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真犯人

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第四章

「そこまでということで」
「わかりました、それでは」
「とにかくこの事件の真犯人はです」
「見付かることはないですね」
「はい、決して」
 何があろうともだというのだ。
「私達が見付けることはありません」
「そうなのですね」
「見付かるにはあまりにも大物過ぎます」
 それ故にだというのだ。
「このイタリアにおいて」
「そうですね、確かに」
「政治の事件は犯人が大物過ぎれば」
 姿が大き過ぎる、それならばだというのである。
「かえって見付からないものです」
「普通は姿が大きいと見付かりやすいですが」
「そうですね、巨人程度ならば」
 マキャベリは今度は聖書のことを例え話として出した。
「見付かります、しかし海でリバイアサンを目の前に見てもわかりませんね」
「海だと思ってしまうということですね」
「リバイアサンは巨大です」
 あまりにもだ、それこそ月をその尾で持つことが出来る程だ。
「人が目の前で見てもわかりません」
「そうなりますか」
「はい、ですから」
 だからだというのだ。
「大き過ぎますと」
「見付からないですね」
「そういうことです、あの事件の真犯人はリバイアサンです」
 まさにだ、それ程の相手だからだというのだ。
「とても見られません」
「そうですね、では」
「はい、見付からないということで」
「わかりました、それでは」
「この件はこれで終わりです」
 マキャベリは強引であることはわかっている、だがそのことをわかったうえで若い部下に対して語るのだった。
「何もかもが」
「私も以後は」
「口にしないということで」
「そういうことですね」
「そうでもして何かをしなければ」
 わかっているが見付からない、その前提での言葉だった。
「得られない、得なければならないのが今のイタリアで」
「この半島ですか」
 長靴の半島は無数の国に別れ争っている、しかも諸外国が介入してきているという状況だ。この憂うべき状況は部下もわかっている。
 無論マキャベリもだ、それでマキャベリは言うのだった。
「あの方はいいのです」
「こうしたことをされてもですか」
「そうです、イタリアを統一し」
 そしてだというのだ。
「平和をもたらす為には」
「それが悪であっても」
「悪も必要なのです」
 悟っているかの如き目での言葉だった。
「イタリアの為には」
「そういうものですか」
「獅子の様に勇敢であり」
 そしてだった、マキャベリが『彼』に対して言うことは。
「狐の様に狡猾でなければならないのです」
「狐ですか」
「この場合は狐です」
 それになるというのだ。
「あの方はそうされたのです」
「成程、では」
「イタリアは大きく動くことになるかも知れません」
 マキャベリはここでは期待する様な笑みで述べた。 
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