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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos22-Bなお深き闇に染まれ、聖夜の天(ソラ)~Albtraum der Verzweiflung~

 
前書き
Albtraum der Verzweiflung/アルプトラウム・デア・フェアツヴァイフルング/絶望の悪夢 

 
†††Sideなのは†††

私たちの目の前で起きた惨状。シュリエルさんの左腕に絡みついてる蛇――ナハトヴァールがルシル君を襲った。左手首を折って、右目のすぐ側を抉って、リンカーコア(私たちとはなんか違うけど)から魔力を蒐集した。それは直視できない程に酷いもので、私は最初の腕折りのところで目を逸らさずにはいられなかった。
“闇の書”はルシル君の魔力を蒐集したことで完成してしまって、その惨状をはやてちゃんが見てしまっていて・・・。その所為かはやてちゃんは“闇の書”を起動、“闇の書”の融合騎だったシュリエルさんと融合した。でも・・・。

「ふふ、あはは、ふはははは! 私は戻って来たわ!! さぁ、再びここより始めましょう。我が覇道を!」

シュリエルさんからの口から発せられた声は、どう聞いてもシュリエルさんとは違う女の人の声だった。跪くようにして居るルシル君を庇うようにヴィータちゃんとシグナムさんとザフィーラさんが、シュリエルさん?と対峙した。

「テメェ・・・はやてでもシュリエルでもねえな! 誰だ! ナハトヴァールに人格なんてないはずだぞ!」

「シャマル、ルシリオンの治癒を!」

「ええ、判ってるわ!」

シャマルさんがルシル君を膝枕して「クラールヴィント、お願い!」って治癒魔法を発動したその時、「っ!?」私たちを拘束していたチェーンバインドとレストリクトロックが消滅して、「あ・・・声、声を出せる・・・!」ようになって最後に、「ルシル君の結界が・・・!」すずかちゃんの言うようにお城結界が崩れていった。残るのは武装隊の人たちが張ってくれている結界だけ。

「くそっ、これもルシリオンの計画の1つなのか・・・!?」

「そんなわけないでしょ、あんなボロボロにされて!」

「クロノ、指示を!」

「む・・・少し待つんだ。状況が解らない以上、下手に動けない」

クロノ君たちが次々とデバイスを起動していって、睨み合いを続けてるヴィータちゃん達を見詰める。私も“レイジングハート”を起動して、ぐったりしてるルシル君を一度見た後、ヴィータちゃん達の方へと目をやる。

「もしかしてお忘れかしら? かつて、お前たち守護騎士を率いた主、アウグスタ・マリー・カタリーナ・ルイーゼよ」

シュリエル?さんから語られた名前、アウグスタさん。昔の“闇の書”の主みたいだけど、ヴィータちゃんが「憶えてねぇな、テメェのことなんざ!」って言い放った。

「我らにとっての主は、オーディン、そして主はやてのみ。それ以外の者は主ではなく持ち主だ!」

「それは寂しい答えね。せっかくの再会なのに。でもまぁ、これからのお前たちには過去の記憶も思い出も必要ないわ」

コツコツと靴音を鳴らして屋上を目的も無くウロウロと歩き出すアウグスタさん。その動きに合わせてヴィータちゃん達も体の向きを変えていく。それを黙ったまま私たちは見守る私たち。

「いいから大人しく、はやてとシュリエルを返せよ!」

「そのお体は亡霊であるお前には過ぎたものだ、早々に消え失せろ!」

「うむ。ナハトヴァール――いや、アウグスタよ。主はやての未来のため、ナハトヴァールごと消えてもらおう」

「あらあら。そうはいかないわ。私の覇道がため、いま消えるわけにもいかないのよ」

――封縛――

「「「「っ!?」」」」

ヴィータちゃん、シグナムさん、ザフィーラさん、そしてルシル君を治療していたシャマルさんがバインドで拘束されてしまった。どうしよう、これって手を出していいのかな。クロノ君には、待て、って言われてるけど。でもこのまま黙って見ているっていうのもなんか嫌だし。

「レイジングハート!」

≪All right. Accel Shooter≫

アクセルシューター6発、「シューット!」アウグスタさんに向けて発射する。アウグスタさんは左手をシューターの方へと翳して「大事なお話し中よ、感心しないわ」そう言ってベルカ魔法陣のシールドを展開、全弾防いじゃった。

――ソニックムーブ――

――フォックスバット・ラン――

それとほぼ同時。フェイトちゃんとアリサちゃんが高速移動魔法で突進して、ハーケンフォームの“バルディッシュ”でヴィータちゃんとシグナムさんのバインドを斬り裂いて、アリサちゃんはファルシオンフォームの“フレイムアイズ”でシャマルさんとザフィーラさんのバインドを斬り裂いた。

「っ・・・、守護騎士! 状況を話せ!」

――チェーンバインド――

「アルフもお願い!」

「あいよ、フェイト!」

――チェーンバインド――

クロノ君とアルフさんの七重のチェーンバインドで拘束されたアウグスタさん。さらにすずかちゃんの氷結魔法・氷の柱で相手を閉じ込める「アイシクルスタチュー!」でアウグスタさんは完全に動きを止めた。
少しの間アウグスタさんを警戒していたけど復活する兆しがなかったから、私たちはヴィータちゃん達とお話しすることになった。体の向きは、アウグスタさんがいつ復活してもいいようにアウグスタさんの方へ。

「それじゃあ話してもらおう。この状況、すでに君たちのシナリオから逸脱しているんだろ? もう隠しておく必要も無いはずだ」

「事情は俺が話そう・・・」

シャマルさんにもう一度治癒魔法を掛けられていたルシル君が、シャマルさんに両肩を支えられながら上半身を起こして、自分の怪我を押してでも話してくれた。ルシル君たちが一体何を目指していたのか、その全てを。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

「――それが、君が描いていた闇の書終焉のシナリオだったんだな・・・」

はやての意思とシュリエルの体を乗っ取った、かつての“闇の書”の主アウグスタ。今はアルフとクロノとすずかの多重バインドで封印状態だけど、いつ復活するか判らないから最大警戒のままで私たちはルシルから話を聴いた。

「そうだ。はやては闇の書そのものとも言える管制プログラム・シュリエルと強く繋がれている。お互いに大切な家族として思い合っている。これまでの自己の欲望にしか興味の無い、彼女たちを道具としか見ていなかった連中とは違う。
俺はそこに懸けた。闇の書が完成したとしても暴走するまでの僅かな間に、正式な主となったはやてとシュリエルが協力して、暴走している防衛プログラムを切り離すくらいは出来るだろう、と。切り離されたその防衛プログラムを俺たち騎士で討てばいい、と・・・」

ルシルがそこまで言うと口を閉ざして、今は包帯(ルシルがどこからともなく出現させた物だ)で隠れている右目とは逆――左目だけで、氷漬けになっているアウグスタの左腕に装着されているナハトヴァールを見た。私たちもルシルの目線を追った後、「でもダメだった・・・」ルシルがポツリと漏らした。

「ねぇ、ルシル。あんた、ナハトヴァールのこと知らなかったわけ?」

「知っていた、知ってはいたんだ。でも・・・アウグスタという人格が有ったとは聞かされていなかった・・・!」

アリサにそう答えたルシルは本当に悔しげに顔を歪めた。本局の無限書庫にもそんな記述は無かったし、守護騎士のヴィータ達も知らなかったようだし。仕方がないとも思えるけど。

「・・・ルシリオン、君のシナリオが潰えた今、君たち守護騎士はどうするんだ?」

「決まってんじゃねぇか。はやてとシュリエルを、アウグスタから助けるんだ」

「どうやって?」

クロノの問いに答えたヴィータへさらに訊き返すクロノ。ヴィータは「それは、えっと・・・」口を噤んじゃった。でもすぐに「ルシル!」って、ルシルに助けを求めた。ルシルは顔を伏せて少しの間黙りこんだ。それはとても深い思案のようで。

「何か方法はあるのか、ルシリオン」

「私たち、なんでもするわ!」

「はやてを助けられるなら、あたしらはどんな苦痛にだって耐える!」

シグナム、シャマル、ヴィータがそう言っていく。ザフィーラも強く頷いた。本当にはやてのことが好きなんだ。だから「私も出来る限りのことは手伝うよ。なんでも言って」私もルシルにそう言う。

ご主人様(フェイト)がそう言うなら――っていつもなら言うところだけど、あたしとしてもはやてやあんた達のことが好きだからね。何でも言いな」

「私も! 私も手伝うよ!」

「うん、私も! みんなの補助なら任せて!」

「そうね。あたし達の友達――はやてとシュリエルの、ううん、八神家全員の希望を踏み躙った罪は、しっかり償ってもらわなきゃね!」

そうだ、アウグスタははやて達の願いを、希望をメチャクチャにした。それは絶対に許せるものじゃない。私たちは必ずはやて達の希望を繋ぐ、繋いでみせる。最後にクロノが「助けられる命があるなら助けないとな。局員ではなく人として」八神家との協力を認めてくれた。

「あ、ありがとうな。なにょは、フェイト、アリサ、すずか。アルフとクロノも」

「あの、ヴィータちゃん。な、の、は。私の名前は、なのは、だよ? どうしてちゃんと呼んでくれないのかな?」

「し、しょうがねぇだろ。お前の名前、言い難いんだよ。いっそのこと、なにょはって改名しろ!」

「逆ギレーっ!?」

なのはとヴィータのそんなやり取りの中、シグナムが「感謝する」、シャマルは「ありがとう、みんな」、ザフィーラも「すまぬ」って私たちにお礼を言った。私たちはそれに頷くことで受け取った。そして最後に「ありがとう、恩に着る」ルシルが微笑みながらお礼を言った。

「・・・今、はやてとシュリエルの意思は、アウグスタの強すぎる執念・妄執によって闇の書の内側に追いやられているはずだ」

「えっと、じゃあはやてちゃんとシュリエルさんの意思を表面にまで戻すことが出来れば・・・」

「アウグスタを止めることが出来る・・・?」

すずかとアリサに「ああ」と頷き返したルシル。なら後はその方法になる。

「アウグスタ、というよりはナハトヴァールはどこまで行こうと所詮は魔法プログラム。はやてとシュリエルの意思を封じておけなくなるまで魔力ダメージを与え、自己維持に力を割かなければならないところまで追いつめる!」

それがルシルの提示した、たった1つの冴えたやり方。それを聴いたヴィータがなのはとのじゃれ合いを中断して「それしかねぇのか?」って訊いた。ルシルは「話し合いで止まるとでも? アレを相手に」って右人差し指でナハトヴァールを指さした。

「どうする? 魔力ダメージとは言えシュリエルの姿をしてい――」

ルシルがそこまで言いかけた時、アウグスタを閉じ込めていた氷の柱が大きな音を立てて崩れた。アウグスタは首をコキコキと鳴らした後、「相談は終わったようね」まるで私たちの会話をずっと聞いていたようにそう言って、「ならもういいわよね」って右手をシグナム達に翳した。

「さぁ、いらっしゃいな。我が騎士たちよ」

「「「「っ!?」」」」

そしてそう呟いたかと思えば、シグナム達が一斉に胸を押さえて苦しみだした。しかも素肌が黒く――蛇のような痣が一瞬にして這うように浮かび上がってきた。それが素肌を全て覆った時、シグナムは“レヴァンティン”を、ヴィータは“グラーフアイゼン”を下ろして、ザフィーラも構えを解いた。

「ヴィータちゃん・・・?」

「シグナム?」「シグナムさん・・・?」

「シャマル、ザフィーラ・・・?」

「「「「・・・・」」」」

4人は無言のまま私たちに背を向けている。とここで「下がるんだ」ルシルが私たちを庇うかのように前に躍り出て、“エヴェストルム”を構えた。それはまるでシグナム達と対峙するかのようで・・・まさか。

「まずは覇道の妨害となる管理局から潰して回ろうかしら。これまで散々私の覇道を邪魔してきた、ねぇ? 我が守護騎士たちよ、その者らを蹂躙なさい」

「「「「ヤー、マイン・マイスター」」」」

振り返ったシグナム達の顔は闇のように真っ黒で、目だけが炎のように真っ赤だった。その4人の背後に佇むアウグスタが嫌な笑みを浮かべた後、“闇の書”を開いた。

――旅の鏡――

「「「「「へ?」」」」」

一瞬の浮遊感と視界の暗転。気が付けば私たちはバラバラにされていた。いま居るのは別のビルの屋上。私の隣にはアリサが居て、目の前にはシグナムただ1人。そのことを念話で伝えると、なのはとすずかのところにはヴィータ、アルフとクロノのところにはザフィーラ、そして最悪なことにルシルのところにはシャマルとアウグスタが居るってことみたいで。

『ちょっとルシル、あんた! そんなボロボロなのに戦闘なんて・・・!』

『そうだよ、ルシル君! 骨折は魔法で治ってるけど、右目がまだ・・・!』

『俺のことはいい、問題は君たちだ。アウグスタに操られている以上、シグナム達に手加減は期待でき――っと、すまない、これ以上は念話に答えられ――』

念話が途切れた瞬間、離れたビルの屋上が爆発した。濛々と立ち上る粉塵の中から蒼、深紫、緑の閃光が空に向かって飛び上がって行く。アレはきっとルシル達だ。戦い始めちゃったんだ。

≪Explosion≫

「「っ!」」

アリサと一緒に空からシグナムへと目を向け直した。シグナムは“レヴァンティン”を鞘に収めた状態でカートリッジをロードしていた。あの状態から繰り出される攻撃パターンは2つ。高速居合か、連結刃での砲撃級斬撃。
私たちはグッと腰を落としていつでも回避に移れるようにする。頭部限定変身の時もそうだったけど、表情が判らないから先が読めない。シグナムは居合抜きの体勢のまま固まって・・・「紫電・・・」技名をポツリと漏らした。瞬時に高速居合だと判断して、アリサの手を握る。

「清霜・・・!」

一足飛びで突っ込んで来たシグナム。繰り出されたのは目にも留まらぬ居合抜きの斬撃。私とアリサは空に上がることでそれを回避。それと同時に“バルディッシュ”と“フレイムアイズ”にカートリッジをロードさせる。アリサと頷き合って、私はアリサの手を離した。

「バーニング・・・」「ハーケン・・・」

「「スラッシュ!!」」

雷撃と火炎の斬撃を、シグナムの頭上から×十字で繰り出す。一撃目はアリサで、シグナムは炎の斬撃を左手に持つ鞘で受け止めて腕力だけで「っと!」アリサを弾き飛ばした。二撃目を担当する私の振り降ろした斬撃を“レヴァンティン”で受け止めて、でも弾き飛ばすことなく空いたばかりの鞘で殴りつけて来た。

――ディフェンサー・プラス――

手の平に一点集中することで防御力を高めたバリアを展開して、その一撃を受ける。これでシグナムの両手は塞がった。そこを狙のうがアリサだ。屋上を囲う柵に着地して、「フレイム・・・ウィップ!」長く伸びた炎の鞭を、シグナムを薙ぎ払うように振るった。

「ふん!」

“バルディッシュ”の魔力刃に引っかけている“レヴァンティン”を、迫り来る炎の鞭に向けて振り下ろしたシグナム。すると「あ・・・!」私もそれに釣られて落下することになってしまった。
目の前にまで迫って来ていたアリサのフレイムウィップ。避けれない、防げない、そう思った時、「キャンセル!」アリサの命令の下、炎の鞭が消失した。私も一度“バルディッシュ”の魔力刃を解除。屋上に叩き付けられる前にシグナムから離脱、アリサと一緒に柵を背に立つ。

≪Explosion≫

シグナムがもう一度カートリッジをロード。そのまま魔法を発動しないで私たちへ向かって歩いて来る。アリサもカートリッジをロード、「バヨネットフォーム」“フレイムアイズ”を銃剣モードへ変形させた。私は「プラズマランサー、ファイア!」雷撃の槍8発を同時発射。プラズマランサーはフォトンランサーを強化した魔法で、フォトン時に比べて発射されたランサー自体に強度が有って・・・

「紫電・・・一閃!」

シグナムが燃え上がる“レヴァンティン”で迎撃しようとしてきた。ランサーの軌道を僅かに変更、シグナムを空振りさせる。私は「ターン!」ランサー全基を反転、空振ったばかりのシグナムへと向けて「ファイア!」再発射させる。
そう、ランサーの強度のおかげで、命中しなかった場合は、ターン、の遠隔操作(キーワード)で今のようにもう再発射することが出来る。なのはのシューターやすずかのバレットのように自由度はないけど。

「フレイムバレット!」

“フレイムアイズ”の銃口から発射される炎の弾丸12発。足元以外の方向から迫るランサー8発、背後から迫るバレット12発が、シグナムへと殺到する。シグナムは跳躍することでランサー・バレットの包囲網から逃れた。

「ターン!・・・ファイア!」

もう一度ランサーを反転させて上空に逃げたシグナムへ再発射。アリサも銃口をシグナムへと向けてカートリッジをロードして待機。シグナムが「陣風・・・!」“レヴァンティン”を振るった。

≪Sturmwinde≫

刀身より放たれたのは衝撃波。それが私のランサーを全弾迎撃した。でも、それがあなたを墜とす最大の隙。アリサが「イジェクティブファイア!」火炎砲撃を発射した。シグナムは“レヴァンティン”を振るった体勢のまま避けることも防ぐことも出来ずに直撃を受けた。

†††Sideフェイト⇒アルフ†††

気が付けばあたし達はアウグスタっていう、“闇の書”の防衛プログラム・ナハトヴァールに潜んでいた昔の主が発動した転移魔法によって分散されてしまった。傍に居るのはクロノ、そして「・・・ザフィーラ」守護騎士ヴォルケンリッターの中で最高の防御力を誇るっていう盾の守護獣が立っていた。素肌が全部真っ黒に染まっていて、目は真っ赤。そんで「GRRRRRR」歯を剥き出しにして唸り声を上げている。戦う気満々だっていうのがよく判る。
念話であたし達の現状を知らせ合って、フェイトとアリサとシグナム、なのはとすずかとヴィータ、あたしとクロノとザフィーラ、そしてルシルとシャマルとアウグスタっていう風に。

「アルフ。止めるぞ、すでにルシリオンの方で戦闘が始まってしまっている」

遠く離れた場所から爆発音がしてる。見ればビルの屋上から粉塵が上がってる。遅れて別のところでフェイト達、なのは達の魔力光が放たれ始めた。戦闘はやっぱり免れない。あたしらもアイツらも好きで戦いたいわけじゃないのにさ。

「・・・あんたも辛いんだよな、ザフィーラ? いいよ、来なよ、共に主に仕える使い魔のよしみだ、無理やり戦わせられないようになるまでボコってやる」

希望を願ってこれまで頑張ってきたのに、最後にこんな酷い結末を与えられてさ。操られて嫌々戦わせられるってんなら、それが出来なくなるまでしてやるのがあたしの役目だろ?

「オオオオオオオオオオッッ!!」

――狼王の鋼鎧――

「行くよ!」

――ブリッツフィスト――

全身を魔力で覆ったザフィーラと、両拳に電撃を纏わせたあたしが同時に踏み込んだ。攻撃範囲内に入った瞬間に互いに右拳を振り被った。体格差では圧倒的に負けちゃいるけど、でもそれがあたしにとっての強みだよ。
繰り出されたザフィーラの右拳を、柔軟な動きの出来るこのスマートな体格を活かして避けて懐に飛び込む。そして「おらぁぁぁぁ!!」スタン効果のある電撃のパンチをザフィーラの腹へと打ち込む。けど、「痛っ・・・!」まるで鋼を殴ったような衝撃が伝わって来た。

「(本当に堅いね・・!)うおおおおおおおお!!」

ザフィーラの腹や胸を連続で殴りつける。その間ザフィーラは棒立ちで、まるでわざと受けているみたいだ。そいつはつまり「あたしの攻撃は問題ないってかい!?」最後に電撃じゃなくてバリアブレイクを乗せた拳を叩きつけてやる。それでも「堅い・・!」突破できなかった。

「アルフ!」

「っ!」

クロノの呼びかけにあたしは攻撃を中断して跳び上がった。その直後、「ブレイズキャノン!」砲撃が足元を通過、ザフィーラに向かって行ったんだけど・・・、「ふんっ!」ザフィーラは片手で砲撃受け止めて、「嘘だろ!?」上空に居るあたしに向かって軌道を逸らしてきた。

「ラウンドシールド!!」

慌ててシールドを展開。受けるより逸らす(シャルやクロノから口酸っぱく言われたからね)を考えて、だ。砲撃の軌道を逸らして防御。その短い間にクロノとザフィーラが接近戦を繰り広げ始めていた。ジャブを連続で出してクロノに迫って行くザフィーラに、あたしは「チェーンバインド!」アイツの四肢を拘束してやる。動きが止まったザフィーラに向けて、

「スティンガーレイ!」「フォトンランサー!」

クロノは正面、あたしは頭上から射撃魔法を同時に放つ。

「ウオオオオオオオオッ!!」

――狼王の鋼鎧・剛――

ザフィーラが大きな咆哮を上げたら、全身をうっすらと覆っていた魔力の厚さが跳ね上がった。あたしとクロノの魔力弾が全弾弾き消されてしまった。それだけじゃなくてバインドを消し飛んでしまった。

――鋼の軛――

次にザフィーラは杭を屋上いっぱいから突き出させてきたから、あたしやクロノは高度を上げつつ隙間に避難。周囲には視界を邪魔する杭の山。管理局から貰った情報じゃ、こいつは攻撃じゃなくて高速の魔法らしいけど・・・。

「大丈夫か、アルフ!?」

「問題ないよ、これくら――っ、クロノ!」

――鉄破震砕打――

クロノの背後、杭の陰からザフィーラが気配も無く現れて、すでに攻撃態勢に入っていた。クロノは「ホイールプロテクション!」渦巻くバリアを直撃寸前に展開できた。けど、「うああああああっ!」そんなもの障害にならないとでも言うように簡単に砕いて、クロノを屋上の外まで殴り飛ばした。
あたしに真っ赤な目を向けて来たザフィーラは、今なお突き立ってるいくつもの杭を足場として蹴って接近してきた。振り被られる左拳。防御はきっとダメだ。あのクロノのバリアすら簡単に破壊した。

「終わりだ・・・!」

――鋼の軛――

「っく・・・!? しまっ・・・!」

足元から新しく突き出してきた3本の杭に右脚を挟み込まれて動けなくされてしまった。目の前に迫るザフィーラの右拳に耐えるために「この・・・!」両腕ガードで顔面を守り、さらに気休め程度のバリアを展開。次の瞬間に襲ってくる衝撃に備えた。

†††Sideアルフ⇒すずか†††

念話で私たちは4組に分けられて、それぞれに守護騎士さん達が付いているというのが判った。最悪なことに怪我が治りきっていないルシル君のところにははやてちゃんとシュリエルさんを乗っ取ったアウグスタさんが居るということが判って。

『ちょっとルシル、あんた! そんなボロボロなのに戦闘なんて・・・!』

『そうだよ、ルシル君! 骨折は魔法で治ってるけど、右目がまだ・・・!』

『俺のことはいい、問題は君たちだ。アウグスタに操られている以上、シグナム達に手加減は期待でき――っと、すまない、これ以上は念話に答えられ――』

アリサちゃんとなのはちゃんの心配にそう返したルシル君。離れたビルの屋上で起きた爆発と一緒に念話が切れた。ルシル君、あんなに酷い状態なのに本当に戦い始めちゃった。
そして私となのはちゃんの前に立っているのはヴィータちゃん。でも今のヴィータちゃんは私たちの知るヴィータちゃんじゃない。素肌は闇のように真っ黒で、目は血のように真っ赤。私たちは「ヴィータちゃん!」って呼びかけるけど、返って来るのは無言の敵意で。

「アイゼン」

≪Explosion. Raketen form≫

ヴィータちゃんのデバイス、“グラーフアイゼン”が変形してみせた。「ラケーテン・・・」ヴィータちゃんがポツリと漏らすとヘッド部分のブースターが点火、勢いよく私となのはちゃんへと突進して来た。アノ攻撃は出来るだけ受けないようにしないとダメ・・。と言いたいところだけど・・・。

「なのはちゃん!」

「うんっ!」

出来るだけ傷つけずにヴィータちゃんの動きを止める。1対1じゃ難しいけど、なのはちゃんと一緒ならきっと上手く行くと思う。まずは私が前に出て、「プロテクション!」バリアを“グラーフアイゼン”の突起部分の軌道を読んで、その場所に一点集中展開。

「ハンマー・・・!」

“グラーフアイゼン”がバリアに衝突。激しい火花が散る中、「レストリクトロック!」なのはちゃんのバインドが発動してヴィータちゃんを拘束、それを確認した私は瞬時にバリアを解除して、「アイシクルスタチュー!」氷の柱に閉じ込める。

「「ごめんね、ヴィータちゃん・・・」」

氷の柱の中に佇むヴィータちゃんに謝る。アウグスタさんには破られちゃった多重拘束だけど、ヴィータちゃんになら通用するはず。でも、「そんな・・・!」さっきと同じようにピシピシと氷柱にひびが入り始めて、ついには砕けてしまった。残るはなのはちゃんのバインドだけど、それすらもブチブチと千切れていく。

「ヴィータちゃんをいま放つわけにはいかないよ、なのはちゃん!」

「うん、判ってる! 壊されたすぐからもう一度・・・!」

――レストリクトロック――

「離せぇぇぇーーーッ! 邪魔すんなぁぁぁーーーッ! 殺すぞぉぉーーーーッ!」

バインドが全部千切れちゃう前になのはちゃんがもう一度バインドを掛けると、ヴィータちゃんが叫ぶ。そんなヴィータちゃんに私はもう一度氷柱で相手を閉じ込める魔法「スノーホワイト、アイシクルスタチュー!」を発動、氷漬けにする。
なんとかなるまで私となのはちゃんでヴィータちゃんを抑え込む。ルシル君にはごめんなさいだけど、でも「お願い、ルシル君・・・!」いま私たちが頼ることが出来るのはきっとルシル君だけだから。

†††Sideすずか⇒ルシリオン†††

魔力炉(システム)から無理やり蒐集されてしまったがために、魔力が足りずに中級の治癒術式ラファエルを発動しか出来なかったが、シャマルのおかげもあってなんとか右目のダメージも癒すことが出来た。先の次元世界での強制蒐集された時は数日と魔術が使えなかったが、魔力回復さえできれば上級術式でも発動できる。これには心底感謝だ。
これなら「アウグスタ・・・!」とやり合え、「シャマル」を助けることが出来るはずだ。もちろんシャマルだけじゃなく「はやて、みんな・・・」も助ける、助けて見せる。なのは達がシグナム達を押さえてくれているその隙に。

「アウグスタよ。お前の目的は次元世界の支配、だったか?」

「そうね。まずは強く誇り高いベルカを復活させるわ。それから次元世界に散っている騎士たちを手駒に迎え、そしてミッドチルダを獲るわ」

――ブルーティガードルヒ――

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

シュリエルの高速射撃魔法を放ってきたアウグスタ。今の奴はシュリエルの魔法どころか“夜天の書”に蒐集され蓄積された魔法をも扱えると見ていい。剣翼アンピエルを発動して空へ上がることでドルヒを回避。粉塵が上がる中、アウグスタと、奴の側に控えるようにシャマルが追翔してきた。

「面白い魔法ばかりが蒐集されているわね。試しにコレを使ってみようかしら」

≪Code Ullr≫

アウグスタの側に浮遊する“夜天の書”がパラパラとページが捲れ、一言そう発した。アレの手に現れたのは俺の有する上級にして広範囲の対象をロックオンして同時殲滅する術式の1つ、弓神の狩猟(コード・ウル)。やはり俺の術式も蒐集されてしまっていたか。先の強制蒐集時とは違って八神家の事情を知っているため、つい危機感が足りずに確認を怠ってしまっていた。

「コード・ウル、シュート」

番えられていた槍の如き長さを持つ魔力矢ウルが弓より射られた。神秘は当然の如く有していないため、大した恐怖にはならない。それに「本来の持ち主に対して使うとは馬鹿か?」ウルの欠点くらい知っているに決まっているだろう。
俺は急いで反転し、ウルが無数の光線と化すそれより前に「女神の救済(コード・イドゥン)」ウルの先端に右手の平を当て、その魔力を全て吸収して失った魔力を回復させる。魔力炉(システム)は正常に稼働している。ああ、問題は無い。

「魔力吸収の魔法!? お前、本当に面白いわ!」

驚きより歓喜と言った風な表情を浮かべるアウグスタ。そんな奴の背後に居るシャマルから「クラールヴィント。戒めの糸」“クラールヴィント”より伸びるペンデュラムの魔力ワイヤーが迫って来た。ペンデュラムを“エヴェストルム”で弾き飛ばす。

闇を誘え(コード)汝の宵手(カムエル)!」

間髪入れずに平たい影の触手カムエルを20と創り出し、アウグスタとシャマルを捕縛しようと伸ばす。シャマルは7つのカムエルで簡単に捕まえることが出来たんだが、「コード・カムエル!」奴もまたカムエルを発動。
俺の13のカムエルと奴の10のカムエルが真っ向から衝突、相殺された。そして奴は「ハウリングスフィア!」3基の魔力球を設置。残り3つのカムエルが衝突した瞬間に爆破して対処した。

「はやてとシュリエル、シグナム達を返してもらうぞ、アウグスタ!!」

――無慈悲たれ(コード)汝の聖火(プシエル)――

蒼炎の龍プシエルを放つ。アウグスタは“夜天の書”を開き、「コレね。コード・イドゥン!」自信満々にプシエルの鼻っ面へと左手を翳した。だが残念。イドゥンには未だある欠点が備わっている。それを知ってか知らずか奴はイドゥンを発動した。

「え、吸収できな――・・・っ!?」

アウグスタがプシエルに呑み込まれてしまった。イドゥンの欠陥。それは属性変換された魔法を吸収できないというものだ。その欠陥を直すのをこれまでずっと後回しにしていたが、今回に限っては幸いしたな。
魔力ダメージでナハトヴァール・アウグスタを引っ込ませる。先の“闇の書”事件と同じ、防衛プログラムを叩き潰すのみ。“エヴェストルム”の先端をプシエルの頭部へ向け、「エヴェストルム」カートリッジを計2発ロード。

戦滅神の破槍(コード・ヴィズル)・・・!」

上級雷撃系砲撃ヴィズルを発射。ヴィズルは今なおプシエルの口の中に居るアウグスタへと向かい・・・「っ!? シャマル!!」カムエルに拘束されながらも動き、奴を庇うようにヴィズルの前へと躍り出た。

「くそ・・・!」

慌ててヴィズルを霧散させ、さらにカムエルを操ってシャマルを無理やりその場から遠ざけた。その瞬間。プシエルの顎が上下に裂かれたと思えば、「っ!」背後に気配を感じたため振り向きざまに“エヴェストルム”を振るう。
背後に居たのはやはりアウグスタ。奴は左前腕部に装着されているナハトヴァールの籠手で俺の斬撃を受け止め、「シュヴァルツェ・ヴィルクング!」黒い魔力を纏わせた拳打を繰り出してきた。

≪Peitsche form≫

“エヴェストルム”の柄の半ばを分離させ柄頭を魔力ワイヤーで繋げる形態、パイツェフォルムへ変形させ、アウグスタの拳打を半歩分横に移動して回避。魔力ワイヤーで奴を簀巻き状態にして「おらぁぁぁ!!」近くのビルの屋上に叩き付けた。

「デアボリック・・・エミッション!」「曙光神(コード)・・・降臨(デリング)

俺を中心に閃光系魔力が球体上に爆ぜ、アウグスタを中心にバリア発生阻害効果有りの魔力が球体上に爆ぜた。

 
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