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星を継ぐヤマト

作者:レイナ
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【01】星の海

 
前書き
■「宇宙戦艦ヤマト2199」と「星を継ぐもの」のクロスオーバー。
■旧作好きなアラサーが2199見てお医者さんの言葉に吹き出したところから始まる物語。
■ヤマト乗組員で元ナブコム所属の生物学者の冒険記。
■Pixivにて連載中のものを少しずつこちらにも掲載していきます。 

 

星を継ぐヤマト





瞬く星の海に身を委ね
あなたの元へ、帰りませう
遠く遠く離れた2人が
いつか巡り、帰れるように





その日も、医務室は大にぎわいだった。
先の戦闘からこのかた、ベットが埋まらない日は無い。
むしろ今日などは、廊下にまで溢れる始末だ。

「次!」

しかもこんな時に限って、佐渡先生は不在。
例のガミラス人の検査結果を艦長たちお偉方へと説明をしているらしい。

「はい、次!」

もちろん私には関係のないことだ、と割り切っていたが。
こうして業務が増えるのであれば、由々しき問題だ。
とてもじゃないが、私1人でさばききれるような患者の数ではない。
佐渡先生が戻ってきたら晩酌と愚痴に付き合ってもらわないと。

「次!」
「大丈夫です、今の方がラストですよ」
「原田。そう、終わったのね」

無我夢中だったせいで廊下まで意識が回っていなかったが、どうやら波は引いたようだ。
重傷者は3名。業務に支障が出るのが7名。
他の患者は問題無し。
私はマスクを取り、大きく息を吐いた。

「お疲れさまです」
「ありがとう。佐渡先生は?」
「もう少し艦長たちと話があるそうです」
「ったく、私に押し付けて」

ゴム手袋をゴミ箱へと放り投げ、ソファーに深々と腰を下ろした。
年なのかしら、肩が少し…

「んで?例のガミラスちゃんは?」
「母艦が消滅してしまったので、しばらくは捕虜という扱いで乗艦させるみたいです」
「そう…新見ちゃんのカウンセリングの患者も増えそうね」
「かもです。あ、これ、佐渡先生から」
「ん?」
「里華さんにも見ておいて欲しいそうです」
「あぁ、検査結果」
「それじゃ私、佐渡先生のところ行ってきます」

小さな噴出音を立てて閉まる扉。
私はカップを用意しながら検査結果のページを表示させた。
メルダ・ディッツという、ガミラス人の検査、もとい調査結果だ。

人類が初めて遭遇した、地球外知的生命体、そしてその科学力。
その圧倒的な力の前に、地球は今滅亡のふちに経たされている。
青かった海は蒸発し、放射能に汚された大地からは生命が消え去った。
何とか難を逃れた人類は地下にその生活を移し、滅びの時を待ち構えている。
そんな時にもたらされた、救いの手。

『波動エンジン』
そして
『コスモリバースシステム』

人類は最後の希望を掛け、このヤマトに波動エンジンを載せ、片道およそ16万光年という途方も無い旅へと発った。

「星の彼方…か…」

現在ヤマトは天の川銀河の外れを宙域を航行中だ。
波動エンジンのおかげで実現した、恒星間ワープシステムが功を奏している。
しかし、地球に残された時間はごく僅か。
それまでに、まだ誰も訪れたことの無いイスカンダルへと辿り着き、コスモクリーナーを土産に地球へと帰る。
果たして、この船は間に合うのだろうか…

「…さて」

湯気とともに立ちこめるコーヒーの香り。
私は猫舌対策に軽く息を吹きかけ、カップへと唇を寄せた。
端末には彼女の調査結果がズラリと並んでいた。
身長、体重は地球人と大差はない。もちろん、彼女が平均的なガミラス人であれば、だが。
血液検査、未知の酵素があるのは当然のことだろう。
脳のCTスキャン、頭蓋骨の形も似ていたが、脳の容量はあちらさんの勝ち。
そして念のために行った最後の検査が

「………え」

思わずカップが指から滑り落ちた。
熱々のコーヒーが床に飛び散る。
足首にかかったようだ、熱い。
しかし、そんなこと、気にかけている場合ではない。

「これ…」

そこに並んだ数字は、到底受け入れられる物ではなかった。
下手をすれば、我々の常識が根底から覆されてしまうような、そんな、爆弾。
気付けば、私は医務室を飛び出していた。
そう、確認しなければ。
私たちは一体、誰と戦っているのか、を。












「っ佐渡先生!」
「ん?おー、どうした」

艦長たちとのミーティングは終わったようだ。
部屋には佐渡先生と、もう1人。
これは確か、古代くんの弟の…

「確認、したいことが」
「彼女の検査結果か。それがなにか?」
「…検査結果に、誤りがあった可能性は」
「誤り?あるはず無かろうて!」

豪快に笑う佐渡先生。
私は思わず、つばを飲み込んだ。
1人、訳の分からない表情を浮かべている弟くん。

「どうかしたんですか?」
「………」

どうすればいい、無用な混乱は避けたい。
もっと慎重に調査してからがいいのだろうか。
しかし、早急に調べなくてはならない。

「アナライザーを、お借り出来ますか」
「あぁ、もちろん構わんぞ。むしろ艦橋が許すかじゃが」
「今はもう航行は落ち着いてますし、恐らく問題は無いかと」
「では、お借りします。あともう一つ」
「なんじゃい」
「…彼女の、血液サンプルを、いただけますか」
「血液?何に使うんじゃ」
「お願いします」

佐渡先生は困り顔で弟君を見上げている。
弟くんにも判断つきかねているようだ。

「どうしても1件、追加で調べたいことがあります。ですから」
「わーった。艦長にはわしから言っておこう」
「ありがとうございます」

私は血液サンプルを受け取ると、医務室の隣の部屋へと駆け込んだ。
ここは私の城。
所狭しと機材が並ぶのは隣の部屋と変わらないが、ここには患者の代わりに、多くの標本が並べられている。
立ち寄った星々で採取した動植物のサンプルたちだ。

「早く」

白衣を羽織るのが、消毒の為に手を念入りに洗うのが、もどかしい。
私は緊張から震えそうになる指先に力を込め、彼女の血液を慎重に容器へと移した。
一際大きな機械にそれをセットし、イスへと腰を開ける。
結果が出るまで、どのくらいかかるだろうか。
もしも私の予想が正しければ、1時間後には、それが判明するだろう。
それまでに、アナライザーを見つけないと。
私は無意識に、天井を仰いでいた。
祈るように組んだ指を口元へと近づける。

「お願いだから………」

お願いだから?その先の言葉は?
早く結果が出ますように?
ガミラスのことが分かりますように?

いいえ、違う
どうか、どうか

間違いで、ありますように。










「アナライザー、どう?」
『多少ノ差異ハ見受ケラレマスガ誤差ノ範囲内デス』
「…そう」

きっかり1時間後、機械は検査終了を知らせた。
そして3時間かけて、アナライザーとともに結果を解析にかける。
何度やっても、結果は同じだった。

「やっぱり…」

私は床にしゃがみ込んでしまった。
気が抜けてしまったせいか、力が入らない。
デスクに背を預け、プリントで顔を隠す。

そう。
私の願い虚しく、検査結果は『全て正確』だった。
それが何を意味するのか。
恐らくは、多くの人々が受け入れがたい真実。

『里華サン』
「…ありがとう、アナライザー。残りは私がやるわ」
『結果ト解釈ハ』
「…導きだせる結論なんて、1つでしょ」

その為に、わざわざ昔の古い論文のデータまで引っ張りだしてきたのだから。
私は白衣のポケットへと手をつっこんだ。

『ココハ禁煙デス』
「固いこと言わないで」

ライターさえも上手く付けられない程、震える指先。
私は諦めて、煙草を口にくわえるだけでよしとした。

「アナライザー、ガミラス人の尋問、どこでやってんの」
『古代サンガ営倉デヤッテイマス』
「ありがとう」

確かめなければ。
それからでも、遅くはないはずだ。
私は火のついていない煙草を放り投げて、営倉のある区画へと向かった。
入り口には、保安部が数人。銃を構えて待機している。

「ここは現在立ち入り禁止です」
「彼女の検査結果について、彼女自身の口から確認したいことがあります」
「しかし許可は」

タイミングよく扉が開き、弟くんが中から出てきた。
どうやら尋問は一段落したようだ。

「なにをしている」
「彼女が、ガミラス人に会わせろと」
「メルダに?」

困り顔の弟くん。
しかし、引くわけにもいかない。

「誰の許可があればいいの。佐渡先生?副長?それとも艦長?」
「それ、は」
「緊急を、要するんですか?」
「えぇ」

私の切羽詰まった表情が、あまりにも酷かったのだろうか。
弟くんは一つ頷いて、扉を再び開けてくれた。

「どうぞ」
「しかし戦務長」
「彼女の尋問は俺に一任されている。なら、俺の許可で十分なはずだ」
「…上には、報告させてもらいます」
「こちらへ」

保安部は1人を残し、もう1人は走っていってしまった。
そんなこと、知ったことではないが。

「戦術長。多少デリケートな内容について、彼女に質問するので、しばらく2人にさせてもらうことは、可能でしょうか」

私の問いかけに、弟くんは躊躇いながらも短時間の面談を許可してくれた。
扉が開き、狭く薄暗い営倉に足を踏み入れる。
彼女はベッドに腰掛けていた。

「今度は何だ」

気の強そうな言葉に、私は苦笑を浮かべた。

「この艦の医師をしています、結城です。あなたの血液を調べさせてもらいました」
「それが」
「DNA配列がほぼ一致している。その結果をあなたに伝えに」
「だからなんだというんだ」
「…いえ?ただそれだけよ」

彼女の言葉に確信を持ち、私は営倉を後にした。
外では弟くんが不思議そうな表情を浮かべて待っていた。
中での会話は、全て聞こえているはずだ。

「ありがとう」
「いえ、ですが、今のは…」
「面白い結果よね」

笑ってそう言って、私はその場を離れた。
表情を引き締めて。
向かうは、艦長室。














「佐渡先生から既にお聞きかと思いますが、彼女は我々と同じDNA配列を持っています」
「あぁ」
「つまり、それが意味するのは」



ー我々地球人とガミラス人は、同じ祖先を持つ種だと、言うことですー







 
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