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ショートショートの館

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疾走者

澄み切った秋空、緑の芝生
スタート地点は異様な緊張感に包まれている。レースを見守る観客の思いは同じだ

他者を寄せ付けない圧倒的な独走。
彼を応援する者、そうじゃない者もそれを見たいが為に此処に集っているのだ

ーやってやろうじゃないかー
観客の思いは分かっている。彼の気持ちも同じだ
他者に影も踏ませぬその走りは彼の拘りでもある。誰にも自分の前は走らせない。今日も俺の独走だ


ファンファーレが鳴り観客がどよめく。
各自スタート位置に着く

ー皆緊張しているなー
惜しい事だ。此処まできた連中だ実力は申し分ない
だがそう緊張しては本来の力など出せないだろう
だが手加減する気はない、ただ走りたい様に走らせて貰う
そのために此処にきたのだから・・・


ほんの一瞬の静寂の後勝負は始まった
スタート直後からひたすら前へ、全力で前へ
着いてくる者はいない
だがペースは緩めない。とにかく前へ、今この瞬間よりさらに一歩前へそれが彼の走りだ

ー気持ち良いー
独走である。彼の走りに観客の気分は高まる
彼自身はと言うと意に返す物など無いかの様に前へ前へと進んでいく

静寂
彼を包むのはそれだった。遙か後ろを走る物の足音も観客のどよめきすら聞こえない。
静寂
彼の名を意味するその言葉が彼に求めるのは己との闘争
他の物から隔離された世界で展開される飽くなき早さとの戦い

ー前へ前へー
ひたすら駆けた。
ーまだ、まだ早く走れるー
ーもっとだ、もっと先にー

光が見える
ーあの光だ、あれに向かって駆けろー

光と静寂が彼を包み込む
ーやったー

瞬間、全てが消えた

残されたのは沈黙

それを意に返さず彼は更に駆ける
ー今度は大地じゃない、空を駆けるんだー

ただその先へ









1998年11月1日 第118回天皇賞
サイレンススズカ散る 
 

 
後書き
まっさかの一発目が競馬ネタww 
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