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女侠客

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第六章

 奥田を後ろから襲おうとしたならず者の顔に当たった、ならず者はその石を受けて。
 動きを止めた、奥田はここで後ろに気付いて。
 そこにいたならず者に攻撃を浴びせた、それで倒した。奥田はこうした危機もあったが夜盗達を全て倒した。 
 その全てを見届けてだ、おみよは笑顔でその場を後にした。この時はこれで終わった。
 奥田が日本橋の夜盗達を全て退治したことは江戸中の評判になった、田宮もこのことについて満面の笑みで言うのだった。
「いや、よかったよ」
「夜盗達がだね」
「ああ、退治されたよ」
 こう言うのだった、実に明るい笑顔で。
「奉行所としても何よりだよ」
「日本橋の腕の立つ浪人さんが全員懲らしめたんだね」
「しかも一人も殺らずにな」
 そうしたというのだ。
「凄い腕だな」
「本当にそうだね」
 おみよも田宮のその言葉に頷く、二人は今は浅草の店と店を歩いて回っている。そのうえでの言葉だった。
「悪い奴等が退治されて何よりだよ」
「全くだよ、ただな」
「ただ?」「夜盗共を退治したのはいいけれどな」
 それでもだとだ、田宮は今二人が前にいる店の風車、赤と青のそれが回っているのを見ながらおみよに話した。赤と青が混ざり合いそれで勢いよく回っている。
「旦那は怪我をしたんだよ」
「えっ、本当かい!?」
 おみよは田宮の今の言葉には目を驚かせて問うた。
「そうなったのかい」
「おいおい、何か急に態度が変わったな」
「気のせいだよ、けれど怪我って」
「ああ、どうもやり合ってる最中に切られたらしくてな」
「切られたのかい」
「大した怪我じゃなくてもな」
「怪我をしたんだね」
「手をな」
 そこだというのだ、
「ちょっとやったらしんだよ」
「それを早くお言いよ、旦那も」
 おみよは目を怒らせて田宮に抗議した。
「全く旦那も気が効かないんだから」
「おいおい、随分な物言いだな」
 事情を知らない田宮は急に怒りだしたおみよに戸惑いながらも返した。
「わしが何をしたんだ」
「何もしてないよ」
「じゃあ何でそんなに怒るんだ」
「怒ってるように見えるかい?」
「ああ、見えるよ」
 実際にそうだった、これは田宮以外の者が見てもこう言っただろう。
「どっから見てもな」
「そうなのかい、けれどね」
「けれど?今度は何だよ」
「ちょっと用が出来たんでね」
 それでだというのだ。
「今日はこれでね」
「何か急に慌ただしくなったな」
 田宮は怒って焦るおみよを見て首を傾げさせるばかりだった、しかしおみよにとっては一大事のことだった。
 すぐに日本橋まで駆けて行きそこで傷薬と包帯を買った、そうして。
 田宮のいる長屋に駆ける、それで寺子屋の前まで来た、だがその寺子屋の中から聞こえてきた声はというと。
 二十代後半位の女の声だ、いつもの子供の声ではない。おみよはその声を聞いてまずは首を傾げさせた。
「女の声!?」
 しかもだ、その声はというと。
「大丈夫ですか?」
 誰かを気遣う声だった、そしてこの寺子屋の中にいるのは。
 言うまでもなかった、それでおみよは寺子屋の中をそっと覗くとそこには奥田ともう一人武家の着物を着た綺麗な女だった。
 その女がだ、奥田の左手、軽い刀傷のあるその手を水で洗いながら彼を気遣ってこう言っていたのだった。
「そのお怪我は」
「安心してくれ」
 奥田はその女に優しい顔で優しい声をかけて応えていた。今寺子屋の中にいるのは二人だけである。子供達はいない。 
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