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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第29話 第二次グリニア星域会戦

――宇宙暦816年/帝国暦507年 7月15日 08時17分――

グリニア星域でルフェール共和国軍41000隻、銀河帝国軍50000隻が今まさに戦端を開こうとしていた。

「ファイヤー!」

「ファイエル!」

双方合わせて65万隻の艦艇が戦った先のミンディア星域会戦と比べれば小規模に見えるものの、それでも90000隻以上の艦が繰り広げる戦闘は大会戦といっても言い過ぎではない。

緒戦は互いに相手の出方を見る形で始まり、戦闘開始から2時間が経過しても腹の探り合いは続いていた。

そんな中、この遅々として進まぬ戦況に不満を覚える一人の男がいた。
ヴァーゲンザイル艦隊の司令官、ヴァーゲンザイル上級大将である。

「どうも性に合わんな。一度攻勢に出たいところだが……」

「では、攻撃を強化して敵の反応を見てはどうでしょうか?」

「うむ、それがベストだな。ルフェール軍の実力、見せてもらおうではないか」

ヴァーゲンザイル艦隊が砲撃を強めると、正面のルフェール第三艦隊は勢いに押されたのか少々後退する。

「一当たりしてみた感想ですが、私見ながら敵艦隊の力量はあまり高くないように感じます」

「ふむ、敵はそれほどでもない……か。ならば……よぉし、全艦突撃だ。ルフェールの雑魚共に艦隊戦のなんたるかを教えてやれ!」

ルフェール第三艦隊は弱兵であると判断したヴァーゲンザイルは、ここぞとばかりに攻勢に出る。

だが……

「前方左舷に敵影!」

「何、どこの部隊だ!?」

「て、敵司令部の直属部隊と思われます。数5000」

ルフェール軍の総司令部が前線に出て来たことによって第三艦隊との間にクロスファイアーポイントが出来あがり、ヴァーゲンザイル艦隊はそこに突っ込む形となってしまった。

突然の事態に混乱したヴァーゲンザイル艦隊の艦艇は次々と撃沈されていく。

「ヴァーゲンザイルは何をやっておる!」

「どうやら、敵の誘導に乗ってしまったようですな」

「直ちに後退させろ、このままでは陣形が崩れる。……まったく、なんたる醜態だ。これでは先が思いやられるわ」

そう言った後、ケンプは自身の艦隊を前進させヴァーゲンザイル艦隊の後退を援護する。

「追撃は無用だ。他の艦隊との歩調を合わせよ」

さすがにニトラスは無暗に深追いをすることはなかった。
ヴァーゲンザイル艦隊にある程度の損害を与えたとはいえ、それでも兵力は銀河帝国軍が上回る。
下手な追撃は自分の首を絞めることだと彼は理解していた。

「む、敵は総司令自ら前線に出て来るか……一筋縄ではいかなさそうだな」


* * *


ルフェール軍がヴァーゲンザイル艦隊を散々に痛めつけた頃、帝国軍は総司令官であるケンプ元帥自ら前線へヴァーゲンザイル艦隊の支援に赴いた。

「敵を牽制しつつヴァーゲンザイル艦隊を後方に移動させろ。以後、ヴァーゲンザイル艦隊は予備に回す」

「では、中央は」

「我が艦隊が直に出る。これ以上の無様は許されん」

「はっ」

15000隻を擁するケンプ艦隊が出て来た事で、数の差から第三艦隊はじりじりと押され始めた。
とはいえ、現状ではケンプ艦隊が優勢というだけであり、今後の展開次第ではどう転ぶか不明であった。

「戦局は全体的に我が艦隊が押しています。ですが……」

「敵を突き崩すには至らないようだな」

「ええ、それに多少優勢になったところで敵総司令部の直属艦隊が出てくれば互角に戻されるだけかと」

「ふむ……ヴァルキリーを発進させろ。第一、第二戦闘艇部隊出撃用意!」

「閣下、今の段階で航空戦力を出しても然したる戦果は望めませんぞ。確かに、制空権を握ることで敵の行動に掣肘を加える――というのは可能でしょうが……」

「そうではない。こちらが戦闘艇を発進させれば敵も戦闘艇を出してくる。敵の航空戦力を奪い、戦局を出来るだけ単純化させるのが目的だ。シンプルであればあるほど戦力の多いこちらが有利となる。違うか?」

「はっ、仰るとおりです」

果たして、ケンプの予想通り第三艦隊は戦闘艇に戦闘艇を当てる方針をとった。

ルフェール軍の新型戦闘艇は銀河帝国の旧主力戦闘艇ワルキューレを凌ぐ性能を誇るものの、ヴァルキリーが相手ではまだまだ分が悪い。
撃墜されていくのは、ほとんどがルフェールの戦闘艇であった。

「空戦は我が方に有利です」

「そうか。では、次の段階に入るとしよう」

ケンプの作戦は、ケンプ艦隊が目前の第三艦隊を押し込み、開いた隙間に予備戦力のヴァーゲンザイル艦隊が入り込んで敵本営を叩くというものである。

これが成功していれば、指揮系統に大混乱を起こしたルフェール軍は大敗を喫することになったであろう。

だが、現実には総司令部直属の分艦隊司令であるロイド・ジーグ少将、カルスール・ミクロン少将2名の奮戦によりヴァーゲンザイル艦隊の前進を阻んだ。
ヴァーゲンザイル艦隊の動きが鈍かったこともルフェール軍にとって幸いであった。

先の戦闘でルフェール軍に嵌められたヴァーゲンザイルは罠の存在を過剰に警戒し、結果として消極的な行動に終始してしまったのである。
そして、本営の危機を察したルフェール軍の各艦隊が少数ながら分艦隊を援軍として差し向けると、包囲されるのを恐れてか作戦を断念して後退した。

「ヴァーゲンザイルめ、2倍の兵力差がありながら突破もできんのか」

「ですが、あの敵分艦隊の指揮官は中々の力量を有しているかと」

「それでも、あの状況で進攻を止められたのは単に奴の実力不足だ。それに勝手に退きおって……あの無能者が!!」

ケンプは吐き捨てるようにヴァーゲンザイルを罵る。
能力の有無はともかく、勝手な作戦中断は明らかにヴァーゲンザイルの失点である。

「もう奴には頼らん。この上はヴァーゲンザイル艦隊を戦力外とする」

当てにならないものは戦力として数えない――それがケンプの判断であった。

「しかし、そうなると戦力差ではこちらが不利になりますが」

「多少の不利は承知の上だ。それに先ほどの戦闘で敵の錬度は分かった。それ程低いわけではないが、我が方に比べると劣る。で、あれば正面からの力押しも一つの手だろう」

ケンプはそこで一度言葉を切り、命令を発する。

「全軍に全面攻勢を伝達しろ」

帝国軍の全軍が攻勢に出る。
銀河帝国軍の各艦隊の司令官は幾度の戦闘を経験してきた歴戦の実力者たちであり、彼らが一度本気になればルフェール軍司令官たちの及ぶところではなかった。

「スーン・スール中将の部隊が敵を突き崩しつつあります」

「エマーソンに連絡を入れろ。『敵を分断せよ』とな」

ケンプ艦隊の副司令官エマーソン大将はかつて自由惑星同盟軍の総旗艦リオ・グランデの艦長としてランテマリオ星域会戦などを戦った歴戦の将である。
退役間近の年齢ではあるが、その部隊運用には定評があった。

「今が好機だ。敵の中央に食い込み、一気に食い破れ!」

エマーソン大将の分艦隊は第三艦隊を真っ二つにするかの如く亀裂を入れていく。

「いかん、このままでは第三艦隊は分断される!」

第三艦隊の惨状に、ニトラスは慌ててジーグ隊とミクロン隊4000隻を援護に向かわせるが時既に遅かった。
第三艦隊は2つに分断され、各個に撃破されていく。

「仕方無い、あの部隊だけは使いたくなかったのだが……第一独立機動部隊に出撃を命じろ」

ルフェール軍の中で最後尾に位置していた部隊――第一独立機動部隊に司令部より出撃命令が発せられた。

300隻程で構成されるこの部隊――第一独立機動部隊――は、その全艦が痛艦である。
元々、ルフェールのような国家で軍艦にこのような塗装をすることは禁じられていたのだが、ミンディア星域会戦において銀河帝国軍の痛艦隊が大活躍したことから風向きが変わった。
一種の実験のような形で、痛部隊の創設が認められたのである。

この第一独立機動部隊の働きは凄まじく、自身の3倍の兵力を誇るオルゲン分艦隊1000を早期に撃退するなど目覚ましい活躍を見せた。

「僅か300隻余りでこれ程の戦果を叩きだすとは……厄介な敵が現れました」

「だが、所詮は寡兵に過ぎん。大兵力で包囲して殲滅せよ」

そう、如何に第一独立機動部隊が奮戦しようと兵数の不利は覆しようがない。
オルゲン分艦隊の他にラート、ハルツァ、ナイアルの3人の少将が率いる分艦隊2700隻に半包囲されてから部隊の半数を失うまであまり時間はかからなかった。

「第一独立機動部隊、損傷率7割を超えました!」

「さすがにこれ以上は持たんか……だが、時間は十分に稼げた」

第一独立機動部隊への対処にケンプ艦隊は全軍の2割以上を次ぎ込む破目になった。
その隙をニトラスは見逃さず、分断された戦力の再集結を行いつつもケンプ艦隊の薄い点に正確に砲撃を撃ち込んでその勢いを殺していく。
これにより、ルフェール第三艦隊は崩壊の危機を免れた。

「さて、一先ず危機は脱したものの……」

戦況は依然として不利であり、両隣の第五、第七艦隊はアイヘンドルフ、パトリッケン艦隊の攻勢に押されてこちらを援護出来る状況にない。
加えて、帝国軍には予備として後方に下げたヴァーゲンザイル艦隊が未だ8500隻程の規模で存在する。

ニトラスが『撤退』の二文字を真剣に検討し始めた時、

「第十三艦隊です、第十三艦隊が到着しました!」

「彼我の戦力差は逆転した。この好機を逃すな!」

第十三艦隊12000隻の増援を得たルフェ-ル軍は積極的に打って出る。
逆に、再度の攻撃を仕掛けようとしていたケンプ艦隊は機先を制された形となった。

「敵の援軍だと!? くっ……このタイミングで現れるとは!!」

ケンプ艦隊は既に突撃の態勢に入っており、今更陣形の変更など出来ない。
嫌でもこの形で激突しなければならないが、その場合数で劣るケンプ艦隊が不利である。

「ならば、増援が加わる前に砲火の一点集中で敵本営を叩く。火力の高い戦艦と砲艦を前衛に集中配備しろ」

ケンプにとってこれは賭けであった。
第十三艦隊の戦線参加前に総司令部を潰せればこのまま優位を維持できる。
が、出来なければジリ貧となり兵力を悉く消耗し尽くすだろう。

「配備、完了しました」

「よし、全艦……」

「後方に艦影多数! これは……ホルツバウアー艦隊です!」

旧アルノーラ王国領にて海賊退治に勤しんでいたホルツバウアー上級大将は、会戦勃発の報を受けグリニア星域へと急行してきたのである。

互いに援軍が現れたことで両陣営は迂闊な行動を行えなくなり、戦場は膠着状態となった。
そして、どちらからともなく軍を退き始めた。
これ以上の交戦に意味は無いと双方の司令官が判断したためである。

ここに、第二次グリニア星域会戦は終結した。


* * *


7月15日8時17分~同17時21分にかけて行われた第二次グリニア星域会戦は、全体で見ると然したる影響を与えなかった。
強いて言えば、この会戦が起きたことでルフェール軍の再編成が遅れた事と、銀河帝国軍のヴァーゲンザイル上級大将が最前線から外されたことぐらいであろうか。

しかし、戦略的に何の意味も齎さなかったこの会戦も政略的に考えれば時の政府――政権にとって十分有意義だったと言える。

そのため、ルフェール政府は第二次グリニア星域会戦の勝利を強調した。
実質は痛み分けに等しい形で会ったが、彼らにとってはどうでもよい事柄でしかない。

そんな政治的事情から、ゲイム大将とニトラス大将は揃って元帥へ昇進。
また、第三、第五、第七の3人の艦隊司令官も『グリニアの英雄』としてマスコミにクローズアップされ、第一艦隊の司令官に就任していたアルベイン中将と合わせて『ルフェール艦隊の四大提督』などと称されるようになった。

この結果、あまり有能とは言えないこの政権は支持率を回復し、もうしばらく続くこととなる。

反対に、銀河帝国では左遷されたヴァーゲンザイル上級大将に代わってシュナイダー上級大将がティオジア方面軍に配属された。

果たして、真の敗者はどちらであったのだろうか………。
 
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