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心は王様で

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第二章


第二章

 その中でだ。彼は言うのだった。
「余裕がないギャンブラーってのは駄目なんだよ」
「何で駄目なんだい?」
「負けるからだよ」
 だからだというのだ。
「余裕がなくて焦ったらそれで視野が狭くなって判断も狂う」 
「まあそうなるな」
「余裕がないとどうしてもな」
「そうなっちまうな」
「だからだよ。ギャンブルは余裕なんだよ」
 そうだというのだ。ギャンブルはだ。
「余裕を以てな。いつでもやるものなんだよ」
「だから王様か」
「王様の気持ちでギャンブルをやるんだな」
「そうしてるんだな」
「そうだよ。幾ら負けてもな」
 今の様にだ。そうなっていてもだというのだ。
「余裕がないと駄目なんだよ」
「それで今もそうしてか」
「余裕を以てやるのか」
「負けてても」
「負けてもいいんだよ」
 それもまただ。気にしないというのだ。
「いちいち負けてもそれはそれさ」
「けれど金減るぜ」
「それでもか?」
「金は勝った時に手に入るさ」
 金についてもだ。アハマドはこんな素っ気無く、余裕に基く素っ気無さで答えた。
「それでいいんだよ」
「何か勝とうって思わないんだな」
「全然な」
「ギャンブルは勝つって思ったら駄目なんだよ」
 かえってだ。そうだというのだ。
「勝とうって思ったら余裕がなくなるからな」
「ううん、訳わからないな」
「ギャンブルで生活してるのにか」
「それでもなんだな」
「そうさ。余裕さ」
 それだと言うのだった。彼はとにかくそれを第一にしていた。
「心は王様。遊んでいくさ」
「やれやれ。負けてても平気か」
「どういう神経してるんだか」
「図太いのか馬鹿なのか」
「何なんだろうな」
「図太くても馬鹿でもいいさ」
 飄々とした感じのままでテーブルに着いている。
「じゃあまたやるか」
「今日はもう止めた方がいいと思うがな」
「それでもなんだな」
「ああ、やるさ」
 こう言ってだった。そのうえでだ。
 アハマドはまたカード、ポーカーをしていく。だがやはり負けが続いていく。彼がどれだけいいカードを出してもそれでもだ。相手がよりよいカードばかり出す。それでだ。
 彼は負け続ける。それを見てだ。
 周りはまただ。こう話すのだった。
「今日はやっぱりツキがないみたいだな」
「ツキに見放されてるぜ」
「いい加減止めた方がいいんじゃないのか?」
「そうしないか?」
「もうちょっとやるさ」
 平気な顔、まさにポーカーフェイスでだ。アハマドは席に座ったままだった。
「楽しくなってきたからな」
「そうか。まだか」
「まだやるんだな」
「やるさ。じゃあまたな」
 ポーカーを再開した。今度の相手は。
 若い美女だった。金髪で碧眼、明らかにブルネイの人間ではない。紅の派手なドレスを着た彼女がアハマドの前に座りだ。こう言ってきたのである。
「貴方の今日の負け分の倍をかけるわ」
「俺が勝ったらその金が入るんだな」
「それと私もね」
 美女自身もだとだ。美女はアハマドに微笑んで言ってきた。
「一晩ね。どうかしら」
「気前がいいね。何かあったのかい?」
「その顔を見たらね。死んだ彼に似てたから」
「彼氏にねえ」
「そうよ。だからね」
 美女自身もだ。賭けるというのだ。
 
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