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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第48話 零治が消えて………

「そんな………私等は見捨てられたと言うのか………」

零治がクレインと共に消えてから数10分後。
迷宮は消え、4階のエリアはただっ広い普通の部屋で、その奥に一つの扉があった。
しかもその部屋で2つの入口から入った2チームも合流し、全員揃った状態で扉の中へと入って行った。

その後は何事もなく、スムーズに終わった。冥王教会のメンバーはその場から逃げ出そうとしていたが直ぐに確保され、誰も逃げる事は出来なかった。

「当然の報いです」
「何でよ楓!!私達はただあなたと一緒に永遠に生き続けて幸せでいたいだけなのに!!」
「だけどそれは夢物語よ」
「だがマリアージュシステムはお前も見ているだろう?あれを完璧な物にすればいつかは私達も………」
「それこそ夢よ。沢山の犠牲を出して出来たのが冥王イクスヴェリアの能力を利用したシステム。しかもそれはイクスヴェリアが居ないとちゃんと機能しないし、クレイン・アルゲイルがいないと誰も使えない意味の無いシステムだわ」
「だ、だがそれでも私達はお前と………」
「私は一度もそんな事望んでないわ。私は普通で良かった。普通の家族の様に平凡で他愛も無い毎日なのかもしれないけど暖かい家族と共に毎日を過ごせる………そんな生活がしたかった………貴方達は一度だって私の言う事に耳を傾けた事がある?私がどう思ってたかも知りもしないで勝手な思い込みで人殺しに加担して………最低だわ………」

そんな楓の言葉に楓の親は一言も返せなかった。

「だけど、そんな夢物語に縋るのももう終わり。どうなるかは分からないけど自分の犯した罪をしっかりと償いなさい………」

そう言い残して楓は自分の両親から離れたのだった…………













「貴様が現・冥王教会のトップか?」
「ひぃ!?た、助けて………」
「ゼストさん、本当にこんな奴がトップなの?」

疑いながら男の肩を揺するオットー。

「教皇は捕まっていないままだけど、今の冥王教会で残っている幹部と言ったら、そのグルシエと科学者のマクベスだけの筈よ。だからグルシエがトップでもおかしくない」

ゼストの代わりに答えたのはシャイデだった。シャイデはグルシエを冷ややかに見下しながら答えたのだった。

「その声は………シャイデお嬢ちゃん!!私と会った事のあるお嬢ちゃんなら私の臆病な性格が分かるだろ!?私だって本当はトップになんてなりたくなかった!!」
「そうね………あなたは臆病よ。だけど臆病だからこそ、何処までも念には念を入れて、完璧にする完璧主義者だったようね。執務官時代に調べたデータにもそれははっきりと残っていたわ。だからこそあなたは今まで逃げきれていたのね。だけどまさかこんなにあっさりと最後に捕まるなんてね………」
「私達は利用されていただけだ!!全てクレイン・アルゲイルに!!」
「だとしてもそれを見抜けなかった貴方達に問題があるのよ。それよりも貴方に聞きたい事があるの?クレインは何故?零治の事を狙ったの?」
「し、知らない!!」
「隠すと痛い目を見るわよ………?」

そう言って魔力の糸で首筋に傷を付けた。

「う、嘘は言っていない!!第一奴等は俺達を見捨てるつもりだったのにわざわざ私達に居場所を教えると思うか!?」
「まあ確かにね」

そう言って魔力の糸を消すシャイデ。

「すいません私のせいで………」
「いいえ、あなたのせいじゃないわ水無月さん。………それにしても零治のバカは何処に行ったのかしら………」

そう言いながらシャイデは星達有栖家の面々を見た。

「皆冷静ですね」
「流石に星達も大人になったわね。ちゃんと暴走しそうな優理やセッテを抑えてるわ」
「今闇雲に探しても見つかりはしないからな。彼女達もそれが分かっているのだろう」

そう言って声を掛けたのはゼストだった。

「ジェイルと連絡が取れた。冥王教会の連中は大悟に任せるそうだ」
「そう………零治の手がかりは?」
「クアットロが引き続き探しているが………」

「これは………!!星、ライ、夜美、優理!!」

クアットロの慌てた声に星達は直ぐにクアットロの元へと向かった………












「ラグナル!!」

人の姿で倒れているラグナルに駆け寄る有栖家の面々。

「クアットロ!!」
「無茶言わないで!!幾ら私でも人に慣れるデバイス、ましてや人の状態で破損しているデバイスを修理だなんて………」

ゼストに叫ばれ困った顔で答えるクアットロ。しかしそう言いながらも状態を確認し始める。

「本当にどうなってるのよ………傷口が破損しているけど、どう直せば良いのか………せめて一旦デバイス状態に戻れれば………そうだ!シャイデはどうなの?」
「私もデバイス状態ならね………ジェイルと会うまで私がラグナルを見てきたけど分かっている事って少ないのよ………」
「み、皆さん………」

そんな中、ラグナルが弱々しく口を開いた。

「ラグナル!!」

言葉を発したラグナルに有栖家の皆が集まった。

「大丈夫ですか!?」
「すみません………わ、私が不甲斐ない………ばかりに………マスター……が連れ去られて………アガが!?」

星の言葉に返事を返す途中でノイズの様な音がラグナルから流れた。

「喋らないで!!それと今すぐデバイスに戻りなさい!!これじゃあ修理が出来ないわ」

ラグナルは返事もせず、元のデバイスに戻った。

「よし、これなら何とかなるかも!!シャイデさん!!」
「分かってる手伝うわ。取り敢えずジェイルの元へ戻りましょう」

シャイデの言葉に皆が頷き、皆急いでその場を後にした………














「皆大変だったね………」
「大悟、加奈、バルトさん………」

アジトに戻ると優しい顔で大悟が迎えてくれた。
取り敢えずゼストとナンバーズの皆は簡単なメディカルチェックの為、ウーノと共に移動し、シャイデとクアットロはラグナルの修理の為、スカさんの元へと向かった。

「零治が攫われたって?デバイスも半壊状態って事はアイツは負けたって事か?」
「ちょっと!!バルトさん!!」

無神経な発言をしたバルトに加奈が怒鳴った。

「いや、零治は負けていませんよ………バルトさんも本当はそう思っていないでしょ?」

しかし大悟はそうハッキリと言った。

「まあな」

バルトも澄ました顔でそう言った。

「冷静に分析すると零治君は罠にハマり、バリアジャケットが解除された。それを助けようとして人型になったラグナルが斬られたって感じか?」
「まあそれはどうかまだハッキリとしないがね」

そう言いながらやって来たジェイル。

「ジェイルさん、ラグナルは………」
「損傷は斬られた箇所のみ。深刻なダメージじゃなかったのが幸いしたね。ちょっと時間がかかるかもしれないけど必ず直してみせるよ」

そう笑顔で答えるジェイルに有栖家の面々がホッと一息吐いた。

「だけどラグナルが直るまでは何が起こったのか分からないままね………」
「ラグナルがあった場所は調査したんだよね?」
「ええ。ですが何も分かりませんでした………」

大悟の言葉に星が弱々しく答えた。

「………いや、全く分からない訳じゃねえぞ」

そうバルトさんが呟くとその場にいた有栖家とリンス、大悟とシャイデの全員に注目された。

「バルトさん、何に気がついたんですか!!」
「星、少し落ち着け………」
「バルトさん、早く!!」
「ライお前も………」
「早く言わなければ………」
「風穴開けるよ………」

「てめえ等落ち着けって言ってんだよ!!」

今にも攻撃しようとデバイスを向けた夜美と優理を見てバルトの堪忍袋の尾が切れた。

「ったく、優理はガキだから良いとしてお前等3人は良い歳した大人だろうが!!」
「「「すっ、すいません………」」」
「ガキじゃないもん!!」
「………で、バルト、さっきの話の続きなんだけど………」
「ほう、確かアギトって言ったか?お前は冷静だな」
「私の分は星達が怒ってくれてるから。私はマイスターの為にも力になれる様に準備するだけだから………」

(そう、もう自分の前から零治が離れない様にする。絶対に………)

そう心に決めたアギト。零治のデバイスとしてあの場に居なかった自分を心の中で攻めていたのだった。

「………まあいい。さっき推測で言ったが、現場を実際に見たわけじゃねえけど話を聞くだけでも分かることが何点かある」

そう言い始めると有栖家の皆の今度は静かにバルトの話を聞いた。

「まずあの場に戦闘らしき傷跡が少ないこと。となると怪我による負傷は考えにくい。更に血痕など全く無いのも不自然だ。そう考えると何かしらの攻撃を受け、眠りに近い様な動けない状態にされたと考えられる」
「出血せずに殺されたって事は?例えば首を締められたとか?」
「大悟………俺が言える立場じゃねえが零治の彼女の前でそれはねえんじゃねえか?」
「えっ?あっ………」

慌てて星達の方を見る大悟。案の定、皆俯いていた。

「すみませんでした!!!」
「全く、もっと気を使うって事を覚えなさいよ………」

加奈にも言われて子犬の様にシュンと小さくなった。

「大悟の質問だが、その可能性は無いだろう。第1ヤツにとって殺して零治を持って帰ってもメリットが無い。そして第2に、ラグナルがああやって斬られていたって事はバリアジャケットが解除され、それでも助けようとした結果となる。………まあ最初に言った状況になるって事だ」
「そうね………」

加奈が小さく呟き横目で星達の様子を見た。

「………」

バルトが考察を聞いて黙ってしまう星達。俯きがちに話を聞いているのが精一杯とも見えた。

(何にせよ兄さんがどうなったかを確認出来ないと星達はこのままよね………バカ兄貴………何でこう皆に心配かけるのよ………)


















新暦75年9月………

「終わったよ」

8月が過ぎ、9月に入り、やっとラグナルの修理が終わった。

「ジェイルさん!ラグナルと話せますか!!!」
「星君、落ち着いて。出来るだけメンバーを集めるから皆に連絡をしてくれないかい?」
「分かりました!!」

そう言って駆け出す星。

「………しかしあの中枢にあったブラックボックスは何だったんでしょうね?」

ジェイルの隣に並んだウーノが疲れた顔でそう聞いてきた。

「シャイデ君も見たことが無いと言っていたね」
「はい。そしてラグナルを容量を圧迫していたのは実はそのブラックボックスが原因だと言うのも分かりましたしね………」
「かなり小さいパーツの様な部分。だけど今回そこが傷つけられた事で作動したみたいだね」
「ラグナルは大丈夫なのでしょうか………?」
「分からない。………しかしここまで謎が多いと昔の自分に戻りそうだよ。ラグナルやセレンもそうだけどかなり興味を注がれる………」

そう言って零治と始めて会った時の様な笑みを溢した。

「妹達から会ってもらえなくなりますよ………」
「それは嫌だな」

ウーノの忠告を聞いていつも通りとなった。

「何にせよどうなるかは全く読めないな………」

そう呟きながらウーノと共にラグナルがあるラボへと向かうのだった………

















「どうだい彼は?」
『頑固よ。身体はほぼ私の支配下であるけれど油断すると直ぐに取り返されおっと!!』

別の場所に移動したクレインはうずくまった零治に声をかけた。
うずくまった状態の零治の身体がビクンと反応した後、再び静かになった。

『ほらね』
「聖王器の支配に抗うか………流石黒の亡霊だね」
『本当に厄介よ。………こうなったら人形になっちゃうけど彼を精神の奥底に閉じ込めてしまいましょうか………』
「精神の奥底に………?それはどういった状態なんだい?」
『人には色々な思い出があるでしょ?簡単に言えばその思い出の中に閉じ込めてその思い出の中で過ごさせるのよ。そうすればいずれ精神が壊れてしまう』
「?思い出の中にいるだけで精神が壊れるものなのかい?」
『思い出って響きは良い風に聞こえるけどそれが必ずしも良いものとは限らないのよ?それは誰もが同じ。良い思い出に永遠とひたらせたり、或は自分のトラウマに近い出来事を何度も繰り返す。そうすればいつか心は完全に壊れるわ』
「ほう………人とは不思議な生き物だね………」
『あなたも人でしょ一応………それで思い出……彼の記憶を辿っているのだけど………』
「ん?何かあったのかい?」

言葉を濁したホムラに興味深そうに質問するクレイン。

『まああなたなら興味を湧くかもね………』
「そう言われると更に興味が湧いてきたよ………話してもらって良いかい?」
『分かったわ。まだ全てを理解した訳じゃ無いけど………信じられない話なんだけど………この有栖零治は本名を佐藤孝介と言うのよ』
「?何を言っているんだい?」
『彼はね………転生者なのよ』

そう言ってホムラは話し始めた………












「ははははははは!!これは面白い!!黒の亡霊や神崎大悟が転生者ってだけで無く、今いるこの世界がアニメか!!そして同じ時期にスカリエッティが反乱を………これは傑作だ!!」

話を聞いて高笑いするクレイン。

『まるで今のあなたが彼の代わりをしているみたいね』
「確かにそう見えるね。だけど私の場合、根本的に違うさ。私は興味があるから行動を起こすんだ。それが結局失敗しようが成功しようが関係ない」
『スカリエッティと変わらないと思うけど?』
「そうかい?」
『そうよ。………しかしアニメと同じ状況と考えると神崎大悟辺りが何か対策をするんじゃないかしら?』
「確かにそれはあるかもしれない。………だけどそれはそれで構わないさ。そっちの方が私も面白い」
『………変人ね』
「褒め言葉ありがとう」

そう嬉しそうに答えるクレイン。

『………褒めて無いんだけど。まあいいわ、これからも転生前の記憶を辿ってみるわ』
「そうか、よろしく頼むよ」
『また面白い話があったら報告するわ』
「楽しみにしてるよ」

聞いた後、ホムラは喋らなくなった。

「転生者か………神と言う存在も面白い………全てが終わった後もまだまだ私の興味は無くなりそうにないな」

クレインは嬉しそうにそう呟いた………
















「ラグナル、作動させるよ………」

結局集まれたのは前と同じメンバーだった。
1時間待った後、ジェイルの指示の元、シャイデとその手伝いをしていたウーノ、楓も一緒になって手伝っていた。

「済まないな、私も行っていれば………」
「トーレさんのせいじゃ無いですよ………」

今回やって来たトーレは申し訳なく星に呟いた。

「やっぱり星達元気無いね………」
「これでもマシな方よ。付きっ切りでウーノさんが付いててくれてこうなのよ」
「そうなんだ………」

加奈に耳打ちをして理解した大悟。

「零治のアホ………大事だって言ってた家族を泣かせるなよ………!!」
「………」

そんな大悟の呟きが聞こえた加奈であったが何も言わずラグナルの様子を見ていた。

「………よし、起動させるわよ」

シャイデの言葉に皆が頷き、シャイデは皆を確認した後、ラグナルを起動した。

『ん………んん………』
「ラグナル………?」
『ここは………ああ、そうだ、私は………』
「ラグナル、何か不具合は無いかい?」
『不具合………?………ああ!!大丈夫です。おかげで元気一杯です!!』
「そうか………では早速で悪いんだけど、あの時何があったか教えてもらっても良いかい?」
『あの時………?ああ、孝介が!!』
「「!?」」
「孝介?」
「誰の事だろ?」
「我は知らんぞ?」

皆が首を傾げる中、加奈と大悟だけが驚きに戸惑っていた。

「ラグナルあなた何を言ってるのよ!!」
「そ、そうだよ!!」
『あ、あはははは………そうでした、私ついうっかり………』

慌ててフォローを入れた加奈と大悟に合わせる様にラグナルも答えた。

「………大丈夫なのか?」
「修理は完璧よ。でも雰囲気が前と違うわね………」

夜美の問いにシャイデが不思議そうに答えた。

『さて、こ……零治、いえマスターの件ですけど結論から言うとマスターは生きています』
「本当に!?」
「レイは生きているんだ!!」

ライと優理の言葉の後に有栖家から歓喜の声が上がる。

『元々アイツ等の目的がマスターの捕獲だったみたい。それで恐らくはマスターを操って利用する為………』
「なるほど………だから冥王教会と水無月君を餌に誘き出し孤立させた………」
「今回の件は全て裏目に出てしまったと言うわけだ」

そんなトーレの一言に誰も返す言葉が無かった。

「で、でもレイ兄がそんな簡単に捕まって連れて行かれるなんてとても信じられないんスけど?」

そんな悪い空気を壊したのはウェンディだった。

「そ、そうだ!零治なら転移だって出来るし逃げることだって………」

それに同調してノーヴェが少し声を荒げながらそう答えた。

『全ては計算されていました。AMFを展開され、更に転移してきたブラックサレナに囲まれる様にくっ付けかれて身動きも取れなかった。マスターの転移は触れている物も一緒に転移させてしまう以上転移も出来ませんでした』
「なるほど………」

ジェイルがそう納得した事によって再び重くなる空気。

『そしてここからが本題です。クレインはマスターを操るのに聖王器の刀を握らせました。名をホムラと呼んでいました。その力は恐らく身体を乗っ取る事。握っただけで精神がホムラに乗っ取られ、その刀をマスターの手から離そうとして斬られました』
「聖王器………バルバドス、てめえ何か知らないか?」
『聖騎士クレアが使っていた炎の魔剣。それをデバイスに改造したと言われている』
「その能力は?」
『知らん』
「使えねえ………」

そう吐き捨てたバルト。

「しかしラグナル君の話を聞くとかなり高性能な洗脳………いや、ここまでくると零治君は零治君では無くなっているかもしれない」
「ちょっと、ドクター………!!」

直球過ぎる物言いにウーノさんがジェイルに異議を唱えようとしたが、ジェイルは変わらなかった。

「私も零治君を信じている。だがそれでも最悪の事態を想定しなくてはならない。私の予想だとクレインは零治君を使って一番障害になりそうな者を消そうとするだろう」
「障害になりそうな者………大悟や桐谷、機動六課のメンバーとか?」
「セインの言う通り私ならそうする。そう考えると奴も………」
「ちょっと待って下さい。何故ジェイルさんが考えたことがクレインの考えたことになるんです?」

その星の問いにウーノは困った顔でジェイルを見た。それを見たジェイルは優しく笑って返した。

「………それはクレインが私と同じくジェイル・スカリエッティだからだよ。正確に言えば冥王教会で作られたもう1人のスカリエッティと言えば分かりやすいかな」

そんなジェイルの言葉は何秒か時が止まっている様に全く反応出来ずにいた。

「驚くのは無理は無いよ。私も実際に確認したわけじゃ無いし証拠があるわけじゃ無い。だけど………」
『………マスターも実際に会ってみてそう感じた様です』
「そうか………」

複雑そうに呟いて何も言わなくなるジェイル。

『と、とにかく!!クレインはマスターを使って近いうちに行動を起こすと思います。その対策を考えなくてはなりません』
「クレインの目的はバルトマンが襲って来た時で分かった様にヴィヴィオ君の身柄だ。となるとヴィヴィオ君を連れて行こうとするだろう」
「いいぜ、返り討ちにしてやる」
「待って下さい!!」

そんなバルトとジェイルの話に星が割って入った。

「レイに関しては私達に任せてもらえませんか?」
「だが、零治君相手で戦えるのかい?」
「戦うんじゃない、助けるんだ!!」
「どうやって?」
「正気に戻す。レイだって操られたままで居るわけがない」
「………」

星達3人の言葉にジェイルは考え込む。

「ドクター」

そんなジェイルにウーノが優しく声をかけた。

「………そうだね。覚悟があるならそうしようと話したからね。分かった、零治君は君達に任せよう。良いかいバルト君?」
「良いんじゃねえか?俺も奴が操られたままとは思えねえしな。ただ俺の前に立ち塞がり、ヴィヴィオに手を出そうとしたら、俺は全力で戦うぞ」
「はい、分かってます」

バルトの言葉に力強く星が答える。


「俺もバルトさんと同じ様にそうするよ。零治相手に手加減なんて出来ないから」
「うん、そうなる前に必ず僕等が助けるよ!!」

大悟の言葉にはライが答えた。

「我等は決して諦めん。あの時救ってくれたレイを今度は我等が救う!」
「夜美の言う通り。私も皆で一緒にいられたのはレイのおかげだから」
「それは私もだ。自分のマスターは自分で取り返す!!」

夜美に続いて優理もアギトも力強く答えた。

「無論、私達も手伝うさ。私にとっても零治君は私の親友だからね」
「仕方が無いっスねレイ兄は………」
「お前よりはマシだよ」
「そうだね」

ノーヴェとセインの言葉にクアットロを始めとしたナンバーズ全員が苦笑いしながら頷いた。

「私達も出来る限りはするわ。私にとっても兄だからね」
「そうか………加奈と結婚したら零治の事、お兄さんって言わなくちゃいけな……痛っ!?」
「今考える事じゃないでしょうが………バカ………」

大悟を叩いて文句を言う加奈だったが心なしか嬉しそうだった。

「全く、お人好し共め………」
「そう言うバルトさんだって零治の事見捨てるつもりは無いんでしょ?」
「………まあな。だがヴィヴィオに危害が………」
「分かってますよ。…………全く、いつの間にか親バカに………」
「何か言ったか大悟?」
「い、いいえ、何も?」

慌てて首を振りながら答える大悟。

「決まりだね。零治君は星君達に任せよう。後は何とか後手に回るのだけは何とかしないといけない。私の方でも情報を集めてみるよ」
「お願いします」

星の返事に笑顔で頷いたジェイル。

「ラグナルは貴方達に渡しておくわよ」
「うん」

ライが返事をし、受け取ろうとしたが………

「夜美、よろしくね」
「分かった」
「ちょっと何で僕に渡さないの!!」
「ライに渡すと無くしそうだと思ったからね………」
「シャイデ、大丈夫だよ!!」
「まあ落ち着け。これも日頃の行いの結果だ」
「納得いかない〜!!」

皆に笑われながら叫ぶライであった………




















「………さん、兄さん」
「んん………後2時間………」
「完全に遅刻でしょうが!!良いから起きなさい!!」
「ぶほっ!?」

腹部にいきなり激痛が走り俺は目を覚ました。

「起きた兄さん?」
「加奈、俺いつか死ぬからなそんな起こし方じゃ!!」
「いつまでも起きない兄さんが悪いのよ。今日から大学生なんでしょ、しっかりしなさいよ!!」
「お前は朝からキャンキャンと煩いな………」
「誰の……せいよ!!」

再び腹部に蹴りを入れられ先ほどの激痛が帰ってくる。

「うおおおおお………!!」
「さっさと降りて来てご飯食べてよね!!」

そう言い残してドアを勢い良く閉め出て行った加奈。

「全く………ん?加奈が同じ家?」

ふと不思議に思えた俺は身体を起こし周りを見る。

「俺の部屋………だよな?何だろう何故か懐かしい………寝ぼけてるのかな………?」

欠伸をして身体を伸ばす。

「んー……眠い………」
「兄さん!!!」
「行くっての!!………ったく、俺の部屋には監視カメラでも着いているのか………?加奈ならやりかねん………」

そんな不安を抱きながら着替え降りる。

「やっと来たか………」
「わざわざお迎えご苦労」
「ご苦労じゃないだろう………途中まで一緒に行こうぜって誘ったのお前だろうが………」

深くため息を吐きながら呟く桐谷。成績が優秀な桐谷は有名な一流大学に進学したのだが、同じ路線なため、途中まで一緒に行く約束をしていたのだが………

「いやぁ、すっかり忘れてたわ!!」
「じゃあ加奈、俺は行くわ。朝飯御馳走様」
「いえいえ、これくらい。いつでも食べに来てね」
「えっ、ちょっと………」
「いってらっしゃい桐谷」
「ああ、行ってくる」

「えっ、冗談だって、待てって桐谷!!」










「全く、冗談だったのによ………」
「いいから走れ!!遅れるぞ!!」

駅のホームを走り、3番線の車内に何とか駆け込んだ。

「はぁはぁ………」
「全く、全く大学へ上がってもお前は変わらないな………」

そんな呆れた顔で見る桐谷だが、直ぐに持っていたバックから袋に入ったパンを取り出した。

「何だこれ?」
「加奈が用意してくれた惣菜パン。どうせお前が寝坊するだろうって作っててくれたみたいだな」
「………何で俺に直接渡さないんだよ」
「まあ加奈らしいよな………直接渡すのが恥ずかしかったんだろ………」
「何だよ、高校に入って俺に対して丸くなったと思ったけど………」
「まあそれはそうだが、まだ照れ臭いんだろ」
「ったく、手のかかる妹だぜ………うん、まあまあだな」

決して美味しいわけでもないが、流石に簡単な朝食や、惣菜パンは作れるようになった。
加奈も頑張ったな………

「帰ったら美味しかったって言ってやれよ」
「あいよ」

俺と加奈の両親は共働きでどちらも朝が早い。余裕があれば母が朝食を作ってくれるのだが、余裕が無いときは俺が作るか、買って来て食べていたが、加奈がやっと料理を始めてくれたおかげで取り敢えず朝食を買いに行く必要は無くなった。

前は「お腹すいたって!」叩き起こされていたからな………

「………ん?あれは………」
「あれ?ああ、何かのアニメの対戦ゲームみたいだな」

そんな中、ふと携帯ゲームをしていた乗客のゲーム画面に目がいった。

「なのは………フェイト………?」
「ん?孝介、知っているのか?」
「えっ?俺何か言ったか?」
「は?今キャラの名前を呟いたじゃないか」
「俺が?」
「ああ」

何と言ったか思い出そうとするが、どうも思い出せない。

「孝介、お前大丈夫か………?」
「あ、ああ………」

何故だろう、俺は知っている筈なのに、何故か思い出せない………

「桐谷、俺は何か大事な事を忘れているような………」
「お前、まだ寝ぼけている………訳じゃ無いな………」

俺の顔を見て、冗談じゃないと察した桐谷。

「大丈夫か?」
「ああ、気分が悪いとか体調がおかしいとかそんな影響はない。だけど何か気になって仕方がないんだ………」
「そうか………だったら………」

そう言ってゲームをしている男性の前に移動する桐谷。

「すいません」
「はい?」
「そのゲームのタイトルって何ですか?」
「『魔法少女リリカルなのはA’sポータブル』ですけど………」
「ありがとうございます」

そう言って桐谷はこちらへ帰って来た。

「魔法少女リリカルなのはだってよ」
「魔法少女リリカルなのは………」
「大学終わったらゲームショップに行って見てみたらどうだ?」
「あ、ああ………」

そんな話をしていた内に電車は目的地の駅へと着いた。

「じゃあ悪いがここで俺は乗り替えだから」
「ああ、サンキュー桐谷」

俺の言葉を聞いた桐谷は電車を降りて行った。

「何だろうな、このモヤモヤした感覚………」

そんなモヤモヤした気持ちで大学へと向かうのだが、直ぐにそんなモヤモヤを吹き飛ばす様な事件が俺に起こったのだった………















「ヤバい、バック間違えた………」

今になって高校で使っていたバックを持って来ていた俺。中には高校の時に使っていたノートと暇つぶしの携帯ゲーム機に読みかけの小説と卒業式前の用具が勢ぞろい。

「………って卒業式の日も碌な物持って来てなかったな俺………」

次に何の授業だったかは覚えているのだが、どこの講義室なのかが分からない。俺の通う大学はかなり広い大学で、様々な場所に講義室があるため、探すにも絶望的だ。

「まあ聞けば良いんだろうけど………」

この場合何処で聞けば良いんだろうか………

「「はぁ………」」
「「えっ!?」」

近くのベンチに座り、ため息を吐くと同じタイミングでため息を吐く人がいた。

「あ………もしかしてあなたも………」
「えっと………」

その人は金髪の女性だった。歳は同じくらいで初々しい様子から同じ1年生だと思われる。

「私、今日の予定表持ってくるの忘れちゃって………」
「ああ………俺は持ってくるバックを間違えちゃって………」

そう言い合い………

「「あはははははは!!!」」

互いに笑いあった。

「俺は佐藤孝介。君は?」
「私は遠藤エリス、宜しくね孝介」 
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