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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百七十二話 会議は踊る

 
前書き
お待たせしました

今回は早くできました。

前回の続きのような話です。

 

 
宇宙暦794年10月

■自由惑星同盟首都星ハイネセン 

オッペンハイマー中将一行がもたらした情報は、燎原の火の如く同盟政府、同盟軍上層部に衝撃をもたらした。


「千載一遇のチャンスだ。此を逃せば、イゼルローン回廊に散った英霊に顔向け出来ん!」
「小癪にも帝国は捕虜交換という手で時間稼ぎをするつもりだ」
「捕虜交換した以上一定期間は攻めないのが、紳士的というものだ」

「馬鹿言うな、帝国との約定など当てになるか、此処は攻めるべきだ!」
「捕虜と拉致被害者を見捨てる気か!」
「捕虜などに成った軟弱者共のせいで、イゼルローン回廊が益々難攻不落になるんだぞ」

「貴様、それでも人間か!」
「なんだと、このシトレ派め!」
「ロボス派が何をいう!」

この様に、箝口令を命じているにもかかわらず、宇宙艦隊総司令部、統合作戦本部などでは参謀達が喧々諤々と意見を言い、啀み合いをしていた。


宇宙艦隊司令長官室では、イゼルローンツヴァイに関する考察と共に今後どうするべきかが話し合われていた。

「閣下、既に市民は拉致被害者の帰国を待ちわびています。此処でそれを反古にすることは出来ません」
グリーンヒル大将の苦言にロボス元帥も眉を顰めながらも頷く。
「確かに、総参謀長の言う事は判るが、このまま手を拱いていてはイゼルローン回廊が益々難攻不落に成りかねんのだ」

ロボスとしても、前回の戦いでヴァンフリート4=2後方支援基地と莫大な補給物資を失った後、穴埋めとして地方隊などの予算や資材等を削ってまで、しゃにむにイゼルローン要塞攻略の準備を行い、本来であれば10月に始める予定であった第6次イゼルローン要塞攻略戦が、今回の帝国からの捕虜交換アプローチで一旦延期となったのであるから気が気ではない。

更に先日、ヘンダーソン国防委員長より発せられたイゼルローン要塞攻略作戦の無期限延期命令はロボスは元よりフォーク、ホーランドなどの要塞攻略強行派の間に青天の霹靂となっていた。

何故なら、要塞攻略のためにかなりの所まで進んでいる準備が全て無駄になりかねない事で、多数の予算が無駄遣いになると計算され、それにより統合作戦本部は元より格下と考えている後方勤務本部からの突き上げに焦りを感じていた。

ロボスとしてもシトレに負けたくない一心でイゼルローン要塞攻略を推し進めているわけではないのだが、端から見れば、単に出世欲と名誉欲の為に、動いて居るとしか見られないのが、衰えてきたと噂されるロボスの欠点と成っていた。

更に、自分の気に入った相手のみを優遇する態度により、総参謀長グリーンヒル大将より一作戦参謀たるフォーク中佐の専横を許す事に成っていた。

結局ロボスは、苦々しく思いながらも作戦の延期を決めたのであるが、己の野心のためにイゼルローン要塞攻略作戦遂行に動き出したフォーク中佐は、持ち前の政治力と地方議員である両親のコネを使い以前ルードヴィヒ皇太子殺害を成功させたリューネブルク大佐を褒め称えたクネ情報交通委員長の下へ向かい政治工作を行っていた。

「委員長閣下、お忙しい所お時間を頂き恐悦です」
「良いのですわよ、中佐には色々と教えて頂いて居ますから」
ニコリとしながら握手をする二人。

「委員長閣下は、今回の捕虜交換に関してどうお考えですか?」
フォークの質問にクネは暫く考えた振りをしてから喋り始める。
「捕虜交換、拉致被害者帰国は素晴らし事ですわ……でも、それが帝国の時間稼ぎの可能性だと言うのは馬鹿にされているわね」

イゼルローンツヴァイの情報に憤慨していたクネは眉間に皺を寄せながら力説する。
「司令部では、今回イゼルローンツヴァイの完成前にイゼルローン要塞を奪取する事を計画していたのですが……」
フォークが残念そうな顔を演技する。

「ええ、話は聞いています。あの腰抜けでヘタレの国防委員長が中止させたと」
「はい、このままですと、ツヴァイの完成でイゼルローン回廊は鉄壁となるでしょう」
「軍は、イゼルローンを取れないと?」

「そう言う訳では有りませんが、今まで以上の犠牲を払う可能性が出てきます」
フォークの話で考えるクネ。
「大儀があり崇高な事に犠牲は付きものですわ。けれども態々犠牲を増やす必要も無いと」

「そうなります」
「しかし、捕虜交換後に再度攻略戦を仕掛けるには時間的に難しいのでは?」
何れは最高評議会議長の野心のあるクネは多少なりとも軍事を勉強している事も有り、フォークに質問する。

質問されたフォークは少し考える振りをして、じらした後で答える。
「こうなれば、奇策で行くしか有りませんな」
「奇策ですって?」
「はい、拉致被害者捕虜は受け取らなければ市民が納得しないのでしょう」

「確かにそうだけど、その間に帝国が防備を固めてしまうのでしょう?」
「いえ、それを利用します」
「どういうことかしら?」

「我が軍は、300万人を乗せた船を護衛するために2個艦隊をイゼルローン要塞へ向かわせます」
「ええ、それは予定されているわ」
「その他に、300万人を無事ハイネセンへ帰国させるために航路を脅かす宇宙海賊の取り締まりを行います。それに参加する艦隊がハイネセンを出ても誰も不思議に思いません」

フォークの話に、クネも身を乗り出す。
「つまりは、海賊退治に託けて予備兵力を出すと言う事なのね」

「そうです。情報に依れば、帝国軍は要塞駐留艦隊以外に、エッシェンバッハ元帥の直衛艦隊と各種独立艦隊数個艦隊から成るようです。その総数は40000隻まで行かないようです。其処で、我が軍は、捕虜受け取りを行った2個艦隊はヴァンフリート星系で海賊退治と称して出撃した2個艦隊、更にランテマリオ星系で訓練中と称している1個艦隊と合流し5個艦隊になります、司令部直轄艦隊を含め総数は70000隻となります」

「成るほど、しかしそれだけでは要塞攻略準備だけとしか成らないのでは?」
「其処で今回の捕虜交換を利用します」
「捕虜交換を?」
フォークは合点のいかないクネを情報部がフェザーン経由で手に入れたテレーゼ一行のイゼルローン要塞における行動準備表を元に説明し始める。

「皇女は、逆亡命者、捕虜のため新年を祝うパーティーを行うようです。パーティーとなれば、兵の意識も弛緩します。其処を強襲しイゼルローン回廊前面を我が軍で封鎖します」
「成るほど」

「そうなれば、皇女をイゼルローン要塞から脱出させるために一部艦隊を帰還させる事でしょう。其処を叩き皇女を捕殺或いは捕虜にすれば、それと交換でイゼルローン要塞を手に入れることも可能でしょう」
「素晴らしいわ。我々民主主義の敵である悪魔ルドルフの末裔である皇帝の娘を捕虜にする此こそ民主主義の大いなる勝利と言えましょう」

フォークの説明に一人悦に入るクネ情報交通委員長、それを冷ややかに見つめるフォーク。内心では“この阿呆な女は利用価値が有るからな”と考えていた。




宇宙暦794年11月1日

■自由惑星同盟首都星ハイネセン最高評議会ビル

最高評議会では、今回のイゼルローンツヴァイについての対応に喧々諤々とする中、クネ情報交通委員長が発言を求め、発言し始めた。

「今回の捕虜交換は帝国の時間稼ぎですわ。民主主義の大儀のためにも、この様な姑息な手段を執る帝国に裁きの鉄槌を与えるべきですわ」
手を握りしめながら熱弁するクネ。

「しかし、クネ君、時間稼ぎと言っても帝国が捕虜と拉致被害者を帰国させることは決まっていることだ。それを我々自ら放棄するなど市民は許さないだろう」
バーナード副議長が呆れたと言う顔で指摘する。

「副議長、しかしこのまま行けば、みすみす帝国の時間稼ぎにより、イゼルローンツヴァイが完成し、回廊が難攻不落に成りかねません。その辺の責任をどうお取りになるのでしょうか?」
「それは……」

「そこまで言うクネ君には何か妙案があるのかね?」
見かねたアンダーソン議長がクネに問うと、クネは待っていたとばかりに資料を出し説明し始める。
「この資料を見てください。此は宇宙艦隊総司令部からの提案なのですが」

「一寸待ってくれ、私には一言も話が来て居ないが」
クネが自分の職責を犯したと、カスター国防委員長が話を遮る。

それを無視してクネが話し続ける。
「捕虜交換と被害者帰国は受け入れます。其処で一旦艦隊を帰還させた振りを行い、ヴァンフリート星域で待機させた艦隊と合流後にイゼルローン回廊へ急進撃させ要塞を攻略させるのです」

クネは鬼の首を取ったように、それほど豊かでない胸を張って鼻高々に語る。
「その様な与太話で、軍を簡単に動かせる訳が無いだろうが」
カスター国防委員長が吐き捨てる。

「宜しいのでしょうか?態々攻略できる機会なのにもかかわらず、攻略戦すら発動させず、その上、悪魔の皇帝の愛娘と帝国最大の実力者の娘が一堂に会するにもかかわらず、見て見ぬ振りをしたと市民が知れば、どうなりますかね」

クネの嫌らしい話をバーナード副議長が叱責する。
「クネ委員長、貴方の言われることは、脅迫と同じですぞ」
「あら、わたしくは極々一般論を述べただけですわ。副議長のその様な言いように、わたくしは、貴方に対して謝罪と賠償を請求致しますわ」

呆れる何人かの委員長。
「それは、やり過ぎですぞ」
「あら、最近のマスコミは五月蠅いんですわよ。わたくしが会見でポロリとツヴァイの事を話してしまうかも知れませんわね」

「貴方を罷免することも出来るのですぞ」
バーナード副議長が厳しい顔で忠告する。
「議長、決を採るべきですわ。それで決めるのが民主主義ではありませんか」

副議長を無視して議長に提案すると、有ろう事か半数の委員長が賛同する。
「議長、このままでは埒があかないでしょう、此処は軍の出してきた第6次イゼルローン要塞攻略の是非を問うべきです」
「そうですな、それが宜しいかと」

「正気か!」
元々優柔不断の代名詞であるアンダーソン議長は半数が言うならと、バーナード副議長の意見を聞かずに決を採る。

「今回の、捕虜交換後のイゼルローン要塞攻略作戦に賛成の方はご起立願います」
それと共に、5人が立ち6人が座ったままであったが、そのうち3人が棄権したため5対3で可決されてしまった。正に民主主義の悪い点だけが出た決定と成った。

その裏では、フェザーンによるアンダーソン議長、バーナード副議長、カスター国防委員長の追い落としの為に、賛成委員長には裏金が送られていたのである。

此により、バーナード副議長、カスター国防委員長のなどの努力は無駄になり、同盟軍にフォーク中佐原案の作戦の遂行が命じられた。

統合作戦本部では余りに投機過ぎる作戦に難色を示したが、結果“宇宙艦隊総司令部が全てを仕切る”“責任は宇宙艦隊司令長官ロボス元帥が取る事”で作戦案が宇宙艦隊総司令部に丸投げされた。



宇宙暦794年11月20日ハイネセンを出立したロボス元帥の司令部直属艦隊5000隻、ホーウッド中将の第7艦隊13000隻、アル・サレム中将の第9艦隊13000隻は12月8日にジャムシード星系で各地から来る帝国への帰還兵、逆亡命者を乗せた輸送船と合流12月27日にイゼルローン要塞へ到着するために漆黒の宇宙を航行していく。

11月10日、再編成中で有ったドールマン中将の第11艦隊13000隻が訓練の総仕上げの為、演習場のあるランテマリオ星系へと出発、12月1日、イゼルローン方面の航路安全化と海賊撲滅にルフェーブル中将の第3艦隊13000隻が、フェザーン方面の航路安全化と海賊撲滅にパストーレ中将の第4艦隊13000隻が出立した。

 
 

 
後書き
同盟軍が誘蛾灯に集まる蛾のようにイゼルローン要塞へと向かってきています。

次回はテレーゼのイゼルローン要塞行きに関する騒動かな。
絶対にお母様が金切り声で止めると思いますからね。 
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