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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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ここは海鳴、始まりの街 ~親バカは永遠に~

†††Sideルシル†††

「昨日よりちょっと冷えるかなぁ・・・?」

なのはが車の窓から晴れた空を見上げながら言った。ミッドチルダは安定した気候のおかげで冬はそれほど寒くはない。確かに日本の冬は寒いが、現在は3月下旬(あと数日で4月)ということもあって、さほど寒さは感じられない。しかしミッドの気候に慣れてしまっていると、比較的暖かい今日でも寒く感じるかもしれない。

「そう? あんた達はミッドの気候が染みついてるから余計寒く感じるんじゃない?」

「う~ん、そうなのかな~・・・?」

アリサが私が考えていた事を代弁し、助手席に座るなのはから飴玉を貰っている。
いま私たちはアリサの家から出て、車二台でショッピングへ出かけている最中だ。一台はドライバーであるすずかと八神家だ。八神家全員は入りきらないと言うことで誰がこちらに移動するか一騒動あったが(リエイスがこちらに乗せろ、という無言のプレッシャーを放っていたが)、結局はザフィーラとなった。ということで二台目はドライバーのアリサ、私とフェイト、なのは、ヴィヴィオ。そしてザフィーラ(子犬フォームでヴィヴィオの隣に座っている)だ。

「そういえばさルシル」

口の中で飴玉を転がしているのかコロコロと音を鳴らすアリサが、そうバックミラー越しに私を見てきた。私もバックミラーに映るアリサに視線を移し、「どうした?」と先を促す。

「テスタメント、だっけ? あたし達、テスタメントの説明だけ聞いて、あんた自身の事はまだ聞いてないんだけど。あんたってさ、テスタメントになる前はどういう人間だったの?」

「ア、アリサ・・・!」

私の左隣に座るフェイトが窘めるようにアリサの名を呼ぶ。私は「聞いてもつまらない話だと思うが?」と、フェイトを手で制して答える。

「知っておきたいのよ。なのは達が知っていてあたし達が知らないのって、なんか仲間外れにされてるようでさ」

“界律の守護神テスタメント”の在り方とどうやって選ばれたのかを教えてあるからか、アリサは出過ぎた事を訊いているという自覚があるようで目を少しばかり伏せた。まぁ今さら隠すような事じゃないか。目的地に着くまでの暇潰しとして話そうか。

「そうだな。まず名前だが、ルシリオン・セインテスト・アースガルド、これが本名だ」

「へぇ。フォン・シュゼルヴァロードって貴族っぽい名前だし、本当の貴族だと思っていたんだけど違うのね」

フォン・シュゼルヴァロードの名の持ち主は確かに貴族だ。魔界でとびっきりの、な。そして私は貴族ではなく・・・

「ルシルパパは貴族じゃなくて王族なんですよアリサさん」

ヴィヴィオが私の代わりに告げた。どこか誇らしげなのは気のせいか?
アリサが「何? あんたもそんな王族とか凄い家柄出身だったの!?」って驚愕。あんたも?と思い、「あぁ」とすぐに察した。ヴィヴィオも一応王族の血筋だ。

「ルシル君は王族は王族でも、王様だったんだよね・・・?」

「はぁッ!? 王様!? その国で一番偉い、あの王様!?」

車の挙動が乱れる。危ない、危ないぞアリサ。何とか立て直したところで、なのはのケータイが鳴り、なのはが「もしもし、はやてちゃん?」と受けた。はやての声が少し漏れ聞こえた。さっきの車の挙動不審が何事かと心配してくれているようだ。
なのはは「今、ルシル君がテスタメントになる前の話をアリサちゃんにしててね。ルシル君が王様だったっていうのにアリサちゃんが驚いちゃってそれで・・」と説明。はやての他にすずかの声が聞こえ、はやてがすずかに今の挙動不審の理由を説明して・・・

『ええっ!? ルシル君って王様だったの!?』

すずかの大声と共にはやて達の短い悲鳴がケータイから響いた。前を走るすずかの運転している車がフラついていた。どういうことだ? 私が一国を治めていた王というのがそこまで信じられないのか?

「そこまで驚くことか?」

「だってあんたの事を知るこっちとしては、実は王様でした、なんて言われても信じられないでしょ」

『でも子供の頃のルシル君はどこか気品があったし、もしかしてお金持ちの出身だったのかなぁって最初は思ってたよ』

アリサとすずかは真逆の感想を抱いたようだ。アリサは私が少しずつ変わり始めていた頃から。すずかは初めて逢った時の事を思い出しての感想だ。とはいえ王と言っても行政は任せっきりで王らしい事なんて多くしていなかったな。王に即位したのは十六歳。グラズヘイムの大半が滅んだのは二十二歳。
その間は大戦に参戦するための下準備、本格参戦していたから、行政官たちに七割くらい任せていた。早く戦争を終わらせ、平和な時代を取り戻す。そうすれば民は喜ぶ。
生まれた時にはそこに戦争があり、平和な時代という事を知らない大戦参加世界の民。だから勝って終結させることだけを絶対目標とし、それだけをひたすらに目指した。終結させたらさせたで“ラグナロク”という大破壊。報われない。だが、その果てに今の次元世界があるというのなら・・・。

『じゃあルシル君はいくつの頃から王様やってたの?』

「十六歳で即位だな。当時は別段珍しくなかったぞ、十代で王になるのは。義妹にフノスという娘がいたが、彼女は十四歳で女王になった。一番若くて十歳で女王になったという子供もいた。本当に若い王が列挙した時代だった」

すずかにそう答えると、アリサが「凄い時代だったってゆうのは解ったわ」と驚いていた。簡単に人が死に、容易く世界が終わりを迎える時代。それが私とシャルに生きた時代だ。

「とりあえず話はここまでだな」

道路上の標識に、目的地の巨大ショッピングモールへの案内が記されている。到着だ。だから私の話はここで終了。さぁ荷物持ちとして頑張ろうか。

†††Sideルシル⇒フェイト†††

ショッピングモールに着き、ウィンドウショッピングを始める私たち。ある程度回って昼食も終えて、のんびり友達と買い物を楽しもうとしていたのに、大人数のおかげで結構目立つ私たちは、よほど暇なのか男の人たちによく絡まれる。ついさっきも、ルシルとザフィーラ(もちろん人間形態)がしつこいキザッたらしい男の人たちを追い払った。

「やれやれ。休日にナンパしかやることのない野郎ばかりとは」

ルシルが両手に持った袋を持ち直しながら首を横に振る。そう言うルシルもさっき女の人に声を掛けられてた。写真を一緒に撮ってください、とか。ルシルはモデルじゃないってば。けどルシルは、写真だけなら、なんて言って受けてたけど。むぅ、なんで?

「でもルシル君とザフィーラが居ってくれて本当に助かるわぁ」

はやてが安堵しながら言う。アギトもそれに賛同して、「シグナムと姉御に任せたら警察沙汰になっちまうもんな」とイラつき始めてるシグナムとヴィータをチラッと見た。

「はやて達が美人なのは認めるし声を掛けてぇっていうのは判るけどさ」

「外見が良かろうが中身が軟派な男なんぞ誰が認めるか。そもそも先程の髪を染め、過剰なアクセサリーを身に付けた男なぞが主はやてと釣り合う訳がない」

ヴィータとシグナムはうんうん頷いて、娘を持つお父さんみたいな事を言い出した。はやてが「なんやこれやとどっちが親か判らへんな」って笑う。

「そうです。はやてちゃんのお相手はもっと立派な人じゃないといけないです」

リインが誰か想像してるのか腕を組んで「むぅ~」と唸り始めた。シャマル先生も「見た目も重要だけど、さっきのような軽い人はペケよね」ってシグナム達に賛同。

「なのはやフェイトはどうだ? ヴィヴィオがああいう軽い男と付き合うとなれば」

リエイスが私となのはに話を振ってきた。まさかリエイスから話を振られるなんて思わなかったから、私は「え?」って訊き返していた。でもその前に、これは昨日のアレのパターンだよ。恐る恐るルシルを見る。

「百歩譲ってヴィヴィオが男と付き合うことになろうが、あんなチャラ男が彼氏になるのだけは絶対に認めるものか。というか付き合うこと自体認め――むぐっ?」

「ダメだよルシル君っ」

「ショッピングモールの中心で親バカを叫んじゃ周りに迷惑がっ」

やっぱりルシルは悲しいかな、親バカモードになって吼えようとした。私となのはが同時にジャンプしてルシルの口を二人がかりで塞ぐ。ヴィヴィオは「あはは」って苦笑を洩らした。

「てかルシル。あんたってホントに色んな人から恨み買いそうよね」

「もう大丈夫だフェイト、なのは。で? 私がどうして恨みを買うと?」

私となのははルシルの口を解放して、ルシルはアリサの言葉に訊き返した。アリサは「だってさ」って前置きして、

「外見は男が嫉妬しそうな美形。んで女にとっても負けを認めざるを得ない顔立ちに肌。それに生まれが王族。頭よし運動神経よし。性格はまぁまぁ」

ってルシルを褒めてるようで貶すような事を言った。ルシルが「私の性格はあまり良くないのか?」と素でヘコんでた。すずかがすかさず「そ、そんなことないよルシル君」ってフォローを入れた。あ、それは私の役目だったのに。

「で、これが一番妬まれる要因ね」

「「私?」」

アリサが私となのはを指差した。駄目だよ、アリサ。人を指さしちゃ。意味が解らずになのはと二人して首を傾げてみる。

「本当のじゃなくてもあんたは、パパ、と呼ばれてる。なのはとフェイトなんていう美人ママ二人いて、ヴィヴィオって娘が居る。どうだっ!」

アリサがまるで探偵ドラマとかで観そうなポーズ(右手の平をビシッとルシルに突きつけた)をとった。

「いや、どうだって言われても・・・まぁ羨ましいんじゃないか? ああ、そうだな、確かに今の私の立場は恨まれるかもしれないな。フェイトとなのはとヴィヴィオ、それにエリオとキャロ。みんなと家族、しかも父親としての立場にいられる私は、たとえ恨まれても受け入れられるほどに嬉しくて充実してる」

ルシルが頬をポリポリ掻きながら照れたように返した。あ、なんか今のルシルは新鮮だ。なのはも、ヴィヴィオのパパでいられることが嬉しいって聞いて照れ笑い。うん、ちょっと胸がチクってしたけど、今回は嬉しさの方が上回る。だってエリオとキャロのお父さん役も嬉しいって言ってくれた。

現在(いま)のルシル君って、その、すごく良い表情が出るようになったね」

「うん。色んな事から少しずつでも解放されたから、かな・・・?」

すずかがコソっと耳打ちしてきたから、こっちも耳打ちで返す。ルシルは多くの事を背負い過ぎてた。人間となって少しは荷を降ろせたようだけど、それでもまだ多くの事を背負ってる。私の役目は、今も背負い続けてる荷を降ろしたり一緒に背負う事だと思う。すずかは私の顔をじっと見て、「そっか。フェイトちゃん、苦労しそうだね」って微笑んだ。

「え、うん。でも私が選んだことだから、絶対に大丈夫」

後悔なんてない。あるのは未来に待っているきっと幸せな時間だ。

「フェイトママー!」

「す~ずかー!」

ヴィヴィオとアリサが私とすずかを呼んだ。いつの間にか話は終わってて、私とすずかは置いてけぼりを喰らいそうになってった。二人で「今行くよー」って応えながら、みんなの元へ歩いていく。次はどこへ行こうかって話をしていると、アリサとすずかが立ち止まって、とあるエリアを見た。
はやてが「ゲームセンターがどうかしたん二人とも?」と訊ねた。アリサ達が見ていたのは、アミューズメントエリアへ案内する電光掲示板に記されたゲームセンターの文字。

「ちょっとシャルの事を思い出してた」

「シャルちゃんと最後に逢った日の前日、ゲームセンターで遊んだんだよね」

二人は懐かしそうに通路の先にあるゲームセンターを眺める。私たちも、シャルがゲームセンターで楽しそうに遊ぶ姿を幻視する。みんなから噴き出したような笑いが漏れた。誰もが想像できるシャルの姿。

「久しぶりに勝負してみる? ルシル。ま、あたしが勝つけど」

アリサがハンドルを握るような動きでルシルに戦いを申し込んだ。対するルシルは「ゲーセンで勝負って言う歳か?」って考え込んだ。アリサの挑発的な笑みが固まる。小さく「歳・・・?」って呟く。ルシル、もう少し発言を考えようね。アリサが固まった笑顔のままアミューズメントエリアへ続く通路を進んでいく。
私たちは仕方なしにアリサに続いて行くことにした。アリサは止まることなく、ゲームセンター入り口付近に置かれたパンチングマシーンの前に立ってお金を入れた。グローブをはめて拳を打ちあう。二度深呼吸して、

「四捨五入すればまだ二十五だこんちくしょーーーーーッ!」

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

許されるだけの助走をつけて怒声と一緒にミットを殴った。記録は・・・150。アリサは「チッ、もう少しイケると思ったんだけどなぁ」ってご不満の様子だ。でもアリサ。私たちはまだまだ二十代なんだから、歳、って言葉にそこまで反応しなくても。

「ほら、ルシル。一切のズル無しでやってみてよ」

「仕方ないなぁ。すまない、ザフィーラ。荷物預かってくれ」

ルシルがザフィーラに手に提げた袋を手渡す。ザフィーラの持つ袋が両手合わせて2ケタに突入。そしてルシルは渋々グローブをはめて、野球のフォームのように片足を上げる。力強く踏み込み。勢いを一切殺さずに前傾姿勢に入ってミットを奥に押し込むように殴り付けた。
ミットは大きく軋みを上げて倒れた。近くに立ってたアリサや、離れた位置に居た私たちもビクッてなった。ただいまの記録は・・・

「はぁ!? 999ぅぅ!?」

アリサの倍以上。測定値MAXだ。でも当然の結果だと思う。ルシルはヒョロっとして見えるけど、女のアリサ以上に筋力があるし毎日鍛えてる。アリサが大きな声にならないように努めながら「魔法とか使ったんじゃないでしょうね?」と訊いた。

「そんなズルはしない。元々私とアリサじゃ身体能力が違うしな。それに、こいつにはコツがあるんだ。記録はミットを殴った時じゃなく、このミットが倒れ込んだ時の衝撃を計るものだ。だからアリサのようにミットを単純に殴っただけじゃダメなんだ。さっきの私のように振り抜いてミットを奥に叩きつけるような一撃を出さないと」

ルシルはそう説明して、もう一度アリサにグローブを渡した。殴ってみろ、ってことなんだろう。今度はアリサは渋々グローブをはめて、ルシルに言われた通りにミットを殴った。一打目より勢いよく倒れ込んだミット。その記録、162。記録上昇。アリサが「おお」って驚きの声を上げた。

「結局は拳打の打ち方次第なんだよコレは。今のヴィヴィオだって上手く殴れば結構な記録を叩きだせるんじゃないか? まぁ残念ながら十六歳以下は出来ないようだけどな」

パンチングマシーンには年齢制限が掛けられてた。ヴィヴィオが「ホントだ。残念」って、肩を落とした。

「どれ。ならば今度は私が挑戦してみよう」

「ふむ。面白そうだな、私もやらせてもらおう」

リエイスとシグナムが腕捲りしながらパンチングマシーンに歩み寄ってく。どうやらゲームセンターで遊ぶことになってしまったみたいだ。

「あはは、しゃあないなぁ。少し遊んでこか」

「シグナムとリエイスは子供ですね~♪」「シグナムもリエ姐も子供だな~♪」

「うふふ。しょうがないですね~♪」

「たく。これだからバトルマニアは」

八神家、ゲームセンターに入店されました~。なのはとヴィヴィオとすずかと顔を見合わせる。

「「「仕方ないね~」」」」

私たちもみんなに倣ってゲームセンターに入りま~す♪

†††Sideフェイト⇒ルシル†††

買い物途中、ゲームセンターで寄り道。みんなそれぞれ好きな、気になったゲームの筺体に散らばって行った。

「ありがとう、ザフィーラ。預けていた荷物を受け取ろう」

ザフィーラに預けていた荷物を受けとろうとしたが、

「このままで構わん。おまえはヴィヴィオやテスタロッサ達と共に遊んでくればいい。それが父親としてのおまえの役目だろう、セインテストよ」

そう言って、荷物を持っていながらも私の背を押した。私は「しかし」と踏みとどまるが、

「長い間、父親(おまえ)と遊ぶ事が出来なかったヴィヴィオが今この場に居る。優先順位だ、セインテスト。こういう荷物持ちは、我に任せておけばいい。今は、長らく離れ離れになっていた家族と遊べ」

そう頑なに言われれば、私としても頷いて従うしかない。私はザフィーラに「ありがとう」と感謝を告げ、店内へと歩を進める。それにしてもさっきからドカンドカンとうるさいな。音の元凶はパンチングマシーンにハマったシグナムとリエイスだ。
二人揃って連続MAX999を叩きだしている。いつの間にか増えていた見学者(特に男が多し)がどよめく。男共の視線は、殴る際に揺れるシグナムとリエイスの胸部に向けられ、恋人らしき女性を不機嫌にさせている。どうしてこう男はそういう視点ばかりなんだ? 同じ男として情けないぞ。

「シグナム、リエイス。そろそろやめて、はやて達と合流したらどうだ。というか壊してないだろうな。連続記録MAXなんて」

いつまで経っても終わりそうにないため、そしてこれ以上続けられて破壊されでもしたら面倒なので、二人に歩み寄って止めに入る。男共からは「チッ、羨ましい奴め」「勝てねぇ」「男居んのかよ」等々文句を垂れる。女性たちは「キレー」「え、男の人?」「うわ、うちの彼氏が平均以下に見える」って私に関する事を言う。そこの女性、隣の彼氏が落ち込んでいるぞ。

「セインテストの言う通り、だな。せっかく家族揃っているのだから」

「どちらかが先に999以下になるまでやるつもりだったが、ルシリオンの言う事なら仕方がない」

リエイスはまだ私をパートナーとか思ってるんじゃないだろうな・・?
シグナムとリエイスをはやてのところへ向かうのを見送り、さぁどうしようかと見回す。とりあえず見て回ろうか。リインとアギトは太鼓の達人で、シャマルとザフィーラが見守っているのを確認。すずかとヴィータはクレーンゲームで、アリサが二人の後ろでアドバイスらしき事を言っている。2人はなかなかに苦戦しているな。特にヴィータがさっきから「あ!」って声を上げている。

「あ、ルシル君。ルシル君ってこれ上手だったよね」

「ん? まぁシャルと一緒に空にしたことがあるぞ」

私に気付いたすずかに手招きされて、歩み寄って行く。景品はどれも可愛らしいぬいぐるみばかりだ。すずかもまだまだ子供だな。私は「自分で獲った方が達成感があるんじゃないか?」と一応訊いておく。

「んー、そうなんだけど・・・」

「しょうがないわねぇ、すずか。ほら、ルシル。やってあげなさいよ」

「いや、アリサがやったらどうだ? アドバイスしていたくらいだろ」

そう言うと、アリサが「うっ」とたじろいだ。

(ん? もしかしてアレかアリサ・・・)

確かめるために、アリサの両肩に手を置いて見詰める。

「ちょ、何すんのよ。フェイトって恋人がいてあたしに手を出すなんて許されるとでも思ってんの?」

アリサの突拍子もない発言に「馬鹿を言うな」と呆れつつ、アリサを回れ右。すずかが私の意を汲んでお金を投入。さぁアリサ。君の言うアドバイス通りにレッツプレイ。
アリサは「なるほどね。いいわよ、やってやるわよ。見てなさいよっ」と振り返って意気込んだ。さて、ヴィータはどうだ? アリサのアドバイスらしき事を実行しているようだが。狙いは騎士甲冑の帽子にも付いている“のろいうさぎ”のぬいぐるみ。懐かしいな。まだ残っているものなんだな。

「どうだヴィータ、いけそうか?」

「ちょっと待て、話しかけんな。・・・・あ゛ーーーッ! このアーム、弱すぎるんじゃねぇのかッ!」

(私の所為か? 違うよな?)

隣のクレーンゲームをプレイするアリサも「あ゛あ゛あ゛あ゛!」と大声を上げる。ダメだったか。ヴィータは「ちくしょー。やっぱりこのアーム弱くねぇ?」とボタンに八つ当たり。これ以上ヴィータをイラつかせて壊されても困るな。仕方なしにヴィータの頭にポンと手を置いて下がらせる。1コイン投入。ほいほいほいっと。“のろいうさぎ”を二匹ゲット。

「ヴィータ、プレゼントだ」

「は? プレゼントってなんのだよ? なんか祝うようなことあったか、あたしに」

「プレゼントするのに理由が要るのか? が、要るって言うなら、そうだな・・・。すずかとアリサがシャルの事を思い出した時、ヴィータは喜んでくれた。ヴィータは今もシャルの事を大切に想ってくれている、それに対する礼だ」

頭を撫でると、「ふん、そう言う事なら貰っておいてやるよ」とそっぽを向いて、それでも“のろいうさぎ”を大事そうに抱きしめてくれている。昔から変わらずに素直じゃないなぁヴィータ。手を払われない程度には優しくなったか。

「ま、その、なんだ。ありがとな」

ヴィータのいきなり素直な感謝に驚いたが、「どういたしまして」とからかうような事はせずに受け取る。

「ルシル君、よかったらこっちのも獲ってくれるかな?」

「ああ。って、なんだアリサ。結局一つも獲れてないのか」

「う、うるさいわよ。今日はたまたま調子が悪かったんだって。そ、それに獲りやすいヤツと獲りにくいヤツがあって、これは獲りにくいヤツなのよ」

「アリサちゃん、言い訳は見苦しいよ?」

「すずか、あんたはどっちの味方なのよッ」

すずかが私を見てきた。そうだな、つまりはそういうことだ。

「「それはもちろん」」

すずかと同じセリフを言ってまずそこで区切り、1コイン投入。軽快にボタンを押し、そして・・・

「景品を獲った方だろ」「景品を獲った方だよね」

ジ○リに出てきそうなぬいぐるみをアリサに見せながら同時に告げる。アリサは「ぬぐぅ」と呻いた。はい、アリサ撃墜の完了。それじゃあ少し本気を出して、遊んでやろうかクレーンゲーム。

「あんた、それ以上獲ってどうすんの?」

アリサに声を掛けられハッと気付く。背後に立つすずかとアリサとヴィータの腕の中にはいくつものぬいぐるみ。まずい、久々にプレイしたから加減を忘れてしまっていた。

「いや、これは・・・。フェイトたち全員にもプレゼントしようかと」

「でもこれは多過ぎだと思うよルシル君」

「つうかシグナムとリエイスにぬいぐるみはどうだろうな・・・?」

ヴィータに言われ想像してみる。シグナムとリエイスがぬいぐるみを愛おしそうに抱きしめて顔を綻ばせている光景を。ヴィータも想像したのか、

「ねぇな」「ないな」

同じ結論に達していた。シグナムは特に想像がつかない。シャマルなら余裕でいける。どこか子供っぽいしな、シャマルは。だがシグナムは・・・ないな、としか思えない。リエイスはギリギリか?
すずかとアリサは、とにかく袋を貰ってくる、と店員を探しに行った。ヴィータもそれに遅れて続いていった。そして店員に貰った袋にぬいぐるみを入れ、私は彼女たちと別れて別行動。・・・さぁてと次は・・・。

「ハッ!」

「なんのッ!」

何だアレは? ゲームセンターで決して生まれる事のない衝撃波が生まれているぞ。しかもその元凶はまたあの二人だ。何やってるんだよ本当に。

「エアホッケーって衝撃波が出るゲームだったか・・・?」

シグナムとリエイスが熱中しているエアホッケーのテーブルの側に立つはやての元に歩み寄る。はやては私に気付き、「お、ルシル君」と小さく右手を上げ、こちらも「お、はやて」と小さく左手を上げる。

「はやても大変だな。シグナムとリエイスのお守とは」

「まぁ私は親であり子でもあるしな。家族が楽しんでるのを観んのが一番の幸せや」

「そうか。そうだな。さすがフェイト達の中で最も早く子供が出来たはやてママだ」

「あはは、なんやそれ。でも、はやてママか・・・ええかもなぁ」

会話はそれで終わり、お互い一歩も引かないゲームを観戦する。シグナムとリエイスのエアホッケーはもうゲームではなくバトルだ。

「これでどうだッ、紫電一閃!」

シグナムがパレットを右薙ぎ一閃、パックを全力打ち。対するリエイスは、高速で返ってきたパックを、

「甘いぞシグナム! シュタルク・シュラーク!」

さらに打ち返す。シュタルク・シュラーク、強力な一撃か。そのままだな。ラリーはまだ続き、そろそろパックが限界なんじゃないかと思える。だが終わりは突然訪れた。パックが大きく弾かれて、はやての顔目掛けて飛んできた。私は咄嗟にはやてを押し倒す様に抱きつき、はやての顔面直撃を防ぐ。後頭部付近に衝撃が奔る。当たったか?と思ったが、ファサッと後ろ髪が解けて広がるのが判った。どうやら飛んできたパックが髪を結っていたヘアゴムを断ち切ったらしい。

「「主はやて!」」

シグナムとリエイスが血相を変えていた。まったく、この二人は・・・。

「えーと、ルシル君・・・、そろそろ起こしてもらえると助かるんやけど・・・恥ずかしいし」

そう言えばはやてを抱き寄せて倒れたままだ。すぐさま「すまない」と謝りつつはやての上から退き、彼女の右手を取って立ち上がらせる。

「あのな、シグナム、リエイス。本気になって遊ぶのは良いが加減を知れ。最悪、はやての顔にシャレにならない傷痕が付いていたかもしれないんだぞ」

「「申し訳ありませんでした、主はやて」」

しゅんとして謝る二人。

「まぁ私はルシル君のおかげで大事にならんかったからええけどな。それよりも私はええから、ルシル君には謝らなアカンよ、シグナム、リエイス」

親に叱られたような暗さの残ったシグナムとリエイスが私へと体を向け、頭を下げた。

「すまない、そして身を呈して主はやてを守ってくれた事を感謝する、セインテスト。お前のおかげで自害は免れた」

自害て・・・あぁシグナムは本気の目だ。はやてが後ろで苦笑いして呆れている。

「ありがとう、ルシリオン。本当に感謝している。お前の方はケガはないか?」

「まずは頭を上げてくれ二人とも。私は問題ない。とりあえずはパックの探索だな。どこかに転がっていないか、何かを破壊したりしてないかを確認しないといけない」

「それなら私とリエイスがやろう。元より我らの失態だからな」

「そういうことだ。・・・ルシリオン、少しそのままで居ろ」

リエイスが私の真正面に立つ。続けて「礼だ、目を閉じろ」なんて言ってきた。
このセリフで、どうしようもないほど鈍い男なら頭上にクエスチョンマークを浮かべて大人しく目を閉じるだろう。
だが私は鈍くない。礼、目を閉じろ、この二つから連想される、リエイスが私にやろうとしている事を察する。

「おい、リエイス。少し待て。お前は何をしようとしている・・・?」

「そ、そうや! ルシル君にはフェイトちゃんがおる! それやのに・・・アカンよ! はやてママは許さへんよ!」

シグナムとはやてママも察したのか止めに入る。私も「礼は要らないから、そういうのはもっと大事にとっておけ」と諭す。
だがリエイスは「むぅ、良いから大人しく目を閉じろ」と上目遣いで言い、続けて、

「でなければお前の恥ずかしい過去を、女性局員オンリーのネットワークに流す」

なんということでしょう。(リエイス)は恐ろしい事に脅迫してきました。おかしいな。礼を断れば脅迫されるなんて、どこの理不尽伝奇ノベルゲームか?
リエイスには、私のこれまでの経験の記録を覗かれている。まぁ当然の如く、私の失敗談なども多く知っているだろう。リエイス、厄介過ぎる。おそらくこの次元世界で最強の敵かもしれない・・・・。

「さぁ、礼を素直に受け取るか、それとも陰で女性局員たちからヒソヒソと噂話されるか、二つに一つだぞ、ルシリオン」

「ぅく・・・判った。これでいいのだろ」

大人しく目を瞑る。あとでフェイトやなのは達に色々説教を受けそうだが、秘密暴露よりかは・・・マシじゃないな、ヘコむ。暗闇の中、「よぉ考えてリエイス! その道は荒れ道やで!」「ここで止めねばテスタロッサに顔向けできんな」と聞こえてくる。
だがリエイスはやめるつもりはないのか私の右頬に触れてきた。次に前髪に触れたと思えば、パチンパチンと何かの音が聞こえた。リエイスが後ろへ回るのが判る。ヘアゴムを失って広がる後ろ髪を・・・指で梳いて束ねてる・・・? そしてまたパチンと音がした。

「ふむ。もう目を開けていいぞルシリオン」

リエイスの落ち着き払った声。よかった、馬鹿な真似をしないで。目を開けると、満足そうに笑みを浮かべるリエイスと、微妙な表情を浮かべるはやてとシグナムが視界に映り込む。

「よし。では主はやて。シグナムと共にパックの探索をしてきます」

「え、あ、うん。いってらっしゃい」

小さくお辞儀をして去って行くリエイスとシグナム。残された私ははやてを見やると、はやてはポシェットの中から小さな折りたたみの手鏡を出した。

「なんや、これがリエイスのお礼のようやよ」

「・・・・あー、なるほどな」

パチン、という音の正体を見た。左前髪を留めている赤いヘアピン。留め方ははやてやリイン、リエイスと同じバッテン。首の後ろに手を回す。後ろ髪にはバレッタと思しき装飾具が付いているようだ。

「えっとな、うん、似合とるよルシル君。私らとお揃いやな」

はやてが自分の髪を留めているヘアピンを指でなぞる。お揃い、か。リエイスはシャルのように面白いから、という理由じゃないはずだ。だからとはいえ正直なところはかなりキツイ。ま、仕方ない。しばらくはこのままでいよう。お礼だって言うのなら無下には出来ないしな、やっぱり。

「さて、はやてはこれからどうする?」

「ん? 私は、そうやなぁ・・リインとアギトのところに行くわ。ルシル君は?」

「フェイト達のところへ行こうと思う」

「そっか。それじゃ、また後でなルシル君」

はやてを見送り、結構広いゲームセンター内をまたうろつく。

「ルシル」「ルシル君」「ルシルパパ」

騒々しいゲームセンターの中でもハッキリと聴きとれる声が3つ。フェイトとなのはとヴィヴィオが手招きしている。とにかく行ってみよう。

「どうしたん――おわっ?」

近づいて行ったら腕を3人に掴まれて引っ張り込まれた。3人に引っ張り込まれた筺体、それは・・・「プリクラ?」だった。どうして引っ張り込まれるのか判らなかったが。

「一緒に撮ろ、ルシルパパ♪」

「ヴィヴィオは真ん中ね♪」

「ほら、なのはもヴィヴィオもルシルも並んで♪」

「あ、ああ。どこでいいんだ?」

楽しそうだから、というか私自身も3人の笑顔が嬉しくてどうでもよくなった。ヴィヴィオが真ん中、なのはがヴィヴィオの右隣、フェイトが左隣、私がヴィヴィオの後ろに立つ。ヘアピンやバレッタに関しての説明をしながら、立ち位置やポーズを何度か変えて撮った。私とフェイトの2ショットや、ヴィヴィオとの2ショット。さすがになのはとの2ショットはなかったな。

「これじゃあ私たち、ルシル君のハーレムってやつだよ」

私を真ん中にしたモノはまさしくそう見える。いや、そもそも今度はルシル君が真ん中でいこう、と提案したなのはの責任だろ?

愛娘(ヴィヴィオ)をハーレム要員にすれば、父親(わたし)は間違いなく変態として扱われ逮捕されるな」

そんな結末イヤ過ぎる。いくら子煩悩であってもそれはいけない。落書きコーナーへと向かい、「仲良しファミリー☆、っと」というようになのは達が思い思いに色んなものを描いていく。ヴィヴィオも楽しそうに鼻歌交じりで私たち四人囲うように❤やら☆やら描いていく。
さすがにそれは恥ずかしいな。とはいえ楽しんでるフェイト達は邪魔出来ないから大人しく外に出て待つ。落書きを終えて、シールとなった写真を取り出すなのは。

「うん、良く撮れてるよ♪」

「うわぁ、ホントだ♪ ルシルパパ、見てみて♪」

ヴィヴィオが嬉しそうに私とのツーショット写真を指差して笑いかけてくれる。ヴィヴィオの笑顔を見て胸が熱くなる。父と娘、か。私は屈んで、「ああ、よく撮れてる」と微笑み、

「ど、どうしたのルシルパパ・・・?」

「ルシル?」「ルシル君?」

ヴィヴィオを抱きしめる。この世界で成り行きとはいえ父となって、娘が出来た。だというのに父親らしい事は全然できなかった。遊ぶ事もそれほど出来なかった。それなのにヴィヴィオは私の事を憶えていてくれた。また父として見てくれた。

「少しは父親らしく、一緒に楽しめる事が出来ただろうか・・・?」

「あ。・・・・うん、すごく楽しいよ。ルシルパパと一緒だもん。なのはママもいて、フェイトママもいてくれる。今日は、最高の日だよ」

ヴィヴィオが私の背中に手を回した。ヴィヴィオの、楽しい、その一言がとても嬉しかった。

「ルシルパパ、これからも一緒に買い物とか鍛錬とかに付き合ってくれる?」

「ああ、約束だ。大切な愛娘と過ごせるなんて、父親としてとても嬉しいよ」

最後にもう一度ヴィヴィオを抱きしめた。
それから、はやてたち八神家とすずかとアリサと合流して、それはもう何度もメンバーをいろいろ変えてプリクラを撮りまくった。
その後にトーナメント制レーシングゲーム大会も行い、以前のように私に邪魔アイテムを集中砲火してくるアリサの所為でビリだった。
それなりに時間が潰れ、そろそろ引き上げようかとしていたところで、フェイトが一つの台の前で立ち止まった。

「どうかしたのか、フェイト」

「え? あ、何でもないよ!」

わたわたと手を振って、何かを誤魔化そうとしている。台を見せまいとしているようだ。だが、

「「相性診断?」」

リインとアギトが左右から回り込んで、その台が何をするものかを告げた。先を歩いていたなのは達が「どうしたの?」と戻ってきた。

「その、ね。すこ~しルシルとの相性が気になったというか。あ、信じてるんだよ、私とルシルの相性はきっとバッチリだって」

フェイトは観念して、肩を落としながら釈明めいたことを言った。私もフェイトとの相性はなかなかのものだと思うが、気になっているのならやってみるか。フェイトに「やってみよう」と言うと、「でも、もし悪かったら」とさっき言っていた事が思いっきり揺らいでいた。信じているんじゃなかったのか?

「大丈夫だよフェイトちゃん。みんなもフェイトちゃんとルシル君の相性はバッチリだって信じてるよ」

なのはにそう自信満々に言われ、フェイトは頷いてお金を投入。まずフェイトが性別や誕生日と入力し、続いて私が男、誕生日4月12日と入力。誕生日を見てリエイスが「ん?」と漏らした。

「ルシリオン。前々から思っていたのだが、これからずっとその偽りの誕生日のままなのか?」

リエイスのその言葉に、私とリエイス、シグナムとザフィーラを除く全員が「へ?」と抜けた声を出した。私も「は?」と漏らす。何でみんなはそんなに間抜けな顔をするんだ? 全員硬直したまま言葉を発しない。まず最初に破ったのは、

「ええっ? 私、ルシルの誕生日が本物だとか偽物だとか、初耳なんだけど! じゃあルシルの本当の誕生日っていつ!? というかどうしてリエイスが知っているの!?」

フェイトだ。ものすごい勢いで詰め寄ってきた。怖いです、フェイトママ。

「とりあえず落ち着けフェイト。今教えるから、な? まず、私の誕生日はフェブルアーリ・フェムテ。この世界の暦で言えば2月5日だ。で、どうしてリエイスが知っているのかと言うと、リエイスは私とユニゾンしたことで、今まで歩んできた時間の記憶を共有した、と」

「そうだっけ? えっとそれは置いといて、2月5日!? とっくに過ぎてるよ!」

「何で今まで黙ってたのルシル君・・・!」

「いやまぁ、この世界で与えられた誕生日をそのまま使うのが当然だろ? 界律にもそのままで登録されてしまっているし、君たちにも根付いてしまっている」

だから言う必要もないって思っていたんだが、まさかこんな形で知られることになるとは。しかも半ばキレ気味で詰め寄られるなんて、世の中判らないものだな~。フェイトにそうやって説明すると、「確かにそうかもしれないけど」と勢いがなくなる。

「とりあえずは、どうする? この世界でのルシリオン(わたし)か、それともオリジナルのルシリオン(わたし)か、どっちの誕生日で診断しようか?」

「え、あ、う、えと・・・どうしよっか?」

「まずはセインテストのオリジナルの誕生日でやってみろよ、テスタロッサ」

ヴィータがそう言いながら私たちの代わりに入力していく。しばらくお待ちくださいの表示の後、相性度がバンッと出た。

「「「「「「・・・49%・・・?」」」」」」

フェイトがガクッと四つん這いになって「たったの49%・・・」と呻いた。本気でヘコんでいるフェイトに、なのは達が一斉にフォローに入る。

「しょ、所詮ゲームだよフェイトちゃん」

「そうだよフェイトママ。ただのゲームだよ」

「そうや、ゲームなんかじゃ二人の本当の相性度は出せへんよ」

「そうよテスタロッサちゃん。私たちはあなた達の相性がどれだけいいか判っているわ」

「そ、そうかな? うん、そうだよね」

「でもさすがに49%ってのは酷過ぎんだろ?」

「ガーンorz」

「ヴィータ!」「ヴィータちゃん!」

立ち直りそうだったフェイトが、ヴィータの口撃で再度轟沈。はやてがどうにかフェイトを立て直そうと「あー、今度は4月12日の方でやってみやへん?」と、私のもう一つの誕生日を入力していく。さぁ、今度の相性度は? フェイトが祈るように画面を見ている。頼むからさっきのように50%を切っていませんように。

「・・・・見てルシル! 98%だって!」

フェイトに腕を思いっきり引っ張られ、台の前に連れて来られる。さっきまでの落ち込んで暗かったフェイトの表情は今は晴れやか、満面の笑みだ。98%か。かなりすごい数字じゃないか?

「この世界のセインテスト君とは相性が最高に良くて、本当のセインテスト君とはあまり良くないのね」

シャマルがそれはもう余計な事を言いやがった。だがフェイトはトリップしているようで聞こえていないようだ。そこまで喜ばれると、かなり恥ずかしいんだがな。

「にしてもホントあんたは面白いわねぇ。二つの誕生日を持ってて、それで相性の診断結果も二つあるなんて。なのは達もやってみれば? なんか面白そうだし。あたしもやってみよっと」

アリサがとんでもない事を言い出した。面白いってアリサ。結果によっては悲惨な目に遭いかねないぞ、主に私が。で、アリサは渋るなのは達を言葉巧みに説得し、私と誰かの相性調べとなってしまった。

「シャマル、あとで胃薬を用意してくれないか? 」

「うふふ。セインテスト君も大変ね~♪」

「笑い話で済めばいいんだけどな」

当事者の私を置いて、アリサを筆頭に相性診断を勝手に始める。もう好きにしてくれ。それで相性診断の結果なんだが・・・

この世界での誕生日4月12日。
第1位:フェイト・テスタロッサ・ハラオウン:98%
第2位:高町ヴィヴィオ:86%
第3位:高町なのは:85%
第4位:八神はやて&ヴォルケンリッター(リイン・アギト・リエイス除く):74%
第5位:アリサ・バニングス:73%

リエイスは↑の結果に大いに不満があるようだったが、スルーされた。

私のオリジナル誕生日2月5日。
第1位:八神はやて&ヴォルケンリッター(リイン・アギト・リエイス除く):99%
第2位:リエイス:96%
第3位:リインフォースⅡ:95%
第3位:アギト:95%
第5位:高町なのは:88%

↑の結果についてはあまりに予想外だった。というかなんだこれ、私と八神家全員の相性が90%超え?

(これは何か意図的なモノが働いているのか・・・?)

はやて達と目を合わせると、フルフルと首を横に振った。こっちも振った。そうだよな、細工できるようなモノじゃないしな~。

「凄い結果ですね。わたし達八神家とルシルさんの相性がとんでもないですよ」

「本当にすげぇ! 90%超えかよ」

リインとアギトが色んな意味で戦慄している。この結果にフェイトがまた轟沈した。そして今度はリエイスが満面の笑みだ。

「ほう、我らとセインテストはこの世界以外では相性抜群なのだな」

「リエイスが今までに見たことねぇくらいの笑顔で逆に怖ぇんだけど」

やめてくれ、これ以上はフェイトが立ち直れなくなりそうだ。そこに助け船を出してくれたのはヴィヴィオで、

「ルシルパパ。シャルさんの誕生日も、ルシルパパのように二つあるの?」

話題をシャルへと変えてくれた。ナイスだ、ヴィヴィオ。心の中で称賛を送りつつ、シャルの誕生日に興味を持ち始めたなのは達に教えることにする。

「シャルの本当の誕生日は確か・・・ノヴェンベル・セクストンデ。11月16日だ」

そして彼女の命日が、デセンベル・ニーオンデ。12月9日。千年以上続いた大戦終結日にして表層世界の終焉、次元世界誕生の日だ。

「シャルの二つの誕生日も調べてみよっと♪」

またアリサを筆頭にして、相性診断を始める。で、その結果と言うのがコレだ。

この世界での誕生日4月12日。
第1位:高町なのは:100%
第2位:フェイト・テスタロッサ・ハラオウン:98%
第3位:アリサ・バニングス:96%
第4位:八神はやて&ヴォルケンリッター(リイン・アギト・リエイス除く):95%
第4位:月村すずか:95%

彼女のオリジナル誕生日11月16日。
第1位:高町なのは:99%
第2位:八神はやて&ヴォルケンリッター(リイン・アギト・リエイス除く):98%
第3位:フェイト・テスタロッサ・ハラオウン:96%
第4位:アリサ・バニングス94%
第5位:月村すずか:93%

す、凄まじいシンクロ率・・・。

「何と言いますか、私とシャルちゃんってすんごい相性抜群なんだね」

「100と99・・・なのはとシャルは運命の相手としか思えないね」

「残念やったなぁ、なのはちゃん。同性同士やなかったら結ばれとったで」

「他の子との相性も全部80以上だし。シャルってどれだけ他人と相性良いの・・・?」

「シャルちゃんの人格なら、なんか納得出来ちゃうけど」

驚愕に戦慄と様々な思いが生まれる。シャル、君はどこの世界へ行ってもすぐに誰とでも仲良くなっていたな。そして、おそらくこの世界が一番だと思う。たぶん次元世界こそ彼女の在るべき世界。もしかしたら君の転生先は・・・。フッ、そんな奇跡があってもおかしくないな。ちなみに私とシャルの相性度は、オリジナル誕生日で91%、4月12日で92%だった。

†††Sideルシル⇒なのは†††

アミューズメントエリアを後にして、次に温泉、最後に夕食、帰宅という予定に戻す。そのために、邪魔になる多くなった手荷物を車に置きに行ったアリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、ルシル君を見送る。ちなみにザフィーラは私たちの護衛兼ナンパ男撃退係として残ってもらってる。
四人を背中が見えなくなって、私たちは先に温泉エリアへと向かう事になった。その道中、「あ、ちょっと待ってなのはママ」とヴィヴィオが私を呼び止めた。「どうしたの?」って訊きながらヴィヴィオの指差す方へと視線を向ける。そこにはアクセサリーショップがあって、ヴィヴィオがそこへ向かおうとする。

「ルシルパパのヘアゴムがダメになったみたいだから、プレゼントしたいなぁって」

「「う゛」」

シグナムさんとリエイスさんがよろける。ルシル君のヘアゴムが切れたのって二人の所為みたいだから。二人は小さく「申し訳ありません」って項垂れながら謝った。

「そうゆう事やったら私がお金を出そか? 家族の失態は、家長の責任やしな」

「はやてさん、ありがとうございます。でも、わたしがルシルパパに贈り物をしたいんです」

ヴィヴィオが可愛過ぎる。親としての贔屓目、とか言われそうだけど違う。惜しい、惜しいよルシル君。今のヴィヴィオのちょっと恥じらいのある笑みを見逃したルシル君は残念過ぎる。まぁ見たら見たら、また親バカモードになって大変な事になりそうだけどね。

「よしっ、それじゃあヴィヴィオ。一緒にルシルパパに似合う髪留めを探そっか」

「うんっ」

ということで、ルシル(パパ)へのサプライズプレゼント作戦開始。ルシル君たちが戻ってくるまでに決めないといけないって事で、急いでアクセサリーショップに入る。はやてちゃん達も続いて自分達用のヘアアクセを見て回ってる。

「なのはママ、コレはどうかな?」

ヴィヴィオが真っ黒なリボンを見せてきた。確かにルシル君の銀髪には、というより、ルシル君には総じて黒が良く似合う。シャルちゃんも言ってたし、私だってそう思う。

「それとも赤かなぁ? ルシルパパってどれも似合うから、すぐに選べないな~。う~ん、でもルシルパパはリボンよりヘアゴムの方がいいんだよね・・? 黒のヘアゴム? 赤のヘアゴム? それとも別の色のリボン、ヘアゴム・・・むぅ」

ヴィヴィオはすごく楽しそうにルシル君に贈る髪留めを選ぶ。本当はもっと時間をかけて選びたかったようだけど、ルシル君たちがそろそろ戻りそうだったから切り上げる。

「喜んでくれるかなぁ、ルシルパパ」

プレゼント用に包装してもらった小さな箱を大切そうに胸に抱くヴィヴィオ。ヴィヴィオ。それは要らない心配だよ絶対に。

「心配いらねぇよヴィヴィオ。ぜってぇ喜ぶって、アイツ」

「ルシルさんの親バカっぷりはすごいですからね~」

「セインテスト君はきっと叫ぶわね。ヴィヴィオちゃんへの永遠に朽ち果てぬ愛をッ♥」

うん、親子愛だよ、親子愛。シャマル先生、“親子”を付けてください。付けないとルシル君が危ない人だというように聞こえますし。ほら、ヴィヴィオが「あ、愛、ですか・・?」って、照れてながらも困ってるじゃないですか。可愛いからいいですけど。

「そうだよヴィヴィオ。ルシル君は絶対に喜んでくれる。シャマル先生の言うように叫ぶくらいにね。親子愛をね、うん、親子愛」

「そ、そっか、そうだよね。もぉ、シャマル先生!」

「や~ん、ヴィヴィオちゃんか~わいぃ~い♥」

「わぷっ?」

シャマル先生がヴィヴィオを抱きしめて、くるくる回り始めた。二人の周辺にハートマークが乱舞してるのが幻視できる。

「あれ? なのは達どうしたの、まだこんなところで・・・?」

フェイトちゃん達が戻ってきていた。もちろんルシル君もいて、「先に行っていなかったのか?」と訊いてきた。シャマル先生はヴィヴィオを降ろして、背中をそっと押した。

「なのはママ・・・」

「うん、渡してあげて」

ヴィヴィオは頷いて、ルシル君の元へ駆け寄る。

「ん? どうしたヴィヴィオ・・?」

「ルシルパパ。あの、コレ・・・」

ヴィヴィオが差しだしてきた包装された箱を見て、ルシル君は「コレは・・・?」と受け取って訊ねる。

「ルシルパパにプレゼント。少し遅めで、少し早めなバースデープレゼント」

「っ、私に、ヴィヴィオからの誕生日プレゼント・・・。あ、開けてもいいか?」

「うんっ。あ、でも喜んでもらえるか判らないけど・・・」

「どんなものでも嬉しいに決まっているだろ? 愛娘(ヴィヴィオ)からのプレゼントなのだから」

ルシル君は丁寧に、それはもう壊れモノを扱うように包装紙を解いていく。長方形の白い箱を開けて中身をそっと取り出した。

「ヘアゴムとリボン・・・」

「ルシルパパのヘアゴムがダメになったでしょ。帰れば代わりのゴムとかあるけど、でもこれくらいしか思いつかなくって。ルシルパパに一番似合う黒色に、象徴する十字架がデザインされたヘアゴムとリボン。どうかな?」

ルシル君はリエイスさんに付けてもらったヘアピンとバレッタを外す。フェイトちゃんが受け取って、ルシル君は黒の生地に白い十字架が幾つも刺繍されたリボンで後ろ髪を縛った。銀髪に良く栄える黒のリボン。ヴィヴィオが選んだ逸品だよ、ルシル君。

「ありがとうヴィヴィオ。大切に使わせてもらうよ」

「うん。・・・・わたしのパパでいてくれてありがとうルシルパパ!」

ヴィヴィオがルシル君に勢い良く飛び付いて抱きついた。そしてルシル君の反応は・・・ヴィヴィオをギュって抱きしめ返した。俯いているから顔は見えないけど、私たちは顔を見合わせて頷いた。いつでもルシル君に飛びかかれるようにスタンバイレディ。ルシル君がバッと顔を上げて、それはもう緩みきった顔を見せた。来るか!?

「はぁ、みなさん・・・すぅぅ・・ウチの娘が可愛す――」

「「「「「「「ストォォォーーーーーーップッッ!!!!」」」」」」」

親バカによる親子愛を叫ぼうとしたルシル君を全力で阻止した。なんとかルシル君を落ち着かせて、私たちは予定通りに温泉に入って夕食を済ませた。
あとでザフィーラに聞いたんだけど、ルシル君が私たち女性組と別れてすぐにクロノ君とか知り合いの男性に、ヴィヴィオがどれだけ可愛い娘か自慢しまくってたらしい。あー、ルシル君、もう引き返せない場所まで行っちゃったんだね・・・。
そして帰り路の車内。ルシル君を真ん中に、ヴィヴィオが左、フェイトちゃんが右と言うように座ってる。

「なぁ、フェイト、なのは」

「「ん?」」

「どこの世界、いつの時代、やっぱり家族というのは素晴らしいな」

自分の胸にもたれかかって眠ってるヴィヴィオの頭を撫でながら、ルシル君がとても綺麗な微笑みを浮かべた。私とフェイトちゃんは考えるまでもなく「そうだね」って首肯した。うん、家族を持つのはすごく素晴らしい事で、とても幸せな事だ。

「ありがとう」

ルシル君はそう一言。私たちは声には出さず、頷くことで応えた。すずかちゃんの運転する車は、みんなで一緒に泊まる事になってるすずかちゃんの家を目指して走る。

(久しぶりに帰ってきた海鳴での休暇は、大成功だったかな)

色んな事が多くあり過ぎて驚くこともあったけど(特にルシル君の崩壊)、それでもいい休暇だったって事はハッキリと言える。助手席の窓から外を眺める。またこんな楽しい休暇を過ごせる日が来ますように、と。誰にも気付かれることなく、私は指を組んで、そんな願うまでもないような事を願った。




†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†


ルーテシア
「どうしたのレヴィ、こんな夜中にコンコンと?」

レヴィ
「・・・・あ、ごめんねルーテシア。起こしちゃった?」

ルーテシア
「それはいいんだけど。って、なにその格好?
頭に変な輪っか乗せて、しかもロウソクを刺してるし。熱くないの?
それに、金槌? それで何を叩いてるの? レヴィ」

レヴィ
「あ、これ? なんか願いを叶えるおまじないらしいんだけどね。
藁で作った人形に、わたしのお願いを聞いてほしい人の私物を埋め込んで、その人形に釘を打ち込むんだって。やる時間も大体決まってて、夜中の2時くらいじゃないと効果が無いって話」

ルーテシア
「へぇ~。だからこんな夜遅くにね。にしても随分と変わったおまじないなんだね。ところで、レヴィの願いってやっぱり本編での登場?」

レヴィ
「正解!」

ルーテシア
「(もうそれしか思いつかなかったし)そっか。ところで、誰の私物をその藁人形に埋め込んでるの?」

レヴィ
「えっへん。それはもちろん・・・・」ニヤリ☠



 
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