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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep8反時空管理局組織テスタメント~Omnipotent Traitor~

「御心配おかけして申し訳ありませんでした、主はやて」

「ええよええよ。まぁシャッハや2031航空隊の人から連絡あってビックリしたけどな」

「そうだぜ、シグナム。買い物先でテロリストと戦って負傷した、なんて聞かせられたら、あたしだってビックリだ」

「でも無事だったから良かったものの、シグナムをこうも簡単に落とすなんてありえないです。相手は一体何者なんですか?」

現在、はやてとリインフォースⅡとアギト、そして搬送された聖王医療院で治療を終えたシグナムは、八神家へと帰る為に八神家の有する車の中にいた。
はやてたち三人は、シグナムが戦闘で負傷し聖王医療院へと搬送されたという連絡を受け、急いでレールウェイで聖王医療院へと向かい、すでに回復していたシグナムと会った。
そこで聖王教会のシスターであるシャッハからシグナムの容体を聞き、問題無しということでの帰宅途中だった。

「白のロングコート、フードを深く被った男で、グラナードというコードネーム。召喚魔法陣を使っていた事から召喚士かと問い質してみたが、どうやら違うらしい。それに、我々が“夜天の魔導書”の守護騎士プログラム・“ヴォルケンリッター”という事を知っていた」

「なっ!?」

運転中のはやてが動揺したことで車が激しく揺れる。リインフォースⅡとアギトから「ひゃぁう!」小さく悲鳴が上がる中、はやては動揺を押し殺して立て直す。

「ちょっ、ちょっと待ってシグナム! その情報を知るんは局でもほんの一握りや! それやのに何でテロリストがそんな事を知っとるん!?」

「主はやて、私もさすがにそれは分かりません」

「あ・・・・ごめん、シグナム」

「いえ」

静まり返る車内。重い空気のまま、はやての運転する車は八神家へ向かって走り続ける。その重く静まり返った車内に、通信が入ったことを知らせるコールが鳴る。

『突然申し訳ありません』

「ギンガ? どないしたん?」

助手席の前面にモニターが展開された。そこに映るのは陸士108部隊のギンガだった。はやてにはさっきまでの動揺はなく、今度は管理局員としての顔でギンガに訊ねる。ギンガの纏う空気が、明らかに緊急の何かが起こったことを感じさせるからだ。

『あの、すいません八神司令。説明はあとでしますので、まずはこちらをご覧ください』

『反時空管理局組織“テスタメント”である』

ギンガの映るモニターに重なるようにして展開されたモニターに映る男が告げた“テスタメント”という言葉に、はやてが運転する車は急ブレーキ、路肩へと停車した。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

――同日/時空管理局本局・医療施設

『反時空管理局組織“テスタメント”である』

モニターに映る金の刺繍が施された白コートを纏う、永遠なる不滅者ディアマンテの口から告げられた“テスタメント”という単語に反応する者がいた。反応した者というのは、元“機動六課”のメンバーだ。
今この場に居るのは、誠実なる賢者サフィーロ戦で負傷したフェイト、祝福なる祈願者ノーチェブエナ戦で負傷したティアナ、その二人の治療を任されているシャマル医務官。シャマルの護衛であるザフィーラ、フェイトの補佐官シャリオ、そしてヴィヴィオも居る。
ユーノとヴィヴィオの友達であるコロナとリオは居ない。ユーノはノーチェブエナに奪われた三冊の本についての調査に入り、コロナとリオはすでに自宅へと局員護衛のもと帰宅させられていた。

「テスタメントって・・・・そんな・・・!」

シャマルが震えた声でそう言った。他の者たちも声には出さないが、誰もが同じ事を思っている。そんなことは有り得ないと。

「世界を、人を滅びから護るのがテスタメントじゃないんですか・・・!?」

「いや、フライハイトの言葉を思い出せ。界律の命によっては滅ぼす事も有り得るのだ。ならば、セインテストが向こう側にいるのはもしや・・・・」

ティアナにそう返すザフィーラ。今この場に居る者にはすでにルシリオンが敵の一人であるという話が行き亘っている。確かに“界律の守護神テスタメント”は、多を護る為に少を滅ぼすのも一つの役目としてある。しかしそれは、今モニターに映るのが本当に“界律の守護神テスタメント”であれば、の話だ。

『最近の時空管理局の不祥事は目に余る。レジスタンスという者たちはよく分かっている。法を守り、民を護る局員が悪事に加担する。実に愚かだ』

ディアマンテはモニター越しにでも分かるように大きくため息をついた。心底時空管理局に対して呆れ果てているという風だ。

『かつて誰かがこう言っていた。管理局は警察や裁判所が一つになったような組織だと』

それは、幼少の頃のなのはが口にしていた言葉だった。

『これをおかしいと思わないのかね? 実に恐ろしい事だ。それはつまり裁判時には、検察官、裁判官、弁護人を全て管理局が兼ねている事を意味する。どうだろう? どう見てもこれは不公平を具現したようなものだ。場合によっては管理局の面子や利益のために、凶悪事件などがもみ消されることだって考えられる』

この放送を見聞きしている管理局上層部はすぐに電波ジャックを止めるように指示するが、魔法とは別の力が働いている事で不可能となっていた。

『もみ消された事件で一体どれだけの人間が泣いた? それに、魔法・魔導師至上主義における被害と犠牲、これも嘆かわしい。そのような主義による反動、何か分かるか? 今君たちが抱える問題だよ。慢性的な人手不足。その所為で未然に防げる事の出来た事件にも後手に回り、無意味で不必要な被害と犠牲が出る』

それはレジスタンスも掲げている話だ。彼らはそれをどうにかしようと行動を起こし、そして管理局によって逮捕される。

『その人手不足を解決するための一つとして、まだ幼い子供を鍛え上げるという愚行にも手を染める。才能があったから管理局へ入局させ、危険な前線に送り、そして犠牲者となる。可哀想に。その子供は才能があったからというだけで管理局に殺された。
死ぬようなことはなくとも、それでも未来の選択肢を一方的に閉ざされている事には変わりあるまい。どうだ、否定は出来まい? 何しろ事実なのだから』

永遠なる不滅者ディアマンテの言葉に、白コートの内の一人の身体が震える。見た目は小柄で、それはまだ子供のような体格だった。

『その他にも、管理外世界で見つけた才能ある子供をスカウトし、現に管理局に勤めさせている。その子は過労によって一度撃墜され、日常生活にも支障が出るほどの怪我を負ったそうではないか』

明らかになのはの事を言っているのを、この場に居る全員が分かっていた。

『それでもその子は懸命にリハビリを行い現場復帰、今でも勤めている。さらに犯罪者であっても司法取引で管理局に従順を余儀なくするなどもあるな。五年前のJ・S事件での加害者側の何人かが、今では管理局や聖王教会での厚待遇を受けているらしいではないか。前科者を受け入れるほどまでに切羽詰まっている諸君ら管理局、実に大変そうだ』

ディアマンテはそう言い終えた後、しばらく黙った。モニター越しから伝わる沈痛な空気。

『言いたいことはあるが本題に入ろう。君ら時空管理局に朗報だ。我々テスタメントは独自に次元世界に蔓延る危機を救おう。考えも無しに百幾という世界管理を一手に引き受ける馬鹿な――おっと失礼、そんな努力家な君たちにとって嬉しいニュースだろう。まぁそれを理解しつつさらなる管理拡大を止めようとしないのはいかがなものか、とは思うがね』

ディアマンテは呆れと嘲笑が入り混じった言葉を吐き捨てる。だがそれを真っ向から否定できることは出来ない。何せそれもまた人手不足の原因であり、歴とした事実なのだから。

『無論、君ら時空管理局の手は一切借りない、借りつもりなど毛頭ない。組織内で愚かで無様な権力、派閥争いを行っている君らの手を借りたとあっては、こちらもそんなくだらない争いに巻き込まれかねないのだからね』

いちいち癇に障る言い方を止めようとしないディアマンテのそれは、完全な挑発行為の何物でもなかった。個人的な恨みでもあるかのようだ。

『そうだな、期間は一ヵ月としようか。その間に次元世界で起こる事件を多く解決した方を勝ちとしよう。不謹慎だと分かってはいるが、それが一番分かりやすい方法だろう』

「な・・・!?」

「な、何を言っているんですか、この人たち・・・」

『市街地に攻撃しておいて何を言っているのだ、こいつ?と思っている者もいるだろう』

この放送を見聞きしている者たちの思考を呼んだように、ディアマンテはその返答を口にする。

『理由は二つ。一つ、市街地への攻撃は一種の罰のようなものだよ。方法は兎も角として、我々やレジスタンスのように行動を起こそうとしなかった連中に対してね。護られているだけで、何か問題が起これば自分たちを護る者へ誹謗中傷するだけの者たち。それに対しての罰だ。
魔法攻撃による犠牲者はいないだろう? 多少の混乱だけを与えただけだ。さすがにこうまで偉そうに言っている我々が殺人を犯しては笑い話にもならない』

それが市街地への魔法攻撃の理由だった。全て人任せで行動を起こそうともしない市民への罰。

『二つ、局の我々に対する対応までの時間を計らせてもらった。ミッドチルダとカルナログはまあ及第点だったな』

「運も良かったのだろうが」と付け加えるディアマンテ。

『だが、ヴァイゼン、フェディキア、エルドラド。この三つはアウトだ。遅い、遅過ぎだ。あまりの対応の遅さにこちらから撤退命令を出したくらいだ。これもまた魔法・魔導師至上主義による人手不足という障害によるものだな。同じ世界内での問題に一体どれだけ時間をかけるつもりだ? フッ。この勝負、我々の勝利で終わりそうだ』

顔は見えずとも声色からして自信が漲っているのがよく分かる。

『もし万が一にでも我々テスタメントが負けた場合、そちらの言う事を何でも聞こう。管理局は人手不足なのだろう? 我々が管理局に入ろうじゃないか。今君らの視界に入る我々、白コートを纏う幹部は全員AAA+ランク以上の魔導師たちだ。喉から手が欲しいほどの戦力なはずだ。それを一気に十四人も手に入れられる。
どうだろうか? これは破格な取引内容だとは思うんだがな。司法取引でも何でも用意してくれたまえ。君らの安いプライドなら何でも出来るだろう? では、これから一ヵ月、お互いに頑張ろうではないか。魔法・魔導師至上主義の時空管理局か、魔法・質量兵器を含めた新たなる次世代管理組織テスタメントのどちらかが勝利するのか』

ディアマンテは最後にそう告げ、通信を切った。“テスタメント”からの一方的な通信に、本局を始めとした各主要施設の局員たちは静まり返る。

「勝手な事を・・・・!」

「フェイトさん・・・」

フェイトは拳が赤くなるまで強く握られている。

「セインテスト君は、どうして彼らの仲間に・・・?」

「それは・・・・それは?」

シャマルの疑問には誰も答えられない。それにいきなりの話で誰の頭の中にもある疑問が浮かんでは来なかった。もし“テスタメント”が勝てば、一体何を要求してくるのか、という疑問を。ディアマンテは最後まで、彼ら側からの勝った際の要求を口にしていなかった。

「レヴィに訊いてみよう。レヴィならルシルパパの事を知ってるはずだよ」

ヴィヴィオの希望ある言葉に、この場にいる全員が頷いた。フェイトはベッドの上で静かに「ルシル」と呟き、何かしら決意した瞳で左小指にはめられた指環を見、右手でそっと撫でた。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

――同日/PM16:20/辺境無人世界
反時空管理局組織テスタメント旗艦“フリングホルニ”艦長室――


「ふぅ、こんなところだろうか」

時空管理局主要施設への通信を切ったディアマンテは一息つく。立ち上がり、“赤い本”を自らの指導者である至高なる卓絶者ハーデへと渡す。

「おいおい、オレらは管理局に下るつもりはねえよ?」

陽気なる勝者グラナードはおどけた風にディアマンテにそう告げる。ディアマンテはそれに「当然だ」と前置きし続ける。そして自らの座へと戻り、ドサッと勢いよく腰かけた。

「ここに集う我々の大半は、管理局の歪んだ正義の名の下にその人生を狂わされたのだ。歪みの元凶である現体制の管理局に従順するなど、生き地獄の何物でもない。それ以前に我々が管理局に負ける通りは無い。一つの隊を動かすのに何十分と掛ける連中だ。こちらが事を終えた頃にようやく姿を現すだけだ」

怒りと憎しみを含ませながら、怨敵時空管理局の名を口にするディアマンテ。
それに頷き賛同する者も少なくない。彼ら“テスタメント”の幹部である白コート集団には管理局に恨みを持つ者が多かった。今回、時空管理局に持ちかけた一方的な勝負も復讐――ともう一つの目的への一歩に過ぎない。

「ですがどうするんです? 数では向こうの方が圧倒的だ」

「話を聞いていなかったのか、聡明なる勇者(アグアマリナ)。向こうは数はあってもそれの使い処がメチャクチャだ。全く成っていない。元管理局員であるなら解るはずだろう?」

堅固なる抵抗者(マルフィール)の言う通りだ。無駄に拡大した組織ほど脆いものは無い。我々に割く人員も僅かだろうな。幾人かの精鋭を送り込んでくるだろうが、こちらには現代において最強である戦力がいる。それだけで向こうの連中は為す術が無くなるだろう」

若い男性の声のする聡明なる勇者アグアマリナの疑問に答えるのは、堅固なる抵抗者マルフィールとディアマンテ。三人は黙したまま、艦長席の窓から差し込む夕日を眺めていた誠実なる賢者サフィーロへと視線を移す。彼らの言う、最強の戦力を唯一従わせられることのできる彼に。

「俺ら報復せし復讐者(カルド)隊は、忌わしきヴォルケンリッターを殺せればそれでいい。だからお前らは俺らの邪魔を絶対にするなよ、いいな? 特に祝福なる祈願者(ノーチェブエナ)――お前が一番の問題だ。当然お前にも怨みはある。だがボスからの仲間討ちは禁じられているから仕方なく見逃しているんだ」

報復せし復讐者カルド隊の隊長・報復せし復讐者カルドはそう吐き捨て、至高なる卓絶者ハーデに一礼をしてから部下二人を連れて艦長室を後にした。憎しみの視線を浴びた祝福なる祈願者ノーチェブエナは黙したままだった。その彼女に歩み寄り肩を叩くのは、数少ない女性幹部五人の内の一人だった。

【あなたはあなたの為したい事をした方が良いと私は思う。私や、たぶん聡明なる勇者(アグアマリナ)だって復讐とは違う個人的な目的でこの組織にいるのだしね】

敬虔なる諦観者(アマティスタ)・・・・】

ノーチェブエナに敬虔なる諦観者(アマティスタ)と呼ばれた女性は、カルド隊と同じようにハーデに一礼をしてから艦長室を後にした。それから続々とハーデに一礼して艦長室を後にしていく。艦長室に残ったのは“テスタメント”の指導者ハーデ、その使い魔であるサフィーロ、そして十代前半くらいの体格を持つ潔白なる聖者トパーシオの三人だ。

「サフィーロ、トパーシオ。私はこの“赤い本(まどうしょ)”を手にしたことで力を手に入れました。だから前々から考えていたこの計画を実行に移すことが出来ました」

纏っていた白マントを外し、白コート姿を露わにするハーデ。その体格と声からして女性で間違いない。そんなハーデのコートに手を伸ばしキュッと掴むトパーシオの小さな手。ハーデは「ありがとう」とトパーシオの小さな手に自らの手を重ねた。するとトパーシオはそれが嬉しいのか小さく笑いだす。可愛らしい女の子の声だ。

「・・・・サフィーロ、最後まで私に付き合ってくれますか?」

夕日に染まる艦長室で向かい合うハーデとその使い魔・サフィーロ。サフィーロは静かに片膝をつき右手を胸に当て、最大の敬意を以ってこう告げた。

「イエス、マイマスター」

◦―◦―◦―◦―◦―◦

――同日/ミッドチルダ首都クラナガン/八神家

「そっか、テスタメントにはルシル君がおるんやね・・・」

はやてはリインフォースⅡとアギトが淹れたお茶を飲みながら沈痛な面持ちでそう漏らした。
現在、八神家宅にいるのは八神家全員だ。はやて達は帰宅途中の車内で観た“テスタメント”からの一方的な通信の内容の再確認。そして時空管理局本局から戻ってきたシャマルとザフィーラから本局で起こったことを聞き終えていた。

「そうなんです。しかも何も憶えていないみたいなんです。テスタロッサちゃんのこと、ヴィヴィオちゃんのことも・・・全部・・・」

「マジかよ・・・。演技とかじゃねぇのか?」

軽く半泣き状態のシャマルの言葉に、カルナログから帰ってきたヴィータが訊き返す。それにシャマルは「それは分からないけど」と返した。情報があまりにも少なさすぎた。ルシリオンの事、“界律の守護神テスタメント”の事、反時空管理局組織“テスタメント”の事。

「そういう事に関しての話ならレヴィに訊いてみたらどうだ? あの者ならセインテストや界律の守護神(テスタメント)の事に詳しいだろう」

シグナムが神妙な顔して一つの提案を出した。“界律の守護神テスタメント”の事に詳しいはずの元“絶対殲滅対象アポリュオン”のレヴィ・アルピーノに訊けばいいのではないか、と。

「それならヴィヴィオちゃんが家に帰ってから訊いてみるって言ってたわ」

「・・・何か分かるといいですね。フェイトさんのためにも・・・」

「そやな・・・・」

はやては何か深く考え、悩んでいるようだった。アギトは意を決して何について考えていて、悩んでいるのか訊いてみた。

「マイスター・・・? 何か心配事か・・・?」

「・・・もし、もしもテスタメントと戦闘になったら、私たちは勝てるんかなって。ルシル君の実力は私たちが良く知っとる。魔術師としての実力を」

八神家は思いだす。ルシリオンが一体どれだけバリエーションに富んだ存在かを。あらゆる属性を担い、あらゆるレンジに対応し、あらゆる魔法を複製し、空戦最強とされた元管理局員。
それ以前に、

「もし、ルシル君が界律の守護神としてこの世界に呼ばれて、私たち管理局に敵対するってゆうんやったら、それは絶対に勝つことは出来ひん」

五年前、終極テルミナスに操られて強制的にテスタメント・ルシリオンと戦った事を思い出すはやて。干渉能力と呼ばれる、世界の力そのものを扱う圧倒的な戦闘能力。それを使われれば、戦う以前の問題となってしまう。

「そうじゃねえ事を祈るしかねぇ・・・か」

「ヴィヴィオから良い報せが来ればいいんだが」

「そうね」

暗い雰囲気に包まれる八神家の夜は更けていく。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

ミッドチルダ北部タウブルク住宅街/高町家

ヴィータと同じくしてカルナログから帰ってきたなのはは、ヴィヴィオと一緒に食事と入浴を済ませ、自室である作業を始めようとしていた。

「ルシル君があの白いコート――テスタメントの仲間だなんて。しかもフェイトちゃんやヴィヴィオの事も憶えていない・・・・。そんなのって・・・悲し過ぎるよ・・・・」

ヴィヴィオから時空管理局本局で起きたことを聞いたなのは。ルシリオンが、今日カルナログで戦った堅固なる抵抗者マルフィール隊の仲間で、しかも両想いだったフェイトの事すら憶えていないという事実が、なのはの心を抉っていた。
そんななのははヴィヴィオから話を聞いてすぐにフェイトと連絡を取った。思っていたよりフェイトに落胆の色はなく、なのはは安堵した。以前のように激しい落胆、塞ぎ込むのではないかと心配していたのだ。
フェイトの様子を確認したなのはは今、管理局のデータベースにアクセスしていた。マルフィール隊の隊長マルフィールの正体であろうデミオ・アレッタ三佐の事を調べるためにだ。管理局員名簿からデミオ・アレッタを探し続けて数分、ある事実へとなのははたどり着いた。

「え・・・? うそ? これって・・・どういうこと・・・?」

なのはは目に映る情報に混乱しだした。
間違いなくマルフィールの正体はデミオ・アレッタ三佐だと思っていたのに、デミオ・アレッタの欄にそれはあり得ないことだと証明する二文字がハッキリと映し出されていた。そう、デミオ・アレッタの欄には“死亡”という二文字があったのだ。

「デミオ・アレッタ三等空佐・・・殉職で二階級特進、一等空佐。新暦67年に第22管理世界での緊急任務中、同隊のエスティ・マルシーダ二等空尉とヴィオラ・オデッセイ二等空尉と共に消息を断つ。その半年後に同世界において三人に遺体が発見される。死因は転落死。天然のAMFによる飛行魔法のキャンセルによるものと断定」

読みあげたデミオ・アレッタの情報に、なのはの唇が震えだす。恩師の死を今の今まで知らなかったという罪悪感が彼女を襲った。
そして、今日、カルナログ出会ったマルフィールは本当に別人なのかという疑問。声は似ていた。しかしそれは十何年も前に聞き、今となってはおぼろげだ。同じ魔法を使っていた。それは誰かが受け継いだのなら有り得る事だ。彼女もまたティアナにスターライトブレイカーの集束技術を教えていたのだから。

「でも・・・」

妙な共通点はあった。死亡直前まで行動していた部下が男女二人。そして今回、姿を現した時も男女二人の部下を随伴させていた。普通なら偶然が重なったというだけで済ますような共通点に過ぎない。

「ルシル君が向こう側にいるんなら・・・・。でも、それはやっぱり有り得ない事なのかな・・・・」

なのははデスクの上に突っ伏した。

「シャルちゃん・・・。分からないよ、シャルちゃん・・・」

なのははデスクの引き出しの中から一つの小さな箱を取り出す。そっと優しく箱を開けると、そこには大切に納められている指環が一つ輝いている。それはルシリオンと同じくしてこの世界を去った親友の一人、シャルロッテのデバイスの“トロイメライ”だった。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

――同時刻/高町家/ヴィヴィオ私室

モニターに向かって誰かと話をしているヴィヴィオ。

『――そう、ルシリオンが。でもよく生きて帰れたね、ヴィヴィオ。敵となった状態のルシリオンと戦って生き残るってとんでもない事だよ』

「あ、うん。レヴィ」

モニターに映りヴィヴィオと話をしている少女、名をレヴィ・アルピーノ。紺色の長髪を大きなリボンでまとめてサイドアップにし、そして透き通った翠色の瞳をした少女だ。
元は“アポリュオン”のナンバーEX“大罪ペッカートゥム”の一、許されざる嫉妬レヴィヤタンという人外の存在だった。そんな彼女レヴィは、今では人間として生きており、ヴィヴィオの友達の一人でもある。

「でね、レヴィ。訊きたいことあるんだ」

『ルシリオンがこの世界にいる理由、だね。でもわたしもそう詳しいわけじゃないの。知っている事と言えば界律の守護神(テスタメント)の漆黒を担う第四の力の座に就く反則存在。今でも生存している不完全な守護神、ということくら―――』

『あれ? レヴィ、誰と話して・・・・あ、ヴィヴィオ! こんばんはー!』

モニターの向こうが急に騒がしくなる。レヴィの話の途中で乱入してきたのは、彼女の姉であるルーテシア・アルピーノだ。レヴィは、いきなり背後からルーテシアに抱き着かれた事でデスクにゴツン☆と顔面着陸していた。

「ルールー、こ、こんばんは・・・。えっと・・レヴィ、大丈夫・・・?」

ヴィヴィオはルーテシアに挨拶を返してから、デスクに顔面着陸したままのレヴィに声をかける。レヴィは起きない。それはまるで死人☠のようだ。

『レヴィ? あれ? ちょっと、大丈夫?』

ルーテシアは抱き着いていたレヴィから離れ心配そうに声をかける。それでもレヴィは起きない。もう手遅れのようだ。

「え? ホントにレヴィ大丈夫なの?」

さすがにヴィヴィオも様子が変だと分かり、椅子から立ち上がってルーテシアに訊く。ルーテシアも本当に心配になり、突っ伏したままのレヴィの身体を揺すろうとしたそのとき、

『ナパーム・・・・デス!!』

『うげっ・・・!?』

――DESTROYED――

「えええええええええええええええッ!!?」

急に立ち上がったレヴィの頭突きがルーテシアの顎にヒットする。カエルが潰れたかのような声を上げて、ルーテシアはレヴィの自室の床に沈んだ。

「ヴィヴィオ!? どうかした!?」

「え、あ、な、何でもないよ! 大丈夫だから!」

廊下からなのはがそう訊いてきた。それに慌てて返すヴィヴィオ。なのはは「そう。でも夜も遅いから静かにね」とだけ告げて戻っていった。ヴィヴィオも「ごめんなさい」と謝って、モニターに映るレヴィへと視線を戻した。

「えっと、大丈夫だった、レヴィ? あとルールーも」

『わたしは大丈夫。石頭だしね。ルーテシアも大丈夫。こんなの日常茶飯事だし、お互い慣れてるよ♪』

そうは言うレヴィだったが、涙目で頭頂部を擦っていた。かなり痛かったらしい。

『で、さっきの続きだけど。ごめん、ヴィヴィオ。わたしもよくは知らないの。役に立つ情報を持っていれば良かったんだけど・・・」

「あ、ううん。気にしないで、レヴィ。わたしもこんな夜遅くにごめんね」

『時間の事なら大丈夫なんだけど。ヴィヴィオ、フェイトさん達に無茶はしないように伝えて。どうしてルシリオンがこの世界に再び現れたのかは分からないけど、きっと何か理由があるはず』

「うん、分かった、ありがとう。おやすみ、レヴィ」

『おやすみ、ヴィヴィオ。・・ほら、起きて、ルーテシア。さっさと――』

レヴィとの通信が切れる。ヴィヴィオはデスクの上に置かれた自分とルシリオンの2ショット写真を寂しそうに眺める。おぼろげだが、ヴィヴィオの心に残るルシリオンとの確かな思い出。温かく優しいルシリオンの手で頭を撫でられると気持ち良かった。肩車をしてもらって楽しかった。絵本を読んでもらって嬉しかったなど。

「ルシルパパ・・・・」

ヴィヴィオは写真立てを抱きしめながら声を殺して泣いた。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

“テスタメント”が時空管理局・主要施設に流した映像を、またいくつかの主要管理世界の大都市へと流した翌日。民間人の反応は様々だった。馬鹿な事を、と取り合わない者。そうかもしれない、と本格的に悩みだす者。“レジスタンス”に至っては賛同者ばかりだった。そして大都市へ流れた映像には続きが追加されていた。

『我々テスタメントに賛同し、共に戦おうとする者たち。来たれ。我々は待っている。集え。我々は待っている。そして管理局の局員諸君。我々を止めたければ止めに来るといい。我々も君たちを別の意味で歓迎しよう。待合の場所が判れば、の話だが』

この放送の後、“レジスタンス”の溜まり場である施設に“テスタメント”の待つ場所とタイムリミットが記されたデータが送信されてきた。その場所の一つはミッドチルダ北部に位置する廃棄都市区画。場所を確認した“レジスタンス”は一斉に行動を開始する。
そしてここミッドチルダ西部の都市の一画にある喫茶店。客の一部が慌ただしく店を後にしていく。彼らは“レジスタンス”の一員だった。そんな彼らを見ている者が二人。

「おい、今すぐ隊に連絡を。奴らはテスタメントとの待合場所へ向かうはずだ」

「ああ。レジスタンスとテスタメントを一網打尽に出来るかもしれない」

この地区を担当する地上部隊108隊の隊員だった。“レジスタンス”の溜まり場として利用されているこの喫茶店での潜入捜査中に運良く“テスタメント”からの放送があった。
この隊員たちから報告を受けた108部隊の隊長ゲンヤは時空管理局本局へ応援要請。“テスタメント”の白コートを纏う幹部と本局所属の魔導師が再び相見えようとしていた。



 
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