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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep27-Aアドゥベルテンシアの回廊 ~First Battle Line 1~

 
前書き
アドゥベルテンシア=スペイン語で、警告、という意味です。
レスプランデセル=スペイン語で、輝く、という意味です。
エヘモニア=スペイン語で、覇権、という意味です。 

 
†††Sideシャルロッテ†††

『特務五課の部隊長、ウィリス・ジープスター三等空佐です』

「特務六課・部隊長、八神はやて二等空佐です」

『あのJS事件を解決に導いた八神二佐と、その部隊と同じ任務に就けることを光栄に思います』

「あ、ありがとうございます・・・」

これから一緒に“オムニシエンス”へ向かう仲間となる五課の部隊長と、はやてが挨拶を交わしている。ジープスター三佐はセレスの昔馴染みの側近らしくて、かなり出来る武装隊員らしい。
挨拶も終え、今回の任務の打ち合わせも終えたところで、ようやく“オムニシエンス”への出立となる。

「――そういうことで、レジスタンスの逮捕はそちらに一任することになると思います」

『了解しました。それに関しては任せてください』

通信が切れ、はやてはどこか疲れたような表情を見せた。そうして私たちの乗る“ヴォルフラム”と、五課の旗艦LS級“アガメムノン”は、“オムニシエンス”へと針路をとった。“オムニシエンス”へと向かっている最中、私はみんなに“カートリッジ・シャルロッテ産(産地直送)”の説明をもう1度する。

「それじゃ昨日のおさらい。私の魔力が充填されたカートリッジは、1発ロードするだけで結構な力が出る。だから連続ロードは避けてほしいけど、もしやるなら最大3発まで。デバイスどころかみんなの身体やリンカーコアにどんな影響が出るか判んないから」

手に取った1発のカートリッジを親指で上に弾き飛ばして、そしてキャッチ。カートリッジを指の上でクルクル回しながら説明を続ける。ていうか痛ったぁ~、親指の爪が(泣)
カッコつけ過ぎた。気を取り直すために1度コホンと咳払いっと。

「ロードしたカートリッジの効果時間は、使う魔法の消費魔力によって様々。でもフルドライブやリミットブレイクの時は、当然短くなるから気を付けてね。レイジングハート、バルディッシュ、レヴァンティン、グラーフアイゼン、マッハキャリバー、クロスミラージュ、ストラーダ。あなた達も気を付けて。決して無茶はしないように」

両手を腰に当てて前屈みになりながらみんなの相棒(デバイス)に語りかける。すると“レイジングハート”やみんな、無口な“バルディシュ”でさえもちゃんと応えてくれた。

「よし、良い子たちだね。さて、後は向こうの出方次第だけど、誰がどの幹部と戦うかを決めよっか。それでいいかな、はやて」

「ええよ。そこんところはプロのシャルちゃんに任せるわ」

「ん、ありがと♪」

部隊長なはやての許可も取った。

「と言っても、それぞれ因縁のある連中ばかりだし、今さらな気もするけどね」

そうなのだ。どういうわけか“テスタメント”の幹部のほとんどが六課の前線組と繋がりを持つ。偶然かそれとも必然か・・・。あー、そう言えば何かの契約ん時に誰かが言ってったっけ。

――この世界に偶然は無く、世界の全ては必然の中で廻っている――

幹部を揃えた敵の魔術師が管理局員なら当然か・・・? どっちにしても“絶対殲滅対象アポリュオン”並に性質が悪いことこの上ない。

「そんじゃまずは、シグナムとヴィータはカルド隊ね」

「ああ。了解だ」

「望むところだ。今度はぜってー負けねぇ」

カルド隊の目的は、自分たちを殺害した守護騎士ヴォルケンリッターへの復讐。正直な話、本当にシグナム達を戦わせていいのか判らない。たとえカルド隊が(他の幹部もそうだけど)本人じゃない未練(ねがい)の塊だとしても、もう1度その手で殺さないといけないということだ。
かつて殺めた人が亡霊となってまで復讐しに来て、またその亡霊を斃す。解決方法としては手放しで推奨できない。だけど、シグナム達を死なせたくない。だからカルド隊には消えてもらう。彼らの未練(ねがい)が叶わずとも。

「えっと、はやてはどうしたい? リインフォースと戦う? まぁ形だけの戦いになるだろうけどさ」

それにリインフォースも出てくるはずだ。彼女の目的がどうであっても私たちと戦うことになるのは間違いない。何せ裏切りがバレたら消滅は確定。嫌々でも形だけの戦いは仕掛けてくる。

「でも私は部隊の指揮をせなアカンし・・・」

「大丈夫ですよ、はやてちゃん。リイン達が幹部との戦いに集中できるように、五課とクロノ提督の部隊が居てくれるのですから。それにヴォルフラム・スタッフははやてちゃんの指示が無くてもデキる人たちです。ですから、はやてちゃんもリインフォースを助けるために出ていいのですよ」

「リイン・・・そやな。うん! リインフォースの相手は私が引き受ける」

リインの説得ではやても参戦決定。本当に“ヴォルフラム”のスタッフを信頼しているからこその決断。いつかの“アースラ・スタッフ”を思い出す。アレックス達は元気にしてるのかなぁ・・・?

「はやてはリインフォースね。次に、なのははマルフィール隊でいいんだっけ?」

マルフィール隊の正体は未だ推測の域。だけどほぼ確定に近いのも確か。かつてのなのはを教導した、デミオ・アレッタ三佐が隊長を務めているマルフィール隊。師弟対決になるというわけだ。本当にマルフィールの正体がアレッタ三佐なら。

「そう・・・だね。うん、マルフィール隊は私に任せて。あ、でも、あともう1人サポートがほしいかな・・・。さすがに1対3は辛いから」

「あ、それならわたしがなのはさんのサポートするよ」

なのはの協力要請にレヴィが挙手。レヴィか。レヴィにはディアマンテとかいう幹部が出てきた際のアタッカーにしようと思っていたけど、さすがになのはだけじゃ厳しいというのには賛成。

「じゃ、なのはとレヴィで、マルフィール隊の相手をしてもらうね」

レヴィの提案を通す。まぁディアマンテはなかなか前線に出ないようだしね。出てきたら私が相手をしてあげればいいか。“真技”を使えば一気に決められるはずだ。

「エリオとキャロはグラナードになるけど」

「あ、はい。僕もそのつもりですから」

「わたしもそれでいいです。エリオ君のサポートは任せてください!」

グラナードはもうエリオしか見ていないし、エリオ以外の相手は認めないだろうから、2人に任せるしかない。

「さて、スバルとティアナは・・・」

スバルとティアナに視線を送ると、2人は強く頷いて応えた。私もそれに頷いて、2人に頑張るように言外に告げた。そして最後に・・・・・

「フェイトは当然、ルシルの相手をしてもらう」

「うん。判ってる。私がルシルと戦う。これだけは誰にも譲れないから」

フェイトがルシルから貰った指環を眺めながら強く決意する。現状のルシル相手ならフェイトでも十分倒せるはずだ。たとえレヴィとヴィヴィオと戦った時のように、少し力を取り戻したとしても、今のフェイトなら互角に渡り合える。

「で、私が魔術師、トパーシオ、ディアマンテの相手をする。でもこの対戦カードは絶対じゃないことは忘れずに。場合によっては集団戦になることもあるから、そのときはお互いをサポートしつつの戦闘をお願い」

向こうが集団戦を仕掛けてきたら、下手に相手に固執すると足元をすくわれるかもしれない。その時は、誰もがみんなをサポート出来る戦術でいかないとね。

「シャルちゃん。その、3人を相手に1人で大丈夫・・・?」

「ん? たぶん大丈夫」

SSSの魔力と限定解放した“キルシュブリューテ”による真技。魔族1体につき1回の真技。

「十分勝算はあるから、心配はいらないよ、なのは」

身体能力と扱える魔力と魔術は、JS事件当時より少し上な私。上層の“幻想一属”はもちろん中層の魔人メノリアでも勝てる。

『八神部隊長。オムニシエンス軌道上に到着しました』

“ヴォルフラム”の会議室にアナウンスが流れる。

「これで決着がつくかもしれん大事な一戦や。そやから部隊長としてひとつ命令する。絶対にみんな、無事にここに戻ってくること。相手は一筋縄にはいかん連中ばかりや。無茶はせんように。助けが必要なときは遠慮なんてせずにすぐ連絡。ええか?」

はやてが立ち上がって、私たちを見回しながらそう言った。私たちも強く頷いて「了解!」と答える。大丈夫。私がみんなを護りきってみせるから。

「アガメムノンに通達。ヴォルフラムに続いてオムニシエンスに降下。そしてクラウディアと合流した後、テスタメント拠点と思われる地区に進行」

『了解しました』

「ルキノ。オムニシエンスに降下や」

『了解です』

はやてがブリッジと操舵室に指示を出した後、私へと視線を向けてきた。何だろう?って思っていると、はやてはゆっくりと口を開いた。

「シャルちゃん。みんなに、最後に何か言っとくことあるか?」

はやての心遣い。この戦いで決着するのであれば私は去るから。

「特にないかな。私の言いたい事ははやてがさっき言ったし。みんなが無事にミッドに帰る事。それが私の願い。それを守ってくれるなら、それでいいよ」

「というわけや。シャルちゃんに安心して還ってもらうために気張らなアカンよ」

・―・―・―・―・―・

「管理局の調査はまだ終わらないようですね・・・」

幹部椅子に座るハーデが、中央に展開されているモニターを見ながら呟く。映っているのは、ここ“オムニシエンス”の調査に来ている管理局の局員たち。そんな彼らが“レスプランデセルの円卓”の周辺に集まりだす。
しかし“円卓”全体を囲う結界によって、侵入できないどころかその存在にすら気が付いていない。人の意識にすら干渉できる結界。それは内外の物理・意識の干渉を断つ魔術だった。

「無駄な労力、ご苦労様です」

ハーデがほくそ笑んでいる中、ここ最上階にアラートが鳴り響く。コンソールを操作してモニター画面を“オムニシエンス”上空の映像へと切り替える。そこに映し出されたのは、2つの艦影。

「照合確認。六課のヴォルフラムと五課のアガメムノン!」

管理局の艦船情報と照り合わせて2隻の正体を知るハーデの声には、焦りが多分に含まれていた。

「彼の剣神――シャルが向こうに居るんだ。円卓の結界くらい見抜けて当然だろう?」

声がする方には、鋼色の鎖で両手両足を椅子に繋がれたルシリオン。そんな彼の様子がおかしい。間違いなく記憶を取り戻している状態だった。

「確かにそうですね。あなたから取り出した情報からして、こうなることは予想できる事態。まあ事態が早く動いたことで少し焦りましたが・・・」

「もう止めてはどうだ、ファビオラ・プレリュード・デ――」

「まだ止めれないのです」

「ヨツンヘイム」

ルシリオンの口からハーデの名が告げられるが、その半ばが彼女の一言によって伏せられた。しかし“プレリュード”と“ヨツンヘイム”。その2つの名は間違いなく“極凍世界ヨツンヘイム”の皇族の証だった。

「私たちは、私はまだ歩みを止めるわけにはいかないのです。まだ何も終わっていない、始まっていないのだから・・・」

「こんなことをせずとも、話し合いの場を設ければ――」

「話し合い? 管理局の上層部が素直に応じるとでも? 確かに中には私たちに理解を示してくれる方も居るかもしれません。ですが、それはあくまで一握り。管理局上層部の闇はそれを許さない」

ハーデが胸の内を語っていく。彼女の言葉に乗せられているのは憐れみと怒りと、ひたすらな虚しさだった。

界律の守護神(あなた)なら理解できるでしょう。人という生き物は、下手に権力や富を手に入れると貪欲になる。さらに富を、権力を、と。上を上を上をひたすら目指して、下の者を蔑ろにして簡単に切り捨てる。今も昔もそうですが、管理局の上層部の局員はそんな方ばかり」

「待つんだ。ならばリンディ統括官はどうだ? 彼女なら私たちのような存在に理解がある」

「そうですね。リンディ統括官なら。ですが、私はまだ管理局を許すつもりはありませんし、改革を止めるつもりもありません」

頑なとしてハーデは頭を縦に振らない。

「それならば最後に1つだけ。ディアマンテ、いやメサイア・エルシオン。あの男は今すぐにでも消すべきだ。あの男は危険過ぎる。メサイアの目的は、君の目的を喰らい、呑み込み、全てを――」

「彼にはまだ居てもらわなければなりません。もしあなたの危惧が現実になるなら、あなたの粛清権限で十分です。それでもダメな場合、私が直接手を下せば何も問題ありません」

話はこれで終わりとでも言うように、ハーデは“オムニシエンス”の障壁発生を担う各拠点に通信を入れるためにコンソールを操作。そして最後に彼女はルシリオンへと視線を移し、口を開いた。

「ありがとうございます、ルシル。それでは眠りについてください」

「待――」

――我との契約の下、汝、我が剣となり盾となり翼となりて、我が命を果たせ――

ルシリオンは意識を失ったのかガクリと項垂れる。その様子を確認したハーデは各拠点へと通信を繋げた。通信内容は“オムニシエンス”の障壁の稼働。彼女は管理局と戦わずにこの場を乗り切ろうと考えたのだ。
障壁には任意の存在を“オムニシエンス”外に排除するという効果もある。ハーデは、今はまだ管理局との完全な敵対は危ういと判断している。それゆえに障壁さえ展開できれば、管理局をひとり残らず戦わずして“オムニシエンス”より強制的に排除が出来ると考えた。

「各基地へ通達します。至急、オムニシエンスの障壁を発生させてください」

『こちらフォスカム基地! 申し訳ありませんマスター・ハーデ! 障壁発生システムに異常が見られ、修復までしばらくかかりそうです!』

第28管理世界フォスカムに建設された拠点からの返答に、フード中に隠れるハーデの表情が凍る。

『エストバキア基地、了解しました!』

『ウスティオ基地、了解!』

『フェティギア基地、了解です!』

他の拠点からは望み通りの返答。しかし、1つでも欠ければ障壁は発生しない。かつてはそれでも問題がなかったが、すでにオーレリア基地が潰されている所為で1つでも欠けることは許されない状況だった。

「すぐにでも修復してください。修復完了の後、私の許可は必要ありません。システムを稼働させてください」

『り、了解しました! 至急取り掛かります!』

各拠点との通信が切れる。ハーデは頭を抱えたくなったが、その前にやるべきことがあるとしてすぐに行動に移す。それは各世界に散らばっている幹部たちの招集命令。障壁発生までに時間稼ぎが必要となるかもしれない。しかし“レジスタンス”や“空軍アギラス”だけでは“特務六課”を抑えきれないのは明白。そのための幹部招集だった。

「こちらエヘモニアの天柱。緊急事態につき、至急オムニシエンスへ帰還してください」

†††Sideなのは†††

“オムニシエンス”の南半球、シャルちゃんの言う“テスタメント”の拠点と思われる地区、“アドゥベルテンシアの回廊”に着き、そこで待機していたクロノ君の“クラウディア”と合流した私たち“特務六課”と“特務五課”。
はやてちゃんとシャルちゃんが、クロノ君とジープスター三佐と作戦の相談をしている中、私はブリッジから眺められる“アドゥベルテンシアの回廊”と名付けられた渓谷を見詰める。本当に広い渓谷だ。幅は数km。大型1隻と小型2席が並列してもまだまだ余裕がある。

(ここがシャルちゃん達、かつての魔術師たちが戦った舞台・・・)

そう思うと身体が震える。再誕戦争の舞台のひとつ、“ギンヌンガガブ”。それがここ“オムニシエンス”。何故か現代に突如蘇った世界。背後に誰かの気配を感じたと思ったら、「なのは」と呼びかけられた。振り向いてみると、そこには「フェイトちゃん」が居た。私の隣に立って、私と同じように“回廊”を見詰める。

「いよいよだね、フェイトちゃん」

「うん。5年前の約束、今度こそ守らないと」

フェイトちゃんの横顔はすごく凛々しくて、惚れ惚れするくらいカッコよかった。ブリッジにシャルちゃんの「艦を停めて」という声が響く。はやてちゃんはルキノにすぐに指示。モニター越しのクロノ君たちにも聞こえているから、“クラウディア”と“アガメムノン”も停止するよう指示を出している。

『ここから先の山脈、空間の歪みのある場所がレスプランデセルの円卓。魔術による結界が張られてる。私が消しに行くから、それまで待ってて』

シャルちゃんの念話が私たちにも届く。はやてちゃんは『うん、お願いするわ』と返して、クロノ君たちにも待機をお願いする。シャルちゃんは右手をヒラヒラ振りながら「ちょっと行ってくるね♪」って軽く言って、ブリッジを後にしようとしたとき、ブリッジにアラートが鳴り響く。

「前方より魔力反応! 数は・・・100を超えています!」

「後方よりさらに強力な魔力反応! これは・・・テスタメント幹部です!」

スタッフの報告と同時にブリッジのモニターに映し出される映像。前方に広がる左右に伸びる山脈“レスプランデセルの円卓”。その“円卓”のポツンと途切れている何も無い場所から、武装した“レジスタンス”と“アギラス”と言われる戦闘機の編隊が突如現れた。
そして私たちの後方から迫りくる“テスタメント”の幹部たち。魔族とすでに融合を果たしているカルド隊。フォヴニスの頭部に立っているグラナード。リインフォースさん。そして、マルフィール隊の3人は白コートのままで飛行している。姿が見えないのは、ルシル君とクイント元准尉とティーダ元一尉、それにトパーシオとディアマンテと魔術師。

「ホンマにここでビンゴみたいやな。六課前線メンバーは緊急出撃! クロノ提督、ジープスター三佐。レジスタンスと敵航空戦力は頼みます!」

『了解した。安心して任せてくれ』

『五課も全力を尽くします!』

はやてちゃんから出撃命令が出た。私はシャルちゃんとフェイトちゃんと見合してコクンと強く頷く。

「私も出る! ブリッジは任せたで! いくよ、なのはちゃん、フェイトちゃん、シャルちゃん!」

「「「了解!!」」」

これで最後になることを祈りつつ、私たち“特務六課”は“ヴォルフラム”から出撃。さっき決めた幹部と戦うために空を翔ける。

†††Sideなのは⇒レヴィ†††

あちこちで戦闘音がする中、なのはさんと一緒に対峙するのはマルフィール隊。

「デミオ・アレッタ三佐。そして、エスティ・マルシーダ二尉とヴィオラ・オデッセイ二尉。あなた達の正体は、それで間違いありませんね?」

なのはさんはそうマルフィール隊に確認を取った。するとマルフィールの隊長らしき人が深く被ったフードを手に取って脱いだ。現れた素顔は三十代後半くらいのおじさん。彫の深い顔、短く刈り上げられた黒髪が印象的。

「久しぶりだな、高町。こうしてお前と、デミオ・アレッタとして話す日が来るとは思ってもいなかったが」

「アレッタ三佐・・・。アレッタ三佐たちの目的は、管理局の改革? それとも――」

「復讐さ」

なのはさんの言葉を遮るように先に口にしたアレッタ三佐。後ろに控えている他の2人のフードが動いた。どうやら顔をアレッタ三佐へ向けたみたい。

「それはやっぱりアレッタ三佐たちの死因に関係しているんですか?」

「そうだ、と言えば、お前はどうするんだ、高町。許してくれるのか? 俺たちの復讐を」

アレッタ三佐の問いかけ。なのはさんは少し黙って、そしてきっぱりとアレッタ三佐に言った、「止めます」って。それを聞いたアレッタ三佐は人懐っこい笑みを浮かべて「そうこないとな」と大きく笑いだした。

「なら今から俺たちマルフィール隊と、お前とそこの嬢ちゃんは本当の敵となった。手加減はしない。俺たちの未練(ねがい)のために、ここでお前たちを倒す。と言いたいところだが、こちらにも事情がある。今すぐここからお引き取り願うぞ。行くぞ! オデッセイ! マルシーダ!」

「「了解!」」

「「「来たれ!」」」

3人の足元に碧色の召喚魔法陣が展開される。魔族召喚だ。出させるわけにはいかない。相手の戦力向上を黙って見過ごすのはバカだ。それが判っているからこそ、なのはさんも“レイジングハート”を構えた。

「レヴィ!」

「了解!」

――瞬走弐式――

わたしは頷いて、マルフィール隊に突っ込む。今のわたしの防護服は“モード・コンバット”。つまり接近戦用の防護服だ。レンジは近距離(クロス)になるけど、砲撃による煙幕で視界を潰すようなマネは出来ない。それに直接ぶん殴って確かな手応えが欲しい。“生定の宝玉”発動のキーワード、「嫉妬に狂うことなく」と呟き、身体中に神秘を巡らす。

「レイジングハート!!」

≪Load cartridge. Blaster set≫

背後からカートリッジをロードして魔力を増大させたなのはさんの存在感を強く感じた。味方で良かったと今ほど強く感じたことは無い。

「はぁぁぁぁッ!」

――斬裂爪閃――

両手の指に魔力爪を生成。両腕をクロスさせて、大きく左右に開くように両腕を振るう。だけど、ガキン!とマルフィール隊との間に在る見えない壁に、わたしの攻撃が防がれた。それでもわたしは諦めず、爪を立てて不可視の壁を無理矢理こじ開けようとする。

「やるな嬢ちゃん。だがタイムアウトだ」

障壁を少しこじ開けたところでアレッタ三佐の一言。ぞわりと背筋に悪寒が走る。これはまずい。本能的にすぐにマルフィール隊の側から瞬走弐式で離脱。その瞬間、なのはさんが複数のディバインバスターをマルフィール隊に向けて撃った。起こる爆発。シャルロッテの神秘満載の複数砲撃の連続着弾だから規模が半端じゃない。

「どうレヴィ。今ので防げたと思う?」

「たぶんダメだと思う。何か魔法陣からすでに出かかってたし」

なのはさんの砲撃着弾のその瞬間、わたしはマルフィール隊の足元の召喚魔法陣から何かが出てきたのを見た。未だに晴れない煙幕の中から、それなりの威圧感が放たれてくる。強烈な風が吹いて、マルフィール隊を覆い隠してた煙が吹き飛んだ。

「あれは・・・鳥?」

「と、鳥は鳥でも普通じゃない鳥じゃない・・・」

わたし達の視界に映るマルフィール隊の背後に居る3羽の鳥。全体的に赤い身体。だけどそれは単純な生物じゃないと判る。そう、あれはどう考えても“魔力”のみで身体を構成されている鳥だ。

「魔族・幻想一属・鳥種、赫羽(あかはね)荒鳥(あらどり)ファノ。俺たちマルフィール隊に与えられた相棒だ」

アレッタ三佐が、首を突き出してきたファノって呼ばれた鳥の頭を撫でる。するとそれが気持ちいいのかファノは「キュウキュウ」と鳴いた。というか感覚なんてものがあるのだろうか、魔力の塊なのに。

「どこまで付いて来られるか、見せてもらおうか!」

目も眩むというか開けていられないほどの発光。光も止んで目を開けると、そこには赤い甲冑を身に纏った3人の姿。背からは二対の赤い魔力が噴き出していて、まるで鳥の翼を思わせる。そしてリーダーのアレッタ三佐の甲冑にだけマントがある。カルド隊と同じというわけだ。

「レヴィ、いくよ」

「はい、なのはさん」

なのはさんは深呼吸して“レイジングハート”を構え直して、わたしも一度深呼吸して拳を構える。見据えるは倒すべき敵マルフィール隊。

≪Photon Smasher≫

展開された“ブラスタービット”4基と“レイジングハート”本体から桜色の高速砲が4発撃ち出される。それに続いてわたしを瞬走弐式で突撃。彼らがなのはさんの砲撃に対処する隙を狙って一撃を打ち込む。だけど、相手はやはり鳥ということだった。

「「疾い!」」

マルフィール隊の姿がかき消える。残像を引きながら、向こうから接近戦を仕掛けてくる。わたしの元には2人のマルフィール隊。確かマルフィール・イスキエルドとマルフィール・デレチョ。なのはさんの元にはマント付きのアレッタ三佐が向かったみたいだ。

「まぁいいか。掛かっておいでよ、わたしがあなた達の相手だ」

この身に敗北は許されない。ルーテシアの盾として、“特務六課”の一員として、己の存在意義のため。

「レヴィ・アルピーノ・・・参ります!」

†††Sideレヴィ⇒なのは†††

私に1対1を仕掛けてきたマルフィールことアレッタ三佐。レヴィに2人向かったことが気になるけど、今はこっちに集中しないと足元をすくわれる。

「今はまだ管理局と完全に敵対したくないというのがボスの意向。だが、今だけは俺たちと戯れてもらうぞ、高町・・・!」

――翔け抜ける速攻の陽虚鳥――

ドン!と爆音。アレッタ三佐が背にある翼を大きく羽ばたかせて、空気を爆ぜさせた音だ。一直線の突進攻撃。だけど速度が普通じゃない。これはルシル君の空戦モード並かそれ以上だ。

≪Accel Fin≫

こっちも高速移動魔法で対処。全力で横に避ける。だけど、紙一重のすれ違いざまに叩きつけられた衝撃波がとんでもない威力だった。大きく体勢を崩される。そこに、反転してきたアレッタ三佐の再突進。今さら回避は出来ないと判断。なおも続くシャルちゃんの神秘効果を信じて、シールドを展開する。

――捕縛盾(バインディング・シールド)――

近接封じのシールド。ドゴン!と、とんでもない音を出しつつ、アレッタ三佐の突進を防いだ。もしシャルちゃんのカートリッジが無かったら、今ので私は終わってた。すぐさまアレッタ三佐を捕えるためのチェーンバインドが発動。だけどアレッタ三佐はそれより早くに離脱したことでバインドから逃れた。

(疾い。バインド単発じゃ捕えきれそうにないかな・・・)

バインドの単発発動じゃおそらく捕まえきれない。戦術を練っていかないとダメだ。それなら、アクセルシューターと“ブラスタービット”を操作して相手を誘導する。シャルちゃんと組んで、初めてフェイトちゃんと戦った時の戦術だ。

≪Accel Shooter≫

いつも通りのアクセルシューター・・・じゃない。明らかに大きさが違う。ヴィータちゃんのコメートフリーゲン並に大きい。それに魔力光もいつもの桜色じゃなくて白に近い。さっきのフォトンスマッシャーやバインドは普通に見えたのに、シューターだけ激変。

≪神秘とは思っていた以上に強い力のようです。振り回されないように注意しないといけませんね≫

“レイジングハート”が冷静に分析。確かに今の私はよく判らないかなりの高揚感を得ている。リンカーコアが活発を通り過ぎて暴走しているような、でもそれが何だか心地よかったり。たった1発のロードでこれだ。複数、連続でロードしたら、シャルちゃんの言った通り何が起こるか判らない。もしかしたらレヴィのブースト3のようにブッ飛んじゃうかも。あれはちょっと遠慮したい。

「でもこれならいける!」

巨大シューターをアレッタ三佐に向けて8発射出。同時に“ブラスタービット”3基も向かわせる。そして最後の4基目の“ブラスタービット”を奇襲用に使うために上空に待機させておく。

「なるほど。フライハイトが味方に付いたことで、魔族に対処できる術を手に入れたということか」

管理局員としてじゃなく魔術師としてのシャルちゃんの情報が漏れている。だからこそアレッタ三佐は、私が対処してきたことにも驚きを見せなかったわけだ。シャルちゃんが魔術師だってことを知っているのは、私たち六課とそれに近い人たちだけ。その中にテスタメントと通じている人は絶対に居ないのは確か。

(ルシル君から引き出したのかもしれない。記憶操作が出来るくらいだし)

アレッタ三佐は高速機動でシューターを難なく回避していく。でもまだ終わりじゃない。“ブラスタービット”からの多方向砲撃。撃つタイミングは少しだけどずらす。ルシル君に教わった術だ。

――複数攻撃時は、着弾のタイミングを同時よりずらした方が相手をより損耗させる――

着弾が同時の場合は瞬間的な防御と回避で済むけど、ずらした時は持続的に防御や回避をしないといけない。それが相手の損耗をさらに促すということだ。それに、攻撃の種類によっては足止めの効果もある、って言ってた。

「遅い!」

アレッタ三佐は残念ながら防御じゃなく回避を選択して、易々と避けていく。でもまだだ。そこに私自身も高速砲のフォトンスマッシャーの連続放射。さらにシューターを新しく生成(今度は意識的に小さくした)して、十数発と射出していく。弾幕の嵐が一斉にアレッタ三佐に向かっていく。

――風駆ける大天の散り羽根――

アレッタ三佐の翼がひと際強く輝いて、赤い羽根による竜巻を発生させた。私の攻撃が全て弾き返されていくけど、そこに私は上空に待機させていた“ブラスタービット”をコントロール。竜巻の中心、アレッタ三佐の居る直下へと砲撃を撃った。
 
 

 
後書き
散々苦汁を舐めさせられた六課がようやく反撃を開始。次回もまた反撃?

えー、ここで今さら?かつ必要ないんじゃね?という事を書きます。
幹部たちのコードネームの意味ですね。大体スペイン語、ひとつだけイタリア語を使用してます。

翡翠=スペイン語でハーデ。
至高なる卓絶者は、翡翠のジュエルメッセージの一部から起用。

ダイアモンド=スペイン語でディアマンテ。
永遠なる不滅者は、ダイアモンドのジュエルメッセージの一部から起用。
永遠、だけは“永続”というものから変えています。

ガーネット=スペイン語でグラナード。
陽気なる勝者。これもガーネットのジュエルメッセージから起用してます。

トパーズ=スペイン語でトパーシオ。
潔白なる聖者。これもジュエルメッセージより起用してますが、聖者に関しては“神聖な善”から変更してます。

サファイア=スペイン語でサフィーロ。
誠実なる賢者。これもジュエルメッセージより起用してます。

アイボリー(象牙)=スペイン語でマルフィール。
堅固なる抵抗者。これも同様にジュエルメッセージから起用。

薊=スペイン語でカルド。
報復せし復讐者。これは薊の花言葉の一部を起用してます。
薊の花言葉って、なんか暗いものばかりですよねぇ。

ポインセチア=イタリア語でノーチェ・ブエナ(聖夜)
祝福なる祈願者。これはポインセチアの花言葉を少し変更したものです。
元は、“祝福する”と“聖なる願い”と“幸運を祈る”となります。
リインフォースにピッタリ、というか彼女のためにある花言葉だと思っていたり。

アクアマリン=スペイン語でアグアマリナ。
聡明なる勇者。これもジュエルメッセージより起用。
勇者。彼一人で違法魔導師を追い、残念ながら殉職したティーダを称えて。

アメジスト=スペイン語でアマティスタ。
敬虔なる諦観者。これもジュエルメッセージより起用。
 
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