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とらっぷ&だんじょん!

作者:とよね
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第一部 vs.まもの!
  第16話 いこうぜ。


 三日経った。町の人々の諦めと立ち直りは早く、街路はきれいに洗われ、何度こすっても消えない血痕やこびりついた肉片には砂がかけられた。目隠しの為だけではない。このまま風化させる為だ。一ヶ月もすれば冬が来て、惨劇の痕に雪が降り積もり、春、雪解けと共にまた露わになって融けて悪臭を放つだろう。それを予測するとうんざりした。
 新人冒険者達について言えば、あの一件の直後の朝は興奮と緊張で全員ハイになっていたものの、二日目からは疲れと現実感が戻ってきたのとで誰もが無言で部屋に引きこもるようになり、三日目には建物全体に鬱が蔓延していた。ウェルドは一人宿舎を出て、あてはないが町を出歩く事にした。宿舎の暗い雰囲気に身を浸していると頭がおかしくなりそうだ。
 部屋を出てみると、階段横の大時計が止まってしまっている事に気付いた。奇跡的に破損を免れたものの、誰にもそれを気にする余裕がないのだ。
 仕方なく時計の鎖をじゃらじゃら巻いていると、廊下の奥からディアスが歩いてきた。両腕に大判の本を四、五冊抱えており重そうだ。
「よう、どっか行くのか?」
「……」
 彼は一旦立ち止まったが、ウェルドの方を見もせずに、無言のまま外に出て行ってしまった。
「――な、何だよ?」
 イヴが階段を降りてきた。
「あら、おはよう。あなたは引きこもらないのね」
「早々からすげぇ挨拶だな。誰だって好きでひきこもってるわけじゃねえだろ?」
 イヴは恐らく精神的な疲労が原因であろう青白い顔で、それでも微笑み、黒衣から露出する白い肩を竦めた。
「何も、誰かを非難してるわけじゃないわ。あたし達のうち、あの時外に出ていたのはあなた達三人だけじゃないし。たくさんの人が斬られ、薙ぎ倒されていくのを目撃して……いいえ、直に現場を見る必要さえないわ。その後の町の惨状見ればね。誰かの身に起こる事は、大概、自分の身にも起こり得る事。誰かが無力に殺されたという事は、自分も無力に殺されるという事。それを思い知らされて落ち込まない人なんて、余程修羅場を潜ってきたか、想像力が皆無か、情緒に致命的な欠陥があるか、どれかね」
 首を横に振り、
「あの学者サンのお話じゃ、こんなのは二年に一度くらいしか起こらないみたいだけど、みんな遺跡に潜るのを怖がってる。無理もないわ。統計上二年に一度程度だとしても、その数字に保証があるわけじゃないものね」
「でもよ……。いつまでもこうしてるわけにいかねぇだろ。俺だって研究内容を外界に持ち出せねぇならカルス・バスティードに来た意味がねぇんだ」
「あたしだって同じよ。じっとしてると気が狂いそう。そろそろ他の誰かも動き出すんじゃないかしら」
「そういえば、ディアスがさっき出ていったぜ」
「あなたのオトモダチじゃない」
「別に友達じゃねえよ。さっき声かけたら何か知らんけどガン無視されたし」
「何か知らんけど、なんてよく言えたものだわ。そんなの理由は明らかじゃない。あなたの事が嫌いだからよ」
「ぶはっ」
 ウェルドは苛立ちを誤魔化すために敢えて笑った。
「ストレートに言ってくれるぜ」
「当たり前でしょ。いきなり殴りかかってきた相手を好きになれるわけないじゃない。残念だったわね。危ない所を逃がしてくれる程度まで仲良くなれたっていうのに、一時の癇癪のせいで全部おじゃん」
「いや、それは……。俺だって悪かったとは思ってるけどよ。酔ってもいねえのにやりすぎた」
「自分に酔ってたじゃない」
 ウェルドは頭をかきむしった。
「……あんたには勝てねぇよ。で? 今から遺跡行くのか? だったら」
「お誘いだったら、お断りよ。あたしだっていきなり殴りかかられたらたまらないもの。それに、生憎あたしはお酒を買いに行くだけなの。じゃあね」
 手をひらひらさせて、イヴも出て行った。
 ウェルドも仕方なく町に出た。
 適当にぶらついていると、パスカ達五人と一夜を明かしたあたりの区画に出た。あの時は全く気付かなかったが、牛が飼い葉を()む音や、アヒルの鳴き声がのどかに聞こえる。畜舎が近いのだ。それらの音に紛れて人の声が聞こえた。
「なあ、もうやめようぜ」
 見覚えのある先輩冒険者ドレスティが、地べたに這いつくばっているネリヤの横にしゃがみこんで宥めていた。
「こんな事したって何にもならねえよ……」
「あんたにはわかんないわよ」
 彼女は泣きながら、何かを探している様子だった。
「あの子がどんだけあの指輪を大事にしていたか。バイレステ人のあんたには、ありふれた、どこにでも売ってるような代物でしょうがね。トラドアから来たあたし達にはたとえ類似品だってもう一生手に入らない思いでの品なのよ」
「でもよ……ここに落ちてるとは限らねえじゃん。まさか町中探すのか? 諦めろよ。そんなの無理だって」
「黙って」
「もう砂の中に埋もれちまったかもしれないぜ?」
「うるさい」
「井戸に落ちたかもしれねえし」
「黙って!!!」
 ウェルドは居たたまれなくなって踵を返した。狂戦士に対する怒りは、それが理不尽な感情であっても、消えそうになかった。
 四日目、事件から最初に遺跡に潜ったのはレイアだった。彼女の事情はわからぬが、何か急いで済まさなければならない用事がある様子で、「私は一人でも行く」と言うレイアを放置できずにエレアノールもついて行った。二人は大概いつも一緒だった。彼女らの背を追うように、シャルンがアッシュと連れだって遺跡入りした。
 数日して、事件後初めて嬉しいニュースが新人冒険者の宿舎にもたらされた。パスカ、ジェシカ、ルカの三人組が太陽の宝玉を見つけたのだ。
「ノエル」
 その翌朝。ベッドにしょんぼりと腰掛けてうなだれていたノエルは、ウェルドが部屋に入ると顔を上げた。赤い額当てを巻き、大剣を負い、戦いに向かう格好でいるのを見て少し驚いた様子だった。
「俺たちも行こうぜ」
 表情に迷いを滲ませ、またうなだれて、どう反応すればいいのか考え始めてしまった。
「立ち止まってたって、どうにもならねぇだろ? あの件はもう終わったんだ」
「……立ち直りが早いのね」
「俺だってスッキリすべて納得したわけじゃねえよ。でもさ、じっとしてたら立ち直れるわけでもないだろ? ショックを受けるのは当たり前だし、ここがカルスの棺桶じゃなかったらむしろ気が済むまで休むべきだけどよ」
 ノエルが何も反応しないので、ウェルドは一度言葉を切った。
「……まあ、人それぞれだから無責任なこたぁ言えねぇけどよ、たまには何もかも忘れてスカッと暴れるのもいいと思うぜ」
「あたしはスカッと暴れたいとは思わないけど、そうね……あなたの言うことにも一理あるわ……」
「俺、九時半くらいから遺跡に潜ろうと思うんだ。一旦クムラン先生の家に顔出して、時間までそこにいるからさ。よかったら後から来いよ」
「ウェルド」
「何だ?」
「あなたの話」
 ノエルはウェルドの顔を直視せず話す。
「こんな惨い事が罷り通るなら、神様なんていないって……あたし正直、幼稚だと思ったわ。子供の発想だって……」
「んーーー……」
「だけど、今なら少し、わかる……」
 ウェルドは苦笑した。
「ありがとな。そう言ってもらえたの、初めてだぜ」
「そう?」
「俺さ、金ためてバイレステの学校に入ったはいいけどさ、結局追い出されたんだ。それが原因で」
「神なんかいないって、人前で大真面目に主張したわけ?」
「おお、そうよ。論文書いて発表したさ。馬鹿みたいだと思うか?」
「思うに決まってるでしょ。そんな事してあなた、殺されてもおかしくなかったのよ」
「俺もそう思う」
 ウェルドは片手をあげ、出ていこうとした。
「じゃあな。時間まで待ってるぜ」
「ねえ」
「どうした?」
 ノエルは青白い顔で、紫色の唇を噛む。
「どうしたんだよ。言ってみな」
「ねえ、あたし達……あなたもあたしも、この町の人みんな……」
「……」
「これから何が起きて……これからどうなるのかしら……」
 難しい質問すぎて、ウェルドには答えられない。
「……ごめんなさい。何でもないわ。準備して、後から行く……」
「……ああ」
 ウェルドは宿舎を出た。


 
 

 
後書き
■ベアルファレスの思い出■

「ベアルファレス」が発売された2000年当時は中学生でしたが、雑誌の紹介記事を見てたまらなく欲しくなり、母親の肩をせっせせっせと叩いて駄賃を貯めこんだ思い出があります。近所のゲーム屋に事あるごとに顔を出しては「よし、まだ売れてないな」と確認し(取り置きしてもらうという知恵が湧かなかった)、1,2か月ほどして小銭をじゃらじゃら鳴らしてそのゲーム屋に行きようやく手に入れました。懐かしいです。
サントラが発売されなかったのは残念。最近この小説を書き始めたのをきっかけに、耳コピしてMIDIに打ちこんだり捏造歌詞をつけて音声合成ソフトに歌わせたりしてぼちぼち遊んでいます。

■キャラクター語り #2■

○シャルン
最高に可愛いです。特にどこが可愛いかと言うと、好感度が高い状態で部屋を訪れるとパッと顔を輝かせて「フィリア(ウェルド)、入って!」と言うのが可愛い。そして仲間に誘うとニコッと笑って「行きましょ!」って言うのがもう胸が張り裂けそうになるくらい愛しい。
仕切りたがりな所があるせいか、ベアル全盛期(?)のファンサイト等には「偽善者」などと評する文言を目にしたりもしましたが、個人的にはそれは事実の一面でしかないと思います。シャルンに限った話ではありませんが、そもそも17,8の若い子らが集まってみんな等しく他人を尊重し、異なる立場や考えを慮って何の衝突も摩擦もなく過ごしていたらその方がよっぽど不気味です。ましてシャルンのように「強くなる!」という目標に一途に打ちこんできた子が少しばかり周りが見えないのは仕方がない事じゃないかと。
それにしても彼女が泣いていたり傷ついている姿を見るのは辛い。エンディングで逞しく育った彼女が毎日を楽しそうに過ごしているのを見て、本当に嬉しかった。

○パスカ
ゲームを買って最初にエンディングを迎えたのは女主人公でパスカでした。昔は正義感の強い単純な人だと思っていたのですが、今見返すと案外そうでもないのが面白い。注意深く台詞を見ていると、人に意見する時は多少遠慮している口ぶりに見える時もあるし、カッとなる事はあるけど基本的にはバランスのとれた発言ができる人かと。そしてそうでありつつも、自分の気持ちを隠さずに表現できる所が凄い。ゲーム中盤、ある選択をすると「理解はできるが許せない」と言ってきます。その台詞が彼らしくて好きです。
夜中に意味もなく叩き起こした時の反応が一番愉快なのはこの人だと思う。好感度によって反応が全然違います。
「(激怒)意味もなく起こしたのかよ! 帰って寝ろ!!」→「(困り顔)いくらお前でももうこんな時間に起こすのは勘弁してくれよ」→「(苦笑)しょうがねえ奴だなあ、お前も寝ろよ、おやすみ」
この流れには笑いが止まらなかった。


第一部は次回で終わり、第18話から第二部に入ります。GW中に第一部を終わらせられるよう頑張ります。

 
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