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Re:ひねくれヒーロー

作者:無花果
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第一部
死と共にはじまるものは、生である
  人間は自分の知っていることなら半分は信じる

 
前書き

人間は自分の知っていることなら半分は信じるが、聞いたことは何も信じない。
—クレーク夫人—
 

 



一度茶屋から出て船着き場で乗船チケットを購入しておく
何事も下準備が大切なのだ
まだ3時間ほど時間に余裕があるので、茶屋で食事でもとろうと思い、元来た道を歩き出す
歩いているうちに無性に気分が悪くなり、口内に血がせり上がってくる
いつもの吐血とは違う感覚に焦り、慌てて茶屋でトイレを借りる

トイレを借りて30分はたっただろうか
店員が心配そうに外から声をかけてきている

それを無視して、喉を押さえ吐き続ける
備え付きの小さな鏡が、青白い顔を、この短時間の内にやけにこけた頬を映し出す
喉から手を離し、紙を乱暴に手繰り寄せ口を覆う
不意に映った喉元に、褐色の絞め跡を幻視した

すこし治まっていた吐き気がぶり返した
心の内に灯るのは恐怖か恨みか
ただの弱者でしかない自分に対する恨みか
気絶しないよう足をつねって痛みを与える

冷たい壁に身を預け、座りこむ
血の匂いと胃液の酸い臭いが立ち込めている
茶屋の者にいくら包めばいいだろうかと現実逃避気味に考え、息を整える

しばらくして、外から騒がしい音が聞こえてきた
店員が医者でも連れて来たのかと思ったが、突如壁に伝わる衝撃に飛び上がる
似ているようで、似ていない
どこか懐かしくも、真新しいチャクラ

これを俺は知っている
熱を持ち始めた頭が警鐘を響かせる
思わず腹部を押さえ、壊された扉を眺めた

金髪の女、長い髪を一つにまとめたくのいちらしき人物
原作に出ていた彼女を、俺は覚えていた

(・・・二位、ユギト・・・)

同じ、人柱力
なるほど、懐かしいと感じたのは尾獣のチャクラのせいだったのか
俺の存在を確認し、吐き続けた血のあとを見るや否や血相を変えたユギトは、ポーチから増血丸を取り出し、そのまま俺の口に含ませた
吐き続けたせいで口内の感覚があやふやになっていたが、なんとか噛み砕き飲み込んだ

「君、大丈夫かい?常備薬はある?」

優しく、幼子に問いかけるようだった
震える手で腰につけたポーチをあける
俺が探るより早くユギトが中を確認し、何種類かの薬を取り出す
小ビンに入った錠剤を指し、指で数を示す
途中噎せこんで血を撒き散らしてしまう
店員が水の入ったグラスをユギトに手渡し、彼女は錠剤と水を口に含み、そのまま俺に口移しで流し込んだ

(・・・この体のファースト、キス・・・だな・・・)

そんなことを考えられる余裕が出てきた
薬を飲んだ安心感からか、眠気が襲う
このまま寝てしまってはいけない、気を紛らわすようにユギトの手を握った

「・・木の葉の、里に・・・港の船・・・」

乗船チケットを取り出しユギトに見せる
このまま倒れて、乗り損ねてはいけない
言いたいことが伝わったらしく、チケットを確認してくれる

「木の葉に行きたいんだね?大丈夫、船は安心していいよ
 医者はもうすぐ来るから、しっかりおし!」

もしかしたら俺以上に青褪めている茶屋の主人が見える
自分の店で死者でも出ちゃ商売にならんわな
迷惑料を取り出そうと胸元から財布を取り出し、何枚かお札を握りしめる

「ぼうや・・・?」

訝しげにユギトが眉を寄せた

「げほっ・・・めい、わくりょう・・・ごめ、んなさい・・・」

主人に向ける
ただでさえ青い顔が余計に青ざめていく
いらない心配だったんだろうか
瞼を閉じると限界が来た
遠くから医者が来たことを告げる声がする
ガクッと音を立てて崩れ落ちた









「・・・きて・・・起きて・・・」

誰かが揺さぶっている
頭が重く、起き上がりたくないが、呼ばれてるからには起きねばならない
ゆっくりと目蓋を開く

・・・あぁ、二位ユギトか

一瞬誰だか分らなかったが唇を見て思い出した
レモンじゃなくて血の味だったね

「・・・おはよう、ございます、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません」

秘儀・起きぬけ土下座の術
湯隠れにて強制習得した高等技術だ
これを使えばどれだけ血で汚れていようと許していただけるすばらしい術であるマル

「どうやら大丈夫そうだね、それじゃ、私は任務があるから失礼するよ」

苦笑しながらユギトは立ちあがり、傍らの医者らしき人物と茶屋の主人にあいさつする

「お姉さん、増血丸ありがとうございました」

「・・・あぁ、気にしなくて良いよ
 ところで君の船はあと30分経つと出航するから気をつけてね」

瞳があやしく輝いたがそのまま走り去って行った
流石忍者だけある、目にも追えない早さだった

「坊主本当に大丈夫かい?入院したほうが良いと思うんだが・・・」

医者がそう言った
確かにここまで吐き続けたとなると一旦入院しておきたいが、まずは木の葉に行かないとだめだ
茶屋の人々や医者に謝り倒し、迷惑料を支払い団子を買い船着き場へ移動する
途中まで医者がついて来てくれるようだ

「本当に、御手数お掛けしまして申し訳ありません」

再び土下座する勢いで謝り倒す

「いやいや、それだけ元気があればこちらも有り難いよ
 あのまま死んでしまうかと思ったからね・・・」

遠い目で頭を撫でられた
いや、本当に申し訳ないです

「そういえば君は身内に忍者でもいるのかい?」

ん・・・何か探りを入れられて・・・るのか?
一体なんだ?
医者の眼が何やらあやしい

「祖父代わりの人が忍者やってました」

自称祖父とか言ってたけどな自来也は・・・
俺はあいつを忍者と認めたくない
あいつただの変態か紳士じゃねーか

「なるほどねぇ、いやね、増血丸を知ってる子供って中々いないからね
 ・・・以前にも増血丸を使ったことが?」

そうか、増血丸って一応忍具だから一般人は知らないはずなのか
ということはユギトの目がおかしかったのもこれのせいか
他里のスパイだと思われたか?

「何十回と使用してます
 増血丸だけじゃなくて兵糧丸も食べさせられましたね
 薬だけじゃ栄養補給できないし血も増えないし・・・知り合いの医療忍者の方に術をかけてもらったこともありますね」

ひーふーみーと増血丸などを使用した記憶を数えだす
両手で数えきれないぐらいで医者の顔色が変わった

「・・・よ、よく生きてこれたね・・・」

純粋に心配されてしまった
拷問の傷も大体癒えてきているため、尾獣効果で生き延びているのだと思う
根本的な体質改善には繋がっていないけど

船着き場が見えた

「・・・それじゃ坊主、気をつけて旅をするんだよ
 危ないと思ったらすぐ何処かの病院に駆け込みなさい」

「はい、肝に命じます
 あのくのいちさんと出会うことがあればお礼を言っていただけませんか?」

きちんとお礼を言えなかったのが気になっていてと、言葉を濁しながらいうと医者は黙って頷いた
船着き場と船を結ぶ木の板を登り船員にチケットを見せる
部屋のかぎを貰い、振り返って医者に手を振った






「・・・どうやら、本当に忍者ではなかったようですね」

医者は出航した船が小さくなるまで見つめていた
ポツリと溢した呟きに反応して女が現れる—二位ユギトだ

「ただでさえ情勢の悪い昨今
 雲と揉めた木の葉へ行きたがる子供まで監視が必要だなんて、な」

「そんな事言いだしたらきりがないでしょうユギト様」

「そうだな・・・入国者の監視なんて嫌な任務ね・・・」











晴れることなく暗雲が立ち込める大海原
嵐が絶え間なく続き、船員たちにも支障を来していたが、なんとか火の国の港へたどり着いた

正直に言おう
雷の国で入院すべきだった
船医はもうすぐ火の国へ着くと言った記憶はあるが、病室のベッドに身を任せたまま日数など感じられない
吐き気など通り越し、苦い液が口内を蹂躙した
どこからともなく、港についたことを知らせる声が聞こえて来たときには喜ぶ気力もなかった
陸にあがり、新鮮な空気を吸えたおかげか頭がすっきりしていた

先程までは——

「コンよ、よくぞ無事に火の国まで来れたッ
 頑張ったぞ!」

俺を抱きしめ号泣するエロジジイのおかげですっきりした頭も頭痛に悩まされている
・・・木の葉で待ってるんじゃなかったのか、なんで港にいるんだとツッコミたいことは多い
だがそれよりも・・・

「抱きしめるどころかサバ折りに進化していくその行動を止めろ!!」

くの字に曲がり始めた体が限界を示すようにボキボキと鳴り散らす
道行く人々、特に老人が無事で良かったですのーなどと声をかけることがまた気に食わない

「しぬ!比喩表現じゃなくて死ぬ!モツでる、吐血した!!」

叫んだ拍子に溢れ出る血が自来也の髪を染めた
それでも気にせず抱き締め上げられる
ふざけるなジジイ 
そのまま数分はサバ折りされたままだった

「死にかけてたお前が無事に自力で歩けていたことが嬉しくてのぉ・・・」

拘束から解放され、船着き場から移動し始めた自来也は言い訳がましく呟いた
吐血して失った分を補うように増血丸を貪り食いながら聞き流す
そりゃ、死にかけてたなら心配・・・するのかな・・・イマイチ分からない

「ここから木の葉まではわしが連れていくからの
 さぁおぶされ」

町の門につくなり俺の前にしゃがみこみ、背に乗るよう促される
だから木の葉云々の試験はどうしたってんだよ
渋々背中に体を預け、首元に手をまわして固定する
それを確認して自来也は忍者的スピードで走り始めた
サラマンダーよりもはやー・・・やっぱやめよう

周囲の景色が目まぐるしく変化し、認識できるのは色ぐらいだった
まるで溶けて行くような緑色に意識が飛びそうになり気を引き締めた
・・・そういえば、引っかかっていたことがある

「おいジジイ、なんで俺があの港に来るって分かった?」

手に微かな身震いの振動が伝わる
つばを飲み込んだ感触まで伝わってくる

「・・・んん、雷の国から来る船だったらあの港が一番多いからの、ヤマカンがあたったわい!」

誤魔化すような、そんな声色
ヤマカンのあたりでしゃべるのが早くなる
・・・雷の国から、ねぇ?

「・・・・・・なんで、俺が雷の国から来るって確定してんの?」

陸路から来る可能性も、あったよな?
耳元でそう呟く
感情の乱れを感じ取り、狐火が発現する

「・・・・・・・・・いや、その、湯隠れから・・・だとそう考えるのが一番で・・・

「ジジイ」

 ・・・すまん、尾行しとった」

首筋に大粒の冷や汗をかきながら誤魔化そうとしたジジイの耳元に、狐火を押し付けた
痛みはさほど感じていないようだが呆気なく答えられた

「デイダラとか角都のときも、見てたのか?」

蝦蟇に試験だと言われたときから見られていたのだろうと予測する
角都のときは助けてもらいたかった
本気で

「ん?あの芸術家気取りの小僧と・・・お前を投げ飛ばした男か?」

そこまで見てたら助けてくれ

「あいつらS級犯罪者だぞ、助けろよ!あとあいつら月隠れで俺を拷問した奴らだよ!」

怖かったんだからな!とジジイの髪を引っ張りながら叫び続け、木の葉に着くころにはお互い気力ゲージがゼロに近かった







木の葉の里、火影邸で三代目の到着を待ちながら茶を啜る
良いお茶だ
何人かの監視の忍者から不躾な視線を感じる
自来也は彼らを無視して原稿を書き連ねている

「・・・俺超アウェイ」

視線に耐えきれず自来也に懐に潜り込んで身を隠そうと試みる
無駄に等しい行動だ
時折自来也の原稿の誤字を指摘しつつ湯呑を握りしめた
旅の疲れがでたのか眠りそうになる

「・・・ひーまー・・・」

後日、忍びたちの不躾な視線が、仲の良い爺孫を見る暖かい眼差しだったと説明された

「待たせたのう自来也や・・・それに、コンじゃったかの?」

火のマークが入った笠を脱ぎつつ部屋に入ってきた老人、原作より些か若い三代目がこちらを見た
自来也の懐に潜り込んだままの失礼極まりない態勢を正すため出ようとする
すると自来也に制止されそのままの状態で捕獲される
良く分からないがされるがまま三代目に会釈だけ返した

「自来也さま、その子供あまりにも無礼ではありませぬか?!」

当然俺の態度が気に食わない側近が怒鳴り散らす
どんな躾をしているのかと小言を食らう
俺もそう思う

「構わぬよ、わしは猿飛ヒルゼン、この木の葉の火影をしておる者だ
 名前を教えてもらえるかのう?」

顔を真っ赤にした側近を押さえて三代目が進み出る
いつの間にか原稿を片づけた自来也が俺を強く抱きかかえ、静かに促す

「・・・ねたみ コンです
 年は・・・見た目より上です
 親の顔は知りません、夢は忍者になることです」

当たり障りのない自己紹介
親の顔云々で三代目の表情が曇る
それは同情か、それともスパイかどうかを判断しかねているのかは、わからない

「俺には不思議な力があります」

そう言いつつ狐火を腕に纏わせる
熱さなど感じない、俺だけを包む炎
ざわめく忍者たちを制する自来也、また僅かに表情が厳しくなる三代目
・・・九尾のチャクラを、残照でも感じ取ったのだろうか

「自来也はこれを狐火と呼びました
 木の葉は狐と縁深い地とも聞きました
 この狐火はその狐の力の欠片だとも教わりました」

三代目の目を見ないよう、炎だけを見て淡々と話す
嘘はついていないが納得させられるだけの言い分がない

「・・・自来也よ、お前の言っていたことは事実だったのだな・・・」

ありえないとでも言いたいのだろうか
震える声が俺と言う存在を否定しているように聞こえてくる

「わしが発見したときにはすでに狐火を纏っておった
 ・・・尾獣の兵器利用の実験体ではないかと思っておる
 もしくは九尾の肉でも食らったことがあるのかも知れん」

異世界なんて話しは信じてもらえない
いくら弟子である自来也の言葉と言えど、信じられるものではない
だからといってそういう説明をするのはどうかと思う
同情でもひいて解決する問題ではないだろう

「雲の金銀兄弟のように、か・・・」

誰だそれ?原作でそんなんいたっけ?本誌で出たキャラか?
ざわめく周囲から時折、狐やバケモノなどというセリフが聞こえてくる
忍でない俺が聞けるほどの声、聴覚に優れているであろう三代目たちにも聞こえ顔を歪めていた

「コンと言ったの、お前に会わせたい子がおるんじゃ
 ついて来ておくれ」

誰の共もつけず、三代目が退室しようとする
俺がわからないだけで暗部がついているから大丈夫なんだろう
自来也が俺の手を引いて歩き出した
一度取り残される忍びたちを見て、手だけ振った









三代目に連れられてやって来たのはどこかで見た覚えのあるボロアパート
扉をノックすると少年らしき声が聞こえてきた

「あれ、じいちゃんどうしたんだってば?」

珍しいとでも言いたげに扉から顔を出す金髪の少年—ナルト
原作の主人公、ドべと言われながらも後に才能を開花させた、俺と同じ九尾の人柱力
チャクラが豊富だったと思い出し思わず睨みつける
視線を感じたのかナルトも対抗するかのように睨みつけ・・・やがて何かを思い出したのか笑いだした

「じいちゃんじいちゃん、もしかしてコイツ、前に言っていた!?」

「うむ・・・さぁコン、ここが今日からお前の家じゃよ」

・・・え

「なぁお前名前は!?オレはうずまきナルトだってばよ!
 仲良くしようってば!」

元気よく手を差し伸べられる
流石にアパートの一室に同居とかないよな?
お隣さんになるだけだよな?こんな騒がしいのと同居とか心安まる暇がないぞ?
黙って自来也を睨みつけ、反応が返ってこないので渋々差しだされた手を握った

「ねたみコンだよ
 仲良く・・・なれるのかね」

こちらが恥ずかしくなるほど満面の笑みを浮かべられる
握った手はリズムカルに上下左右に振られている

「ナルトよ、コンは病弱での、道中も吐血しておった
 なにかあったらすぐに病院に連れて行ってあげるんじゃぞ」

吐血と聞いて意味がわからなかったらしく、口から血を吐くことだと教えてやれば、血相を変えて三代目に力強く頷いた

「このナルトさまに任せろってばよ!コンも!しんどくなったら俺に言うってば!」

このテンションが・・・一日中続くのか・・・

「なんて罰ゲームだ」

思わず溢した言葉に三代目と自来也が笑っていた


 
 

 
後書き

更新停滞申し訳ございません><

次回からアカデミー編
これから新話が入ったりします
ようやくリメイクらしくなる―――のかなぁ・・・ 
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