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ふざけた呪い

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第六章

 最下位地獄から脱出した、しかも。
 その翌年だった、星野は奇跡を起こした。
 何とリーグ優勝を果たしたのだ、それもあれよこれよという間にだ。このことに関西だけでなく日本中が再びフィーバーに包まれた。
「ほんまに優勝したわ!」
「奇跡や!」
「星野さんやってくれたわ!」
「猛虎復活や!」
「夢みたいや!」
 まさにそれだった、誰が見ても。
 かつて中日のエース、そして監督として阪神を苦しめたとはいっても阪神ファンは巨人以外には極めて寛容なのでこのことは覚えていないがそれでもそうしてきた星野が阪神に奇跡をもたらしたのだ。このことに喜ばない筈がない。
 星野は神となった、バースに匹敵する。
 阪神ナインも英雄となった、そしてその中で。
 ファン達ははっとだ、あのことを思い出したのだった。
「待つんや、これでや」
「ああ、あの呪いやな」
「ケンタッキーのおっさんの呪いやな」
 またここでカーネル=サンダースの呪いの話が出たのだ。
「星野さんが優勝をもたらしてくれたけどな」
「それでもあのおっさんまだお水の中やしな」
「どうせわし等道頓堀に飛び込むんや」
 もうこれは既定路線になっていた、恒例行事である。言うならば大韓民国の大統領が退任した後で逮捕される様なものだ。
「それならや」
「ああ、そやな」
「まだ道頓堀におるかはわからんけど」
 今は太平洋に流れているという説があった。
「探すか、おっさん」
「ひょっとしたらまだ道頓堀におるかも知れんしな」
「お堀の中探すか」
「それで若しまだ道頓堀におったらや」
 その時はというのだ。
「出してな」
「そんで解放するか」
「呪い解かなな」
「優勝したこの時こそそうせなな」
「さもないと呪いがずっと続くわ」
「また暗黒時代とか嫌や」
 探す理由はこれに尽きた。
「これまで長い暗黒やった」
「わし二十二世紀まで続くと思ったで」
「わしもや」
「ふたりっこで二十一年連続最下位とか言ってたしなあ」
 ドラマでも言われることだった、しかもNHKの朝のドラマでだ。阪神の暗黒時代は最早日本国民の共通事項になっていたのだ。 
 だからだ、その暗黒の呪いを避ける為にだ。
 阪神ファン達は優勝し道頓堀に飛び込むことを機としカーネル=サンダース像を探すことにした。そして二〇〇九年、この優勝から結構経ってからだった。
 カーネル=サンダース像は見つかった、だが上半身と下半身は分かれており長年に渡る堀の中での生活でかなり汚れていた。その汚れた身体を見てだった。
 阪神ファン達は思った、それはまさに。
「呪いや」
「恨みや」
「怨みの顔や」
 それをその顔から感じ取ったのである。
「やっぱり阪神を呪ってたんや」
「わし等が放り込んだせいやな」
「それで阪神に祟ってたんや」
「間違いないわ」 
 こう確信したのだった、そしてあの優勝の時の監督の吉田もだ、この話を聞いてしみじみとしてこう言ったのだった。 
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