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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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魔法都市にて、思いは渦巻く


バラム同盟の一角を担う闇ギルド、血塗れの欲望(ブラッティデザイア)
カトレーン一族の現当主シャロンの命令によりティアを迎えに来たメンバー3人によって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は襲撃されてしまう。
幸い怪我人は少なかったものの、ギルドマスター直属部隊のリーダーであるエストはルーとアルカにそれぞれ見えない深い傷を負わせ、その姿を消した。
元素を司る3人の秘められた過去がゆっくりと、確かに紐解かれていき、そして――――

「うわー・・・」
「凄い!」
「ここが・・・」

ナツ達は、とある街にいた。
目に映るのはマグノリアとはまた違った大きい街。
魔法の光が街を照らし、魔法人形(マジックドール)が街中を歩く。



「“魔法都市”――――――フルール・・・」








何故ナツ達がカトレーンの本拠地―――本拠地という言い方もどうかと思うが、ナツ達にとってカトレーンは敵の為こう呼んだ―――であるフルールにいるか。
それは昨日の会話にある。

「カトレーンの一族を、滅ぼしに行く」

鋭い光を瞳に湛え、声に見知らぬ感情を混ぜて。
クロスははっきりとした口調で言い放った。

「滅ぼしに行く・・・って」
「いいのか?」
「何がだ?」
「いや・・・一応カトレーンってお前の実家だろ?家族だろ?」

不思議そうに首を傾げるクロスにエルフマンが問う。
カトレーンの一族が敵なのに変わりがないように、クロスがカトレーンの人間である事にも変わりはない。
つまり、クロスは自分で自分の家族を滅ぼす、という事になる。
が、クロスはそんな事気にしていないよう。

「別に構わん。姉さんも兄さんも俺にはいる。俺の家族は2人と、ライアー達だけだ」

しれっと言ってのけるクロスは青い髪を耳にかける。
両親は、とハッピーは聞こうとして、止めた。
一言じゃ言えないが、何か聞いてはいけない雰囲気だったのだ。

「だが解らない」
「?」
「何故お祖母様は姉さんを連れ帰ろうとしたのだろう」

そういえばそうだ。
ティアの事を三流だの出来損ないだの罵倒したシャロンが態々ティアを連れ帰る理由が解らない。
優秀な人間しかいらないはずのシャロンが出来損ないと呼ぶティアを連れ帰って何のメリットがあるのだろうか。

「縁談とか?」

・・・一瞬、空気が凍った。
原因は我らが空気クラッシャールーである。

「それは有り得んっ!絶対に、断じて有り得んっ!その可能性は皆無だ!どこの馬の骨とも解らない男に姉さんは渡さん!姉さんが欲しくば俺を超えていけ!姉さんの美しき容姿にのみ惹かれるような輩は断じて許さんぞ!」

そしてそれに過敏に反応するのがシスコン(自覚無し&頑なに認めない、最近変人と書いてシスコンと読むにグレードアップ)のクロスである。

「んー・・・じゃあ何でだろーね」
「スバルとか、何か知らねーのか?」

こてっと首を傾げるルー。
アルカはクロスの次にカトレーンの事情に詳しそうなスバル達に訊ねる。

「さぁな、オレ達だって聞きてぇよ。あのばーちゃん、何考えてるか解らねぇんだ」
「それにかなり怖い人だから・・・私達もあんまり関わりたくないんだよね」
「あの女の行動など、理解したくもない」
「落ち着けライアー・・・まぁとにかく、私達にも解らないんだ」

だが、期待したような答えは返ってこなかった。

「生憎、俺もそこまでカトレーンには詳しくない。姉さんを苦しめる一族の事など知ろうとも思わなかったしな・・・まさかこんな所でそれが仇となるとは」

ガシガシと髪を乱し、クロスが苛立たしげに呟く。
すると、何かを思い出したようにウェンディが口を開いた。

「あの、クロスさん」
「どうした?マーベル」
「クロノさんなら、何か知ってるんじゃないでしょうか?」

クロノとは説明するまでもなく、クロノヴァイス=T=カトレーンの事だ。
確かに彼もカトレーンの人間であり、更に評議院の人間である為に血塗れの欲望(ブラッティデザイア)についても詳しいだろう。
妹と弟、かつて所属したギルドの為なら軽く引き受けてくれそうだ、と1回だけ会った事のあるウェンディは思った(『緋色の空』参照)。
だが、彼女は知らない。

「・・・あの兄さんが、ただ情報を教えてくれる訳がないだろう」
「え?」

クロスは苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。
ウェンディが首を傾げる。
そしてクロスは思わずギルドにいた全員が叫びたくなるような一言を言い放った。




「シスコンの兄さんが姉さんの危機を黙って見過ごすはずがないっ!」




・・・沈黙。
そして、全員が心の中で叫んだ。

(えーーーーーーーーーーーーーーーっ!)

自分の事シスコンだって認めないのにクロノの事シスコンだと思ってるんだ!
そういう意味を込めて、叫ぶ。
実際に声に出して叫ぶと近所迷惑なので、心の中で。

「評議院の強行検束部隊隊長の兄さんが関わると大事になりすぎる。かといって兄さんが黙って情報だけを渡すなんて有り得ない。なるべく兄さんは頼りたくないんだ」

バラム同盟の闇ギルドが関わっているから既に大事なのだが、クロスは全く気にしていないように呟いた。

「だからまずは情報を集めるところから始めないといけない。何故お祖母様が姉さんを連れ帰ったのか・・・そこから始めないといけないんだ」
「んなのあのばーちゃんぶん殴っちまえばいいじゃねーか」
「何でそうなるのよっ!」
「それで解決する訳ねーだろ!」

真剣に呟くクロスにナツが答え、ルーシィとグレイがツッコみを入れる。
いつもの様に『考えなしに言って戦う』が通用しない相手なのだ、今回戦う相手は。
バラム同盟を担うギルドに魔導士のみが暮らす都市の名家の女当主、それを相手に情報ナシは難しい。
そもそも、ナツ達はカトレーンの一族に一体何人人がいるのか、どんな一族なのかさえ知らないのだ。

「とにかく、だ。ドラグニル達はフルールへと向かってくれ。クロッカス行きの列車に乗れば途中で駅があるから解る」
「クロスは?」
「俺はライアー達と血塗れの欲望(ブラッティデザイア)傘下の闇ギルドを漁る。奴等なら何か情報を持っているかもしれん」

黒地に銀色と青のラインが入ったバロンコートをはためかせ、クロスは立ち上がる。
気づけばその手には仕事に行く際にいつも持っていく茶色のショルダーバッグが握られており、黒いブーツの踵を打ち鳴らしていた。

「行くぞお前達!今は少しの時間も無駄にしたくはない!」
「はい!」
「うん!」
「おうよ!」
「了解!」

青い髪を揺らしてギルドを出ていくクロスを、ライアー達が追いかける。
姉の事となればギルドで1番の行動力を発揮するのがクロスであり、それに続くように決断力もアップしていた。

「よし、ナツ達はフルールへと向かえ。ワシ等は他のルートで情報を漁る」

マカロフの言葉にエルザが頷く。
そして、ナツ達はフルールへと向かって行った。













――――――という訳で、現在に至る。
魔法都市、と言われ大規模な魔導士ギルドのようなものを想像していたナツ達だったが、実際には違った。
現実を感じさせない、別世界に来たような錯覚を覚えさせる街並み、街灯の周りを円を描いて回る魔水晶(ラクリマ)のカケラ。心地よい音を立てて流れる水。似たような建物が並び、丸屋根の頂点には綺麗に削られた魔水晶(ラクリマ)が縦に飾られている。
街の中を、どう見ても人間にしか見えない魔法人形(マジックドール)が歩いている。顔や腕、足に奇妙な紋章が刻まれている事、人間でいう心臓辺りが淡く光っている事を覗いては人間そのものだ。

「何か・・・想像してたのと違うんだけど・・・」
「オイラも・・・」

ルーシィとハッピーが呟く。
因みに今フルールに来ているメンバーは最強チームメンバー+ルーとアルカ、ヴィーテルシアだ。

「よし、まずは血塗れの欲望(ブラッティデザイア)とカトレーンについての情報収集だ」
「手分けすっか。1時間後に、そうだな・・・」

エルザの言葉にアルカが頷き、辺りを見回す。
そして近くの建物を指さした。

「そこの宿に集合、ってのでどうだ?」
「解った。悪いがアルカ、宿を取っておいてくれないか?」
「任せとけ。んじゃ、先に行かせてもらうぞ」

宿を取る為に、アルカは宿のある方へと歩いて行った。
フルールの住人だろう、何人かの少女がアルカを見てはヒソヒソ何かを話し、頬を淡く桃色に染めてアルカを見つめている。
週刊ソーサラーの彼氏にしたい魔導士ランキング上位ランカーはここでも人気なようだ。

「てゆーかさー」
「どうしたルー」
「ナツって1人で情報集められるのかなぁ?」

誰も何も言わなかった。
思わず全員が沈黙する。

「ルー!テメェオレの事バカにしてんのか!?」
「違うよう。ナツの事だからデマを信用しちゃうんじゃないかなーって思っただけだよ」
「んだとコラー!」

当然、ナツはキレる。
だがルーの調子は変わらない。
それを聞いたエルザ達は―――

「確かに・・・ナツ1人じゃまともに情報集めて来れなさそうだな」
「すぐに頭に血が上って話どころじゃなさそうよね」
「話をややこしくしそうだしな」
「相手に喧嘩を売りそうで不安だ」
「でしょー」
「ひでぇ!」

ルーの言い分に納得したように頷いた。
反論せず頷くエルザ達に思わずナツは目を見開いて叫ぶ。

「という訳で、だ。ナツ、お前はアルカを追って宿で待機してろ。ハッピーも頼む」
「あい」
「・・・」

ヴィーテルシアに言われ、ハッピーは素直に返事をする。
ナツは何も言わなかったが、全員一致で宿で待機が決定した。

「じゃあルーシィは私と、グレイはルーと行動してくれ。ヴィーテルシアは・・・」
「私は1人で十分だ」

いつの間にか少女の姿へと変身していたヴィーテルシアはこくっと頷く。
今回は金髪の三つ編みに夕日色の瞳が特徴的な少女だった。
大きな白い襟が特徴的なノースリーブの黒いワンピースを纏っている。

「えー、僕ルーシィとがいいよう」
「文句言うんじゃねーよ、ルー。行くぞ」
「待ってよグレイ~」

不満そうに眉を寄せるルーを引き連れ、グレイは街の中へと消えていく。

「では私も行かせてもらおう。ティアの為だ、頑張らなくてはな」

その後を追うように、1人意気込んだヴィーテルシアは金髪を揺らしてグレイ達とは別の方向へと進んでいった。

「私達も行こう、ルーシィ」
「うん!ナツ達はちゃんと宿で待機してるのよ?」

ナツとハッピーにそう忠告したルーシィとエルザも情報収集の為街の中へと姿を隠す。

「くっそー・・・どいつもこいつも!」
「仕方ないよ、ナツ。オイラ達は宿に行こう」

苛立つナツを宥めながら、ハッピーは宿へと向かって行った。
―――――そして。

「・・・」

その後ろ姿を、1つの影が見つめていた。













フルールの街の奥に立つ、カトレーン本宅。
本宅のある土地に入るまでには複雑な迷宮がある。
この迷宮は最近出来たものであり、シャロンが災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)に頼んで作ってもらったのだ。
―――――――ティアが、逃げられないように。

「!」

そんな本宅の一室。
天蓋付きの1人で寝るにはかなり大きいベッドや豪華なドレッサー、どこぞの姫でも暮らしているのかと思う程に豪華なこの部屋で、ティアは小さく身を震わせた。

「まさか・・・」

純白の尼僧服に身を包んでいるティアは、部屋に完備されている監視用の魔水晶(ラクリマ)に手を翳す。
この魔水晶(ラクリマ)は街を監視しており、街の映像が流れるのだ。

「っ!」

そして、見つける。
魔水晶(ラクリマ)の中で揺れる黒髪と緑髪、パッと映像が切り替わったと思えばそこに映るのは緋色髪と金髪、次に現れたのは三つ編みの金髪。続いて桜色髪と青猫が映る。
その顔は当然のように見覚えがあり、その服装も見慣れたものであり―――桜色髪の右肩、金髪の右手の甲に刻まれた紋章は、己の背中に白く刻まれたものと同じ。

「コイツ等・・・!」

来るだろうとは思っていた。
他人を仲間と呼び、仲間の為なら世界中どこだって駆け巡る妖精の尻尾(フェアリーテイル)の事だから、確実に追ってくるだろうと。
だが、ここまで早いとは思っていなかった。

「ウソでしょ・・・」

あまりの早さに目を見開く。
自分がここに来たのは今日。手紙を置いたのも今日の事だ。
そして、アイツ等は今日、フルールに来た。
マグノリアとフルールは特別遠い訳ではない。1時間ほどあればつく距離にある。
だからこの街に早く着いた事には納得出来るが。

「足止めなんて、効果が無かったって事ね・・・」

はぁ、と溜息をつく。
2、3日くらいならどうにかなると思っていたが、まさか2日どころか1日も持たないとは。

「今回に限っては・・・バカは私だったわ・・・」











「んっ?おやおやおやぁ~っ?」

望遠鏡を覗くのは、災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)のマミー・マン。
明るい声で、口元に笑みを浮かべて、後ろに立つヒジリに目を向ける。

「来たっぽいよ」
「ア?」
「妖精がっ♪」

今にもスキップしそうなほどに嬉しさ全開のマミーは、望遠鏡に映る妖精の姿を満足そうに見つめる。

「うんうん、来てくれるって信じてたよ。てゆーか、来てくれないとこっちが退屈だしねぇ~☆」
「ようやくお出ましか」
「YES!だからヒジリは早くルナと合流しなよっ」
「うるせー」

鬱陶しそうに言いながらも、ルナと合流すべく部屋を出ていくヒジリ。
1人部屋に残ったマミーは口元の笑みはそのままに、その目から笑う仕草を消し去った。
口は弧を描き、目は獲物を狙う獣のような鋭い光を湛える。

「さぁーて・・・誰の苦しむ顔が1番美しくて無様かなぁ♪」












「発見ー、だよー」
「シオさん、どうしたデス?」
「妖精ー、見つけたー、情報ー、収集中ー」
「おやおや」

こちらもスキップしそうなシオ。
そんなシオをセスは見つめる。

「にしてもー、人数ー、少なめー・・・一体ー、どういうー、つもりー、かなー」
「解りませんが、私達がアイツ等を潰す事に変わりはないデス」
「だよねー」

シオの目に、闘志が宿る。
災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)の殲滅担当が何よりも得意とする事が近づいて来ているのを、シオは確かに感じていた。
メラメラと心で何かが燃え、体が熱を持つ。
殲滅に対する思いが、シオの中でハッキリと燃える。

「殲滅のー、時がー、来たー・・・私のー、出番がー」













「・・・来たか」

カトレーン本宅の屋根の上。
そこに、黒い装束を纏ったザイールはいた。
双眼鏡から目線を外し、街を見つめる。

「正規ギルドが・・・」

軽い舌打ちと共に吐き出した言葉。
それと同時に頭の中を流れる記憶。
全てを忘れるように首を横に振って、ザイールは立ち上がった。

「俺はやるべき事をやる。それだけだ」

自分の今すべき事で、自分のやりたい事を覆い隠して。













「!」

フルールの街中を、フード付きマントを着て歩いていたパラゴーネはフードの中で小さく目を見開いた。
紅蓮の瞳に映るのは、町民に何やら話を聞いている憎き男の弟弟子。

「グレイ・フルバスター・・・!」

怒りがパラゴーネを全てを染め上げる。
その右手に力を込め、ゆっくりとグレイへ向けようとして―――――

「ストップ」
「!」

その手が、シェヴルによって止められた。
パラゴーネの右手を掴んだシェヴルはその手を引いて路地裏へと隠れる。

「何をするの、私は私の標的を駆逐しようとしただけ」
「街中で魔法を放とうとするな。関係のない“自称善良な一般町民共”まで巻き込む事になる」
「でも!」
「お前とあの男は後に戦う事になる。私の水晶にそう予言が出た」
「!」

シェヴルのその言葉に、パラゴーネの目が見開かれる。
それは先ほど、グレイを見つけた時とは違った感情で。
驚愕ではなく、嬉しさから。

「本当に?私は・・・グレイ・フルバスターを駆逐可能?」
「私の水晶の予言が外れた事は無いだろう」
「うん」

こくりと素直に頷き、パラゴーネは路地裏から密かにグレイに目を向ける。
紅蓮の瞳を炎のように燃やし、憎々しげに呟いた。

「待っていなさい、グレイ・フルバスター・・・必ずお前を駆逐する」

だが、天秤宮を司る少女の本当の標的は、彼ではない。
そしてそれを―――――狙われてるグレイは知らない。










「遂に来てしまったんだね・・・アルカンジュ」

宿から出てきたアルカを見下ろしながら、エストが呟いた。
その目には深い愁いがあり、その表情は悲しそうに見える。

「出来る事なら、お前とは戦いたくないんだよ・・・」

ぐっと拳を握りしめ、エストは呟く。
そして、祈るように空を見上げた。

「お願いだ・・・私とアルカンジュを戦わせないでくれ」









“魔法都市”フルールで、様々な思いが渦巻く。










愁い、憎しみ、怒り、喜び、驚愕―――――――。












数々の思いが渦巻く中―――――――――――












妖精と欲望と道化は、静かに、確かに、敵対していく。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
更新遅れました。オリジナルは大変ですね。
正規ギルドキャラより闇ギルドキャラを書く方が楽しい今日この頃。
最近のお気に入りは天秤宮のパラゴーネです。

感想・批評、お待ちしてます。 
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