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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-16



 午後の授業も普通に過ごし、放課後を迎えたIS学園内は喧噪に包まれていた。放課後の過ごし方は人ぞれぞれで、部活動に精を出すもの、ISの練習に精を出すもの、友達を喋りながら寮に帰っていく者、一人で脇目も振らずに帰っていく者と多様だ。
 織斑一夏とその他数人は、今日使えるアリーナへと向かっていった。


 ラウラも蓮と久しぶりにタッグを組む物だから練習しておきたかったのだが、蓮の方から企業の幹部会があるそうでそちらに出なければならないと残念そうにしながら断られていたので、今日は大人しく一人で帰ろうと校舎の昇降口にいた。その後ろ姿はどこか残念そうに落ち込んでいるようにも感じられた。
 そんなラウラを呼び止める声が背中から聞こえてきた。


「ちょっと、いいかしら?」
「……? お前か、鳳鈴音」


 その声の持ち主は、中国代表候補生の鳳鈴音だった。ただ、いつものように自身に満ち溢れた表情はなく、どこか思いつめた。いつもの快活さはなく、暗い雰囲気がどよーんと聞こえてきそうなほどに漂っていた。


 部活も始まり、廊下に足音が響かなくなった。そんな廊下で向かい合うラウラと鈴。二人の表情は全く違っている。
 なかなか用件を言いだそうとしない鈴にラウラが苛立ちを募り始めていた。沈黙が場を支配する。
 それでもラウラは自分からは決して話しかけようとはしない。呼び止められて何も言わないで黙っていられるのも腹が立つが、気にしないでこの場から去ろうと思っている。あと二分経ってこの沈黙が続いていたら何も言わずに寮に帰ろうと決めたラウラ。


 ……鈴は黙りこくったままだ。
 もうすぐでラウラが勝手に定めた時間が経つ。一向に何も喋ろうとしない鈴に苛立ちを募らせながら、律儀に時間が経つまで待ち続ける。


「すぅー……はぁー……じ、実は、お願いがあるのよ」


 ◯


 一夏はセシリアに遠距離戦においてどうするべきか教えてもらっていた。自分には近接しかないことを理解したうえでどう対処していかなければならないのか立てているのだ。隣には箒もいるのだが、今は一夏自身が遠距離についてセシリアに聞いているので、割り込もうにも割り込めないのでふてくされていた。
 そんな一夏のもとに開放通信(オープン・チャンネル)で連絡が来た。


『一夏、あたしと勝負……模擬戦をお願いできないかしら?』
「鈴か。いいな、ここしばらくやってないし、受けて立つぜ! セシリアと箒は一旦離れててくれないか?」


 鈴に模擬戦を申し込まれた一夏はこれを快く承諾。近くにいた二人にはなれるように頼むとゆっくりと上昇していく。鈴も距離を置いて一夏と向かい合う。
 試合の合図はセシリアがしてくれる。その前に一夏が話しかけるが、鈴は目を瞑ったまま無視をする。そんな鈴の態度を少し不思議に思いつつも、試合前に精神統一をしているだけと思い、自分も気持ちを切り替える一夏。


 そして、セシリアが合図としてスターライトmk.Ⅲを真上に向けて一発撃ちあげる。と同時に鈴が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に一夏の胸元へ肉薄する。
 左手に展開した双天牙月を一夏に突き出す。奇跡的に反応できた一夏は、何とか雪片二型の腹で合わせて後ろに弾き飛ばされる程度で済む。しかし、鈴は予めチャージしておいた龍砲から衝撃砲で追い打ちをかける。反応しきれなかった一夏に直撃し、さらに後ろに飛ばされる。


 あわや壁に激突かと思われたが、何とか空中で激突する前に制御を立て直して今一度鈴を見る。
 今回の燐はいつもと何かが違うと本能的に、そして今ので感じた。でも、その理由は分からない。いつも負けず嫌いだったが、今日はそれ以上に勝ちにどん欲な気がする。一夏自身に原因はあるのだが、その一夏が分かっていない。それはしょうがないのかもしれない。なぜならば、鈴の気持ちをありようが変わっただけなのだから。


「っ、やるな、鈴! 今度は俺から行くぞっ!」


 鈴は、一夏の純粋に戦いを楽しんでいる姿を見てぎりっと歯軋りをした。それは苛立ちから来るもので、どうして苛立っているのはか分からなかったが、とにかく一夏に対して怒りに近いものを覚えているのは確かだった。


 一夏は鈴に向かって真っ直ぐ接近する。だが、そんなことを簡単に許す鈴ではない。龍砲から衝撃砲を何発も打ち出して一夏の動きを阻害。あわよくば当ててやるといった程度で撃っていく。見えない砲身を勘だけで避けていくがやはり何発かは被弾する。それにそこそこ威力があるためそんなに食らっていられない。しかし、一夏は近接武器しかない。試合に勝つには近づいて斬るしかないのだ。鈴の周りを大きく旋回することで衝撃砲を避け、攻撃の機会を狙う。


 鈴は、近接一辺倒の一夏を憐れに思う。確かに当れば強い。けれども、蓮みたいな相手を封殺するようなISと戦う時はどうするのだろうか。衝撃砲は一直線にしか飛ばないから簡単に避けられる。対して蓮は、線ではなく面だ。被弾覚悟で行っても削り切られて負けるかもしれないのに、あれだけを繰り返すのだろうか。
 また、当たればと言っている。即ち当たらなければどうってことない。同じ能力を使っていた織斑千冬は、自ら鍛え上げた身体と動体視力など、いろいろなところで極めていたため世界優勝できたにすぎない。やはり、一夏は一夏だ。


 鈴は、いつも一夏と戦う時はこの状況に陥りやすい。その時は、毎回同じように苛立ちを表面に出してしまって、それが隙となってしまって一夏に突撃をされることばかりだった。でも、今回の鈴は全く違っていた。
 小刻みに衝撃砲を放つことで線ではなく面で一夏に攻撃する。それに加えて見えないためいつも以上に大きく回らなければならない。一夏の行動を先読みして先に来そうな場所に移動して、出会い頭に一夏に向かって双天牙月を振るう。弾幕ばかりに気を取られていた一夏は、鈴が先回りしていたことに気付かず、何ともいない間抜けな顔をして双天牙月を顔面で受けた。勿論、絶対防御が発動し、衝撃砲で削っていたこともあって、シールドエネルギーは無くなった。決着に五分もかからなかった。


 一夏は戦いの中で成長していく漫画の主人公みたいな体質だ。けれども、自分が分からないこと、知らないことをされると途端にその対応が出来なくなり、押される。今回の模擬戦だってそう。いつも鈴は衝撃砲だけをバカスカ撃っていた。自分のここがいけないんだと反省して違った戦闘パターンで一夏に向かっていった。その結果、対応できずに負けた。短くまとめてしまうと、一夏は自分の弱点を分かっているくせに治そうとはしない。すべて一夏自身に負けの原因はある。


 アリーナの地面で負けてISが解除されて悔しがっている一夏がいる。いつもなら鈴も箒やセシリアのように一夏のもとへ行っていたのだろう。でも、もう違う。鈴は自分の心に素直なのだ。だからこそ、気づいてしまった。もう一夏は昔のように異性として見られないと。


『ラウラ、お願い』
『……了解した』


 鈴は個人通信(プライベート・チャンネル)でラウラに頼むとISを展開したまま、上空に浮遊する。そしてアリーナのシールド越しに空を見上げると目を瞑った。鈴のISが警報を鳴らしている。でも、それすらも鈴は無視した。
 そんな鈴に向かって伸びていく紫電を帯びた一筋の弾丸。それはラウラのISに装備されているレールカノンから放たれたものだった。このままいけば鈴の左胸に当たってしまう。絶対防御が発動するほかに、一夏と模擬戦を行ったばかりで機体にも若干のダメージがある。そのダメージは、一夏が吹き飛ばされたときに苦し紛れに振ったものだったが、それにわざと掠るようにして移動していたのだ。


 ――バチィィ!


 電気が何かにぶつかってはじける音が聞こえる。その音に反応して一夏たちは振り向く。鈴は、もう来てもいいはずの衝撃が来ないことを不思議に思い、目を開く。すると目の前がオレンジ色で埋め尽くされていた。――――ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ……シャルル・デュノアが鈴を弾丸から守っていた。シャルルは善意で助けたのかもしれないが、その善意が時には他人を怒らせてしまう結果になってしまうことがあるということを知らなかった。


『Bに移行』
「ドイツの人は所構わずぶっ放す人ばかりなの――――ッ!!」


 それだけをラウラに伝えると鈴は、手に持っていた双天牙月を体を回転させて刃をシャルルの頭めがけて振る。ISの警報に本能的に反応したシャルルは、その方向を向くが既に目の前に刃は迫っていた。回避も防御も不可能と即座に判断し、推進器(ブースター)を前に向かって蒸かして機体を少しでも後ろに移動させて威力を逃がそうとする。直撃。


 自分から後ろに飛んだというのもあって盛大に吹っ飛んだ。その途中で一夏をも巻き込んでいたが、鈴やラウラの知ったところではない。
 そしてすぐにラウラが出てきて鈴をワイヤーブレードで振り回して地面に叩きつける。さらにその上からレールカノンを数発放ち、頭や胸を中心に当てていく。シールドエネルギーが切れ、ISもとうとう解除された。撃つのを止めたラウラは倒れている鈴のもとへ降りる。


「これでいいのだろう?」
「……え、ええ……これでいいわ……あ、ありが……と」


 鈴はそのまま意識を手放した。死んでいるわけではない。気絶しただけである。
 そう、ラウラが鈴に頼まれたことは私を今度のトーナメントに出させないようにしてほしいだった。ただの棄権では国が納得しない。それならば誰かにぼこぼこにしてもらうしかないのだ。そこでラウラに頼んだ。ラウラであれば、ドイツとの関係が悪くなるのだが、もともと中国とドイツの交流なんてあってないようなもの。ラウラも最初は渋りはしたものの、最後は頼みを聞いてくれた。


 何がともあれこれで鈴は、学年別タッグトーナメントに出なくて済む。
 ラウラは気絶している鈴をそのまま放置して戻って行こうと歩き始める。後ろの方から誰かが騒いでいるが気にすることではなかった。





 
 

 
後書き

 
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