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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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合宿編
  十五話

 あくる朝、アインハルトは軽いランニングに赴いていた。
 見据えるのは対戦相手。あの凄い人達にこの拳は届くのかな、と繰り出す。
なのはのシールドを破れるのか、スバルの豪拳を越えられるのか、これでエリオをより速く鋭く突けるのか。どれも生半可では通じないだろう。
 だが、不思議と悲痛な気持ちは無いどころか、寧ろ沸き立ってくる。まるで、アレクとの争覇の終わり際のような――――

「おはよう、アインハルト。早いわね」
「おはようございます、ティアナさん。お待たせしました」
「何言ってるの、まだ時間前よ」

 呼び出しの時間に少し余裕があったのでランニングしていたが、ロッジ付近に着くと既にティアナが居た。
 だが、同じく呼び出されたアレクの姿が見えない。……まさか、忘れてまだ寝ているのだろうか。昨夜、風呂上り後すぐにロッジ裏へ呼び出され、被害を被った者に総出で説教されたというのに、まだ怒られ足りないというのだろうか。
 そんなアインハルトの内情をティアナは察したのか、木々の方を指差す。

「アレクならあそこよ」

 指から先を辿るように視線を移すと、アレクは濃い赤地に所々黒いジャージを着て木に足を掛け股割りをしている。
 ゆっくりと、だが確りと、下半身から重点的に柔軟していく様は、何時もトレーニング前に目にしていた、身を入れて動く前の仕草。
 やっぱり待ち遠しいのかな、とアインハルトは少し共感を覚える。

「くぁ……」

 共感は、欠伸を見た瞬間に消えた。
 身体は確りと柔軟しているのに、顔の部分だけが別物だ。寝てるんじゃないかと思うくらい、目が開いてない。
 だが、寝起きは割と良い方なので、少し不可解なところがある。それに眠そうというより怠そうな感じだ。倒れるまで練習をした翌日でも普通に起きられていたので、アインハルトも始めて見る姿だ

「なんか寝付きが悪かったみたいなのよ」
「……大丈夫でしょうか」
「本人は少し動けば問題無いって言ってるけど……」

 実のところは枕が合わないと中々寝れないというアレクの数少ないデリケートな部分が表に出ただけであるが、知らないティアナは言葉通り受け取れなかった。
 十分に睡眠が取れてないということは、体力が回復されてないという事でもある。朝食後、少し間を置いてから行われるチーム戦は、大人組に魔力制限が付くといえど本気のぶつかり合いには変わりないので、何処まで食らい付けるのか。
 そんな事を考えていると、アレクは柔軟を終えたらしく、近づいてきた。

「ども、お待たせしたようで」
「目は覚めた?」
「八割方開眼しやした」
「……今日はやれそう?」
「へい、問題ありやせん」

 表情からして完全に覚醒していないが、目は生きているので嘘を言っていないようだ。ならば、要件を済ましてコンディションを整えさせた方が良いだろう。
 その為には先ず、二人の役割を説く前に訊いておく事が有る。

「じゃあ今日の模擬戦だけど、二人は最初にヴィヴィオ、リオ、コロナの三人を相手する事に成ると思う。二人はチーム戦の経験、もしくは一対多数の経験はある?」
「……いえ、ありません」
「ねー……と思われやす」

 少し含みを持った否定だったが、アインハルトはクラウスの記憶がある故に、知識としての見解があるのだろう。アレクに関しては不可解だが、それらしき体験があるかもしれない、とこの場では前向きに捉えておくことにした。
 だがどちらにしても、経験とまでいかないだろう。

「恐らくヴィヴィオとリオが前に出てコロナが後ろから援護、って形に成ると思うから二人は一対一に拘らないこと。でも、対局図はあたしの予想だから絶対じゃないわ」

 ヴィヴィオとコロナは魔法戦も出来る。リオは初参加なので分からない部分もあるが、GWに配属されているので射撃か一気に距離を潰す足は最低限持ってる筈。だが、あくまで予想の範疇である事が前提なので、恐らく不足の部分も出てくる筈。
 だから二人には歩調を合わせて頑張ってもらいたい、そうティアナは説く。

「へい姐さん、どっちか一対二にするのはあり?」
「それも一つの手だけど、その場合はアレクに受け持ってもらうわ」
「……何故と聞いても?」
「アレクは射撃手段を幾つか持ってるでしょ? 牽制も出来るからよ」
「むぅ……」

 下心を察し楽は許さないとばかりに言うティアナだが、二人を相手する場合はアインハルトよりアレクの方が適役だと思っている。
 射撃手段を抜きにしても、何を仕出かすか分からない相手というのは中々に骨が折れるので、そういった意味でも牽制には成る。倒すとまではいかなくても、十分な一時凌ぎにも成るだろう。

「……ティアナさん、始めに二対一で一人墜として一対一に持ち込むというのは?」
「それでも構わないけど、その場合は必ず早急に成し遂げて、後の一対一でもすぐに墜ちない事が条件ね。それに向こうは三人足踏み揃えてくると思うし逆に袋叩きに遭うかもしれないから、アレクとのチームワークが必須よ。それでも出来る?」
「……それは……」
「元より数で劣ってるから、始めにあんた達が墜とされたら流れは向こうへ傾くわ。だから始めのうちは無理な進撃は控えて、狙える時に狙いなさい」
「……はい、分りました」

 真っ先に数を減らすというアインハルトの言い分は尤もであるが、リスクが大きい。アレクと協力し合いで可能かもしれないが、それは相手にも言える事であり、ヴィヴィオやコロナといった経験者が居る相手の方が練度は高いだろう。
 なのでティアナが二人に課すは、三人を抑えることを念頭に置いて撃墜出来る時に撃墜する、ということ。

「だから協力し合ってちょうだい。どう戦うかは二人に任せるけど――――間違っても足の引っ張り合いなんてしないように」
「……へい」
「……はい」

 じゃあ確りと話し合うように、とティアナは締め括り、軽く朝練をしに離れて行った。
 二人はティアナを見送ると、顔を合わせて言った。

「……どうすりゃいんだ?」
「……どうしましょうか?」


◆ ◇ ◆


「じゃあ均衡が崩れるまではマッチアップ相手に集中。アレクとアインハルトは特にね」
「へい」
「はい」

 セットアップを済ませ、CGということもあり軽いミーティングで音頭を取るティアナに、其々了解と頷いた。
 後は開始の合図を待つだけとなり、アインハルトは隣に立つアレクを盗み見る。
 以前身に着けた武具は無く、手甲代わりにバンテージを巻いているだけで髪も縛ってないが、紛れもなく彼の末裔だ。
 まさか、並び立って戦う事があろうとは……。アインハルトになんとも言えない気持ちが湧き起こる。

『それでは、皆元気に……試合開始~!』

 モニタされたメガーヌの後ろで、ガリューが銅鑼を鳴らす。
 最初に飛び出たのは突破力あるアタッカー。

 ウイングロード!
 エアライナー!

 青と黄の軌跡が道を模り、次いで射砲支援が飛び始める。
 ティアナと同じくCGであるなのはの射砲支援とぶつかり潰し合う中、アレクとアインハルトは黄の道を並走する。

「ではアレクさん」
「一先ず俺がリお嬢でお前はヴィヴィお嬢、だろ?」
「はい、お願いします」

 アレクはスパーだけだが多少の癖を知るリオと、アインハルトは試合をした事もあるヴィヴィオと、マッチアップは先ず同ポジションで組むことにした。
 その際にお互いが離れ過ぎず、近寄り過ぎずを保ち勝機を狙う。

 ディバインバスター!

 先制の高速砲をお互いの拳をぶつけて飛び躱し、アインハルトはそのままヴィヴィオへ、アレクは飛来するバレットを覇気を点した拳で叩き落しながらリオへ一直線に駆け抜ける。
 だが、アレクが中距離に差し掛かったところで、リオは一気に突撃した。

 雷神装!

 変換資質を用い一瞬で距離を潰すような加速に伴いアレクへ向かうリオは、そのまま勢いを乗せた鋭い蹴りを飛び放つ。

 轟雷砲!

 対しアレクは迫る蹴りを突き破る様に、踏み出た震脚と共に鉄山靠を突き出す。

 覇皇剛衝殻!

 脚と肩の轟打。打ち勝ったのはアレク、両足が地に着いていた故に押し勝った。
 アレクは防御に転じたリオに拳打を数発撃ち、双掌打を放ち、もう一度鉄山靠を叩き込む。更に魔力付与を施した鉄山靠を放ち、リオのLIFEを2800から1450まで減らして撃ち飛ばす。
 そして追い撃ちを掛けるべく拳を振り翳し、籠もった覇気を発射させた。

 覇光拳!

 覇気が迫る先はリオで無くコロナ。
 牽制だが、あわよくば直撃を。そんなアレクの欲は、地より這い出た腕に弾かれた。

「なんじゃそりゃあっ!?」
「わたしのとっておきです! 叩いて砕け、ゴライアス!!」

 コロナを乗せ、立ち上がる姿は正に巨神。迫り、振り上げられた剛腕がアレクを襲う。
 アレクは横に避けるが築かれ作られたゴライアスの動きは人の外、次いで胴より上を回転させた薙ぎ払うようなラリアットが間も無く迫る。

「マジかっ!?」

 アレクは咄嗟に防御をしたが完全に予想外だった為、簡単に殴られ、飛んだ。
 そして建物に叩き付けられそうになるが、間に入ったアインハルトに受け止められた。

「無事……ですね」
「なんとかな~。お前は……大丈夫だな」
「はい、なんとか」
「んで、お相手は……あっちか」

 防御と同時に覇気を発砲していたので、アレクのLIFEは2800から2500までの減少で済んでいた。受け止めたアインハルトのLIFEは3000から2800に減っていたが、まだ支障には程遠い数値だ。
 アレクは体勢を直しながらアインハルトが相手をしていたヴィヴィオの姿を探すとLIFEが3000から2600に減り、殴り飛ばされアレクと入れ替わる形でコロナの方に居た。
 其処にリオも合流したが、すぐに攻めてくる気配は無かった。

「う~ん、格闘技じゃアインハルトさんにまだまだ敵わないなぁ」
「あたしも。昨日のスパーで知ってたつもりだったけど、まだまだ認識が甘かったなー。コロナが居なかったらあのまま押し切られちゃってたかも」
「わたしだってアレクさんが速射出来るなんて思って無かったからギリギリだったよ。ゴライアスで叩いても予想以上にダメージ少なかったし……ちょっとショック」
「やっぱ個々じゃダメだね」

 どう攻めるべきか。ヴィヴィオ等は構えを取ったまま見据えるが、それはアレク等も同じだった。
 対抗出来ていたのは個々でぶつかったお蔭であり、協力し合ってしまうと予想など出来たものでは無い。コロナのような隠し玉を其々持っているのなら尚更だ。
 それに三人で固まられると、最初の様な奇襲染みた事も簡単に出来ない。

「しっかしあのデカブツどうすっかな~。やっぱぶっ壊してからじゃねえとコロぉ穣どうにかできねえか?」
「此の儘でいけますか?」
「たぶんリお嬢はもう突っ込んできてくれねえだろーしなぁ。アレ込みの複数だと、ちとキツイかも? ……あ。もしかして、リお嬢をあのまま殴り潰しておくべきだったり?」
「……過ぎた事を言っても仕方ありません。反省は後にしましょう」

 ふとしたアレクの呟きをアインハルトは内心で同意しつつも取り留めなかった。アインハルトのとってもコロナの創成魔法は視野の外であったので、自身も同じ過ちをしただろう。
 だが、このまま窺っているだけでは勝機を逃してしまう。それに、向こうが決めかねているならまだ圧せるだろう。
 アインハルトはそう進言しようとするが、一歩遅かった。

「……魔法戦ですかい」

 ヴィヴィオの周囲に幾つか浮く弾、リオが生んだ炎と雷の龍。それ等を捌き、掻い潜っても、巨神の拳が待っている。
 どうやら向こうは個々の戦いを捨て、チームワークで中距離戦に挑むようだ。
 ならば、此方も協力して当たるべきだろう。

「……アレクさん、あの龍を此処から対処出来ますか?」
「構わねえが、お前はあの弾をどうにか出来んのか?」
「覇王流に生半可な射砲撃は通用しません。一手返して見せます」
「うし、なら弾は任せた」
「はい。そちらもお願いします」

 左身を前に構えたアレクと対称に、アインハルトは腕を大きく一回転させ右身を前にして肩を並べると、再び何とも言えない気持ちが沸き起こった。
 アレクとはお互い手の内が分かりきっていないのに、不信感が全く無い。一度大敗をした所為か、それとも単に信頼しているのだろうか。理由はよく分からないが、不思議と心地よい高揚感で、負ける気がしない。お互い未熟だと解かっていても、その気持ちは変わらない。

 そして、アレクも同様の心境だった。
 拳を全力でぶつける相手は在れど、アレクも誰かと共に挑んだ事は無い。故に、戦いは一人で行うものと無意識に悟っていた。
 その筈なのに、今はアインハルトと肩を並べている。それだけの事で、昨日も生じたこそばゆい感覚が走る。
 何故だろう、と考えてみると昨日とは違い答えらしい事が一つ浮かんだ。おそらくこの体勢の所為だろう、と。
 だが、何故寄り添う形に成る必要があるのだろうか?

「なあ、こんなくっ付くの必要あんの?」
「的を絞らせる為です」
「ああ、なるほどね。合点いったわ」
「そ……それより、集中してください」

 
 

 
後書き
カウボーイ「ショゥタイム! ミスカグヤ!!」

カウガール「ふぇっ!? お、おぅ、いえ~す!」
 
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