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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep37想いの全てをこの一撃に ~Revolver Knuckle~

 
前書き
クイント・アマティスタ最終戦イメージBGM
El Shaddai Ascension of the Metatron「闇に囚われし者」
http://youtu.be/8sp_CysDvDw

 

 
†††Sideスバル†††

あたしとティアは、“テスタメント”の拠点がある、第28管理世界・フォスカムの廃棄都市ドイパームに来た。そこでフォスカムの地上・航空部隊と合流して、他の3つの世界に向かったなのはさん達の合図を待つ。同時に全ての拠点に襲撃を仕掛けることで、幹部たちを否応でも分散させるのが狙いだってシャルさんは言ってた。

「ティア、上手く行くかな・・・?」

「あたし達が上手く行くようにするのよ」

そう言ったっきりティアは黙った。そう、だよね。あたし達がしっかりしないとこの戦いはきっと終わらない。必ず“テスタメント”に倒して・・・ううん、止めるんだ。そしてまたいつもの日常に帰るんだ。決意を胸に秘めて待機していると、フォスカムの地上部隊の人が来た。

「八神司令より連絡が入りました。5分後、1430時に作戦開始だそうです」

「判りました。ありがとうございます」

残り5分。みんなで笑いあってるだけですぐに経つのに、こういう状況になるとすごく長く感じる。左手に装着した“リボルバーナックル”にそっと触れて優しく撫でる。お母さんとティーダさんが来てくれることを祈って、ただじっと待つ。

「時間よ!!」

ティアの号令で、あたし達は拠点に向かって一気に駆け出した。場所が廃棄都市区画ということもあって、死角に入り込みやすい。だから拠点の居るはずの“テスタメント”構成員にはまだ気付かれてない、はず。

『ティア、上手く行き過ぎてると思うんだけど、大丈夫かな・・・?』

『あんたねぇ、もう少し前向きに考えないと足元すくわれるわよ』

『前向き過ぎても考えものだと思うんだけど・・・』

『じゃあいい感じで緊張感保ってなさい』

『いい感じ、ってどういう感じ?』

『自分で考えなさい。以上!』

廃棄ビルや瓦礫の陰という陰を利用して、拠点まで複数の武装隊と一緒に向かう。だけどここまで“テスタメント”の妨害を受けないのもおかしい。そう思ったからティアに念話で聞いたんだけど、なんかはぐらかされた感じがする。
いい感じ、ってどういうのだろうって考えていると、“オムニシエンス”の障壁を発生させている拠点の近くまで辿り着いた。なんてことはない普通の白い建物。“機動六課”時代の隊舎みたいな感じだ。拠点の周囲にも人の姿は見えない。

『ポジティブに考えれば奇襲が気付かれてない。何せ管理局(あたしたち)に拠点の位置が知られているなんて思ってないだろうから。で、ネガティブに考えれば、これはあたし達を誘き出す罠――ってところね』

ティアが2つの可能性を提示してきた。成功か失敗かのどちらか。でも、どっちにしてもあたし達のするべきことは決まってる。

『反撃に転じられる前に、障壁発生装置を破壊する。そして幹部の撃破』

ティアの言う通り幹部が現れたら、あたし達が戦線に参加して、神秘の扱えないフォスカムの部隊の人たちは下がってもらう。ここまでは打ち合わせをしたから問題は無いんだけど・・・。

「それでは、我々フォスカム地上部隊と航空部隊で襲撃を掛けます。テスタメント幹部が姿を現した時はお願いします」

「判りました。お願いします」

「お願いします」

フォスカム拠点攻略戦に参加する部隊の女性の隊長さん、グラース三佐がそう言って、後ろに控えてる数十人の地上・航空部隊の人に手振りで合図。両部隊の人たちがその合図に頷いた瞬間、一気に拠点になだれ込んでいった。一糸乱れない統制のとれた動き。グラース三佐はかなり凄い人だということが一瞬で解かった。

見送った後、あたしとティアは少し離れた廃棄ビル内へ移動する。出来るだけ近く、でも戦闘に巻き込まれないように、そしてすぐに参戦できる離れた位置。あたしとティアは幹部戦に備えて待機しておかないといけない。だからこそこうして隠れて見ているだけしか出来ない。

(まだ出てこない・・・)

戦域の状況をサーチャー越しで見る。突然の奇襲に慌てた様子の構成員が銃を片手に拠点から出てくる。でも姿を現すのは構成員だけ。アギラスも出て来ない。と思ってたら、やっぱり出てきた黒い戦闘機アギラスの・・・1、2、3、4・・・13機編成部隊。
加勢したい気持ちを何とか抑えていると、戦域で交錯する通信があたし達の元に流れる。

『噂の航空戦力アギラス計13機を目視!』

『弱点は判明している! 1on1ではなく、可能な限り複数人で1機を撃墜しろ!』

『第一隊、第二隊、第三隊、拠点内部に進入! 引き続き任務続行!』

完璧過ぎって言ってもいいくらいの統制のとれたフォスカム部隊と、統制されているけど遥かにレベルの落ちるフォスカム拠点の構成員部隊。地上の勝敗はどっからどう見てもフォスカム部隊の勝利で間違いない。

『アルファ隊、負傷者2! 医療班!』

≪裏切りと争いの絶えない人間如きが、我ら栄えある獅子座部隊(レオーン)の牙から逃れられると思うな≫

航空隊とアギラスによる空戦。そんな空での交錯する通信が入ってきた。航空隊の人が2人撃墜された。ティアを見ると、“クロスミラージュ”を力強く握ってた。ティアだって行きたいんだよね。あたしもそうだよ。見ているだけだなんて辛い。
だけど、幹部を相手にするなら、少しでも魔力を温存していないとダメだ。たとえお母さんだとしても、今度は本気で来そうな気がするから。
それから地上・航空部隊の中からケガ人が出たとか、アギラスを撃墜したっていう報告が何度か入る中、ついに待ち望んだ報告が入った。

『こちら第四隊! 障壁発生システムと思われる装置の破壊に成功!』

『テスタメント構成員から確証を取りました! 我々の勝利です!』

『あ、アギラスが転移、撤退していきます!』

“オムニシエンス”を守る障壁を発生させる装置を破壊した。これで1つ目の目的は果たせたんだけど、結局、お母さんどころか幹部は誰ひとりとして来なかった。ティアを見ると、あたしの視線に気付いて「油断はしない方がいいわ」って安堵半分緊張半分でそう言ってきた。
それから未だに戦闘を続行しようとする構成員の捕縛に入って少し、あたしとティアがこの世界に赴いた目的が来た。

『こちらベータ隊! 白コート、幹部2名を確認!』

『グラース三佐です。幹部との戦闘は避け、構成員の逮捕を続行。幹部は特務六課に任せます。ナカジマ防災士長、ランスター執務官、お願いします』

グラース三佐に「「了解!!」」と返す。幹部2名。以前までならルシルさんと初代リインフォースさんペアか、お母さんとティーダさんペアの二択だったけど、今は間違いなくお母さんとティーダさんのペアだ。

「行くわよ、スバル!」

「うん! ウイング・・・ローーードッッ!!」

帯状魔法陣の道を架けて、一気に戦域に乗り込む。そこにはモニターで見た通りの光景が広がっていた。アギラスの残骸。負傷した隊員たちと構成員たちを搬送する医務官と隊員たち。幹部っていう援軍が来たことで士気を高める構成員と戦う部隊の人たち。そして空に人影が2つ。藍色のウイングロード上を走るお母さんと、飛行魔法で空を翔けるティーダさん。

『スバル、部隊を巻き込まないように、ここから少し離れるわよ!』

後ろを走るティアの提案に『了解!』って答えて、ウイングロードの行き先を変更しようとしたとき、目の前にノイズが奔った。でもすぐに止んだから気の所為かと思った。だけど、また視界にノイズが紛れる。

(なに・・・!? こんなときに視覚異常なんてシャレにならな――)

「スバル!」≪Buddy !!≫

ティアと“マッハキャリバー”の悲鳴のような呼びかけに意識が前に向く。未だにノイズが少し紛れる視界に入るのはお母さん・・・じゃない・・・。

(誰? お母さんだよね? え? お母さんってこんな顔してたっけ?)

「クロスファイア!!」

≪Shoot !!≫

背中からお母さんに向けて放たれるティアのクロスファイア6発。次の瞬間、あたしはティアに押し倒された。そして頭の上を通過していく藍色のウイングロードとお母さん。

「何ボサッとしてんのよ! しっかりしなさい!」

≪また来ます!≫

かぶりを振って、ティアに右手を引かれて立ち上がった。さっき見たお母さんの顔。今までと全然違う、見たことないあの表情。

――嗚呼、目醒めよと声がする――

――トライシールド――

――ラウンドシールド――

これはおかしいと思ってティアに話そうとしたら、上からティーダさんの黄色い砲撃が降ってきた。“マッハキャリバー”と“クロスミラージュ”がシールドを張ってくれたおかげで直撃しなかった。

「え? なに――きゃぁ!?」

「ティア!!」

≪先程と同様の突進が来ます!≫

「っく・・・!」

ティアが物凄い速さで降下してきたティーダさんに抱えられて連れ去られた。混乱していると、またウイングロードごと突撃してくるお母さんが視界に入る。視覚のノイズもまだ続いてるし、ティアはティーダさんに拉致されたし、一体どうなって?って考える暇も無く・・・。母さんが右腕に装着されている“リボルバーナックル”を振りかぶった。

――ミ失うノハ私かそれとモ貴方か――

真正面から受けるのは危険だと判断して、ウイングロードの軌道をずらして、お母さんのウイングロードと並列させた。
お母さんはすれ違いざまにナックルスピナーが唸ってる右の“リボルバーナックル”による拳打を繰り出してきた。直感で判る。今までと比べモノにならないくらいの威力を持ってるってことが。


VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は悲しき改革者クイント・アマティスタ
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS


「お母さん!」

しゃがみ込むようにして避けて、背後に通り過ぎていったお母さんを見る。明らかに敵意むき出しの攻撃。背中から伝わる嫌な空気。そしてさっき見た表情。全部が全部おかしかった。お母さんじゃない、まるで何かに操られて・・・。

「まさか・・・!」

嫌な予感が頭の片隅を過ぎる。あたしはウイングロードを反転させて、あたしと向かい合ったまま佇むお母さんを見詰める。もう1度「お母さん!」って呼びかける。だけど返事をしてくれない。“リボルバーナックル”を装着した両腕をダラリと下げて、身体を少し左右に揺らす俯いたままのお母さん。
推測が確信へと向かってく。明らかに様子がおかし過ぎる。あたしの推測は、お母さんの様子の完全な変化によって確信になった。

「っ!? おかあ・・さん・・・?」

空を仰ぐように顔を上げたことでフードの中から見えたお母さんの顔は、さっき見た通り無表情。そして眼球は黒くて、虹彩は黄金で、どこを見ているのかも判らない虚ろ。以前と違う点がもう1つ。両頬に黒い鉤爪みたいな模様が浮かんでた。それに口を開いて何か言ってるように聞こえる。

「@ΞΩ∑ΨЖ・・・・3*h$w∵?」

人語ですら無かった。聞き取れない言葉。間違いなかった。お母さんは誰かに意識を乗っ取られてる。それは誰の所為か。

「ディア・・・マンテ・・・!」

考えられるのはアイツしか考えられない。カローラ一佐の可能性だってある。だけど、真っ先に浮かんだのがディアマンテの顔だった。そう考えると、ティアを連れ去ったティーダさんもまた操られているんじゃ、ってことに至った。

――ミ失うノハ私かそれとモ貴方か――

お母さんはお構いなしで攻撃してくる。さっきと同じウイングロードごとの突進攻撃から繰り出される、精確なのかどうかも判らない拳打と蹴打のコンビネーション。
あたしはそれを避けるかバリアで弾くかで対処。フードが脱げて、お母さんの変異してしまっている顔が露わになる。やっぱりあの優しい表情は見る影もない。お

『シャルさん、聞こえますか!?』

母さんの攻撃を捌くその合間に、“ヴォルフラム”で待機してるはずのシャルさんに通信を入れる。するとすぐに『状況は判ってる。ごめん、まさかこうなるなんて思わなかった』って返ってきた。

『どういう――っく、ことですか・・・!?』

勢いの無くならないお母さんの連撃をギリギリで捌き続ける。そして大振りの左ハイキックを受け止めて、そのまま突っ込んで押し倒そうとする。だけどお母さんの身体をピクリとも動かすことが出来ない。
お母さんは跳んで、左足の蹴りをあたしの顔めがけて打ってきた。咄嗟に掴んでいるお母さんの右足を全力で上に押し上げることで、左足の蹴りの軌道を頭上に逸らす。その間にもシャルさんとの話を続ける。

『クイントさん、そしてティーダはある魔族に囚われてる。魔族名は、幻想一属・暴力の災渦ゲヴァルトゼーレ。対象に無理矢理とり憑いて凶暴化させて精神を食べる、幻想一属の中でも最悪な奴よ。で、そんなヤバい奴を2人が使うとは思えない。つまり、誰かが2人と魔族を無理矢理融合させた、そう考えられる』

シャルさんの無理矢理って言葉と精神を食べられるって言葉に反応する。想いの塊とも言えるお母さん達がとり憑かれたらどうなるの・・・?
それにティーダさんにも。やっぱり様子が変だって思ったんだ。お母さん達に魔族を無理やり融合させたと思うディアマンテに激しい怒りが沸いた。

「っつ・・・! シャルさんは、ディアマンテだと・・・思いますか・・・?」

『セレスとは考えづらい。ならディアマンテでしょうね』

シャルさんはそう即答した。

――私をミタシてクレますか――

ぞわっと背筋に悪寒が走る。お母さんはあたしから距離を取って、聞きとることが出来ない叫び声を上げた。その瞬間、お母さんの身体のあちこちから黒い影が沸き上がって集束する。たくさんの眼が浮かぶ、細く長い影の腕となって両肩から伸びた。すると視覚のノイズがさらに強くなったり突然止んだりする。どうやらあのゲヴァルトゼーレの影響みたい。

「アレが・・・ゲヴァルトゼーレ・・・?」

ゲヴァルトは猛威。ゼーレは確か心って意味だったっけ・・・? 古代ベルカ語はイクスの影響で少し覚えた程度だからうろ覚えだけど・・・。警戒して構えを取っていると、気持ち悪くうねうね揺れる黒い腕がゆらっと動いた。

「っ・・・!?」

≪Protection≫

触手が視認できないほどの速さで襲いかかってきた。“マッハキャリバー”が咄嗟にバリアを張ってくれなかったら危なかった。

『スバル、そしてティアナ。私が代わりに行って戦うから、あなた達は――』

「待ってください! このままあたしに闘わせてください!」

≪Load cartridge≫

――ウイングロード――

カートリッジを1発ロードして、お母さんに接近するためにウイングロードを伸ばす。そして「ギア・セカンド!」って指示、出力をさらに上げて機動力を上げる。

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

そして突撃。お母さんの両肩から伸びる触手が襲いかかってきた。それをシールドで弾いて尚も接近。するとお母さんは直接攻撃に転じてきた。先にお互いのウイングロードが衝突。互いのウイングロードの先端からバキバキって砕ける音が響く。今度はあたしとお母さんの番。お互いが右腕を引く。

――ナックルダスター――

――こノ渇きをダレガ癒してくレルの――

あたしとお母さんが繰り出すのは、ナックルスピナーを高速回転させて威力を上げた正拳突き。お母さんの一撃は首を逸らすことでギリギリで回避できた。顔のすぐ横を過ぎた衝撃波がとんでもなくて少し意識が飛びそうになるけど耐える。
そしてあたしの一撃は、いつの間にか戻ってきていた左肩の影腕に防がれていた。すぐに右手を引いて、お母さんから距離を少し取る。

『2人がそう言うなら私は引っ込むよ。2人に1つアドバイスしとく。よく聞いてね。ゲヴァルトゼーレは最悪な性質なわりに性根が呆れるほど弱い。ある程度ダメージを与えれば簡単に引き剥がせる。それはつまり・・・』

――プロテクション――

また襲いかかってきた2本の触手を、強化されたバリアで弾き飛ばす。

「お母さんを昏倒させるだけのダメージを与えれば勝ち、ってことですね!」

シャルさんの後を口にする。ティアも同じようにティーダさんと戦うことを決めたみたいだ。そう、こればっかりは他に人には譲れない。

『そうゆうこと。スバル、ティアナ。やらせて下さいって言ったんだから、絶対に勝つこと、いい?』

「はい、勝ちます!」

お母さんを救うために、あたしは絶対にお母さんに勝つ。そして、出来ればディアマンテを1発殴る。ううん、2発3発、何発でも殴る。

「お母さん。絶対にあたしが助けるから・・・!」

そのためにはまず、ゲヴァルトゼーレによって暴走してるお母さんを止めないといけない。

「@ΞΩ∑ΨЖ3*h$w∵」

う~ん、なんて言ってるのかは解からないけど、頑張るよ。攻撃され続けた所為でバリアも限界になって、無数のヒビが入る。ならこのままバリアごと突っ込んで、ゼロ距離の一撃を入れる。

「マッハキャリバー、ギア・エクセリオン。お願い」

≪Gear Exelion. A.C.S. Drive Ignition≫

“マッハキャリバー”の側面から大きな一対の羽が生まれる。魔導師としての力と戦闘機人としての力をフルに扱えることが出来るこのモード。これなら今のお母さんとでもきっと渡り合えるはずだ。

「行くよっ!」

≪All right Buddy !≫

「うぉぉおおおおおおおおッ!!」

ヒビの入ったプロテクションを前面に展開したまま突撃する。懐に潜り込んで一撃。危険だけど1番確実な方法。お母さんもまたあたしと同じように突撃してきた。さっきと同じ画だ。お互いが右腕を引いて、そして攻撃範囲内に入った瞬間、打つ!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

――リボルバーキャノン――

「§Π∀ΩГΨ☆Θ!!」

――こノ渇きをダレガ癒してくレルの――

最初にプロテクションが砕け散る。そして衝突するあたしの右拳とお母さんの右拳。お互いの右手の装着された“リボルバーナックル”のナックルスピナーが激しく回転する。あたしも譲らない。お母さんも譲ろうとしない。密着点から火花が散り始める。この競り合いの勝敗を決めるのは力でもなく魔力でもない、ただ強い意志!

「いっっっっけぇぇぇぇぇぇッ!!」

“マッハキャリバー”がさらに出力を上げてくれる。徐々にお母さんの右拳を押し始めた。でもここで忘れたらダメなのが、お母さんの左手にも“リボルバーナックル”があって、両肩から魔族の影腕が生えているということだ。案の定お母さんは競り合いで負けると判断したみたいで、その3つの腕を攻撃に使ってきた。

≪Protection EX≫

なのはさんが使っているプロテクションEXと同じ魔法を発動。そこにシャルさん特製の神秘という魔力のカートリッジでさらに強化。さっきまで使っていたプロテクションとは強度が違うから、完全に防ぎきる。

「ディバイン・・・バスタァァァーーーーッ!!」

お母さんの右拳を捌いて、すぐさま近距離砲ディバインバスターを放つ。ほぼゼロ距離での一撃だったから、まず回避は出来ないはず。砲撃はそのまま突き進んで消えて、勢いを殺せなかったお母さんは落下。だけどウイングロード上に余裕で着地した。
その姿は異様。白コートは完全に破けて無くなって防護服が露わになるんだけど、ゲヴァルトゼーレの所為でほとんど黒い影に侵食されてる。

「ア、あアアあぁああァアア・・・あああアアアああアァぁーーーーッ!!」

お母さんが突然身体を抱いて苦しみだした。

『急いで、スバル! このままじゃクイントさんは、そんな悲しい姿のままで消えてしまう!』

シャルさんからの焦りしかない通信が入った。お母さんが、あの優しくて綺麗なお母さんが、あんな訳も判らない影に侵食された姿で消える。それだけは絶対にダメだ。

――ウイングロード――

何としてもお母さんをゲヴァルトゼーレから救い出す。ウイングロードを空に張り巡らして足場にする。そしてウイングロードを疾走して一気に接近。

「お母さんを・・・返せぇぇぇーーーーッ!!」

――リボルバーシュート――

ナックルスピナーの高速回転で生み出された衝撃波を撃ち出す。その一撃を、触手は交差することで防ぎきった。だけど神秘に強化された衝撃波の勢いには耐えられなかったみたいで、お母さんはウイングロードから宙に弾かれる。
あたしはお母さんに向かってダイブ。空中で一撃を入れて、近くのウイングロードに着地する、という算段だ。もう1度ディバインバスターの準備に入る。交差すると同時に一撃を入れるために。

「当たれぇぇぇぇーーーッ!!」

ディバインバスターを撃った瞬間、触手が頭上のウイングロードを掴んでお母さんを引き上げた。当然あたしの砲撃はお母さんに当たらないで、地上のビルへ向かって炸裂した。あたしも急いで着地しないといけない。
そう思ったときには遅く、背中に誰かが居る気配を感じて振り向く。お母さんは飛び降りて、あたしのすぐ後ろにまで接近していた。振り下ろされる左の“リボルバーナックル”による拳打。

――トライシールド――

背後にシールドを展開して拳打を防ぐ。でもすぐに右の拳打、さらに2つの触手がシールドを破壊しようと迫る。

≪Wing Road≫

ウイングロードを足元に敷いてレールにする。そして強制的に体勢を崩してお母さんの攻撃を紙一重で避けて、今度はあたしがお母さんの背後をとる。触手が反転される前に一撃を・・・

「マッハキャリバー!」

≪Load cartridge≫

「リボルバー・・・」

“リボルバーナックル”のカートリッジをロード。
「キャノン!!」

「∑×#∀!?!?!?」

ナックルスピナーの高速回転で生まれた衝撃波をそのまま拳に纏わせる一撃を、お母さんの背中に打ち込んだ。さっきまで止んでいた視覚のノイズがまた奔る。

「うぇ・・・うそっ!?」

真っ逆さまに落ちるお母さんの触手があたしの身体に巻きついた。結果どうなるか。もちろんあたしもお母さんの落下に釣られて落ちる。

「がっ・・・!」

そのままの勢いで地面に背中から叩きつけられた。息が止まる。揺れる視界に、あたしを支点に宙返りして、静かに着地するお母さんの姿が映った。

「@ΞΩ∑ΨЖ9*h$w∵」

空を仰ぎながら、でも視線はあたしを見下ろして、身体を左右に揺らしながら進んでくるお母さん。咽ながらも身体を起こして何とか立ち上がる。と、同時にお母さんは疾走してくる。両腕を後ろにして、ナックルスピナーを高速回転させての疾走。
あたしは体勢を整えるためにプロテクションを張っての回避行動に入るんだけど、それを邪魔するのが触手。あたしの両脇に伸びて、前後にしか動けないっていう制限を掛けてきた。

――ミ失うノハ私かそれとモ貴方か――

お構いなしに突進してくるお母さんは、両腕を突き出すような両拳の一撃を打ってきた。あたしはそれを、受けるんじゃなくて跳ぶことで回避した。そのまま宙で一回転してお母さんの背後をもう1度とる。

――リボルバーキャノン――

それと同時に一撃を打ち込んだ。お母さんの身体は大きく反り返って、吹き飛んだ。追撃を仕掛ける。こんなんじゃたぶんお母さんを暴走させてるゲヴァルトゼーレを引き剥がせない。
吹き飛んで滑空しているお母さんは、触手を地面に突き立てて制動を掛けて止まった。そのままの体勢で触手をしならせた勢いを利用してこっちに突っ込んできた。
一瞬で距離が数十cmにまで縮む。今さら方向転換できる距離じゃないと判断したあたしは、前転してお母さんの顔面に踵落としを仕掛ける。ドゴン!と鈍い音。その音は当たった音じゃなくて、脚を触手に掴まれた音だった。

「っく・・・!」

そのまま宙に引っ張られて、そして地面に叩きつけられる・・・前にウイングロードを発動。力任せにウイングロードを疾走することで叩きつけられる攻撃を回避。そのまま右足を掴む影腕ごとお母さんを引っ張りまわす。と、ガクッと動きが止まる。
左の影腕ががっちりとウイングロードを掴んでいるからだ。なら、と、お母さんに向かって疾走を再開。だけどそんなにあたしの思い通りにはいかない。あたしの右腕を掴む触手が、あたしを勢いよく振り回す。さすがに今度はウイングロードで、っていうのは無理だ。視界がぐるぐる回る中、一気に振り下ろされて、今まで以上の力で地面に叩きつけられた。

「・・・うぐっ!」

全ての感覚を一瞬失う。痛いのかも目を開けているのかも判らない。何とか感覚を取り戻して痛みに悶える中、ノイズ混じりの視界に映るお母さん。その顔は涙で濡れて・・・涙・・・? お母さんが泣いてる・・・? まさか・・・意識がある・・・?

「おかあ・・・さん・・・?」

空を仰ぎながら、でも目だけはあたしに向いてるお母さんが泣いてる。それにゲヴァルトゼーレの触手の挙動が少し変になってる。痙攣してるっていうか、動きたくても動けないっていうような震え。ダメージで身体が軋んでいるけど「おおおおおッ!」叫んで力を込めて立ち上がる。まだ戦えるだけの魔力も気力もある。何よりお母さんを助けたいって想いがある。

「待ってて、お母さん。すぐに、あたしがお母さんを助けるから!」

お母さんを昏倒させるだけの威力を持った一撃。でも、あたしの仕事は幹部を止めること。それは勝たないといけないこと。それはお母さんを倒すこと。でも、お母さんをあのまま倒してそれでいいの?
ダメ。お母さんを助けたいならゲヴァルトゼーレだけを倒さないといけない。だからこそ最強の一撃である振動拳は使ったらダメだ。

≪Buddy !!≫

“マッハキャリバー”の声で思考を止めて前にのみ意識を集中させる。視覚のノイズが止んだ今、視界に入るのは突進してくるお母さん。涙が宙を流れていくのが見える。

「力を貸して、マッハキャリバー、リボルバーナックル」

≪All right buddy !≫

もう小細工も何もいらない。真っ向からのシューティングアーツで決める。“マッハキャリバー”の側面から生える二対の羽を小さくして格闘戦向きに変更。
そしてあたしもお母さんに向かって疾走開始。一瞬で距離が縮まって、拳打と蹴打の激しい猛襲が始まる。お母さんの連撃を捌いては受けて悶えて、あたしの連撃も捌かれては当たって。もう魔法も何も無い。純粋なシューティングアーツっていう体術のみでの闘い。

「∬∀♀ΩスバΠЖル§Ξ」

「え・・・?」

お母さんの右の拳打を捌いたと同時に聞こえた声の中に、あたしの名前があったように聞こえた。それがまたあたしの隙となった。こういう大事な時に隙をつくってしまうあたし。左の拳打を捌ききれなくて「かはっ」まともに胸に受ける。息が出来ない。
当たったと同時にわざと身を引いて衝撃を減らして、少し離れたところに着地。だけど威力を完全に殺せなくて吹き飛びそうになるのを、“マッハキャリバー”の走行機能のひとつ、アブソーブグリップっていう、グリップ力を高めるシステムのおかげで、その場で耐えきる。

「げほっげほっ・・・はぁはぁはぁはぁ・・・!」

咽ながらも大きく深呼吸して息を整える。その間、お母さんは左右に身体を揺らしながらゆっくりと進んできて、あたしが態勢を整えると同時にまた突進してきた。
今度は何があっても隙はつくらない見せない。また始まるお互いの拳打と蹴打の応酬。捌いては当てて、受けては捌いての繰り返し。と、ここで今まで沈黙してたゲヴァルトゼーレの触手が動いた。

「来たっ・・・え・・・?」

あたしの首を掴もうと伸びてきた触手。だったけど、あたしの前でピタッと止まった。そしてさっきまでみたいに痙攣を起こす。するとお母さんも動きを完全に止めた。もしかするとお母さんの意思が、ゲヴァルトゼーレを抑え込んでいるのかもしれない。

(だったら今が最大のチャンス!)

お母さんから受け継いだこの“リボルバーナックル”と、あたしを救ってくれた憧れの魔導師(ひと)の砲撃魔法をもう1度、お母さんを救うために。20年っていう時間の中で育んできた、あたしの想いの全てをこの一撃に込めて、お母さんを救い出す。

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」

お母さんへと“リボルバーナックル”の一撃を打ち込む。今までに無かった不可視の障壁とお母さんを侵食している影に防がれて、激しい火花を散らす拳打の行く手が拒まれる。

「ぅおおおおおおおおおおッ!!」

≪Load cartridge≫

障壁を突破するためにさらに“リボルバーナックル”のカートリッジを、シャルさんに言われた限界数3発を連続ロード。視覚のノイズが一気に増える。ほとんど視界が潰されてしまった。身体中が軋む。だけど痛みは感じない。リンカーコアが暴れまわる。

「あたしの想いの全てを込めたこの一撃!」

影が徐々に散っていく。それに見えない障壁を少しずつ貫いていってる感覚を得た。そしてガシャァァン!って障壁が砕けた音が耳に入る。今だ。今こそこの一撃を・・・!

「お母さんを助けるために・・・!」

≪Divine Buster A.C.S≫

左手に発生させたスフィアをお母さんの腹部へ。

「届けぇぇぇぇぇーーーーーーッ!!」

右の“リボルバーナックル”で膨れ上がったスフィアを殴りつけて、あたしの全力の一撃ディバインバスターを放った。砲撃の光が膨れ上がって、視界がノイズ以上の白に染まる。
撃ち終わった後、一気に脱力して座り込んだ。大きく肩で呼吸しながら、お母さんが居るはずの場所を見詰める。瓦礫が崩れたことで生まれた砂煙がすごくて、まだお母さんを確認できない。

「はぁはぁ・・・おかあ・・・はぁはぁ・・さん・・はぁはぁ・・」

もう1歩も動けないほどの疲労感だけど、お母さんの姿を今すぐにでも確認したい一心で立ち上がる。当然フラついて何度も転びそうになる。でも何とか耐えてゆっくりでも進む。普通に“マッハキャリバー”で進めば10秒もしない距離を、時間をかけて進み続ける。その間に砂煙も治まっていって、辺りがよく見えるようになった。

「お母さん・・・? お母さん? お母さん!」

そう呼びかけるけど、返事はいつまで経っても返って来ない。さすがに不安になって、諦めずに何度も「お母さん!」って呼びかける。さらに進もうとしたとき瓦礫に蹴躓いて倒れそうになった。けど、あたしは誰かに受け止められた。

「・・・ホント、強くなったわね、スバル。おかーさん、負けちゃった」

「・・おかあ・・・ん・・お母さん・・・! お母さん!」

顔を上げるとそこには、ボロボロだけど正気に戻ったお母さんが居て、あたしを支えてくれていた。あたしは嬉しくってお母さんに抱きついた。触れられるところにお母さんが居る。

「あーあ。さっきまでの勇ましかった子はどこに行ったのやら」

そう笑ってあたしの頭を撫でてくれる。離れたくない。ずっとこのまま一緒に居たい。そう思うと涙が止まらなくなる。泣き止まないあたしを、お母さんは寝かせて膝枕してくれた。

「もう。20歳にもなって手のかかる子ね。でもおかーさんらしいことが出来て良かった。っていうのが、今の本音でもあったりするんだけどね」

そう微笑んで、あたしの前髪をそっと撫でてくれる。本当に小さい頃にお母さんは逝ってしまった。だからこんな時間は無かった。今がすごく幸せな時間。今をずっと望んでいたい。失くしたくない。だけど、それは叶えられない想い、願い、夢。

「・・・ディアマンテには気を付けなさい、スバル」

突然真剣な表情になって、お母さんはそう言った。

「お母さん! やっぱりディアマンテがお母さんに・・・!?」

ゲヴァルトゼーレを強制的に融合させた・・・?と口にすることなくお母さんは察してくれてコクリと頷いた。

「私とアグアマリナ・・・ティーダ一尉の目的は、純粋な管理局の改革。そして遺した家族を守ること。復讐じゃないからこそ、第一級命令が下されたと同時にディアマンテは、私とティーダ一尉を弊害とした。そして半ば不意打ち的に彼は他の幹部たちに黙って、ゲヴァルトゼーレを私たちに融合させた。結果は・・・ご覧のとおり」

その結果、お母さんとティーダさんは暴走した。ディアマンテ、メサイア・エルシオンって人の管理局に対する恨みは、他の幹部たち以上だってことが解かる。でも、それでもやっぱり許せない。お母さんとティーダさんを無理矢理戦わせるようなことをするなんて。

「あなたの部隊長さん、八神二佐。その子がマスター・・・、セレスを裏切ったっていうのもどうせ、ディアマンテの謀略に違いないもの」

「どうして、そう思うの・・・?」

「だって、私の自慢の娘を選んでくれて、そしてスバルが付いていく人なんだから、あんな汚い手を使うはず無いって、そう思うから」

何かこそばゆい。褒められるとすごく嬉しいのに、とても恥ずかしい。ギン姉に褒められるのとまた違った嬉しさが込み上がってくる。やっぱりお母さんは、あたしのお母さんなんだ。

「・・・さてと。あの小さくて泣き虫なスバルの成長をこの目で見れたし、おかーさん、もう逝くね」

最後にポンッとあたしの頭を優しく叩いた。さっきまでの温かな気持ちがスッと消えて、すぐにお母さんが居なくなるっていう寂しさが、あたしの心を満たす。がばっと起きたら、お母さんは離れた場所に立っていた。居なくなる。お母さんがあたしの目の前から消えて居なくなる。

「お母さん!!」

急いで駆け寄る。するとお母さんはこれで最期だっていうのにニコニコな笑顔。

「おとーさんやギンガ、チンクにディエチ、ノーヴェ、ウェンディにもよろしく言っておいて」

「そんなの! お母さんが逢って直接言えばいいよ!」

まだ辿りつけない。必死に手を伸ばす。

「生まれ変われたら、またあなた達のおかーさんになりたいな」

「あたしだって、何度でもお母さんの娘になりたい!」

あんなにも近かったお母さんが今じゃ遠い。うっすらと姿が揺らぐのが見て取れた。消えてちゃう。

「スバル。これからもあなたの信じる道を歩いて。そして、あなたの抱く想い・信念を何があっても信じ切って、何ものにも負けないこと」

お母さんは大きく手を振って、バイバイ。

「お母さん!! おかあ――ぅあ!?」

涙で視界が滲んで、お母さんの姿が見えなくなる。何かに蹴躓いて派手に転んだ。すぐに目を袖で拭って顔を上げる。まだ涙で滲む視界には、“2人”の人影が入った。そこに居たのは消えていないお母さんと、そのお母さんの両肩に後ろから手を置いた・・・

「シャルさん・・・!?」

「よく頑張ったね、スバル。さて、クイントさん。あなたにちょこっと協力してほしい事があるんですけど」

お母さんの肩越しから顔を出すシャルさんは、あたしに労いの言葉を言った後、お母さんに協力を申し出た。
 
 

 
後書き
母娘対決の勝者はスバル、ということになりました。
スバルもJS事件から5年と多くの経験を積んでいるでしょうから(クイントには遥かに劣るでしょうけど)、苦戦はしても勝ってくれるだろうと思いましたので。
それにクイントも魔族の所為で暴走状態。冷静な判断は出来ていなかった、という事でお願いします。
 
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