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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos20-B騎士と魔導師の戦舞踏~3rd Encounter~

 
前書き
剣騎士セイバーVS太陽の騎士アリサ&氷月の魔導師すずか戦イメージBGM
Xenogears「紅蓮の騎士」http://youtu.be/7uJA1am5w14

 

 

†††Sideシグナム†††

「何用だ?と、訊ねるのは野暮というものか」

蒐集活動を行った後に襲撃してきたリンドヴルムの私兵を返り討ちし終え、主はやての待つ大切な我らの居場所、海鳴の街へと帰ろうとした時、あの娘らが私の前に姿を現した。
蒼天に輝く太陽の下、地平線の彼方まで広がる砂漠にて主はやてのご友人、アリサ・バニングスと月村すずかの2人が私と対峙する。2人が防護服姿で居るのは、戦いに来たのではなく、魔法の守り無くしてこの環境下で居られないためであってほしい。しかし起動済みのデバイスを持っている以上、そんな甘いことは思ってはいられんのだろうな。

「セイバー。あんたを止めに来たわ。この、フレイムアイズ・イグニカーンスでね!」

「ア、アリサちゃん! 戦いに来たんじゃなくて話をしに来たんだよ!?」

バニングスの手には“フレイムアイズ”という銘の片刃剣が握られており、そして私に見せつけるように掲げた。そんなバニングスを窘めるのは月村。共にデバイスに僅かな変化が見られる。おそらく私に惨敗したことで強化して来たのだろう。が、それだけで私を超えられるなどと思われていると思うと呆れるばかりだ。

「セイバーさん。私たちは守護騎士のリンカーコア蒐集を止めに来たんです」

「そうか。しかし我々は止まれんよ。以前にランサーが言ったろう? 蒐集しなければ我々の主、オーナーは絶命してしまうのだ。治癒魔法も現代の医療技術も通用しない以上、完成させることこそがオーナーの救いとなる」

シュリエルの話では“闇の書”はもう壊れており、ただ完成させただけではかえって主はやてを絶命させてしまうという。しかしルシリオンの提示したシナリオではその可能性は少ないとのことだ。主はやてが我ら守護騎士ヴォルケンリッターに注ぐ愛情。その愛情が大きければ大きい程、“闇の書”の呪いに打ち勝てる。それがルシリオンの提示した最後の希望だった。
私は――我々は、主はやてのその想いの強さに賭けることにした。想いの強さで“闇の書”の呪いを跳ね返す。昔の我々ならそのような曖昧な感情論で“闇の書”のプログラムをどうにか出来るとは思えなかっただろが、今は違う。主はやてならばきっと。そう思えてしまう。

「ゆえに今は我らの蒐集行動を見逃してもらいたい。・・・我々は管理局とは敵対したくはない。全てを終えた時、これまでの罪を償うために出頭する、という誓いは必ず果たす。それに・・・管理局と関係があり、尚且つ民間人であるお前たちを蒐集したことについては申し訳ないと思っているのも変わらずだ。出来ることならもう2度とお前たちを傷つけるような真似はしたくない。だから退け」

「はいそうですか、って退けないわよ。どうしても蒐集行為をやめてもらうわ。たとえそれが無理やりでも。あんた達の主の命も大事だけど、世界の平和も大事なのよ」

「あ、でもオーナーさんのことを蔑ろにするつもりじゃないです! 私たちだってオーナーさんの事を救いたいです! でも――」

「お前たちの葛藤は理解できる。それはお前たちが優しいからだというのも解っている。だからこそ再度言おう。退け。傷つけたくはない」

鞘に収めた“レヴァンティン”を脇に構え、居合の体勢へと移る。と、バニングスと月村は顔を見合わせ、そして僅かの間口を閉ざした。おそらくあの娘らをこの場へ寄越した管理局の人間と連絡を取っているのだろう。
今のうちに退こうか、と思案していたところでこの一帯を覆う結界がさらに強化されたのが魔力の変動で察知できた。先程までなら労せず破壊できただろうが、今の多重結界を貫こうとするならファルケンでないと難しいだろうな。

「・・・セイバー。悪いけど、やっぱり見逃すわけにはいかないみたい」

「ごめんなさい、セイバーさん」

本当にすまなさそうに謝るバニングスと月村。何を言われたかは知らんが戦う意志を見せた以上は「仕方がない、か」こちらも黙ってはおられん。

「お前たちに決闘を申し込む。この決闘は私闘となる。つまりは戦闘による怪我も、デバイス損傷も、そして敗北も自己責任ということになる。つまり――」

「負けても文句は言うな、というわけね。いいわよ。あたし達は管理局員じゃなくて、ただ好きで手伝っているだけだもの。勝手に首を突っ込ってんだから確かに文句は言えないわ」

「私もそれで良いです」

2人からの了承を得た。ならば後は・・・。

「楽園の番人パラディース・ヴェヒターが剣騎士、そして守護騎士ヴォルケンリッターが将セイバーと・・・炎の魔剣レヴァンティン! さぁ、決闘前の儀式だ、名乗りを上げろ」

「アリサ・バニングスとフレイムアイズ・イグニカーンス!」

「月村すずかとスノーホワイト・メルクリウス・・・!」

VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
剣騎士セイバーVS太陽の騎士アリサ&氷月の魔導師すずか
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS

互いに名乗りを上げた。これで決闘は成立した。あとは可能な限り傷つけずにバニングスと月村を打破するのみだ。

「レヴァンティン!」

≪Explosion≫

「フレイムアイズ!」

≪カートリッジロード!≫

――バーニングスラッシュ――

私とバニングスは同時にカートリッジをロード。カートリッジの残弾数では始めから圧倒的に負けている以上、持久戦に持ち込まれては少々厄介だ。それに、月村の存在もある。補助を担当しているあの娘のことだ、下手に長引かせては確実に不利となってしまうだろう。

(ゆえに短期決戦だ・・・!)

足を取られやすい砂地である砂漠での陸戦だが文句は言っていられん。ルシリオンからバニングスは空戦が出来ないと聞いている。空から急襲すれば楽に勝てるだろうが、それは騎士の戦いではない。相手が陸戦ならこちらも陸戦で迎え、そして真っ向から撃破する。それが騎士だ。
居合の体制のまま一足飛びでバニングスの元へ。バニングスは私の接近に対し慌てることもなく、刀身に炎を纏わせている“フレイムアイズ”を正眼に構えるのみ。デバイスを強化したところでお前が変わらなければ終いだぞ、バニングス。柄を手に取り、「紫電・・・!」右脚をズンッと踏み込む。舞い上がる砂塵が少々鬱陶しいが、支障はない。

「スノーホワイト!」

≪お任せ下さいまし!≫

――ブレイドプロテクション――

私とバニングスの間に展開された渦巻く障壁。なるほど。バニングスが慌てずにいるのはやはり月村の存在があるためか。しかし「清霜!!」それだけで私の一撃は防げんぞ。先のカートリッジ使用によって鞘内部に溜めた魔力を爆発させ、その力を利用しての高速の居合抜きを行う紫電清霜を繰り出す。

「速――っ!」

激しい音を轟かせて障壁に衝突する“レヴァンティン”の刃。ふと、妙な手応えが刃から伝わって来たことに眉をひそめる。衝撃が吸収されたような、これまでのように障壁に刃を当てた時に比べ鈍い。おそらくただの障壁ではない。

「だが、まだ足りん!」

鞘より抜き放った勢いを殺すことなく“レヴァンティン”を降り抜くと、月村の張った障壁はパキッと音を立てて真二つに裂かれた。「え・・!?」2人して驚愕に目を見開いている様子からして、私の斬撃を防ぎきる自信が今の障壁に有ったようだ。

「ぼさっとしている暇はないぞ!」

“レヴァンティン”を降り抜いた勢いで上半身を捻り、左手に持っていた鞘を振り上げて追撃。ハッとしたバニングスが燃え盛る“フレイムアイズ”ですかさず防御した。しかし咄嗟だったこともあってか「きゃあ!」踏ん張りきれずにバニングスは大きく弾き飛ばされた。やはり子供の身、軽いものだ。追撃の為に再度砂を蹴って、宙で態勢を整え着地し終えた直後のバニングスへ突進する。

≪Explosion≫

――紫電一閃――

「させない!」

――フローズンバレット・アサルトシフト――

月村の周囲に発生した冷気の魔力球4基を横目で見る。魔力球1基より3発の魔力弾、計12発が発射され、追尾性能があるのか私に向かって飛来してくる。そんな中でバニングスは私を待ち構えるかのように“フレイムアイズ”を天高く掲げて、じっと佇んでいる。

――パンツァーシルト――

側面から迫って来る月村の魔力弾への対抗策として、対魔力攻撃に優れた障壁を展開。遅れて1発が着弾、炸裂して冷気を撒き散らした。間髪入れずに次々と着弾していく。6発目までは防ぎきれたが、「む・・・!」7発目と8発目で障壁が凍結され、9発目で破壊されてしまった。
あと数歩進むだけでバニングスが攻撃範囲に入るというところで月村の魔力弾に対処しなければならなくなった。刀身に炎を纏わせての斬撃・紫電一閃の対象をバニングスから魔力弾へ変更。

「はっ・・・!」

――シュトゥルムヴィンデ――

本来は魔力の衝撃波を打ち出す攻撃だが、紫電一閃の炎をそのまま使うことで威力を上乗せし、そのうえ冷気の魔力弾への絶対的な優属性へと変化させたことで、相殺不可の一撃となった。月村の魔力弾が一瞬のうちに蒸発する。この一撃の射程圏に月村が居れば良かったのだがな。とにかく月村が次の手を打ってくる前にバニングスを撃破しなければ。

「フレイムアイズ!」

≪おっしゃ! カートリッジロード!≫

――タイラントフレア――

カートリッジを3発とロードしたことで先程以上の火炎を発生させた“フレイムアイズ”を「せりゃぁぁぁぁ!!」バニングスは掛け声とともに振り降ろし、「なに・・・?」私に当てるつもりが無かったのか勢いよく砂漠へと叩き付けた。
勢いよく爆発する火炎。そして「これが狙いか・・・!」火炎と共に巻き上がる砂塵。一瞬にして視界が砂塵によって潰されてしまった。それに加え、「気配が消えた・・・?」先ほどまでビリビリと感じていた戦意が急に消え失せたためにそう感じてしまう。

(ここまで来て撤退するなどありえん。必ずこの結界内のどこかに居るはずだ)

視界を頼るのを諦め、目を閉じる。頼りになるのは聴覚とバニングスと月村の魔力反応。そして攻撃時になれば必ず生まれる戦意を確実に捉えるための戦闘感覚。感覚を研ぎ澄ませて周囲の警戒を始めてすぐ。私を包囲するかのように魔力弾が発生したのを察知。距離はおよそ6mと離れ、円形状に設置されているようだ。

「スノーホワイト!」

――バインドバレット・サークルシフト――

尚も巻き上がっている砂塵の向こう側から魔力弾が飛来してきたのが判った。それにしても厄介なのは同時ではなく刹那の間を置いて飛来してくることだ。しかも前後左右、無差別で向かって来るため回避行動を続けなければならない。
空へと上がればやり過ごせるだろうが、「一度決めたことは覆せんな」ステップを踏んで向かって来る魔力弾を“レヴァンティン”で斬り、または回避。可能な限り防御魔法の使用を控えなければ、すぐに魔力切れを起こしてしまう。カートリッジも無駄には出来んからな。

(誘導操作弾ではないのも救いだな)

回避した魔力弾は戻って来ることはないようだ。受けなかったため判らないが特別な効果でも有していたのだろうか? 避けきった事で薄らと目を開け、徐々に晴れてきている砂塵を見たその時。

「「ディザスタークロス!!」」

そんな掛け声とともにグンッと魔力反応が強くなったのを感じた。考える間もなく大きく跳び、空へと上がった。その直後、先程まで立っていた場所を2条の砲撃が十字状に通り過ぎて行った。片方は冷気、もう片方は火炎だ。
空に上がったことでバニングスと月村の姿を視認することが出来た。砲撃が交差した地点から50mと離れていなかった。その距離で2人の気配を感じ取れなかったなど、信じたくはない事実だった。

(それよりバニングスのデバイスのあの形態は・・・!)

“フレイムアイズ”が銃剣と化していた。先程までの剣の峰側に狙撃銃の銃身がある。ルシリオンの話では“フレイムアイズ”は一形態のみだと聞いていたのだが。これは警戒の必要があるな。

「行っくわよ~・・・!」

――ブレイズロード――

バニングスの足元から炎が噴き上がったのを視認。何をするのかと思った直後、「おりゃぁぁぁぁ!」その炎を爆発させ、爆炎を利用して私の居る空にまで跳び上がって来た。

「スピンニングコロナ!!」

「ほう・・・!」

面白い戦い方をする娘だ。燃え盛る“フレイムアイズ”を掲げた上で体を丸め、高速前転しながら迫って来た。それはさながら炎の車輪。回避する事こそが最良の一手だろうが、私を空へ上がらせたことへの褒美として「受けて立つ!」3発目のカートリッジをロード。刀身に炎を噴き上がらせる。
迫り来るバニングスに向かって「はっ!」“レヴァンティン”を横薙ぎに振るう。そして衝突。高速回転するバニングスの“フレイムアイズ”と私の“レヴァンティン”の間で激しい火花――いや互いの炎が撒き散らされていく。

「ぐっ・・・!」

予想以上に強烈な攻撃に思わず苦悶の声を漏らしてしまった。だが「はぁぁぁぁ!!」“レヴァンティン”を振り抜きつつ、左手に持つ鞘に魔力を付加した状態で同時に振るった。

「くぁ・・・!」

それでバニングスを弾き返すことが出来た。落下中にカートリッジを給弾しようと考えていたのだが、「まだよ!」バニングスが体勢を整え、銃剣形態と化している“フレイムアイズ”の銃口をこちらへ向けてきた。しかもカートリッジを4発も使うのを見た。銃身に環状魔法陣が4つと展開される。明らかに大威力の砲撃魔法だ。

「フレイムアイズ!」

≪イジェクティブ・ファイア!≫

「いっっけぇぇーーーッ!!」

そして発射された火炎砲撃。炎熱に耐性の有る私でもまともには受けたくない魔力量だ。横移動することで回避。そして飛行魔法を扱えないというバニングスの追撃へ向かおうとしたのだが。

――フローティングアイス――

「ほう」

ミッドの魔法陣上に具現された氷塊を足場としたバニングスは落下することはなかった。下を見ると、月村が上手く行ったという風に満足そうに笑みを浮かべたのを見た。限定的な空戦をすることが出来るのだな。騎士リサと似通った戦いをする。これもフライハイトから戦い方を教わったからか?

「ファルシオンフォーム!」

銃剣形態から剣形態へと戻したバニングスはカートリッジを1発とロードし、刀身に炎を噴き上がらせた。

(どちらにしろ、楽しくなってきたな)

私にはフライハイト、そしてテスタロッサと剣を交えたかったという思いがあった。フライハイトは言わずもがな、テスタロッサは初邂逅の際、ルシリオンへの攻撃を見て剣を交えたいと思ったのだ。あの時は怒りで荒い筋だったが、冷静になった時の事を想像して心が躍った。そして今、バニングスと月村のコンビもまた面白いと思うようになった。将来が実に楽しみだ。

「うりゃぁぁぁ!!」

――フレイムウィップ――

炎の鞭を横薙ぎに振るってきたバニングス。空戦は陸戦以上に行動範囲が広い。ゆえによほどの鈍間でない限り、「容易く避けられる・・・!」僅かに降下。頭上を通り過ぎて行く炎の鞭を背に、一気にバニングスへと向かう。

――バスターラッシュ――

下方から放たれてきたのは冷気の砲撃。それすらも避けつつカートリッジ3発を給弾する。これで手元にあるのはいま給弾した3発を合わせて残り6発。この6発で決着を付けなければならない。

≪Explosion. Schlange form≫

カートリッジを1発ロードし、“レヴァンティン”を通常の剣形態から連結刃形態へと変形させる。

≪Schlange Beißen Angriff≫

狙うはバニングスではなく、あの娘が足場とする氷塊、その数8。シュランゲフォルムでの攻撃時は移動が出来ず防御も困難にはなるが、それより前に「断ち切る!」長く伸び往く“レヴァンティン”を操り、氷塊へ突撃させる。

(まず1つ!)

バニングスの居ない足場を貫いて砕く。シュランゲバイセン・アングリフは刃全体に魔力付加がされ、強力な障壁破壊効果を有している攻撃法だ。おそらくあの氷塊も何かしらの防御魔法(もしくはただ足場を作るだけの補助かも知れんが)だろう。相性的にはこちらの方が有利だ。

(2つ、3つ、4つ・・・!)

――フローティングアイス――

順調に破壊していき、バニングスの氷塊を砕くその瞬間にまた新しい氷塊が作り出された。バニングスは「助かったわ、すずか!」と礼を言いながら新たな氷塊へと跳躍して移動。それを見た私はすぐさまバニングスの立つ氷塊へと剣先を突撃させる。

(氷塊を作り出している間は他の魔法が扱えんようだな、月村)

高速で氷塊を壊しまわる“レヴァンティン”に注意しなければならない状況下、それも仕方のないことだと思う。それと氷塊の維持もあるだろう。バニングスは「ちょっと! さっきから足場ばっかり狙うなんて卑怯よ!」などと怒鳴り声をあげている。

「短所を攻めるのは戦術の1つだ、バニングス。やはり陸戦に戻るか? 私としてはそれでも構わんが」

空に上がってしまったのは私の失態。だがそれをバニングスに漏らすのは少々気が引けたため、そう言って陸戦へ戻ろうと試みてみたのだが「むぅ・・・!」表情を悔しげに歪ませたところを見ると失敗してしまったようだ。挑発と取られてしまったに違いない。

≪カートリッジをロード! バヨネットフォーム!≫

「ちょっ、フレイムアイズ!?」

≪短所を攻める。正しい、そいつは正しい! だからこっちも攻めさせてもらう!≫

“フレイムアイズ”のAIの人格は熱血漢と言ったところか。熱いバニングスにはお似合いだな。カートリッジを1発ロードした“フレイムアイズ”は剣形態ファルシオンフォームから銃剣形態バヨネットフォームへと再変形。おそらく気付いたのだろう。私が動けないことに。
シュランゲバイセン・アングリフがバニングスを追いかけ回すその中で私が接近して別の手段で攻撃を行えばすぐに決着だ。しかしそうしなかった。この好機を見逃すような相手でないのに何故、と“フレイムアイズ”が思考したとすれば・・・。気付くのも時間の問題だったと言うわけだ。

「ふんふん・・・なるほどね。じゃあ遠慮なく! フレイムバレット!」

“フレイムアイズ”から私が動かない事を聞いたのかバニングスが晴れやかな表情を浮かべ、銃口から火炎弾を連射。愚直なまでに真っ直ぐな軌道で飛来する火炎弾。一瞬で誘導操作弾ではないと判った。

――シュランゲバイセン・フェアタイディグング――

シュランゲバイセンの軌道を、私を中心とした球体状へと変え、私を護る結界と成す。高速で私の周囲を走る刃によってバニングスの魔力弾は全弾斬り裂かれた。弾幕が途切れた一瞬を見計らい、

≪Schwert form≫

“レヴァンティン”を通常の剣形態シュベルトフォルムへと戻し、僅かに遅れて放たれてきた弾幕の中を真っ向から突っ切る。回避できない火炎弾は“レヴァンティン”で斬り裂いて対処。

――ヒルンダプス・カウダクトゥス――

短距離高速移動魔法を発動、一瞬にしてバニングスの背後へと回り込む。バニングスは未だに私が背後に回り込んだことには気付いていない。おそらく下で我々のことを見ている月村は気付いているだろうが、もう遅い。

≪Explosion≫

“レヴァンティン”の刀身に炎を噴き上がらせる。それとほぼ同時、バニングスがこちらへ振り返ろうとした。が、「終わりだ、バニングス・・・!」よほどのことがない限り回避も防御も出来まい。

「紫電・・・一閃!!」

――ブレイドプロテクション――

≪させるか! フレイムプロテクション!≫

私とバニングスの間に2つの障壁が展開された。1つは“フレイムアイズ”から発せられた音声で耐炎熱障壁だと判った。もう1つは先ほども使われた渦巻く障壁で、おそらく耐衝撃だろうが・・・「無駄だ!」二重障壁に“レヴァンティン”を降り落とし、直撃させる。
また鈍い手応えが伝わって来たが、「斬ッ!」それもすぐに失せる。先の攻防で私が繰り出したのは紫電清霜。切断力は申し分なく、障壁破壊効果を有していなくとも十分な攻撃だった。しかし今繰り出しているのは紫電一閃。切断力ではなく破壊力に優れ、そして障壁破壊効果も有している。ゆえに月村の障壁を容易く破壊する事が出来た。次に私の一撃を拒むのは対炎熱障壁。

「ヌルい!!」

「うそ・・・っ!?」≪どれだけ強力なんだよ!≫

月村の障壁よりは時間を食ったが、バニングスの対炎熱障壁も破壊した。 “フレイムアイズ”を水平に掲げ盾にしたバニングスへとそのまま“レヴァンティン”を振り降ろし、 「きゃぁぁぁぁぁ!!」その防御ごと足元に広がる砂漠へと叩き落とした。

(対炎熱障壁に救われたな、バニングス)

バニングスへ届く頃には紫電一閃の炎の大半が散らされていた。その分威力も半減していた。それに足元は砂漠、落下の衝撃も砂地に吸収され弱くなるだろう。そう思って見守っていたのだが、衝突寸前でバニングスがフワリと浮いたのを見た。

「浮遊魔法か。やるな、月村」

バニングスを追うように私も降下し、ザッと砂漠に降り立つ。

†††Sideシグナム⇒アリサ†††

「大丈夫、アリサちゃん!」

セイバーの攻撃をまともに受けたあたしだったけど、砂漠に墜落する前にすずかが魔法で助けてくれた。フワリと浮く体。ゆっくりと砂地の上に降り立つ。そしてあたしに駆け寄って来たすずかに「いたた・・・。ありがと、すずか」お礼を言う。

「うん、どういたしまして。無事で良かったよ」

「あたしとすずかのバリアである程度、あの炎の斬撃の威力を殺いだからね。でもま、想定以上に強力過ぎてこうなってる状況だけど・・・」

対斬撃と対炎熱の二重バリアでもセイバーの斬撃を防ぎきることは叶わなかったわ。正直、この二重バリアを反撃の起点としてセイバーをコテンパンにする予定だったんだけど。やっぱ強いわぁ。“闇の書”の守護騎士は何百年も前から活動しているって話だったし。歴戦の戦士って感じよね。甘く見過ぎてたわ。

「フレイムアイズは大丈夫?」

≪この程度で参るほど軟な造りじゃないぜ≫

“フレイムアイズ”はまるで胸を張るかのように力強く答えてくれた。そりゃそうよね。次元世界屈指の技術力で生まれ変わったんだし。空になったマガジンを取り外して、新しいマガジンに交換しながら「無事ならまだやれるわね。すずかはどう?」訊いてみる。

「私はまだ大丈夫」

すずかが答えた矢先、「もう降参しないか?」セイバーが10m程離れた場所に降り立ってそんな事を言ってきた。もちろん「いやよ」ってあたしはキッパリと断った。

「こちらとしてはこれで切り上げたいのだがな。これ以上は本気でお前たちを傷つけなければならなくなる」

完全に自分の勝利を確信してるセイバー。確かにここまで一方的に押されてる形だけど。念話で『すずか。今の時間は?』すずかにそう訊く。と、『あと13秒で、この世界での午前9時だよ』待ちに待った答えが返ってきた。“フレイムアイズ”の柄を握る右手にさらに力を籠める。

「自己責任ってことなんだから、それについては気にしないで良いわ、セイバー」

「・・・後悔しても知らんぞ」

「そっくりそのまま返しちゃおうかしら、その台詞」

≪カートリッジロード!≫

“フレイムアイズ”が自分の意思でカートリッジを2連ロード。銃剣形態(バヨネットフォーム)の銃身部分に環状魔法陣が3つと展開される。この魔法陣の役目は、魔力の放出・加速のコントロール。なのはと同じものね。ま、なのはの場合は魔力の増大・集束コントロールもさらに追加になるけど。

「ならば全力で墜としに行くぞ?」

「どうぞ!」

――フリンジングボム――

“フレイムアイズ”の銃口からバスケットボール大の火炎砲弾1発を発射。セイバーは受けに回ることなく少し横に移動する事で回避。そんなセイバーに火炎弾フレイムバレットを連射しているところで『アリサちゃん! 午前9時!』すずかから報告が来た。
直後、セイバーの背後へ通り過ぎて行ったフリンジングボムが大爆発。セイバーがその衝撃に少しよろけたのを見て、「太陽の騎士アリサ・・・行くわよ!!」銃剣バヨネットフォーム、大剣クレイモアフォームといった形態変形と一緒に追加された、新システムを起動させる。

――スリーズ・サンズレガリア――

≪カートリッジロード! バーニングスラッシュ、そしてフォックスバット・ラン!≫

“フレイムアイズ・イグニカーンス”を受け取ってからの3日間。授業や習い事、寝る間も惜しんで作り上げてきた新魔法の数々。そのうちの1つを新たに解放。フォックスバット・ラン。フェイトの高速移動魔法を基にして組み上げた、短距離高速移動魔法。
とは言っても陸戦限定で、そのうえ直線軌道しか出来ないっていうものだけど。でもま、直線軌道っていう限られた動きしか出来ない分、その速度はなかなかのものよ。

「せぇぇぇーーーーいッ!!」

――バーニングスラッシュ――

制動を掛けることなくセイバーへ突っ込んで、炎を纏う“フレイムアイズ”の斬撃を横薙ぎに振るう。あたしの突然の高速接近にもセイバーは対応してきて、あたしと同じように“レヴァンティン”を横薙ぎに振るって迎撃してきた。

「むっ・・・!?」

「うりゃぁぁぁーーーーッ!!」

さっきまでのあたしなら力で負けて弾き返されていたか、それか受け流されて自滅していたかもしれないわ。でも、今のあたしの一撃を防いだり受け流したり出来るかどうかはこれからのお楽しみよ。
高速突進からの全力斬撃。突進力も追加されたこの一撃に「ぐっ・・・!」セイバーが二度目の呻き声を上げた。そしてセイバーはあたしの一撃によって思いっきり弾き飛ばされた。10数mと弾き飛ばされたセイバーが砂塵を巻き上げながら着地したのを見た。ダメージを受けたようには見えない。やっぱすごいわ、あの人。

(でも・・・やれる。うん、やれるわ。スリーズ・サンズレガリア・・・!)

午前9時から正午、午後3時から午後6時までの計6時間、あたしの魔力量や身体能力の限界値を底上げすることが出来るシステム、スリーズ・サンズレガリア。システム起動・解除は“フレイムアイズ”の持ち主であるあたしに委ねられてる。
時間が来たら自動起動でもいいじゃない、って思うところだけど、こんなチートみたいなシステム、なんのデメリットもなく使えるわけもなく。強力な分、反動も凄まじいのがこのシステム。なのはのエクセリオンモードと同じ。でも後天的に魔導師になっちゃった分、リンカーコアや肉体に掛かる負荷の重さはあたしの方が上みたい。

「フレイムアイズ!」

≪おう! 大盤振る舞いだ、感謝しろ、剣騎士セイバー!! カートリッジロード!≫

「すずか!!」

「うんっ! スノーホワイト!」

≪かしこまりましたわ、スズカ≫

「パワーブースト・ガンファイアフォース!」

すずかの補助魔法、射砲撃魔法の威力強化をするパワーブースト・ガンファイアフォースが“フレイムアイズ”に付加された。そう。こっからがあたしとすずかの本当の全力よ、セイバー。

「イジェクティブ・ファイア!」

トリガーを引いて火炎砲撃を発射。スリーズ・サンズレガリアにカートリッジの3連ロード、さらにすずかの補助魔法で強化された砲撃。直撃は必倒確実。防御なんて無意味。砂漠を大きく抉りながら直進していく砲撃はセイバーの身長を超すほどに大きい。

「フレイムアイズ、次弾発射用意!」

セイバーも高速移動魔法を持っていることから十分回避できると思う。だけど、「ぶっ放し続けてやれば必ず隙は出来る!」はず。カートリッジをまた3連ロードして魔力チャージを開始。セイバーが“レヴァンティン”を鞘に収めてカートリッジをロードしたのが見えた。きっとまたアノ居合抜きをするつもりね。この距離からして高速移動魔法での砲撃回避、そして接近しての居合抜きっていう風に繋げる気かしら。

――ヒルンダプス・カウダクトゥス――

セイバーの姿が掻き消えた。その姿を確認できたのはすぐ。砲撃の射線から横に数mと離れた場所。やっぱり回避してきた。さぁ、次は接近かしらね。

『(とにかく・・・!)すずか、後は頼むわよ!』

『うんっ、任せて、アリサちゃん!』

すずかと頷き合って、あたしは「イジェクティブ・ファイア!」さっきすずかに付加された射砲撃強化の魔法の効果が続いてる火炎砲撃をもう1発ぶっ放す。セイバーの姿が炎の向こう側になって見えなくなったその時。

――飛竜一閃――

セイバーから強烈な魔力が発せられたと思えば、「え・・・!?」何かにぶつかったのか砲撃の先端部がものすごい勢いで周囲に散らされていくのが見えた。そして「ええええ!!?」完全に炎が散らされちゃった。あたしとすずかはその信じがたい光景に驚くしかなくて。

「一体何が・・・?」「何をされたの・・・?」

≪呆けるな、アリサ!≫≪スズカ、気を取り直してくださいませ!≫

――シュランゲバイセン・アングリフ――

あたしとすずかを取り囲むように高速で動き回る“レヴァンティン”の刃に、身動きが取れなくなった。

『妙な真似はするな。少しでも動いた瞬間、障壁破壊効果を持つこのシュランゲバイセンでお前たちを叩き潰す』

頭の中に直接聞こえてきたセイバーからの警告。手を伸ばせば届くほどの距離を動き回る刃だから、“フレイムアイズ”を持ち上げて構えることも出来ない。あたしの身動きは完全に封じられちゃったわ。現状で反撃が可能なのはすずかだけ。でも何か行動を起こせば、セイバーの言う通りすぐさま刃があたし達を襲う事になる。

(防御? ダメ、あたし達の防御じゃセイバーの攻撃を防ぎきれない。あとは出来る事は・・・)

回避だけなんだけど。でも螺旋状にあたし達を囲う刃の隙間は人ひとりも通り抜けられない程に狭い。これは詰んだかも・・・。

『すずか。なにか良い案あったりする?』

『ちょっと難しいかも。魔法を発動しようとした瞬間に襲い掛かられたら防ぎきれないよ』

後の先を取れるほどあたし達の魔法発動時間は速くない。そのうえセイバーの攻撃力に対してあたし達の防御力はあまりに頼りないときてる。これなら出し惜しみせずにクレイモアフォームを使っていればよかった、って後悔する。

『アリサちゃん。私が全力で護るから、アリサちゃんだけでも脱出して』

『はぁ!? 馬鹿言わないでよ、すずか!』

あたしが中距離射砲撃でセイバーの気を引いて、すずかがバインドでセイバーを捕縛する、っていうシナリオだった。本音を言えば剣でのガチンコ勝負をしてみたかったけど、剣の腕じゃ、あたしの剣の師匠のシャルより強いかもってことで断念。でもチャンスがあれば挑んでみたい、とも思ってた。

(だからと言ってすずかを犠牲にしてあたし単独でセイバーに挑むわけにはいかないわよ!)

必死にこの状況を打破する方法を考える。でも「ダメ・・・、浮かばない・・・!」ここで戦闘経験の少なさが出た。何をやろうとしても“レヴァンティン”の刃に裂かれる結果しか脳裏に浮かんでこない。降参することを視野に入れ始めた時、セイバーの様子がおかしいことに気付いた。さっきの1回だけで、あれから降参も促してこないし。

『こちらアースラ! アリサちゃん、すずかちゃん! 結界外上空に新たな守護騎士が現れた! ガーダーだ! くそっ、戦力の大半はランサーに向かっている今、ガーダーを止めることが出来ない!』

『アリサさん、すずかさん! セイバーの捕獲は諦めましょう! 今は何よりあなた達2人の身の安全が最優先よ!』

アレックスさんとリンディさんから通信が入った。それはあたし達にとって最悪な知らせだった。さらに、『ガーダーが魔法を発動! 気を付けて!』って教えてくれたけど、この状況で気を付けろ、って言われてもどうすることも出来ないんだけど・・・。

――破城の戦杭――

ズドンって大気が震えるほどの轟音があたし達の耳を襲った。音の出所は頭上、結界のてっぺん。見上げてみれば「なにあれ・・・!」巨大な杭が結界にぶつけられてた。杭が打たれてるところからバキバキ、メキメキ、バリバリ、結界が割れていく音がし始めた。
そんな光景を呆けながら眺めていると、“レヴァンティン”の刃があたし達から離れて行って、元の剣形態に戻った。いつ斬られるか判らない事態から解放されたあたしとすずかは堪らずホッと安心した。

「こちらの事情が変わった。すまないが戦闘を切り上げさせてもらう」

セイバーはなにか焦ってるのか早口でそう言ってあたし達に背を向けて、空へ飛び上がった。あたしは「待ちなさいよ!」セイバーを呼び止める。それでもセイバーは止まることなく、ガーダーの魔法によって破壊された結界の穴を通って、青空に消えていった。


 
 

 
後書き
ボン・ジュール。ボン・ソワール。
三騎士戦の第二戦、セイバー・シグナムVSアリサ&すずかをお送りしました。
アリサがもうめちゃくちゃ強化されてしまっています。射砲撃を扱え、Fate/EXTRAのガウェイン張りのチートを持ち、さらに今話では登場しなかったクレイモアフォームもあります。
ここまで強化して良かったのか、と軽く後悔しかかっていますが、シグナムとやり合うには必要だろうと、アリサの周りには優秀な魔導師の師匠が居るから問題ないかな~とそう思い、躊躇を置き去りにして進めました。
次回は三騎士戦の最終戦、ランサー・ルシリオンVS????をお送りします。
 
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