| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

桜の木

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五章

「注意しないとね」
「馬鹿が出た時に」
「馬鹿は本当は気にしないに限るけれど」
 だがだとだ、エセックスは話す。
「それで合衆国が貶められることはね」
「願い下げだね」
「戦争が起こると」
 それでだというのだ。
「皆頭に血が登るからね」
「馬鹿は余計にね」
「それで合衆国を貶める様なことがあってはならない」
「それは気をつけないとね」
「カルフォルニアはどうにも出来ないよ」
 あの州はというのだ、それは何故かというと。
「僕達はあそこにいないからね」
「ワシントンからは遠いね」
「どうにもならないよ、届く話を聞くだけだよ」
 エセックスは無念の顔に今からなっていた、そのうえでの言葉だ。
「あそこで何が起こったのかを」
「碌でもないことが起こるだろうね」
「そうだろうね」 
 このことだけはわかった、そして暗鬱な気持ちになるのだった。
 しかし彼等はカルフォルニアにはいない、ワシントンにいるのだ。だからワシントンにおいてはなのだった。
「馬鹿が出たら止めよう」
「そうしようか」
 まだ戦争になっていないがそれでもだった。
 彼等は苦い顔でこれから起こることを見ていた、そして。
 実際に戦争が起こった、日本が真珠湾に奇襲を仕掛けてきた。これによりアメリカは戦争に参加することになった。
 これまでアメリカは戦争をする気はなかった、少なくとも国民は。
 しかし日本の奇襲で空気が一変した、誰もが声高に叫んだ。
「日本を倒せ!」
「日本を許すな!」
「騙し討ちをした日本を倒せ!」
「何としても!」
 こう叫んだのだ、そして。
 議会も圧倒的多数で開戦を支持した、ルーズベルトは内心を隠してこう言った。
「リメンバー=パールハーバー!!」
 この言葉が合言葉になった、アメリカ全土が日本への憎悪で塗り潰された。
 ワシントンでもだ、とかく日本を倒せという言葉や文字が溢れ返った。エセックスはこのことについてこう言った。
「僕も戦争は支持する」
「こうなってはだね」
「起こってしまった、それなら」
「勝つしかないね」
「戦争は勝ってこそだよ」
 そうしなければというのだ。
「何もかもはじまらない」
「そういうことだね」
「そうだ、けれどね」
「今の状況はだね」
「危険だよ」
 危惧する顔でだ、エセックスは昼食の場でワルトに話す。
「日本への憎悪が爆発している」
「怒りとだね」
「人種論に満ちている」
 そしてそれがだというのだ。
「アメリカにとって危険だよ」
「それに気付いている人はいるかな」
「少ないね」
 エセックスは苦々しい顔で答えた。
「皆頭に血が昇っている、既にかなり煽られてきているしね」
「ハーストにもだね」
「既に危うい水準にあってね」
 そしてだというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧