| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epos22-Dなお深き闇に染まれ、聖夜の天(ソラ)~Nur eine Hoffnung~

 
前書き
Nur eine Hoffnung/ヌーア・アイン・ホフヌング/たった1つの希望

アウグスタ戦イメージBGM
魔法使いの夜「絢爛 / finality」
http://youtu.be/QKw_FE23rlU

「友達だ」

この名言使うの・・・わ・す・れ・て・た・・・・
 

 
†††Sideルシリオン†††

アウグスタによって召喚された俺の使い魔――“異界英雄エインヘリヤル”である七元徳の使徒アポストルス。そのうちの2体である希望スペスと信仰フィデスと戦いを繰り広げることになってしまったが、「これはこれでアリだな」はやてら八神家を助ける為、なのは達が協力して戦っている。
これは俺が望んでいるシナリオでもある。友達として精一杯、全力で立ち向うその姿。より一層、あの子たちの絆が強まる。先にも抱いた感情を、今の段階で抱いた。そう「本当に綺麗だな、君たちは」その姿に改めて魅了される。っと、見惚れている場合じゃなかったな。

「カスティタス!」

『承知』

――Domine quando veneris/主よ、御身が世界を裁きに――

チェスで言うナイトの駒である馬(角付き)の形をした胴体、数億個のモノリスで両腕を構築した異形の姿をしている、七美徳の純潔を司る大天使カスティタスに指示を出す。腕を構築しているモノリスが一斉に分解され、200m級の龍であるフィデスと50m級の大鳥のスペスを包囲するように並ぶ。
モノリス結界を突破しようと突進や砲撃を繰り出す2体の使徒だが、柔軟に動くモノリスは突進・砲撃を避け、それでもなお包囲を崩さない。俺は“エヴェストルム”のカートリッジを2発とロードし、頭上に放り投げる。そして・・・

魔力炉(システム)稼働率上昇。魔力に神秘を付加。魔導式を魔道式へと昇華。・・・弓神の狩猟(コード・ウル)・・・!」

魔法ではなく魔術とした弓神の狩猟(コード・ウル)を発動。空いた右手に弓を、左手に槍の如き矢ウルを番え、「往け!」射る。そして魔力弓を消し、落ちて来た“エヴェストルム”をキャッチ。即座にカートリッジをロード。

「そら、もう1発!」

――女神の宝閃(コード・ゲルセミ)――

“エヴェストルム”先端より閃光系上級砲撃を発射。分裂することなく直進を続けるウルがモノリス結界に入った瞬間に炸裂し、モノリスを反射板として利用して全方位からフィデスとスペスを襲撃。遅れてゲルセミが結界内でモノリスに着弾、幾つかに枝分かれた上で2体を襲撃した。魔力と神秘に爆発・奔流に呑まれた2体を警戒しつつ、アウグスタと戦っているなのは達をチラッと見る。

「初めて見た魔法だったなぁ~」

先ほど見えたなのはの細い多弾砲撃と、すずかの反射板――氷のシールド結界によるコンビネーション魔法を真似てみた。大戦時やこれまでの契約時でも似たような攻撃を何十回と見てきたが、あの子たちが使うと余計に綺麗に見える不思議。

「本当に俺はあの子たちのことが好きなんだな・・・。ふふ」

もちろん、異性ではなく人間として。そんなあの子たちの為にも頑張らないとな。この地球の界律に合わせてランクが落ちていてもやはり強力なエインヘリヤル。先の事件のように召喚時間切れを狙えるだけの余裕がない。あの子たちの邪魔をさせないように、「このまま押し切ってくれる!」“エヴェストルム”を指環に戻し、神器・“神槍グングニル”を具現する。

「記憶の1つくらい、持って行け!」

――運命の三女神(コード)其は編む者(ウルド)――

“グングニル”に何かしらの魔術を付加する場合に必要な術式ウルドを発動。付加するのは「我が手に携えしは確かなる幻想」複製術式。術式名は「エンジェルスレイヤー」という、対神属用術式。

「いっつ・・・!」

頭と胸に痛みが奔る。去来するのは記憶を失ったことで生まれた喪失感。それでもなお俺は「グングニル!!」を投擲した。

†††Sideルシリオン⇒フェイト†††

なのはとすずかのコンビネーション魔法の直撃を受けたアウグスタ。爆発に呑まれないように離れたビルの屋上へと退避して崩れていくビルから立ち上る粉塵を見ている中、「直撃だったけど、どうかな・・・」なのはが不安げに私たちを見た。すずかも「上手く行ったとは思うんだけど・・・」って不安そう。確かにアウグスタの防御力はルシル以上かもしれないけど、でも・・・。

「フェイトとアリサのシオンズクリーバーで防御の大半を削って、さらになのはの大砲撃を全方位から受けたんだ。墜とせなかったにしても無傷で済むような・・・」

≪Schwalbe Fliegen≫

クロノの言葉が中断される。その理由は「ヴィータちゃんの魔法だ!」なのはの言う通り粉塵の中からヴィータが使っていた魔力を纏った物質弾が12発と飛来してきたから。でも「速い・・!」オリジナルのものとは比べられない程に速い。

「どっせぇぇーーーい!!」

アリサが屋上の落下防止の柵の上に跳び乗って、魔力刃を10mほどにまで伸長させた“フレイムアイズ”を横薙ぎ一閃。物質弾を全弾蒸発させた。そして「信じらんない。ピンピンしてんだけど・・・!」ジッと攻撃発射地点を見据えてそう言った。
私たちもそっちに目をやると、「あれは・・・!」アウグスタの姿は確認できたんだけど、さっきまでは無かったものがその背中には有った。蒼く輝く12枚の剣と薄く長いひし形10枚、計22枚の翼が。

「ルシル君が、フェイトちゃん達との戦いから離脱するときに使ってた魔法・・・?」

「つまり高速戦を仕掛けて来るってこと・・・?」

私たちが抱くのは状況が悪化した、という思い。あの速度について行ける飛行速度を私たち全員が持っていない。私のソニックムーブやなのはのアクセルフィン、アリサのフォックスバット・ランはあくまで短距離の高速移動魔法。軌道を読んで先回りすることくらいは出来る・・・ううん、それすらも出来ないかもしれない。アルテルミナス曹長が居てくれれば良かったんだけど・・・。

「跪け! 我が覇道の行く手を拒みし愚者ども! 私はアウグスタ。世界の王となる、威厳と尊厳の化身!」

VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は絶え無き妄執・果て無き執念の化身アウグスタ
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS

蒼い光の尾を引きながらこっちに飛んで向かって来たアウグスタ。まずはなのはが「エクセリオン・・・バスター!」砲撃で迎撃を行うけど、アウグスタの飛行速度や機動力が凄まじくて、なのはの砲撃はアウグスタの残像しか捉えることが出来なかった。
アウグスタはそのまま向かって来たんだけど、私たちの居る屋上より下の階へと突っ込んだ。激しく揺れるビル。腰を落として転ばないように気を付ける。わざとなのかそれとも制御できなくて事故を起こしたのか、ちょっと判別がつかない。

「え、どうなったんだい・・・?」

「何も起きないな・・・」

アウグスタが何も反応を起こしてこない状況に私たちは戸惑う。でもそれはすぐに消える感情。足元からすごく嫌な気配がして、私たちは何も言わずに直感に従って屋上から退避。

――コード・ミカエル――

さっきまで立っていた場所が20以上の蒼い砲撃で消し飛んだ。ルシルの魔法だ。立ち上る粉塵の中から飛び出して来たアウグスタの周囲に浮いているのはあの22枚の翼。それらの先端が一斉にこっちに向いて「ミカエル。シュート」アウグスタがそう号令を下すと、たったいま屋上を階下から撃ち抜いた砲撃が放たれてきた。
慌てて散開しながら私はアウグスタへ向かって突進。その最中になのはのシューターやすずかのバレット、クロノのスティンガーブレイド・エクスキューションシフトが私の側を通り過ぎて行く。

――狼王の鋼鎧――

白い魔力を纏ったアウグスタは避けることなく着弾を受け入れて、また「ミカエル!」22本の砲撃を発射してきた。それを紙一重で避けつつ、「はああああああッ!!」ザンバーフォームの“バルディッシュ”を振るう。だけど、「無駄よ」ナハトヴァールの籠手で防がれる。

「プラズマランサー・・・、ファイア!!」

アウグスタの至近距離で発生させたランサー8発を一斉着弾させる。起きた爆発で一度距離を取らざるを得なくなったけど、下手に距離を詰めておくのも危険だと思うから問題ないはず。と、煙幕の中から「紫電一閃!」燃え上がる剣が振るわれてきた。それを“バルディッシュ”の刀身で受け止める。

「シグナムのレヴァンティン・・・!?」

アウグスタの右手に握られていたのは“レヴァンティン”だった。でも色は黒に染まっていて禍々しく見える。下手するとシグナムの時以上の威力かも知れない紫電一閃。それでも魔力刃を砕かれることはなかったけど、押し切ることが出来ずに拮抗状態に入ってしまった。

「何もおかしくはないでしょう? 烈火の将、紅の鉄騎、風の癒し手、蒼き狼ら守護騎士は闇の書の一部。魔法だけでなくデバイスも扱えて当ぜ――・・・!」

――スティンガースナイプ――

「あら?」

超高速で飛来したクロノの単発魔力弾がアウグスタの右手、“レヴァンティン”を持っている手に着弾して、“レヴァンティン”を弾き飛ばした。急いで“バルディッシュ”を切り返して右脇に薙ぎ払いの一撃を入れようとしたけど「うそ・・・!?」アウグスタは右肘と右膝を使って刀身を挟み込むようにして止めてきた。

「受けなさい」

私のお腹に向けられるナハトヴァール。柄から右手を放して「ディフェンサー!」一点集中タイプのディフェンサー・プラスを展開。どんな魔法でも来い、って身構えた瞬間。籠手の中に内蔵されていた赤い杭のような物が打ち出されてきて、バリアを少し掛けて破砕、そのまま私のお腹に打った。

「っが・・・ぅ・・・ぐ・・!」

ものすごい衝撃がお腹から全身へと襲ってきて「うああああああ!」その場に留まることが出来ずに墜落することに。そんな私の視界に蒼い光が22枚の翼が映り込む。あの多弾砲撃で追撃されるってすぐに察した。

――ヴォルカニックスカッシャー――

急いで墜落から逃れないとって思った時、横から薙ぎ払われててきた巨大な火炎斬撃が翼を呑み込んだ。アリサの魔法だ。それに「フェイト!」アルフが私を抱き止めてくれた。心配してくれるアルフに「ありがとう、私は大丈夫だよ」ってお礼を言う。バリアを張っていなかったら危なかったけど、バリアのおかげで威力や勢いを殺ぐことが出来た。

――コード・ミカエル――

アリサの大威力の火炎斬撃の直撃を受けて13枚にまで数を減らした翼からまた砲撃が発射されて来て、私はアルフに抱えられたまま全方位に向けて発射された砲撃の雨を掻い潜る。そんな中でアウグスタが降下して来た。標的は明らかに私だ。
だから「アルフ。放して」そう言って、私を放してくれたアルフとは別の軌道で空を翔ける。13本の砲撃のうち4本が私を、残りは別れたアルフや、こっちに向かって来ているなのは達に向けられて発射された。

「・・・バルディッシュ。ハーケンフォーム。そして・・・ソニックフォーム!」

砲撃を避けたすぐに機動力を復活させる為に大剣ザンバーから大鎌ハーケンに戻して、さらにバリアジャケットをライトニングからソニックへと変更させる。ソニックフォームは装甲を薄くする代わりに私の持ち味である高機動戦をさらに鋭くさせる形態だ。その分、防御力は無いに等しくなったけど。

――ソニックムーブ――

でも、それなら当たらなければいいって話だ。私を追って来ているアウグスタへと反転。驚きからか目を見開いたアウグスタと相対。そして魔力刃を瞬間的に強化しての一撃「ハーケンスラッシュ!」を振るう。
それを「ヴィータのデバイス・・・!」真っ黒に染まった“グラーフアイゼン”を右手に具現させて、受け止めた。とアウグスタがまたナハトヴァールを向けて来た。さっきの杭を警戒したけど・・・

――ナイトメア――

放たれてきたのは砲撃だった。けど大丈夫、避けられる。ソニックフォームの恩恵は、高速移動魔法のソニックムーブを、発動プロセスを踏むことなく常に発動できることだ。瞬時にアウグスタの背後に回り込んで、もう一度ハーケンスラッシュを振るう。

「小賢しい・・・!」

≪Panzer Schild≫

展開されたベルカ魔法陣のシールドが私の一撃を防いできた。そして振り向きざまに「テートリヒ・シュラーク」“グラーフアイゼン”を振るってきたからすぐに離脱。空振って大きく懐を開けたアウグスタに向かって「ハーケンセイバー!」魔力刃を飛ばした。
慌てることなくナハトヴァールで受け止めたのを視認して、さらに私はソニックムーブでもう一度背後に回り込んで再展開した魔力刃による一閃、「ハーケンスラッシュ!」を振るう。

≪Code Kemuel≫

アウグスタの背後を護るように現れたのは小さく円い盾の集合盾。ルシルの対魔法防御魔法だ。それだけじゃない。「しま・・・っ!」私の両腕と両足に深紫色のリングバインドが掛けられて、さらに剣の翼4枚が私の上下左右に配置された。今の状態で多弾砲撃の直撃は撃墜確実。慌ててバインドブレイクを割り込ませようとするけど、それよりも早く・・・

「コード・・・ミカ――」

――ディザスタークロス――

――エクセリオンバスター――

アウグスタの号令が下る前にアリサの炎とすずかの冷気の砲撃が十字状に放たれ来て、頭上からなのはの砲撃が降って来た。3つの砲撃はアウグスタに直撃して大爆発を起こした。それと同時に私を拘束していたバインドが砕けて、そして翼も消滅して自由になれた。

「プラズマ・・・スマッシャァァァァーーーーッッ!」

私も追撃の砲撃を発射。着弾を知らせるかのように放電爆発が起きた。

†††Sideフェイト⇒なのは†††

これでもかってくらいにみんなで砲撃を撃ち込んだんだけど、「いくらでも撃ちなさい。無駄だと思い知るまで、何度でも」アウグスタさんは無傷なまま姿を現した。蒼い翼は全部壊したけど、アウグスタさん本人の問題は何も片付いてない。

『本当に堅いわね、アウグスタ』

近くのビルの屋上に立つアリサちゃんからのそんな念話に『でも諦めるわけにはいかないよ』私がそう返す。すずかちゃんも『うん。はやてちゃん達を助けるためにも』、フェイトちゃんも『まだまだやれる・・・!』折れてない。と言うよりは、折れるわけがない。みんなで頷き合って、「子供だからと言って容赦はしないわよ」溜息を吐きながら“闇の書”をペラペラ捲っているアウグスタさんにデバイスを向ける。

≪Photon Lancer Genocide Shift≫

アウグスタさんが発動したのはフェイトちゃんの魔法だった。黄金に輝く魔力スフィアが私たちを包囲するように、えっと、100基以上が展開された。フェイトちゃんの時は30基ほどで、弾数は1000発ちょっと。でもアウグスタさんのはその3倍はあるはず。あれは防御しちゃダメだ。

「フォイア!」

「アリサちゃん!!」

「こういう時に改めて思うわ。あたしも空を飛べればって・・・ね!」

すずかちゃんがアリサちゃんの手を取って屋上から飛び立って、私たちもすぐに空に上がって、放たれてきた魔力弾の回避に移る。全方位からの襲撃をさせないために広い大通りを地面スレスレに飛んで、避けきれないものはシールドで弾き逸らすことで対処・・・していたところで、「アウグスタさん・・・!?」が私の目の前に突然現れた。慌てて“レイジングハート”を向けたけど、ヘッド部分をナハトヴァールに弾かれて大きく逸らされちゃった。

――シュヴァルツェ・ヴィルクング――

――ラウンドシールド――

黒い魔力を纏った右の拳が繰り出されてきたのを“レイジングハート”が発動してくれたシールドで防御したんだけど、でもすぐに砕かれちゃった。それでも十分な猶予だった。“レイジングハート”の先端をアウグスタさんに向け直して「バスター!」高速砲のショートバスターを連射する。
アウグスタさんは防御より回避を選んで、私から距離を取りつつも「ナイトメア」砲撃を撃ち返してきた。とここで「鋼の軛」ザフィーラさんの魔法、高さが40mくらいもある白い杭が、私を中心に直径100mほどの円周状に幾つも突き出してきて、逃げ道を塞いできた。

「(さっきのルシル君の炎の壁みたい・・・)周りに逃げ場無し。唯一の逃げ場は・・・上!」

アウグスタさんが待ち構える頭上。そこには「またルシル君の・・・!」魔法、蒼く燃える炎の槍が数えるのも億劫になる程に展開されてた。逃げ場が全部潰されちゃったかも。ううん、かなり危険だけど、降り注いで来る槍を回避しながら上昇すればたぶん・・・。
覚悟を決めようとしたところで『なのは! いま助ける!』フェイトちゃんからの念話が。それと同時に「コード・サラヒエル。フォイア」アウグスタさんの号令が下った。降り注いで来る槍の雨。ビルとかお店と言った遮蔽物を問答無用で貫通して来る。

――プラズマスマッシャー――

杭の壁のある一か所が爆発。フェイトちゃんの砲撃が杭を破壊して、逃げ道を開けてくれた。あとは降り注いで来る槍や壊された建物の瓦礫を回避しながらそこに辿り着くだけ。急いで飛行を再開して、フェイトちゃんが開けてくれた脱出口に向かう。その間にも次々と地面に着弾していく槍が爆発を起こして、「ぅく・・・!」爆炎と爆風に煽られちゃう。

≪もう少しです、マスター!≫

「う、うん・・・!」

「もう少しよ、なのは!」「頑張って、なのはちゃん!」

「なのは!」

フェイトちゃん達が私を呼んでくれている。50mなんてすぐだと思ったけど、アウグスタさんの攻撃が苛烈すぎて上手く飛べない。それでもなんとかあと数mと来たところで「なのは!!」「なのはちゃん!」フェイトちゃん達が顔を青褪めさせた。

≪マスター、頭上です!≫

――ギガントハンマー――

“レイジングハート”からの警告に私は直感的に90度直角に曲がった。その直後、私が通りそうだった地点にアウグスタさんが降下して来て、手にしていたヴィータちゃんの“グラーフアイゼン”(ヘッド部分が大きくなってる)で地面を大きく穿った。瓦礫を防御するためとは言え、ここで飛行を止めたことを私はすぐに後悔した。

「なの――っ!」

――ソニックムーブ――

どんっと強く押し出される感覚。フェイトちゃんだった。そんなフェイトちゃんに向かって落ちて来ていたのは1本の槍。私は何もすることが出来ずに、「うわぁぁぁぁぁ!!」至近に着弾して発生した爆発によって吹き飛ばされたフェイトちゃんを見た。

「「「フェイト!」」」「フェイトちゃん!」

「フェイト・・ちゃん・・・」

力なく道路に横たわるフェイトちゃんの元に駆け寄るアリサちゃん達。私もフラフラと近寄る。アルフさんがフェイトちゃんを抱き起して何度も「フェイト!」名前を呼ぶ中、すずかちゃんが「スノーホワイト!」治癒の魔法を発動。

「まずは1人、ね。子供のくせに・・・随分と手古摺らされてしまったわ」

――グラウンドマリオネット――

そんな時にアウグスタさんがこっちに歩いて向かって来た。それと同時に道路が隆起して、なんて言うんだっけ・・・ゴーレムのようなものが4体と出来た。

「なのは、ボサッとしてんじゃないわよ! 治療が終わるまであたし達で、すずかとフェイトを守るのよ!」

アリサちゃんに怒鳴られた私は“レイジングハート”を脇に挟んで両手で頬をパチンと叩いて、「うんっ!」改めて構え直す。

「なのはとアリサはアウグスタを、僕とアルフでゴーレムを叩く! すずか、君はフェイトの治療に専念してくれ!」

「あ、うんっ」

クロノ君の指示に従って私とアリサちゃんはアウグスタさんを、クロノ君とアルフさんはゴーレムと戦う事に。

≪≪Load cartridge≫≫

アリサちゃんの“フレイムアイズ”と同時にカートリッジをロード。先手はアリサちゃん。まず発動したのは「ブレイズロード!」で、本来は両脚に炎が噴き上がらせてのダッシュ力強化の魔法だけど、今のアリサちゃんは全身に炎を纏わせてる。そして腰を落とした上で“フレイムアイズ”を握る両手を顔の横に持ってきて、突進の構えを取った。

「なのは、援護お願い!」

「うんっ、任せて!」

「何をしようと、私の防御を崩すことは出来ないわ」

――狼王の鋼鎧・剛――

白い魔力を全身に纏わせたアウグスタさんへ向けてシャルちゃん考案の、周囲に展開したアクセルシューター6発とエクセリオンバスターによる射撃と砲撃の同時攻撃「ストライク・・・スタァァーーズッ!」を発射。アウグスタさんは防御力を見せつけるように直立不動で右手を砲撃に翳して受けに回った。そして着弾、爆発を起こす中でシューターが遅れて次々と着弾していく。

「行くわよ、フレイムアイズ!」

≪応よ!≫

カートリッジを4発とロードした“フレイムアイズ”が応え、そしてアリサちゃんが「デストラクト・・・ディターレントッ!!」燃える“フレイムアイズ”を先端とした炎の砲弾のようになって突進した。

「多層防御」

≪Multi Defensor≫

アウグスタさんが発動したのはフェイトちゃんの魔法で、ミッド魔法陣を幾つも重ねたシールドだ。まず1枚目にアリサちゃんが到達。アウグスタさんによって強化されたフェイトちゃんのシールドだったけど、「うりゃぁぁぁぁぁッ!!」アリサちゃんの突進には通用しなかった。

「このままブチ貫いてやるわ!!」

“フレイムアイズ”の剣先がついにシールド全部を突破してアウグスタさんに到達。アウグスタさんは剣先に右手を翳して受け止めた。防がれちゃったけど、アリサちゃんの突進力には敵わないようで、「くぅぅぅ・・・!」押され始めた。
そしてそのまま未だにそびえ立つ杭のところにまで飛んで行って・・・衝突した。ここからでもよく見えるほどにアリサちゃんの炎が杭の壁に沿うように燃え上がってる。でもそれは、アウグスタさんの防御をまだ貫けていないってことで・・・。

「次は私だね。レイジングハート。行こう」

≪All right. A. C. S. standby≫

エクセリオンモードの“レイジングハート”のヘッド部分から8枚の魔力の翼が生える。今までとは違うとんでもない魔力消費が私を襲う。それでも「アクセルチャージャー起動、ストライクフレーム!」私はこのモードを使う。ヘッド先端部分からは魔力刃が1基、あとヘッド部分の付け根のフレームに沿うように羽が1対展開。

『アリサちゃん!』

『いつでもいいわよ!』

アリサちゃんからも準備万端という返事が来た。ならあとは「エクセリオンバスターA.C.S・・・ドライブ!!」突撃を敢行するだけ。
A.C.S――Accelerate Charge Systemの名前の通り、このエクセリオンバスターのバリエーションは高速突撃して、ヘッド部分の魔力刃ストライクフレームで相手のバリアを突破、ほぼ零距離での砲撃を当てるというものだ。

――いいかい、なのは君。この魔法は零距離で炸裂するため、当然だがなのは君自身もダメージを受けることになる。もちろん、直撃後の威力余波処理などは備えてあるが、何せ君の魔力は膨大だ。それでは足りないかもしれない。これからもバージョンアップを施していくつもりだ。だからそれまでは・・・十分考えた上での発動を――

スカリエッティさん――ドクターの忠告が脳裏を過ぎる。ごめんなさい、でも今どうしても必要な一手なんです。それにちゃんと考えました。使うなら今だ、って。だから使っちゃいます。すぐにアリサちゃんとアウグスタさんの元に到着。とここでアリサちゃんが『悪いわね。あとは任せるわ』そんな念話を送って来たから『どんと任せて!』そう応じた。

「バーストアップ!」

それと同時に“フレイムアイズ”の魔力刃が半実体化を解いて純粋な炎になった。そして大爆発。炎が周囲に広がる。私はその炎の中を突っ切って、あれだけの爆発を受けてもなお全くの無傷だったアウグスタさんと対峙。

「おのれ・・また・・・!」

でも今までの余裕そうな表情とは違って怒りが出て来てるかも。これはもしかすると、ルシル君が提示した解決方法に近づいてる? とにかく私は突撃を続行。そして気付いた。炎で隠れて見えなかったけどアウグスタさん、クロノ君のバインドで両手足拘束されてた。

「それでも私の防御は貫けないわ!!」

バインドが砕かれる。ストライクフレームがアウグスタさんの胸元に当たるまであと1mくらいってところでガキィンと何かに拒まれた。見えない防御フィールド。これさえ突破できればきっとダメージを与えることが出来るはずなんだ。

「いっっっけぇぇぇーーーーーッッ!」

「っく・・・!」

アウグスタさんの背が触れている杭の壁が音を立ててひび割れて、大きく崩れ去った。アウグスタさんを抑え込むものが無くなって、私たちは杭の壁の中から改めて街中に戻った。でも、景色はがらりと変わってた。所々から燃え上がる炎の柱、そびえ立つ龍のような岩、禍々しい色の植物が海鳴の街を壊していた。

(これもアウグスタさんの仕業・・・!?)

私とアウグスタさんはそんな街中から海上にまで飛んで来た。海にも在る龍のような岩の柱。私たちがこうしている間にも新しい岩の柱が海面から突き出し続けてる。

「御覧なさい。これが闇の書の力よ。素晴らしいでしょ?」

「闇の書の力は本来、こんな酷いものじゃなかったって聴きました! 元は健全な資料本だったって・・・! 名前だって本当は、夜天の魔導書って、とても綺麗な!」

「そうね、そうらしいわね。でもその怒りを私にぶつけるのはお門違いよ。私が主になった時にはすでに呪われた書だったもの」

「でも! ナハトヴァールっていう異物を加えた所為で余計に酷いものになったって・・・!」

「それについても謝るつもりはないわ。自分の所有物をどう扱おうが・・・勝手というものでしょ!!」

アウグスタさんの背中が海上にそびえ立つ岩の柱の1つにぶつかったことで、私たちの飛行は終わった。でもこれでA.C.Sの威力を余すことなく伝えることが出来る。「届いて!」マガジンに残ってるカートリッジを全弾ロードして、さらに突撃力を強化。

「返して・・・。はやてちゃんの、ヴィータちゃんの、シグナムさんの、シャマルさんの、シュリエルさんの、ザフィーラさんの、そしてルシル君の・・・笑顔を、希望を、日常を、あなたが奪ったものを全部・・・!」

私の顔に向かって伸ばされてきたアウグスタさんの左腕に装着されたナハトヴァール。赤い杭の先端が額に向けられた。それでも私は目をアウグスタさんの顔にのみ向ける。

「返して!!!」

「なに・・・!?」

とうとうストライクフレームがアウグスタさんの防御を貫いた。

「ブレイク・・・シューーーーット!!!!」

すぐさま砲撃を発射。目の前が私の魔力光、桜色の魔力爆発でいっぱいに染まる。続けて襲ってくるのは魔力余波と衝撃波。これで余波処理が働いていると思うと、もし無かった場合の時はどうなる事か、想像もしたくない。

「はぁはぁはぁ・・・ふぅ・・よし」

岩の柱の上に降り立って息を整えながら、A.C.Sを解除した“レイジングハート”から空になったマガジンを外して、新しいマガジンを装着。魔力爆発と崩れていく岩山から濛々と立ち上る煙を見据えていると、「やってくれるわね・・・」ようやくダメージが通ったようで、少し煤汚れたアウグスタさんが姿を現した。

「まだまだやれるよね? レイジングハート」

≪もちろんです。ご友人方の為にも、もうひと踏ん張りですね≫

“レイジングハート”の言葉に頷きを返して、苛立ちを見せ始めたアウグスタさんを見据える。そして・・・

――ショートバスター――

――ナイトメア――

すぐさま砲撃の撃ち合いに入った。海上に突き出す幾つもの岩の柱の中を高速飛行で翔け回りながら砲撃を撃って、避けて、シールドや柱を壁にして防いで、を繰り返す。でもやっぱり「全然効いてない・・!」当てることは出来てるけど、A.C.Sの零距離でも軽いダメージしか与えられなかった以上、その他の攻撃はビクともしないんだ。

(ならもう・・・スターライトブレイカーしか・・・ない)

今の私ひとりに出来るのはそれだけだ。あとは集束完了までの時間稼ぎをするだけなんだけど。私ひとりじゃ無理・・・だよ。

(フェイトちゃん・・・)

私を庇って倒れてしまったフェイトちゃん。ううん、ここに来て頼るわけにはいかないよね。私ひとりでもなんとかして時間を・・・。

「少しばかり注意散漫ではなくて?」

――チェーンバインド・シーリングフォース――

「っ!?・・ぅく・・・これ、ルシル君のバイン――え・・・!?」

蒼いチェーンバインドが私を拘束した。両手に3本ずつ、腰から下が5本で簀巻き状態。すぐに習ったバインドブレイクを発動しようとしたんだけど、魔力が上手に使えない、だから魔法が発動できない。

「磔の体勢にされる気持ち、少しは理解できたかしら?」

「っ!!」

アウグスタさんが私の目の前にまで近づいて来てそっと頬に触れて、「次はあなたよ」耳元にそう囁いてきた。ゾワッと総毛立つ。そんなアウグスタさんが離れて行って、「来たれ。冥府の螺旋槍」一言呟いた。

≪Wurf Speer der Unterwelt≫

私の頭上、何か・・・とてつもなく大きな何かが突き出て来た。

「あの槍はね、古代ベルカにおいて戦船に対する攻撃として構築された対艦魔法なのよ。対人で使うような物ではないけど・・・。私をここまで追い込んだその罪には相応しい罰だと思うの」

アウグスタさんが高度を上げてその槍の上へと消えていった。どう見ても良いことにはならない。それは正しい感だった。対艦の槍がドリルのように高速回転しながらゆっくりと降下してきた。あんなのを受けたら、強化された私の防御力でも・・・死んじゃう! 何度も魔法を使おうとしてもやっぱり魔力が上手く扱うことが出来ない。

「さようなら。あなたの死は、無駄にはしないわ」

「いや・・・」

すぐそこまでにまで迫って来ている脅威に、今までに感じたことがない程の恐怖を感じた。目を逸らしたいほどなのに逸らせない。もうダメ、って諦めそうになった時。

「なのは!!」

≪Jet Zamber≫

黄金の光が一閃。迫って来ていたドリル状の槍が縦一線に斬り裂かれた。私に当たる前に真っ二つに分かれて、そのまま海に落下、崩れ去っていった。そして「なのは!」私の元にフェイトちゃんが飛んで来た。羽織ってるのは黒じゃなくて白いマント。ライトニングフォームに防御力を追加したブレイズフォームだ。

「フェイトちゃん・・・!」

「ごめん、なのは、大丈夫!? いま助けるから!」

ザンバーフォームの“バルディッシュ”を一閃して、私を拘束してるバインドを破壊。ようやく自由になれた。フェイトちゃんに「ありがとう」お礼を言い、そして「私のことなんかよりフェイトちゃんの方が・・・」心配の言葉を掛ける。

「私は大丈夫。すずかに治してもらったから」

「ごめんね、フェイトちゃん」

「んー、私はごめんなさいじゃなくて・・・」

「・・・あ、ありがとう、フェイトちゃん」

「うん♪」

フェイトちゃんと2人して笑みを浮かべる。そんな中、「もういい加減に眠りなさい。無理に起きていても、もうこの流れが変わることは無いのだから」アウグスタさんの声が頭上からしてきた。

「それはこっちのセリフよ!」

「アリサちゃん!」

「眠るのはあなたです!」

「すずかちゃん!」

龍のような岩の柱の先端に立つすずかちゃんとアリサちゃん。そこに「そうだな」クロノ君と、「というわけだから、あんたがさっさと消えちまいな」アルフさんも合流。

「そう。残念だわ」

アウグスタさんが凶悪な笑みを浮かべたその瞬間、足元の海面が大きく爆ぜた。そこから飛び出して来たのは、私たち全員を丸呑みできる程に大きな口、その数3つ。それはあまりに突然で、回避するには全てが遅すぎた。フェイトちゃんくらいの速度があればみんな逃げられるのに・・・。

――飛刃・翔舞三閃――

そして、ソレもまた一瞬だった。私たちの頭上から真紅に光り輝く斬撃が3つ降って来て、私たちを呑み込もうとしてた3つの口を斬り裂いた。


「まったく。七美徳の慈悲(パティエンティア)を奪われているなんて。ルシルのドジっぷりも相変わらずここに極まれりね」


頭上、そこには真紅に光り輝く一対の翼を羽ばたかせたシャルちゃんが居た。


 
 

 
後書き
ゴーオンダイン。ゴットクヴェルト。
・・・・終わってない、終わっていないよ、闇の書決戦・・・。今作の主人公ルシルを余所に少女たちが頑張ってアウグスタと戦闘を繰り広げた今話。それすらも決着をつけることが出来なかったという始末。
しか~し! ついにシャルも参戦する事になり、ようやく役者が揃いました。さぁ、あとははやて達を解放するのみ。頑張れ、魔法少女たち、あとルシル。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧