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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第八話

 紅魔館を出て数分後、紫と連絡を取った二人はスキマで守矢神社周辺まで来ていた。妖怪の山は革命軍との戦闘が頻繁に起きていた場所だったが、ここ最近は革命軍の進攻が減ったため平穏な日々を遅れているらしい。文に聞いた情報によれば、数十名の天狗が天狗組織を作りなおして復興を始めているとのことだ。
 今向かっている守矢神社には捕虜として捕えられていた幻想郷の住人が多く滞在している。守矢神社の巫女である早苗が結界を張ってこの場所を守っており、革命軍が進攻してくると二人の神と天狗娘が撃退していた。おかげであまり力を持っていない人間や妖怪を守ることに成功している。紅魔館が奪還されてからはそちらにも数十人の捕虜を移したらしいが。
「守矢神社へ行くのも久しぶりだなぁ……皆さん元気にしてるかな……」
「大丈夫ですよ。ところで俊司さん、もうフードかぶって出て行くなんてことやめてくださいね? 説明するの疲れましたし……」
「わかった」
 と言いながら俊司はフードを掴もうとした手を静かに下ろした。
 とまあ道中いろいろ話をしていると、次第に神社の鳥居が姿を現し始めた。周囲には助け出した幻想郷の住人達が笑いながら話をしている。彼らの日々に今が戦争中だなんてことは関係ないみたいだった。
「見えてきた……」
 そう呟いた俊司は音をたてながら生唾を飲み込む。
「緊張してるんですか?」
「……まあな。紅魔館の時も緊張してたし、久々に会うとなるとどうもな……」
 俊司は震える手を抑えながら下を向けたくなる顔を前に向け続けた。
 鳥居まであと百メートルほどになると、話をしていた住人達がこっちを見始めた。どんな反応が返ってくるか俊司は複雑な心境にかられながらも歩き続ける。
 すると住人達は二人の予想斜め上の反応を返してきた。
「おーい来たぞー!」
「えっ……?」
 俊司と妖夢に気付いた男性は神社周辺にいた人達を全員呼び始める。その数秒後、あっと言う間に俊司の周りに人だかりが出来ていた。
「おかえり少年! 三途の川下りは楽しかったか?」
「えっ……まあ……」
「そりゃそうか! 普通ならそれでおさらばなのが、こうやって亡霊になって帰って来たんだもんな! ハハハッ!」
 どうやら住人達は俊司の状況をすべて把握していたようだった。もちろんこうなることを予測していなかった俊司と妖夢は、ただ相討ちを返しながら驚くしかできない。
「あんたもよかったわねぇ。お婿さん帰って来て」
「ふぇ!? なっ何言ってるんですか!」
 挙句の果てには恋人同士だったこともばれていた。からかわれているのかただ本当に彼女に同情しようとして言っているのかはわからないが、妖夢はもう頭から湯気がでそうなくらい顔を真っ赤にしている。それを見た俊司もそっぽをむいて顔を赤くしていた。
「皆、少しかまわないか?」
 不意に女性の声が聞こえたかと思うと、住人達は俊司達の前に道を作り上げる。その先には四人の人物が立っていた。
 中央にいた紫の髪をしたショートヘアーの女性は、静かに俊司に近寄ると何かを見定めるように彼を見つめる。しばらく無言のままで見ていたが、急に笑みをこぼして軽く笑った。
「久方ぶりだな俊司。亡霊になったと聞いていたが、生前とあまり変わりがなさそうで何よりだ」
「ご無沙汰しております神奈子様。いろいろとご迷惑をかけました」
 そう言った彼に女性は別にかまわないと返してくれた。
 彼女が守矢神社の神のひとりである『八坂 神奈子』だ。彼女の後ろにあるしめ縄が神らしい神々しさを醸し出している。
「いやー君も大概奇妙な人生をたどってるね。私も初めて聞いた時は驚いたよ」
 なぜか目玉が二つ付いた帽子をかぶった金髪の少女が笑いながらそう言った。彼女がもう一人の守矢神社の神『洩矢 諏訪子』だ。容姿はまるで小学生だが、実際は何百年も生きている神様である。
 二人も周囲の人達のように驚いた様子は見せない。別に隠すようなことではないが、少し腹をくくっていたこともあって複雑な心境になっていた。
「……どうして俺が亡霊になったことをしってるんですか?」
「それは私が説明するわね?」
 そう言って前に出てきたのは茶髪のツインテールの女の子だった。彼女は文と同じ烏天狗の妖怪『姫海棠 はたて』。文とはライバル関係にあたり、同じ新聞記者として天狗組織で仕事をしている。
 はたてはポケットから携帯のような物を取り出すと、ある画像を俊司に見せた。そこに写っていたのは、こっちをみてほほ笑む俊司自身の姿だった。
「これって……永遠亭?」
 背景に写っているのは迷いの竹林の風景だった。それに俊司の背後には妖夢の姿も写っており、見切れていたものの鈴仙の姿も見える。
「私の能力知ってるわよね?」
「はい。ということは……俺が亡霊になって永遠亭を訪れた時のもの。撮影したのは……文ですね」
 はたてはご名答と言って笑みを返した。
 彼女は『念写をする程度の能力』を持っており、持っている携帯型カメラを使って誰かが撮った写真を見つける事が出来る。なので永遠亭で文が撮った写真がそのまま彼女のカメラに現れるのだ。簡潔に言えばインターネットの画像検索のようなものだろうか。
 話によれば記事を書こうとしてたまたま俊司の写真がないか検索を賭けたところ、つい最近の撮影で彼の写真を見つけてしまったらしい。即座に文へ確認を取ってみると、彼は亡霊になって帰ってきたと言われたのだ。もちろん記者である彼女はそのことを守矢神社で話し、それで彼が亡霊として生きていることがここの人達に回ったのだ。
「初めて聞いた時にはびっくりしましたよ。まさか映姫様の命令で亡霊になれるなんて……そうあることじゃありませんから」
 緑色の髪をしたロングヘアーの女の子は笑いながらそう言ってくれた。彼女がこの守矢神社の巫女で現人神である『東風谷 早苗』だ。
「早苗さんも元気そうですね」
「最近はですけどね。前までは結界を破壊しようとする人達のせいで力を使っていましたから」
 どうやら革命軍はここに幻想郷の住人がほとんど集まっていたことを何らかの理由で把握していたらしい。まあ送られてくる兵士は少なく結界だけでも十分防げたみたいだが。
「さて、君の話は後で聞いておくとして……客人がいるんだ。あってみないか?」
「客人……ですか?」
 俊司は少し不審に思いながらも、加奈子達に連れられて神社の中へと入って行った。

 神社の中……と言うより加奈子達の居住スペースに連れてこられた俊司は、中央に座っていたある人物を見て言葉を失っていた。
「やあ、久しぶりだね。博麗神社の戦いは見事だったよ。君の本当の力も開花したみたいで、非常に面白かった」
「お前は……宮下怜!」
 座っていたのは旧都奪還後博麗神社へ向かえと助言をしてくれた『宮下怜』だった。別に敵意があると言うわけではないが、何かただならぬ雰囲気が彼の周りを漂っている。
「まあまあ、今日は争いごとをしに来たわけじゃない。ほら、このとおり」
 宮下は立ちあがると腰回りに武器をつけていないことをアピールした。前回もそうだったようにいきなり襲ってくる事はなさそうだ。
 だが問題は彼の能力だ。彼の『対象を拘束する程度の能力』を使えばここにいる全員を弱らせることなんて容易い。俊司は最低限の警戒心を払おうとはしなかった。
「あの時と同じだね。まあいいや」
「俊司さん……知り合いですか?」
「霊夢達を助けるきっかけを作ってくれた人だ。だからって味方じゃない」
 俊司は彼に対面するようにして座る。しばらく無言の間が開いた後、宮下が少し笑ってから話を始めた。
「さて、僕の話はまだしていなかったね。僕はクルトくんと同じ革命軍の幹部みたいな存在の一人。地霊殿を管理していた人とも言えるかな?」
「地霊殿を……? じゃああのばればれの囮作戦は?」
「僕がわざとやらせた。時間稼ぎのためにね」
 宮下が言うには地霊殿の戦いはもとより勝つ気はなかったらしい。研究施設でもあった地霊殿は多くの研究データが存在しており、それを失うことは革命軍にとって致命的なものだった。戦闘に勝つことが出来ないと判断した宮下は、一番効率的に時間を稼ぐ事が出来る方法としてあの作戦を考えたのだ。戦力を分担させて正面から叩くより、中に引き込んでからまとめて叩く方が時間を稼げるからとのこと。もし俊司達が罠だと判断して侵入をやめたとしても、次の作戦を考えるまでの時間を作らせる事が出来る。よく考えられた作戦だった。
 改めて考えると宮下は恐ろしい存在だとわかる。勝てない試合を勝てるに持っていくのではなく、次につなげられるようにわざと負けたのだ。結果研究データは無事で、今では天界の施設で研究の再開・戦闘への実装を行っている。俊司達にとってはあの戦いは勝ちではなく痛み分けだったと言うことだ。
「君達がどのように動いても時間は稼げた。ただそれだけ」
「……そうだったのか」
 俊司はただただ話を聞きながら唖然とするしかなかった。 
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