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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百七十四話 ヴィレンシュタイン星系で

 
前書き
お待たせしました

進行中の中間点での話です。 

 
帝国暦485年11月30日

■銀河帝国 ヴィレンシュタイン星系 ファーレンハイト艦隊旗艦ダルムシュタット ハインリヒ・フォン・ゼッレ

皇女殿下と共にオーディンを発してから早20日、私は暇を持て余している。普段であれば戦場神経症や恐怖症なのでひっきりなしに兵が病院船へ入院している所で有るが、此まで殆どその様な症状を発する者が居ない。

やはり、今回はイゼルローンでの式典参加であり戦場へ行く事では無いという事もあるのだろうが、それ以外にも、やはり彼女らの存在も関係しているのであろう。

皇女殿下と共にイゼルローンヘ慰問に行くGio48が毎日立体TVで朝のニュース、コント、ドラマ、歌番組そして、毎日お昼から始まる籤引きで決まった乗組員数人をゲストに呼んでGIO48とトークをする番組“呼んで良い友”も好評で、籤引き時間には一時的に皆が仕事を止めるほどだ。

更に、成績優秀者や真面目に課業をする者には、GIO劇場艦におけるライブの招待券が配給され皆が皆ライブとその後で行われる握手会へ参加しようとして、仕事をするために皆が真面目なのである。

しかし通常であれば、古参兵などがその力関係で新兵などに配給されたチケットを召し上げることが多々有るはずなのであるが、GIOのメンバーが“そんな事しちゃダメダメダメダメよ”と訴え続け、憲兵も横暴を許さないために、そう言った事件は最初の数日を除いて起こっていない。

その為に、腹いせの暴力事件も起こらずに病院船の方では外科や神経科の医者が暇になっているのだ。私のような艦の軍医の仕事は、一部の兵による“GIO48と握手した手は一生洗わない”と本当に洗わずに、下痢や食中毒になったりする患者に下痢止めや点滴をする程度で、医薬品の減りも少なく暇なのである。

その為か暇で考える事は、息子や娘の将来のことだ。息子のエミールは10才だが、以前は私の仕事を継ぐと医者になる気満々だったのだが、最近はGIO48の姉弟ユニットV480のオーディションを受けようかなどと言っているのだ。

娘のドーラは14才で、既にGIO48の第二期オーディションの第一次選考に合格して芸能人になると言っている。うむー親としては何と言って良いのか迷う所だが、戦争に行かずに済むのであれば、息子も娘も好きなことをさせてやりたいと最近は思うようになって来ている。




■銀河帝国 ヴィレンシュタイン星系 ケスラー旗艦エリュテイア エルネスト・メックリンガー

私が、ケスラー提督からの招聘に旗艦へ行くと、ミッターマイヤー提督が先に到着していた。
「メックリンガー提督も呼ばれたのですか?」
「ああ、ミッターマイヤー提督、卿もか」

「ええ、何なんでしょうかね」
「そうだな」
「それにしてもビッテンフェルト提督は呼ばれないようですね」
「確かに、そうだな」

不思議に思うのが、今回此処まで来た正規艦隊司令官で私とミッターマイヤー提督だけが呼ばれ、ビッテンフェルト提督が呼ばれていない事だった。そんな話しをしているとケスラー提督が部屋へ入室してきた。

「2人とも待たせて済まない」
ケスラー提督が我々に頭を下げる。

「お気になさらないで下さい、我々も先ほど来たばかりですから」
「そうです」

ケスラー提督、礼儀正しく誠実で清涼感がある好感の持てる人物だ。彼と共に第5次イゼルローン攻防戦、ヴァンフリート星域会戦を戦い続けた。現在尤も信頼できる上司であり、テレーゼ殿下の信頼も厚い功臣と言えよう。その彼からの招聘だ、何かあるなと私の勘が騒いでいた。

「卿等に来て貰ったのは、今後のことについて話すためだ」
「今後の事というと?」

「卿等に此処まで来て貰ったのは、訓練だけでは無い」
やはりそうか、完熟訓練と言うが、既に艦隊には不安がないほどの状態だ。その状態で訓練するのであれば、レンテンベルク要塞辺りで十分なはずだと思っていたが、何があるんだ?

「訓練だけでは無いとはどうゆう事でしょうか?」
「ミッターマイヤー提督の疑問だが、卿等に約束して貰いたいが、此から言う事については例え参謀長にも他言無用にして貰いたい」
「それほどの事とは?」
やはり何かある。
「今回、殿下のイゼルローン慰問と捕虜交換の謁見であるが、その後に殿下は直ぐ帰還せずに、新年をイゼルローン要塞で年忘れライブを観覧する事に成っている」
ライブ観覧……いやそれは確かに極秘で有ろうが、それで艦隊を動かすほどでは無いのでは?

「ケスラー提督、艦隊の意味が判らないのですが?」
ミッターマイヤー提督の疑問は判る。

「卿等、そう焦ることは無い、ここからが本題だ。殿下の極秘の行動だが、既にフェザーンから叛徒共に知れ渡っている事が判明した」
「ケスラー提督、それは危険ではありませんか!」

ミッターマイヤーの言いたいことは私の言いたいことでもあるが、ケスラー提督はニヤリと笑うだけだ。何があるんだ?

「卿等の言いたい事も判る。しかし此は陛下も殿下も国務尚書、軍務尚書もご存じの事なのだ」
「それは?」
「現在帝国は嘗ての晴眼帝の頃の自然休戦状態に持っていくために、捕虜交換を行おうとしているのだが、それが判らず、選挙の票集めだけのために叛乱軍は騙し討ちをしてくる可能性があると情報部から上がってきている。それならば情報を元にして、躾の悪い連中に確りとした、お仕置きしてやろうと言う事になってな。その為に少しでも叛乱軍にイゼルローン要塞攻撃をさせ易くさせようと殿下御自らが囮にお成りになる」

「馬鹿な!そんな危険な事を何故するのですか!」
「そうですぞ、殿下に万が一の事が有ったらどうなさるつもりですか?」
「そうならないために、卿等を此処まで呼んだのだ」

「つまりは、我々が援軍として待機せよと言う訳ですか」
「そうだ、卿等の艦隊は2週間に渡って完熟訓練を行い。12月15日この地からアムリッツア星系へ移動してもらう。アムリッツアへは1月1日前後の到着となり、其処で別命が有るまで待機という事に成る」

「お言葉ですが、それではイゼルローンの防衛は40000隻強でしか有りませんぞ」
「そうです。我々の3個艦隊45000隻を先に配置したおいた方が良いのではありませんか?」
「そうすれば、叛徒がどの様な戦略で来ようと、臨機応変に作戦が出来ると愚考しますが」

「卿等の心配は尤もだが、今回の捕虜交換、殿下の慰問が全てイゼルローンツヴァイによる叛乱軍撃滅の為の布石なのだ。しかもこの作戦自体が殿下御自らお考えになった事だ」

「殿下御自らとは、ケスラー提督冗談は止めて下さい」
「ミッターマイヤー提督、残念ながら事実だ」
「待って下さい、殿下は正式な軍事訓練などはお受けに成られていないはずです。軍事的な素人が立てた作戦を採用するはずが無いのではありませんか?それに、不敬ではありますが、皇族が自らを囮にするなど聞いた事もありません」

「メックリンガー提督、確かに殿下は正式な軍事訓練は受けてはいないが、幼い頃より政略軍略に秀でた物をお持ちで有られた。今だから言うが、第5次イゼルローン攻防戦の囮艦作戦、ヴァンフリート星域会戦での敵基地攻略、更にイゼルローンツヴァイ建造などの原案をお立てに成られたのは殿下なのだ」

「驚きました、流石殿下で有られますな」
殿下が、あの作戦の原案を、確かにあの様な作戦を士官学校出身参謀で立てることは難しいだろう。しかしまさか殿下がお立てになっていたとは……ミッターマイヤー提督、簡単に喜んでいる卿が羨ましいぞ。

「しかし、殿下のお考えとは言え、陛下がお許しになったのが不思議でございますが」
「その点だが、陛下も殿下の説得に折れた感じだ。殿下曰く“皇帝陛下は、オーディンから動くことは出来ないが、それだからと言って、兵達を送り出す掛け声だけではいけません”と仰られて、それからこの作戦まで動くことになった訳だ」

「しかし、殿下が危険に晒される事は避けるべきでは」
「そうです、例えば影武者を送るとか」

ケスラー提督は我々の話に頸を振った。
「我々もそれを言ったのだが、殿下が“五百年兵を養うはいったい何のためと考えるか”と仰られて、更に“兵の命を塵芥の如きに扱う貴族将校の多きことか、それを是正する為にも行かねば成らぬ”と」
「殿下は、我々のことをよく考えてくれているわけですな」

殿下がそれほどの御方とは、惜しい惜しすぎる、殿下が男児で有られれば良き皇帝陛下に成られるであろうに惜しすぎる。

「其処で、卿等はアムリッツアで待機後、我々が叛乱軍と戦闘を行い殿下の罠が発動する2日前にアムリッツアよりイゼルローン回廊へ進入し、決行時の突入戦力と成って貰う」
「成るほど、戦果の拡大ですか」

「しかし、イゼルローンツヴァイは未だ未完成では無いのですが?」
「敵を欺くにはまず味方からと言うであろう。既にツヴァイは稼働状態だ」
「成るほど、何処に敵の耳があるか判りませんからな」

「それもあるが、フェザーンの犬が多くてな。今回はその線から、殿下の極秘行動表を流した」
「つまり、フェザーンを利用したと言う訳ですな」
「そう言う事だ」

此処で納得した。今までの話をビッテンフェルトが聞いたら、艦隊を無理にでも同行させようとするであろうし、わめき立てて艦隊中に知れ渡るであろう。

「ケスラー提督、ビッテンフェルト提督が呼ばれていないのは、このためですか」
「そうだ、卿等は冷静に対応できるだろうが、ビッテンフェルト提督は大騒ぎになるだろうし、説得したとしても普段と違う行動で、疑問に思われるだろう」

「で、ビッテンフェルトは今どうしているのですか?」
「卿等を呼ぶ前に、殿下の突然の謁見を受けて艦隊中で大騒ぎになっている最中だな」
「なんとも」

「殿下も、策士ですな」
「そうだな。それでメックリンガー提督が増援部隊の指揮官となる」
「小官がでありますか?」

「そうだ、卿が最先任であるし、それだけでは無く“卿ならば的確に作戦のタイミングを計ることが出来る”と殿下からの推薦だ」
「殿下が」

「“ビッテンフェルト提督では、何も考えずに突っ込んでくるであろう。ミッターマイヤー提督では、ビッテンフェルトを押さえきれないであろう。それならば、普段は物静かだが、いざとなれば殴ってでも止めることの出来るメックリンガーを当てよ”と殿下がな」

殿下とも付き合いが長いが、私の性格を良く知っていらっしゃるようだ。此は是非ともご期待に添わねばなるまい。
「判りました。殿下のご期待に添える様に致します。ミッターマイヤー提督良いかな?」
「無論です。メックリンガー提督ならば、安心して指揮を任せられます」

「此が作戦計画書だ」
ケスラー提督に渡された作戦計画書を読んだが、この作戦を殿下がお考えになった、それだけで驚愕したが、内容が更に驚愕物であった。

「ケスラー提督、此が」
「そうだ、殿下の恐るべき才能の片鱗と言えよう」
「確かに、此処まで費用効果と人命重視の作戦とは」

話の後、封印された作戦書をケスラー提督から私が渡された。
「そう言う訳で作戦書は、メックリンガー提督自身が保管し、時期有るまでビッテンフェルト提督には見せぬようにしてくれ」
「はっ」

此は凄まじい戦いになるはずだ、殿下のご武運を祈るしかないが、絶対に負けるわけには行かぬな。


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オマケ

■銀河帝国 ヴィレンシュタイン星系 シェーンバルト艦隊旗艦タンホイザー

「あーあ、全く良いよな他の艦隊の連中は」
「全くだよな、あの坊やのせいで、GIO48のライブに行けねーよ」
「何が、あんなくだらない物だ!」

「おいおい聞こえるぜ」
「大丈夫だって、こっちとは遮音力場で分けられているからな」
「あれだろうよ、司令官閣下は女性に興味が無いからだろう」

「赤毛の参謀長閣下としけ込むってか」
「アハハハ」
「早く転属したいぜ」

「全くだよな」

ラインハルトによるGIO48くだらない発言でシェーンバルト艦隊の士気はガタガタになっていた。
 
 

 
後書き
五百年兵を養うはの下りは、日米開戦前に日米の戦争回避が出来たなら真珠湾奇襲の航空機発艦後でも直ぐに帰投せよと言って無理だと南雲が行った際に山本五十六が述べた“百年兵を養うは”からです。



 
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