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Tellus

作者:れんこん
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1-2それぞれの思惑

魔法―――

それはテルースの人間にとっては話の中の存在であり、フィクションに過ぎなかった。だが魔法という技術は現実のものとなった。一つの戦争の終結と共に

テルースはほんの5年前エルフとの戦争があった。 エルフ達には高い知能と魔法を使うことが出来た。人間も戦ったが、どんな兵器も戦略も魔法に叩き潰され、人間の最終兵器とも言える代物核兵器を使用した。だがそれすら魔法の前では無力だった。今のテルースに居るエルフは数少ないが、支配しているのはエルフだ。そして魔法は意外にもエルフ達の手で人間に渡っていた。なぜエルフが魔法をテルースの人間に授けたかは不明だが、魔法が伝わったことにより人間の生活が豊かになったのも事実だ。だが魔法とは強大な力であり、その力を正しく使わない者も現れる。つまりは犯罪が急激に増えたのだ。それを取り締まる為に生まれた組織が世界魔科学統制機関。魔法を使った犯罪の取り締まりが主な内容で、カインを指名手配しているのもこの組織だ。

そして最近完成した新たな技術、科学と魔法が1つになったもの、魔法を科学視点から解析し科学に応用する。結果生まれたのが魔科学。魔法の発動条件にもちゃんと法則があり、魔力と言われる見えない力にはマナと言う物質がある。火を出すには火のマナ、水を出すには水のマナが必要である。

そしてカインが昨日破壊した光の球体の正体はクリスタルと言われるもので、魔科学で作られた作品の一つ。莫大な魔力の塊。一つの都市に一つあり、クリスタルで水を造り、電気を造る。これらは専用の工場よりも効率がよく、クリスタルは魔力がほぼ無限にあり、こちらならエネルギーの消費は抑えられる。ならばなぜカインはクリスタルを破壊したのか?カインはクリスタルの欠点を知ってしまったのだ。その為カインはテルースにある20都市全てのクリスタルを破壊するそれともう一つを目的にテルースまで足を運んだのだ。



第二要塞都市サハラに続き第十要塞都市パルが闇の凶襲者の標的に!

新聞の見出しには大きくそう書かれ、クリスタル破損が2つ目であることを報じられる内容だった。情報番組も大半はその事を取り上げた。そして文の下にはカインが一般兵士を斬りつけている写真が貼られている。

「ハハッ!流石俺の弟だ。パルのクリスタルはやられ、No.5のショウも負けたか。で死んだのか?」

男は椅子に腰掛け新聞を読みながら、大爆笑していた。決して内容は笑えるものではなかった。

「死んではいません…が治療に少し時間が掛かるかと、それとボス一ついいですか?」

男にしては長い金髪さらに顔も中性的で整っているため女装すれば女性に見えるだろう。そんなボスと呼ばれた男は髪を鬱陶しげに背中に流すと、なんだと聞き返す。

「なぜカイン=フルソードを弟などと?あの男は貴方のクローン体でしょう?」

男は唐突にそんなことを聞かれ、部屋の天井にスカイブルーの瞳を向け唸り始める。

「俺がなんと呼ぼうが勝手だろう?」

考えたわりに口から出た言葉はあまりにも自分勝手なものだと質問した男は深い溜め息をつく。

「立場を考えて下さいボス、貴方は世界魔科学統制機関のトップです。貴方が大犯罪者カイン=フルソードを弟などと呼ばれては」

男は終始説得するような口調で喋り続けるが相手は殆ど聞く耳を持たなかった。

「あいつは犯罪者じゃないあいつも被害者だ、それにトップは上にいる老いぼれ共さ」

説得しようと思った男も疲れたのか「わかりました」とだけ言うと部屋を後にした。

「フッ…賢者共は常に見ている…か」

かつて師だった男の言葉を思い出し、ふと見た窓からは何一つ欠けていない綺麗な満月が出ており、それを透き通った青色の瞳が捉える。

「計画も順調に進んでる。あともうちょっとだ…」

男は部屋の空気が自然と重くなってることを感じると笑いを一つ零す。




第九要塞都市キリエス

カインは酒場のカウンターに腰掛けていた。酒場の隅には指名手配を受けた者の特徴と顔写真が貼られていた。その中に自分のもあり、なんとなく眺めていた。特徴には身長170cm後半と書かれ、歳は20代前半で黒のジャケットに長刀を装備している。特徴は合っており、写真に映る人物も短めの銀髪に目付きの悪い目、怠そうな雰囲気は自分そのものだった。 通り名は闇の凶襲者。自分を見つめて楽しくなれる様なナルシストでも無いため視線を外す。姿を隠すのにはフード付のローブを着用し、フードを深く被っている。酔う前に酒場を出ると次の標的である石造りの神殿を眺める。

彼は止まらない。例え罪のない人々を殺そうとも




暗い空間。言葉にするとそう表現するしかないこの空間は辺り一面が闇に支配されていた。その中に一つの光を放つ巨大な水晶が存在していた。この暗闇の空間では太陽と同様の存在である巨大な水晶の前には一人の男が水晶を眺めていた。人間の何倍ものサイズを誇る水晶には様々な事象が映されていた。彼の金色の瞳はどの事象を捉えたのかは分からないが口元が緩み始める。だがその笑みは不気味なもので、決して純粋の笑みではなく悪意ある笑みだった。

「こちらもそろそろ準備を始めた方が良さそうですね。」

それだけ言い残すと一瞬にしてその場から消え、空間は静寂で包まれた。




酒場から出たカインは月明かりに照らされた街を歩いていたが、途端に何かに誘われるように一つの路地裏に入る。辺りには建物の間から差す月明かりだけであり、音は不気味なほどにない。そんな場所に来た理由は一つだ。

「おーい!出てきやがれ!」

その声は街中に響いたんじゃないかと思う程にも聞こえた。その直後響いた余韻を遮るように背後から返答される。

「うるさいんだよ!」

「いって!」

背後から声と同時にやってくる後頭部への衝撃に苦痛の声を上げると、後頭部を両手で抑える。痛みはすぐに消えたが怒りはそう簡単に消えたりはしない。一つ文句を言ってやろうと振り返る。

「テメェ急に殴ってんじゃねぇぞ!」

「ギャーギャー喚くアンタが悪い」

後ろに立っていたのはカインの唯一の協力者であるミールという名の女性魔術師。肩まで伸びてる金髪は風に揺れており、翡翠色の瞳はこちらを射抜くようで反論の余地は無いことを示されていた。

「はぁ…さっさと行くよ」

手を正面に突き出すと、空間が歪み人が入れる程の大きさで造られる。彼女は空間系の魔術を使うエキスパートであり、空間系の魔術は使える人口が一番少なく、空間系の魔術は使えるだけ大きな才能の持ち主と言える。そして彼女はその中でもずば抜けた素質の持ち主で、上級者でも存在する場所から存在する場所へ転移することは出来るが、彼女の場合は自分で新たな空間を創造し、そこに転移することも出来る。二人は歪みに進んでいった。




転移した先には上も下も横も真っ白な何もない世界が現れる。ミールは掌を上に向けると、天井の空間が歪みパイプ椅子が一つ落ちてくると、見事にキャッチしパイプ椅子に腰を掛ける。俺も椅子を要求しようと言葉を発しようとするが頭上からの衝撃に言葉は出ず、落ちてきたものを見るとパイプ椅子だ。ミールを睨み付けるが

「ごめん、手が滑った」

「手が滑ったってのは随分と便利な言葉だな!?全然手なんざ滑ってねーじゃねぇか!」

悪態を吐くとカインもパイプ椅子に腰を掛ける。

「で、今回の襲撃はどうだったの?」

ミールは手元の空間を少し歪ませると、手を突っ込み最近流行りのお菓子を“どこからか”取って食べていた。

「また盗ってんのか?」

「ちょっ!盗ってるとは何よ盗ってるとは!」

実は彼女も歴とした犯罪者の一人であり、カインと同じS級反乱者で通り名は金色の悪霊。首に掛かってる金額もカインとほぼ変わらない。

「まぁいいや、襲撃の方は上手くいったけど無傷ってわけにはいかなかったな」

カインは怪我した腹部を手で擦っていた。ちゃんと治療したので完治まではそこまで掛からないそうだ。興味が無いのか、ふーんと適当な返事を返すと歪んだ空間からは携帯電話を取り出す。

「今度は最新の携帯かよ」

カイン自身は呟く程度に言ったつもりなのだが

「これは正真正銘私のです」

「(じゃあ今までのは盗ってたのか)」

この言葉は決して口には出すことはなかったが、そういうことなんだなと心の中で納得した。

「あとNo.が出てきたぞ」

No.とは世界魔科学統制機関の中でも優れた者にのみ与えられる称号でNo.6まで存在する。

「それはある程度は予定通りかな、そろそろ本腰を入れてきたんじゃない?」

本当に残り18個のクリスタル、果たして達成出来るのか。珍しくネガティブな感情を抱く、それは顔に出ていたのか誰もいない左からチョップが飛んでくる。それは紛れもなくミールの手だ。

「何情けない顔してんの?あんたは犯罪者になってまでやり通すって決めたんでしょ?」

ミールは以外にも真面目らしく雰囲気はいつもより柔らかい。たまに思う、彼女が心の奥深くに根付いていることが怖いのだ。不思議な恐怖心とやはり女性の方が精神的年齢が上なのだと実感する。

「ぷ、フハハハハ」

目の前の女に慰められたと考えるとおかしくなりつい笑ってしまう。

「とうとう頭がおかしくなっちゃった?」

「いや、まさかお前に慰められるとは思ってなくてな」

カインは笑いがおさまるとそれを見計らってミールは声を掛けてくる。

「じゃあNo.撃破記念にお姉さんが何か奢っちゃろ」

「マジで!!寿司!焼肉!」

「どんだけがっついんてのよ」

カインの即答っぷりに若干引いているがカインはお構い無しだ。

「最近まともなもん食ってなかったからつい」

ミールは空間を歪ませると一センチメートル程の札束が出てくる。

「おいまさか…」

空間を歪ませた時点でカインは嫌な予感がしていた。

「勿論銀行からちょろ~と借りてきたんだけど」

「なんだか一気に食欲が無くなってきた」

「犯罪者が何言ってんのよ」

正論じゃないような正論に言い返せなくなり、そのまま歪む空間に身を通し、盗んだ金で食べに行った。 
 

 
後書き
今回は色々なキャラが出てきましたがキャラを考えるのって案外難しく時間が掛かりました。

感想もアドバイスも批評も受け付けてます。 
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