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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】

作者:月下美人
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原作開始【第一巻相当】
  第二十二話「修行終了 下」

 
前書き

 はじめに言っておきます。どうもすみませんでした!
 

 


 一足先に開けた場所に出た俺はあらかじめ隠してあったある物を回収すると近くの大木に登り身を潜めた。


 ――スタンバイ完了。あとは目標を待つのみ。


 正直、成功する確率は低いだろう。だが、これ以上の手は思いつかなかった。


 俺は無神論者だけど、この時ばかりは神様に拝みたい心境だ。


 これで俺の合否が決まるんだ。チャンスは一回のみ……。


 目を閉じて深呼吸をする。


 ――ガサガサ。


 木の葉の音に目を開ける。茂みの奥から先生がやってきた。


 まだだ。まだ……。


 ナイフを持つ手に汗を滲ませ機会を待つ。


 先生はキョロキョロと辺りを窺いながらゆっくりとこちらに近づいてくる。


 まだ……。


 今のところ居場所を察知された様子はない。


 緊張とプレッシャーで心臓がバクバク鼓動している。


 汗ばんだ手を拭い、手に持ったソレを身長に構えた。


 竹弓、というのだろうか。


 狩猟にでも使うのかログハウスの倉庫に眠っていたものを拝借した。


 矢は一本しか見当たらないため使い切り使用。念のため鏃は潰してある。


 ――さあ、いくぞ……!


 側にピンッと張られたロープをナイフで切る。


 四方の茂みに仕掛けた鳴子が一斉に音を鳴らした。


 ――カラカラカラカラッ!


 突然響きだした音に反射的に構えを取る先生。この辺りは流石だなと思う。


 しかし、これはまだ序の口。ここからが本番だ!


 手にした竹弓に矢を番えた俺は弦を引きながら、木の上から飛び降りた。


 先生は俺から見て真横を向いている。


 キリキリと弦を引き絞りながら先生を越えた先にある木に向けて矢を放った。


 ――チリリンッ。


 矢に取り付けた鈴が小さな音色を漏らし、勢いよく先生がそちらの方向を振り向く。


 ――きた、ここだ!


 音に敏感な先生のことだから、僅かな音がすれば反応するかも、と考えての行動。まさかこうも上手くいくとは!


 振り向いたことで先生は背中を向けている。対して俺はすでに矢を手放し拳を引いている。


 彼我の距離は――二メートル。


 先生のことだ。このまま拳を当てられるとは思わない。絶対に察知して迎撃してくるはず。


 その場合、狙う場所は……。


 先生との距離が一メートル切ったとき、唐突に振り返りながら裏拳を放ってきた。


 今まで高めていた集中が此処にきて頂点へと上り詰める。


 見切れるはずがない先生の拳を確かに目で追えた。


 裏拳はまるで導かれるように腹へと吸い込まれ――。


 ――パァンッ!


 やけに高い音を響かせて先生の拳を弾いた。


 片手が空を泳いでいる。先生の表情に僅かなりとも変化が見られた。


「だぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!」


 この一撃にすべてを賭ける。まさにそんな心境で力強く握り締めた拳を打ち下ろした。


 拳が先生の頭へと吸い込まれ――。


 ――スカッ。


 そのまま素通りした。


「ええええええええぇぇぇ!?」


 まさかの残像!?


 一瞬にして視界から消えた先生は……。


「ブルアアアアアアアァァァ!!」


 そんな雄たけびとともにとてつもない衝撃が背中に襲い掛かった。


 紙切れのように吹き飛び、地面をバウンドして茂みに飛び込んだ。


 ……いはぃ。


 懇親の一手が潰えた。もう打つ手がない。


 集中力を切らした俺の身体はもうガタガタだ。全身が悲鳴を上げてるし……。


 ガクガクと震える手足を這わせてなんとか茂みから出る。


 目の前に口から怪光線を出した先生がドアップで迫っていた。


 ――目の前が真っ暗になった。


「……ふっ」


 意識を失ったかと思ったけれど、暗くなったのは単に先生に顔を掴まれていたからだった。


 このままアイアンクローかなと半ば諦観した気持ちでいると。


「なかなかいい拳だったぞ」


「……へ?」


 顔を覆っていた手を退かされ、頭を撫でてくる。


 見上げると、目を開けた先生が俺を見下ろしていた。


 その顔はあのバーサーカーモードではなく、いつもの修行をつけてくれていたときの顔だった。


 ……え? なに?


 混乱している俺に先生がスーツの襟首を指した。


「合格だ」 


 そこにはかすかに汚れた跡があった。


 土いじりで汚れた拳が掠った形跡だった。


「あの落とし穴のトラップがなかったら今頃不合格だっただろうな。まあ、総身反射も使えたし、合格でいいだろう」


 聞けば落とし穴と落水の二重トラップでスーツが身体に張り付いたため、裏拳を放ったときに一種の制動が働いたらしい。拳の速度が一瞬落ちたため、俺でも見切れたのだそうだ。


 その代わり、スーツを一着ダメにしてしまったけれど。


「あー、俺の一張羅が……。これはダメだな」


「あの、すみません先生……」


「なに気にするな。青野の成長に一役買ってくれたんだ。スーツも本望だろうさ。まあなにはともあれ」


 ポン、と肩に手を置く先生。


「最終試験含めて一ヶ月、よく耐えたな。おめでとう、これで修行は終了だ」


 次第に言葉が脳に染み込んでいき、じわじわと喜びが湧き上がった。


 俺は、生き延びたんだ……!


 ふるふると喜びに身を震わせていると、先生が朗らかに微笑んだ。


「修行は終わりだが、鍛錬だけはこれからも怠るな。一時怠ければこの修行で培った経験のなにもかもが腐るからな」


「はい! 今まで、ありがとうございました!」


 大きく頭を下げる。本当にありがとうございました!


 先生のおかげであの学校でもなんとかやっていけそうです!


「よし、一ヶ月よく頑張りました祝いだ。特別に技を一つ与てやる」


「え、本当ですか!?」


 先生から教えてもらった技――剛体操法一式・総身反射だけでもすごいのに、他にも教えてくれるのか!?


 総身反射は防御技だ。特殊な身体法で筋肉を締め上げ、その上で外部からの衝撃を気により体内で循環させ、接触部から同等の衝撃を放出する。


 ようするに、打撃による攻撃はすべて跳ね返す技だ。


 しかし、これはいくつか欠点があり、まず相手の攻撃を受けるという精神的胆力と、どの場所に受けるか正確な読みが必要になる。


 また、繊細な気のコントロールがないと衝撃を体内で循環できずにそのままダメージを受けてしまう。習得するのも、習得してから使いこなすのも困難な技だ。


 先生の裏拳を跳ね返したのもこの総身反射によるものだ。今度はどんな技を教えてくれるのかな?


「今から与える技は剛体操法二式・通性反射。原理ややり方は教えん。文字通りその身体に叩き込むから、この技を覚えられるかは青野自身の根気と努力による」


 マジですか、先生……。


 でも、先生は出来ないことにはさせてくれないし、無理なものは無理って正直に言う人だ。先生がそう言うということは俺なら覚えられる……かもしれないということ。


 ならその気持ちに答えなきゃ!


「お願いします!」


「いい答えだ。では、出来うる限りの最高の一撃を与えてみろ」


「はい!」


 先生から教わったのは総身反射だけではない。気の使い方とそれによる身体強化、および身体操作法。


 今の俺なら全力の突きで木を揺らせるほどの実力だ。


 教わったもののすべてを出し切るつもりで拳を握り、地面を踏み抜いてその腹に打ち込んだ。


「ガ……ッ!」


 気がついたら空を舞っていた。


 拳が当たったと思ったらとてつもない衝撃が肩を襲い、身体が吹き飛んだ。


 衝撃が跳ね返った……総身反射? でもあれなら攻撃した手が跳ね返るはず……。


 答えが出るほどの時間が俺にはなかった。


 修行明けの疲れと緊張、そしてここにきての予期せぬ衝撃により、ギリギリ保っていた意識がプツンと切れた。


「寮に送ってやる。……まあ、頑張れ」


 最期に聞こえたのは先生のそんな言葉だった。

  
 

 
後書き

 すみません、今回は少しご都合が入っています。
 本来の千夜の実力を考えたらこんなアッサリいくはずがないのですが、いい加減締めたかったのでこのようにしました。
 だって早く萌香ちゃん書きたかったんだもの!
 と、いうことで次話はIFで萌香との絡みがメインになります。
 更新はまたしばらく掛かりますが、なるべく早い投稿を心掛けますのでよろしくです!

 評価、入れてくれてもいいんだよ? [電柱]д ̄) チラッ
 
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