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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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神明裁判 ①

一輝は森を走りながら、アジ・ダカーハを切り裂いて進んでいた。
本来であれば神霊と同等である第一世代を倒すことが、そう簡単であるはずがない。
それに劣るとはいえ、第二世代、第三世代も簡単に倒せるような敵ではない。
それでも、一輝は一太刀の下に切り伏せ、進んでいく。

今の一輝を構成している霊格は、大きく分けて六つだ。
一輝個人としての霊格、鬼道という一族の霊格、檻の中にいた妖怪、魔物、霊獣の霊格。
そして、神である蚩尤の霊格。

蚩尤一つでも十分なその霊格にさらに付け加えられ、今の一輝は人間の領域を完全に遺脱した、それでも人間であるという小さな矛盾を生んでいる。
それもまた霊格を強化する要素となり、たかが第一世代、おのれの霊格で押しつぶすことが出来る。

だが、それではゲームは終わらない。

アジ・ダカーハの分身体もまた、アジ・ダカーハと同じ性質・・・血より新たな世代を生み出すことが出来る。
一輝が斬り裂くと同時に新たな世代が生まれ、それを切り伏せると同時にまた新たな世代が生まれる。
湖札が言っていた『こんなギフトゲーム』という言葉は、この要素があるゆえのものだ。
その要素さえなければ、ギフトゲームは成立しているといえよう。いや、現時点でも成立はしている。
ちゃんと主催者、参加者の双方が勝利することは可能だ。
ただし、主催者が一方的に不利(・・・・・・・・・・)ではあるが。

「やっぱり、数の利は向こうにあるか。」
「その上、質もかなり上です。・・・今からでも遅くありません。兄様、ルールの変更をなさるべきかと。」
「・・・ダメだ、それは出来ない。」

スレイブの個人判断で一輝の体を動かし、背後から迫っていた第一世代を切り伏せ、その後から湧いてきた第二世代、第三世代を続けて切り伏せる。
スレイブ自身も、一輝の鍛冶神としての神格によって霊格をあげている。
その上で一輝が正面、スレイブが背後を担当した時点で死角というものは存在しない。

「何故ですか、兄様!」
「・・・コイツらに合わせてこのルールを変更した場合、俺以外の人まで巻き込むことになる。」

コイツらに合わせる、というのは目の前にいるアジ・ダカーハの分身体のことだ。
今回、一輝がゲームを開催したことによって分身体のほとんどは一輝のもとに集まってきた。
そりゃそうだ。一輝一人を殺せば、このゲームは終了するのだから。

今回のゲームにおいて、一輝は自分自身を危険にさらし、自分が勝利するのを難しくすることによって相手の行動を制限している。
そうして、範囲外に逃げた人たちの安全だけは確保したのだ。
・・・代償として、無限に近い数の敵を殺さねばならなくなるのだが。

「俺が何とかして敵の数を減らして、その間に求道丸が比較的力のない人たちを避難させる。」

求道丸は今、一輝から譲られた空間倉庫の中にそういった人たちを避難させつつ、ゲームの範囲の外まで逃げている。

「その避難が終わったら、次はその次に力のない人たち。だんだんと参加資格を剥奪して、範囲外に逃げていってもらう。・・・俺が言いたいこと、分かるな?」
「その上で言わせていただきます。私は、最後まであなたとともにいると」

一輝が水の刃で敵を切り伏せ、スレイブが勝手に動いて敵を屠る中、二人は言葉を交わす。

「確かに、それは可能でしょう。今はギフトカードに“裁くもの”と出て、参加しているものもいるでしょう。そういったものたちは、そのしるしが消えると同時に逃走へと向かう。ですが、それでは逃げないものもいます。」

そう、それでは逃げないものもいる。

一輝は当初、そういった人たちのためにギフトゲームの禁則事項を一つ、作るつもりでいた。
すなわち、“参加者の、ゲームに直接関係ない生物、物質、非物質への関与を禁止する”と。
だが、それをできるほど、ゲームに余裕がなかったし・・・何より、一輝という人間がそれにそぐわなかった。

一輝という人間が正義の味方のように動いていたのなら、人からそう認識されていたのなら、違ったのだろう。
正義の名の下に悪を裁く。その名目を掲げた時点で、一輝にはそのルールを設定する権利が生まれる。・・・でも、一輝はそんな人間ではない。
自分が育った一族は“外道”とよばれ、一輝のいた時代ならそこまで酷くはなかったものの、それよりも前の、はるか昔の時代において、人にあだ名す存在を退治してきた彼らに民から与えられたのは、多大な畏怖。忌むべき鬼の名。人でないとする、はっきりとした差別。
彼らにとって、“鬼道”は悪であり、同時に強すぎたために手を出すことの出来ない存在であった。

そんな一族のほぼ全てを一身に受けた一輝が、正義を名乗れる道理があるであろうか。
箱庭という世界のシステムによって今は魔王の位に落ちていないが、本人のほんの少しの感情の変化によって、簡単に魔王の位に落ちてしまう。
そんな危うい綱渡りのような道を、さらに中国において悪を率いた蚩尤の名を使って主催者権限を得たのだ。

だからこそ、一輝は一番望む形でのゲームを開催することが出来ず、さらには自分側のプレイヤーまで存在するという状態でのゲームの開催を余儀なくされた。

「・・・そんなことは分かってる。それに、ただでさえ危ない身を、それでも危険にさらしてるんだからな。」
「せめて、それだけでも解除しましょう。あの方も、それで気分を悪くすることはないはずです。」
「いや、ダメだ。それは出来ない。・・・これは、俺の意地だけどな。」

一輝はそう言いながら、近くに来ていた分身体を切り倒し、再び現れた分身体を水の水圧で押し流す。
最初は、一輝は狐火によって血を蒸発させ、新たな世代が生まれるのを防ぐつもりでいた。
だが、相手は拝火教の神霊。火を与えてはダメだと気づき、それからは余裕がない場合は流すことにしているのだ。

「・・・なら、最後までお付き合いしましょう。最初の目的はなんですか?」
「そうだな・・・とりあえず、」

そう言いながら一輝は倉庫を開き、その中にあった大量のペットボトルを斬り裂き、

「コイツらを、全滅させる。」

本来は出来ないはず。だが、水を操り、弾丸のように発射し続け、分身体を掃討していく。
新たに生まれては死に、どんどん数を減らしていき・・・最後には、新たな世代すら作れなくなって終わる。

それでも、息をつくまもなく新たな分身体が現れ、一輝の前に立ち塞がる。

「・・・それから出来ることならマクスウェルと本体を叩きたいんだけど・・・」
「まだ、道は長そうですね・・・来ます!」

相手が動くのと同時に、一人の人間と一振りの剣は殺戮を開始した。
 
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