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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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最初のページは開かれた


「ティア、お願い!」
「・・・は?」

ギルドに顔を出し、空いているテーブルを陣取ってショルダーバックから本を一冊取り出してさて読もうとしていたティアにルーシィが声を掛けた。
顔の前で両手を合わせている所を見ると、頼みがあるようだ。

「何が」
「今度書こうと思ってる小説の主人公、ティアみたいなクールな子にしたいの・・・だからお願い!いろいろ教えて!」

つまり、こういう事だ。
ルーシィは趣味で小説を書いており、将来の夢は小説家。
次に書こうと思ってる話の主人公はクールな性格。
だが自分がクールじゃないので思ったように書けない。
そうだ!ギルドには文字通りクールなティアがいるじゃないか!
という訳で、ティアを頼ってきたという訳である。

「クールならヴィーテルシア辺りを頼ればいいじゃない」
「頼ったら『ティアを頼るといい』って・・・」
「・・・」

それを聞いたティアがぐっと拳を握りしめたのをルーシィは見た。
そして同時にヴィーテルシアに向けて、心の中で手を合わせる。

「・・・まぁいいわ。で、知りたい事は?」
「ありがとう!えっと、まずは・・・」

ここで断るのも後々面倒だと考えたのだろう。
ティアは頬杖をつき、溜息と共に言葉を吐き出す。
それを聞いたルーシィはパッと笑顔を浮かべ、リングメモの表紙をめくった。

「ティアって1人でいる時、何考えてるの?」
「時と場合によるけど・・・」

そう答えて一旦区切り、ティアは視線をルーシィの後ろに向けた。
つられるようにルーシィも振り返る。

「おっしゃああああっ!勝負しろやスバル!」
「臨むとこだぜナツ!表出ろやあああ!」
「上等だコノヤロウ!」

その視線の先では、ナツとスバルが激しくモメていた。
どれくらい激しいかというと、飛び交う言葉は1歩間違えなくてもヤンキーのようであり、ナツの両手には炎が纏われ、スバルの手にはエウリアレーが握られている。
しかもエウリアレーの銃口には魔力を集めているのか、淡い光が集束していた。

「ああやってバカ騒ぎがうるさい時は蹴り飛ばしたいなって思ってるし」
「あ、あはは・・・」

表情1つ変えずに呟かれた言葉に、ルーシィはいろんな意味で呆れて乾いた笑い声を零す。

「本を読んでる時は本の事しか考えないし、夕方頃は今日の夕飯の献立を考えてるし、仕事の前の日は仕事以外の事は考えないわ」
「なるほど」

思い出すように目線を上にあげて淡々と呟くティアの言葉を、ルーシィはしっかりメモしていく。
完全に書き終えて“。”を付けた時、ふとルーシィは訊ねた。

「そういえばティアって何で帽子被ってるの?」
「!」
「せっかく美人なのに・・・帽子に隠れてよく見えないんだよね」

ティアが帽子を外すのは、限られた時だけだ。
その時の服装―――化猫の宿(ケット・シェルター)で作られた服等―――に似合わない時、戦いの邪魔―――レーサーとの戦いの時等―――になる時、勿論寝る時等は外している。
が、それ以外で帽子の無いティアを見るのは、初めてハルジオンで会った時ぐらいなものだ。

「・・・帽子を被ってれば、人と目を合わさなくていいから」
「そっか、ティアって人と目が合うの苦手?」
「苦手な訳じゃないけど好きじゃないわ。何か・・・全てを見透かされるような気がして」
「え?」

全てを見透かされる――――――。
その言葉を放った時だけ、ティアの声が変わった。
軽やかなソプラノボイスであるのは変わらないのだが、それを彩る感情や声色がいつもと違ったのだ。
ティアも言ってから気づいたのか、ハッとしたように目を見開く。

「・・・悪いけど、用事を思い出したから。続きは明日にでもして」
「あ、うん・・・解った」

ショルダーバックに本を戻して引っ掴むと、カツカツとブーツのヒールを鳴らしながら、ティアはギルドから出て行った。
その背中に違和感を感じながら、ルーシィはメモの表紙を戻し――――

「・・・あれ?」

気づいた。
ティアの様子がどこか変な事ではない。
いつもなら、こんなスムーズに会話が成立して、スムーズに会話が終わるはずがない。
それはティアが何も答えてくれないから、ではなく。
“いつもなら聞こえるあの声がないから”だ。

「ルー?」












「くしゅん!」

一方、マグノリアを目的もなく歩いていたルーは突然立ち止まり、くしゃみをした。
辺りを見回し、首を傾げる。

「おかしいなー、誰かに噂されてるのかと思ったのに・・・」

どうやら近くで噂されたと思っているようだ。
実際にはギルドでルーシィが名前を呟いただけなのだが。
冷えてきたのか小さく震え、ルーはくるっと背を向ける。

(ギルドに行けば、ミラがあったかい物作ってくれるよね)

確か今日はアルカとのデートの予定はない。
デートがある日はカレンダーの数字が書いてある右下にピンク色のペンでハートマークが描かれているが、今日は何の印もなかったはずだ。
だったらミラがいるはずだと考え・・・何かが足りない事に気づく。

(そーだ。なんか物足りないと思ったらルーシィに会ってないんだ)

そう思った瞬間に浮かぶのはルーシィの顔。
1秒もかからず、髪の跳ね具合やリボンの皺といった細部まで鮮明に思い出せるのは相当惚れてる証拠だね、と思いながら、ルーは頬を緩ませる。

「ん?」

今にもスキップしそうな軽い足取りでギルドへと向かっていたルーは、ふと足を止めた。
今しがた左に曲がって路地へと入っていった人に、見覚えがあったのだ。
否、見覚えがあるというか、知り合いである。

(ティア?どーしたんだろ)

冷えて来ているこの時期に薄いトレンチコートを羽織っただけのティアは路地へと入り、影の中に姿を隠していく。

(ま、ティアも考え事あるんだね)

勝手に1人で納得し、ルーはギルドへと足を進めた。







ルーは気づいていなかった。








―――――ティアの表情が、恐怖に染まっている事に。









そして、自分の事ながら、本人も気づいていなかった。









大好きで大好きで仕方ないルーシィと会っていない事を、ルーが忘れている。











ルーシィの事を忘れるほどの“何か”が、ルーの中で膨れ上がっている事に。















「・・・なぁ、ミラ」
「ん?どうしたの?」

バーカウンターに座ってカラコロとグラスの中の氷を揺らすアルカに声を掛けられたミラは、皿を拭く手はそのままに首を傾げた。
酒の入ったグラスを持ち、氷を鳴らす様にグラスを揺らすその姿は服装と相まってどこぞのホストに見えなくもないが、その漆黒の瞳に宿る深い愁いが全てを砕いて台無しにしている。
ミラは首を傾げながら、心配そうに瞳を揺らした。
ここ数日、アルカはずっとこうだ。
勿論面白い物を見つけたら笑うし、全力で追いかける。
が、何もない時はバーカウンターに座り、目に愁いを宿してボーっとしているのだ。

「・・・悪ィ、何でもねぇ」
「そう。何かあったら呼んでね」
「ん」

素直に頷き、カラコロと氷を鳴らす。
こんなアルカを見るのは初めてだ。
付き合い始めて4年経つが、こんなに愁いを帯びたアルカは見た事がない。
今日は何かあったかと思い出すが、特に何も無いはず。

「ミラちゃーん、ビールお願い!」
「はいはーい」

ジョッキにビールを注ぎ、ちらりとアルカに目を向ける。
溜息をつく訳でもなく、何かを呟く訳でもなく、アルカはただ愁いを宿していた。

『何かあったら呼んでね』

その言葉に秘めたもう1つの意味に、アルカは気づいただろうか。






1人で抱え込まないで、辛く悲しくなったら呼んで―――――――。













(ミラに迷惑かけちまったな・・・忙しいのに呼び止めるとか)

カラコロとグラスの中の氷を揺らし、アルカは小さく溜息をついた。
ここ数日、自分でも解るほど調子がおかしい。
面白い物を探すセンサーの調子は本日も良好だが、アルカ本人の調子がおかしいのだ。

「何なんだよ、クソ・・・っ」

ぐしゃっと赤い髪を掴み、表情に苛立ちを浮かべる。
自分の調子が悪い理由が解らない。
ただ何かが漠然とアルカの中にあって、それが正常な歯車を狂わせている。
ここまで調子の悪さに苦しむのは、2年前のあの時以来だ。
大地(スコーピオン)が使えず、どれだけやっても発動すらしなかったあの時。

(やっぱ・・・アレが原因っつー事か?)

1つだけ、思い当たる事がある。
あの日、魔水晶(ラクリマ)で見た映像。
男女が映るあの映像は、アルカにとっては大きなダメージだった。
だが、ここまで調子が悪くなるほどのダメージではなかったと思う。

(・・・いあ、考えられんのはアレだけだ)

考えれば考えるほどに、疑わしいのはあの魔水晶(ラクリマ)
流れた映像はアルカにとってはショックなもの。
見た時は何とも思わなかったが、まさか後からこうなるとは。
そう考えると、リボンが解けるようにするりと納得出来た。

(ティアから渡されたあの魔水晶(ラクリマ)―――――――・・・)

アルカは結論を出した。
が、ティアが悪い訳じゃない。
あの魔水晶(ラクリマ)を頼んだのは・・・。
否、あの中の映像を頼んだのは、紛れもなく自分なのだから―――――。












路地に身を潜めるティアは、ショルダーバックから封筒を取り出した。
美しい模様が描かれた封筒から便箋を取り出し、三つ折りのそれを開く。
そこには綺麗な文字でこう書かれていた。


ティアへ

貴女も解っていると思うけど、もう時は来たの。
2年前は貴女の大事な人が死んだと聞いたから何もしなかったけど・・・もうそういう訳にはいかない。

星竜の巫女としての役目を果たしなさい。

一族の為に散るのが巫女の運命・・・解っているでしょう?
1週間の間に迎えに行くわ。
解っていると思うけど・・・貴女に拒否権はないの。

異端児の貴女には、本来カトレーンを名乗る事すら認めたくないのに・・・。
唯一“正式なカトレーンの人間”のクロスの頼みだから許しているけど、解ってるわね?

シャロン=T=カトレーン


「・・・」

便箋を三つ折りに戻し、封筒に戻す。
投げ捨てるようにショルダーバックの中へしまって、ファスナーを閉めた。

(解ってるわ・・・私に拒否権がない事くらい、とっくに知ってる)

背後の壁に背中を預け、ティアは俯く。
帽子で見えないその表情は、辛そうに歪んでいた。
誰に告げる訳でもなく、ティアは呟く。




「もうすぐお別れね・・・妖精の尻尾(フェアリーテイル)とも」













「ねぇ、貴方」
「んあ?」

聞き覚えのない声に呼ばれたアルカは面倒そうに振り返った。
アルカの正面に立つ女性は、はっきりとした口調で尋ねた。




「ティアはどこにいるかしら?」




その問いに、アルカは髪を掻き毟ってギルドの隅から隅までに目を向けた。
が、ギルドにティアはいない。
序でに言えばクロスの姿もない。

「あー・・・悪ィ、ティアは今いねぇんだ」
「そう・・・なら少し待たせてもらうわ」

そう言うと、女性はバーカウンターの1番奥の席に座った。
アルカはちらりと女性に目を向け、酒を一口飲む。

(あの女・・・ティアの親族か)

何故ここまで断言できるか。
理由は当然ある。
髪の色が宝石のように眩い群青色(ラピスラズリ)である事、瞳も同様に群青色(ラピスラズリ)である事が大きな理由だ。
前にクロスから聞いたのだが、「似た色の髪はあっても群青色(ラピスラズリ)はカトレーンの一族だけだ」らしい。
序でに言えば、冷たくてどこか上品さを醸し出す口調はティアに似ている。

(ま、ティアとは違うけどな)

氷が溶け切った酒をもう一口。
若干ぬるいがあまり気にせずアルカは一気に飲み干した。
それと同時に明るい声が響く。

「アルカ~!」
「おー、ルー」

満面の笑みで駆けてくるルーにヒラヒラと手を振る。
家を出たのはほぼ同時だが、ルーは真っ直ぐギルドに向かわず寄り道していたのだ。
どこに寄り道してたんだろうな、と考えながら、アルカは空のグラスを置いた。
駆けてきたルーは先ほどアルカに声を掛けた女性に目を向け、首を傾げながらアルカに訊ねる。

「あれ、誰?」
「流石に素直に聞き過ぎだぞルー・・・ま、いいや。誰なのかは解らねぇが、ティアの親族じゃねーの?」
「そっかー、髪の色とか同じだもんね」

うんうんと納得したルーはきょろきょろと辺りを見回す。
何探してるんだ?と尋ねる必要はない。
アルカはくいっとギルドの一方を指さす。

「ルーシィならそっちだぞ」
「あ、ホントだ。ルーシィ!おはよぉっ!」
「うわっ!いきなり飛びついて来ないでよ!びっくりするじゃない!」
「えへへ、ゴメンね~」

アルカに向けたものとはまた違う満面の笑みを浮かべるルーはルーシィの隣に座る。
仲睦まじいその光景をアルカは見つめ、ギルドの入り口に目を向けた。

(にしてもティア・・・アイツどこ行ったんだ?仕事じゃねーだろうし・・・)












「・・・ふぅ」

目を閉じていたティアはゆっくりと目を開いた。
今ティアは墓地にいる。
その目の前には、―Iоri Susewind―の文字が刻まれた墓石。

「満足してくれますか・・・イオリさん」

その横には水の入ったバケツと雑巾、ブラシ。
1か月に1回、師匠であるイオリの墓を掃除しているのだ。

「もう来れないけど・・・その時は、きっとアイツが掃除してくれますから」

じわっと浮かんだ涙を拭い、ティアは笑みを浮かべた。
その笑みはやはり冷たくて、それでいて優しくて、どこか悲しそうだった。

「さよなら・・・イオリさん」











「あなたの弟子で、幸せでした」













「・・・」

ティアの言葉を聞いている男がいた。
近くの木の陰に隠れ、息を潜めて目線をティアに向けている。

(さよなら?どういう事だ?)

隠れる男―――――ナツは、眉を顰める。
先ほど、どこかへ向かうティアを見つけたナツは声を掛けようと後を追い、ここまで辿り着いた。
が、着いた瞬間話しかけにくい空気になり、木の陰に隠れた。
その結果・・・ティアはイオリの墓に向かって“さよなら”と言った。
あなたの弟子で、幸せでした・・・と。

「ティア」
「!」

気になった事をそのままには出来ない性格のナツは、数秒迷って声を掛けた。
ピクリと反応したティアは振り返り、青い目を見開く。
しゃがんでいた体勢から立ち上がり、数回瞬きを繰り返した。

「何で、アンタ・・・っまさか!」
「・・・聞いてた」
「―――――っ!」

こくっと頷くナツにティアは顔色を変えた。

「さよなら・・・って、どういう事だよ」
「・・・」
「お前、どっか行くのか?」

ティアは答えない。
ただ拳を握りしめて、俯いたままだ。
俯いている事と被っている帽子でその表情は全く見えない。
顔を覗き込もうかとも考えたが、空気がそれを許さなかった。

「来れないってどういう事だ?イオリの事、嫌いになったのか?」
「違うっ!私がイオリさんの事を嫌いになる訳ない!イオリさんは・・・っ!」
「!」

ナツは気づいた。
叫ぶティアの表情が、悲しげな事に。
今にも泣きだしそうな表情・・・見覚えがあった。
2年前のあの日・・・イオリの葬式の時の――――――。

「ティア―――――――」

ナツが何かを言おうと、口を開いた。
その時―――――




「見つけたわよ、久しぶりね・・・ティア」





声が響いた。
ナツの声でも、ティアの声でもない。
第一、ナツはこの声を聞いた事がない。


「ギルドで待っていても来ないからあの赤い髪の人に聞いたらここじゃないかって・・・全く、迎えに行くって言ったはずよ」


びくっ、と。
ティアが大きく反応した。
先ほど、ナツに声を掛けられた時の反応とは違う。
明らかにこの反応には―――怯えが混ざっている。




「・・・聞こえなかったかしら?久しぶりね」




その時、ナツは見た。
ティアの表情を。
怯えと恐怖の混ざった、いつもの無表情とはかけ離れた表情。
カタカタとその体は小刻みに震えている。

「お・・・お久しぶり・・・です・・・」

硬い動きでティアは頭を下げる。
その声が震えているのに、本人は気づいているだろうか。











「お祖母様・・・っ!」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
いやー、ここ数日忙しくて更新遅れました。すいません。
遂に過去編本格始動!
ええもちろん、読者様のご期待通りになるか解りませんが、ナツが大活躍ですよ多分!
もちろんルーとアルカもお忘れなく!

感想・批評、お待ちしてます。
最近スティングとティアにハマっている・・・。
だけどやっぱりナツが絡むね。 
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