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とある仮想世界、少年と青年の物語

作者:如月 惣
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自分の為に生きる術を知らない少年の話


「…ねぇ神田」

任務が完了し、教団への帰り道の列車の中。今回はレベル1のアクマが大半を占めていたため、エクソシストである神田やアレンは勿論のこと、ファインダーたちも大した怪我は負わなかった。今回もまたハズレでイノセンスが回収できず、神田の機嫌がすこぶる悪く車内の空気が重いという点を除けば、何の異常もなく。
…そのはずなのだが、なにやらアレンの様子がおかしかった。ファインダーも、他人にあまり関心を寄せない神田でさえ気になるほどに。

何がおかしいって、普段どんなに辛いときも笑顔を絶やさぬ彼が、ほんの少し口角を上げることすらしないのだ。任務がおわってから、ずっと。心なしか顔色も悪いようだが、ただ具合が悪いにしてもこれは異状ではないかと思う程、今の彼はおかしかった。
そんな中発された言葉は存外はっきりとした口調だったため、神田の顔には僅かに安堵の色が浮かんだ。

「何だ」
「寄生型イノセンスの適合者は短命なんだって」
「…ああ」

以前コムイも言っていたな、と思い起こす。

「僕は、別に死は恐くありません。死にたくはないけれど、死ぬ覚悟はあります。それに戦場にいる限り、死と隣り合わせなのは皆同じですしね」

アレンが何を言おうとしているのか、わからなかった。しかし、依然として笑わない彼に、言い知れぬ不安が胸をよぎった。
黙ったままの神田に向けて、ここでようやく、アレンは笑みを『造った』。

「…モヤシ?」

不安が増長する。嫌な予感しかしない。何を言おうというんだ、この少年は。
そこから更に沈黙が続き、痺れを切らした神田が口を開こうとしたとき、見計らったかのようにアレンが言葉を紡いだ。

「僕は、もう長くない」

時が止まったようだった。笑顔を崩さないアレンの目から、目を逸らせない。

「結局、僕は最後まで、ネアの代わりにも、『アレン』の代わりにもなれなかった」

遠い誰かに懺悔するかのような、苦しい笑み、声。何の話をしているのか理解できなかったが、誰かの代わりになる必要がどこにあると、お前はアレン・ウォーカーだろうと叫びたくなる。しかし彼の目がそれを許さなかった。

「誰を癒すことも、救うこともできなかった。でも、安心して」

この戦争だけは、ちゃんと終わらせるから。
そう迷いなく言い切った彼の表情は、今まで見たどんな笑顔より綺麗で、揺るぎなくて、悲しかった。
 
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