとんでもない事を言ってしまった。
「曹操……朕を……朕を殺してくれ!そして、朕を楽にしてくれー!」
袁術の言葉に曹操軍は驚いた。
「え!」
「えぇー!」
曹操ですら驚愕し過ぎて沈黙してしまった。
「これ以上民を失えば天下の笑いもの。もうこの乱世に朕の居場所は無いのだ!」
曹操は漸く決断した。
「哪吒殿、混天綾を」
「おうよ」
哪吒が混天綾を投げ、混天綾が袁術の首を絞めた。
「朕の首級を得た事を誇りに思え」
その直後、袁術は絶命した。
それを見ていた曹操は袁術の従弟の袁胤にこう宣言した。
「袁術の野望年齢が既に成熟していた事を認め、袁術の亡骸を厚遇する事を此処に宣言する!」
それを聴いた袁胤が涙ぐむ。
「申し訳ない!恩に着る!」
孫策は首を傾げた。
「はあぁ?野望年齢ぇ?」
孫策の疑問に曹操はこう答えた。
「この曹操、老化の判断基準を外見では無く勢いで行っている。野望もまた然り。うら若き野望は自分の力を魅せられる乱世を望み、年老いた野望は自分の平穏を護れる治世を好む」
それを聴いた周瑜(字は公瑾)は痛烈な皮肉を浴びせた。
「それはまるで若者の意見より年寄りの意見の方が正しいと申しておる様なモノではないか」
その言葉に対して曹操は自慢げに言い放つ。
「いや、治世は皆が思っておる程頑丈ではない。治世の隣に常に“新しい”が居らねば長続きしない。故に私の野望は中間的な立場である父親世代を維持して欲しいと切に願う」

帰宅時、曹操の大きさに完全に打ちのめされた孫策は周瑜と魯粛(字は子敬)に命じた。
「曹操を徹底的に調べ上げろ!あの化け物がいる限り、俺の目標は遠く彼方のままだ!」
それに対して、周瑜は安堵の表情を浮かべながら首を横に振った。
「その心配は無い。曹操は我々を侮っている」
魯粛が尋ねる。
「それは如何言う意味ですかな?」
「孫策殿が曹操の言った“野望年齢”の意味が解らずにいたでしょ。その時に面白い事が浮かんだのです」
「面白い事?」
「このままいけば、曹操は孫策殿の事を“この程度なら恐るるに足らん”と思うと読んでいましたので、私が更に空気を読めていないと思わせる台詞を業と言っておいたのです」
孫策は納得した。
「成程!そうすれば曹操の目線は俺達から離れる!」
「その通りです」
魯粛が袁術の死を振り返ってこう述べた。
「しかし、民衆から貰ったモノを自慢しろと言われた途端に命をあそこまで縮めたのは凄う御座いましたな」
孫策は当然だという表情でこう答えた。
「袁術が他の者に好かれなかった証拠さ。ああ成ったらもう君主じゃねぇよ!」
周瑜が補足説明をするかの如く言い放つ。
「民有っての国であり、国在っての民ではありませんからな」

その後、曹操は諸侯の礼をもって袁術を揚州で葬った。

曹洪が少し困った顔をしていた。哪吒が曹洪に声をかける。
「どうした?」
曹洪がため息を吐きながら答える。
「これは夏侯淵殿、曹操殿が無理難題を命じましてな」
哪吒が首を傾げた。曹操が人に無理難題を強要するとは思えないからだ。
「無理難題?どういう事だ!?」
「実は……夏侯淵殿を男として扱えと申すのです。この様な可愛らしい幼女を屈強な大男として扱えと。これは―――」
哪吒が激怒した。
「俺は男だ!歯を食いしばれ!修正してやる!」
曹仁が曹洪にフェイスロックを見舞う哪吒を発見する。
「夏侯淵殿!これは一体何ですか!?」
哪吒がさらっと答える。
「何って、お仕置き」

報告を受けた曹操が大笑い。
「アハハハハハハハ!ハハハハハハ!ハッハハハハハ!」
「曹操、窒息しそうなぐらい笑うなよ」
笑い過ぎて半泣き状態の曹操。
「御免なさい。でも、可笑しくて可笑しくて」
荀彧が一応弁護する。
「し、しかし、これ程の暴れん坊の夏侯淵殿が何故に女子に間違われるのか不思議で」
哪吒が怒ったように言う。
「こっちが聞きたいよ!」
趙公明が哪吒をからかう。
「其れは外見の由々しき事態にやあらむ?黙とはゐらば、何奴も、見惚らるる美おぼこに見ゑござらぬもぬ……筈……」
「見てくれの問題かよ!?」
怒って出て行く哪吒。
「趙公明も酷い事を言うぜ!こんなに醜い美少女が何処の世界に居る!」

とりあえず町を散策して気分を晴らそうとする哪吒。そこで不思議な光景を目撃する。町でも有名な庭師の店から大きな庭石を持った許褚が出て来た。
(あんな大きな庭石を1人で運ぶなんて……もしかしてあれって意外と軽いのか?)
「ん?って許褚じゃないか、こんな所で何をやってんだ?」
漸く哪吒が近くにいる事に気付く許褚。
「誰かと思えば夏侯淵殿か。俺は今ここの店の手伝いをしてるんだ」
「手伝いって……禄はちゃんと出ているはずだ。もしかして全部使ってしまったのか?」
仕え始めたばかりとは言え、結構な禄を貰って居る筈。それが哪吒の考えであったが、
「ははは、違う違う。典韋殿がよく庭師の手伝いをしていると聞いてな」
その事実を全く知らなかった哪吒が驚く。
「典韋がそんな事を?どういうこった?」
「典韋殿が此処を手伝っていたのは鍛える為らしい。城で武術の訓練をやるなら相手には困らないだろうが、こういった重たい物は城にはあまりないからな」
「だからここで庭石や樹木を運ぶ手伝いをしていたのか……」
哪吒が典韋の告別式で泣く曹操の姿を思い出す。
「本当に惜しい奴を亡くしたな……俺達」
それに対して、許褚は明るかった。
「確かに典韋殿その者は消えて無くなってしまったが、典韋殿の意思を継ぐ事は出来る!」
「だから典韋が生前にやってた事をやってんのか。あんたにしてはよく考えてるな」
「そうそう俺にしてはよく考え……って、どういう意味だよ夏侯淵」
哪吒が笑いながら言う。
「冗談だよ冗談」
こうして、外見的問題から華奢な美少女に間違えられる苦痛に因る鬱憤が解消されたと思ったら。
「おい、あの娘可愛いな」
哪吒の額に青筋が浮かぶ。
「娘?可愛い?」
「よう彼女ー、あっちでお茶しない?」
哪吒をナンパした男達が酷い目に遭った事は言うまでも無い。
「俺は男だ!歯を食いしばれ!修正してやる!」

曹操は多才で博学だ。
楽器を演奏させれば飛ぶ鳥さえ唸らせ魅了し、楼閣の設計図を書かせれば官渡に非の打ち所の無い完璧な防衛用楼閣が誕生し、古代中国版チェスをやらせればほぼ無敵と言う有様。
二郎真君と趙公明が何気なく道術をやってみないかと曹操を誘ってみた。すると如何だろう、曹操は陰陽五行の要素、すなわち火、水、土、木、金の五行を見事にモノにした。
これには通天教主も驚くしかなかった。曹操に埋め込まれたビー玉の様な宝貝は、宿主の身体を不老長寿と宝貝を使いこなせるように改造するのみで、宿主を博識多芸にする能力は無い。これは全て曹操の才能と努力の為せる業である。
碧遊宮からこの様子を見ていた通天教主はこう言い放った。
「やはり儂の眼に狂いは無かったようだ」
曹操は円形の祭壇へと移動した。祭壇には思い思いに五行を表す箇所が設けられ、椀状にうがたれたくぼみの中にそれぞれの元素を含んでいた。
曹操はサッと手を一振りし、五行の要素を持ち上げた。くるくる回る火の玉、氷の玉、鉄球、泥の玉、そして、木目の豊かな木の玉。まるで曹操が、神秘的な均衡を操るジャグラーでもあるように、全ての玉が曹操の前で回転していた。
見守る導師達は優秀な弟子に満足して、重々しく微笑んだ。だが、意外な者がこの道術の宴の邪魔をした。
「孫策殿がお話が有ると参っております」
その言葉を聴いた曹操は、慌てて持ち上げた五行の要素を元の位置に戻そうとしたが、孫策は少々無礼にも曹操の許可を待たずに二郎真君と趙公明の知り合いである導師達から道術を学ぶために建てた祭壇に上がり込んだ。
「可愛い顔して随分と勇ましいご趣味を御持ちで」
慌てて振り返る曹操。
「こ、これは孫策殿ではないか。何、私の知り合いに道術を嗜む者がおりましてな」
孫策が皮肉を言う。
「なれば仙人になられては如何か?」
曹操は純粋な子供の様な微笑みで返答する。
「なれば誰が漢王朝を蘇らせるのですかな?」
何とも恐ろしい光景だ。見た目には解らないが並みの者ならその場で失神してしまう程の緊迫感があった。
曹操の近くにいた文官が堪らず怒鳴り散らした。
「これ!司空の御前であるぞ!これ以上の無礼は許されませんぞ!」
だが、孫策に睨まれて急に黙りこむ文官。
曹操は
(私が命じもせぬのに毛を吹いて傷を求める(態々欠点を暴く)馬鹿共だ)
と思ったが、口には出せず、只孫策を睨み続けるのみであった。
「まさかとは思いますが……道術を教わりにこちらを訪れたとは言いますまい」
「無論だ。曹操殿が道術を使える事を今初めて知った」
曹操は孫策の目的が曹仁の娘と孫策の弟である孫匡(字は季佐)との結婚についてだと気が付いていた。順調に勢力を拡大していく孫策の勢いを曹操も警戒していたのだ。
「して、曹操殿は俺の弟に知り合いを譲る気になったんだ?」
曹操は既に腹を知っているくせにと思ったが、出来るだけ明るく振る舞った。
「いや、私は只、中々貰い手がいない曹仁殿の娘が不憫に思っただけだ」
孫策は周瑜の予想通り自分達を侮っている事に気が付いた。
曹操は孫堅を高く評価していた。それは事実だ。しかし―――いや、だからこそ親の七光りと軽く見ていたのだ。そのツケが今回の無理な関係取り持ちである。
(やはり動くのが遅かったか)
最初の内は悔やんだが、曹操はふと孫策の死相を発見した。
「それより……私も孫策殿もかなりの恨みを買っている様ですね」
その言葉に眉を顰める孫策。
「何が……何が言いたいのだ」
「文字通りの意味です。恐らく私も孫策殿も無理な勢力拡大を行った自分を憎む日が必ず訪れるでしょう」
結局、曹操と孫策はそのまま喧嘩別れとなった。
「本当にこれで良かったのでしょうか?」
曹操は平然と答えた。
「孫策殿の顔に死相があった。間違いなく近い内に死ぬ」
対話相手に顔に死相が有ったと言う理由だけで喧嘩別れとは……一見、馬鹿げた話に聞こえるが、曹操は占いにも精通していたのだ。此処でも多才を発揮したのだ。
事実、196年、曲阿を始めとする丹陽郡を手中にした孫策は、呉郡、会稽郡の攻略に取り掛かる。呉郡攻略において、呉郡太守であった許貢に勝利し、会稽郡の攻略においては太守であった王朗に勝利する。
が、許貢の死後、彼の客人3人が復讐として孫策の殺害を計画し、実行した。襲われた孫策は自ら3人とも斬り殺したものの、3人の内の誰かが放った矢の一本が頬を貫いたため、これが基で病死してしまった。
重傷で自らの死を悟った孫策は後継に実子の孫紹ではなく弟の孫権を指名し、その補佐役として張昭と周瑜を指名して26歳で死亡。死に際して、張昭ら幕臣には孫権の補佐を頼み、孫権には
「天下の均衡争いに与するようなことは、お前は私のようにはできるまい。しかし、才能ある者を用い、江東を保っていくことについては、私はお前に及ばない」
と、臣下の言を重んじ江東を固く保つことに意を注ぐよう言い残した。享年26。

此処まで凄いと逆に欠点を探したくなるものだが、あるとすれば左手の指が2本しかない事ぐらいだ。そして、相変わらず肉体年齢と外見年齢が15歳のままである。こんだけ別の才能に溢れている時点で正直既におなかいっぱいである。
と思いきや……。

ある日、自分が開発した酒の醸造法“九蒕春酒法(現在の日本の酒造業界において尚行われている「段掛け方式」の元であると言われている)”を見物中に何者かが隠したと思われる書物を発見した。
「何故、こんな所に……」
とりあえず目を通すと、房中術大図鑑と艶本(エロ本)であった。すると……
「な、ななななななんじゃこれぇーーーーー!」
書物に書かれている性交渉に完全に赤面し、いつもの凛々しさは何処に行ってしまったのか慌てふためきカミカミ口調になってしまった。
「あわわわわ、こ、こここここんなのあ、あああああ―――」
荀彧が曹操に水を差しだした。
「とりあえず落ち着いて下さい」
荀彧から貰った水をがぶ飲みする曹操だが、気管に入ったのか急き込んで吐き出してしまった。
「げほげほげほ、あー、どえらいのを見てしまった……」
これを見ても解る様に……曹操は性的に関しては完全に初心だったのだ。

許昌の町は曹操の政策の御蔭で大賑わいであった。
「曹操様の言われた通り、交通路の道幅を広くし、平淡で真っ直ぐな道路を造っています」
「道路の両側には木を植えるのだ。暑い日には旅人が木陰で休める様にな」
曹操は上機嫌だ。自分の考えた政策がこうも簡単に軌道に乗ったのだから。だが、それが後の暗殺未遂事件を引き起こしたのだ。
董承が許昌の町を散策していると、
「何だ、その楽市楽座とは?」
「うむ。許昌の町では、誰でもが自由に商売が出来、税を採られないと言う事らしい」
「え!?他国者の儂でも、商売が出来るのか?」
「そういう事さ」
「儂が前にいた所では色々と役人が五月蠅かったぞ」
「いっそのこと、引っ越したらいかがかな?」
「さっそく!」
そんなやりとりを見ていた野次馬達が大笑いしていたが、何故か董承の顔色がすぐれない。
(確かに曹操殿の言い分は民衆に受けやすい……だが……)
「これでこの町も栄える一方だ」
「ああ、何だか曹操様が帝のような気がしてきたな」
「まったくじゃ。儂はかつて洛陽に暮らしておったが、曹操様の様なありがたい方は帝の中にはいなかった。どいつもこいつも高官達の傀儡のすぎなかった」
「もう、俺達の暮らしが良くなれば、誰が帝でもいいや」
曹操の政策が民衆に受ければ受ける程、民衆の心が今上帝・劉協から離れていくのを感じる董承。
確かに董卓や李傕・郭汜らの後ろ盾として利用される生きた伝国璽(中国の歴代王朝および皇帝に代々受け継がれてきた玉璽)でしかなかった。
それでも劉協は漢王朝の皇帝だ。尊ぶのが常識の筈だ。だが、役に立たない政治家への民衆の眼は無慈悲で非情だ。
外戚や宦官達の好き勝手に因る政治腐敗、貧民の強盗化への対応の遅れ、切っても切れない賄賂と出世との腐れ縁。歴代の後漢の歴代皇帝が築き上げてきた負の遺産が重く圧し掛かる。一度失った信頼や名声はもう取り戻せない。
(このまま……漢王朝はこのまま終わってしまうのか……)

その夜、董承の許に人間に転生した魔王その②がやって来た。
「貴様は何者だ!?」
董承が驚くのも無理はない。何の前触れも無くいきなり出現した上に、非常に無礼で傲岸不遜である。しかも手の指が3本ずつしかないのだ。
(なんたる妖気!)
「く、曲者じゃー!」
「呼んバット来ぬよ。ナウ頃、ワイフちゃんと頑張っている頃でAろう」
最初の内は人間に転生した魔王その②の言う事が解らなかったが、いくら待っても衛兵達がやってこないので死を覚悟する董承。
「怯えるネセサリーはナッシング。僕は君のウィッシュを叶える者だ」
「貴様……一体何が目的なのだ!?何を企んでいるのだ!?」
人間に転生した魔王その②は苦しく微笑し、董承を見つめる。
「僕は只、曹操を許せないだけだ。漢王モーニングをマイセルフの意のままに操り、ネクスト第に権パワーを強大化させようとする曹操の狡猾さが 」
図星を言われて狼狽える董承。そう、董承が恐れていたのは其処なのだ。漢王朝が曹操に乗っ取られるのではないかと不安で一杯なのだ。曹操の本心も知らずに。
「……どうする気だ?」
あと一歩で董承は堕ちる。少なくとも人間に転生した魔王その②に本心を見透かされている。
「But、正面からでは勝ちアイはナッシング。そこで安易に曹操に近付けるYOUのパワーが ネセサリーだ」
その言葉の意味が容易に推測出来た。つまり暗殺だ。
「しかし、どうやって?」
「曹操は頭痛に弱い。そこに付け込めばグッドだ」
つまり毒殺だ。病気を治す薬と偽って毒薬を呑ませるのだ。
董承の返答は早かった。
「やるか……やろう!」
それを聞いた人間に転生した魔王その②は大いに喜んだ。
「ネクストそれでこそナウ上帝・劉協の真の忠臣!正にジェントルメンのミラー!」

だが、奴僕がそれを聞いてしまった。
(大変だ!袁紹が何時攻めてくるか分からない大事な時期に曹操を失えば、漢王朝は滅びる!)
そこで董貴人に密告し救いを求めた。
「父上がその様な事を」
「は!董承様を誑かした男を捕えれば済む問題な筈ですが、何故かその様な手段では事が収まらぬ気がいたしまして」
奴僕の予感は正しかった。相手は邪凶の最高位である魔王。並みの人間では太刀打ちすら敵わない化け物だ。

数日後、曹操が病に倒れたと言う噂が流れた。
民衆に筆舌に尽くしがたい不安が襲い掛かる。
3日目にして早くも民衆が城門に大挙として集まり、その安否を尋ねる一幕があった。
「曹操様は急病の為、床に伏しておられる!」
一揆に似た勢いで城門に迫った民衆を見て、城内からひどく事務的な説明を行うと、人々は更に詳しい情報を求めて不満の声を上げた。
見かねた劉協が吉平と呼ばれる名医を診察に差し向けている。だが、これこそ曹操暗殺を目論む董承の罠だったのだ。
だが、曹操毒殺の使命を帯びた吉平が曹操の部屋に入るなり、自分達の目論見が既に破綻している事に気が付いた。
「こ、これは……只の仮病ではないか!」
ゆっくりと置きながら曹操は不気味な事を言い始める。
「最近どうも妙なな夢を見るのだ。まるで自分の死期が近い様なそんな感じだ」
慌てる吉平。
「何を申されます!健康そのものではないか!」
其処へ哪吒がやって来てこう告げる。
「病魔だけが死の原因ではあるまい。たとえば、良からぬ事を考えている者とか……」
「な、何を申されておる!」
曹操が冷やかす。
「何を慌てておるのだ。それより、私の診断はまだかね?」
「診察も何も仮病が相手ではどうしようもない!」
「では何故私は病に伏しているのだ?」
怒りを抑えきれない吉平。
「こっちが聞きたいわ!」
とりあえず帰る事にした吉平。だが、
「まて、折角私の診察に来たのだ、禄ぐらい貰っていけば良い」
「……訳が解らんわ……」
しかし、曹操に渡された袋の中身は董貴人の首級であった。空恐ろしくなる吉平。

事は4日前に遡る。
董貴人に呼び出された曹操は、董貴人の口からとんでもない目論見を聞かされた。
「私を殺す?」
奴僕が必死に説得する。
「この耳でハッキリ聴いたんだ!本当だ!信じてくれ!」
それでも曹操は半信半疑だ。董承がそこまで悪人とは思えないからだ。
「董承は今上帝の腹心、その様な真似をして何の得がある?」
「操られてるんだ!妙な奴が董承の部屋に突然出現して―――」
「出現?入って来たの間違いでは?」
「本当なんだ!信じてくれ!」
曹操は漸くこの事件に邪凶が絡んでいる事に気が付いた。
(よくもまあこの様な卑劣な策を)
「判った、信じよう。して、そなたらは如何いたすのだ?」
董貴人は突然、剣を取り出して自分の首に突き付ける。予想外の動きに驚き焦った曹操は、董貴人から剣を取り上げようとしたが、
「父上を頼みます」
「止せ!」
董貴人は自害してしまった。曹操は董貴人の躯の前まで来る。董貴人を見つめる曹操。その目から涙が零れ落ちる。曹操は片膝をつき、董貴人に語りかける様に、
「悪いのはそなたでもそなたの父親でもない、今回の政争に付け込んで己の欲望を満たさんとする外道と心得よ……」
曹操は董貴人を抱きかかえて立ち上がる。
「だが、董貴人という女の生き様は、この曹操が背負うべき価値がある」

その後、董承の家を強制的に捜索し血判状を発見する。そして、発見された血判状の中に気になる名前を発見した。

“劉備”

この男こそ、董白に名指しされた謎の男であり、人間に転生した魔王の可能性のある男であった。

数日後、劉協に呼び出されて出廷する曹操。
今上帝たる劉協が上座に座し、家臣達が居並ぶ。その中には董承の姿もあった。
董承が事務的な口調で曹操に質問した。
「曹操よ……そなたは董貴人を殺害したそうだな」
曹操は劉協には答えない。弁明もせず、開き直りもせず、ただ黙っているのみであった。
「答えよ曹操。何故董貴人を殺害した」
曹操は董承が憐れに思えた。愛娘がこんなにも無様な姿を晒しているのに、人間に転生した魔王その②に操られた彼の言動からは父親特有の怒りが全く感じない。
「何故押し黙る。答えよ」
本当なら曹操が董承に斬り殺されても文句が言えない状況の筈なのに……曹操が董承一派を試す為の仮病を使った際に門番が行った事務的な返答。それと全く同じであった。
(操られているとは言え、愛娘を殺害した者が目の前にいるのに……これでは、董貴人は何の為に死んだのか解らん!)
その間、哪吒と二郎真君と趙公明が道術を駆使して董承を正気に戻そうとしたが、反応は変わらない。相変わらず事務的な質問ばかりであった。
最早……董承が感情的になるのを待つのを諦めた曹操は、董承の家から押収した血判状をその場でばら撒いた。
それを見ていた劉協が顔面蒼白となった。
「こ、これは……何故漢王朝を支える者同士が殺し合わなければならないのだ!?」
明らかに愛娘を殺害された董承とは比べ物にならないほど感情的だ。これを見ていた曹操は董承に食って掛かりそうになるが我慢する。
王子服・呉碩・呉子蘭・种輯などの同志一派も顔面蒼白になっている中、董承だけは事務的に淡々と言い訳をする。
「これは捏造です。董貴人殺害を正当防衛と言い張る為の―――」
遂に董承は曹操の逆鱗に触れた。
「貴様!それでも父親か!?愛娘を殺した仇が目の前にいるんだぞ!それなのに……よく此処まで淡々としていられるな!」
そして、曹操は口を滑らせ、墓まで持って行くつもりだった董貴人の死の真相を口にしてしまった。
「董貴人はな、自分の首級を差し出してまで自分の父親の暴走を止めてくれと頼んだんだぞ!お前は愛娘の死を無駄にする気か!」
そこで漸く董承が表情を変えた。だが、その顔は大事なモノを失った被害者とは程遠い……邪な加害者の顔であった。
「この期に及んで貴様に殺された者を自殺として扱うとはな。実に簒奪者らしい考えだな!」
曹操は漸く董承がここまでいとも簡単に邪凶に操られたのかが理解できた。だが、別の意味で董承への怒りが湧いた。
(身分など飾りに過ぎん。盗賊に成り下がる高官より、“義”の為に自らを斬った董貴人こそ、真の権力者ではないか)
其処へ例の奴僕がやって来て、
「帝様!曹操様の申しておる事は真にございます!」
「あ奴は誰じゃ!?」
「董承の奴僕でございます!」
そして、奴僕はとんでもない事を言い始めた。
「董承様は不届き者に操られております!そこで董貴人様が命を賭して救って欲しいと曹操に懇願致したのです!」
それを聴いた劉協は董貴人の心根を知り涙した。
だが、そこへ死んだ筈の董貴人がやって来た。
「父上、目を御覚まし下さい。この様な争いこそが漢王朝を脅かす者の本当に欲していた状況にございます」
董承以外の一同は驚きを隠せない。当然だ、吉平の証言が正しければ董貴人はもうこの世にはいない筈である。
それでも曹操を殺す事しか考えていない董承は只々曹操殺害の必要性を説くばかりであった。
「最早是非も無し!斬る!」

曹操暗殺未遂事件は実行犯が死亡してその娘が自殺と言う物悲しい結果に終わってしまった。
「董承を突き動かしたのは帝への忠誠心。元は純粋な考えの素であったが、どんな純粋な思いも邪に染まり暴走すれば……」
趙公明が弁明する。
「曹操殿は良くやとはおるでござる。悪しきのはその純粋な思ゐを逆手に取り意のままに操る外道の者にござる」
哪吒と程昱がこれに続く。
「そうだぜ!そいつさえいなければこんな事にはならなかった筈だ!」
「左様、我々が今回発見した血判状に書かれた者の中に未だに捕えておらぬ者がおりますぞ!その者こそ―――」
曹操は首を横に振りながらこう述べた。
「いや、私は民衆の事しか考えておらず身分を蔑ろにした。遅かれ早かれ結末は一緒だよ」
哪吒が微かに涙を浮かべながらつぶやくように言い放つ。
「身分って何だよ?只正しい事をしてれば良いだけの話だろ?」
間違った正義、間違った悪、それを判断する事は難しい。良かれとした事が誰かを傷付ける事もある。正義とはなんであろうか……。
ただ、これだけはハッキリと言える。董貴人の死に顔が穏やかであったのに対し、董承の死に顔は怒りに満ちた見苦しい顔であった。

曹操は不快な気配を感じて辺りを見回した。
「いるのは解ってる!そろそろ出てきたらどう!?」
突然出て来たのは人間に転生した魔王その②であった。その表情は不満と怒りで満ちていた。
「ユーはホワット処まで図々しい事をすればスピリットが 済むのだ!」
私利私欲の為だけに曹操の周りを裏切り者だらけにし、多くの者達を死へと追いやった悪魔に言われたくないセリフである。
だが、曹操は人間に転生した魔王その②の言葉を無表情で聞いている。
「サッチなにも用意してやったのに……ホワイ何故死ねない!ホワイ死ぬとセイシンプルな事が 出来ない!」
人間に転生した魔王その②の言葉を聞いて、曹操は鼻で笑った。
「死ぬが簡単?可笑しな事を言う。邪凶が残され、邪凶を抑えなければいけないと言う使命を背負う者がいない世界の恐ろしさを知らんと見える」
「僕のワードのホワット処が 変だとセイのだ!」
曹操は何時にも増して凛々しい顔で答えた。
「私が欲しいのは、帝位でも王位でも奴隷でもない。治世だ。もし他の誰かに天下を盗られる事で真の平和が訪れるなら、私は甘んじてその結果を受け入れよう。だが、人間に転生した魔王その②!いや、劉備!貴様は違う!」
この時の曹操は何時にも増して凛々しく、逞しく、美々しく、そして神々しかった。
「孫策亡き今だから白状出来る事だが、私は孫堅親子を高く評価していた!お前達邪凶がいなければ……そいつらに天下を明け渡していたかもしれん!だが、残念ながら貴様らがいた……欲望と他人の不幸を尊ぶ愚劣な貴様らが!」
人間に転生した魔王その②……この言葉は意外と面倒なので、そろそろ本名である劉備で呼ぶ事にする。の堪忍袋の緒が切れた。
「ふざけるなーーーーーー!イットじゃAまるでワールドが 僕のシングだとセイトゥルースをノー定するちゃんなモノではないかぁーーーーー!」
「どうやら私はまだまだ戦い続けなきゃいけない様だね」
「グッドに考えろよ!袁術は“朽ちた骨”!袁紹は決断パワーが ナッシング!劉表は評判だけ!孫権は親の七ライトり!劉璋は駄ドッグ!そしてユーは不器用でスカイスピリットの読めない“大義馬鹿”!ワールドの支配者は僕だけ!」
曹操は笑顔で劉備の台詞を否定する。
「袁術はかなり強気な漢、袁紹の後ろ盾である汝南袁氏は侮りがたし、孫権には優秀な親兄弟の血が流れている、劉璋の手中には益州という天然の要塞がある。そして、私は邪凶討伐の必要性を十分熟知している。これの何処に付け入る隙がある?」
劉備の怒りは頂点に達した。
「そのような悪ふざけのようなワードをすらすらと言えるな!ユーはホワットちゃんのつもりだ!」
一旦、劉備に背を向けた曹操は、劉備の言葉を受けてニヤリと笑みを浮かべながら空を見上げた横顔をそのまま相手に向かって倒したような顔の角度で振り返る。
「ふふふ、乱世の奸雄か……それも良い」
曹操の邪悪な微笑みにゾクッとしながらも、劉備は世界の支配者の威厳を保とうと必死に虚勢を張る。
「こ、このままで済むとシンクつまり思うなよ!ユーが 生きている限り、裏切り者の烙印を捺される者は際限無く増えコンティニューする―――」
「なら……貴方が私を終わらせてよ。その、魔王の力を使って」
ジワリと攻撃に転じて劉備の怒りを引き出そうとする曹操。曹操は劉備を怒らせて自分を殺す様に仕向けようとしたが、その意図を見抜いた袁洪に羽交い絞めにされる劉備。
「おやめください!今戦っても張角や蚩尤の二の舞なだけです!どうか御自愛を!」
悔しがる劉備。だが、主導権は完全に曹操が握っていた。
とうとう劉備が袁洪の制止を振り切ってしまった。曹操に向かって複数の隕石が落下してくる。
だが、曹操は既に神兵化しており、七星剣から光線を放って全ての隕石を破壊する。
「ぐぬー!おのれー!」
「もう終わりか?ならばこっちから行くぞ!」
袁洪が口から黒煙を吐き出した。曹操は七星剣を回転させるように振るう事で煙を払う。しかし、既にそこには劉備の姿は無かった。
「逃げ足が速すぎるわね。他の魔王はもっと自信に満ち溢れていたわよ」
結局取り逃がしてしまったモノの劉備との舌戦は完全に曹操の勝ちであった。
博識多芸な曹操は口先もなかなか達者で、恐らく機智に富んだ会話をさせたら、曹操が最も巧みなのではあるまいか。

数日後。
「申し上げます!劉備が徐州刺史の車冑を斬り、反旗を翻しました!」
一同が驚く中、曹操だけは冷静だった。
(やはりこうなったか……車冑には悪い事をしたな)
「劉備め、遂に本性を現したな!よし、直ちに劉備討伐に向かうぞ!」
曹操と敵対することになったので孫乾を派遣して袁紹と同盟し、曹操が派遣した劉岱・王忠の両将を破った。 劉備は劉岱らに向かっていった、
「おまえたち百人が 来たとしても、僕をどうすることもできぬ。曹公が バイワンセルフで来るなら、どうなるーcわからぬが ね」
だが、劉備は攻めて来た曹操の指揮の旗を見ると、戦わずして袁紹の元へと逃げ、楊顕は劉備の妻子と共に曹操に囚われた。
「劉備は、今まで何度も、殿の御命を狙った男……」
「その男の妻子が助けを求めて、我が軍に逃げ込んでくるとは……」
「此処は一思いに……」
だが、曹操の言い分は違った。
「いや、あの者達は助けよう。今劉備の妻子を討てば、私に敵対する勢力が一つに纏まるであろう」
(劉備……恐るべき強かさ。だが、全てが貴様の思い通りになると思うなよ)
 
 

 
後書き
曹操聖女伝もいよいよ第6章となりましたが、此処で曹操軍の日常を全然書いていない事に気付いたので、幾つか書きました。
本作で小憎たらしさを発揮し過ぎた人間に転生した魔王その②の正体が劉備である事実が明らかになる章なのにここで曹操軍の日常を書かせていただきました。
そうでもしないと曹操軍が戦ばかりしている可哀想な軍隊に成り下がってしまうので……。

先ほども言いましたが、此処で漸く人間に転生した魔王その②の正体が劉備である事が判明しましたが、人間に転生した魔王その②の正体発覚を先延ばしにするべく……泣く泣く関☆羽の登場を諦めました。本当は本気で出演して欲しかったです。
勘の良い方は既に人間に転生した魔王その②の正体が劉備である事に気付いているかもしれませんが、関☆羽や張飛を出演させると正体が丸判りとなり、正体発覚を先延ばしにするのが不可能になると判断させていただきました。
 
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