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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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輝ける未来への道標~Hopeful Future~

 
前書き
11th・アポリュオン・アエテルニタス戦BGM
魔法少女リリカルなのはA’s THE GEARS OF DESTINY『ラストバトル』
http://youtu.be/6DFEB1aLjfE 

 
†††Sideなのは†††

フノスさんの治癒術式コード・エイル(正確にはルシル君の術式だね)で回復された私たち。

「えっと、まずはすいませんでした。思ったように力加減が出来ませんで」

円陣を組んで座ってフェイトちゃんとルシル君がゴールするのを待っているなか、私の隣に座るフノスさん(みんな、緊張するから隣は遠慮したいです、とか言って)が申し訳なさそうに謝った。どひぃぃーーーっ! 心臓に悪過ぎる! 王様が、超絶に偉い王様が謝っちゃってます!

「い、いえ。お気になさらずに。私たちの修行不足が原因ですから。ね? みんな」

みんなに同意を求める。フノスさんは言っていた。魔力出力を一割にしていた、って。それであのデタラメな威力。あぁやっぱり強かった。というか次元が違い過ぎる。判ってはいた事だけど。あれ程までに速攻で墜とされるといっそ清々しいかも。

「そうやなぁ。最初からフノスさんに勝てへん思うてたけど、もう少し粘れるとも思ってた。それが出来へんかったのは、単純な話、私らの力不足ゆうことやな」

「だからもっと強くなって、負けないようになんないと」

「そうね。守りたいものをしっかりと守れるように」

はやてちゃんの賛同を皮切りに、みんながそれぞれ思い思いに言っていく。一通り黙って聞いていたフノスさんが「よかった。ラグナロクから世界を守れて」と微笑を浮かべた。みんなは口を噤み、ニコニコと笑みを浮かべるフノスさんへ視線を向ける。私たちの視線が自分に集まった事に気付いたフノスさんは「あ」と漏らし、

「そのですね。思い上がりかもしれませんが、私とルシルがラグナロクを食い止めたことで、今こうして皆さんが伸びやかに魔道――いえ魔導の鍛錬を行えるような世界があるとすれば、食い止めた本人としては嬉しいなぁ、と」

そんな考えを持ってしまったことが恥だというように頬を朱に染めた。思い上がりだなんてこと絶対にない。その通りだ。フノスさんとルシル君のおかげで、今の生命溢れる次元世界があるんだ。そう思うと、やっぱりフノスさんには畏敬の念しかない。ルシル君は・・・その、ね。もう友達としての時間が長すぎるせいで畏敬はちょっと。でも尊敬はしてる。

「御謙遜を。あなたとルシリオンのおかげで今の次元世界があるのです。我々現代を生きる者たちにとって、次元世界を創りだしたあなたとルシリオンは、世界の母と父同然とも言えるでしょう」

リエイスさんがそれはもう大仰な事を言っちゃった。ラグナロクが元は一つだった次元を数千以上に分断して、次元世界の大元を創りだした。で、ルシル君とフノスさんが協力してラグナロクを撃破、封印。その最中に次元世界という新しいシステムが崩壊しないように、フノスさんは空間干渉能力、ルシル君も複製・空間干渉能力を使い、次元世界を確立させた。それが、単一次元世界の終焉、複数次元世界の誕生、即ち再誕の真実だ。
あ、じゃあリエイスさんの言ってる事、大仰でも何でもなく紛れもない事実だ。父と母のくだりは意味解んないけど。

「私とルシルが夫婦ですかっ!?」

っとフノスさんが怪しいリアクションをしましたよ。一気に耳まで赤くなって挙動不審になる。この反応、フェイトちゃんがよくやるやつ。好きな人との事で何かしらのからかいを受けた時とか。それからフノスさんは訊いてもいないのに、本当ならルシル君と結婚するのが自分だったとか、でもシェフィリスさんを恨んでないとか、祝福してたとか、けどルシル君への想いを完全に断ち切れなかったとか・・・。途中で割り込めるような様子じゃなかったから、私たちは唖然としたまま聞くしかなく・・・。

「――ですから・・・ハッ。すいません! まったくもって関係ない話を長々と!」

フノスさんって面白い。記憶の中では凄い魔術師だったのに。なんだっけ? ウリベルトっていう魔族さんとの戦闘は、まさに神話とかに相応しい激戦だったし。あ、でもルシル君の記憶に初めて登場した時、何も無いところで転んでたっけ。ルシル君も、ドジ神に愛された、とか言ってたし。天然さんなんだね。色々と暴露しちゃったことでそれはもううろたえ始めたフノスさんを何とか落ち着かせ、

「恥ずかしいところをお見せしてしまい、すいませんでした」

一度シ~ンと静まり返ったところに、リオちゃんがおずおずと挙手。アインハルトちゃんとコロナちゃんも何か訊きたそうな子をしてる。私たちがどうしたのかを訊く前に、フノスさんが「どうしました?」と微笑を浮かべて優しく尋ねる。
リオちゃんは少し言い淀んだ後、

「さっきの話なんですけど・・・次元世界を創ったって一体どういう・・・? 次元世界って、ラグナロクによって生まれたんじゃ・・・?」

あれ? その質問・・・。あ、そう言えばさっきは言ってなかったっけ。さっきはルシル君の正体や大戦、魔術、ラグナロク、次元世界誕生のきっかけなどの説明はした。でも次元世界誕生の詳細は省いてた。当然さっきの会話の内容は気になるよね。もう一度ちゃんと事情を知るみんなでアインハルトちゃん達に次元世界誕生の事を詳しく説明する。

「ルシリオンお父様もフノス様も、そんなにすごい方だったのですね・・・!」

「じ、次元世界をたった二人で確立させたなんて・・・。昔の魔導師って、ううん、魔術師ってそんなにすごい事が出来たんですか!?」

「コロナさん、でしたか。 いいえ、誰もが出来るわけではないのです。生まれ持った固有能力・・・ええと、現代にも似たようなモノがあったりしますか・・・?」

フノスさんが私たちにそう尋ね、はやてちゃんが「レアスキルや固有技能などが近いかと思います」と答える。アインハルトちゃん達はフノスさんとはやてちゃんのそのやり取りに頷いて、理解を示した。

「私とルシルが固有能力・空間干渉能力を使えたからこそ出来た事なんです。あ、空間干渉能力とは、そのままの意味で空間を操ることの出来る能力の事です。それでですね、能力を使ったからと言って上手くいくかどうかは自信はありませんでした。世界を確立させる。それは、人間が起こすには行き過ぎた奇跡。ですけどやらねばなりませんでした。無限とも言える生命を救うには、それしかありませんでしたから」

フノスさんは両手を重ねて胸に当て、当時の事を思い出しているのか俯いてしまう。フノスさんは世界を救った。その代償として、ただでさえ短命とされていたその命を使い果たしてしまった。大戦終結から一年後、フノスさんは天に旅立った。ルシル君は言ってた。

――これから起きる堕天使戦争を知らずに逝けたのは幸せだった――

ようやく真実を知ったアインハルトちゃん達も俯き、何か思う事があるのか沈黙。私たちも何も言わず、ただ空を見上げたり、遠くを眺めたりとする事に。でもそんな静かな時間はすぐに終わりも告げた。地震だ。ヴィヴィオ達が悲鳴を上げる。

「大きいっ!」

「これ、もしかしてカーネルさんが起こしてるの・・・!?」

「いいえ! これは地震ではありません! 空間そのものに震動が・・・! え?・・・なに?・・・・スンベルに・・・侵入者!?」

座っているのも辛いほどに揺らいでいる中、フノスさんは具現させた“グラム”を支えに立ち上がる。それにしても気になる単語。スンベルに侵入者。十中八九、“アポリュオン”だ。私たちがフノスさんを見上げる中、フノスさんは静かに「魔力出力50%解放」と告げた。
その瞬間、私たちは見た。50%とは言え、本気になったフノスさんの神々しい姿を。コバルトブルーの綺麗な瞳が微かに輝いて、全身を包む虹色の魔力をドレスのようにして纏ったフノスさん。

「空間干渉・・・スタート・・・!」

フノスさんがそう一言告げると、すぐに揺れが弱くなった。それから数秒とせずに完全に揺れが収まって、私たちはゆっくりと立ち上がる。

「フノスさん。今の、侵入者と言うのは・・・?」

「あ、はい。どうやら外界で問題が発生したようで。どうやらテスタメント・ルシリオンとテスタメント・グロリアが敵の侵入を防げなかったようですね」

そう尋ねると、フノスさんは申し訳なさそうに答えた。敵。それが“アポリュオン”で、守護神のルシル君とグロリアが二人がかりでも侵入を拒めなかったのなら、かなり危険な存在なんじゃ・・・。“アポリュオン”の事を知っている私やはやてちゃん達も顔が青くなる。

「ルシルからある程度話を聞いているかもしれませんが、テスタメント・ルシリオンは敵から皆さんをお守りするために、このスンベルに皆さんの精神を取り込ませたのです。敵――アポリュオンのアエテルニタスというらしいのですが、そのアエテルニタスの狙いは、テルミナスと出遭い、尚且つ戦闘をした皆さんの魂と精神。魂と精神を内包した肉体自体を取り込めることが出来ればよかったのですが、スンベルにはそれほど力がありませんから、取り込める精神だけ、というのが現状です」

ここで、あれ?って思うところが一つあった。私でもそうなんだから、本人たちはもっと、あれ?だろう。

「あの、すいません。私、テルミナスという方のことを知らないのですが・・・」

アインハルトちゃんが代表して小さく挙手。コロナちゃん達も「わたしもです」と続く。そう、アインハルトちゃんとコロナちゃんとリオちゃん、それにイクスちゃん。あとヴィヴィオとルーテシアもレヴィも、テルミナスとは戦ってない。アインハルトちゃん達に関してはテルミナスに遭ってすらいない。

「そうなのですか? それは申し訳ないことを」

「あ、いえ。ただ何ででしょう?と思っただけですので」

アインハルトちゃんとフノスさんのお辞儀合戦が始まった。というところで、空が割れた。結界が割れたようなものじゃなくて、このスンベルって言う世界自体が割れているような感じ。
青空が割れて開いた穴の向こうに広がるのは夜空。流星群のような幾条もの光が色んな軌道で流れていて、こんな状況じゃなかったら見惚れるほどに綺麗。でもそんな綺麗な景色をぶち壊す様にソレは現れた。夜空の穴から出てきたソレを見たみんなが一斉に息を呑む。

「アイツが、アエテルニタスって奴か・・・!?」

「アポリュオンとは人型だけではないのだな」

アエテルニタスを見て、ヴィータちゃんとシグナムさんが引いてる。と言うか私も含めて全員が引いてる。フノスさんですら「おぉ」と及び腰。アエテルニタスの姿を簡潔に説明するとすれば・・・人の頭がい骨の集合体。先端には額から三本の角を生やした巨大ドクロがあって、普通なら首の骨が伸びているはずところからブドウのように無数の小型(それでも1mくらい)のドクロが連なっている。ドクロだけで構成された蛇、もしくは龍。それがアエテルニタスだった。

『ようやく4thの結界を抜けれたか。しかしプリンキピウムの助力でやっととは』

頭の中に直接聞こえてきた男の人の声。誰のものかはすぐに判った。こちらに空洞の目を向けているアエテルニタスの声だ。4th。守護神のルシル君のことだ。それに、プリンキピウムの助力。“アポリュオン”は二体居たんだ。

『見つけたぞ人間ども。さぁ我を崇めよ、我を称えよ、我を愛せよ、我を敬え。汝を呪え、汝を恨め、汝を憎め、汝を悲しめ。その果てに我に許しを請え。しかし我は貴様ら人類を審判し、粛清し、断罪し、殲滅し、蹂躙し、駆逐し、消滅しよう。その目に焼き付けよ、その耳に轟かせ、その下らぬ魂に刻め。我は霊長の審判者ユースティティアがⅩⅠ、永遠アエテルニタス也』


VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦✛
其はアポリュオンが永遠アエテルニタス
✛◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS


そんなめちゃくちゃな・・・。どこまで人を嫌って、自分が好きなの?
あ、でもシャルちゃんが言ってたっけ。“アポリュオン”は、人間に絶望して堕ちた元守護神か、人間の罪によって滅んだ世界の元“界律”の化身かのどっちかって。どっちにしても恨まれても仕方ないってことか。そんな時、フノスさんが私たちを庇うように前に躍り出て、“グラム”の剣先をアエテルニタスに向けた。

「皆さんは下がってください。ここは我々アンスールが引き受けます」

フノスさんがそう告げた。すると、フノスさんの周りに白い光がいくつも溢れる。転送されてくる。誰が? 決まってる。さっきフノスさんが言った。光が治まる。そこにはやっぱり・・・“アンスール”のメンバーの姿が。

「魔道王の言の葉の下、アンスールが白焔の花嫁ステア、只今参上♪っと」

純白の炎で出来たウェディングドレスを着たステアさんがピースサイン。左手には、白い炎を纏っている黄金の穂を持つ三叉槍“シンマラ”。

「同じく。アンスールが風迅王イヴィリシリア、フノス王の命により推参しました」

イヴィリシリアさんは、ルシル君の“グングニル”やフノスさんの“グラム”と同じクリスタルのような刀身を持つ剣を胸の前で掲げた。

「アンスール・戦場の妖精(フロント・フェアリー)が拳帝シエル、登場っ!」

シエルさんが右拳を高々と上げて名乗りを上げた。

「アンスール・戦場の妖精(フロント・フェアリー)が殲滅姫カノン、参上です」

カノンさんはお辞儀して、両手に黄金の銃“オルトリンデとグリムゲルテ”を携えた。

「お、同じくっ。アンスール・戦場の妖精(フロント・フェアリー)が結界王アリス、参上しましたっ!」

アリスちゃ――コホン、アリスさんが何度もお辞儀する。だってアリスさんって呼ぶより、ちゃん付けの方がしっくりきちゃう。シエルさんも、シエルちゃんの方がしっくりきそうなんだけど。まぁいいや。カノンさんは、その・・・さん付けがしっくりくる。だって纏う雰囲気が大人っぽいし。

「アンスールが呪侵大使フォルテシア。颯爽呪い殺しに来ました」

こっわっ! 無表情でさらりと言うから余計に。フォルテシアさん。さすが“呪い”で相手を“侵して”あの世へ連れて逝く“冥府”の“大使。”そして左手には柄の上下に刃がある大鎌“レギンレイヴ”。

「アンスール、雷皇ジークヘルグ。フノス王の命により推参」

ジークヘルグさんは柄の短い黄金の槌“ミョルニル”を両手で持って胸の前に掲げる。

「やっと戻って来れたぜ。アンスールが地帝カーネル、華麗に降臨」

カーネルさんは雷のようなジグザグの刀身を持つ剣“フロッティ”を肩に担ぐ。

「まったく。あっと、アンスールが冥祭司プレンセレリウス。ようやく登場」

プレンセレリウスさんは最初うな垂れていて、でもすぐに背を伸ばして名乗りを上げた。右手には、はやてちゃんの“シュベルトクロイツ”のような杖、じゃなくて槍を持ってる。そして最後にフノスさんが“グラム”を胸の前で掲げて、

「アンスールが魔道王フノス。ルシルの大切なお友達は必ずお守りします」

『フフフ、ハハハハッ。人間ですらない幻想如きが、我を相手に戦えるとでも? 図に乗るな。戦いにすらならぬわ。早々に消え去るがいい』

“アンスール”の登場に、アエテルニタスは笑い声を上げた。頭に直接入ってくる念話だから、これがもう不愉快極まりない。だけどフノスさん達は怒りを一切見せない。それどころか余裕の笑み。アエテルニタスの言う通り、フノスさん達“アンスール”は幻だ。ただでさえ強大な“アポリュオン”。その一体を相手に戦いが成立するなんて・・・。不安になっていたところに、空から何かが降って来て、アエテルニタスの前に勢いよく落ちた。
それは・・・・

「解ってないなぁ。正しく頭の中が空っぽってわけだ。ドクロなだけに」

ルシル君のお姉さんのゼフィランサスさんだった。肩に掛かった銀の長髪を後ろに払って、両手を腰に当てて仁王立ち、アエテルニタスを貶す言葉を吐く。何というかすごい女性(ひと)だなぁ、ゼフィランサスさんって。さすがルシル君のお姉さん。というかシャルちゃんを彷彿させる。どちらかと言えばシャルちゃん“が”似てる、なんだけど。

『その目と髪・・・貴様も4thの肉親か? だとすれば我の精神を逆撫でするその言動にも得心が行く』

「あらそう。あなたは弟の世話になっているわけか。それなら弟に感謝しなさいよ」

『たわけがっ。この永遠たる我が、元人間の界律の守護神(にんぎょう)の世話になるものかっ』

「私の愛しい弟が人形だ? ほざくなドクロがっ。ハッ、何が永遠よ。すでにデッドエンドの成れ果てのドクロのクセにさ。笑わせるわっ!」

『どこまで我を虚仮にするか、幻如きがっ! とっとと失せよ!』

「失せるのはそっちよっ。それとも強制的にご退場させられたいわけっ?」

『なにぃ? いや良い事を思い付いた。先代終極と戦った人間どもの精神を喰らうのは後回しだ。まずは貴様ら、人間の下らぬ記憶の残滓たる幻影を滅ぼし尽くし、破片となった貴様たちを4thの前に突き出してやろう』

「上等よっ。幻だからって舐めてると消し飛ぶぞッ、ドクロッ!」

完全に置いてけぼりを食らってる私たちや“アンスール”のみんなは、ただキレてるゼフィランサスさんとアエテルニタスの会話を聞くしかなくて。というか本当にすごいんですけどゼフィランサスさん。一歩も引いてない。最後に、中指を立てたゼフィランサスさんが踵を返してこちらに向き直る。
フノスさん達“アンスール”のメンバーの顔を見回して、「アンスール全メンバーの制限の全解放許可を、スンベルマスターへ申請」と口にした。それから数秒とせず、ゼフィランサスさんがニヤって口端を歪めた。

「・・・・・・・・全解放許可を確認。それじゃあみんな。見せてあげよう。人類最強と謳われたあなた達アンスールの魔道を、あの分からず屋に・・・!」

ゼフィランサスさんの宣言に、“アンスール”のみんなが「了解!!」と応じる。その一言を言った直後、ものすごい魔力流が発生した。あまりの衝撃波に、私たちは後退せざるを得ない。

「す、すごい・・・! これが、アンスールの本当の力なのですね・・・!」

「ア、アインハルトさん! それより体を固定しないと危ないですよっ!」

「そういうヴィヴィオも危ないって!」

「あわわっ、踏ん張っても飛ばされちゃうよ・・・!」

「み、みなさん! しゃがんだ方が良いかと・・・!」

ヴィヴィオ達がスカートを押さえて、必死に飛ばされないようにしてた。私はすぐに「ヴィヴィオ! コロナちゃん!」って一番近かったこともあって、

「なのはさんっ。コロナはあたしがっ!」

私はヴィヴィオを、スバルがコロナちゃんの肩を抱いて支える。

「シグナム、シャマル、リエイス!」

「「「はいっ!」」」

はやてちゃんに名前を呼ばれたシグナムさんとシャマル先生とリエイスさんが、リオちゃんとアインハルトちゃんとイクスちゃんを背後から支えた。その五人より小さなリインとアギトは、すでにはやてちゃんが支えている。

「って、うわぁっ? キャロ!?」

「ええっ!? キャロ、軽過ぎだよっ!」

キャロが飛ばされそうになって、慌てたエリオとルーテシアがそれぞれ手を取って戻し、レヴィが抱き止めて支えた。私たちのちょっとしたアクシデントに気付いたステアさんが「うわぁ、ごめんっ! ちょっとみんなっ。すぐに魔力制御して放出停止!」そう言ってくれた事で、“アンスール”の魔力放出が治まった。 みんな、ほっ、と安堵。魔力放出で人が飛びそうになるなんて思いもしなかった。

『貴様らの下らぬ茶番に付き合っている暇はない。早々に滅してくれるわっ!』

――Linguisque animisque favete/汝らは言葉と心において沈黙せよ――

アエテルニタスの頭部にある三本の角の先が深紫色に光って、三条の砲撃を放ってきた。それを迎え撃つのは、

天壌滅する(レーヴァ)・・・・原初の劫火(テイン)!」

火炎を纏わせた“レヴァンティン”を振り下ろして、火炎の剣状砲撃を放つセシリスさんと、

「エミッスリオーネ・コッレンテ・エレットリカ!」

バレーボール大の雷球を創りだして“ミョルニル”で打ち、雷撃の砲撃として放ったジークヘルグさんと、

復讐者の凶煌閃(オプスキュリテ・エミスィオン)・・・!」

“レギンレイヴ”を前面で高速回転させて、周囲から溢れ出てきた闇を柄の中央へ集束。私のブレイカー並に大きくなった紫色の闇が砲撃となって放たれた。“アンスール”三人による全力砲撃。放たれた時に生まれた衝撃波が凄まじ過ぎるよ。アエテルニタスの砲撃と衝突。セシリスさん達とアエテルニタスとの間で拮抗。そこに、

熾天聖の(セラフィック)・・・剣閃(セイバ)ァァーーーーーッッ!!」

フノスさんが振り上げていた“グラム”を振り下ろして、虹色に輝く火炎剣状砲撃が放たれた。セラフィック・セイバーって言う名前の火炎砲撃が一直線にアエテルニタスに突き進んで、『ぐおっ!?』直撃。アエテルニタスが苦悶の声を漏らしてよろけた。攻撃が効いた! アエテルニタスも『馬鹿な!?』って驚いているし。

「解った? 私たちは既にテスタメントの加護を受けているから、攻撃を通すことが出来るし、防ぐことも出来るというわけ」

ゼフィランサスさんが得意げに告げた。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

雷に炎に闇。最後に虹色の炎。フノスさん達がアエテルニタスと攻撃を交えているのが判った。

「まさか・・・戦っているの!?」

「ルシル! ゼフィ様から召集命令! アンスール全メンバーの能力を全解放して、アレを斃すって!」

シェフィリスさんがそう言ってルシルに振り向いたら、ルシルが「私もか・・・?」と訊き返した。“アンスール”の全メンバー、ということはルシルも入るんだよね・・・? あれ? でも・・・外界に居る守護神のルシルやグロリアは・・・?

「当たり前! 外のルシリオン達は別のアポリュオンと戦ってるみたいなの! だから自分たちでアエテルニタスを斃すんだって言ってて!」

「そうか・・・判った。フノスが居れば何とかなるとは思うが。・・・フェイト、私は行かないといけないんだが。君はどうする?」

「決まってるよ。一緒に行く。なのは達もその場に居るだろうし合流しないと」

なのは達との合流のためって言ったけど、本音はルシルとシェフィリスさんの二人だけを行かせて、私ひとりが見送る側なんて嫌だったから。ルシルは「よしっ。じゃあ行こう」って微笑んでくれた。

「決まりだね。というか、フェイトさんが行かない、って言っても連れていくつもりだったけどね♪」

そしてシェフィリスさんが笑顔で右手を差し出してくれた。その手を取って握る。シェフィリスさんも優しく握り返してくれた。すごく柔らかくて温かな手。

「じゃあフェイトはなのは達と合流。私とシェフィは参戦だ」

「ええ」「うんっ」

私立ちは空へ上がって、“アンスール”と“アポリュオン”のアエテルニタスが戦う戦場へ向かった。

†††Sideフェイト⇒ルシル†††

シェフィとフェイトって本当に仲が良くなったのだろうか・・・?

(まぁ元から仲が悪いというわけじゃないが・・・)

私がリーヴスラシルと戦っている間に話をしていたようだし。嬉しいんだが。私の隣で、二人が手を繋いで空を翔けていることで生まれるちょっとした疎外感。そこにシェフィが「フェイトさん。もしかしたらこれで最後になっちゃうかもだから・・・」とフェイトに話しかけた。フェイトは「はい」と頷き応える。

「お幸せにね。あ、皮肉とかじゃなくて、純粋な気持ちだからねっ」

「・・・・・・はいっ」

何か照れくさい。でも、「ありがとう、シェフィ」と礼を言う。フェイトも「シェフィリスさん。ありがとうございます」と礼を言った。それにしてもシェフィの笑顔を見るのもこれで最後かと思うと寂しいな。とそこに『ルシル、シェフィ、聞こえてる?』というゼフィ姉様からの念話が届いた。私とシェフィは『聞こえます』と返す。

『よしっ。そこからドクロ狙えたり出来るよね?』

いきなりの問いだったが、私とシェフィは『もちろん』と答える。10km圏内なら届く。シェフィにも超長距離砲の術式がある。というか教えたしな。するとゼフィ姉様が『あのムカつくドクロに一発かましちゃって』と何やら不機嫌な感じの声で指示してきた。
一体アエテルニタスと何があったんだろうか。いや、アエテルニタスはとことん人間嫌いだから当然か。永遠アエテルニタス。奴は人間の業によって滅んだ世界の“界律”が具現化した“アポリュオン”だ。ゆえに人間に対しては傲岸不遜。だからゼフィ姉様と衝突していてもおかしくはないな。そう思っているところに、『あ、そうそう。フェイトさん』と今度はゼフィに話しかけた。

『え? あ、はい、なんでしょうか?』

『なのはさん達は、私たちの戦闘に巻き込まれないようにしてあるから安心してね。もちろん貴女も合流次第、決して戦闘に巻き込まれないようするからね』

『はいっ、ありがとうございますっ!』

ゼフィ姉様との念話はそれで切れた。なのは達の無事が確保されているなら、もう何も問題はない。ということで射程圏内に入る。左手に携えるは“神槍グングニル”。シェフィは“神杖ガンバンテイン”を携え、「長距離砲かぁ」と若干不安そうだ。
魔力生成・・・、お、リンカーコアでも本来の力を引き出せる。っと「わっぷ? ルシル、魔力流が・・・!」フェイトがよろけてしまっていた。「すまん」と謝り、“グングニル”の上下にある二つの穂に集束させる。

「このままいくぞ、シェフィ」

「ん、了解」

私は槍投げ選手のように“グングニル”を振りかぶり、シェフィは“ガンバンテイン”を両手でしっかりと掴み、先端をアエテルニタスへ向ける。フェイトは速度を落とし後退。いい判断だ。並列飛行のままであればもろに衝撃を受けるからな。

天射(エクリプスィ)・・・!」

“ガンバンテイン”の先端より高水圧の特大水流砲撃が放たれる。水流砲撃の周囲を別の水流が螺旋を描き纏わりついて、軌道を逸らさないようにしている。数秒とせずにアエテルニタスに直撃、よろけるのを確認。だがこれで終わりじゃない。

矛砲(カルディア)ッ!」

未だに続く水流砲撃が一気に氷結していく。水浸しになっているアエテルニタスもまた然り。直撃した尾の方から胴体へと凍りついていく。水の砲撃で濡らした後、一気に氷結する。それがシェフィの水流・氷結の砲撃だ。

「往けッ、グングニルッ!!」

間髪いれずに“グングニル”を投擲。放った以上は必中。氷結されようとも回避に動くアエテルニタスだが、私の“グングニル”からはもう逃れられない。遠目で見ても判る。“グングニル”はアエテルニタスの尾を貫き、粉砕した。

「やったねルシル♪」

「頭をカチ割るつもりで放ったんだがな」

シェフィが掲げてみせたハイタッチに応え、二人して頷く。そして共にフェイトへと手を差し出す。「え?」と漏らすフェイトだったが、手を引っ込めない私とシェフィを交互に見、パシンとハイタッチに応えた。

『さっすが私の弟だよ。アエテルニタスが驚いたり怒ったりと面白いよっ♪』

ゼフィ姉様からの喜色いっぱいの念話。期待に添えることが出来たようでなによりだ。それから間もなくゼフィ姉様と合流することが出来た。フェイトも「それじゃあ頑張ってね。ルシル、シェフィリスさん」となのは達の元へ向かう。
そのなのは達は、干渉防御結界の中だ。外界に居る私かグロリアのどちらかが展開しているんだろう。あれなら戦闘に巻き込まれることはまずないだろう。そして私は“アンスール”のみんなと会話をすることなく、頷き合うことで意思疎通。それで十分だ。

「オリジナルでない故に久しぶりと言っておこうか、アエテルニタス」

『下らぬ。オリジナルであろうが何だろうが貴様が4thである事に変わりない』

――Potentia sanat/力は療す――

“グングニル”に貫かれた尾が再生していく。やはり一撃で核を潰さないといけないか。にしてもいつ見ても永遠の姿は変わらないな。人の成れの果てである頭蓋骨で体を構成するその悪趣味さ。いい加減にしてもらいたいものだ。

「ほら、ルシル、シェフィ。アンスールのみんなは名乗りを上げたから、二人も名乗って」

ゼフィ姉様に背をポンと叩かれ、シェフィと二人して微苦笑。

「アンスールが神器王ルシリオン・セインテスト・・・・アースガルド」

「・・・アンスールが氷雪姫シェフィリス・クレスケンス・ニヴルヘイム」

フォン・シュゼルヴァロードかアースガルドかで迷ってしまった。しかしこの場ではアースガルドを名乗ろう。アエテルニタスは『名乗る必要など無い。早々に消えるのだからなッ!』と吼える。

――Omnia vanitas/すべては空虚である――

空洞の目から滴り落ちる赤黒い液体。それはまるで血液。というか血液だ。食らった人間から搾取した血液。奴のどこに溜まっているのかは判らないがな。血液はバシャバシャと地面に落ち、大きな血溜まりを形成していく。そして血溜まりから生まれ出る頭部の無い骸骨兵の群れ。

『さぁ往け、愚者どもよ』

アエテルニタスの号令が掛かると同時に襲いかかってきた。馬鹿なことを。“界律の守護神テスタメント”の加護を受けている以上、どれだけ戦力を出そうがアンスールに意味はない。アンスールの先槍たるシエルとイヴ義姉様、それにセシリスとジークが突撃していく。私たちは待機。様子見と言ったところだ。アエテルニタス本体が動けば迎撃すればいい。

「蹴散らしてやるっ!!」

――圧壊拳(フェアリー・バイト)――

シエルは四肢に重力を纏って、迫りくる骸骨兵に拳打と蹴打を打ち込んで粉砕していく。シエルに続いて走っていったジークが立ち止まり、シエルの通った道の左右に分かれた骸骨兵へ、

「突っ込み過ぎないようにしてくださいねシエル・・・!」

――アッサルト・ステッラ・コルポ・ダルマータ――

創りだした雷塊を“ミョルニル”で打ち、無数の雷弾として放つ。次々と掃除されていく骸骨兵。私とシェフィが来なくても十分だよな、間違いなく。

「セシリス、一気に行くわよっ!」

「了解っ!」

ジークの後方で骸骨兵を掃除していたイヴ義姉様とセシリスが動く。イヴ義姉様が顔の前で掲げている“神剣ホヴズ”に風を集束させていく。その間、セシリスがイヴ義姉様に襲いかかってくいく骸骨兵を蹴散らしていく。いつ見ても良いコンビだな。

「セシリス!」

「いつでも!」

イヴ義姉様は一度“ホヴズ”の剣先を降ろし、すぐさま一気に振り上げる。“ホヴズ”の刀身に纏わりついていた風が蜘蛛の巣のように周囲へ伸びていき、アエテルニタスを囲う風の檻と化す。
イヴ義姉様の真技、天地刃巻・天壌裂破だ。本来、天壌に張り巡らせた風の檻を炸裂させ、無数の風の刃として檻の内外に居る対象を切り刻む、というものだ。が、今回はセシリスが居る。風嵐系と炎熱系による合成真技の発動の準備が整う。

――空間干渉転移――

シエルとジークとセシリスが消える。フノスの固有能力・空間干渉による転移だ。私の側に転移されたシエルが「ただいまっ」と抱きついて来て、ジークは「ただいま戻りました」と会釈。私はシエルの頭を撫で「お疲れ」と労う。三人の転移を確認したイヴ義姉様とセシリスが頷き合う。

「「真技!」」

「天地刃巻!」

「天壌焔破ッ!」

風の檻が一気に燃え、大爆発を起こし、目の前が真っ白に染まった。ここで、様子を窺っていたアエテルニタスがようやく動きを見せた。

――Nemo fortunam jure accusat/誰も運命を正当に非難できない――

アエテルニタスの頭部やら胴体を構成するドクロの穴という穴から、砲撃が放たれる。一斉に散開する。私はシエルとカノンを両脇に抱え、空へと上がる。同様に空へ上がったステアが「もうサクッと終わらせちゃおうよ」と“劫火顕槍シンマラ”を頭上で振り回し、

「劫火よ、我が槍に顕現せよ・・・!」

――劫火を顕す焔王の魔槍(ノーブリ・コンブスタオン)――

純白の炎そのものと化した“シンマラ”を投擲。“シンマラ”は一直線に進み、アエテルニタスの砲撃を蹴散らしながら胴体に着弾。純白の爆炎がアエテルニタスを覆う。ステアが痺れを切らして馬鹿なことをする前に、

「仕方ない。アエテルニタス! これから一気に決めに掛かる! 覚悟しろっ!」

『おのれぇぇぇーーーーーーーッッ!』

爆炎の中から飛び出してきて激昂するアエテルニタス。テルミナスやアンジェラスに比べれば、お前など敵じゃないんだよアエテルニタス。そう、“テスタメント”でなくても守護神の干渉能力の加護があれば、私たち人間でも斃せるって事なんだよッ!!
左脇に抱えるカノンに「アレ、やってみせてくれないか?」とお願いしてみる。カノンの返答は、「よろこんで♪」だった。シエルが「おおっ、アレやるんだ♪」とテンションを上げる。

――Linguisque animisque favete/汝らは言葉と心において沈黙せよ――

三本の角より砲撃を放ってくるが、どれも私たちには当たらない。

「サクッと、撃退。闇の中で、踊り狂え」

――復讐者の呪殺杭(モーヴェ・ミゼリコルド)――

「お? 俺も手伝うぜフォルテ!」

――東方の蒼燿穿(エスト・ザッフィロ)――

上空からベルフラウ色の影の巨大杭が落ち、アエテルニタスを標本にするかのように地面に縫い留めた。さらに地面よりサファイアの尖塔が突き出し、アエテルニタスを貫く。だが、アエテルニタスを斃すには足りない。核を壊さない限り、延々再生を繰り返す。

「行きます。すぅ・・はぁ・・。開け開け、わたしの心。開け開け、わたしの世界。其は地を穿ち、天を穿つ星。来たれ来たれ、わたしの星。奔れ奔れ、わたしの星」

カノンの詠唱が始まる。と、アエテルニタスが顔をこちらへ向けてきた。カノンの魔力変動に気付いたようだ。

――Sibi imperare est imperiorum maximum/自分を支配することは、支配のうちで最大のものである――

アエテルニタスは口を開き、レンの魔術のように無数の亡霊を飛ばしてきた。しかし残念。こちらには霊媒のプロが居る。冥府の祭司たるレンだ。レンは両腕を大きく広げ、「来いッ! お前らの無念はオレが引き受けてやるッ!」と亡霊の群れの受け入れ体勢に入った。亡霊の群れは誘われるがままにレンへ突撃。すべてが体内に入った。

「ああ、辛かっただろうな。だけどな、オレが救ってやる」

レンは左手を胸に添え、自分の中に入りこんだ亡霊と会話するかのように沈黙。

『馬鹿なっ! 幻如きが怨恨の渦を受け、正常で居るだと!?』

アエテルニタスが心底驚愕している。正直、私も驚いている。本物のレンならば出来るだろうが、まさか今のレンに出来るとは。予想としては、ただ霊媒能力で亡霊たちを単純に従わせるのかと。

「――いざ目覚めん。いざ開かん。そして、いざ行かん。知れ、これぞわたしの心。見よ、これぞわたしの心。聞け、わたしの心、その名は・・・・」

カノンはそこで一度区切り、

「・・・殲滅領域(フェアティルゲン・ヴェルトール)・・・!」

創世結界の銘を告げた。世界が変わる。大魔術師カノンの世界へ。

†††Sideルシル⇒なのは†††

空に避難させられている私たちは、世界が変わる様を目の当たりにした。水晶のような大地に蒼い満月が光り輝く夜天。カノンさんの創世結界だ。
記憶の中に僅かだけど出てきた光景。アムティスって言う巨人との決戦で使われた時だ。この変化した世界に、「これも、魔術・・・!?」ってコロナちゃんが驚きを見せた。それに答えたのはリエイス。このメンバーの中で一番魔術に詳しい。

「そうだ。創世結界と呼ばれる結界魔術で、術者がイメージした世界を創りだす、というものだ。複雑過ぎる術式ゆえに、発動まで漕ぎつけられた魔術師は少なく、発動出来た魔術師は例外なく大魔術師の称号を与えられる」

「イメージした世界を創りだす結界、ですか・・・」

「確かルシルパパも持ってるよね」

「アンスール内では、ルシリオン。カノン。ステア。アリスの四人だな」

それってすごい事なんだよね。世界を創る魔術を扱える魔術師が四人も居る“アンスール”。という話をしているところに、カノンさんの創世結界が真価を発揮する。アエテルニタスの周囲に、黄金に輝くアールヴヘイム魔法陣が無数に展開された。

――殲滅砲火(カタストローフェ)――

放たれる黄金の砲撃。連続、または同時にと放たれ続ける。アエテルニタスは闇の杭やサファイアの尖塔に貫かれて動けないから、面白いほどに直撃していく。これは・・・ちょっと酷い。たとえ動けないにしても逃げ場がない。何せ世界全体が砲門なんだから。だけど、相手が相手だった。

『煩わしいわッッ!!』

――Fata viam invenient/運命は道を見出すだろう――

アエテルニタス全体から波のように放たれる深紫色の衝撃波。カノンさんの創世結界が崩れていって、またさっきまで居た場所に戻ってきた。

†††Sideなのは⇒ルシル†††

カノンの創世結界の術式は弱かったか。地面に降り立っている私たちはアエテルニタスを見上げる。するとステアが「やってくれるじゃない。だったら、わたしの創世結界を見せてあげる」と言い、ニカッと歯を見せる。あ、ダメだ。ステアが本気の全力モードに入ってしまった。

「我が内に在るは原初より途絶えぬ紅蓮の劫火、天地焼き払いし神性の浄火。現世を侵すは、燃え盛りし炎神の息吹、響き渡るは炎魔の咆哮。其の心に刻み込め、我が心は、全てを焼き尽くし燃え滾らせる火炎の楽園・・・・・・」

ステアは“シンマラ”を地面に突き立て、「劫火が支配せし煉界(ムスペルヘイム)!!」と創世結界の銘を告げた。もう一度世界が一変する。全てが紅蓮の炎。足場は少なく、立っていられる足場以外は全てが溶岩。その溶岩の到る所から火柱が噴き上がり、大気を焼いている。空は見えない。空にも炎が流れているからだ。

『またこの類いの結界か。先程と同じように消し飛ばしてくれるわッ!』

――Fata viam invenient/運命は道を見出すだろう――

カノンの創世結界を消し飛ばした衝撃波をもう一度放つ。だが無駄だ。ステアの創世結界の術式は、カノン以上に強固。故にアエテルニタスは『崩せないだと!?』と驚愕するしかない。ステアが溶岩の上を走り、「当然。目醒めよ、劫火顕槍シンマラ!」と笑い、白焔のウェディングドレスを翻しつつ“シンマラ”を解放する。純白の炎と化した“シンマラ”を手にアエテルニタスへ最接近し、大きく跳躍。

「真技!!」

アエテルニタスの角目掛けて超高速で振るわれる“シンマラ”。白焔の斬撃が連続で、しかも着弾点を数ミリもズレずにヒットさせる。アエテルニタスがステアを振り払おうとするが、残念ながらここはステアの世界。溶岩から噴き上がる火柱がバインドとなって、アエテルニタスを拘束。

咬み殺す神焔(ドラガオン・プルガトーリオ)!!」

最後に刺突。着弾と同時にゼロ距離炎熱砲撃。ガシャァン!と角が根元から吹き飛んだ。と同時にステアの創世結界が消える。そこにシエルが「真技」と呟き、立てた親指を下に向ける。はしたないぞ、シエル。それはともかくとして発動するのは、

圧戒(ルイン・トリガー)歪曲空間(マーシレス・ドライヴ)ッ♪」

ルイン・トリガーの強化版マーシレス・ドライヴ。超重力を掛けられたアエテルニタスが為す術なく地面に落下。フォルテが動く。前面で“レギンレイヴ”をバトンのように高速回転させ、「真技」と放る。“レギンレイヴ”は重力を掛けられ動けないアエテルニタスの周囲を一周。“レギンレイヴ”が通過したところには、影で構成された“レギンレイヴ”がいくつも出現する。

復讐神が希うは(エグゼキュシオン)・・・」

手元に戻ってきた“レギンレイヴ”をパシッと取り、もう一度放る。今度はアエテルニタスへ向かって一直線に突き進み、

絶対なる終焉(コシュマール)

着弾。と同時に周囲に待機していた40近い影の“レギンレイヴ”も一斉にアエテルニタスへ。着弾。着弾点から巨大な影の刃が天を衝くように伸び、アエテルニタスが切り刻まれる。このまま一気に撃滅する。ジークが“ミョルニル”を解放し、「真技」と告げる。雷そのものと化した“ミョルニル”を振りかぶり、

雷神放つ破滅の雷(ミョルニル)!!」

投擲。“ミョルニル”も、私の“グングニル”のように一度投擲すれば必ず直撃する。それゆえに、このジークの真技は絶対に回避できない。防御に回っても、威力や神秘が強すぎて防ぎきれない。それはアエテルニタスも同様。砲撃とも見れる“ミョルニル”は、アエテルニタスの右の角を粉砕した。

『馬鹿な・・・このような・・・ことが・・・・』

もう見るも無残な姿。元より無残な頭蓋骨姿だが。アエテルニタスの胴体を構成する頭蓋骨に無傷なモノはない。先端の頭部ももうボロボロだ。が、

――Potentia sanat/力は療す――

再生されていく。私はカノンの肩に手をポンと置く。カノンは「お任せを」と頷き、“星填砲シュヴェルトラウテ”を具現させ脇に構える。シエルが具現された砲弾を“シュヴェルトラウテ”の薬室の後部がスライドして出た部位にセット、薬室に装填する。
“シュヴェルトラウテ”の銃床の末端にある排出口から蒸気が噴出する。

「真技。時空穿つ(ヘルヴォルズ)・・・断罪の煌き(カノン)!!」

カノンはトリガーを引き、超特大砲撃を撃ち放った。アエテルニタスの残りの左角――どころか額部分まで吹っ飛ばした。

『有り得ぬ有り得ぬ有り得ぬ有り得ぬぅぅーーーーーーーーッッ!!!』

ここでアエテルニタスが逃亡を計った。哀れだな。散々人間(みんな)を侮辱しておきながら、その人間(みんな)に背を向けるか。先代も先々代もその前も、アエテルニタスは逃げるという選択だけはしなかった。

「結界王の名において、絶対に逃がしませんっ!」

アリスが両手の平をアエテルニタスへ翳す。そして「真技」と告げる。アエテルニタスを閉じ込める三角形の桃色の結界。結界をさらに結界で閉じ込め、さらに結界が結界を閉じ込める。最終的にアエテルニタスを封じ込めた結界を含め、計三十の結界が展開。空に浮かぶ結界牢。アリスは満足げに頷き、

無限結界牢(イセリアル・ケイジ)!」

指を鳴らしつつ告げた。アエテルニタスを閉じ込めていた第一層の結界牢が爆発。だが衝撃は逃げれない。結界を結界が閉じ込めているからだ。一層目が爆発、二層目が爆発、三層目が爆発と、連鎖的に結界牢が爆発していく。爆発しても衝撃が外へ逃げないため、一層目に閉じ込められた対象は全ての爆発を受けることになる。だからこそ・・・・全三十の爆発を受けたアエテルニタスはボロボロだ。

「シェフィ」

「ん。真技のスタンバイだね。起きて、ガンバンテイン」

シェフィが“ガンバンテイン”を解放し、真技のスタンバイを始める。グッと膝を折った後、一気に伸ばして跳躍。その直後にアエテルニタスが墜落。胴体を構成するドクロが周囲に散らばる。そしてシェフィはアエテルニタスの上空で停止。

――真技――

真下に居るアエテルニタスへ“ガンバンテイン”の先端を向け、八方に氷雪砲撃を放つ。着弾したところに巨大な氷塔が生み出され、周囲を一気に氷結。八塔から中心に居るアエテルニタスへと氷結の魔力流が周囲を氷結させながら突き進む。そして着弾。アエテルニタスが完全氷結され、墓標のように氷の尖塔が突き立った。

――氷葬大結界(プスィフロス・エヴィエニス)真百花繚乱(ヒョノスィエラ・カタストロフィ)――

一瞬で完成された氷雪の要塞。私たち“アンスール”は干渉防御の加護があるため効果を受けずに居られるが、何も無ければアエテルニタスと同じように氷漬けだ。

「いつ見ても綺麗ですよね・・・」

アリスがうっとりと頬に手を添える。見る分なら綺麗だな、この幻想的な氷雪要塞。敵からしてみれば綺麗なんて思うことなくあの世逝きだが。シェフィが「ふぅ」と息を吐きながら降り立った。みんなで「お疲れ」と労い、

「それじゃ最後はルシルとフノスに決めてもらおっか」

ゼフィ姉様が背中を思いっきり叩いてきた。痛くはないが驚いた。ゼフィ姉様に入れ替わるように、カーネルが私の胸を裏拳で小突き、

「だな。行ってこいよ、ルシル。スカッとするぜ?」

「そうだな。スカッとするにはぶつけどころが必要だしな」

ジークがポンっと左肩に手を置いて、

「ええ。元よりアレはあなたの敵でしょう」

「今は関係ない、とは言えないからな」

フォルテが右袖をキュッと弱々しく引っ張り、

「ルシル。自分の不始末、しっかり後片づけ」

「了解だ。ミスしても呪うなよ?」

「・・・・・・ニヤ」

怖い。フォルテ、本音を言おう。本当はお前の呪いが一番怖いんだ。セシリスが“レーヴァテイン”の刀身を向けて来て、私が“グングニル”の穂をカツンと当てると、

「フォルテの言う通り、しっかりと役目を果たさないといけないからね」

「ああ、任せてくれ。自分のになった役目くらい果たしてみせるさ」

セシリスは「よしっ、行っておいで」と肩を叩いて去る。アリスはトテトテと歩み寄って来て、

「ルシル様。わたし、役に立てたでしょうか?」

なんて訊いてくるから「もちろん。さすがアリスだ」と頭を撫でてやると、ふにゃっと破顔。そこにステアが近寄って来て、腹に拳打一発打ってきやがった。「何をするんだ、おい」と睨みつけると、ステアは私の胸にもたれ掛かり、額をトンっと当て、

「私のすごいパワーをお裾分けしたんだって。どう?」

「・・・・ああ、効いた、色々な意味で。ありがとな」

「どういたしまして♪」

ステアと入れ替わるようにイヴ義姉様が来て、

「アースガルド・セインテスト王として、恥ずかしくない一撃を。ね♪」

「もちろん了解です、イヴ義姉様。見ていてください」

「ええ、見ておきますね♪」

イヴ義姉が離れたところに、レンが「よう」と片手を上げて挨拶。私も「おう」と返し、ほぼ同時に右前腕を☓字になるように当て合う

「おら、カッコ悪い姿見せたら承知しないぞ、ルシル」

「馬鹿を言うなよ、レン。サクッと決めてくれる」

最後に右拳を突き出し合わせ、頷き合う。レンが離れると、カノンが私の前に立ち「あの」と言い淀む。

「カノン。カノンもありがとう。すごい活躍だった。さすが私の弟子だ」

「あっ、はいっ。ありがとうございますっ、ルシル様っ」

カノンも頭を撫でてやる。気持ちが良いのか安心しきった表情を見せる。そこに「兄様ぁ~~~❤」と腰に抱きついて来るシエル。カノンと一緒に頭を撫でる。ニコニコと笑みを崩さないが、閉じられたまぶたの端に涙が浮かんだのが見えた。

「シエル・・・・?」

「ううん、何でもないよ。兄様、頑張ってね」

「・・・・ああ、頑張るよ。お前たちを解放して見せるから」

私は知っている。シエルとカノンとシェフィの魂が“英雄の居館ヴァルハラ”に捕らわれている事くらい。護るためだった。なのに、実際は捕らえてしまっていて、輪廻転生させずにいる。自分を呪った。殺したくなった。だが出来ない。ガーデンベルグたち“堕天使エグリゴリ”を解放するという約束だ。

「っ!・・・・うん。待ってる」

シエルが離れて、最後にシェフィが私の前に立つ。俯いているシェフィの前髪をそっと分けて、額に軽いキスをする。あとでフェイトにボコボコにされるかもしれないが、どうか許してほしい。

「馬鹿。フェイトさんが見てるのに・・・・」

「解ってる。私が馬鹿だというくらい。それに、フェイトなら解ってくれるさ」

シェフィがもたれ掛かって来て、「ホントに馬鹿。・・・ありがと」と呟いた。そう呟いてすぐに離れ、「いってらっしゃい」と私をフノスの前に送り出す。

「ルシル。一緒に行こう」

「そうだな。行こう、フノス。これで終わりだ」

フノスと二人で氷結されたまま動かないアエテルニタスを見上げる。ピシピシとヒビが入っていく様を見ると、さすがにまだ生きているようだ。

「起きて、神剣グラム」

「目醒めよ、神槍グングニル」

共に神造兵装の一位と二位を解放。フノスは“グラム”を頭上に掲げ、刀身に虹色の魔力を纏わせる。私は空へ上がり、右手をアエテルニタスを翳し、前方に七つの魔法陣を顕現させる。
無と風嵐のアースガルド、氷雪のニブルヘイム、炎熱のムスペルヘイム、閃光のアールヴヘイム、闇黒のスヴァルトアールヴヘイム、雷撃のニダヴェリールの魔法陣だ。それらを立てて並べて展開しているため、それは連なる魔法陣による一種の砲塔だ。

「「真技!!」」

先手はフノス。“グラム”の刀身を包む虹色の輝きが伸び、巨大な光剣となる。

神徒の(アポストリック)・・・・剣閃(セイバ)ァァーーーーーーッッ!!」

“グラム”を振り下ろし、虹色の巨剣はアエテルニタスを切断、そのまま前方に放出されて剣状砲撃と化す。

神断(グロリアス)――」

その場で反時計回り。遠心力でさらに勢いをつけるために。そして“グングニル”を魔法陣の砲塔へと投げ放つ。まずは手前のニダヴェリールの陣に穂先が当たり、陣が収縮、“グングニル”へと吸収される。続いてスヴァルトアールヴヘイムの魔法陣に当たり、“グングニル”に吸収される。という現象が続き、そして最後にアースガルドの陣を吸収し、

福音(エヴァンジェル)ッ!!」

“グングニル”は銀の閃光となって一気に加速、射出される。目指すは胴体が真っ二つになっているアエテルニタス。着弾。視界いっぱいが閃光によって真っ白に染まる。閃光が治まった時、そこにはもうアエテルニタスの姿はどこにも無かった。

†††Sideルシル⇒テスタメント・ルシリオン†††

『ルシリオン。アンスールってすごいんだね。ちょっと干渉能力で加勢するだけで、アエテルニタスを撃破しちゃったよ』

始原プリンピキウムとの戦闘中、先にスンベルへと向かっていたグロリアからリンクが来た。私の計画通りだ。フノス達なら、干渉能力の加護を付加させるだけで十分すぎるほどの戦力となる。ゆえに『当たり前だ』とだけ返す。そして私の前でイライラとしているプリンキピウムが、

「あんのアホ骨っ。結局負けちゃったのかよっ!」

地団太を踏む。本当にガキだな。「あたしが行っていれば」とか言っているが、貴様が行ったところで結果は変わらない。どちらにしても“アンスール”を相手にすれば待っているのは敗北のみだ。

「残念だったな。お前たちの敗北だ、プリンキピウム」

「くぅぅ~~~~、天秤めぇ・・・! 憶えてろよっ、次会ったら絶対の絶対に消滅させてやるんだからっ!」

そう捨て台詞だけを残し、プリンキピウムは逃げた。はぁ、助かった。あと少し遅れていれば、負けていたのは私だった。この身はもう限界に近い。いつシャルのように壊れてしまうか・・・。

「早く、早くエグリゴリを救わなければ・・・!」

このまま“エグリゴリ”を発見できずに消滅、という結末だけは免れなければ。でないと・・・

「シェフィ、シエル、カノン。お前たちの魂を救えない・・・!」

私が人間に戻るため、シェフィ達の魂を解放するため、私はまだ消えるわけにはいかない。

†††Sideテスタメント・ルシリオン⇒なのは†††


終わった。ルシル君とフノスさんの真技によって、アエテルニタスは完全に消滅。空へ避難させられていた私たちは、私たちを避難させていたゼフィランサスさんの意思の下にゆっくりと地上へ降ろされていく。少し離れたところで、ルシル君は“アンスール”のみんなと最後の挨拶をしていた。私も挨拶をしたいんだけど、邪魔する事だけはしたくない。

「おーいっ!」

そんなことを思っていたら、ゼフィランサスさんが手招きしてくれた。私たちは顔を見合わせ、ルシル君たちのところへ歩を進める。ゼフィランサスさんが一歩前に出て、私たちを順繰りに見た。

「アエテルニタスが妨害してきた所為でメチャクチャになったけど。でももうスンベルでのゲームも終わり。問題だった敵アエテルニタスも消えた。外界に居たもう一体も去ったって、今連絡が来たの。だからね・・・・」

そう告げられた後、私たちの背後に大きな両開き扉が突然現れた。ギギギ、と扉が音を立てて前に開いた。扉の先は白い光でいっぱい。ゼフィランサスさんが扉を指差して「その扉を潜れば、現実に戻れるから」と微笑んだ。待ち焦がれた現実へ戻る方法が目の前に。でも、こんなあっさりと終わっていいのかな・・・?

「アンスールを代表して、お別れのご挨拶をさせていただきますね」

フノスさんが両手を胸の上で重ねて、一歩踏み出した。他の“アンスール”のみんなは微笑みを浮かべる。というかルシル君はこっち側だよね?
まぁシエルさんやカノンさん、アリスさんに腕に抱きつかれたり、袖を掴まれたりしているから仕方ない事かもだけど。

「まず理由がどうであれ多大な迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。その中でも皆さんに少しでもお楽しみいただけていればと願うばかりです。それでは最後に。皆さん、ありがとうございましたっ!」

フノスさんのお辞儀に続いて“アンスール”のみんなも「ありがとうございましたっ!」と続いた。そして最後に「フェイトさん。ルシルのこと、よろしくね」とシェフィリスさんがフェイトちゃんに握手を求めた。
フェイトちゃんも「はいっ」と握手に応えて、ルシル君を見る。ルシル君は照れ臭そうに「まぁ上手くやっていくさ」って微苦笑を浮かべた。私たちも「楽しかったです。ありがとうございましたっ!」とお辞儀をした。次に頭を上げた時、“アンスール”の姿はもうどこにも無かった。

「みんな、行ってしまったよ。まったく。最後まで見送ってくれてもいいだろうに」

ルシル君は明後日の方を向いて空を見上げていた。ヴィヴィオが「ルシルパパ、泣いてるの?」って尋ねる。私はヴィヴィオの肩に両手を置いて、首を横に振った。今は、そっとしておきたい。フェイトちゃんがルシル君の側へ行って、「ルシル」と名前を呼んで寄り添った。

「はやてちゃん。先に行こうか・・・」

「そうやな。みんな、今はルシル君をそっとしとこな」

はやてちゃんは賛成してくれて、みんなを扉へと導く。踵を返して出口である扉へ歩き始めた直後、『今こそ好機!!』って頭の中に響く声。

「まだ生きていたのかアエテルニタス!」

出口の向こう側、アエテルニタスの頭部が地面から飛び出してきた。アエテルニタスは大きく口を開けて扉を噛み砕く。うそ、出口が無くなった!?

『奴らが居なくなるのを待っていて正解だった。当初の目的である貴様らの精神をいただこう』

「くっ、グングニルが使えない・・・! みんな逃げろ!」

ルシル君が私たちを庇うように戦闘に躍り出て、双銃剣“ラインゴルト・フロースヒルデ”を起動させた。逃げろ、だなんて。そんなことが出来るわけないよっ。私は“レイジングハート”をエクセリオンモードで起動させ、みんなもそれぞれデバイスを起動させていく。

「逃げろと言って――」

「ルシルを一人置いて逃げられるわけない!」

「そういうことや! みんなで戦えばなんとか――」

『なるわけが無かろうが、たわけめっ!』

――Quid enim stultius quam incerta pro certis habere, falsa pro veris?/不確実なことを確実と見なし、誤りを真理と見なすこと以上に愚かな事があるだろうか――

空洞の目に深紫色の閃光が灯る。一際強き輝き、たぶん砲撃だろう攻撃が来る、と覚悟した時、

「クフフ。たわけはお前だ、アエテルニタス」

どこからともなく女性の声。特徴的な笑い声。声のした方、空を見上げてみる。と、何かが勢いよく落ちてきている・・・? その何かが私たちとアエテルニタスとの間に着弾。アエテルニタスの方にのみ向けられた衝撃波が放たれて、アエテルニタスを後方に吹っ飛ばした。

「白い十字架・・・! あれ? でも・・・あれ?」

レヴィが、その落下してきた十字架を見て驚愕。気持ちは判る。だって私の知っている白い十字架は、横棒が垂れている葡萄十字だ。それなのに、今目の前にある十字架は違う。四方に伸びる棒の先端が三つに分かれた十字架だ。私たちを救ってくれた十字架に遅れて落ちてきた人を見て、混乱は極みに達した。

(うそ・・・なんで・・・?)

その純白の外套も、純白の神父服も、全部シャルちゃんが着ていたはずなのに。なんで? なんで別の人――グロリアが着ているの?

「クフフ。言ったよね? ヴィヴィオ達に指一本でも触れたらぶっ飛ばす、って。まったく。おお、ヴィヴィオちゃん達、大丈夫だった? ケガとかしてないよね?」

グロリアは心配そうにヴィヴィオやアインハルトちゃん達の元へ行く。その途中でルシル君とすれ違って「あなたとは、久しぶり、で良いんだっけ?」って訊いて、でも返しを聞かずにそのままヴィヴィオたち子供の前へ。

「グ、グロリアさん・・・!」

「クフフ。そうだよ。黙っててごめんね。改めて自己紹介。星狩りの覇道を歩む者3rd・テスタメント・グロリアですっ♪」

確かに言った。3rd・テスタメント、って・・・。じゃあシャルちゃんは? 3rdってシャルちゃんの座していた玉座のはず。私はルシル君へ視線を向ける。フェイトちゃん達も、混乱によって弱々しくなってる視線をルシル君へ。

『おのれ・・・、また我の邪魔をするか、3rd!!』

アエテルニタスが怒鳴る。グロリアが「クフフ。お前たちを狩るのがアタシの仕事だってこと忘れてるわけ?」って笑う。そして白の十字架に右手を翳すと、十字架はグロリアの手元へ戻ってきた。キャッチした十字架をクルクル回した後、

「クフフ。プリンキピウムはすでに撤退済み。お前は見捨てられたって事。あとは、あたしに狩られるのを待つだけ。理解してもらえた?」

――祈れ祈れ、逝き先が楽園であれと。願え願え、苦無く逝けるようにと――

投擲された十字架は、白い閃光の尾を引いて一直線にアエテルニタスへ。

――Linguisque animisque favete/汝らは言葉と心において沈黙せよ――

三本の角から放たれた砲撃が途中で一つとなって、十字架に向かっていく。グロリアが「クフフ。無駄だってば」って鼻で笑う。言う通り無駄だった。十字架は砲撃を拡散させながら突き進んで・・・・・・アエテルニタスを根こそぎ吹っ飛ばした。

「はい、後片づけ完了っと。あ~あ、これでヴィヴィオちゃん達ともお別れかぁ、残念」

グロリアが項垂れながらも指を鳴らすと、アエテルニタスに破壊された扉が再生される。これで現実に戻れない、なんて心配は解決したんだけど。でも・・・

「グロリア。どうしてグロリアが白なの? シャルロッテはどうしたの?」

「え? シャルロッテって、先代3rd・テスタメントだよね? あれ? そこのルシリオンに聞いてないの? 先代は、新たな人生を始めるために解放されたんだよ、神意の玉座から」

レヴィが真っ先に疑問をぶつけて、グロリアはその疑問に答えた。私はルシル君の前まで歩いて「ルシル君。どういうこと? シャルちゃん・・・え? 新たな人生って何?」ってルシル君の両肩を掴む。

「セインテスト。お前は知っていたのか? 嘘を吐いていたのか? グロリアがシャルロッテの後継だと。そしてテスタメントであった事を」

シグナムさんが後ろからそう問い質した。ルシル君が返答する前に、グロリアが「そこのルシリオンは知らないよ。だってアタシが守護神になったのって最近だし」と答えた。視線はまたルシル君へ。ルシル君は「黙っていようと思っていたんだがな」と前置きしてから説明してくれた。

「シャルは、テスタメント事件の終わりと共に神意の玉座を離れたんだ。理由としては魂の劣化。人間の魂は脆い。だから数千年以上と守護神をしてきたシャルも限界が近かった。守護神をもし続ければ魂が破損し、生まれ変わること――輪廻転生が出来なくなってしまう。そうなれば永遠に無の中を彷徨わなければならなくなる。そうなる前に、解放されたんだ。だから、今頃はどこかの世界で、普通の人間として過ごしているはずだ」

それが真実だった。シャルちゃんは人として新しい人生を過ごすために、“テスタメント”から解放された。
これって喜ぶべきなんだよね・・・?

「ルシル君。じゃあどうして教えてくれへんかったん? 隠す必要ない話やろ?」

「・・・・君たちに忘れないでと言っておきながら自分が君たちを忘れる事になる。シャルはおそらくそれが辛かったんだろう。だから言わなかった、言えなかった。それを察してやってほしい。私は、シャルのそんな葛藤を知っていたから黙っていた」

悲しそうに顔を歪めたルシル君が答えた。優しいシャルちゃんならあり得る話だった。私たちが傷つくと思ったんだ。約束しておいて、今度こそ本当に忘れてしまうことで。そんなわけないのに。私たちの事を忘れるのは、生まれ変わるための通過点。必要な事なんだ。忘れられるのは悲しいけど、それがシャルちゃんのためなんだったら、私は辛くない。

「シャルロッテの奴、馬鹿だな。そんくらいで嫌いになんかなるかよ・・・」

「そうですよ。たとえシャルさんがあたし達を忘れたとしても、あたし達は絶対に忘れません」

「うんっ、ティアの言う通りだよ。シャルさんを忘れるなんて出来ないよ」

「はいっ。僕も忘れません。というか生まれ変わったって言うのは祝福するべき話ですよ」

「うん。どこかの世界で人として生きて幸せになっているんだったら、喜ぶべきだよね」

ヴィータちゃんとティアナとスバル、それにエリオとキャロの言う通りだ。

「人としてどこかで・・・。もしかしたらどこかで逢えるかもしれませんね。そうしたら、わたしの成長した姿を見てもらえるかもしれません」

「イクスがお医者さんを目指すのってシャルさんの影響だもんね」

「そうなると嬉しいですね。出来れば剣士としての能力を引き継いでもらっていれば嬉しいのですが」

「あはは。アインハルトさん、シャルさんと試合するの諦めていなかったんですね」

「生まれ変わったシャルさん、きっと強いかもしれないよね」

イクスちゃんの医者になるっていう夢は、シャルちゃんが示したと言っても過言じゃない。ヴィヴィオやみんなも応援しているし。イクスちゃんなら夢を叶えて、きっと多くの命を救えるよ。

「もし生まれ変わったシャルロッテさんを見つけることが出来たら、絶対にホテル・アルピーノにご招待しないとね♪」

「うんっ。最高のお持て成しをご提供しないと。絶対に満足させてやるんだから」

ルーテシアとレヴィは、シャルちゃんの生まれ変わりを招待する計画を早速進めてる。この世界や時代に生まれ変わるわけじゃないのは解っているはずだけど・・・。でも、うん。解っていてもやりたいんだよね。シャルちゃんのために、何かを。

「水を差すようで本当にごめんなさいなんだけど、外のルシリオンから連絡。スンベルの起動時間がもう限界なんだって。だから・・・」

グロリアが心底申し訳なさそうに時間切れを告げた。そう言えば空がゆっくりと暗くなっていってる。世界が閉じようとしているんだ。

「そっか。じゃあみんな。帰ろう。みんなきっと心配してる」

このスンベルへ召喚される際、私たちは意識を失って倒れていた。外じゃ大きな問題になっているかもしれない。名残惜しいけど、すぐに現実へ帰った方が良いのは確か。踵を返して出口の扉へ向かう。その途中、ヴィヴィオ達はグロリアへ感謝を告げ、手を振ってお別れを惜しんだ。次々と扉を潜っていくみんなを見送り、最後に私とフェイトちゃんとはやてちゃん、そしてルシル君だけとなった時、後ろを振り返る。

「あっ、ルシル君!」

グロリアの隣、そこには守護神の格好をしたルシル君が佇んでいて、私たちに小さく手を振っていた。グロリアは涙をポロポロ流して、扉の向こうに消えていったヴィヴィオ達になおも手を大きく振り続けてる。守護神のルシル君とグロリアに手を振り、私たちも扉を潜った。さぁ帰ろう。私たちの生きるべき世界へ。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

早いものでスンベルでの一件から二ヵ月が経った。スンベルから戻って来た時、私とルシルはストレッチャーで医療局へ運ばれている最中だった。つまりスンベルで色々やっている間、現実世界じゃ数分と経っていなかったって事だ。
私たちが倒れた事の真相は、“テスタメント”の事を知る母さんやクロノ達にだけ話した。当然驚かれたけど、無事だったから良かった良かった、って結論に行きつくわけで。まぁ大きく騒がれるよりかは良いんだけど。

「ルシルパパ、遅いね。どこに行っちゃってるんだろ?」

ヴィヴィオがどこかへ行ったっきりのルシルの事を気に掛ける。いま私たちは、ミッドの首都クラナガンの次元港の待合ロビーに居る。昨日まではカルナージのホテル・アルピーノで合宿旅行を行っていて、今日ミッドに帰って来た。それで、待合ロビーに着いた途端、ルシルは「少し待っていてくれ」って言ってどこかへ走って行った。

「大にしては長ぇよな」

「ヴィータちゃん。もう少し女の子としての慎みを持ってください」

「姐御・・・。せめてトイレにしては、くらいにしておかないと」

そんな八神家の会話を聞きながら、私はある事を考える。スンベルから帰ってからずっと考えている事で、これで何度目か判らない。ルシルに直接聞いてもいいんだけど、今のルシルにそれの答えがあるのか判らないし、あったとしても答えてくれるか判らない。

(シャルは魂の劣化でテスタメントを続けられなくなった。じゃあルシルは? ルシルは魂じゃなくて精神だっていう話だ)

もしかしたら守護神のルシルにもそういう劣化が起きているかもしれない。魂より精神の方が脆い気がする。だからシャル以上にかなり危うい存在なのかも。でも神意の玉座から解放されない。解放されたら最後。ルシルは生きることの出来ない肉体に戻ることになる。
しかも精神は崩壊寸前で。もう“テスタメント”になる事も出来ないだろうし。そうなったら“エグリゴリ”を破壊することが出来ない。ルシルは永遠に時間凍結封印された結界の中。シェフィリスさんとシエルさんとカノンさんの魂も永遠に“ヴァルハラ”に捕らわれたまま。

(ルシル、・・・守護神のルシルは本当に大丈夫なのかな・・・?)

「どうかしたテスタロッサちゃん。さっきから思い詰めたような顔をしているけど。何か不安ごとがあるのなら相談に乗るわよ?」

答えの出ない、底の見えない不安。最悪の結末を想像してしまったことに後悔。そこにシャマル先生が顔を覗きこんで、気に掛けてくれた。なのはとはやても私の様子に気付いて、

「調子悪い? だったら帰りの運転、シグナムさんに代わってもらう?」

「それがええよ、フェイトちゃん。少し顔が青いし、無理したらアカン」

気遣いの言葉を掛けてくれた。私は・・・少し迷った後、さっきまで考えていた事を、ヴィヴィオ達に聞こえないようになのは達に話した。

「なるほど。確かに今の守護神のルシル君って、シャルちゃんがテスタメントだった時間より長く守護神をやってるはずだから、精神が劣化していてもおかしくないよね」

「精神なんて擦り切れやすいしなぁ。こうして生きとる私らでもストレスとかあるし。私らよりずっと重い問題を抱えとるルシル君がいつ・・・その、壊れてしまってもおかしくないなぁ」

「しかも契約内容がまた酷いのがセインテスト君ですし。もしかすると、スンベルではやてちゃん達が見たというセインテスト君は、すでに危うい状態だったのかも・・・」

どうだっただろう。あの時のルシルの様子を思い出してみる。おかしな様子はなかったはず。少し元気がないようには見えたけど。

「あ、ルシルパパが戻ってきたよ。なのはママ、フェイトママ」

ヴィヴィオの見ている先、ルシルが小走りで戻ってくる姿。ルシルは一直線に私たちのところへ来て、「すまない。随分と待たせてしまった」って謝る。

「遅いぞ、ルシリオン。子供たちが待ちくたびれているじゃないか」

「すまない、リエイス。ヴィヴィオ達もごめんな」

「いいえ。お気になさらないでください」

「ルシルパパ、どこに行ってたの?」

「ああ、少し買い物をしていたんだ。どうしても今日中に買っておきたくてね」

ルシルはそう言って私に振り向いて、ポケットから小さな箱を取り出した。蒼い小さな箱をルシルは私の前に差し出してきて、

「ここに居るみんなが証人になってくれる。フェイト。私と――」

箱をパカッと開けて、中身を私に見せてきた。私の両隣りに居るなのはとはやてが息を呑むのが判った。私は少し思考停止。だって箱の中身は・・・・銀の指輪だったから。

「結婚してほしい。君と一緒なら、きっと幸せになれると思うから。私は君を幸せにしたい」

少しの間の静寂。え? 今、私、ルシルに、プ、プププププ、プロポーズされた!!?
ヴィヴィオ達やリイン、アギトが黄色い「きゃぁぁぁあああああああっ!」って悲鳴を上げた。

「わ、ちょ、フェ、フェイトちゃん! プ、プロポーズだよ!」

「えええっ!? 何やこれっ! どんなサプライズやルシル君!」

頭の中に浸透するルシルからのプロポーズ。もう顔だけじゃなくて全身が熱くなった。いつか。いつかきっと。そのいつかが今来ちゃった! どうしよう! どうすればいいのぉぉーーーーっっ!!!???
ヴィヴィオ達からのキラキラした眼差し。シグナムとリエイス、ヴィータやシャマル先生からも興味気味な視線が。なのはとはやても私のように顔を真っ赤にして、私の返事が待ってる。涙が出る。嬉しいから。照れくさいから。でも恥ずかしくない。けど口が震えて返事が出ない。

「どうだろうか。後悔はさせない。フェイト。私と結婚してくれ」

ルシルの真剣な表情。答えないと。だって答えはもう決まっているんだから。差し出される指輪の収められた箱を、涙を拭った目で見詰める。結婚だなんて早いっていつも先送りしてきた。今の関係を崩す勇気が無かったから。でも今、目の前に居るルシルは勇気を出してくれた。私も、勇気を出さないと!





























「・・・・・・・・・・・・・・・はい。よろしく、お願い、します・・・ルシル」




















†◦―◦―◦↓レヴィルーのコーナー↓◦―◦―◦†



レヴィ
「終わっちゃった・・・・・」

ルーテシア
「終わっちゃったね~。ということで始まりました、レヴィルーのコーナー・ザ・最終回」

レヴィ
「終わっちゃったよ・・・・・」

ルーテシア
「終わっちゃったね~」

レヴィ
「終わっちゃ――」

ルーテシア
「ストップ。確かに出番がどうしようもなく少なかったけど。
見て。最後のシーン。ハッピーエンドだよ♪ 良いなぁ、プロポーズ。
わたしもいつかプロポーズされたいなぁ❤」

レヴィ
「は? ルーテシアを嫁にやる? ルーテシアはずっとわたしのお姉ちゃんだもん!」

ルーテシア
「おー、レヴィが今までに見せたことないほど燃えてる。嬉しいこと言ってくれるね」

レヴィ
「ルーテシアぁ~。わたしはここまでだけど、完結編でも頑張ってね」

ルーテシア
「レヴィ・・・。うん、完結編でも頑張る。でも、レヴィの居ない世界なんて嫌だ。
だから・・・だからレヴィがどんな形でもいいから出られるように直談判する!」

レヴィ
「ルーテシア・・・。う、うぅ、ひっく、っう、ありがとぉ」

ルーテシア
「当たり前だよ。わたしはレヴィのお姉ちゃんなんだから。大好きな妹のためだったら、わたしは並行世界すら支配して見せる!!」

レヴィ
「うわぁぁぁ~~~~~ん、お姉ちゃぁ~~~~~ん!!」

ルーテシア
「待っててね、レヴィ。絶対に説得して見せるから!」

ルシル
「感動的なところ悪いが、あと一話あるんだが・・・」

レヴィルー
「え?」


 
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