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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep48私が貴方と望む未来へ往く為に ~Fate~

 
前書き
フェイトVSルシリオン イメージBGM
Xenosaga ツァラトゥストラはかく語りき『hepatica (KOS-MOS)』
http://youtu.be/dVGa8bQni9Q 

 
†††Sideフェイト†††

私となのはとシャルは、ルシルとセレスの居る“テスタメント”の本部・“エヘモニアの天柱”を目指して、ひたすら広大な“レスプランデセルの円卓”の空を翔ける。

「見えてきた・・・!」

私たちの視線の先に、すごく高い塔が1基そびえ立っているのが微かに見える。あそこに、あの塔にルシルが居る。私が向き合うべき相手が、戦うべき相手が。

――轟き響け汝の雷光(コード・バラキエル)――

――煌き示せ汝の閃輝(コード・アダメル)――

――燃え焼け汝の火拳(コード・セラティエル)――

しばらく飛んで、ようやく塔の輪郭がハッキリしてきたとき、塔の方から放たれてきた雷撃、閃光、炎熱、3属性の砲撃。雷撃砲はなのは、閃光砲はシャル、炎熱砲は私に狙いを付けていた。私たちはそれぞれの軌道で砲撃を避ける。

――次元跳躍散弾砲撃(ペカド・カスティガル)――

その直後に、蒼い閃光が空高く上がって、光線を引いて地上に落ちてきた。散弾砲独特の軌道。スピードを上げながら地面スレスレを飛ぶ。頭上20mくらい上で炸裂した散弾砲は、いくつかのスフィアとなって広範囲に分散、直後に全弾爆発、衝撃波が私たちを襲う。

「あの馬鹿ルシル。絶対に殴ってやるんだから・・・!」

シャルが愚痴を零す。殴るどころか殺しそうな勢いな気がする。何とか衝撃波を抜けて、“エヘモニアの天柱”をしっかりと視界に納める。入り口と思われるところには、白い鳥居のようなモノが何十基とトンネルみたいに立っていた。

「トラップ臭いけど・・・。なのは、フェイト。止まらずに一気に突っ切るよ」

「「了解」」

3人並んで通っても上下左右に余裕のある鳥居のトンネルに進入する。距離にして300m近いトンネルを飛行していると、塔の入り口である大きな両扉が見えてきた。罠は結局無かった。無い方がいいんだけど、少し拍子抜けだ。

「私がこじ開ける。トロイメライ!」

≪Jawohl. Glanz Vogel≫

シャルが両扉目掛けて真紅の鳥型砲撃グランツフォーゲルを撃ち込むと、扉が塔内に向かって吹っ飛んだ。シャルは私となのはに「最大警戒。油断は無し」と告げてきて、私たちは頷いて応えた。私は“バルディッシュ”をアサルトフォームのまま構えて、“エヘモニアの天柱”の中に進入した。

「やっと見つけた」

シャルが床に着地する。私となのはもシャルに続いて床に降り立った。私たちの視線の先、この直径200mくらいはあるエントランスホールの奥に、彼は居た。

「やはり君たちが来たか。サフィーロではなく、ルシリオンとしては久しぶりになるな。相変わらずのアホ面なシャル。それに、なのはとフェイト。2人はもうしっかりとした女性だな。フフ、もう君たちを少女として子供扱いは出来ないな。・・・2人とも綺麗になった」

「「「っ・・・!」」」

ルシルのかすかな笑みと一緒に、私たちに向けられた親しげな呼びかけ。今のルシルはまるで私たちが知っている、友達としてのルシル、私が好きになったルシルだ。ルシルが奥から中央に向かって歩いてくる。シャルもゆっくりと歩き出して、私となのはも続いて中央に向かって歩き出す。

「ルシル、もしかして記憶戻ってんの・・?」

「・・・ああ、憶えているとも。先代テルミナスによって召喚された契約での出来事も」

ホールに響く4人の靴音。そしてルシルとシャルの会話。ルシルの記憶が戻ってる。それはつまりセレスがルシルの記憶を元に戻したということだ。どういうつもりで? セレスはルシルに何をさせるつもりなの?

「記憶が戻っているなら、セレスが何をしようとしているのか教えなさい」

「教える義理はない。たとえ私は記憶が戻ろうと、セレスの従者であることに代わりはないのだから」

シャルの質問にルシルがそう答えた。セレスの従者だから、セレスの目的は教えないって。胸が締め付けられるような苦しみが生まれた。どうして私じゃなくて、いつも別の女性(ひと)がルシルの側に居るの?

「セレスはヨツンヘイム皇族の末裔かなんかでしょ?て言うか間違いなくさ。だったらアースガルドの筆頭であるセインテスト、その最後の王のあなたがよく従者と口に出来るよね」

「・・・そうだな。最初、彼女がヨツンヘイム皇族の末裔と知った時、真名を聞いた時、確かに殺意が沸いた。だが、彼女は現代を生きる人間だ。末裔だからと言って、私に恨まれる道理はない」

「まぁそれはそうね」

靴音を鳴らしながらお互いが徐々にホールの中央に近付く。私となのはは、ルシルとシャルの放つ空気に言葉を発することが出来ずに、シャルの後ろを付いていくだけ。

「ルシル。私となのははこれからセレスを止めに行く。変な儀式魔術を使おうとしているし。だからさ、大人しく道を開けてほしいんだけど」

シャルが歩みを止めるとルシルも足を止めた。私となのはも足を止めて、10m先に佇むルシルを見据える。

「我が手に携えしは確かなる幻想。・・・私がそれを許すとでも?」

「んー、別に許可なんて取る必要はないか。どっちにしろセレスを止めに行くことには変わりないんだし」

ルシルは複製術式や武装を使う時の呪文を詠唱。私たちは一斉にデバイスを構えて臨戦体勢に入る。私は念話でシャルとなのはに、『なのはとシャルは先に行って。ルシルの相手は私だから』そう告げる。

『解かってる。頑張んなさいよ』

『今度こそ、一緒に帰ろうね』

シャルとなのはが激励してくれた。私は『うん。ありがとう、なのは、シャル』と返す。

『シャル、本当に今までありがとう。私、きっとルシルと幸せになるから』

そして最後に、シャルにだけお礼を言った。するとシャルは『あなたが居れば大丈夫。ルシルをよろしくね♪』と返してきてくれた。胸の内に広がるシャルの温かな想い。私はシャルの背中を見詰めて、「うん」と強く頷いて応えた。

「行かせ――っがはっ・・!?」

ルシルが先に動こうとした瞬間、シャルが閃駆で先制攻撃。シャルはルシルの顔面を思いっきり振りかぶった拳で殴ってた。吹っ飛ぶルシルが床に叩きつけられて、3、4回バウンドして倒れ伏した。

「あなたが六課のみんなに与えた悲しみ、あと混乱とか、それら全てを今の一撃に込めた。痛かったでしょ? 重かったでしょ? 理由はどうであれ、それがあなたへの罰よ。行くよ、なのは!」

「うん! フェイトちゃん、頑張ってね・・!」

「うん! なのは達も気を付けて・・・!」

ここに私たちが来た時に、ルシルが立っていた転送装置へ向かうシャルとなのはを見送る。鼻を押さえたルシルが立ち上がって、2人を妨害しようとする。

――ブリッツアクション――

陸戦においての高速移動魔法でルシルに最接近。

――ハーケンスラッシュ――

“バルディッシュ”をハーケンフォームにして、その雷撃の鎌の刃を走らせる。ルシルはバック転しながら刃を避けて、私から距離を取った。私は転送装置の前に立ちはだかって、なのはとシャルの転送を妨害させないようにする。背中から2人の気配が消える。無事に転送を終えたようだ。

「残念だったね、ルシル。なのはとシャルは、セレスを止めに行ったよ」

ルシルの顔を見詰める。だけどルシルの表情は余裕。なのはとシャルがセレスの元に向かったのに、ルシルは余裕の表情を崩さない。そこから考えられることはただ1つ。

「元より彼女たちは通すつもりだった」

ルシルはそう返してきた。やっぱりルシルは始めから、なのはとシャルを通すつもりだったんだ。ならどうしてここで待ち構えていたのか。それはきっと・・・。

「私と戦うために、このエントランスホールで待っていたのルシル?」

「そうだ。フェイト、君をこの場で足止めすることこそ、私がセレスから承った最後の命令だ」

「最後の命令・・・?」

最後っていうのが引っかかる。ルシルの記憶を戻して、最後の命令として私と戦わせる。そこに何の意味があるのかが読み取れない。

「私がセレスから受けた命令は、現在私が出せうる能力を以って、全力で君と戦えというものだ。そして、私が負けた場合、私はフェイトの言うことを何でも聞く。私が勝った場合、セレスの望み通り、私は神意の玉座に帰還する、という戦闘後の結末付きだ」

「神意の玉座に帰還って・・・そんな! どうして!?」

私は叫ぶように聞き返した。私とのこの戦いで、ルシルの今後が決まる。私が勝てば、ルシルは私の言うことを聞く。つまり対人契約が出来る。そして私が負ければ、ルシルは“神意の玉座”に帰還する。勝敗に関係なく、どっちにしてもセレスはルシルと別れることになる。それがセレスの望みだということも。本格的にセレスの考えが読み切れなくなった。

「フェイト。私は君に勝つつもりだ」

「え・・・?」

ルシルは何を言っているの? 私に勝つ? それってつまり私と対人契約しないで、また私の前から居なくなるということ? うそ、なんで? だってルシルも私のことが好きなんだよね? そのはずだよね?

「理由はどうであれ、私たちは世界に混乱を招いた。しかもその混乱の元凶が、私たちの時代の産物である魔術だ。私はそれの償いとして、再びシアワセを手にすることなく消えるつもりでいる。・・・すまないな、フェイト。また君と一緒に生きることが出来ない」

ルシルはそう言って頭を下げた。何か言わないと、と思うけど声が出ない。ただ歯を噛んで、“バルディッシュ”の柄をギュッと力強く握りしめる。ダメ。今は泣くべきときじゃない。
40mはある天井を仰ぎ見る。落ちつけ、心。私がルシルに勝てばいいんだ。息を吐きながら頭を下げたままのルシルへと視線を移す。

「ルシル。この5年で私だって強くなったつもりだよ」

ルシルが顔を上げる。余裕じゃなくて悲しげな表情。

「私があなたと望む未来へ往くために・・・!」

VS・―・―・―・―・―・
其は虚構の従者ルシリオン
・―・―・―・―・―・VS

≪Load cartridge. Limite break, Riot Zamber Stinger≫

“バルディッシュ”を、リミットブレイクフォーム・ライオットザンバーの二刀流、スティンガーにする。防護服はインパルスのまま。ルシルの魔術の手数の多さと威力からして、防御を捨てるソニックフォームは危険だと思うからだ。だけどマントだけ外す。陸戦時はインパルスで。そして空戦時は・・・。

(シャルに協力してもらって組んだセインテストフォームで・・・)

3日間の調査と並行して組んだ空戦形態の術式・雷天使セインテストフォーム。私がルシルと空戦をすることを想定した切り札。試験発動の時、かつてのルシルの空戦形態時の短距離限定速度と互角の数値を叩きだした。

(これで私は、空と陸の両方でルシルの速さに追いついたことになる)

シャルからのアドバイスを思いだす。私からは空戦を仕掛けちゃいけない。空はルシルの領域。そこに私から行くのは、何かしらの対抗策があると悟られるから、だという話だ。だからルシルから空戦を仕掛けてくるまでは陸戦で。

「ルシル、あなたを倒します!」

――ブリッツアクション――

一瞬で距離を詰めて、左手のスティンガーを横一線に薙ぐ。ルシルは蒼い魔力で作り出した長槍を突き立てることで受け止めた。お互いに動きを停めて、お互いの顔を見詰める。私とルシルの交わる視線。するとルシルが口を開いた。

「ならば私も、セレスの従者としての最後の命令を遂行する。本気で行くぞ、フェイト。付いて来られるのなら付いて来い・・・!」

長槍を回転させてスティンガーを弾くルシル。私は体勢を崩されないように左手を引いて、独楽のように回転して右のスティンガー、続けて左のスティンガー、連続で斬り付ける。ルシルも長槍で私の連撃を受け流しては紙一重で避ける。押す。押す。押す。押す押す押す押す押す押す。

「はああああああッ!」

ルシルに反撃の隙を一切与えずに、私は前進しながら連撃を。ルシルは後退しながら防御を。ルシルから「くっ・・・!」って苦悶の声が聞こえた。直感が働く。私はルシルから距離を取って間合いを開けた。その直後に、私がさっき居たところに槍が3本落ちてきた。

――プラズマランサー――

間合いが開いたことで、ルシルはさっき詠唱した複製の力を発動してきた。撃ってきたのは私のプラズマランサーだった。数は18発。直撃コースはその内の9発。私はブリッツアクションで距離を取りつつ、同じランサーをスタンバイ。ルシルの誘導操作で今度は全弾向かってきた。

「プラズマランサー、ファイア!」

ルシルに警戒しながら、同じ数で迎撃。ルシルへ最接近するためのプロセスを考える。一度距離を開けたら最接近は難しい。ルシルの魔術もそうだけど複製術式も厄介で、それを許してくれない。何度も奇襲は通用しない。いくら力が制限されているからと言ってもだ。

――アクセルシューター――

――クロスファイアシュート――

――ソニックシューター――

――プラズマバレット――

ルシルの周囲に展開された、冗談じゃ済まされない数のスフィア。色からして、私となのはとティアナとヴィヴィオのものだ。ルシルは「これはどう対処する?」と言った後、指を鳴らして一斉に放ってきた。

――ブリッツアクション――

避け続ける。まずはそれからだ。放たれた魔力弾は軌道を変えることなく床に突き刺さっていく。助かった、誘導操作として追尾して来なくて。追尾してきたら対処が辛かった。

「その身に刻め」

――ニーベルン・ヴァレスティ――

回避し終えたその直後、背筋に悪寒が走る。シャルのカートリッジを1発ロードしてディフェンサー・プラスを展開した。ルシルが投擲してきたのは、装飾の施された美術品のような綺麗な長槍。拮抗は一瞬。槍は簡単にバリアを粉砕してきた。私は咄嗟にしゃがんでいたことで直撃は免れる。私はその場に留まることを良しとしないで、すぐさま床を駆ける。

「どうした、フェイト。このままでは私が勝ってしまうぞ?」

「それはないよ。だって私がルシルに勝つんだから・・・!」

「ならもう少しギアを上げたらどうだ?」

――殲滅せよ汝の軍勢(コード・カマエル)――

ルシルの頭上に100本は優位に超える槍群が展開された。カマエルだ。負けじとプラズマランサーの限界数20発を展開。全然足りない。

「ジャッジメント」

ルシルが指を鳴らした。私も「ファイア!」と号令。一斉に私とルシルの間で衝突していく槍。でも圧倒的に数の足りない私のランサーは、ルシルのカマエルに呑み込まれた。

「恐れるな、私・・・!」

直撃コースの槍だけを注意して、二刀のスティンガーで弾き飛ばしていく。

「はぁはぁはぁはぁ・・・」

腕を振るい続けて、何とか捌ききった。肩で大きく息をする。ルシルを見れば、消えることなく床に突き立っている槍群の奥で腕を組んで、ただじっと私を見ていた。舐められてる。私がカマエルに対処している間にも攻撃できたはずなのに。とそこまで思ったところで、あれ?って思った。

(私に勝つつもりなら、もう少しやり方があるはずなのに・・・。どうしてこんな回りくどいというか、手を抜いているというか・・・)

ある可能性を考える。もしかしてルシルは迷っているのかもしれない。還ると口にするけど、やっぱりここに残りたいんじゃないのか。無意識か意図的にか、ルシルは手を抜いている、のかもしれない。ルシルの迷い、か。このカードはきっと私に有利になるものだ。

「何を突っ立っている」

ルシルはゆっくりと中央にまで歩み寄ってきて、床に突き刺さったままの炎槍と光槍を手にした。二槍を構えたルシルに警戒して、私もスティンガー二刀を構える。

「ねぇ、ルシル。憶えてる? 私と初めて会った時のこと」

そこで私はルシルの心を揺さぶるために、思い出話を始める。ルシルの表情は今のところ変わらない。ブリッツアクションで突撃。ルシルは両手の槍を投擲。半身ずらして回避。直後に背後から爆発音と衝撃波が襲ってきた。ダメージはないけど、体勢が完全に崩された。間髪いれずに投擲されてくる槍が身体を掠っていく。

(この距離で外した・・・?)

今度は直撃コースの槍が2本。それを無理矢理横っ跳びで避けた。

「初めて会った時、ジュエルシードを巡って戦ったよね・・・!」

――プラズマランサー――

10発のランサーを、タイミングをズラして放ち続ける。床に刺さった色んな属性の槍が浮いて、穂先をランサーに向けたと思えば発射、迎撃してきた。私とルシルの間で衝突して爆発、煙が発生。煙の中に、魔力弾プラズマバレットを撃ち込んでいく。

「けど私とアルフは簡単に負けて。でも事情を話したら、ルシルは協力してくれるって・・・!」

――フォトンスマッシャー――

煙を突き破って桜色の砲撃が向かってきた。ブリッツアクションで回避。避けた先に撃ち込まれ続けるなのはの砲撃。視界に入るルシルの前面には、桜色のミッド魔法陣が4つと扇状に展開されていて、そこから連続で砲撃を放っている。

「っく・・! それから一緒にジュエルシードを探してくれて、私はすごく嬉しかった! 危ない時には助けてくれて! いつも見守ってくれて! お母さんのことは残念だったけど、私はなのはとシャルとも友達になれた!」

――プラズマスマッシャー――

途切れたところを狙って砲撃を撃つ。ルシルはミッド魔法陣を放棄して射線から離脱した。私の砲撃は桜色のミッド魔法陣を粉砕。これで砲撃は撃てない。離脱し終えたルシルが、右手に生み出した雷槍を投擲してきた。私は左のスティンガーで弾き飛ばす。

「それからアリサにすずかとも友達になれたし、学校に通うことも出来た! そしてはやて達とも知り合えて、出会いは戦いだったけど、それでも友達になれたよ! リンディ母さんにクロノとエイミィ! 家族になれて嬉しかった! ルシルとも家族になりたかったけど、今思うと家族にならなくて良かった!」

だってルシルもハラオウン家として家族になっていたら、恋人っていう関係になれなかったから。

――復讐の宝珠――

妙な魔力弾が5発飛んできた。私が動くと射線が揺らいだことから、追尾弾だと判断する。ラウンドシールドを展開。だけどすり抜けてきた魔力弾。私は驚きを意志でねじ伏せ、スティンガーで叩き伏せる。だけど1発だけ迎撃できなかった。

「っうぁぁあああああッ!?」

直撃を受けると、魔力弾はいきなり巨大化、全身を覆われる。魔力弾の内部で全身を貫かれるような激痛に叫ぶ。魔力弾から解放されて、私は両膝を床につく。

「はぁはぁはぁ・・・ルシ・・・ル・・・はぁはぁ・・」

膝立ちで居る私を見詰めるルシル。私が肩で息をしながらルシルを見ると、ルシルは私から目を逸らした。そう、やっぱりそうなんだね。私は足に力を込めて、ルシルを連れ戻すために立ち上がる。

「諦めろ、フェイト。諦めてくれ・・・頼むから」

「諦めない。私は諦めないよ・・・諦めるもんか・・・!」

ルシルの悲しげな表情での懇願。そんなルシルを笑顔にするために、私は勝つ決意を新たにする。カートリッジを1発ロード。プラズマランサーを10発と射出する。それと同時に思い出話の続きを口にする。

「初めての初詣を憶えてる?」

ランサーを迎撃しようとしたルシルが、私の話を聞いて動きを一瞬止めた。ルシルにランサーが掠っていく。私は「ターン!」と号令を掛ける。ランサーの軌道を変えて、再度ルシルに突撃させる。

「ルシルの初女装。男心?っていうのかな、それを知らずに私が可愛いって褒めたり。シャルとアリサが悪乗りしたり。ルシルが泣いて、声を掛けてきた男性を片っ端からふっ飛ばしたりしてさ・・・!」

――プラズマバレット――

「我が手に携えしは確かなる幻想」

――旋衝破――

「フェイト、卑怯だぞ・・!」

ルシルはそう不貞腐れながら、アインハルトの技を使ってバレットを投げ返してきた。返ってきたプラズマバレットをスティンガー二刀で弾き飛ばす。どうしてアインハルトの技が使えるのかが判らない。一体どこで見たんだろ。

「私が、というよりは、サフィーロがDSAAに参加した選手たちの能力を片っ端から複製したようだ」

私の考えを表情から察したようで、ルシルは律義に答えてくれた。3年も前からルシルとリエイスは居たそうだから、セレスに連れられて観戦しに来ていた、ということらしい。ううん、それより今は・・・。

「初めて知ったバレンタインっていうイベント。なのはやはやて、なのはのお母さん達に教えてもらいながら作ったチョコ。でも、ルシルが上級生や同級生にカッコいいとこ見せたせいで、その女子たちにモテて、学校でルシルに渡してほしいって女子がクラスに押し掛けてきて・・!」

ブリッツアクションで接近を試みながら話し続ける。ルシルは私を接近させないように弾幕を張ってきた。シールドを展開。接近を断念してもう1度距離を開ける。

「私、それがなんか気に入らなくて、ルシルに冷たくしてたよね・・・!」

「・・・ふふ、ああ、憶えているよ。あの時のフェイトほど手強いと思ったことはない」

ルシルが思い出話に乗ってきた。その表情は微笑。ほら、ルシルにはそういった表情の方がずっといいよ。あのもやもやした気持ち。アレってやきもちだったんだってあとで解かった。その後、ルシルに悪いことしたなぁ、って落ち込んだりもした。しばらくシャルとエイミィが私をからかうためのネタになったっけ。

「冬が過ぎて春。みんなでお花見もした。夏、学校と管理局、両方の休みを何とか合わせてみんなで海に行ったよね・・・!」

――プラズマランサー――

――プラズマバレット――

ランサーとバレットの複合弾幕を張りつつ、もう1度接近を試みる。ルシルを中心として床に蒼い光の円陣が展開される。この魔術は知っているから、すぐさま反転。

――輝き燃えろ汝の威容(コード・ケルビエル)――

蒼炎が円陣から噴き出して、私の攻撃を全て灰塵にした。私は炎が途切れるのを見計らって、途切れたと同時にブリッツアクションでルシルの元へと疾走する。

――吹き荒べ汝の轟嵐(コード・ラシエル)――

ルシルを守るように蒼い竜巻が生まれる。効果は確か攻撃を弾き返し、突っ込んできた対象を吹き飛ばすっていう防性術式。私はスティンガーを連結させて、カラミティへと形態変化させる。

「はああああッ!!」

竜巻を縦一閃。刀身が折れるけど、竜巻もまた切り裂かれて勢いを失くしていく。再度スティンガーにして、驚愕しているルシルへとダッシュ。ルシルは蒼い大鎌を作り出して一閃。それをスティンガーの一閃を受け止める。純粋な力勝負じゃ私は負ける。だから押し負けて弾き飛ばされた。ルシルの大鎌も砕け散る。私は何とか着地して、ルシルを見据える。振り出しに戻る、だ。

「それで1人だったシャマルがナンパされて、あまりのしつこさにシグナムとヴィータがキレそうになって・・・!」

「ああ、そこをシャルが何とも言えない手段で乗り切ったんだったな。シャルは君とアリサを連れて、シャマルとナンパしてきた男共にこう言った」

ルシルが楽しそうに私の話の後を口にし始めた。そして私たちは申し合わせたようにシャルの爆弾発言である・・・

「「お母さん」」

と同時に口にした。今思い出しただけでも大笑いしそうだ。ナンパしてきた男の人たちは「チッ、子連れかよ」って言って立ち去って、シャマルはそれっきり沈んでた。あれからシャマルに対してのタブーの1つとして“お母さん”っていうのが挙げられる。もちろんヴィータはそれを笑い話として捉えてるから、何とも始末に負えない。そういう私も面白い話の1つとして捉えてるんだけど、これはシャマルには内緒だ。

「「あ」」

同時に声を出す。私はいつの間にかルシルの懐にまで到達していた。ルシルは唖然とか呆然っていう表情で、真っ直ぐに私の目を見つめていた。

――知らしめよ汝の忠誠(コード・アブディエル)――

私はスティンガーを振るう。ルシルも迎撃するために手に蒼い光剣を作り出した。そこから連撃の応酬が始まる。ルシルが間合いを開けようとするのを妨害するために、スピードを落とすことなく連撃を放ち続ける。

「秋は紅葉狩り! また冬が来て! その何度も楽しいを繰り返して、エリオやキャロと出逢って! 3人っていう組み合わせだけど遊びに出かけて・・! すごく幸せな時間を過ごせた!!」

その繰り返しの中に、セレスと会ったのは大体この時期だった。そしてなのはとルシルが撃墜された事件もあった。当時を思い出すとすごく悲しくて辛い。だけど、なのはもルシルも自分の力で乗り越えた。

「っ!?」

バキン!っていう音が耳に届く。ルシルの剣が砕けた音だ。ルシルの顔から完全に余裕が消えた。スティンガーの剣先がルシルの防護服を少し裂く。
ルシルはまた剣を作り出して、私の連撃に対処する。徐々に後退していくルシルを追撃する私。さっきと同じ構図だ。だけどさっきのように私に槍を落として来ない。理由は判らないけど、それなら押し続けるまでだ。

「それから中学を卒業して、本格的に管理局の仕事を始めた・・・!」

はやて達の家探しが難航していて、使わなくなった別荘か何かを譲ったのがセレス。まさかセレスとこんなことになるなんて思いもしなかった。

「そして、ルシルとシャルは管理局を勝手に辞めた・・・! あの時、私は本当に怒っていたんだから・・・!」

すごく怒ったし、すごく悲しかったし、すごく悔しかった。そんな大切な話を相談されないまま、事が終わった後に知る。これほど友達として力不足と思ったことはない。ルシルの剣をまた砕く。左のスティンガーの刃がルシルの右頬に切り傷を負わせる。

「でも、相談されていてもきっと私たちは理解できなかったんだろうね・・! 界律の守護神テスタメント。ルシルとシャルの背負う十字架(さだめ)を私たちは何も知らなかった・・!」

「しまっ――」

ルシルの動きが止まる。エントランスホールの壁に背中がぶつかったためだ。私の薙ぎ払いをしゃがむことで避けたルシルは、そのまま私の背後に通り抜けようとした。

――プラズマランサー――

「ファイアッ!」

それを妨害するために、ルシルの頭上から目の前へとランサーを撃ち放って阻止。私は時計回りに回転して、右のスティンガーを切り上げるように振るった。当然ルシルはそれを防ぐために、振り向きざまに再度作り出した剣で防御。起き上がり途中のルシルは踏ん張りきれずに、無理矢理立たされることになる。ルシルの剣が頭上に弾き飛んで、私の背後に落ちて砕けた。

「「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・」」

ルシルの首筋と胸にスティンガーの刃を近付ける。私は見上げて、ルシルは見下ろす。お互いの顔の距離は10cmも無い。お互いの激しい息遣い。お互いの鼓動も聞こえそうな感じ。だけど、それほどまでに密着しているけど、全然恥ずかしくない。

「はぁはぁ、お願い、ルシル。負けて・・・はぁはぁ・・」

「っく、はぁはぁ・・ダメだ。私は・・・消えなくては・・・」

「・・・分からず屋」

「君の方こそ・・・!」

「・・・痛っ・・!」

ゴツン、と鈍い音。突然のルシルの頭突き。それが隙となって、ルシルに押し飛ばされた。後ろ向きにたたらを踏みながら転倒しないように気を付ける。その間にルシルは私から距離を取った。また振り出しに戻った。
こうなったら雷天使(セインテスト)フォームで空戦をこっちから仕掛けようか。陸では私の方が速い。空でもルシルと同等の速さを得ることが出来た。

(ううん、ダメだ。ルシルに1度でも警戒されると、多分もう勝てないような攻撃ばかりしてくるに違いない)

だけど踏み止まって、陸戦を続行する。

「はやては部隊を立ち上げて、最初の任務でルシルとシャルと再会できた。レリックを巡るスカリエッティとの戦い。そこで私たちはヴィヴィオと出逢って・・・」

息を整えて臨戦態勢。ルシルも周囲に槍群を展開した。

――殲滅せよ汝の軍勢(コード・カマエル)――

「ジャッジメント!」

また100を超える様々な属性を持った槍群を射出される。

「トライデント・・・スマッシャァァァーーーーッ!」

私は二刀を左手に持ち、前面に展開したミッド魔法陣に右手を翳し、カマエルに向けて砲撃を放った。砲撃は出来うる限りの数を減らしに行く。2人の間の頭上で大爆発が起きる。私はその間にもルシルへとブリッツアクションで接近を試みる。

「ルシルとシャルのテスタメントとしての敵、ペッカートゥムによるスカリエッティ一派の計画の乗っ取り。だけど2人は勝って、私たちはJS事件の終結させることが出来た・・・!」

放たれてくる様々な属性の魔力弾や砲撃を、私は避けてはスティンガーで斬り伏せる。ルシルは攻撃を放ちながら、私から距離を取ろうと床を駆ける。

「残り半年の試験運用期間。ルシルとシャルは残ってくれた。すごく嬉しかった。そして廃艦工程に行く前のアースラでの祝勝パーティ。シャルが酔って大変なことになったりして・・・!」

今度は簡単にルシルへと接近できた。もう陸戦でならルシルを圧倒できるとは言えなくても負けることはきっとない。
スティンガーを連結してカラミティへ。ルシルへ向けて横薙ぎ。ルシルはしゃがんで回避。動きを止めた一瞬を狙ってスティンガーに戻して最接近。立ち上ってすぐなのに余裕を以って刺突を半身ずらして避けたルシルへ横薙ぎの追撃。ルシルは魔力剣で防ぐ。そこにもう片方のスティンガーを叩きつける。またルシルの剣を砕く。

「ルシルに贈ってもらった指環が外れなくなったり、六課の宿舎で起こった精神が入れ替わる事件、シャルがスバル達のエインヘリヤルで訓練して大変なことになったり・・・!」

ルシルが作り出した剣を弾き飛ばして、右のスティンガーでルシルを袈裟斬り。ルシルのコートを裂くだけに留まった。そこからまた私の連撃。

「六課の慰安旅行。遊園地でたくさん遊んで、ショッピングしたり、ベルカ自治領の観光地に行ったり・・・!」

ルシルの防護服のコートに傷が増える。ルシルの剣も砕かれる早さが短くなってきた。

「ホテルでまたシャルが酔って、王様ゲームで精神的に死にそうになったり! そして最終日。温泉で、時間帯で混浴になることを知らなかった私たちがバッタリ遭って・・・!」

右のスティンガーを縦一閃。ルシルは防ぐことも避けることも出来ずに直撃を受けた。裂かれた左肩を押さえて、私から距離を取ろうと必死になっている。ごめんね。

――傷つきし者に汝の癒しを(コード・ラファエル)――

ルシルの左肩から漏れる蒼い優しくて温かな光。治癒術式のラファエルだ。私はこれ以上の回復をさせないためにスピードをさらに上げて、手数を増やす。防戦一方のルシル。いつになったら空戦を仕掛けてくるのか。

「魔法で吹っ飛ばして、隊舎に戻ってからルシルとヴァイス陸曹を庭先の木に吊るして! それからスバル達の昇級祝いパーティ。そこでもまたシャルがやってくれたよね! 巨大化するキノコで私たちは大きくなって、それを解決するためにルシルはボロボロになったり! さらにシャルのケーキの所為で、ルシルは幼女化に記憶障害になったよね・・!」

ルシルの表情はもう泣きそうなものだった。私の思い出話によるものなのかは判らないけど・・・。だけど、ルシルから戦意が消えていくのだけはなんとなく判る。

「そして、テルミナスの強襲。操られた私たちはルシルとシャルと戦うことになった。その戦いも終わって、ようやく知り得たルシルとシャルの隠してきた真実・・! 2人の人生があまりに壮絶過ぎて、すごくショックだったんだよ・・・!」

ルシルの弱々しい剣戟。私は簡単に弾く。ルシルの懐ががら空きになって、私は肩から突進して、ルシルを押し倒す。馬乗り状態になって、ルシルを見下ろした。

「憶えてる? 私の告白・・・」

「ああ。忘れられるわけがない」

「私も一緒に背負うよ、ルシルの十字架。私ひとりじゃ頼りないかもしれないし、ううん、私じゃ全然力になれない。それでも一緒に背負うよ。これからはずっと、ルシルを独りにしないから」

一言一句間違えずにもう1度告げる。好きな人と一緒に居られるから幸せ。

「・・・すまない」

ルシルはただ黙って聞いて、そう謝った後、私を襲う衝撃波。私はルシルから大きく離れた場所に飛ばされた。何とか体勢を整えて着地。視線をルシルへ。ルシルは宙に居た。もちろん空戦形態で、だ。それなら私も宙へと。

「バルディッシュ、お願い」

≪Load cartridge. Over drive. Saintest form≫

対空戦形態ルシルの雷天使(セインテスト)フォームを発動した。

†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

心を揺さぶられ、心身ともにボロボロになった私は空戦形態ヘルモーズを発動した。もうどうしていいのか解からない。だから、ヘルモーズでフェイトと戦うことにした。今の私が出せる全力こそが空戦形態下での戦闘なのだから。

「バルディッシュ、お願い」

≪Load cartridge. Over drive. Saintest form≫

フェイトの姿が雷光で見えなくなる。次にその姿を見せたフェイトを見て、私は知らず呟いていた。

「天使・・・!」

今のフェイトは天使と言っても過言じゃない姿だった。防護服はソニックへ。背中から生えるのは私の蒼翼と似た、三対の薄く細長い黄金のひし形の翼。そして頭上には翼と同じ黄金の雷光で構成された円環。
フェイトの閉じていたまぶたが開き、薄く光る真紅の双眸で私を見据える。結っていた金糸の長髪も解け、ゆらゆらと揺らいでいる。美しい。今のフェイトを見て、ただそんな単語しか頭に浮かばなかった。

「これが対ルシルのために開発した新魔法、雷天使セインテストフォーム」

私のファミリーネームを冠した空戦形態セインテストフォーム、か。おそらくシャルに協力してもらったんだろう。彼女もまた私の空戦形態を手にしようと頑張っていたから。それにしても雷天使、か。ああ、ピッタリだよ、その姿には。

「ルシル、行くよ・・・!」

「っ?・・・ぐぉっ!?」

フェイトを見失う。その直後、腹に突き刺さる衝撃。真正面からフェイトは突進して、“バルディッシュ”ではなく拳打を繰り出して来ていた。前のめりになる。あまりの衝撃に息が出来ない。すぐさま顎へと掌底が打たれる。今度は反り返る。反撃しようとするが・・・。

「私は、あなたとこれからを生きる為に、絶対に勝つ!」

それより早く、回し蹴りが腹に突き刺さる。耐えきれずにホールの壁へと叩きつけられた。セレスを生かすためにまだまだ力を失っているとはいえ、そんなことは問題にならない。今のフェイトは疾い。そして強い。私が押されている理由は単純にそれだけだ。そして何より負けている理由がある。

「届け・・・私の想い・・・!」

両腕を頭上でクロスさせて、宙返りして踵落としを決めてきたフェイトの一撃を防ぐ。重い一撃だ。
これが最大の理由。私とフェイトでは想いの強さが違う。迷いしかない私では、今のフェイトに勝つのは不可能だ。

(くそ、思い出せ。私の魔術(チカラ)は何のためにある? 何のために手に入れた?)

――それは大切な存在(ひと)を守るため――

フェイトの拳打を上へと飛ぶことで避ける。フェイトの華奢で綺麗な右拳がホールの壁を貫き、大きなクレーターを作り出した。殺す気か、とツッコミたいが、そんな余裕はどこにもない。フェイトは壁から拳を抜いて、私を追ってきた。私は壁を蹴って中央へと飛行する。

(なら、今はどうするべきだと言うんだ? 守るべき存在(フェイト)は敵だ。矛盾だ。守るベきための魔術(チカラ)を使って、守るべき存在(フェイト)を倒さなければならない)

一瞬で私の背後へと移動してきたフェイト。私は魔力で大剣アブディエルを生成し、振り向きざまにフェイトへと叩きつける。が、私のアブディエルはフェイトのカラミティによって一瞬で破壊された。そしてすぐさまドロップキックを胸部に打ち放たれる。床へと急落下。宙で体勢を整え、両脚で着地。クレーターが生まれる。すぐさま視線を上へ。

「遅いよ、ルシル・・・!」

「な・・・にっ!?」

すでにフェイトは私の背後へ降り立っていた。ガシャァァンとガラスが砕けたような音が背後から聞こえた。私の空戦形態ヘルモーズを維持する翼が破壊された音だ。振り返る。そこに居るのは雷光の翼を背にした天使フェイト。どうするっ。どうすればいいんだ!? 負けられない、負けたくない。

(・・・ああ、そうか。これは意地だ。私は、負けたくないんだ。守るべき彼女に負けるのだけは嫌だ。私は、彼女を守るために強くなくてはいけない。だから、結末がどうであれ、私は、フェイトに負けることは・・・出来ない!!)

再度、空戦形態ヘルモーズをとる。魔力の大半を持っていかれたが、それに見合う価値はある。フェイトの瞳に映る私の表情は、どこかふっ切れたものだ。

「フェイトぉぉーーーーーッ!」

――知らしめよ汝の力(コード・ゼルエル)――

左手に槍を生成し、術式強化のゼルエルを槍に付加させる。これでそう易々と破壊されないはずだ。もう1度、ホールの空へ上がる。

「ルシルぅぅーーーーーッ!」

フェイトはカラミティをのままで、私を追ってきた。お互いがヒットアンドアウェイの戦法と執る。突撃しては一撃を与えるために互いの武器を振るい、防がれては距離を取る。そしてまた突撃して武器を振るい、そしてまた離れる。その繰り返し。

「やっと、ルシルらしくなった・・・!」

「そういう君は本当に強くなった・・・!」

何度目かの衝突、その鍔迫り合いでの会話。表情は互いに笑み。見据えるべきは戦い、そして勝つべき相手のみ。そしてまた離れ、大きく弧を描くようにフェイトを目指す。途中、私は今扱える中で最高の威力を引き出せる砲撃術式をスタンバイ。砲撃魔術師としての私の一撃だ。これが全力だ。

「「はぁぁぁーーーーーーッ!」」

最後の衝突。一瞬音が消えた。直後、互いの武器が同時に粉砕される。私は槍そのものを。フェイトは“バルディッシュ”の刀身のみを。そして互いに一瞬でホールの端にまで距離を開け、私は左手をフェイトへ翳し、フェイトも私へと左手を翳した。ここに来て同じ決着の方法を選んでいたとは・・・。

煌き示せ汝の閃輝(コード・アダメル)!!」

「トライデント・・・スマッシャァァァァーーーーッ!」

放つのは同時。速度も同じ。2発の砲撃がホール中央で衝突する。互いの砲撃はホールの中央で拮抗し、互いを食い破ろうと大気を震わす。

「いっっっけぇぇぇぇーーーーッ!」

フェイトの声がホールに轟く。あぁ、何がいけなかったのだろうか。想いはフェイトの方が強かったというのだろうか。私の力が制限されているからだろうか。それともそういうのは関係ないのか。解らない、判らない、分からない、わからない、ワカラナイ。判らない。が、ただ1つ言えることは・・・。

「私は・・・負けるのか・・・。それもまた・・・」

アダメルがスマッシャーに押され始め、そして2つのエネルギーを持った砲撃が私を呑み込もうとしている。ということだけだった。

†††Sideルシリオン⇒フェイト†††

私のスマッシャーがルシルのアダメルを呑み込んで、そのままルシルへと直撃した。砲撃はそのままルシルごとホールの壁へと突っ込む。ホールを揺るがす爆発と衝撃波。ゆっくりと降下して床に降り立つんだけど、足に力が入らなくて座り込んでしまう。

「はぁはぁはぁ・・・ぅあ?」

セインテストフォームを解除する。というより強制的に解除された。身体中が悲鳴を上げている。反動が強過ぎるんだ、このフォーム。立つのもやっとで、アサルトフォームに戻した“バルディッシュ”を杖代わりにする。
魔法の爆発による煙も次第に晴れていく。その間に呼吸を整える。これで決まっていなかったら、もう戦う余裕のない私の敗北は確定だ。煙幕も晴れ、ようやくルシルの姿を視認できた。

「っ・・・私の勝ちだよ、ルシル」

大きく抉れたホールの壁の奥で、瓦礫にもたれかかるようにして座り込んでいるルシル。俯いているから表情は見えないけど、間違いなくルシルは戦闘不能だ。
“バルディッシュ”を突いて、ルシルの元へと歩み寄っていく。たった200m。その何でもない距離が今では遥か遠くに感じる。
ようやくルシルの元に辿り着き、しゃがみ込んでそっとルシルの顔を覗き込む。まぶたを閉じて、眠っているような表情。と視界に光が満ちる。

「ルシル・・・!?」

ルシルが足元から光の粒子となってゆっくりと消えていく。敗北によって召喚が解かれて、“神意の玉座”へ還るんだ。

「聞こえてないかもしれないけど、今一度あなたに伝えます。ルシル。私は、あなたのことが好きです。だから、これからも私と一緒に、私の側にいてください」

私はルシルが完全に消えてしまう前に、かつての同じ告白をする。そして対人契約。ルシルの唇に、私の唇をそっと重ねた。ファーストキス。
その直後、視界が暗転。気付けば私はどこかのお城の、玉座の間とかがピッタリはまる場所に居て、大きな肘掛椅子に座ってた。

「え? 何が・・・? ここって・・・どこ・・・?」

軽くパニックを起こす。いきなりこんな豪華な大ホールに居れば、誰だってパニックを起こす。

「ようこそ、ヴァルハラへ。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」

ハッとして、声のした方、真正面へと視線を移す。私が座っているような大きな肘掛椅子。

「ルシル・・・じゃない。もしかして、ルシルのお姉さん・・・?」

そこに座って居たのは、ルシルと瓜二つの女性。ルシルの鋭い目つきと違って、柔和な双眸。身長はたぶん私と同じくらい。装飾の凝った純白のドレスを纏って、ドレスの裾は床にまで流れてる。
ルシルの記憶で見た妹のシエルさんとはまた違う魅力的な女性だ。だからこそ選択肢は2つ。ルシルのお母さんかお姉さんのどちらか。でもルシルはお母さんのことを嫌っているようだったから、私は「お姉さん」と口にした。

「ええ。はじめまして、ゼフィランサス・セインテスト・アースガルドよ。ルシルと対人契約したそうね。まぁだからこそ私の元に居るのだけれど」

「あの、それはつまり・・・ルシルのお姉さんが私をここへ・・・?」

「そうよ。ルシルと対人契約した者は例外なく、その精神をここに連れて来られるの」

「どうして、ですか?」

「ん~、最終試験と言ったところかしら。本当にルシルと未来を歩む覚悟があるのかどうかを、私が審判するために」

最終試験なんて聞いてないよ、シャル、ルシル。まさかここで不合格って言い渡されて、ルシルと永遠の別れ・・・なんてことはないよね?
そう思うと一気に緊張してきた。ルシルのお姉さん、ゼフィランサスさんはそれを察したのか、笑顔で「リラックス~リラックス~」と言ってきた。あ、何かそれで不安が小さくなったような気がする。

「さて。最終試験なんて大仰なことを言ったけど、その実は簡単なこと。・・・・私の問いに正直に答えよ、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」

「は、はい!」

ビシッと居住まいを正して、ゼフィランサスさんの問いを待つ。

「ルシルの正体と、ルシルが今までしてきたこと、背負っているモノは知っていて?」

「はい、知っています」

「それでもなお、貴女はルシルと共に在りたいと?」

「はい、私はルシルとこれからもずっと一緒に居たいです。それに私は誓ったんです。私じゃ足りないかもしれないけど、ルシルの背負うモノを私も背負っていきたいって」

「・・・ホント、シェフィに似てるけど、でも違うのね」

「?? あの、何か仰いましたか?」

ゼフィランサスさんが何か呟いたようだけど聞き取れなかった。だから聞き返してみたけど、ゼフィランサスさんは「気にしないで」と笑みを浮かべた。

「ルシルも貴女のことを想っているみたいだし、きっと大丈夫ね。フェイトさん。不出来な弟だけど、ルシルのことをこれからもよろしくお願いします」

ゼフィランサスさんは椅子から立ち上がって、私に歩み寄りながらそう告げてきた。

「はい。必ず、ルシルを幸せにしてみせます」

私は慌てて立ち上がって、ゼフィランサスさんの元へと駆け寄り、そう告げた。するとゼフィランサスさんは「それはどっちかって言うとルシル(おとこ)のセリフよね」と綺麗に笑った。私も「そ、そうですよね」と苦笑していると、ゼフィランサスさんが急に私を抱きしめた。

「貴女とルシルに、遥か尊き祝福の恩寵があらんことを」

囁かれた祝福の言葉。私がお礼を口にしようとしたとき、また視界が暗転。そこは現実の世界。私はルシルにキスした時と同じ体勢だった。夢?・・・じゃない。ゼフィランサスさんの感触も温かみも香りも残ってる。

「ゼフィランサスさん・・・ううん、義姉さん。私は必ずルシルと幸せになります」

どういうわけか一切のダメージが無くなって綺麗になっているルシル。対人契約の影響かは知らないけど。傷ひとつとしてないルシルを抱き起して、ホールの無傷な場所まで運ぶ。

「ルシル、一緒に幸せになろうね」

ルシルを膝枕して、男の人とは思えないほどにサラサラな前髪を撫でる。その時、背後からジャリって砂を踏む音がした。ハッとしてそちらへと視線を向け、驚愕に目を見開いた。

「そう、なんだ。・・サフィー・・・ロは・・・負け、たん・・だ・・・」

「フィレス・カローラ空士・・・!?」

ここ“エヘモニアの天柱”の入り口の壁にもたれかかるようにして、ウエディングドレスを纏ったフィレスが立って居た。
 
 

 
後書き
ついに決着、ルシルとフェイトの運命(バトル)。
ルシル、次元世界に残留決定となりました。うわぁ、何か凶器が飛んできたぁ?
コホン。え~、フェイトの15年の想いも叶い、これからどんな未来を歩むんでしょうかね~。
そしてルシルはに待ちうける犠牲(イケニエ)としての未来は?
 
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