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牙狼~はぐれ騎士~

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第四話 人斬り

 
前書き
名前    若葉(わかば)

年齢    18歳

性格    天真爛漫 深く物事を考えない

好きな物  山の幸

嫌いな物  闘真の愚痴を聞くこと

容姿    ショートヘア 黒髪 鉢金を頭に巻き 草臥れた道着姿

概要    代々魔戒騎士に仕えている一族で5男3女の一番末娘。兄弟は魔戒騎士に弟子入りしたり仕えたり嫁いだりとしたが何をしたいわけでもなく宙ぶらりんだったところに闘真と出会った。祖父が魔戒騎士であった為ホラーから身を守る術として鍛えられ武術に優れるが女であるがゆえに魔戒騎士にはなれなかった。物事をポジティブに考える為それほど気にしておらず戦えるからという理由で魔戒闘士と名乗っている。正式な魔戒騎士の指導を受けたことを闘真に教えている為、実質闘真の体術の師匠兼召使。家族からは得体も知れない魔戒騎士の元に居る為嘆かれているが本人は組んでいると面白そうだからという理由で闘真の元に居る。闘真一行のある種のビタミン剤的存在。武器は三節棍に短剣。
自称はぐれ従者



 

 

第四話 人斬り




夜の森の中

静寂な空気が漂う中唐突に響き渡る斬撃。

「!!・・・!!・・・!!」

一人の男が魔戒剣を片手に素体ホラーを斬り捨てている。

その太刀筋は見事なものであり無数のホラーを全て一撃で葬り去っている。

「・・・・・!!・・・・・!!!」

男に襲い掛かるホラーだが男は鎧を召喚することなく魔戒剣で葬り去っている。

「!!・・・・・・・・・」

最後の一体のホラーを斬った男は魔戒剣を納めた。

「・・・またか・・・」

ホラーを倒したというのに男は何の感情を抱かずにその場を後にした。



その日闘真は元老院を訪れていた。

正式な魔戒騎士ではない闘真は番犬所に所属しているわけではない為元老院が預かっているのだ。

正式な魔戒騎士ではない為様々なことも任されてしまう闘真。

奥の間で神官が闘真を待ち構えていた。

「・・・お待ちしていました・・・石動闘真・・・」

「今回は何の用件でしょうか?」

「これを・・・」

神官が見せたのは先程のホラーを斬り捨てる男の姿。

「彼は?」

弥栄斬十郎(やさかざんじゅうろう)・・・またの名を黎明騎士・狼頑(れいめいきしろうがん)・・・そしてまたの名を・・・人斬り斬十郎」

「人斬り?穏やかじゃないな」

ホラーであろうが魔戒騎士であろうが情け容赦なく斬り捨てる非情の男の噂は聞いていた闘真。

その剣は一撃のもとに葬り去り二撃目を見た者はいないとまで言われている」

そしてこの男こそがその人斬りと推察した。

「この男が何かしたのか?」

「彼は・・・闇に堕ちかけています」

「何?」

「闇雲にホラーを斬るだけでは飽き足らず・・・掟破りの騎士同士の決闘をし続けています」

闇に堕ちた騎士の末路を聞いたことがある闘真。

それを推察すると・・・

「俺にこいつを斬れって事か?」

「・・・魔戒騎士ならやっていただけますね?」

しばらく考え込んだ闘真は了承した。








黎明の森

「・・・・・・・・」

男・斬十郎が魔戒剣を片手に闇雲に行動していた。

その時だった。

「!!」

背後から飛び掛かってくる闘真を受け流す斬十郎。

「誰だ!?」

「元老院の命令でね・・・お前を斬りに来た」

斬十郎の問いかけに魔戒棍を構えて答える闘真。

「・・・やっと来たか・・・お前のような青二才が来るとは・・・人斬り斬十郎も舐められたものだな」

「な!・・う!!!」

間髪入れずに斬り込んできた斬十郎。受け止める闘真は吹っ飛ばされてしまった。

「がは!!」

地面に叩き付けられてしまった闘真に斬十郎が歩み寄った。

「どうした?・・・俺が今まで斬ってきた闇に堕ちた騎士の方が強いぞ」

「うるせえ!油断しただけだ!!」

斬十郎に蹴り込む闘真だがあっさりと受け流されカウンターを食らうが咄嗟に防御する。

臆せず左右のコンビネーションで打ち込むが斬十郎は見事な太刀捌きで闘真を斬った。

「く!!」

肩のあたりを斬られ血が舞う闘真。

「・・・どうした小僧・・・」

「・・・あんた・・・強いのに・・・どうして」

斬十郎の太刀筋から鬼神の様なもの以外に何か別のものを感じる闘真。

「・・・虚しくなった」

「何?」

「・・・何のためにホラーを斬って・・・何のために闇に堕ちた騎士を斬ったか・・・もうどうでもよくなった」

そう呟き闘真に斬りかかる斬十郎。

斬十郎の一撃は当たれば絶対に絶命するほどの威力を秘めていた。

距離を置いた闘真は魔戒棍を掲げようとするが思いとどまった。

「どうした?鎧を召喚しないのか?」

「うるせえ・・・あんたも何で召喚しないんだよ」

「俺は騎士の誇りを捨てた・・・鎧などいらん・・・!!」

斬十郎の一撃を受け止めながら闘真も宣言した。

「だったら言ってやる・・・俺は鎧を使わないであんたを倒してみせる!!」

魔戒棍を構え直した闘真は斬十郎に殴りかかった。

闘真の拳を受け止める斬十郎は荒々しくも鋭い剣撃で闘真に打ち返し弾き飛ばした。

「がは!!」

大木に叩き付けられる闘真。

威力は凄まじく大木は折れてしまった。

「どうした?・・・その程度か?」

「なに!?」

「それでも守りし者か?」

斬十郎の言葉に闘真は立ち上がって答えた。

「俺は・・・守りし者じゃない!」

「なに?」

「俺は・・・はぐれ騎士だ・・・騎士道なんて物は持ち合わせてない・・・けど!!」

魔戒棍を二刀流の棍棒状態に持ち替え斬十郎に殴り込みながら闘真が吠えた。

「俺は・・・目の前で泣いてる奴がいるなら・・・そいつのために戦う!」

闘真の目を見た斬十郎は瞑想し・・・目を見開いた。

「小僧・・・誰かの為が何の役に立つ!?」

「なに!?」

「かつては俺も同じような気持ちだった・・・誰かの為に戦いホラーを斬った・・・闇に堕ちた者も斬った・・・そしてついたあだ名が人斬り斬十郎・・・そして誰かの為に戦い・・・自分の大切な人を目の前で失った・・・」

「大切な人?」

「・・・妻だ」

「・・・妻?・・・ぐ!!」

言葉に惑わされた瞬間斬十郎の剣が闘真を吹き飛ばし大地に叩き付けた。

人を斬ってきた男の剣の重みにつぶされそうになる闘真は・・・

「ぐああ!!」

等々斬十郎に斬られてしまった。

「ぐ・・・・あ・・・ああ・・・」

血飛沫を上げながら前のめりに倒れる闘真だが決して魔戒棍を離さず這いずってでも斬十郎を倒そうとする。

「ほぉ・・・俺の剣をまともに受けて死ななかったのはお前が初めてだ・・・もし生きていたら黎明の森で待つ・・・」

そう残し斬十郎は森の奥へ消えていった。

「・・・・!!」

『おい!闘真!闘真!!』

斬十郎の背を見送りながら意識を失う闘真を呼びかけるイルバの声だけが木霊した。



闘真の山小屋

「・・・・・・・・」

身体に布を巻かれている闘真が目を覚ました。

「お!気が付いた?」

闘真が目を覚ましたことに安心する若葉。

あの後闘真を探しに出た若葉は傷だらけの闘真を発見し介抱したのだ。

「・・・・・若葉・・・・・そうだ!?あいつは!!」

斬十郎の事を思い出した闘真はすぐに決着をつけようと起き上がるが傷の痛みで思うように起き上がれない。

「ああもう!その意気は買うけど・・・今の状態じゃ無理!」

「けど!」

「言ったでしょ!あんたより強い奴なんてこの世にごまんといるって!負けてかっかした頭のあんたが居たって返り討ちに会うのがオチ!」

若葉の言葉も構わず斬十郎を倒しに行こうとする闘真。

『若葉の言うとおりだぜ闘真』

「・・・イルバ」

堪り兼ねたイルバが若葉の肩を持った。

『お前・・・あいつに同情しただろ?』

「え?」

『下手すりゃお前も同じ道をたどる・・・そう思ったんじゃねえのか?』

「・・・それは」

確かにそうだった。

今の斬十郎の姿は闘真にとっては可能性の一つだ。

下手をすれば自分もそうなってしまう。

その事に闘真は恐怖すら感じていた。



夜も暮れ闘真は一人考えていた。

何のために魔戒騎士を目指したか・・・そのことがぶれそうになった。

・・・その時・・・

・・・とある魔戒法師の言葉を思い出した・・・






―お前がもし真の魔戒騎士を目指すのなら相手はホラーだけとは限らない―

―え?―

―相手は闇に堕ちた騎士かもしれない・・・覚悟はあるか?―

―それは―

―もし覚悟があるならこいつをくれてやる―

―これは脇差?―

―あたしが作った魔戒刀の一振りだ・・・もしホラーや闇に堕ちた騎士を斬る覚悟があるなら使いな―

魔戒法師から手渡された魔戒刀を受け取る闘真。





「!!」

山小屋の物置にしまってあった闘真の魔戒刀。

斬十郎を斬る覚悟を決めた闘真は魔戒刀を腰に差し斬十郎の待つ森に向かった。








風が舞う森の中、瞑想する斬十郎は一人待っていた。

・・・闘真を

「・・・来たか」

斬十郎が目を開けるとそこには闘真の姿が・・・

決意を込めた闘真は歩みを止め斬十郎の前に対峙した。

「あんた・・・こうするしかないのか?」

「・・・くどいぞ・・・所詮俺は人斬り斬十郎・・・斬ることでしか自分を証明できない闇に堕ちた騎士だ」

魔戒剣を抜く斬十郎。

「・・・そんな事で・・・お前の死んだ奥さんが喜ぶのか?・・・・・!!」

闘真も斬十郎にこたえるように魔戒刀を抜刀した。

「昨日の棍じゃないのか・・・」

「切り札を持ってきたって所だよ・・・俺が覚悟を決めた証の剣だ」

「・・・変わった魔戒剣だな・・・!!」

斬十郎が闘真に向かって踏み込み一撃を入れた瞬間。

「!!」

闘真の魔戒刀が斬十郎の一撃を受け止めた。

斬十郎の一撃を受け止めたことに驚く闘真。

すると斬十郎は闘真に二撃三撃と打ち込んでくる。

驚くべきことに魔戒刀は闘真の手にかなり馴染んでおり斬十郎の強力な一撃を次々と受け止める強度を誇った。

だが扱うのは所詮剣術に置いて未熟な闘真。剣の性能が良くても徐々に追い詰められていく。

「!!」

遂に押し負けてしまい吹っ飛ばされた闘真は斬十郎の一撃を食らってしまった。

「く!!」

後方に飛んでいた為斬り口が浅くダメージは比較的に軽いがまともに食らっていたら確実に絶命する。

「く!!」

体勢を立て直した闘真は再び構え直し斬十郎に飛び掛かるが一撃が丁寧に受け止められてしまう。

「剣の性能が良くても・・・扱うのが貴様じゃな・・・」

「うるせえ!!」

斬十郎を得意の体術で蹴り飛ばすと魔戒刀を地面に刺した。

「!!」

何かの法術を施すと魔戒刀を媒体に炎を放った。

「!!」

闘真の技に一瞬怯んだ斬十郎。すると闘真は魔戒刀を引き抜き怯んだ斬十郎に追撃した。

「であああああ!!」

闘真が斬十郎に飛び掛かった瞬間。

「!!」

笑みを浮かべた斬十郎の血飛沫が舞った。

「ごは!!」

出血しながら肩を斬られ倒れる斬十郎。

すると闘真が駆け寄った。

「お前!わざと避けなかっただろ!!」

「・・・何を言う・・・俺は貴様に戦って負けた・・・」

「てめえ!!ふざけてんのか!?」

斬十郎を無理矢理起こした闘真。だが斬十郎は戦って負けたと言い張る。

「・・・俺は人斬り・・・死ぬなら・・・戦って・・・死・ぬ・・・」

「まさか・・・お前・・・ずっと死に場所を求めて・・・」

斬十郎の今までの戦い。

鎧を召喚せずに己の力で無謀に立ち向かう姿。

それは斬十郎の死に場所を求める・・・それだけの事だった。

騎士の誇りを捨て闘真の前に跪く斬十郎。

「・・・もう疲れた・・・終わらせてくれ・・・頼む・・・」

斬十郎の願いに闘真は介錯するべく魔戒刀を振り上げ・・・


「!!」


・・・・・斬十郎の首めがけて振り下ろした。








闘真の山小屋

「ふん!!ふんふん!!!」

裏庭で剣術の稽古に励む闘真。

風を斬る気持ちの良い音が響き渡ると・・・

「まだまだだな・・・」

腕を組んで闘真の稽古を見つめる斬十郎の姿が・・・













「!!」

闘真が魔戒刀を振り下ろした瞬間、斬十郎の首筋に薄い刀傷が・・・

「・・・お前」

完全に死を覚悟した斬十郎はあまりの事に驚いている。

「これで・・・あんたは死んだ」

「・・・何?」

闘真の言い分に納得が出来ない斬十郎。

「・・・貴様・・・殺せ!!」

闘真に叫ぶ斬十郎だが闘真は・・・

「殺さねえ・・・生きて・・・苦しめ・・・」

「!!」

完全に死んだつもりの斬十郎にとっては闘真の意図がわからない。

「お前が死んだら誰が奥さんの事を思うんだよ」

魔戒刀を納めながら闘真は・・・

「生きて・・・思い続けろ」

・・・そう告げ斬十郎を後にした。

斬十郎の首に決して消える事のない刀傷を残し・・・








一度死んだ斬十郎は再び騎士としての地獄の世界に身を投じることを決意した。

だがその前にやる事があった。

「て!おりゃ!!」

「まだまだ甘い!!」

魔戒刀を自分の物にするべく闘真を鍛え上げる事だった。

闘真も闘真で人斬り斬十郎の指導を受けられるとは思っていなかった為驚いている。

それを見ていたイルバと若葉は・・・

『良いのか?これ?』

「構わないんじゃい?・・・はぐれ騎士が居て・・・魔戒闘士が居る・・・今更人斬りが居たって」

『・・・肝が据わっているなお前』

楽観的に考える若葉に呆れるイルバ。

こうして闘真たちの物語に

弥栄斬十郎こと人斬り斬十郎

いや

黎明騎士・狼頑が加わるのだった。
 
 

 
後書き

イルバ
『獣は獲物を仕留めるために集団で襲い集団で食らう・・・・・おいおい数じゃこっちが完全に劣ってるぞ!!

次回 狩り

数より質だぜ』

 
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