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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter41「理想と真実の物語〜源霊匣、暴走」


ユリウスの所在について何らかの有力な情報を持っているかもしれない、ジュード達の知り合いであるバランを訪ね、ヘリオボーグ研究所へやってきたルドガー達。
だが……

「またえらい騒ぎやな」
「軍の人間も出動してるみたい……ただ事ではないね」

またもルドガーが厄介事に巻き込まれたことを、はやてとフェイトは目の前の状況を見て理解した。
研究所の敷地に入ってすぐの広場では、多くのエレンピオス兵と研究職員が慌ただしく動き、騒然としている様子が目に入る。

『ダメだ。完全に警備システムを押さえられてる。俺ひとりじゃどーにもならな---』

何が起きているのかとジュードが知り合いの研究員に尋ねていると1人の男が近づいてくる。
声に気付いて男の顔を見たジュードは驚く。

『アルヴィン!』
『おっと、こりゃまた、いいタイミングで』

彼はかつてのジュード達の仲間の1人であるアルヴィン。こうも事件に関わる度に偶然仲間と再会していくところを見ていると、何かが彼らを引き合わせているのではないかと思えてくる。
再会を喜ぶ暇もなく、ジュードはアルヴィンと研究員から詳しい話を聞く。
現在ヘリオボーグはテロ組織アルクノアが施設に押し入り警備システムを制圧、施設内にはリーゼ・マクシアの親善団体とその案内をしていたバランが取り残されているというのだ。アルクノアは非情な組織だ。生存者がいればまず生かすことはしない。列車テロでのことわかりやすい例えだろう。それを踏まえれば一刻早く、彼らを救出しなければならない。

『ルドガーだっけ?これはアルクノアのテロだ。俺、元アルクノアなんだけど、信用してくれるか?』

アルヴィンの告白になのは達は驚く。ルドガーからアルヴィンのことは、ジュード同様に伝えられてはいたが、彼がアルクノアの元一員だとは伝えられてはいなかった。これから赴く場所のことを考えれば、笑えない話ではあるが、アルクノアのことをこの中で誰よりも知っているという点では心強い。
しかし、それでも信用に値するかは迷うとこだ。

『信用するよ』

だがルドガーは2つ返事であっさりと返していた。

『なるほど、ジュードの友達って感じだな』
『………』

好意で信用すると言ったことに対して、アルヴィンの皮肉めいた言葉に顔を僅かにしかめるルドガー。

『アルヴィンは、ジュードの友達じゃないの?』
『ん……どうかな?』

エルはそっぽを向いてアルヴィンに言う。

『なんか信用できなさそう……』
『子どもの目はごまかせないな』

自嘲気味に頭を掻くアルヴィン。

「どうして、アルヴィンさんは疑われるようなことを自分から言ったんでしょう?」

アルヴィンの自らの疑惑をにおわす言動に、エリオは疑問を持つ。エル程ではないがエリオやキャロも少しアルヴィンのことを疑っているのかもしれない。

「なんとなくなんだけど、アルヴィンさんは正直になりたいんだと思うんだ」

エリオの疑問にフェイトが応える。

「でもさっきのアルヴィンさんの話し方じゃ、逆に誤解を受けてしまうんじゃ……」
「うん……見てるだけで彼が不器用なのがわかるね」
「でも……」

アルヴィンの目を見つめ、何かを思ったなのは。

「きっと、嘘をつきたくないんじゃないかな」

アルヴィンはかつて自分に信頼を寄せていた人間の気持ちを何度も踏みじり、裏切り続けた。
生きるためだった。ただ故郷に帰りたかった。そのためならどんなことでもやれた。だがいつからかそんな自分の生き方に疑問を持ち始めてきた。そんな迷いを持つ中、変わる切っ掛けを得ることができたジュード達との出会いは、アルヴィンにとって“世界”が変わった瞬間だったのだ。
もう嘘はつきたくない……それが今のアルヴィンの本音だ。

『状況を確認しよう。バランさんと見学者が閉じ込められているのは?』
『開発棟の屋上付近かと』
『警備システムの制御室は?』
『研究棟の最上階にあります』

研究員から状況を確認したジュードとローエンは、作戦を決め二手にわかれて動くことをなった。バラン達を救出するのはルドガーとジュード、アルヴィン。曇天の空の下、せめて事を全て片付けるまで天候が崩れないように祈りながら、バランを探す。

『バンバン撃ってきやがって……こっちも、もっと飛び道具が欲しいな』

研究所内はアルクノア兵や対人兵器が展開し、前に進もうにも中々進むことができない。
その上飛び道具を標準装備している相手に苦戦ではないが、後手にまわりかけていた。
そこへ、上空からイバルが舞い降りてくる。

『ふっ、いいところに来てしまったようだな』
『またこの人!』

毎度記憶に残る登場をするイバルを見れば、エルのセリフはうなずけるものだ。
マクスバード同様にルドガーへ新装備の拳銃を届けに来たのだが……

ズカーン!

『あっ、危ねぇ~……!』

自慢気に二丁拳銃を胸の前で交差させ構えるが、勢い余って拳銃の引き金を引いてしまい、発砲してしまった。目の前で見ていたルドガー達は当然呆れていた。

「……もう必然やな」

何度目かのイバルのヘマを見たはやては、ルドガーと同じような様子で呆れながらそう呟いていた。

『見ての通り、危険な武器だ。扱いには十分気をつけろ』
『あなたがね……』

二丁拳銃クランズオートを受け取るルドガー。それから強制的にイバルの実演演習が始まった。

『とっとと銃を構えろ!さぁ、銃だけに「ガンガン」いくぜ!』

……センスのないシャレももれなくついてくるのはお約束だった。
結局さわりだけを教わると銃を巧みに扱いイバルを圧倒。呆気なくルドガーに倒されてしまう。
計三種の武器を器用に操るルドガーに戦闘後の、借金あるから器用ビンボーというエルの言葉にはやて達は納得してしまう。そして見事サンドバックを演じたイバルは、負傷した肩を押さえながら何処かへ消えていった。
二丁拳銃という火力を得たことで当初より敵を倒すことが大分容易くなり開発棟を再び目指す。
進行方向から機械兵器が現れ、次の瞬間、通路脇から放たれた精霊術が機械兵器を撃破した。

『エリーゼとティポだよ』

精霊術を放ったのは一年前ジュード達と旅をしたエリーゼとティポだった。リーゼ・マクシアの親善使節としてエリーゼが通う学校が選ばれ、ヘリオボーグの見学に来ていたところ、この事件に巻き込まれてしまったようだ。

『かわいい子だな』
『そんなことないです……』

ルドガーの褒め言葉を聞いたエリーゼは顔を赤らめて答える。
ルドガーにとって何気ない一言だったのだが……

『ルドガー、チャラ男……』

ジト目でエルがルドガーを睨んでいた。それは軽い嫉妬のような感情から出た言葉。
そして時と時空の異なるこの場所でも……

「……潰したる」
「ひぇ!?」

冷たい視線をルドガーに向けるはやてにリインは恐ろしさのあまり悲鳴を上げてしまった。
はやてを除く六課メンバーはルドガーと再会した時、彼の生命が脅かされることがないことを心から願っていた。
エリーゼと合流して一連の事件の事情を確認しあう。学校の生徒を逃がす間の囮になったバランが開発棟の上に残っているというのだ。案内をエリーゼに頼んでいると突然、雷が鳴り響いた。

『雷……怖いんですか?』
『べ、別に!』

雷に驚いて小さな悲鳴を上げたエルにエリーゼが話しかけるが、怖くないと強がるエル。
子供らしいエルの一面を見てこんな状況だとわかりながらも少しだけはやて達は自然と微笑んでいた。そんな時だった。強がるエルに追い討ちをかけるように、さらに大きな雷鳴が轟いた。

『きゃあああ!』

エルの抑えることのできなかった悲鳴が通路に響く。次の瞬間、空間が歪み出した。
突然の出来事に困惑するルドガー達とはやて達。

「ティア、これって……」
「ええ……また」

進路とは逆方向へ勢いよく走り転んでしまったエルを確認して、ティアナ達はまた“何か”が変わったことを肌で感じていた。
ルドガーたちは所内を用心しつつ進み、屋上に到着する。

『ジジ……ガガ……』

そこには、電気を放つ不気味な物体が浮遊していた。

『また変なのだ!』
『源霊匣ヴォルト!』
『ビリビリするやつだよー!』
『また作ったのかよ!?』
『……制御もできないのに!』

源霊匣を初めて目にしたはやて達だが、このヴォルトが普通の状態と異なるのは一目瞭然だ。

『ビビッ!ビィー!』

突然ヴォルトが周囲に雷を放った。

『きゃああ……!』
『フギャア……!』

ヴォルトの放った紫電に打たれたルルは悲鳴を上げて気を失ってしまった。

『ルル!』
『うおおっ!』

瀕死のルルに目に涙をためながら駆け寄るエル。
激情に駆られたルドガーはヴォルトに斬りかかる。

「ル、ルドガーさんが……」
「怒ってる……」

ルドガーと過ごしたこの数ヶ月の間、彼が怒る姿を見たことのないキャロとエリオを始め皆驚いている。特にフォワード達は教導をルドガーから受けてきた。
訓練中、どんなに失敗しても怒鳴ることなく手取り足取り優しく教えてくれたルドガーの今の剣幕に思わずたじろいでいた。

『ビィーッ!スパーク』
『せっ!それ!』

雷撃を躱しつつ遠距離からクランズオートを放って反撃を繰り返す。

『砕けろ!』
『ピヨピヨ……』

ルドガーとリンクを結んでいたアルヴィンが大剣を振るい、ガードブレイクする。
しかもサポートスキル『ブレイカー』によるガードブレイクでヴォルトは気絶してしまう。
その隙をルドガーは見逃さない。

『アルヴィン!』
『おう!吠えろ、ルドガー!』

かたを付けるため共鳴術技をアルヴィンと行う。

『『モータルファイア!』』

3つの銃口から銃弾が放たれ、ヴォルトに向け集中砲火を浴びせる。

『……アイウィン!』

互いに力を合わせて、ヴォルトの暴走を食い止めたルドガー達。
暴走が収まり、ヴォルトは力無くうわ言のように何かを呟き始める。

『ジジ……エラー……。タマシイ……オセン……シンコウ……』
『タマシイ?汚染進行?』

かろうじて聞き取ることのできたヴォルトの言葉について考えるジュード。
しかし、自分の頭にある知識からヴォルトの言った言葉が何を意味するか分からない。

『コントロール……フノウ!』

ヴォルトの身体から強い雷が放たれる。警戒を緩めず構える一同。
その瞬間、ルドガーの身体が骸殻に包まれ、槍でヴォルトの身体を貫いた。

『うおおおっ!』

引き抜かれた槍の先端にはやはり歯車状の物体が貫かれており、直ぐに砕け散った。
そして光と共に世界が割れ、空間が歪んでいく。驚いている間もなく一同はその歪みに飲み込まれ、気付くとヘリオボーグ研究所の一階に立っていた。

『ナ……ァ……』
『ルル、しっかり!』

ルルに近寄り必死に呼び掛けるエル。エリーゼはルルの前にしゃがみ、回復術を唱える。

『大丈夫、任せてー』

エリーゼの横からティポががエルを励まそうと声をかける。

『ナァ……』
『ルル!』

エリーゼの回復術で傷が癒えたルルが目覚めた。その腕を見たシャマルはエリーゼの回復術が自分の回復魔法と同等の力ではと思った。なにが起こったのか理解できないまま一同は、バランを探す為屋上を目指す。ユリウスについてもだが源霊匣ヴォルトについて所長である彼なら知っているはずなのだ。
だが屋上には誰一人居らず、それどころか先ほどの戦闘の後すらなくなっている。
まるで最初からここで戦闘などなかったかのように……。

『出てこいよ、バラン』

周囲を見渡したアルヴィンは上を見上げて、そう話した。

『よくわかったね、アルフレド』

アルフレド---アルヴィンの声に反応し、物影に隠れていたバランが姿を現す。

『ガキの頃から隠れ場所変わらなすぎ』

ようやくバランと合流できたルドガー達は、早速ヴォルトについて尋ねる。
だが、バランは源霊匣ヴォルトを作っていなければ、作る準備もしていないというのだ。

「列車テロやイルベルト殿の時と同じだな……まるで事が最初から起こらなかったかのような……」

これまでに感じた違和感を思索するシグナム。
だがジュード同様何も出てはこなかった。

『で、知ってるの?ユリウスって人のジョーホー』

源霊匣のことについてジュードがルドガーに誤解のない解説を終え、エルがユリウスについてバランに尋ねる。結局バランはユリウスに関する情報は持っていなかった。

『カナンの地は、魂を浄化し循環させる聖地よ』

最後にユリウスに会った時に、行き先についてジュードとエルが尋ねていると、どこからともなく声がした。

『ミュゼ!』

声の主は、上空に浮かんでいる女性だった。

「あの女は確か、精霊の!」

ヴィータはルドガーの持っていた写真にミュゼが写っていたことを思い出して、思わず声を出していた。

『こんにちは、ジュード』

突然現れたミュゼにジュードは驚く。ミュゼには次元斬り裂く力があり、これを用いれば本来は不可能な人間界と精霊界を行き来することができる。そして更にジュードは驚くべき話しをミュゼから聞かされた。

『ミラが、いなくなっちゃったの』

彼女の妹にあたりジュードの仲間でもある精霊の主ミラ=マクスウェルが行方不明だというのだ。
魂の浄化に問題が起きたと言って精霊界を飛び出して人間界に向かったらしいのだが……

『人間界に来てるの?』
『そのはずだけど……会ってないのね』
『………』

ジュードは無言で答える。動揺するジュードを残してミュゼはミラを探すと言い残し大空へと姿を消した。謎の現象に続き精霊の主の行方不明。特にジュードはミラの行方不明という事実に衝撃を受けていた。やがて別行動をとっていたローエンとレイアが屋上へやってきた。かつての仲間が集結し喜ぶレイアとエリーゼ。

『みんな集まっちゃいましたね』
『ひとりいないけどな……』

アルヴィンはそうつぶやき、1人で佇んでいるジュードを見た。

『ミラが……行方不明』
『………』

曇天の空を見上げるジュード。
だが空は何も彼に真相を語りはしない。

問題と不安を抱えつつもジュードは前に進むしかなかった

 
 

 
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