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妻の正体

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第十一章

「私も。夜のことは」
「覚えていないね」
「食べないことは少食だと思っていました」
「けれどそれは違ってね」
「自覚のないうちにですか」
「そう、奥さんは吸血鬼になっていたんだよ」
 ペナンガラン、それにだというのだ。
「何処かで寝ているうちに血を吸われていたんだろうな」
「それってまずくないですか?」
 マヤリームはその話を聞いてだった、社長に顔を顰めさせてこう言った。
「吸血鬼に襲われていたって」
「そうだな、窓を閉めていれば入ることが出来ない様だが」
「ああ、邪魔をされて」
「割って入れば音でわかってしまう」
 吸血鬼が来ることがだ。
「だからそれは出来ないがだ」
「そういえば去年。あまりにも暑くしかも家にクーラーがなかったので」
 シャリーナはここで思い出した、去年の夏のことを。
「その時にですか」
「寝ている間に血を吸われてね」
「その時からでした、少食になったのは」
「まさにそれだよ、吸われて伝染されていたんだ」
「それでペナンガランになっていたのですか」
「うん、そうだよ」
 こう話すのだった。
「夜も気をつけないとね」
「駄目ですね」
「そう、おそらく奥さんも血を吸っていたから」
「誰の血かは」
 シャラーナが覚えている筈がなかった、何しろ夜は寝ているとばかり思っていたからだ。ペナンガランになっている時のことを覚えている筈がなかった。
「とても」
「それは仕方ないよ、しかしね」
「はい、気付かないうちにですね」
「人は吸血鬼になっている場合もあるのですね」
「そうなる、怖いことだ」
 社長は口をへの字にして考える顔になって若い夫婦に述べた。
「夜は気をつけないとな」
「ですね、さもないと」
「また吸血鬼になってしまいますね」
 二人もよくわかったことだった、夜寝ている時こそ油断してはならない。
 何はともあれ元に戻ったシャラーナは普通に食べて夜はしっかりと寝る普通の綺麗な妻になった、マヤリームにとっては最初こそ色々あったがよい伴侶になった。ただ夜はこれ以上はなく気をつけるようになった。


妻の正体   完


                        2013・12・31 
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