| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

外伝
外伝1:フェイト編
  第15話:終焉


「もう少し早く来ないとだめじゃないか。 危うく捕まるところだったよ」

突然現れた少女に向かって微笑を浮かべたエメロードが声をかけると、
少女は黙ったままこくんと頷いた。
だが、その表情からは何の感情も読み取れない。

「うっ・・・・・」

部屋の壁に叩きつけられて倒れたゲオルグを守るようにして、
少女のほうに向かってバルディッシュを構えていたフェイトは、
背後から聞こえてきたうめき声に、ゲオルグの方を一瞥する。

「大丈夫?」

「・・・・・一応ね」

よろよろと立ち上がりながら、ゲオルグはフェイトに向かって返事をする。
そしてフェイトの隣に立ち、部屋の入り口に立つ少女を見つけると
驚いたようでわずかに目を見開く。

「フェイト、あの子は?」

「詳しいことはわからないけど、ゲオルグを弾き飛ばしたのはあの子だよ」

「はぁ!?」

固い表情で言うフェイトの言葉に驚きの声をあげる。

《フェイトさんの言っていることは本当ですよ。
 あの子の攻撃によってマスターは弾き飛ばされたんです》
 
「そうなのか・・・・・」

ゲオルグはレーベンの声に対して呟くように言うと、
改めて少女の顔をまじまじと見た。 そして、その額に輝くモノに気付く。

(あれって・・・・・)

「フェイト。
 あの子ってひょっとしてあの研究所で見つけた書類に書かれてた・・・・・」

少女が何者なのか、その答えになるであろうひとつの仮説に行きつき、
ゲオルグは小声でフェイトに話しかける。

「うん。 たぶん、そう」

ゲオルグが最後まで言い終わらないうちに、フェイトはその言葉を遮って
ゲオルグの考えに対する賛意を表した。
その表情は硬く、またその声はわずかに震えていた。

(あれ・・・?)

フェイトの声が震えていることにゲオルグも気づき、
フェイトの方に目線を向けた。

(・・・・・っ!?)

フェイトの様子を見たゲオルグは思わず息をのんだ。

フェイトの右手はバルディッシュの柄を腕に血管が浮き出るほど
固く握りしめており、カタカタと小刻みに震えていた。
フェイトの唇は自身の歯によって強くかみしめられていた。
フェイトの目には怒りと悲しみが入り混じった炎が揺れていた。

「フェイト・・・だと?」

ゲオルグがフェイトに声をかけようと口を開きかけたとき、
エメロードの驚きを含んだ声が部屋の中に響いた。
それにつられてゲオルグがエメロードの方に目を向けると、
両の目を見開いてフェイトを見つめるエメロードの姿が目に入った。

「君がフェイト・テスタロッサか!?」

エメロードが大きな声をあげ、フェイトとゲオルグはそれにつられて
エメロードの方に目を向ける。

「そうだけど、それが何か?」

フェイトが訝しげにそう答えると、エメロードは俯いてくつくつと笑い始める。
フェイトとゲオルグが唖然として見ていると、だんだんと笑い声が大きくなり
やがて狂ったように大声をあげて笑い続ける。

(どうしよう・・・この状況・・・)

さすがにどうしたものか困ったゲオルグがフェイトに目を向けると
同じく混乱していたフェイトと目があう。

「ねぇ、フェイト・・・・・」

どうするべきか相談しようとゲオルグが声をかけようとしたとき、
突然にエメロードの笑い声が止んだ。
驚いたゲオルグとフェイトが再びエメロードの方に目を向けると、
エメロードは腹を押さえてヒーヒーと喘ぐようにしていた。
しばらくして息を整えるように何度か深呼吸をすると折り曲げていた
上半身を起こす。
そして、薄気味の悪い笑いを貼り付けた顔でフェイトを見た。

「そうかそうか・・・・・君がプロジェクトFの落とし子か。 くくっ」

喉の奥で笑いながらエメロードがそう言う。

「・・・何がおかしい?」

半オクターブほど低い声でフェイトがエメロードに問う。
その言葉の中には怒気がはっきりと込められていた。
隣に立つゲオルグも怒りを込めた目でエメロードを睨みつけた。

2人の怒りのこもった目線にもひるむことなく、エメロードは
フェイトの問いに答えを返すために口を開く。

「いや、こんな偶然もあるものかと思ってね・・・・・」

「偶然・・・?」

笑みを深くしたエメロードの発する言葉の意味するところを量りかね、
眉間にしわを寄せたゲオルグが呟く。

「意味が判らないという顔だな」

ゲオルグの呟きに反応してゲオルグの方に目を向けたエメロードは
唇の片方を吊り上げてニヤニヤと笑いながらそう言うと、
次いでフェイトの方に目線を向ける。

「まさか、君もわからないのか? フェイト・テスタロッサ」

「・・・どう言う意味?」

揶揄するような口調で話しかけてくるエメロードに対して
フェイトは苛立ちを隠そうともせずに問い返す。
そんなフェイトの言葉に対してエメロードは失望したとでもいうかのように
肩をすくめて大げさに首を横に振った。

「やれやれ、嘆かわしいね」

そう言ってわざとらしくため息をつくと、エメロードは
部屋の入り口に立つ少女に目を向けた。

「君のお姉さんはずいぶんと薄情だよ」

眉間にしわを寄せて困ったような表情を作って少女に向かって話しかけるが
少女のほうはエメロードの言葉に対して特に反応を示すこともなく、
ただ立ってエメロードの方を見つめるだけだった。

「お姉さん・・・? どういうこと?」

「ここまで言ってまだ判らないのか? あまり失望させないでくれよ」

相変わらずエメロードの言葉が何を意味するか理解できずに苛立つフェイトに対し、
嘲笑を織り交ぜた言葉をエメロードが投げつける。
2人のやり取りを傍から見ていたゲオルグはエメロードの言葉に
苛立ちを感じ奥歯をギリっと鳴らしてエメロードを睨みつけていた。

「彼女は私がプレシア・テスタロッサが作り上げた技術を使って作りだした
 少女だよ。 まあ、君の妹と言えないことはないと思うね」

「え・・・・・」

嘲りの目線をフェイトに向けていたエメロードが発した言葉によって
部屋の中の空気が凍りついた。
フェイトは小さな驚きの声をあげたあと、茫然自失の表情で立ち尽くした。

「おっと・・・・・」

わずかな時間を置いて、エメロードは目を見開いて驚きの声をあげた。
その視線の先には、自分に斬りかかろうとするゲオルグと
その斬撃を受け止めた少女の姿があった。

「いきなり斬りかかってくるなんて野蛮だな君は。
 彼女が居なかったら私は今頃殺されていたね。危ない危ない」

ニヤニヤと笑いながら言うエメロードの顔をゲオルグは
怒りのこもった表情で睨みつける。

「デタラメを言うな!」

無表情なままの少女に斬撃を受け止められ、押し合いへしあいしつつ
ゲオルグはエメロードに向かって咆哮をあげた。

「デタラメ? 正気で言っているのか?
 君らはあの記録を見たんだろう? なら判るはずだ。
 私が言ったことが事実だとね」

ゲオルグやフェイトよりも身長の高いエメロードが
2人を見下ろすようにしながら、苛立ちの混じった口調でそう言うと、
ゲオルグとフェイトは自分たちが発見し、一読して衝撃を受けた
エメロードの研究記録の内容を思い返していた。

そしてエメロードは畳みかけるように言葉を繋ぐ。

「この少女は君と同じプロジェクトFの残滓とも言える存在なのだよ。
 言わば、この子は君自身が生んだと言っても過言ではないんだよ。
 つまり、この子を産んだ私の行動を否定するのは君自身を否定するのと
 同じだとは思わないかね?」

そこまでのエメロードの言葉を聞いたフェイトは衝撃で大きく目を見開き、
次いで肩を落とし、右手に握っていたバルディッシュをとり落とした。

部屋の中にバルディッシュが床に落ちた音が響き、ゲオルグは
一瞬フェイトの方に目を向ける。

(フェイト・・・・・)

エメロードの言葉で混乱したフェイトの心中を思い、
ゲオルグは悲しげな表情でわずかにうつむいた。

そのわずかな心の隙をついて、少女がゲオルグを突き飛ばす。
ゲオルグは俯きがちに立ちつくしているフェイトの隣に着地した。

そして次の瞬間、先ほどまでよりもさらに激しい怒りに燃えた表情で
エメロードを睨みつけた。

「ふざけるなっ!
 お前ごときのバカな行動なんかでフェイトを否定させるもんか!
 フェイトは僕の大事な友達なんだ。
 いっしょに戦ってきたことも、いっしょに訓練したことも
 いっしょにご飯を食べたことも、いろいろ話したことも、
 お前なんかに否定させやしない!」

次いでゲオルグは隣に立つフェイトに向かって話しかける。

「フェイト。
 こんな奴に何か言われたからって揺れないでよ。
 隊長だってヒルベルトさんだって、シャングリラのみんながフェイトのことを
 頼りになる仲間だって思ってる。
 僕だってフェイトはとても大事な友達だと思ってる。
 みんなフェイトのことを大切に思ってるんだよ。
 こんな奴が何を言ったってフェイトの存在を消させたりなんかしないよ」

「ゲオルグ・・・」

ゲオルグの言葉を聞いたフェイトの目に光が戻り、
表情には力強さが再び宿ってくる。
そしてフェイトはゆっくりと屈んでとり落としたバルディッシュを
手にとって立ち上がった。

「そうだよね。 私は私なんだよね。
 ごめんね、ゲオルグ。 あと、ありがと」

「ううん。 大丈夫、フェイト?」

「うん、もう大丈夫。もう惑わされたりしないよ」

ゲオルグとフェイトはお互いの目を見合わせてニコッと笑いあった。
そんな2人の様子を見ていたエメロードは苦み走った表情を浮かべる。

「こんな安っぽいメロドラマを目の前で見せられるとはね。
 まったくもって不愉快だよ」
 
エメロードは苛立たしげな口調でそう言うと、自分の前でゲオルグと
フェイトの方に向かって立つ少女に目を向けた。

「興ざめだ。 もう少し楽しもうと思ったがもういい。
 さあ、この2人をやっつけてくれ」

エメロードが少女に向かってそう言うと、少女が緩慢な動きでデバイスを構える。
そして次の瞬間、少女は床を蹴ってゲオルグに襲いかかった。
少女のデバイスはオーソドックスな杖型で、その先から出た魔力の刃を
ゲオルグに向かって振りおろす。
ゲオルグがその一撃をレーベンで受け止めると、眼前に迫った少女の目を見た。
少女の赤い目からは何の感情も読み取れず、底の知れない闇を見たように感じた
ゲオルグは思わず息をのむ。

(この子・・・なんなんだ?)

動揺によって生まれた隙をつくように、少女はゲオルグとの鍔迫り合いを押し切る。
体勢を崩したゲオルグに少女は刃を振りおろそうとするが、
フェイトがゲオルグの前に割り込んで少女の攻撃を受け止めると、
少女は一旦距離を取るべく部屋の反対側に飛び下がった。

「ゲオルグ、気を抜かないで!」

「・・・・・ゴメン」

フェイトが厳しい口調でゲオルグを叱咤すると、
ゲオルグは謝罪の言葉を口にする。

だが、その口調が妙に弱々しいことに気がついたフェイトは。
ゲオルグの表情をそっと窺う。

(あれ? なんか上の空みたい・・・・・どうしたんだろ?)

「何か気になることでもあるの?」

フェイトにそう問われ、ゲオルグはフッと我に帰る。

「・・・・・うん、ちょっと」

「どうしたの?」

「あの子の目・・・・・何の感情も読み取れなかった。
 というか、まるで死人の目を見てるみたいで・・・・・」

「死人の目?」

小声で交わされた2人のやりとりではあったが、さして広くもない
部屋の中でのことでもあり、エメロードの耳に届いていた。

「ほう、うまいことを言うな。君は」

感心したような口調でエメロードはゲオルグに向かって話す。

「どういう意味だ?」

ゲオルグが訊き返すとエメロードは楽しげな笑みを浮かべて
自慢げに語り始める。

「彼女の額に石があるのは気が付いていると思うけどね、
 あれは魔力素を高圧縮して作った人工のロストロギアとでもいえるものなんだよ。
 まあ、それ自体は君らも例の研究所で戦った私の作品に組み込んだものと
 同じなんだが、この子に与えたのは特別製でね。
 あの中に制御プログラムを仕込んで彼女の行動を制御しているんだよ。
 私の命令通りに動くようにね」

「なんだと!?」

「なんてことを・・・」

エメロードの口からの弾むような口調で紡がれた言葉を受けて、
ゲオルグもフェイトも顔色をなくして、少女の方に目を向ける。

「どうしよう、ゲオルグ・・・」

「どうしようもこうしようもないよ。
 僕らが管理局に所属してる以上、あの子を殺すわけにはいかないんだから
 まずは魔力ダメージで気絶させて身柄を確保するのが最優先だよ。
 どうやってあの子を助けるかは後で考えればいいって」

ゲオルグよりも強い衝撃を受けていたフェイトが弱気なセリフを言うと、
早々と立ち直ったゲオルグは冷静に正論を吐く。
そのゲオルグの言葉でフェイトも冷静さを取り戻し、凛々しい表情へと戻る。

[じゃあ、私が先に飛びこむね。 援護よろしく]

ゲオルグの方を横目で見ながら念話でそう言うと、
フェイトは床を蹴って少女の方に向かって飛ぶ。

(ちょっ・・・!?)

あまりに早い流れに取り残されかけたゲオルグは、
慌てて少女に向かって魔力弾を放つ。

実のところ、ゲオルグは射撃が上手いと評せる魔導師ではない。
ゲオルグ・シュミットという魔導師の本領は、刀剣型のアームドデバイスを
使用していることからも明らかなように接近戦である。

士官学校在籍中、戦術の幅を広げようというゲオルグ自身の考えもあって
射撃・砲撃魔法の練習をみっちりとやった。
その成果として、実戦での使用に耐えるだけの精度と威力得るに至ったが、
お世辞にも優秀と言えるレベルではなく、中距離の砲撃戦に限定すれば
CランクからBランクという程度の実力である。

そんなゲオルグがあわてて撃てば、威力はともかく精度が悪くなるのは必定である。
ゲオルグは撃った後にそのことに思い至り、フェイトの背中に自分の魔力弾が
命中してしまわないかと心配になった。

だが、このときに限って言えばその心配は杞憂であった。
ゲオルグの放った魔力弾は少女に向かって飛ぶフェイトの脇を抜けて、
正確に少女の胸に向かったのである。

(よかった・・・)

ゲオルグが安堵感でほっと胸をなでおろしている間にも
フェイトは少女に向かって飛ぶ。
高速で少女に接近しながらフェイトは少女の動きをじっと見ていた。
少女のわずかな動きから、どう動くかを見極めようとしていたのだが
少女は無表情にフェイトの方を見ながらピクリとも動かなかった。

(動きがよめない・・・・・仕方ないっ!)

フェイトは腹を決めるとバルディッシュを振りかぶって
真っ直ぐに少女に向かって突っ込んでいく。

そして、ゲオルグの放った魔力弾が目前に迫ったとき、
少女は不意に飛び上がって魔力弾をかわすと、天井スレスレのところを
宙返りしながらフェイトの上を飛び越えて部屋の中央に着地する。

(えっ!?)

眼前の少女に向かってバルディッシュを振りおろし始めていたフェイトであるが
突然標的が視界から消えてしまい、バルディッシュの先端から出ている
魔力の刃はむなしく空を斬った。
その慣性のままに自らの身体を半回転させて部屋の壁を背にすると、
部屋の中央に立つ少女とその向こう側にいるゲオルグの姿が目に入った。

[ゲオルグ!]

フェイトが念話で話しかけると、少女のアクロバティックな動きに
目を丸くしていたゲオルグはハッと我に返ってフェイトの方に目を向ける。
そして、厳しい表情のフェイトと目が合うと、フェイトの言わんとすることを
理解して黙って頷いた。

次の瞬間、フェイトとゲオルグは少女に向かって床を蹴って飛びかかる。
自らをはさみ込むように突進してくる2人に対して、少女は表情を少しも変えずに
それまでと同じように棒立ちになっていた。

(いけるっ!)

自らの攻撃レンジに少女を捉え、斬撃のモーションに入ったゲオルグが
そう思って口元に笑みを浮かべるのも無理からぬことではある。
だがこのときは慢心とのそしりを免れないであろう。
自らを上回る高速を誇るフェイトの攻撃がかすりもせずに回避されたのを
間近ではっきりと見ていたのだから。

そしてゲオルグの振るう刃が少女に迫ったとき、急に少女はその身を屈ませる。
ゲオルグの目線では少女の姿が突然目の前から消えたように見えた。

(なっ!?)

ゲオルグの攻撃は空を切り、ゲオルグ自身は床の上にしゃがみ込んでいた
少女の上を飛び越える。
その瞬間少女は自分のデバイスを勢いよく上に向かって突き出した。
杖の形をしたデバイスの先端がゲオルグの腹を突き、
ゲオルグは苦しげなうめき声を上げた。

そのとき、慣性のままに飛ばされるゲオルグの影からとび蹴りの姿勢で
飛んでくるフェイトの姿を少女の目が捉えた。

(捉えたっ!!)

次の瞬間、フェイトの足が少女の体に直撃して少女は何度か床で
バウンドしながら飛ばされていく。

「ゲオルグっ!!」

「えっ!? あ、うんっ!!」

フェイトから強い口調で呼びかけられゲオルグは体勢を立て直すと
床に倒れている少女の方に向かって走り出した。

ゲオルグが少女まであと数mにまで近づいたとき、少女の手がピクリと動く。
それを見ていたゲオルグはレーベンを振り上げて、とどめとばかりに
少女に向かって振りおろした。

ゲオルグの攻撃を受け、膨大な魔力ダメージを負った少女は完全に気を失う。
それを確認したゲオルグは、少女をバインドで拘束するとエメロードの方に
向き直った。

「バカな!! 私が心血を注いだ作品が君らごときに負けるなんて!!」

エメロードは大きく目を見開いてゲオルグのバインドで縛られた少女を
見つめながら、大声をあげて叫んだ。

「お前を守るものはもういない。おとなしく降伏して」

エメロードの様子に構わずにフェイトがエメロードに向かって言うと、
エメロードは怒りに満ちた表情をフェイトに向けた。

「ふざけるな! 私がお前らのような管理局の狗どもに捕まってたまるか!!
 しかも私の傑作を壊しやがって!」

エメロードは咆哮をあげると、机の引き出しを開けて自らのデバイスを取り出し、
すばやくセットアップする。

「私を本気で怒らせたことを後悔させてやる」

エメロードは低い声でそう言うと、右手に持ったデバイスを構える。

「おとなしく降伏するつもりはない、と・・・」

フェイトは小さく呟くとエメロードの方にキッと鋭い目線を向けた。
次の瞬間、フェイトはエメロードに向かって床を蹴ると机の上に立ち、
バルディッシュの刃をエメロードに向かって振りおろした。

エメロードはフェイトのスピードに全くついていくことができず、
ただ立ち尽くしたままフェイトの攻撃によって魔力ダメージを受けると
その場にドサッという音を立てて倒れた。

机の上に仁王立ちになりフェイトは床の上に倒れているエメロードを
見下ろしながら小さく息を吐いた。

「舐めないで。 あの子に自分の身を守らせているようなあなたに
 私が負けるわけがない」

吐き捨てるような口調でそう言うと、フェイトはバインドでエメロードを拘束した。
そして、少女の方に目を向ける。
傍らに立つゲオルグがフェイトに向かって親指を立てた。

「お疲れ、フェイト」

ゲオルグからそう声を掛けられて、フェイトはニコッと笑う。

「ゲオルグもね」





ルッツをはじめとするB分隊の面々やヒルベルトたちA分隊と合流し、
フェイトとゲオルグはシャングリラに戻った。
だが、2人を出迎えたのは苦虫をかみつぶしたような顔のミュンツァーであった。

ミュンツァーがなぜ不機嫌そうなのか判らないゲオルグが
その理由を尋ねると、ミュンツァーは更に不機嫌さの度合いを増した。
そんなミュンツァーの背後から2人の男が現れる。
彼らは古代遺物管理部の人間であると名のり、エメロードと少女は
自分たちが本局へと連れ帰ると宣言したのである。

当然、命がけで事にあたった魔導師隊の面々は食ってかかった。
だが、ミュンツァーは"決まったこと"の言葉を繰り返すのみだった。
ゲオルグはその言葉に腹を立てていた。
しかし、眉間に深いしわをよせ悔しさに身を震わせるミュンツァーの姿を見て
黙らざるを得ないことを悟った。

こうして、エメロードと少女をめぐるゲオルグとフェイトの戦いは
なんともいえない苦々しさとともに終わった。

その直後、自室に戻るべく艦内の通路を歩いていたゲオルグは、
ぶつけどころのない怒りを貯め込み、肩を怒らせていた。
そして、自室のドアに手を掛けた時、背後を歩いていたフェイトに呼び止められた。

「ねえ、ゲオルグ」

「何さ?」

荒っぽい口調で答えたゲオルグに対し、フェイトは優しい口調で繋いだ。

「こんなときにこんなことを言っていいか判らないんだけどね。
 ゲオルグが私のことを大切な友達だって言ってくれたこと、うれしいよ。
 ありがとね、ゲオルグ」

わずかに頬を染めて言うフェイトの顔を見て、ゲオルグは毒気を抜かれ
フェイトにつられるようにニコッと笑った。

「だって、フェイトは僕にとって本当に大事な友達だもん。
 あたりまえだよ」

そう言ったゲオルグの頬も赤く染まっていた。





それから半年にわたって、フェイトとゲオルグは共同で任務にあたっていった。
そして、ゲオルグが3尉としてシャングリラに配属されてから2年が経った時、
ゲオルグとフェイトは揃って本局への異動が決まった。

シャングリラを離れる前日には艦内の食堂でお別れ会が行われ、
ゲオルグはB分隊の分隊員たちにもみくちゃにされた。
ひとしきり騒ぎが収まると、ヒルベルトやクリーグなど特に親しかった面々が
次々とゲオルグに声を掛けてきた。
どの顔も笑顔であったが、その口から出てくる言葉は別れを惜しむもの
ばかりだった。

翌日には2人とも揃って本局へと向かった。
本局の転送ポートに到着した二人は、それぞれの転属先へと向かうべく
そこで別れることにした。
互いに手を振り合い、背中を向けあってお互いの進むべき方向へと歩き出した。





それからさらに数日後、休みの日にフェイトから呼び出されたゲオルグは
本局居住区にある喫茶店に向かった。
店に入ると自分の方に向かって手を振るフェイトにゲオルグは気づく。
そして彼女が座るテーブルに近づくと、その隣に1人の女の子が座っていることに
ゲオルグは気づいた。

その女の子はフェイトよりも少し小柄で、茶色の髪の毛を
サイドポニーにまとめていた。

「おはよ、ゲオルグ」

「おはよう。 今日はどうしたのさ?」

「うん。 あのね、いつか私の親友を紹介するって言ったの覚えてる?」

フェイトの言葉を受けて、ゲオルグは黙って頷いた。

「それでね。 いい機会だから今日紹介しようと思って」

「そうなんだ。 この子がそう?」

「うん」

その時、フェイトの袖を隣に座る女の子がひく。

「ね・・・フェイトちゃんの言ってたお友達って、この人?」

「うん」

不安げな表情を見せる少女に対して、フェイトは安心させるように
少女の肩に手を置いて微笑んだ。
その様子を見ていたゲオルグは自分から少女に話しかけることに決めた。

「はじめまして。 僕はゲオルグ・シュミット。 よろしくね」

そう言ってゲオルグは少女に向かって手を伸ばした。
少女はしばしその手を見つめていたが、やがて少女の方からも手を伸ばして
ゲオルグの手を握り、ゲオルグの方に顔を向けて微笑んだ。

「高町なのはです。 よろしくね、ゲオルグくん」

「こちらこそよろしく、高町さん」

「なのはでいいよ、ゲオルグくん」

「わかったよ、なのは」

手を握り合って笑い合う2人を見て、フェイトは嬉しそうに笑っていた。

この時には当人たちも与り知らぬことではあったが、
これこそがのちに夫婦となるゲオルグ・シュミットと高町なのはの
初めての出会いであった。

 
 

 
後書き
これで外伝のフェイト編は終了・・・ですが、
エピローグ(というか蛇足)を書きます。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧