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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
  第二十五話

「うわっ!?」

 頭をしたたかに打ち付け、カズが情けない声を上げる。セモンも腰を強く打ち付け、痛い思いをしているところだった。

「いててて……あれ?傷がない?」

 頭をさすりながら上体を起こしたカズが、自分の体を見下ろして言う。見れば、《六王神》の攻撃を受けてぼろぼろになったはずのセモン達の体には、やけどどころかかすり傷1つ見当たらなかった。ダメージらしきダメージと言えば、落下してきたときの軽度の打ち身くらいか。それもすぐ直る。

 セモン達一行は、《白亜宮》に入るために、番人である《六王神》と戦っているところだったはずだ。仲間の一人であるラーヴェイが倒され、ログアウトしてしまった場面で、突然地面が融解し、此処に連れてこられた……と言うより、落とされた、と言った方が正しいか。

「ここは……?」

 あたりを見渡すと、そこが実に奇妙な空間であるという事に気付く。

 白い。唯々、白い。本来ならば陰影ができるであろうところも、白い。だが、なぜなのだか、そこに『形がある』ことが分かる。色がないはずなのに、色がないように見える。だまし絵の様な不思議な空間だった。

「……《白亜宮》の内部、だと……?」

 驚愕さめやらぬ声でそう呟いたのは、一度《白亜宮》に入った経験のあるコクトだった。カズやハクガ、リーリュウが、はじかれたようにコクトの方を向く。セモンも驚愕に目を見開いて、彼の姿を見た。彼の言葉が正しいのであれば、セモン達は何者かの介入によって、《白亜宮》の中に連れ込まれたという事になる。

 そしてその『何者か』は、十中八九、この《白亜宮》の住人だろう。つまり、本来ならばセモン達には内部に入ってきてほしくないと思っている側の存在のはずなのだ。そうでなければ、なぜ番人として《六王神》を置いているというのだ。

 だがそれでも――――

「とにかく、《白亜宮》には入れた」

 セモンは、不思議な達成感に満足する。だが、ここで浮かれているわけにはいかない。セモンは《白亜宮》内部を進み、この世界の――――姉である栗原(くりはら)小波(さなみ)が『復元』した仮想世界、《ジ・アリス・レプリカ》秘密を知らなければならない。

 本物の陰斗(かがと)。本物の刹那。今まで共に戦ってきた仲間たちが、一体何者だったのか。セモンは、それを知らなければならない。

 ハクガが立ち上がると、セモン達を見回して、提案する。

「とりあえず、先に進みましょう。もしかしたら、誰かに会うことができるかも――――」
「その必要はない、六門神(プレイヤー)達よ」

 しかし、その声を遮るように、気取った少女の声が響く。

「!?」
「誰だ!?」

 はじかれたように立ち上がり、武器を構えるカズとリーリュウ。驚いたことに、カズのノートゥング、リーリュウの《冥刀》、《岩覇蒼炎(がんはそうえん)》の傷も癒えていた。

「く、く、く。なに、恐れることはない、少年たち。なぜならばそれは今感ずるべきものではないからだ」

 その声に続くように、真っ白だった空間に、渦巻く円が出現する。扉にも見えるそれは、SAO時代に、アインクラッド各層の主街区にあった、《転移門(ゲート)》によく似ているように見えた。ただ、アインクラッドの転移門が青白い光を放っていたのに対し、こちらは禍々しい漆黒だ。

 そしてそのゲートから、どぷり、と水がこぼれるように、何者かが姿を現す。闇はすぐに形を取る。

 出現したのは、海のそれとも、空のそれとも違う不思議な青色をした髪をもつ、恐ろしく美しい少女だった。どこか気取った演者の様な表情に、切れ長の瞳は()()い。肌の色は雪の様な白。纏っているのは、放浪者の様なぼろぼろの、漆黒のローブだった。錬金術師、という言葉が、なぜかセモンの脳裏に浮かんだ。

「挨拶が遅れた。私は、我が尊き兄より、《七眷王》の一角を担うことを許された者、ノイゾ・イクス・アギオンス・レギオンビショップだ。以後、貴殿らの記憶に残ることを願うよ」

 そしてやはり演技めいた仕草で礼をする少女――――ノイゾ。

「俺達を此処に落とし、傷をいやしたのはあんたか?」
「いかにも。我が兄がそうお望みになさったのでね」

 リーリュウの問いに、ノイゾは答える。その間も、演技めいた表情は消えない。どことなくこちらの神経を逆なでするような表情だが、これがこの少女の自然体なのだろう。

「……僕達を助けてくれた、というわけではないようですね」
「ふむ。そうかもしれんな。最終的には我が兄が結末を決めることとなるが――――まぁ、貴殿たちを救ったのは全て我が兄がそう臨んだからだ、という事を忘れるな。そして今後――――お前たちがどうなるのかも、我が兄の気まぐれだ」

 今までの多少敬意のこもった『貴殿』は消えた。ノイゾの姿が掻き消える。瞬きの間には、漆黒のゲートが消えていた。

 反射的に一歩踏み出すカズ。

「あ、おい、待て!……ってうわぁ!?」
 
 直後、彼は悲鳴を上げて飛びのいた。直前までカズがいた所を、何かが高速で通過したためだ。

 ガィン!という鈍い音を立てて、純白の地面に突き立ったソレは――――一本の、剣だった。

 古風で少し和風チックなデザインのその長剣は、どことなくSAO時代のセモンの愛剣、《草薙の剣(ソード・オブ・クサナギ)》や《天叢雲剣(ソード・オブ・アマノムラクモ)》に似ていた。

「これは……?」

 いぶかしげにそれに近づくハクガ。そしてそれと同時に、最近めっきり板についてきた驚愕の表情を取る人物が一人。

 コクトである。うめき声の様な声を発すると、彼は目を見開いて叫んだ。

「馬鹿な……ッ!なぜこの剣がここに……?そんな馬鹿な、まさか……まさか……!?」



「その”まさか”だよ、元相棒」

 
 
 ふいに、声がした。どこから聞こえてきたのかと見回せば、一本道だと思っていた《白亜宮》の風景には、立橋にもにた通路が出現していた。その上に、二人の姿。

 片方は、少し長めの髪に、ALOのセモンの物と似通った、和装コートとでもいうべき代物、そして鈍色の具足を身に付けた男だった。年齢はコクトやラーヴェイと同じほどに見える。その横には二本の長剣が、あたかもシャノンの《ビット》の様に浮遊している。先の攻撃は彼によるものだろう。

 もう一人は、丸い髪型、丸い顔の、穏やかそうな少年だった。魔術師めいたローブに身を包み、ふわりとした笑みを浮かべてはいるが、しかしその眼だけは計算高く光っている。

「よう、兎の。久しぶりじゃねぇか。金色のはどうした?……まぁ、大方《六王神》に叩き潰されたって所か……つまんねぇな」
「黙れウォルギル!貴様……何故ここにいる!?半年近くログアウトしてこないと思えば、貴様……《白亜宮》についていたというのか!?」

 どうやらウォルギルと言うのが、和装の男の名前の様だった。そしてコクトの口ぶりから察するに、彼はセモン達と同じ《適合者(テスター)》の様だった。

「ウォルギル……ウォルギル?」

 その名前を聞き、はっ、とした表情をハクガがとる。同時にセモンも、その名前に聞き覚えがあることを思い出す。

「まさか……僕達の前にこの世界でテスターをやっていた、《師匠世代》最後の一人?そう言えば、半年前の師匠世代《白亜宮》侵入を皮切りに戻ってき(ログアウトし)ていないと聞きましたが……彼がそうなのですか?」

 ハクガの問いかけに、コクトは苦虫をかみつぶしたような表情で答える。

「そうだ。奴は《師匠世代》最後の一人にして、お前たちがテスターになる三か月前……セモンからすれば半年前まで、俺達と共に戦っていたメンバーだ。《ボルボロ》からの古参ではなく、新規参加したメンバーだから、セモンとは顔なじみがない数少ないメンバーだな……カズに俺、ハクガにハクア、リーリュウにシリューレが付いたように……本来なら、奴はセモンの《師匠》格になるはずだった」
「え……」

 あの男が、本来なら自分の《師匠》になるはずだった……?

「だが奴はログアウトしてこず、結局セモンには師匠格を付けないことになった。セモンの招集がカズ達より三か月遅れたのは、奴がログアウトしてくるのを待つためだった。だが……それが、なぜこんなところに……!?」

 最後は叫びながら、ウォルギルを睨み付けるコクト。だが、ウォルギルは冷笑を浮かべ、言うのみ。

「簡単じゃねぇか。こっちにいた方が面白れぇからだよ。今も……テメェらを叩き潰せって言われてきたわけだからな―――――――――行くぞ、シスカープ!!」
「うん、了解」

 獰猛な笑みを浮かべて、勢いよくウォルギルが飛び降りる。それに追随して、シスカープと呼ばれた少年もふわり、と飛び降りた。

「さて、餓鬼ども。てめーら、本当なら俺の弟子になる予定だったらしいな。なら、これが最初の授業だ……俺は強い。そしててめーらは負ける」

 誰も予想だにしなかったまさかの戦いが、始まった。 
 

 
後書き
 はいどうも~、Askaです。皆様、どうもお久しぶり。

刹「……なんか日本語がおかしい気が?」

 え?気のせいじゃない?うん、気のせい気のせい。たぶん敬語じゃないから不自然なだけ。『どうもお久しぶりです』なら違和感低いでしょう?

刹「まぁ……」

 と言うわけで、次回はセモン君一行VS《白亜宮》陣営第一回戦となります。そろっと《六門神編》前編も終わりですねー……次回もお楽しみに。 
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