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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth4果て無く旅せし魔導書~Grimoire des nachthimmeL~

 
前書き
Grimoire des Nachthimmel
グリモワール・デス・ナハトヒンメル/夜天の魔導書
私オリジナル

Buch der Dunkelheit
ブーフ・デア・ドゥンケルハイト/闇の書
第二期アニメ公式

Buch der nachthimmel
ブーフ・デア・ナハトヒンメル/夜天の書
劇場版公式

どれを使おうか迷いましたが、主人公は正式名称を知っているため、そしてまぁ私自身の思いのため、前者をサブタイトルに使うことにしました。
 

 
ベルカに数多く存在している国家の中でも領地の大きさで言えば随一であるイリュリア。
イリュリアは領地の大きさだけでなく歴史においても他国の追随を許さない。そのうえ保有する騎士団や戦術・戦略兵器などと言った武力、融合騎開発や古代の魔導と言った技術面にも優れている。他国との差を挙げていけばキリがない。

――イリュリアが滅ぶ時、ベルカの歴史は動く――

そうとまで言われるほどの古く強大な大国イリュリア、その王都スコドラ。
スコドラの中心にそびえ立つ王城の一画、イリュリア王家の第一王女テウタに与えられた領域内の一室にて、数人の人間による秘密会議が行われていた。

三連国(バルト)との全面戦争を前にして躓きなど。嘆かわしい」

「まったくだ。シュトゥラなどと言う眼中にない国に、すでに4つの騎士団が潰されている。これでは先が思いやられるぞ」

「バルデュリス王子も馬鹿なマネをしてくれたものだ。ラキシュ領主に踊らされるとは。その所為で我らの盟友ワイリーの血染めの死神騎士団(マサーカー・オルデン)を失ってしまった。最早テウタ王女に懸けるしかなかろう。頭脳と武才のあるテウタ王女こそ、この戦乱の時代を往くイリュリアを導くに相応しい」

「賛成賛成。ゲンティウス陛下ももう使えないし、そろそろ王位継承争いを決着させて、さっさとベルカ統一と行こうぜ」

「そうね。ベルカは元々我らイリュリアの世界だった。テウタ王女の御名の下に取り戻しましょう」

「決まりだな。ではテウタ王女を次期皇帝とするを目標として動く」

リーダー格の男が率先して立ち上がり、剣を胸の前に掲げた。それに倣い、他の者たちも一斉に立ち上がって各々の得物を胸の前に掲げてみせた。そのどれもにカートリッジシステムと呼ばれる機能が付いている。全員が名のある高位騎士であり、他国にまでその名を轟かせている騎士団を率いている。

「我ら栄えあるイリュリアン・リッター。誇りを胸に、誓え、我らが魂がベルカ統一の礎とならんことを」

「「「「「ベルカの地にイリュリアの繁栄をッ!」」」」」

高らかに誓いを口にする。そして「では解散」というリーダー格の男が告げると、他の騎士たちはそれぞれの騎士団の詰所へと戻っていく。最後に部屋を後にするリーダー格の男ともう1人の男。石造りの廊下を2人きりで歩み、ひそひそと会話する。

「なあ大将、知ってっか? 半年前にワイリーら死神騎士団、そしてここ最近の騎士団を潰したの、たった1人の男らしいぜ」

「無論だ。シュトゥラから生きて戻った連中から報告を貰っている。銀の長髪に、遥かな蒼(ラピスラーツリ)輝ける紅(ルビーン)の虹彩異色、そして魔力で構成された剣の翼。幾つもの魔導を同時に発動させ、なおかつ効果範囲が出鱈目に広い。そのうえ変換資質が2つ以上」

「彼の伝説に出てくる英雄様の特徴にそっくりだろ?」

「再誕神話の大英雄・・・神器王ルシリオン、か。偶然で片付けるには特徴が一致し過ぎているが、まず有り得んだろうな」

「俺もそう思うけど、実際、当時存在してた一族の子孫だって噂の奴らがそこらじゅうに居るし、気になるんスよね。盟友ウルリケ然り、盟友ゲルト然り、聖王家の番犬然り、シュトゥラ王家然り」

「だからその男もルシリオンの子孫だと? ルシリオンは他世界の王であり、その世界も滅んでいる。血族が生き残っている可能性はない」

「いや、そうだったら面白いなぁと。まぁ結局、正体が何であっても面白そうな奴だって事が重要なんだよな」

「悪い癖だな、盟友ファルコ。強敵に闘志を漲らせるのは結構だが、相手は単独で一個騎士団を潰すような男だ」

「油断はしませんから安心を。というわけでちょっと挨拶に行ってきますわ。負けっぱなしなんて許されない。イリュリアン・リッターの意地と誇り、見せつけてやりますよ」

「卑怯な言い方だな。・・・いいだろう、行ってこい。盟友ファルコ・アイブリンガー及び地駆けし疾狼騎士団(フォーアライター・オルデン)の出撃を、イリュリア騎士団総長グレゴールが許可する。念のため、融合騎プロトタイプ、ヌル・ヌル・ヌル・フュンフを連れて行け。技術部への許可は私が取っておく」

了解(ヤヴォール)

そうして二人は明かりの少ない薄暗い廊下を進む。

†††Side????†††

「――はい、治療完了です。もう無茶しないでくださいね」

「はい。ありがとうございました、オーディン先生」

「はい、お大事に。・・・・ふぅ」

患者であるご婦人の診療を終え、診察室を後にするのを笑顔で見送る。パタンと扉が閉まったのを確認して、カルテに主要症状や処方方法を書き記す。

「オーディン先生、お疲れさまでした~。午前の診察は先程の患者さんで終わりですよ~♪」

とそこに、元気よく扉を開けて入ってきたモニカがそう報せに来てくれた。モニカは18歳の少女で、オレンジ色の長髪はふんわりおさげ、青い双眸はとろ~んと柔和、放つ雰囲気はフワフワでホワ~ンだ。服装は純白のロングワンピースにエプロン。清潔感重視の格好だ。
そんなモニカの後に続いて、

「マイスターっ、お疲れさまーっ♪」

元気の良い労いの言葉を言いながら入って来たのはアギト。30cmほどの小さな彼女は、ベルカで言えば融合騎、ミッドで言えばユニゾンデバイス、と呼ばれる存在だ。アギトもまたワンピースとエプロン姿。看護師手伝いとして、自ら進んで着ている服だ。今より数百年後、ルーテシア達と一緒に行動していた時の服装からは考えられない清楚さだな。

「ありがとう、モニカ、アギト。そうだモニカ。ルファに昼休憩にしようと伝えておいてくれ」

「ヤヴォ~~ル❤」

モニカはニコニコ笑顔で診察室を出て行った。廊下から「ルファ~、お昼ご飯だよ~♪」と機嫌の良い声が聞こえてくる。それにアギトと一緒に微苦笑。アギトはデスクの上に設置している彼女用の小さな椅子に座って、私の仕事が終わるのを笑顔で待ってくれている。
記すべきことを書き終え、カルテを鍵付きの引出しにしまってから「行こうかアギト」とオフィスチェアから立ち上がる。アギトは「はいっ」と良い返事と共に宙に飛び上がり、そわそわと私の肩の上を飛び回る。私は「ふふ」と笑みを零してしまう。
トントンと自分の肩を人差し指で叩くと、アギトは「やった♪」と嬉しそうに私の肩に降り立って座った。それを横目で確認して診察室から出て、中庭を目指す。天気が良い日の昼食は、中庭で食べることになっているからだ。

「あの頃に比べれば、アギトも自分の意見を態度で示す様になったな。最終的には、今のように遠慮しようとせず、言葉にしてくれればいいんだけどな」

今では表情も豊かで、エリーゼやアンナ、それにモニカにルファ、アムルの住民とも普通に会話できる。イリュリアのアムル侵攻から半年。それだけ経過すればそれくらいは当然だろう。しかしまだ私に対して遠慮がある。そもそも、マイスター、という呼び方からして間違っているような気がする。とは言え変更できない程に定着してしまっているから、今さら呼び方を変えろなんて言えない。

「やっぱりマイスターだし、遠慮とかしちゃうよ」

「う~ん、友人として見てもらいたいというのが正直な本音なんだけどな」

「・・・マイスターは、いつかベルカから居なくなっちゃうんだよね・・・?」

まさかそんな風に切り返されるとは思ってもみなかった。が、それが事実であることは間違いなく、「そうだよ」と答える。

「だったらあたしはオーディンさんの友人より、マイスターの融合騎である方が良いです。それなら置いていかれないから」

「アギト・・・」

アギトは私へ楔を刺そうとしてきた。終わりのない従者の関係という楔を。しかしそれは叶わないこと。いずれ私はベルカを――いや、世界そのものから消え去る。だがそれを今ここで言ってしまうことは出来ない。あぁ考えなしだったか。アギトを引き取ったのは。違う。後悔はない。後悔はないんだが、アギトが悲しむのはやはり彼女の未来を知る者として辛い。

「アギト。エリーゼ達は好きか?」

「えっと、うん、好きだよ。良い人たちだから」

「そっか。それなら良いんだ」

もし私が世界より去る時が来れば、アギトはエリーゼ達に託そうと考えている。ベルカは滅ぶことになっているが、ベルカに住まう人間が息絶えるわけじゃない。大半が他世界へと渡る。エリーゼ達の子孫もその中に入っているはずだ。

「お待ちしてましたよ、オーディン先生、アギトちゃん」

中庭に出たところで、一人の少女が駆け寄ってきた。ルファだ。15歳の少女で、金色のボブに少し猫目な紫色の瞳。服装はもちろん白のワンピースにエプロン。そのルファの他にモニカ、そして・・・

「オーディンさん♪」

「やあ、シュテルンベルク卿。今日は一緒に昼食が出来て嬉しいよ」

「もう、シュテルンベルク卿と呼ばないでくださいって言ってるじゃないですか」

エリーゼ。エリーゼ・フォン・シュテルンベルク男爵。
半年前のクラウスの明言通り、彼女は父の後を継ぐことを許されて男爵となった。茶色い長髪は今では束ねることなくサラッと流している。それに顔立ちがどこか大人びた気がする。そして高貴さが漂う赤いドレス。エリーゼはフリルの多いそのドレスを鬱陶しく思っているが、アンナがどうしてもと聞かないため、渋々着ている感じだ。まぁ似合っているから良いんじゃないか、とは思う。うん。

「エリーゼ様、貴女は仮にもこの街の長であり男爵ですから――」

「アンナ、わたしを様付けして呼ぶのも禁止っ。というか一週間に一回はやってるよ、このやり取りっ!」

もう1人はアンナ。エリーゼの幼馴染であり従者であり、そして執政補佐。
浅葱色の長髪はサイドアップ、灰色の瞳は若干鋭い。服装は半年前から変わらず使用人(メイド)服・・・というよりメイド服型の騎士甲冑だ。毎日十数時間、騎士甲冑を維持している。魔力運用が半端なくうまい証拠だ。

「はいはい。エリー、判ったから振る舞いには気を付けてね」

「絶対一週間後に同じこと言うし」

ムスッとしていたエリーゼだったが、すぐに私とアギトに微笑みを向け、「ほら、オーディンさんもアギトも座って」と席に勧めてくれたため、私に用意された食器のある席に座る。そしてアギトは彼女専用の席へ。アギトの大きさに合わせて私が作った椅子に座り、テーブルに並べられた食器によそわれた料理を見て目を輝かせている。さて、全員が席に着いたところで、昼食を始める。む、今日もまた美味いな、アンナの料理は。負けているかもしれない・・・。

†††Sideオーディン⇒????†††

アギト。それは、あたしの名前だ。マイスターが付けてくれた、あたしだけの大切なモノ。
七騎の融合騎プロトタイプの中で一番のがらくた(クルム)って呼ばれて蔑まれていたあたしに光をくれた大事なマイスターは、不思議な人だった。あたしが傷つけられたら怒ってくれたり、友達になってくれたりとか、果てには名前まで付けてくれた。すごく嬉しかった。この人にずっとついて行こうって思えるほど。
そんな不思議なマイスター、この街アムルの長エリーゼさん、その補佐官のアンナさん、2人の親友でマイスターの助手のモニカとルファ(さん、は要らないって言われた)と一緒にお昼ご飯を終えて日光浴をしていたところに、

「あ、そうだ。オーディンさん、魔力足りてますか?」

エリーゼさんが思い出したようにマイスターに訊いた。マイスターは「いや、大丈夫だよ。ありがとう」ってやんわり断ったけど、エリーゼさんは「何かあったらダメだから」って聞かずにマイスターの右手を取った。そして手の甲に唇をくっ付けた。手の甲と唇が触れてるところから浅葱色の光が溢れる。
エリーゼさんの能力・乙女の祝福(クス・デア・ヒルフェ)だ。シュテルンベルク家の女の人にだけ受け継がれていく能力だって聞いてる。でもエリーゼさんがオーディンさんに口付けするの、よく解らない気持ちだけど見るのちょっと嫌だったりする。なんだか胸の奥がチクチクする。

「気を付けてくださいね。魔力が少なくなったらオーディンさん、記憶が・・・」

「ああ、十分気を付けているよ」

でも必要なことだから。そう、マイスターはある障害を持ってる。魔力枯渇による記憶障害ってマイスターが名付けた、魔力が減少すると大事な記憶を失ってしまう病気。だからこうして時々エリーゼさんから魔力を貰ってる。記憶を失くさないように。

「マイスター、診療に魔力を使うんだから本当に注意してね」

あたしも心配してそう言う。あたしを――あたし達のことを忘れてほしくないから。マイスターは、シュテルンベルクの屋敷の一画を借りて医院を開いてる。コード・ラファエルっていう治癒魔法を使って(もちろん薬とかも使う)患者さんを治しているんだけど、それは魔導だから魔力を消費する。
だから内心ビクビクしてる。重傷患者さんが出て、治療するためにすっごい魔力を使って記憶を失うかもしれないって。でもマイスターは医者をやめない。病気を知ってから、どうしてやめないの?と訊いてみた。

――治療魔法が使えるんなら役立てないとな――

そう言って、あたしを安心させるためにか頭を撫でてくれた。それも笑顔で。下手したら自分の記憶を失うかもしれないのに、それでも魔力を使って人を助けるマイスターのことが、あたしは好きだった。

「心配性だな、2人は。診察代に患者さんから少しばかり魔力も貰っているし、早々枯渇することはないよ」

「それでも常に魔力を補充することを考えてください。もしオーディンさんがわたしのことを忘れてしまうようなことがあれば、わたし、とても辛いです」

「あ、あたしだって辛いよマイスターっ!」

抱きつこうとするエリーゼさんに負けじとマイスターに詰め寄る。あたしはマイスターの頬に抱きつけたけど、エリーゼさんはいつの間に来たのかアンナさんに「はしたないわ、エリー」って肩を掴まれて止められてた。

「ちょっと位いいでしょぉ・・・」

「はいはい、早く仕事に戻りなさい。オーディンさん、アギト、失礼しますね」

「ええーもう?・・・・はぁ。オーディンさん、アギト、またね~。モニカとルファ。オーディンさんに迷惑かけないようにね」

「キリキリ歩きなさい、男爵閣下」

そんなやり取りをしながら、エリーゼさんとアンナさんは屋敷に戻っていった。あたし達は顔を見合わせて笑い合う。あんな弱い男爵なんて見たことないね、って。
それから少し話をしていると、ルファが「ではオーディン先生、アギトちゃん、午後の診察回りにまた」とお辞儀して、モニカは「オーディン先生、アギトちゃん、またね♪」って大きく手を振って中庭を後にする。
2人は午後の診察回りが始まるまで自由時間。そう言うあたしとマイスターもだけど。マイスターは大きくあくびと伸びをして、「アギト、私は自室で少し眠るけど、君はどうする?」って尋ねてきた。

「じゃああたしも」

いつでもどこでもあたしはマイスターと一緒だ。大きな屋敷の一階の端に、マイスターとあたしの部屋が用意されてる。赤いカーペットの敷かれた廊下を歩いてあたし達の部屋へ。元は客室で、広くて豪華。それに風通しも日当たりも良いから、すごく快適に過ごせる。
マイスターは天蓋付きの寝台に横になって「今日は特に眠いな」ってすぐにウトウト。首を傾げてるマイスターに「今日は陽気も良いですし、昨日は夜遅かったから」と言う。夜遅くまで医者としての仕事をしてたから。そして朝は朝で体を鍛えるということでトレーニングをしてるから、どうしても睡眠時間が短い。

「そうか・・・そうだな・・・」

「ゆっくり休んで、マイスター。あたしが起こすから」

マイスターは小さく頷いて、すぐに静かな寝息を立て始めた。マイスターに作ってもらったあたし専用にベットに寝ることなく、あたしはマイスターの枕元に向かう。マイスターの寝顔を見ながら、あたしも横になる。一時間半だけの仮眠。寝坊しないようにしないと。だから寝ないようにしていたけど、いつの間にか眠ってしまっていた。

「・・・んぁ?・・・なっ?」

物音――ううん、それだけじゃなくて強烈な魔力が充満してる所為で目が覚めた。血の気が引いた。思いっきり眠ってたことより、その魔力の強さに。ハッとして起き上がって、室内に一冊の分厚い本が浮いてるのを確認。
部屋に満ちる深い紫色の魔力光は、あの浮いてる本から放たれてる。マイスターを起こそうと振り返る。マイスターはすでに起きてて、目を限界にまで見開いて浮いてる本を見詰めてた。

「マイスター・・・?」

「・・・馬鹿な・・・!」

様子がおかしい。何か信じられない物でも見たかのよう。マイスターがここまで動揺してる顔なんて今まで見たことがない。何だか知らないけど恐い。あたしにとって嫌なことが起ころうとしてるかもしれない。

起動(アンファング)

本から発せられた声。遅れて深紫色のベルカ魔法陣が部屋の中に展開された。すぐに本と魔法陣から目を開けてられない程の光と、そして吹き飛ばされそうなほどの魔力波が放たれたけど、マイスターがあたしを抱き止めてくれたことで吹き飛ばされなかった。後ろから「こんな偶然があるのか?」ってマイスターの震えた声が。光が治まって、ようやく目を開けることが出来た。

「・・・だっ、誰だっ!?」

部屋の中にさっきまで居なかった人影があった。マイスターを庇うために前に出る。女が3人、男が1人。見て判る。強い、この4人。たぶんあたしじゃ勝てない。でもあたしはマイスターの従者だ。退くわけにはいかない。魔力を放つ本がマイスターの元へと降り立つ。魔法陣が消滅したと同時に火炎魔法を使おうとした。だけどその前にソイツらの1人が喋った。

†††Sideアギト⇒????†††

なんか小せぇ奴があたしらに向かって吠えてやがる。初めての経験だな。今まであたしらの起動を目の当たりにしたクズな連中なら喜んでいたのにさ。しかもなんか攻撃しようとかしてるし。あたしらのこと知らねぇのか、ひょっとして。
とりあえず馬鹿正直に攻撃を受けるわけにはいかねぇなと思っていたら、『反撃はするなよ、ヴィータ』ってあたしらの将から思念通話。チッ。判ってんよ。いちいちうるせぇな、うちの将様はよ。

「闇の書の起動を確認しました」

面倒くせぇ通例の語りが始まる。切り出したのは将のシグナムだ。すると小せぇ奴が「や、闇の書!? あんた達が!?」って驚いた。名前だけは知ってたけど、どんなもんかは知らなかったみてぇだな。

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を護る守護騎士にてございます」

続くのはシャマル。あたしらの参謀だ。で、「夜天の主の下に集いし雲」次はザフィーラ。最後にこのあたしヴィータが「我らヴォルケンリッター。何なりとご命令を」と締める。
守護騎士ヴォルケンリッター。主の命に従って“闇の書”に魔力を蓄え、主に絶大な力を与えるためだけの存在。それがあたしらだ。これまで何度も繰り返してきた。絶対に逃れられない宿命だ。今回の主をチラッと見る。“アイツ”と同じ銀色の長い髪、蒼と紅の虹彩異色。男なんだろうけど、すげぇ美人だった。

(やっぱかなり驚いてやがんな。闇の書を知ってるか知らないか判んねぇけど、そりゃまぁ驚くよな)

目を見開いてあたしらを見る主。信じられないって面だ。主が無言のままだからか、シグナムが頭を上げて主へと「我らが主?」って声をかけた。主がシグナムに応える前に、部屋の外から勢いよく走ってくる音が聞こえてきた。そんですぐに扉がノックされる。

「オーディン先生、大遅刻ですよっ!」

扉が壊れるんじゃねぇかって思えるほど勢いよく開かれて、1人の女が顔を出した。橙色の長い髪をおさげにした女だ。オーディン。それが今回のあたしらの主の名前みてぇだ。その女はあたしらを見て完全に思考が止まっちまったみたいで、呆けた顔になっちまった。
静まり返る部屋。あたしは『なあ? どうすればいいんだ』って思念通話を送った。返ってきたのは、『とりあえず待機だ』のシグナムと、シャマルの『そうね。下手に会話に参加して話が拗れたら主に迷惑が掛かるわ』だ。つうわけで、片膝付いたままで主オーディンと女の会話を聞き続けることに。

「そ・・・そんな、オーディン先生が部屋に女の人を連れ込んでいるなんて。しかも年端もいかない幼女に加えてガチムチな男性まで・・・!」

「え?・・・・あ、いやいやいや。ち、違うぞモニカっ。彼女たちは――」

「彼女!? 今、彼女って言いましたっ? しかも、達、って複数形!」

「そこに反応しない! とりあえず話を聞いてくれ!」

「信じていたのに・・・。とりあえずエリーゼに連絡を!」

「わあわあ! ちょっと待った! 今エリーゼが参加すると絶対にややこしいことに――」

「モニカー? オーディン先生とアギトちゃん、やっぱりまだ部屋に・・・・え?」

さらに女のガキが現れた。ここで小っこい奴の名前がアギトって判った。短い金髪で、服はアギトとモニカっつうのと同じワンピースとエプロン姿。モニカっつうのが「聴いてルファっ。先生が部屋に女の人を連れ込んでた!」って、今現れた奴――ルファっつうのに詰め寄っていく。

「ルファっ、モニカもっ。今は落ち着いて話を聞いてくれ!」

今回の主は今までの主たちと全然違って、なんつうか馬鹿っぽい。でもまぁ“闇の書”に選ばれる程の資質を持ってんだから、それなりに凄いのかもしれねぇけど。

「オーディンさんが女の人を何人も部屋に連れ込んだってぇぇーーーーッッ!?」

そんな叫びと一緒にやってきたのもまた女のガキだった。茶色い長い髪を振り回して、悪魔みてぇな形相で部屋に入ってくる。主が「エリーゼ何でここに!?」ってうろたえる。なんか哀れになってきた。ルファっつうのが「思念通話で呼びました」って主に言う。それで主は「思念通話・・・その手があったか」って肩を落とした。

『なあ、いつまでこの姿勢でいなきゃダメなんだ?』

『主たちの話が決着するまでだろう』

『その間さ、姿勢崩しても良いか? 長くなりそうだし』

『駄目よヴィータちゃん。もう少し辛抱してちょうだい』

『・・・はぁ。へーい』

しゃあなしだな。こうなったらとことん待ってやるよ。意識をまた主たちの会話に向ける。

「正座してください、オーディンさん! あとそこの人たちもそんな姿勢で居ないで正座!」

エリーゼっつうのがビシッと主と、あたしらにまで指差した。こういう場合はどうすりゃいいんだ? シグナムに視線で尋ねる。シグナムもシャマルもザフィーラも小さく首を横に振るだけだ。

「なあエリーゼ。彼女たちは――」

「黙って下さい」

「はい」

主弱っ! 本当にどうすりゃいいんだ?と思っていたところに、『とりあえず今は彼女の言う通りにしてくれないか』って主からの思念通話。それにシグナム達が『了解しました、我らが主』って応えて正座をする。あたしも遅れて正座する。今まで絶対にこんな事なかったから調子狂うな。

「さあオーディンさんも正座ですっ!」

主も寝台の上で正座したら、

「ゆ・か・に! 床に決まってるじゃないですか! なにベットの上で優雅に正座してるんですかっ! ふかふかで気持ち良いですかっ!?」

ってメッチャ怒鳴られた。とりあえずこの場での位階は何となく判った。エリーゼっつうドレスを着たのが一番上だ。次に主だな。で、モニカとルファっつうのがその下だ。主のことを先生っつってるし。アギトってぇのは判らねぇけど、主と一緒なんだからそれなり?

「失礼するよ」

そんなことを考えてると、主があたしとシグナムの間で正座した。こんなに近くに主が来るのもまた初めてかもしれない。

「オーディンさんも殿方です。女性とお付き合いしたいというのは仕方ないとします。本当は嫌ですけどっ!・・あ、コホン。わたしの言いたい事はそうではなくてですね。その、お付き合いしたとしても、わたしの、ひぅ、屋敷に連れ込んで、ぅく・・うぅ」

あ、嗚咽が混じり始めた。右隣に座る主の肩がビクッと震えた。モニカとルファっつうのが「最低です」って主を冷めた目で見る。昔、あたしらにも向けられた目だ。これはいよいよ主の立場が最悪になりそうだな。

「ひっく、うっく、うわぁぁ~~~ん、オーディンさんの馬鹿ぁぁ~~~~っ!!」

ガキみてぇにわんわん泣き始めた。収拾がつくのかこれ? とここで、「何があったのエリーっ!?」別の女が現れた。女ばっかだな。浅葱色の長髪を頭の片側で結んで、使用人服――のようだけど、ありゃ騎士甲冑(魔力の塊だって判る)だ。佇まいである程度判る。コイツ、結構な腕を持ってんな。ま、あたしらに敵うわけねぇけど。

「・・・その方たちは一体どちら様ですか?」

「オーディン先生の愛人らしいです」

「違うと言っているだろうっ!」

「ほう。オーディンさんの愛人ですか。そうですか・・・」

「恐い――じゃなかった。アンナ、違う。みんな誤解している。今は話を聞いてくれ!」

主の必死の弁明だけど、今現れたアンナっつうのがギラッて睨んできた。でも今まで話を一切合切聴こうとしなかった連中とは違って、「聴きましょう」って腕を組んだ。それで他の奴らも落ち着き始めた。位階を改める。コイツが頭だ、絶対。主が「助かる」って心底安堵したように溜息を吐いた。

『君たちにお願いがある。ここからは私の話に合わせてくれ。頼む』

主からの頼み。命令じゃなくて、頼みだった。これもまた初めての経験だ。あたしらを代表してシグナムが『如何様にも』と答えると、『ありがとう、助かるよ』って礼を言われた。そんな言葉を掛けられたのはいつ以来だろう、全然憶えてねぇ。

「エリーゼ、モニカ、ルファ、それにアンナ。彼女たちは愛人ではない。戦友だよ」

「「「「戦友・・・?」」」」

「そう、私の大切な戦友だ」

戦友。なんか知んねぇけど、胸の奥が熱くなった。

†††Sideヴィータ⇒オーディン†††

まさか“夜天の魔導書”が私の元へ転生して来るとは思いもしなかった。久しぶりに見る事の出来たシグナムとヴィータとシャマルとザフィーラ。その2つだけでも十分動揺してしまったのに、誤解によってモニカやルファに冷たい目で見られ、エリーゼを泣かせてしまってさらに動揺。
それだけで心がポッキリ折れそうだった。さらに、そこで登場したのが恐ろしい(アンナ)だった。確実に心をへし折られることを覚悟して、しかし話を聴いてもらおうと説得してみると、聴いてもらえることになった。助かった。が、弁明の結果いかんによっては・・・・アンナに殺されるかもしれない。

「彼女たちは、私がベルカ(ここ)に来るまでに知り合っていた、共に戦った戦友なんだ」

“夜天の魔導書”――いや、現在(いま)はまだ“闇の書”か。“闇の書”に守護騎士ヴォルケンリッター。それはベルカの一部(正体を知る連中)に於いては畏怖の対象だったはずだ。だからかつての主に酷い扱いをされていたと聞いている。城の地下に閉じ込められ、人間扱いされなかったなどなど。
エリーゼ達ならたとえシグナム達の正体を知ったとしても、おそらくそんな扱いはしないだろう。信じている。信じてはいるが、ここは正体を隠しておいた方がいいと思う、勝手だがな。それに、戦友と言うのはあながち嘘じゃない。私にとっては、と付くが。

「『君たちの名を教えてくれ』だから君たちが考えているような男女の仲じゃない」

『守護騎士ヴォルケンリッター、剣の騎士シグナムです。我らが主』

『同じく湖の騎士シャマルでございます』

『同じく盾の守護獣ザフィーラです』

『同じく鉄槌の騎士ヴィータです』

私は彼女たちの名を知っているが、この世界では初対面だ。だから私が彼女たちの名を言う前に、名を訊いて初めて知ったフリをしておかないとな。そして返ってきた自己紹介。シグナムやザフィーラの堅い口調、あぁ懐かしい。しかしシャマルとヴィータの口調には違和感しかない。はやてと出逢う前の守護騎士たちは、本当に感情の出が小さいんだな。

『シグナムに、シャマルに、ザフィーラに、ヴィータ、だな。判った。私はオーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードだ。よろしく頼む』

『あ・・・はい、よろしくお願いします、我が主オーディン』

シグナムが呆けたような声で応じた。こういう自己紹介すらしたことがないのか。

「それは本当なんですか? えっと・・・」

「髪を後ろで結っているのがシグナムで、短い髪の彼女がシャマル。彼がザフィーラ。で、最後のこの子がヴィータだ。全員が腕に憶えのある騎士だ」

名前を言い淀んだエリーゼにそう教える。そしてシャマルが「本当です。私たちは主オーディンの下で共に戦った戦友です」とエリーゼの疑問に答えた。その返答に対してモニカが「主オーディン? オーディン先生との関係は単なる戦友だけ?」と小首を傾げる。もうこの娘は、もうっ! 頭を掻き毟りたい。とりあえず誤魔化しを、と思っていたら、

「無論だ。我らは主オーディンに剣を預けた身。ゆえに主オーディンを我らが主と言っても過言ではない」

シグナムのフォロー。心の内で、感謝に頭を下げる。

「ではオーディンさん。なぜその戦友である彼女たちがここに居るのですか? この戦乱の時代に於いて、世界を渡る術など早々ありません」

「ん? あぁそれなら私と同じだよ。単独の世界間転移だ」

単独の次元転送魔法。ベルカ式の一般的魔法ではなく、守護騎士プログラムの特殊魔法だ。すでに私という異物がベルカに現れているため、アンナは「そうですか」とすぐに引いてくれた。そして、アンナの問いに含まれていたもう一つの疑問への返答を告げる。おそらくそれが、エリーゼ達の一番に知りたいことだろうからな。

「それから、死神騎士団を潰してから今日までに三度もラキシュ領へ侵攻を掛けてくるイリュリアへ対抗するために呼んだんだ」

完っっ全な嘘。でもそろそろ安定した助力が欲しいと思っているのは事実だ。この半年間に三度も国境を攻め込まれた。その都度、クラウスが手配した新しい国境警備騎士団と一緒に潰している(とは言っても、空からの私独りによる殲滅が九割)んだが、少々苦しくなってきた。
そして、その三度のうちの一戦の最中に、エリーゼ達には言っていないが記憶を1つ失っている。何を、そして誰を忘れたのかは判らないが、頭痛と胸痛を起こした記憶と喪失感を得た事だけはハッキリ憶えている。だから私と同じように陸空両面での協力者が欲しかった。それがまさかシグナム達ヴォルケンリッターになるとはな。世の中判らないものだ。

『イリュリア・・・。我が主オーディン。今、イリュリアと申しましたか?』

『シャマル? ああ、いま私たちの居るアムルと言う街は、イリュリアの国境近くでね。だからかよくちょっかいを掛けてくるんだよ。そして私が迎撃に当たっているんだ』

シャマルの念話にそう答える。イリュリアと守護騎士の関係は・・・知らないな。まぁイリュリアはかなり古い歴史を持つ国と教えてもらったから、“夜天の魔導書”が知っていてもおかしくないだろう。とここで『主オーディンはイリュリアと戦ってるって事ですか?』とヴィータが訊いてきた。
ヴィータが敬語・・・。駄目だ、鳥肌が立った。あとで敬語を直すように言おう。とりあえず『そうだ。君たちはイリュリアと何か因縁でもあるのか?』と訊き返す。答えたのは『はい、少しばかり』シグナムだった。

「そうだったんだ・・・よかったぁ。そっか、戦友かぁ・・・」

「私は信じてたよ。オーディン先生のこと」

「嘘を言わないモニカ。真っ先に疑ってたのはモニカでしょ」

「全員が疑ってかかってわよ、オーディンさんのこと」

エリーゼ達が肩を寄せ合って反省会を開き始めた。誤解が解ければいいんだ、本当に、うん。でも最後に「けど、どうして黙っていたんですか、彼女たちを呼ぶことを?」というエリーゼの問い。私は「確実に来てくれる保証が無かったからだ」と即答。本当に偶然だしな。

「そうだ、エリーゼ。半年前に私が運ばれたあの別宅を使わせてもらっていいか?」

「あの別宅を、ですか? 修復も終わってますからいつでも入れますけど・・・どうしてですか?」

「仲間が増えたからな。これ以上君やアンナに世話になるのも申し訳ない。だから私たちはあの空き家へ引っ越すことにするよ。あ、でも医院の方はこのまま残し――」

「ダメですッ!!」

「てくれると・・・・?」

エリーゼが大声で反対してきた。私だけでなくアギトとアンナ、それにモニカとルファもビクッとなる。肩を震わすエリーゼに「えっと、それは別宅を使ってはいけないってことか?」と尋ねる。すると「そうではありませんっ。屋敷に残れば良いじゃないですかっ。4人くらい増えても問題ないですっ!」と詰め寄ってきた。
空き家を使うことに反対するのではなく、引っ越すことに反対だったわけだ。だがすでに私とアギトの2人をほぼ食客(一応働いてお金を入れているが)を受け入れてもらっているのに、さらにシグナム達を住まわせてくれ、と言うのも気が引けた。

「いいですか。これは、アムルの長であるエリーゼ・フォン・シュテルンベルクの名に於いての命令ですっ。オーディンさんとアギト、そしてシグナムさん達はこの屋敷で一緒に暮らすことっ、拒否権は無しですっ!」

そこまでハッキリと言われてしまってはもうどうしようもなく。私は「これからも世話になるよ、エリーゼ」と握手を求めると、エリーゼも「どんと頼って下さい♪」と応じてくれた。あと、「間違いがあったら困るし、監視の意味も込めて残ってもらわないと」って呟いたような気がしたが、上手く聞き取れなかったから自信は無い。

「それではまず、シグナムさん達の服装からどうにかしないといけないよね・・・。暖かいとは言えそんな薄着ではダメです。アンナ、モニカ、ルファ」

「ええ、判ったわ」「はいっす~❤」「うん、判った」

エリーゼが指を鳴らすと、アンナとモニカとルファの目が光った、ように見えた。そして正座したままのシグナム達(私もだが)に歩み寄って行く。「シグナム達をどうするんだ?」と訊くと、エリーゼは「もちろん服を見繕うんです」と胸を張った。それは良い。生活を始めるにはまず服からだな。女性の服は同性に任せるべきだ。

「それは助かるよ。私がお金を出すから少し待ってくれ」

立ち上がって、財布のしまってある執務机へ向かおうとした。しかし「えへへ、これはわたしからの贈り物ですよ~❤」とかなり上機嫌なエリーゼが止めてきた。

(うん? 今回のどこに良い事があったんだ?)

小首を傾げていると、『あの、主オーディン、我々はどうすれば・・・?』とシグナムから困惑に満ちた念話が来た。見れば、全員が戸惑っている様子だ。ヴィータなんかアンナに丁寧に髪を触られて、どうすればいいのか判らずビクビクしている。

『そうだな。君たちのことや私のことは後でゆっくり話そう。だから今は彼女たちに従って、服を選んでもらっておいで』

『服を、ですか? しかし我らにそんな物――』

『拒否権は無いぞシグナム。これから共に過ごすんだ。日常生活を送るためには服は必要だろう? まさかその薄着だけで十分とか思っていないだろうな?』

『あの、本当によろしいのでしょうか? 私たちヴォルケンリッターは人では――』

『シャマル、拒否権は無いと私は言ったぞ。いいから今は素直に従ってくれ。せっかくの美人なんだから、着飾らないともったいないぞ』

『え?・・・あ、ありがとうございます・・・』

シグナムとシャマルが美人だというのは以前から思っていた事だ。ヴィータは生意気だが可愛らしいし、ザフィーラは男前だ。あ、そう言えばザフィーラは服を着るのがあまり好きではなかったよな。ザフィーラを見ると、ルファに耳や尾をいじられていた。一見無表情だが、困っているなあれは。まずは『ザフィーラ。君は服はどうする? その耳と尾は飾りじゃないんだろ?』と確認を取る。

『はい、我が主。我は守護獣です。出来れば服飾など無く、守護の獣――狼の形態で過ごしたいと』

「『判った』すまない、ルファ。彼は守護獣と謳われる者で、普段は――と言うより本来は狼の姿なんだ」

「「「「へ?」」」」

エリーゼ達の視線が一度私に集中する。アンナですら呆けているな。その間に、ザフィーラの姿が狼の姿へと変わった。ザフィーラへと視線を戻したモニカが「おおっ、本当に狼になった! すごいすごい!」と駆け寄って、ザフィーラに抱きついた。

「もふもふだぁ~❤・・・・zzz」

「寝たっ!? ちょっとモニカ、寝ちゃダメだって!」

「んにゃぁ~、寝てないよぉ~」

モニカはエリーゼにそう言ってザフィーラから離れ、「強敵だった~」と額を袖で拭った。彼女は一体なにと戦っていたんだろう。あぁ眠気と戦っていたのか・・・? ザフィーラはただ無言で佇むだけだ。やはり表情がサッパリ読めない。

『気を悪くしたのならすまん、ザフィーラ。彼女は悪気はないんだ』

『いえ、今の気持ちを何と申せばよいのか判らぬのですが、気を悪くしていないことには間違いありません』

初めての体験だからか、感情が追いつかず戸惑っているのかもしれないな。ザフィーラの元へと歩み寄り、フサフサの頭を撫でる。人間形態時では考えられないな。近くに居たヴィータの頭も髪を乱さないように撫でると、ヴィータは当惑の目を向けてきた。おお、手を払われない。

「じゃあエリーゼ、アンナ、モニカ、ルファ。シグナムとシャマルとヴィータを頼むぞ」

「はいっ。それではこちらへどうぞ~♪」

エリーゼ達とシグナム達を見送る。最後までヴィータは困った顔してたな。ベッドの上に置いておいた、悲しみに満ちている“夜天の魔導書”を手に取る。私が解放するわけにはいかない。そう、“夜天の魔導書”を解放するのは、私ではなくはやての役目だからだ。

「ザフィーラ」

「はい、我が主」

「若輩の身だが、これからよろしく頼む」

それまでは、出来るだけ守護騎士たちのその悲しみを和らげていきたい。それが今代の主である私の役目だと思うから。



 
 

 
後書き
ブーナ・ディミニャーツァ、ブナ・ズィウア、ブーナ・セアラ。
Episode ZEROで一番やりたかったことである、ルシリオン(オーディン)が夜天の主となる、が出来ました。
・・・これくらいですかね、今回のあとがきは。というわけで、次回、本エピソードのボス二戦目をお送りします。
それでは、次回もお越しいただけることを願って。
 
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