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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross world~
  cross world:交換

「…………………?」

ぐたっとした状態から立ち上がった少年は、そこで違和感に気が付く。

人垣の中から、ポンッと飛び出したのは真っ白な少女と巫女服の闇妖精(インプ)ではなかった。

紺色の長着に茶色い羽織、腰ほどまである珍しい銀色のストレートの髪の間からピョコンと飛び出すのは髪色と同色の三角の猫耳であった。

ゆったりとした着流しを着込んだ猫妖精(ケットシー)の少女が不思議な表情を顔に浮かべて、ティーテーブルの近くで不自然な体勢で固まるレンをまじまじと見る。

「あれ?さっきそこにソレイユがいたような気がしたんだけど………」

そんなことを言いながら首を傾げる少女を、しかし少年も首を傾げながら見返した。

どこから湧いて出たんだ?このお姉さん?

ALOの終焉時、”人間を越えている”レンの感覚器は、もはやヒトの聴覚、視覚といった通常のそれとは根本のところから外れたところにいる。

さすがにこのアルヴヘイム・オンライン全土を覆い尽くすほどではないが───本当はできるのだがそれをやると脳が潰れてしまうので───常時レンの認識領域というのは自己より約百メートル内に固定されている。

つまりレンの脳には、己から百メートル内に存在するものの全てが常時雪崩れ込んでくるのだ。

常人なら、ものの数秒足らずで発狂してしまうレベルのものを少年は無意識のうちに仕分けている。

だからレンは驚く。

この女性が立っている位置には、本来マイとカグラが立っていなければおかしい。

なのに

それなのに

この女性は、つい先刻までいた二人の気配が跡形もなく消え去り、それと入れ替わるようにして唐突に現れたのだ。

まるで、入れ替わったかのように。

「ねぇ、少年。ここに黒いコートを着た人いなかった?」

膝を折り、目線を合わせた体勢で少女が問いかけてくる。

犯罪者か何かだろうか、というかまんまキリトのことじゃないのだろうか、と少年は思ったが言わなかった。

いる?という質問に対しては、回答はもう決まっているのだから。

「う、ううん。いなかった、よ」

その『お兄さん』なる人物が、彼女の待ち人ということなのだろうか。しかし、それにしても疑問点は残る。

彼女はどうして、急にこの場に現れたのか。

そして、マイとカグラはどこに行ったのだろうか。

「えと、あのさ。お姉さん」

「ん?なぁに?」

「僕と同じくらいの女の子と、巫女さんみたいな女の人がいなかった?」

少年の問いかけに、少女も首を傾げた。

女の子はともかくとして、巫女さんみたいな女性がいたら、さすがにこの人込みの中でも見分けが付く。そんな人は見たことがなかった。

不思議な少年だった。

黒い髪と黒い瞳。目立つ血色のフードコートを着込んでいるのに、不思議と周りの光景に溶け込んでいるように感じる。まるで、透明人間と向き合っているかのような印象を与えてくる子だった。

「ううん、いなかったよ。その子達と待ち合わせ?」

「そっかぁ~。いや、うん、さっきいたような気がするんだけどね」

そう言ってきょろきょろ首を巡らせる少年につられるように、少女は周囲を見回した。彼女の待ち人の方も、どこかに行ってしまったようだ。

「………彼氏さんなの?」

「うえっ!?」

何の脈絡もなく放たれた言葉の内容に動転し、のどが詰まったような奇声を上げてしまう少女。

それに驚き、少年の方も思わずビックリ顔で少女をまじまじと見返してしまった。

別に、なんとなく訊いただけだったのだが、そんな大きな声を出されるとは思えなかった。

いやだって、こんなオサレな喫茶店で待ち合わせる異性なんて九分九厘そんな関係だろう。

少女は数秒間顔を真っ赤にしていたが、徐々に落ち着きボソッと口を動かした。

「……………………恋人、だよ……」

「そっかぁ。それは確かに心配だねー」

のほほんと言う少年を前に、あぁと少女は心の底から脱力する。

不思議だ不思議だとは思っていたが、ここまで自然に口を割らされるとは思っていなかった。

別に隠していた訳ではないのだが、何しろ初対面だ。彼の事まで喋る義理もないし、する必要もない。

なのに何故、ここまでスルリと言葉が漏れたのだろうか。

まるで、心の奥底まで入り込まれたかのような。

スルリ、と。

ヌルリ、と。

ズルリ、と。

しかしそれは決して不快なものではない。

あはは、と少年は屈託なく笑う。無色で透明な、無邪気な笑みを。

「でも、見てないな~」

「だよね~。私も見たような気がしただけだからね」

それにつられたように、思わず少女の口許にも笑みが浮かんだ。

何故だろう。

あの少年は彼とはまったく違うのに、まったく同じように見えた。何が同じとか、何が違うとか、そんな明確なものは存在しない。

ただただ、『合致』し、そして『不適』なだけ。

合って、そして違う。

何かが、決定的に。










「……………………………うん?」

少年は首を傾げる。

待ち人たる少女の声が聞こえ、腰を椅子から浮かした途端、何かのスイッチが切り替わったかのような気がした。

音がしたわけでも、振動があったわけでもない。

それはおそらく、飛び道具で敵を撃ち抜いたときに感じる『手応え』のようなものなのかもしれない。

ロジック的には、システム的にはありえないものであるにも関わらず、熟練プレイヤーの十人が十人感じた事があると言うであろう、そんな代物。

なんだ?

何が起きた?

多くの疑問が頭に浮かぶ少年ではあるが、目の前に広がる光景には欠片の変化も見当たらない。

そう。

一人の少女の消滅以外は。

「…………ルナ?」

少年は、まるで人込みの中で取り残された子供のように、その名を口にする。

しかし、その呟きに対する応えはない。

さきほど、あれだけ響き渡った声は返ってこない。

代わりに人込みの中から飛び出てきたのは、妙な二人組みであった。

一人は女性。

女性にしてはかなりの長身を、神社で見かけるような巫女服に包み込んでいる。腰の部分には、全長一.五メートルは超えるという、かなり長い大太刀が古風な漆塗りの鞘の中に納められていた。

肌の色は、闇妖精(インプ)に特徴的な乳白色な薄い紫色。

もう一人は、ちっこい少女。

老人のような白濁した白ではなく、高級なシルクのような純白の髪を持つ少女。長めな前髪の奥には、金と銀という異なる色合いの瞳が上品に輝いていた。

その身に纏っているのは、しっかりとした生地が暖かさを伝えてくる真っ白なダッフルコート。丈が合っていないのか、裾の先っぽのほうが地面スレスレのところを浮遊していた。

しかし、少年が不思議に思ったのはそこではない。

少女の背。

ここ、ALO────アルヴヘイム・オンラインならば、ログインする全プレイヤーに付与される、鳥というよりは昆虫を連想させられる翅が、少女の背にはなかったのだ。

妖精九種族ならば、見ただけで判別できる要素のもう一つのもの。肌の色だって、彼女の肌はきめ細かいアラバスタが振られたような健康的な白さを持ってはいたが、しかし種族を特定するような特徴は持っていない。

ならば考えられる可能性。

それはつまり、彼女がNPCの場合である、という可能性だ。

NPC。つまり、ノンプレイヤーキャラクター。

どこのゲーム世界でもいる、物語の導き手にして世界をコントロールする因子でもある存在。

ここALOでもそれは例外ではなく、このイグドラシルシティの露店やら宿屋などにも普通に存在している。

それならば、少女の種族が特定できない理由には折り合いが付けよう。ALOでのNPCは、固有の種族を持たない者達なのだから。

しかしそれでも、別の問題が鎌首をもたげてくる。

一般的なNPCには、多かれ少なかれ移動可能範囲というものをシステム的に設定されている。美少女や美女のNPCが、ごく一部の紳士達の手によっていかがわしい事をされないように、だ。

それが、おそらく一般のプレイヤーと思われる闇妖精の巫女装束女に連れ回されている?

ありえない。

あってはならない。

そりゃあ、ごく一部の例外はある。例えば、大きなイベントクエストの重要な役回りを任せられているヤツとかだ。

しかしそれにしたって、こんな圏内のド真ん中にいるわけがない。それに、少年の知っているNPCは、これほどの感情表現機能は付いていなかったはずだ。

こんな、大切な人がいなくなった時に子供が浮かべるような、寂寥感に溢れた表情は。

「レ………ン……………?」

「おや、おかしいですね。ここにはいないようですよ、マイ」

信じられない、という表情を浮かべる少女に対し、女性のほうは首を傾げただけだった。まるで、珍しい事はあるものだ、とでも言いたげに。

しかし、少女は違う。

なんで、どうして、という前に、おかしいという疑念の思いが如実に現れている。

「マイ?どうしたんですか?」

さすがに傍らの女性も心配になったのだろう。

軽く膝を折り曲げ、視線を合わせて少女に声を掛ける。

「おかしい……、おかしいんだよ………」

「ですから何が」

「レンの反応が、《世界》から消えた……」

「………WC落ちではないのですか?生理的欲求には抗えませんし」

問いただすような女性の声に、しかしマイと呼ばれた真っ白な少女はフルフルと首を振った。

「だって、一瞬前にレンが座ってた椅子に、あんなに素早く座ることなんて可能なの!?まるで……まるで────」

その次の言葉は、少年にもありありと想像できてしまった。

まるで、『入れ替わったように』だ。

おかしい、と少年は思う。

何かが、何か得体の知れないようなものが、少しずつ、しかし確実に迫ってくるような感覚。

何かが狂っていくような、壊れていくような、そんな感覚。

何かが起こっている。

自分の知らないところで、とんでもなく大きな何かが。 
 

 
後書き
さて、コラボ第二話目でございます。
度々公言してきましたが、私は王道嫌いです。いえ、王道そのものを嫌っているわけではありません。ただ単に、すでに存在して、まかり通っている約束事的なイベントを、ついついスルーしたくなるような天の邪鬼が私というだけなのです。
これまで他の作品の作者様方が様々なコラボを書いて、そしてそれらを拝見してきたのですが、その中のパラレルワールド系での王道は大体こんな感じだと思います。
すなわち、《Aという世界の主人公が、どういう訳かBという世界に行っちゃったよ!?》的な。
書きやすいし、分かりやすいし、何より面白い題材です。
しかし、しかしです。
私の中の、超メンドくさい部分がはたと思い付いたわけです。
あれ?でもこれ、何で一方通行なの?と。
片方が行けるんなら、もう片方も行けるんじゃね?という合ってるのか合ってないのかよく分かんない理屈をたて、キーボード様に丸投げしたのがこのコラボでございます。
《入れ替わり》
人格、性別、外観、種族、エトセトラエトセトラ…………
小説などで、入れ替わりというのは割と出てくるイベントではないでしょうか。ぶつかっちゃった拍子に、などという信じられないくらいちっこい理由で作られた、全く新しいその世界は、一種新鮮な気持ちをもたらしてくれるのではないでしょうか。
そんな気持ちの一端でも持っていただけると…………いいなぁ。 
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