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エターナルトラベラー

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エイプリルフール番外編 【Force編】

 
前書き
これは漫画が途中で連載中止されて完結されていないので好き勝手やってみると始めたのですが…やはり完結していないのは難しいですね。とりあえず、いつものリオ編ではあるのですが…やはり多くの理由によりお蔵入りしていました。 

 
あたし、リオ・ウェズリーがアオお兄ちゃん達との再会から二年が経った頃。

あたしは文通友達の居る無人世界にある開拓村へと一人で遊びに来ていた。

もちろん、道中は管理局員の人がたまたまその開拓村へ行くと言うので、ちょっとしたコネで同行させてもらったので、特に問題は無く、ただ滞在期間はその管理局員の人に合わせて帰るので、ほんの数日の日程での旅行だ。

その村は本当に何もかもが素朴で、ミッドチルダと比べるまでも無い。周りは木々に覆われているような所で、それでもそこに住む人たちの笑顔はどの世界も変わらない物だと思う。

ミッドチルダからのお土産はとっても喜んでもらえたし、自然の多いこの世界はとてもゆっくりと時間が過ぎているよう。

一時都会の喧騒を忘れられる穏やかな時間。

そんな時間が、ただの一人の狂人により壊される事になるとは、一体誰が思おうか。

「うわっ…遅くなっちゃった…」

余り人の目が届かないのを言い事にあたしはちょっと村を離れた所で一人で念や輝力の修行をしていたのだが、夢中になりすぎてすっかり辺りは暗くなってしまってた。

あたしは慌てて村への道を駆け戻る。文通相手の友達にどう謝ろうか考えていた所、やっとたどり着いた村は様変わりしていた。

「なに…これ…」

目の前に映るのは何かの肉塊、それとまだ原型を止めているものの切り殺された人、ヒト、ひと…

「チョコラ…?小父さん…小母さん…っ!」

所々破壊の後が見え、村の原型しか残っていないが、あたしは記憶を頼りにあたしの友達の家へと走る。

「あ、…あっ…ああああああっ!!!!」

大丈夫、きっと大丈夫と呪文のように唱えていたその言葉は血を流して横たわるその人影により打ち砕かれてしまった。

駆け寄り、抱き上げ、心臓が動いているか、呼吸をしているかを確かめるが、反応は無い。

ガサリと後ろで物音がたった。

「まだ生き残りがいたか…だがなぁそこのチビすけで最後だろう」

振り向けば、小さな銃剣のようなデバイスをもったチャラけた男性が立っていた。

「貴方がやったんですか?」

「見れば分かる事だろう?まぁ今からお前もそいつらのお仲間になるわけだがな」

「…そう…ですか…っ…あなたがっ!!」

怒りに呼応するかのようにあたしの背後に紋章が浮かび上がり、輝力を合成する。

『スタンバイ・レディ』

ソルがバリアジャケットを展開、防具が具現化する。

あたしの意識は沸騰しそうなくらいの憎しみと、悲しみが渦巻き、それでも目の前の敵を倒すと言う意思がそれを上回り、集約していく。

瞳は赤く染まり三つ巴のマークが浮かび上がり写輪眼が発動する。

「魔導師…にしては知らない術式だな…まぁ俺達の前では無駄な事だがよっ!」

ヘラっと笑う男に虫唾が走る。

全身を強化し、地面を掛ける。すでに敵は目の前だった。

「なっ!?」

思い切り、『硬』で威力を極限まで高め、更に『貫』と『徹』を使用しての一撃。

相手はガードも出来ずに吹っ飛んで行き、何件かの家屋をぶち抜いてようやく止まった。

アオお兄ちゃんに禁止されるレベルでの攻撃であり、魔導師だろうと人間なら再起不能レベルのダメージのはずだった。

「かはっ……レジストされない?…お前のそれは魔導技術では無いのか?」

腹部を押さえながら立ち上がる男性。

大穴が開いているのだが、次の瞬間には再生してその傷が塞がっていた。

頭がチリチリする。思考が纏らない。

だけど、訓練による成果はあたしに取るべき行動を体が示唆してくれる。

あたしは存命を確認すると同時に印を組み上げていた。

『雷遁・千鳥 Ver輝力』

ヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂ

バチバチと放電する音があたしの四肢から放たれる。

「ちょっ!さすがにそれはやばくない?」

と言いつつも余裕そうな男性は、銃口を向けると大量の弾幕を放つ。

ザザーっと横へ移動してかわすと再度地面を蹴って男へと迫る。

「っとと、これでもくらいな」

そう言って再び向けられる銃弾。それを今度は写輪眼で見切り臆せずに進む。

「ああっ!」

振り下ろされる右手の千鳥は確実に男の右手をちぎり飛ばした…はずだった。

「あめぇよっ!」

一瞬で再生した右腕ではあたしの頭を掴みこみ、地面に叩きつけた。

「ぐぅ…」

堅での防御力を抜くほどの威力は無い。体勢を立て直せば直ぐに反撃に移れるっ!

「だから、あめぇって言ってんだよっ!」

左手の銃剣型のデバイス。その銃口がしっかりとあたしに向けられたいた。

そして引き金が引かれる。

バチバチと地面に着いた手から千鳥を放電させ、地面を強引に隆起させ、相手の足場を崩すと同時に射線上から離れ、転がりながら距離を取ると、相手の銃弾が地面に当たった土煙が互いを分断する。

はぁ…はぁ…はぁ…どうしてだろう…

体が凄くダルイ。

消費輝力的にはまだまだ余裕のはずなのに…

「ぐっ…」

がたりと肩膝を着く。

「エクリプスウィルスに感染しているはずなのによくこれだけ動けたものだが。もしかして発症しかけているのか?」

エクリプス…ウィルス?

「もしかしてお仲間になるかも知れねぇが…てめぇはムカつくからな…殺すか?」

殺す?

あたしを?

死ぬ?

あたしが?

ヴィヴィオやコロナ、アインハルトさん達とまだまだ遊びたいし、アオさん達にはもっと色々教えて欲しい事がいっぱい有る。

だめ…あたしはまだ、死ねない。…死にたくないっ!

それにチョコラ達の仇を討っていないっ!

あたしはチョコラ達を殺したあの人を許さない。

あたしを殺そうとするあの人をあたしは今途轍もなく…コロシたい…

しかし、全身からは力が抜け、手足を動かすのも億劫だ。

今自由動かせるのはそれこそ視線くらいな物だ。だけど、例え動かせるのが視線だけであっても、あたしは視線だけでもコロシてみせるっ!

急に右目のピントが相手に合った気がした。

その瞬間突然燃え上がる黒炎。

「なっ!なんだこいつは…っ!?」

男の右腕から突如発火した黒い炎。それは男の右腕から徐々に燃え広がっていく。

「がっ…ぐぅ…熱いっ…熱いだろうがっくそがっ!!」

叩いて消そうとした右腕にも黒炎は燃え広がっていく。

「消えねぇ!?畜生っ!」

右目がズキリと痛んだ。右目から流れた血涙が頬を伝い地面へと垂れている。

「なめるなぁっ!」

男は気合と共に左手に持っていた銃剣で右腕を切り落としすぐさま再生させるとそのまま右腕で左腕をもいで炎に焼かれる部分を切り離すと左腕もすぐさま再生させる。

「はぁ…はぁ…病化がここまで速い奴は珍しいな。…だが、てめぇはぜってー殺すっ」

懐から予備の銃剣を取り出すと此方へとその銃口を向けた。

まだ体は動かない、動かせるのは視線だけだ。

もう一度、あの炎が使えなければあたしは死ぬ…

「死ねやっ!」

『プロテクション』

撃ち出される銃弾。ソルが防御シールドを張ってくれるが、あの数だ。防御シールドはもたないだろう。…だが、その全てを視認した瞬間撃ち出された弾丸が燃え上がり、あたしにたどり着く前に燃やし尽くされた。

「おいおい…実体弾じゃねぇんだぞっ!?なんで燃やせるんだよそんなもんをよぉ!?」

「あぐぅ…」

右目へ激痛が走りとてもじゃないが開けている事が出来なくなる。だけど、あたしは残った左目で男を睨みつける。

ここで畳み掛けなければあたしの負けだ。

この場合、負けは死んじゃうって事。

右目はまだ激痛で開かない。

おそらくあの黒い炎を使った反動だろう。写輪眼にまだこんな能力が合ったなんて…アオお兄ちゃんからは聞いてなかったのだけど…

左目の写輪眼へ意識を向ける。

するとやはり相手にピントが合った瞬間迸る稲妻。

「がぁ!?」

「ぐぅ…」

相手は感電で絶叫し、あたしは左目にはしる激痛に悶える。

カチャリと向けられる銃口。魔法陣が展開され、弾丸が形成されているのがわかる。

「させないっ!」

再度左目で相手を睨む。

「がっああああっ!?」

迸るプラズマが相手の攻撃よりも早く男を焼いていく。

もう少しで…そう思った時、ソルが叫んだ。

『マスターっ!』

「はっ!?」

振り向くと既に直近に迫る大きなコブシが見えた。

襲撃者はもう一人いたのだ。

そのコブシはソルが作り出した障壁を軽々と突き破りあたしへと迫る。

完全な不意打ち、かわしようがない。障壁も破られ防御手段は堅で耐えるくらいしか既に残されていない。

ありったけの輝力で全身を覆うと、来るべき衝撃に備えると、男のコブシがあたしに接触、その威力で吹き飛ばされてしまった。

「あぐっ…」

ズザザーと錐揉みしながら地面を転がっていくあたし。

三十メートルほど転がってようやくその体は停止した。

「なんだ?そいつは。そいつがお前の病化能力ってやつか?」

また病化だ。

何の事だろうと思って目を見開くと、あたしを守るように巨大な肋骨が現れていた。

「これは…もしかして…スサ…ノ…オ?」

あたしの体と男のコブシの間に現れるように出現したスサノオの肋骨がどうやらあたしのダメージの殆どをカットしてくれたようだ。お陰で外傷はほとんど無いといって良い。

だが…

「あぐっ…っ!」

全身を締め付けるような痛みに襲われ、初めてのことに集中を欠いたスサノオはその形を霧散させて消えていった。

「こいつは連れて帰るぞ。そう言う依頼主との契約だ」

「旦那っ!そりゃねぇよ」

「うるせぇ。黙ってろ」

はぁ…はぁ…はぁ…

息が切れる。

「初めての病化ですでに限界だな。もう2・3発殴って意識を飛ばしてから連れて変えるぞ」

「分かったよ…ちっ」

掛けて来る二人の男。

だめ…もう…意識が…

『エマージェンシー認証。緊急口寄せ術式展開します』

ソル…?

足元に展開する口寄せの術式。それにあたしから輝力がソル経由で流し込まれると、一瞬にして人影が現れ、駆けてきた男が振り下ろしたコブシを受け止めた。

その人影を見上げる。その人はあたしにいつも安心をくれる人だった。

「アオ…お兄ちゃん?」

あたしの意識はそこで闇に飲まれた。










ソルフェージュからの緊急口寄せ術式によって呼び出された俺は、間一髪リオに振り下ろされようとしていたコブシを受け止める事に成功した。

「ああん?だれだてめぇは」

「はっ!」

「うおっ!?」

受け止めた腕を捻り上げ投げ飛ばすと横たわるリオを抱きかかえて距離を開ける。

「クゥっ!」

「なーう」

一緒に口寄せされたクゥに声を掛ければ、以心伝心と煙幕を行使してくれた。その闇にまぎれて距離を取る。

リオを見れば外傷こそ少ないものの、動悸はあらく、若干発熱しているようだ。それに加え両目から血涙の後が見られる。

…これは万華鏡写輪眼を開眼したのか?

辺りを見れば肉塊と殺された人々で死山血河が築かれている。万華鏡を開眼してもおかしくないストレスだっただろう。

煙幕の中を突き抜けて、巨大なアームでコブシを強化した男がコブシを振り上げている。

「おらっ!」

両手がリオを抱えている事で塞がっている俺はそれを硬で強化した右足で蹴り上げた。

「はっ!」

交わるコブシと回し蹴りは俺の方が競り勝ったようだ。

「なっ!?」

驚きの声を上げて吹き飛ばされていく。

とりあえず、この状況がどういう状況なのか。知ってそうなのはリオを襲っている二人組みの男。

煙幕を切裂くようにいくつもの弾丸が飛んでくる。

飛んでくるそれをかわしていくと、煙幕の外へと飛び出してしまった。

「はぁっ!」

再び襲い掛かってくる大きなコブシ。

両手が塞がっているのは中々に行動が制限されるね。

仕方ないと思い、俺はスサノオを発動。肋骨が出現し、相手のコブシを受ける。

「なっ!?そいつはっ」

なんだ?これを見たことがあるのか?そんなはずは…いや、まかさ…

チラっとリオに視線を向ける。両目から流れる流血の痕にまさかとも思う。だけど…

横合いから放たれる援護射撃。

俺はコブシの男を現したスサノオの右手で掴むと、その男を盾にするように銃弾へと向ける。

「がっがはっ…」

「だ、旦那っ!?」

銃弾はことごとくコブシの男に当たり、非殺傷設定など無いようで、体に銃痕を刻んでいく。

その攻撃でコブシの男は行動不能。

俺は慌てる銃剣の持ち主に視線を向ける。

『万華鏡写輪眼・思兼(おもいかね)

ガクっと糸の切れた操り人形のようにその男は動かなくなった。

相手がまつろわぬ神やカンピオーネ、またはそれ相応の知識が無ければ初見で万華鏡写輪眼の瞳術から逃れられるやつなんていない。

俺は相手の思考を誘導し、武装を解除させていく。

さらに…

『万華鏡写輪眼・八意(やごごろ)

さらに万華鏡の能力で相手の脳から情報を抜き取っていく。

なるほど、エクリプスウィルスの散布による人体実験と、その発病者は人を殺さずにはいられなくなる後遺症。ウィルスによる人体強化、さらには魔導師に対する絶対的な優位性、魔力結合解除能力。

対魔導師に特化したカンピオーネのような存在だろうか。

依頼主はどうやら大企業らしい。

これは係わり合いにならない方が良いような案件だ。

しかし、ウィルス散布か…リオはおそらくすでに感染しているだろう。

感染者は体のどこかに模様のような痣が浮かぶと言うが、何処に現れるかは個体差がある。今リオをひん剥くわけにも行くまい。

見た目で一番分かりやすいのはあのコブシの男か。

俺はスサノオが掴んでいる事を良い事にそのままクロックマスターで男の時間を巻き戻していく。

「なっ?がっ…」

バシュっと音を立てるように何者かがコブシの男の中から現れた。

ああ、そう言えばリアクターの少女を連れていたのだったか。

彼女はどうやら融合型で、ユニゾンデバイスに似た役割を持っているらしい。

倒れこむ少女をスサノオの左手で抱えると、ゆっくりと持ち上げ横たえる。

「クゥ、ちょっと彼女を見ていて」

「なーうっ」

クゥに少女を任せると、再び男の時間を巻き戻していく。

すると痣のような物が薄れて消えた所で俺は軽く皮膚に傷を付けてみる。

どうやら驚異的な回復能力は見られず、感染前まで戻す事が出来たようだ。

俺はその事に安心し、そのまま男を放置するとリオの方に右手を当てると彼女の時間を戻そうとして…

「あっ…あぐっ…」

弾かれた。

「なっ!?」

エクリプスウィルスの能力は魔力結合の解除であったはず。であるなら、オーラ依存の念能力は阻害されない。事実あの男には効いている。

俺はすぐさまもう一人の男にもクロックマスターを行使してみるが問題はない。

これはリオが念能力を使えるためにエクリプスウィルスが進化し、オーラでの能力まで分断してしまっているのかもしれない。

制御できれば俺のクロックマスターも受け入れてくれるだろうけれど…いまだ昏睡状態で意識が無い。宿主であるキャリアーを殺させない為のウィルスによるある種の自衛のようなオート作用なのだろう。

エクリプスウィルス感染者には自己対滅と言う再生能力の暴走が起こりえるらしい。実際は殆どの感染者がその自己対滅で死亡してしまうほどらしい。

リオの状況も楽観を許さない状況だ。

エクリプス感染者は人を殺し続ける運命にあるらしい。

しかし、たかがウィルスに感染した所為でその後の人生を人殺しを強いるような生き方をリオにはさせられない。

どうするか…

俺自身ならおそらくエクリプスウィルスを最適化できるはず。

最適化。おそらく俺本来の特殊能力と言うべき何かはそう言った能力のはずだ。

一度俺に感染させ、最適化させた後に血清を精製しリオに注入すればリオは助かるはず。

しかし、感染源であるエクリプスウィルスはすでに広域に拡散されていて薄まり、その感染能力は無いようだ。

そう言えば感染源のもう一つにリアクターとの接触と言うのがあったか。

リアクターの少女は先ほど確保済みだ。今はクゥが面倒見ている。…いや、まてっ!何安易にリアクターにクゥを接触させている!?

クゥが感染しないとは言い切れないと言うのにっ!

見た目が14ほどの少女だったから油断したっ!

視線を向ければ、こっちはこっちで倒れそうなくらい発熱している少女と、それを心配そうに見つめるクゥ。

とりあえず最悪の事態にはなってないようだ。

「はぁ…はぁ…」

少女の方もなにやら消耗しきっていて今にも死にそうだ。

「まいったね…時間が無いって言うのに。こっちもこんな状況じゃ…せめてリアクターとしての機能が生きていれば…」

俺はリオを横たえると少女に近づき、接触を試みる。

触れた右腕から何か熱い物が体の中に入ってくる。

「がっ…ぐぅ…」

エクリプスウィルスが体の中に入ってくる。此処からが本番だ。

クロックマスターを使い、自身の時を加速させ、されに望んだ未来を引き寄せるように可能性を取捨選択する。

発狂してリオを殺してしまう未来、自己対滅して肉塊へと変質してしまう未来。その他色々な可能性の中からエクリプスウィルスを最適化、抗体を得る未来を引き寄せる。

「…認証…エンゲージ…」

だが間の悪い事に接触していた少女がリアクターとしての機能からかリアクト・エンゲージ。

ユニゾンデバイスのように俺の中へと入ってくる。

まて、今異物を混入すると不確定要素の増加で取捨選択の幅が広がってマズイ事に…

「なうっ!」

「クゥ!?」

遅れてクゥがユニゾン・イン。

「まて、ダブルユニゾンは融合騎導師の同一化が…」

『なうっ!』

「それが最善だって?くそっ…ほかの選択肢は…」

『なーうっ』

「大丈夫って…信じるからなっ!クゥ…」

感染から発症、そして適合、病化をへてウィルスを屈服させるとようやくエクリプスウィルスの凶暴性が克服された。

「っ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

かなりしんどい…

「クゥ、もう良い。ユニゾン・アウトだ」

バシュっと俺の中から分離する。しかし、分離したのは猫耳と猫尻尾を生やした14ほどの少女。その外見は猫耳と尻尾はあるが、あのリアクターの少女そのものだ。

「クゥ…?」

融合事故か!?

くそっ…クゥの事もあるが、リオもマズイ。

どちらを優先すべきかを考え、少女の状態をまず確認すると、吐息は安定し、脈拍も正常のようだ。

とりあえず命の別状は無いらしい。ならばまずリオからだろう。

俺は自身の親指をほんの少し斬ると、滴る血を魔法で精製して血清を作る。

ごそごそと勇者の道具袋をあさり、小型銃の様な無針の注射器を探し出すと、リオの首筋へとあて、引き金を引く。

「あっ…あう…」

すぅ…すぅ…

バシュと音を立てて血清がリオの体内に入っていくと、ようやく動悸が落ち着いてきたようだ。

予断は許さないがリオはひとまず落ち着いた。

しかしクゥの容態は不明だ。

俺は二人を抱えるとフロニャルドへと転移。

自室へと転移するとソラ達を念話で呼ぶ。

すぐに駆けつけてくるソラ、なのは、フェイト、シリカ。

母さんとアーシェラ、アテナ姉さんは公務で他国へ出ていたのでとりあえずは連絡だけで呼んではいない。

ちなみにアーシェラとアテナ姉さんは俺の双子の妹として生まれてきている。…転生同行がどういう原理で働いているのか俺にも分からないのだが、ふたりを意地でも手放さなかった母さんに脱帽である。

ガタン

「アオっ!」
「アオさんっ!」
「り、…リオちゃんと…誰?」
「女の子?」

行儀悪く物音を立てて入ってきた彼女達。

「理由は後で追々説明するから、二人の精密を手伝って」

「…なのはとフェイトは直ぐに箱庭内の医療機材の調整、私とシリカは二人を運びましょう」

いい?とソラがすかさず指示を出す。どうやら神々の箱庭の中に設置してある医療機材を使うらしい。

「うん」
「わかった」
「直ぐに準備するよ」
「そうだね、なのは」

「アオは一度シャワーでも浴びて埃を落としてきなさい」

「だが…」

「何をやったのか、そんな状態で病人の前に立っちゃダメよ」

「ソル、とりあえず状況説明だけお願い」

『了解しました、マスター』

そう言うとスイっと腕から離れて宝石に羽をはやしたソルはかろやかに浮遊、ソラとシリカに着いていく。

ソラに窘められて俺は二人をソラとシリカに渡すとシャワーを浴びに浴槽へ。簡単に汗を流すと箱庭の中へ移動する。

箱庭の中に入り、医療機材…と言うよりラボに近い雑多な施設へと入ると、リオと少女の二人が医療ポッドの中に浮かんでいおり、観測されたデータが空中に幾つも展開されていた。

それをあれこれ弄りながら慌しく動いているソラ達四人。

「どう?」

俺は近づいてソラに問いかけた。

「リオが感染したらしい新種のウィルスはアオが作った血清で解毒は出来ていないわ」

え?

「どういう事?」

「解毒どころか完全に馴染んで行っている。これはアオあとでアオのデータも取らないと何ともいえないわね」

エクリプスウィルスを自分に感染させた事をまた無理をしてとその目が言っていたがとりあえず無視する。ソラもとりあえず今は言及しないでくれた。

「ただ、安定はしています」

とデータを見ていたシリカが言う。

「眼球へのダメージがかなり計測されているけれど、これは…」

と、ソラ。

「…万華鏡だろうな」

「そう…なにが有ったのかは後で本人に聞きましょう。後はクゥの事だけど…」

そうだクゥはどうなったのだろうか。

「結論から言うと、クゥはリアクター?の少女と完全融合してしまっていてこっちからのアクセスじゃ分離は不可能よ。いえ、この場合同化と言うべきかしら。混ざっちゃっているの」

「え?」

「クゥのパーソナルデータに類似しているけれど、すでに変質してしまっている。あの少女がクゥなのか、それても別の誰かなのか、起きてみないことには分からないってことね。アオのクロックマスターなら分離は出来るかもしれないけれど…」

ただ、と前置きをしてソラが続ける。

「魂が融合していて、一個の生命として新しく生まれ変わったのだとしたら…」

「巻き戻したら消滅…と言う可能性もありえる…か」

俺のクロックマスターも万能では無い。死者蘇生は出来ないし、生まれる前まで巻きもどすと言う事は消失すると言う事。その境が結構曖昧なのだ。

計測を終えると、二人ともベッドへと移された。

しばらくするとまずリオが目を覚ます。

「……?なに…ここ…真っ白?」

「リオ、起きたか」

「その声は、アオお兄ちゃんですか?どこに居るんですか?」

その声でお俺はリオの手を握る。

「ここに居る」

「え?」

と感覚を頼りに顔を向けるのだが…

「うん…?」

空いていた左手で目をこすってみるリオ。

見えてない…か。

「何が見える?」

ひらひらと目の前で手を振ってみる。

「真っ白な光りだけ…です…もしかしてあたしっ」

「瞳力の使いすぎだ。何が有った?」

「そうだ、チョコラっ!」

「落ち着いて。…残念だが、あの村に生存者は居ないよ。リオを襲った襲撃者は厳重に拘束して置いてきた。おそらく管理局の人たちが重要参考人として連れて行くだろう」

「っ…あああ…うあああ」

ポロポロと涙を流すリオ。

その後落ち着いたリオから話を聞けば、修行で村を一人離れていて、帰ってきたら村が襲われていた事。

襲撃者に応戦していたが、途中で体の自由が利かなくなった事。

睨むだけで相手を燃やし、雷を降らせたらしい事。

最後はスサノオまで顕現させたらしい。

「万華鏡写輪眼をつかったね」

「マンゲキョウ?」

「写輪眼の上位瞳術。発現には親しい者の死を体験し、その心的ストレスによる特殊なチャクラ変化が必要らしいが、万華鏡写輪眼は使えば使うほどその目は光を失って行く」

「え?」

「失明するって事だよ」

「そう…ですか」

「リオの場合、開眼から慣らしもせずに全力使用、さらに能力が両目とも攻撃に特化していてその分眼球へのダメージが大きい。さらにスサノオまで宿らせてすぐに使ってしまっている。眼球へのダメージは計り知れない」

天照と建御雷を使い、スサノオまでとは、開眼直後では流石に限界を超える。

「俺の念能力なら失明前まで巻き戻せるが…」

「言葉を濁すって事は何か有るんですね?」

さすがにリオは聡明だ。

「リオは今あるウィルスに犯されている。そのウィルスがどう言う訳か、外部からの魔法、念の干渉をすぐさま分断、結合解除させている。こっちの消費オーラを増やして無理やりと行きたいが、それに対抗するかのようにリオから生命力を搾り出し抵抗、その命を全て燃やしきるまで抵抗はやめないだろうね」

「解決策は無いって事ですか?」

「リオがそのウィルスを操れるようになって抵抗力をさげるか…あるいは…」

「あるいは…?何か方法があるんですね」

「他の人の万華鏡写輪眼を移植する事だ」

「他の…人?」

「もともと万華鏡写輪眼のリスクカットには他人の眼球の移植が必要なんだ」

「じゃあアオお兄ちゃんも?」

誰かの眼球を移植しているのかとリオは聞いた。

「昔ソラと眼球を交換している。以降は失明の危険はなくその能力は強力で幾度と無く助けられているな」

「じゃ、じゃああたしもアオお兄ちゃんと交換すれば?」

「そもそも兄弟や近親者じゃなければ移植の成功確率は低い。それ以前に俺とソラの眼球ではリオにどんな影響が出るか分からない」

「え?」

「自分で言うのもなんだけど、俺も、そしてソラもその体はすでに人と言って良いか分からない。普通の人間にしてみれば俺達の血の一滴すら毒だろうね」

カンピオーネとしての性質やサーヴァントであった時の特質などが合わさりすでに訳が分からない感じだ。さらに木遁を使えるようになってからの細胞活性は目を見張る。なんか初代火影の細胞をやばい事に利用していたようだし、失敗例も多かったようだとヒナタ達に聞いた。

「俺の目を移植すればリオが耐え切れるかどうか…」

「それじゃ…方法はないんですね…」

「…いや、確率は低いだろうが、無い事はない…」

「え?」

いぶかしむリオ。

「あの娘の…ヴィヴィオの眼を使う」

「ヴィヴィオの?…それはダメですよっ!」

あ、ああ。リオは勘違いしているな。

「ヴィヴィオと言ったけれど、リオの友達のヴィヴィオでは無くて。……俺達のヴィヴィオだよ」

「俺達って…まさか…」

「あの娘が死ぬ前に自ら抉り出したそれを保存して有る。万華鏡写輪眼は強力だし、何か使うこともあるだろう…と」

あの娘は訓練の末、両方の万華鏡を開眼していた。

「そんな…」

「いや、そんな悲観しなくても。眼球の再生くらい未来では再生はさほど難しい事じゃ無かったよ」

「じゃ、じゃああたしも自分の細胞から造れば…」

「リオの体はエクリプスウィルスの所為で半分以上ブラックボックス化している。細胞培養すら難しいらしいよ」

試しにすぐに試みたらただの肉塊が出来上がっただけだった。

「選択肢は二つ。能力制御を頑張るか、ヴィヴィオの眼を移植するか。どちらも確実とは言えないけれどね」

実際どちらをえらんでもどうなるか分からない。エクリプスウィルスを制御できるのか、移植された眼球をウィルスが受け入れるのか。拒絶反応はでないのかなど等。

「移植に失敗してもその後にウィルス制御をすれば良い。俺の念能力で治せるだろう。そうすれば両方の手段が試せるね」

「あたしなんかの為にヴィヴィオの眼を頂いても良いのでしょうか…」

「あの子も誰かの為になるのなら喜ぶだろう」

どうやらリオは眼球移植を受け入れるようだ。流石に失明は怖いだろうしね。

「手術はもう少し体力が回復してからだな。…今は怖いだろうけれど、少しお休み」

「はい…」

と言うとリオはしばらくして寝息を立て始めた。


さて、リオの方は落ち着いたし、クゥの方はどうだろうか。

ほんの少し移動するとクゥと融合している少女のいるベッドへとたどり着く。

「あ、アオ」

「フェイト、彼女は?」

「うん。起きているよそれで…」

と、少し言葉を濁したフェイトの言葉をなのはが引き継ぐ。

「起きたんだけど、ちょっと対応に困っている…かな」

「どういう事?」

「会って見た方がはやい、かな」

フェイトに言われてソラとシリカにも避けてもらい少女の正面に向かう。

「誰?…っ…ご主人さ…ま…?」

「クゥなのか?」

と言う俺の質問にはキョトンとしている。

「君の名前は?」

質問を変えてみる。

「わたしの名前?…ボクは…クゥ…ううん…わたし…は…ロザリア・シュトロゼック…あれ?ちがう…どっちだっけ…」

と、記憶が混同しているようだ。

「私達の名前も教える前から知っていたわ」

と、ソラ。

「…危険だが巻き戻してみるか?うまく行けば元の二人に分断できる」

「失敗したら消失ね。アオの巻き戻しは魂までは戻せないから」

「合一してしまっているのか?」

桜守姫(おうすき)で見てみなさい。私の結論としては手遅れよ」

言われて俺も裏・万華鏡写輪眼・桜守姫で少女…ロザリアを見る。

融合事故を起こしているわけでもなく、彼女の中にユニゾンしている訳でもない。

体から漏れる色あいはクゥのものに似ているが、別のものだ。

「……クゥ…」

知らず、泣いていた。

「泣かないで、ご主人さま」

ぺたりとロザリアの手の平が俺の顔に当たる。

「クゥ?」

ふるふると首を振るロザリア。

「どうして、こんな事になったんだ…」

「ロザリアが助けてって泣いてた。だからボクはボクの意思で彼女と同化したの」

今はクゥの意識が強くなっているのか?

「どうして…」

「だって、勝手に作られて、望まれないなんて…存在する意味が無いじゃない」

「それは自分で見つけるものだろう」

「そう。ボクはご主人さまに望まれて、自分でも望んで、そして幸せな時間があったよ。でも、この娘は違った。だから、ボクは生きるのをやめようとしていたこの娘にボクを融合させた。この娘にボクは同調しすぎたんだ。この娘をボクは見捨てられなかった。だから、この娘を家族にしてあげて。ボクは消えたわけじゃない。ボクの記憶もこの娘の中には混ざってる。この娘はもうボク自身なんだ」

「勝手な事を言うね、クゥ」

「うん。凄く勝手だ」

「初めて君との会話が初めての君の我がままなら、俺は精一杯叶えるしかないじゃないか…」

「うん。この娘をお願い。意識はボクと混ざっていると思うけど、今後はこの娘の意識が強くなってくると思う。でも、ボクはここに居て、この娘はボクなんだ」

うん…

その後、俺から視線をソラ達に向ける。

「ソラお姉ちゃん達もお願い」

「クゥ…」
「クゥちゃん…」
「うん…」
「…任せて」

ソラ達も目に涙を溜めながら、それでも毅然と答えていた。

「そっか。…そう言えば、クゥの一人称ってボクだったんだな。これだけ一緒に居たのに知らなかったよ」

「ふふ…」

そう言うと表に出ていたクゥは完全に少女の中に溶けていった。

「あ…あの…」

と、急におどおどし出すロザリア。

「君の名前、ちょっと長くなるんだけど…君の名前はロザリア・C(クゥ)・シュトロゼック・フリーリア。今日から俺達の家族だな」

久しぶりの喪失と新しい家族。

「よろしく、ロザリア」
「よろしくお願いしますね、ロザリアちゃん」
「よろしく、ロザリア」
「きっと楽しい事がいっぱい有るよ」

「…?」

まだ理解していないが、これからだ。これから少しずつ家族になろう。

ロザリアを母さんやアーシェラ、アテナ姉さんに紹介すると、態度では歓迎しつつ、念話では俺を責めていた。ただ、理解はしてくれた。

彼女はクゥでもあるし、その記憶はちゃんと覚えているはずなのだ。ただ、今はまだ整理されてい上に自身をまだ確定させれないようで、咄嗟には出てこないだけだ。体は大きいが生まれたての赤ん坊と言ったところだろう。





数日後、リオの体調が回復したのを見て眼の移植に取り掛かる。

心配していた拒絶反応もこちらがビックリするくらい無く、術後の経過は順調だった。これならば直ぐに包帯も取れるだろう。

おそらくエクリプスウィルスが自身を強化するものを貪欲に取り込んだ結果ではないだろうか。

神々の箱庭内の時を加速させ、瞳がなじんだのを確認すると、その制御を教えなければならない。

万華鏡写輪眼の能力は途轍もなく強力なのだ。

体力の回復を待ってリオを病室から連れ出すと、ソラを伴って簡易演習場へと移動した。

「さて、万華鏡写輪眼についてだけど…」

と俺は地面に的を刺しながらリオに話しかける。

「はいっ」

「写輪眼が観察眼、洞察眼、催眠眼と派手さに欠ける能力だったのに対し、万華鏡写輪眼の能力は個人の資質が大きく、人それぞれ得られる能力が違う。通常最大二種類、左右に一つずつ宿せる上位瞳術だ」

「リオの場合は炎と雷を操る力ね」

とソラが補足してくれた。

「リオの場合は両方とも視点指定系の能力だと思う。ピントが合うだけで、そこに瞬時に炎を表したり、プラズマを当てたり出来る」

俺は的を数本刺し終えるとリオの側へと移動する。

「取り合えず、片目ずつ行こうか。先ず左目を閉じて右目であの的を見つめる」

「はい」

言われたとおりに右目で的を見るリオ。

「後は攻撃的意志を込める感じで。一度使っているんだから感覚は何となく分かるでしょ」

「たぶん…」

そう言って集中したリオの右目の写輪眼の形が変わる。

中心からヒトデのように黒い部分が星型に現れ、その回り、虹彩の端から何本もの黒い筋が中心に向かって入っている。

色合いは赤いが、それは大地に咲くナデシコの花のようだった。

そこから血涙が滴ったかと思うと、的を覆うように発火する黒い炎。

「天照だね」

「うん」

「もう良いよ、リオ」

「は、はい…え?これ、血っ!?」

血涙に驚くリオにタオルを渡す。

「まだ慣れてないからね、眼球へのダメージも大きい。次第に慣れるよ」

天照を使い終わっても黒い炎は燃え続け、的を燃やし尽くすとようやく鎮火した。

「今度は左目だ」

「はい」

今度は左目だけを開けて同じように的を睨む。

バシュっと閃光が輝き、一瞬後には的を炭化させていた。

「タケミカヅチね」

「ああ」

左の目からも血涙が流れてきている。

「これが万華鏡写輪眼…」

「リオの右目の能力を天照、左目をタケミカヅチと言う…まぁ名称は自分で決めても良いのだけれど、俺達はそう呼んでいる」

「アマ…タケミ…えっと…」

「地球の古い神様の名前だ。天照とタケミカヅチ。それぞれ、太陽と雷を神格化した神様だよ」

リオはアマテラス、タケミカヅチと繰り返して、ようやく覚えたようだ。

「じゃあ、もう一回。右目の天照でこの的を燃やしてみて」

「あ、はい…」

再び灯る黒い黒炎。

「それじゃ、今度はそれを鎮火させてみて」

「え?鎮火ってどうやれば…」

既に万華鏡は普通の写輪眼に戻っているが、消える気配の無い黒煙。

天照の炎は対象を燃やし尽くすまで鎮火する事は無い。

「まだまだ制御が出来て無いのは仕方ないけれど…消せない天照は大惨事だね」

「うん…」

俺呟きにソラも同意する。

燃え広がったら消えずに拡大していく。全くもって性質が悪い炎だ。

「天照の使用は俺達が見ている時以外の使用は禁止、自主練習なんてもってのほかだよ。燃え広がったら消えずに被害が拡大するからね。決して軽はずみに使っちゃダメだ」

「は~い」

当然命の危険に瀕しては別だけれど。

「そう言えば、アオお兄ちゃん達の万華鏡写輪眼の能力はどんなのなんですか?」

興味深々とリオが尋ねる。

「俺か?…俺は、雷を操るタケミカヅチ」

と言って万華鏡写輪眼を発動してプラズマを発生させ、それを操り形態変化させて羽の生えた蛇のような物を作り出す。

「うわっ…あたしと同じなんですねっ!…タケミカヅチってこんな事も出来るんだ」

「修行すればね。…それと風を操るシナツヒコ」

逆巻く突風。

「きゃっ!」

その突風が凝縮し、リスのような四足の獣が現れた。

「どちらも攻撃に特化している能力だね」

「へぇ…じゃあソラお姉ちゃんは?」

「私は両方幻術精神系」

「幻術?」

いきなりリオが自分の手で頬をつねり上げる。

「ふぇ?い、いひゃい…」

「視界を媒介に相手に催眠幻術を掛け、自らの意思で行動するように命令する『思兼』。相手は自分の意思で行動していると錯覚するから操られる事に気付く事が難しい」

「えう~…痛かったです…もう一つは…」

「『八意(やごころ)』と言う名前以外は内緒」

「ええっ!?」

教えなーいとはにかむソラ。

…まぁ八意の効果はプライバシーに関わるからね…おっかない能力だ。

「一対一の対人戦ならば幻術系の方が強いかな。攻撃力は無いけれど、レジストされにくく、初撃でほぼ相手を制することが出来る。逆に機械や対軍戦には圧倒的な火力のある天照やタケミカヅチの方が強い。…本当は幻術と攻撃、両方あれば良いのだけれど、こればかりは自身の資質…生まれながらに決まっているみたいだから」

「そうなんですか」

「リオの炎と雷に適正が高いと言うのは生まれながらの…根源的な資質だったと言う事なんだろう」

この二つの扱いは他の属性よりも極端に適正が高いからね、リオは。

「さて、両目に別々の能力を宿らせると三つ目の能力がその眼に宿る。知ってると思うけれど…」

「スサノオ…」

「正解」

「スサノオって写輪眼の能力だったんですね」

「そうだ。術者のオーラを纏うように放出し、強固な鎧と圧倒的な攻撃力を持つ益荒男の化身を顕現させる術、スサノオ。俺とソラの切り札でもある」

「切り札…にしては結構使ってません?」

戦での事を言っているのか?

「まぁフロニャルドでならば大した人的被害も出ないからね。結構頻繁に使っているかもしれないけれど…あれで全力じゃないから」

半身の巨人形体しか使ってないし、鎧武者姿は一回きりだったはずだ。

「ええっ!?」

リオはあれでっ!?と驚いているのだろう。

「まずは背骨と肋骨が自分の身を護るように現れる」

そう言うと実際にスサノオを使ってみせる。

「やってみて」

「あ、はい…すぅっ…スサノオ」

深呼吸をして集中すると、暗示を掛けるようにスサノオの名前を言葉で紡ぎ、オーラを具現化させる。

少しぎこちないが、背骨が現れ、そこからリオを護るように肋骨が現れる。

「これが最小。これから徐々に骨格を形成していく」

しゃれこうべが現れ、両腕の骨が現れると巨大な上半身だけのガイコツが出現する。

リオも何とか骨格は形成されているようだ。

「更にこれが肉付いていくように人型を形成」

骨格をくるむように女性のような姿が浮かび上がる。右手に瓢箪、左手にヤタノカガミをもって現れる俺のスサノオ。

対してリオの方を見ると、形はやはり女性形。二つの腕はその肘からさらにもう一本ずつ腕が伸び、構えた掌に炎球と雷球を浮かばせている。

どうやら武器のような物は持っていないようだ。

「くっ…」

どうやらリオはまだここまでが限界のようで、姿を維持できなくなって霧散する。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「危険な術だからね。体への反動も結構ある」

「そう…なんですね…」

「更にこれに鎧を纏わせると…」

赤い鎧が全身を纏い、天狗の修験者のような格好になった。

「あ、それは…」

「一度見せたことがあったかな。これで一応スサノオは完成。だけど、視力低下のなくなった永遠の万華鏡写輪眼の使い手は更に先がある」

「完成じゃないんですか?」

「リオには見せてあげるよ、真のスサノオの完成体を」

そう言うと俺は更にオーラを放出し、スサノオを一気に巨大化、下半身を形成する。

そのまま一度修験者の装束のような物を纏い、更に鎧を纏うと、ビルほどもある巨人が現れた。

「でかっ!?」

「でかいだけじゃない。あの完成体スサノオは剣の一振りで遠くの山すら軽がる切裂く」

とソラが注釈を加えた。

「あは…あはははは…」

スウっとスサノオを消して着地するとリオへと近づく。

「まぁこんな感じ」

「あたしも出来るようになりますかね?」

「オーラ消費が半端無いから、出来たとしても完成体は戦闘の後半に使うのは難しいと思うけどね」

バカみたいな量のオーラが有ってこそだ。

「そう言えば、万華鏡写輪眼ってどうして急に使えるようになったんですか?リスクや危険な能力だと言う事は分かったつもりですが…」

答えるべきか…おうあ、発現した者には今更な話か。

「…万華鏡写輪眼の開眼条件は、親しい人の死を経験する事と言われている」

「あ…」

それで自分がどうして使えるようになったのかを悟ったのだろう。

「普通に暮らしているだけでは発現はしないからね。リスクもあるし、教えなかった。力に取り付かれて自分から殺人に手を染めると言う行為に走られても困る」

「…はい」

「さて、まぁもう少し訓練しようか。せめて天照を自分で消せるようにならないとね」

「はいっ!」


箱庭内の時間経過は気にしなくて良いが、そろそろミッドチルダにも連絡を入れなければならない。

俺達が直接ミッドチルダに連絡を入れるのは、少々面倒なので、カルナージに居るルールーを経由してリオの家族、またはやてさん達に連絡を入れてもらった。

リオが滞在していた村は全滅していたので、リオの両親は絶望に染まり、ご飯も喉を通らなかったらしいが、連絡を入れるとカルナージまですっ飛んできた。

ついでにはやてさんやなのはさん、フェイトさんも同行。後はヴィヴィオ、コロナ、アインハルトの三人も学校を休んで同行している。

「リオ…」

リオをぎゅっと抱きしめる両親。

「パパ、ママ、ちょっと痛いよ」

「無事でよかった…」

その後、開放されたリオはヴィヴィオ達にまた抱きしめられていた。

「リオっ心配したんだからね」
「そうだよっ!リオが死ぬわけ無いとは思ってたけど…」
「ええ。心配しました…」

と言った後、アインハルトが気付いたように呟く。

「リオさん、その眼は…」

見開いたリオの瞳は左右で色の違う虹彩異色(ヘテロクロミア)。その虹彩は右目が翠で左目が赤い。

「これ?…あはは、これはヴィヴィオの眼なんだ」

「わたしの?」

「いや、ヴィヴィオじゃなくて、アオお兄ちゃんの娘だったヴィヴィオの眼」

「どういう事?リオ」

とコロナが問いかける。

「実は写輪眼の使いすぎで失明してしまいまして…あはは…」

「あははって…失明!?って言うか、写輪眼って使いすぎると失明するのっ!?」

他人事では無いヴィヴィオが絶叫。

「する…らしい。あたしも全てを詳しくは教えてもらった訳じゃ無いんだけど…でもまぁ、今のあたしは失明の危険性は無いらしいよ?」

「それは…よかった…」

「うん」
「はい…」

「でもわたしは?」

「それは後でアオお兄ちゃんに聞いてみないと…」

再開を喜んでいるリオ達を余所に、俺ははやてさんから尋問中。

「いったい何があったんや?」

「逆にどこまでそっちは掴んでいるんだ?」

「質問に質問でかえさんで欲しいんやけど…まぁ答えなければアオくんの性格上有意義な情報は出てこんか」

と、諦めたように話せない事は隠して俺に開示する。

「村は全滅、それはたぶんアオくんも見てるんやろ?駆けつけた管理局員は倒れている男性二名を保護。旅行者らしい二人はともにぜそこに居たのか記憶が無いみたいや。寧ろ数年単位での記憶が抜け落ちてしまっている。そこに滞在していたはずのリオちゃんの安否確認は出来ていなかった。まぁあの状況なら最悪の可能性が高かったんやけど、まぁアオくんの教え子やし生きてるんじゃないかとは思ってたけれど、アオくんが保護してたんやね」

「まぁね。リオ達の命の危機には俺達が口寄せ…あー、召喚されるように彼女達のデバイスをいじくっておいたから。危機一髪と言う所だ」

「村を襲った犯人は誰や?」

「その前に、はやてさんの力でリオの渡航履歴を捏造できないかな?」

「不正に手を染めろと?」

「アオ…」

フェイトさんからも非難の声が上がるが、清濁併せ呑んでもらわないとね。全てを公平に、平等に、法の下裁くと言うのは凄く難しい。この世の不可能な事の一つだ。

今回のこれはリオが研究協力と言う名の拉致に発展しかねない案件だしね。

「リオがあの現場に居たという事にするとどうやってこの距離を移動したのかと言う問題が出てきて面倒だ。それにちょっと訳ありでね、この記録が残ってしまうとリオが今後命を狙われるかもしれないし、もしかしたら管理居すら敵になるかもしれない。出来ないならこのままリオには死んだことにしてもらってしばらくこちら(フロニャルド)で過ごしてもらうしかなくなる。両親には辛いかもしれないけれどね」

「なんか大事のようやね…」

と、はやてさんは考えた後、ため息を付いて決断する。

「リオの渡航記録はこちらで改ざんするよ」

「はやてっ!」
「はやてちゃん…」

フェイトさんが不服の声を、なのはさんが心配そうに声を上げた。

「真実をすべて公表する事が守ると言うことでは無い言う事や、フェイトちゃん。公表した事実で不利益をかぶる人がおる。それが人身に関わる事なら迂闊な事はできん」

「はやて…」

「はやてさんは理解が早くて助かる」

「なんや、嫌味か?」

「いや、率直な感想で、だからこそはやてさんはその仕事に向いている」

「まぁ、それはいいわ。ほんなら、本題、話してくれるか」

「ああ」

答えるのは事実を率直に。リオの話も聞けば襲撃者はあの男二人組み。

闘争の末、記憶を飛ばしたのは俺で、何かのウィルス散布実験だった。その辺りは変死体が存在するから誤魔化しようが無いし、実情は知っているだろう。

「じゃぁ、リオはエクリプスウィルス感染者…」

フェイトさんは知っていたのか。エクリプスウィルスを。

いや、顔色を伺うにはやてさんとなのはさんも知っているか。

「それで、そのウィルス感染者であるリオを管理局はどうする?」

「それは…」

顔をしかめるフェイトさん。殺人衝動、破壊衝動が付随される危険なウィルス感染者。そんな人を一般社会に野放しに出来るのか。

「そのウィルスは極度の破壊衝動を強いるらしいね」

「知ってるんだ」

と、なのはさん。

「……エクリプスウィルス感染者は自己対滅という自己崩壊がまってる。それを逃れるには殺人しかあらへん。保護と言う名の自己対滅待ちか、その間の保護観察と言う名の検体」

はやてさんが顔をしかめながら冷静に答えた。

「まぁ、そんなところだろうね」

「………」
「………」

管理局員としては認めたくないだろうが、なのはさんとフェイトさんも沈黙で肯定している。

「そやけど、アオくんが特にリオちゃんに危機感を持ってない。それはつまりリオちゃんは人を殺さなくても自己対滅の危険性は無い、そう言うんやないか?」

鋭いね。

「それも問題だ」

「どういう事や?リオちゃんは自己対滅の危険性は無い訳やろ?そやったら言い方は悪いけれどリオちゃんを研究できれば多くのエクリプスウィルス感染者を助けられる」

「かもしれないね。だけど、リオは魔力結合分断効果と驚異的な再生能力は消えていない。これがどういう事か分かる?」

「…今のミッドチルダ…管理世界内には猛毒と言う事やね」

「そう言う事だね。リオはウィルスを消滅させたわけじゃない。共生できるように進化させたんだ。もしリオを研究してエクリプスウィルスの自己対滅が制御できれば…確かに感染者は生きられる。だけど、魔導師に対する絶対優位性が無くなった訳じゃない。自己対滅というデメリットが有るのなら世間はまだ同情的だろうけれど…」

「それが無ければ言い方は悪いけれど、ただの化物やね…」

「そんな物を人々は受け入れる?単純に魔導師が敵わない人間を今の社会が受け入れられる?」

と言う問い掛けに、三人とも眉根を寄せる。

「無理やね」

「うん…」

「でも、きっと…」

大丈夫と言いそうになったなのはさんの言葉を折る。

「多分、恐らく…きっと、そんな仮定の話で公表して、もりリオが排除されてしまったら?それを誰が護ってくれる?その時にはきっと管理局が敵になるよ。なのはさん一人で護れるの?なのはさん一人じゃないとか、フェイトさんも力を貸すとか、そう言う事を言っちゃだめだよ。味方の数が多くなろうが、大多数の民衆から護りきれる?俺は無理だと思う」

「……うちらにはリオちゃんの渡航履歴を隠蔽して、今回の事件と無関係であった、で通さないとあかんのやね…」

「頼める?」

「しゃーないやろ。私らもリオちゃんを窮地に立たせとうない」

「はやて…」
「はやてちゃん…」

さて、根回しは済んだ。これでリオの立場は彼女たちが護ってくれるだろう。

「リオはあの場に居なかった事になっているのだから、当然はやてさん達親しい人たちであってもリオからのウィルス研究は止めさせてもらう」

「それは…」

「どこに他人の眼があるか分からないからね、危ない橋は渡らないに限る」

すでに遅いのかもしれないけれど…

「ほんなら、一つだけ聞かせてんか」

「何?」

「こんなに短時間にリオちゃんが自分自身でエクリプスウィルスを進化させるなんて事は出来ひん。なら、それを促したのはアオくんや言うわけや」

「………」

「沈黙は肯定として受け取らしてもらう。アオくんはエクリプスウィルスを進化させる何かしらの技術を持っているって事やね?」

「それで?それを聞いてどうしたいの?」

「清濁併せ呑んでこそと言ったのはそっちやろ?」

なるほど、何処か出所の分からない所からのものならまだ隠蔽しやすいと?

仕方ないと俺は勇者の道具袋から一本の無針注射器を取り出すとはやてさん渡した。

「これは?」

「血清…のつもりで作ったんだが、進化作用を誘発してしまうようだ」

「へぇ…」

「そんな物をどうやって」

作ったのかとフェイトさんが問う。

「無駄に長く生きてないって事だよ」

「長くって…いったいアオくんって何歳?」

「今の俺は16歳」

「そう言う事を聞いたんじゃなくて…」

と、なのはさんの質問ははぐらかして答えた。

「とは言え、この世界の人たちの努力で得られた物ではないから、当然安全装置は組み込んである。中身を取り出そうとしたら瞬時に燃え尽きるだろうね」

「当然、魔法やないんやろうな」

当然です。レジストされたり解除されたりしたら意味がないからね。魔法や念、忍術の複合術式だ。

「酷い人や、エクリプスウィルスに対する一つの答えを目の前に用意しておいて、カンニングはさせない言う訳やね」

「そう。それはどうしてもどうにも成らなくなった時、誰かを助ける為に使える一回だけの奥の手」

「ほんまにアオくんてやさしいんか陰険なんかわからん。私なんかよりもよっぽど面の皮が厚いんやないか?」

そう言いつつもしっかりと注射器は懐にしまっている。

「一応ありがとうって言うとこかな。リオちゃんの事は任せてな」

「よろしく頼んだよ」

さて、これ以上エクリプスウィルスとのいざこざに巻き込まれなければ良いのだけれど…







あの事件から数ヶ月。

眼の事は病気の弊害による虹彩の異常と言う事で学校に申請すると、結構あっさりと皆信じてくれた。

あたしもどうにかあの事件を心の内に押し隠せるようになって、またゆっくりとした時間が流れ、穏やかに過ごせると思われていたそんな時間が、唐突にまた壊される事になろうとは思いも寄らなかった。

それは、ある日の放課後の事。ヴィヴィオ達と別れ、一人家路へと急いでいた時、あたしの前に眼帯をした浅黒い肌をした女性が立ちはだかった。

「遅かったな。お前がリオ・ウェズリーか?」

見ほれるような美人だが、彼女が立っている場所がおかしかった。

彼女の足の下には幾人かの黒服の男性が切り殺されているからだ。

それを見たあたしの警戒感は直ぐに最高値へと跳ね上がる。人の死体を見たのは二回目だが、今回は幾分か冷静な自分が少し嫌だ。

だけど、前回のように冷静さを欠いては幾ら修練してもその成果を発揮できない。あたしは恐怖に飲まれる事も無く、何とか平静を保てるよう心がける。

殺人現場に居合わせた事でソルが直ぐにエマージェンシーコールを送るが…

「むだだ。通信妨害(ジャミング)は張ってある。念話も使えんよ」

くっ…

「それはご丁寧にどうも…」

「もっと感謝して欲しい所だ。こいつらはお前を誘拐しようとしていた連中だ。まぁ私もお前に用が有ったから切り殺しておいたが」

誘拐とは…穏やかじゃないね。

だが、それを斬り殺している彼女はもっと穏やかじゃない感じだ。

「それで、あなたの用件は?」

「なに、この男達とまったく変わらん。お前を誘拐しに来た」

「………」

「心当たりがありませんと言う顔だな」

それはそうだ。あたしのような一般家庭の娘を誘拐して身代金を要求するよりももっと大会社の娘さんを攫った方が良いだろう。

「エクリプスウィルスを知っているか?」

くっ…そっち関係なのか。

「その顔は知っているな」

ほんの少し動いた眉根を見逃さなかったらしい。このあたりのポーカーフェイスはあたしはまだまだだな。

「そのウィルスに感染すれば人を殺さなければ生きていけない。だが、発症の疑いがあると言うのに未だ日常生活を送れているヤツが居るという情報があってね」

エクリプスウィルスがもたらす破壊衝動。あたしも一回だけ感じた事がある。あの事件の時、おそらく感染直後の時だ。

その後はアオお兄ちゃんの力でウィルスの支配を克服しているから破壊衝動、殺人衝動を感じた事は無い。

「取り合えず、後は誘拐してから聞き出せば良い。抵抗しないで着いてきてもらえれば助かるのだが…抵抗するならば痛い目を見ることになる。四肢を切り落とすくらいは大丈夫だろう」

言った瞬間に殺意が向けられた。

なるほど、素人なら洩らしそうなほど強烈な殺気だが、それくらいで動じるほどヤワなき耐えられ方はしていない。

おそらく彼女もエクリプスウィルス感染者。

エクリプスウィルス感染者には魔力結合分断能力が有るらしい。あたし自身もあれ移行魔力攻撃への耐性は凄まじい。その殆どを無力化できてしまうだろう。

だが、あの時、あの感染者にオーラ、輝力での攻撃を無効化できる力は無かった。

それに…

「知ってますか?この世界には対峙した瞬間に終わってしまうほど出鱈目な存在が居るって。そして、あたしはその直弟子だって」

「は?」

うんうん。それが普通だよね…でも居るんだよね…対峙する事、それだけで戦闘にもならない出鱈目な存在が…まぁアオお兄ちゃんとソラお姉ちゃんの事なんだけど。

「幻術・写輪眼」

ガクリと女性から力が抜ける。

彼女は今幻術の世界に囚われている事だろう。視線の合わさる距離において写輪眼と視線を合わせる愚行も、知らなければ対応出来ない。

前回と違い冷静な今ならば相手が幾ら強かろうと人間であるならば簡単に無力化出来る。

さて、このまま無力化しつつジャミングを抜けて連絡を…と思っていたら、いきなり地面から茨のような物が四方からあたし目掛けて襲い掛かってくる。

「くっ…」

あたしは迫り来る茨から瞬身の術を駆使してかわし、距離を取ると同時にバリアジャケットをセットアップ、戦闘準備を整える。

纏ったバリアジャケットの腰には小さな羽扇が挿してあるが、これはアオお兄ちゃんからヴィヴィオ達と一緒におそろいで貰った物で、元々はもっと大きいその扇を小さく分割して作り直したものらしい。

名前はミニ芭蕉扇。アオお兄ちゃんが語る固有名詞はあたしたちミッドチルダの人たちには全く意味の分からないものが殆どだが、やはりそれぞれに言葉に込められた意味があるのだろう。

乱入してきた誰かは眼帯の女性へと近づくと、気を入れた一撃で眼帯の女性を覚醒させる。

「だいじょうぶ?サイファー」

「姉貴か…すまない…」

「いいのよ。でもあなたが手玉に取られるとはね」

そう言うと乱入者はあたしの方へと向き直り、自己紹介してくる。

「あたしはフッケバイン一家の首領、カレン・フッケバイン。おとなしく着いてきてくれれば痛い目見なくて済むけれど?」

二対一か…

「姉貴、あいつの眼を見るなよ。どうやらあいつの病化能力は視界による相手への精神干渉のようだ…」

「みたいね。やわな攻撃じゃビクともしないあなたが一瞬で操られちゃったのだものね」

「ああ。少し本気で行かないといけないようだ」

そう言うとサイファーは小さなナイフのような物を取り出すと、自分の手の平へと埋めて行った。

すると大きな刀が二振り、その両手に現れる。

「それじゃ、仕切りなおしと行こう」

そう言うと駆けて来るサイファー。

あたしは素早く印をくみ上げると大きく息を吸い込んだ。

『火遁・豪火滅失』

眼くらましも兼ねた巨大な炎弾がサイファーに襲い掛かる。

魔力変換資質から来る魔力による攻撃ではなく、オーラにより編まれた炎弾は相手の魔力中和フィールドであるゼロエフェクトでは無効化されず、易々とそれを越えて襲い掛かる。

「なっ!?」

魔力攻撃と高をくくっていたサイファーは肩から当たりに行って、逆に吹き飛ばされた。

「サイファーっ!」

カレンが慌てて茨姫を操作、サイファーの前に押しやってあたしの豪火滅失を受け止める。

さて、眼くらましと共に時間は稼いだ。今の内にあたしは紋章を発動。輝力を合成するとまた素早く印をくみ上げた。

「雷遁・千鳥」

チッチッチと音を立てながら四肢を覆う雷。

更に神速を発動。肉体の限界で地面を蹴ると、縛炎で視界が潰されているのを好機とカレンに回りこみ、手にしている魔導書型のデバイスへと右手を伸ばす。

「なっ!?」

あたしの右手は目標を違えずに魔導書を破壊。

「姉貴、どいてろっ!」

サイファーが吹き飛ばされながらもあたしの存在を見つけたのか、すぐさま方向修正しあたしに斬りかかる。

「なっ!?斬れないだとっ!?」

斬りかかった刀をあたしは千鳥を施した両手で一本ずつ掴み、そのまま電撃を流す。

「千鳥流し」

「ぐぅ…」

バチバチと言う音を立ててサイファーの体を焼いていく雷。

「白雪!」

あたしとサイファーを分断しようとカレンは持っていた刀を横合いから振るい、その刀身からエネルギー粒子のようなもの…いやこれはオーラを飛ばして攻撃してきた。

その攻撃に堪らずあたしは抑えていた刀を放してかわし、カレンへ向かおうとするが…

「茨姫っ!」

金属の茨が四方から襲い掛かり断念。背中からミニ芭蕉扇を掴みオーラを込める。

「芭蕉扇・土の巻」

「くっ…」

振った芭蕉扇は地面から大量の石礫を巻き上げ、二人へと襲い掛かる。放たれる礫は物理攻撃なので、カレンは茨姫の全てを防御に回していた。

うん、このミニ芭蕉扇は出来る事はそんなに無いけれど苦手な属性もある程度扱えるから凄く便利だ。

あたしの場合、風と水と土はどうにも相性が悪いのか使い勝手が悪いからね。こう言った補助忍具はありがたいのだ。

しかし、魔導書型のデバイスは潰したはずだけど…もしかして復元されている?だとしたら驚異的な復元能力だ。

茨の防御の隙から何やら金色に輝く金糸が伸び出てあたしに迫る。

芭蕉扇では間に合わないかな…

「っ…火遁・豪火球の術」

ボウッと口から巨大な火球を吐き出すと、迫る金糸を燃やしていく。さらにここで仕込みをしておかなきゃと印を組む。

「髪長姫でもダメかぁ」

火遁が収まり、茨の開いた隙間からカレンを見れば、彼女の髪の毛が伸び金色に色づいたそれがあたしへと攻撃したのだと分かる。

サイファーの姿はカレンの側で蹲っているのを確認。あたしは再び地面を蹴ると、茨の隙間を狙って駆け抜け、千鳥で覆われた右手を突き入れた。

「きゃああああああっ!?」

ぐしゃりと何かがつぶれる感触。

しかし…

「残念、それは『赤ずきん』。ニセモノよ」

と後ろから声が聞こえた。

「くっ…」

しかし、ニセモノが放つ攻撃はフェイクではなく、あたしをくるむように金糸と茨が包み込む。

「腕の一本、足の一本くらいは無くなっても問題ないだろうっ」

サイファーが既にあたしに向かって上空からその刀を振り下ろしている。

避けられないっ!?

「がはっ!?」

切裂かれるあたしの腕と足だが…

ボワンと煙の如く消えてなくなるあたしの体。

「あたしもニセモノだよ?」

「なっ!?」

突っ込んでいったあたしは影分身だ。さすがに危険と分かる所に無防備に突っ込みはしない。

本体のあたしはすでにカレンの真後ろ。その右手でカレンに触れるとサイファーにやったのと同じく千鳥を流し込む。

「きゃあああああっ!?」

感電するカレン。

「きさまぁああっ!」

影分身を切り伏せたサイファーが此方に突撃してくる。

今の放電で合成した輝力が切れそうだ。

あたしは向かってくるサイファーにカレンを蹴り飛ばしてほうるとサイファーは両手を広げて受け止めた。

「ぐっ…」

「大丈夫か、姉貴」

「大丈夫よ…ちょっとピリピリするけれど…あの娘、凄く戦い慣れしてるわね」

「私達が二人がかりで遊ばれるとはな…」

「しかも手加減されているのがムカつくわね」

「そうだな。後ろを取った後の姉貴への一撃。放電でなく突き入れていたら流石に姉貴もたまったもんじゃなかっただろう」

「まぁね」

会話をしている隙にあたしは輝力を再合成。千鳥を使う暇は…無いかな?

「逃げるか?」

「まさかっ!天下のフッケバインファミリーが逃げ帰るなんて事しないわよっ!」

「…そうだな。それじゃあ援護を頼む」

「はいは~い」

そう言うとサイファーが掛け、カレンがが魔導書を開く。

「茨姫」

鋼鉄の茨が伸ばされ、あたしを襲う。

これは流石に写輪眼をもってなかったら見切れないかな…

縦横無尽に駆け回る茨を何とか避けるとそれに遅れて接近してきたサイファーの刀が振り下ろされる。

「本気で行く。手加減していれば死ぬぞっ!」

その一撃は本気で腕を捥ぎに来ている。

それを見切り、回し蹴りで腕を跳ね上げると、自身も回転しながら接近し、『硬』でコブシを強化して腹部をぶん殴る。

「がはっ!」

殴りつけ地面に叩きつけると、マウントポジションを得る。

とは言え、敵もそんな隙を見逃してはくれない。四方から茨が迫る。

「よしっ!縛ったっ!」

グルグルと茨に覆われる人型。そのまま茨を締め付けるように収縮させると中からくぐもった声が聞こえる。

「ぐぅ…」

「その声は…サイファーっ!?」

急いで茨を解けば中からサイファーの姿が。

何の事は無い。茨が迫る瞬間にあたしは身代わりの術を使い自分への攻撃にサイファーを割り込ませ、自分は瞬身の術で離脱したのだ。

サイファーは両手の武器を取り落とし、更に小さな小刀が体から排出された。

武器を取り落とした今は分断のチャンス。

再びミニ芭蕉扇を手に取るとうち扇いだ。

「芭蕉扇・風の巻」

吹き荒れる突風はサイファー諸共武器を吹き散らして行く。

「くっ…」

キッとあたしを睨みつけるカレンだが、それはお門違いではなかろうか。襲ってきたのはそっちで、襲われたのはあたしで、更に言うならサイファーを戦闘不能に追いやったのカレン自身だ。

「なんだぁ?天下のフッケバインファミリーがこんな小娘に一方的にやられてるのか?」

ようやく一人を戦闘不能に追いやったかと思った時、さらに乱入者が現れた。格好は開拓者スタイルの女性。その彼女は何かをその手に持っている

「ホールドアップだ。こいつが見えるだろう?」

と、見せびらかすように前に出したのは一人の女性。

「ママ…?」

所々切り傷や青あざが見えるのは暴行を受けたからだろうか。

「遅かったわね、アル…」

「まさか人質(これ)が必要な事態になってるとは思わなかったからな」

ガチャリとアルと呼ばれた少女の手に持った銃の銃口がママのコメカミに当てられる。

「こいつを殺されたくなければおとなしく着いてくるんだな」

なるほど…人質か。

「動くなよ。おめぇが何かするよりも、あたしが引き金を引く方が速い」

…大丈夫。あたしならママを助けられる。

絶対、大丈夫。

と心の中で自分に言い聞かせる。

そして、自分の大事なものが傷つけられた場合にはアオお兄ちゃんもアレの使用を許してくれるだろう。

「…試してみる?あたしの攻撃と引き金、どちらが速いか」

「止めとけ止めとけ強がんじゃねぇよ」

あたしは一度眼を閉じて…そして…

「天照…」

スゥっと開いた両目に浮かぶナデシコのような紋様。

万華鏡写輪眼だ。

「うおっ!?何だこいつはっ!」

一瞬で燃え上がる銃。更にそれをもつ腕に燃え広がる黒炎。

「ディバイドされねぇ!?……ぐぁっ!?」

ショックで取り押えていたママを取りこぼすアルに瞬身の術で駆け寄るとママを奪い返す。

「外傷は有るけど…良かった、気絶しているだけだ…」

命に別状が無いようで安心する。

「ぐっ…ああああぁつっあああああっ!?」

慌てて左手で炎を叩いて消そうとするアルだが、叩いた左手にまで燃え広がる始末だ。

「アル…ちょっとガマンしなさいよねっ!」

カレンが茨姫を操りアルの両腕の付け根に巻き付けると思い切り締め付け、腕ごと切断した。

当然茨にも黒炎は燃え移るが、途中で分断させた茨は全て燃やし尽くされ鎮火する。切断された両腕も同様だ。

「何なんだよこいつはっ!?あたしのディバイダーが再生もされずに燃え尽きてるぞっ!」

そう叫びながらアルは両腕を生やした。なるほど、エクリプスウィルス感染者はその再生能力は異常のようで、腕の一本や二本は普通に再生するようだ。

…て事はあたしも腕くらいなら生やせるのかな?

ジクジクと右目に鈍痛が走るが、最初の時ほどではない。

「あの娘は連れて帰ると言う問題では無いわね。あの娘はここで始末しないと、きっと私達にとって途轍もない禍根を残す事になる」

「姉貴!?まさか…」

千色皮(せんいろがわ)を使うわ」

「まっマジかよっ!?」

「サイファーを連れて離れていなさい」

「りょ、了解っ!?」

スタターとアルはサイファーを回収すると距離を取るように離れた。

変わりにカレンの周りには魔導書から幾十もの紙片が舞い散るとカレンを囲むように渦巻いている。

一瞬眩く発光すると、カレンは巨大な黒犬へとその形を変えていた。

グルルと唸り声を上げて威嚇する黒い獣。

あたしはその野性味溢れる威圧に若干の恐怖を感じ、先制攻撃をと天照を行使する。

「ガァアアアアっ!」

黒い獣…カレンは構わずとあたしへと駆けると、その大きなアギトで噛み砕こうと迫る。

「くっ…ママを抱えながらでは…」

回避も受ける事も出来ないか?

『プロテクション』

ソルが張ったバリアなんて物ともせずにそのアギトは食い破り、鋭い犬歯があたし達に迫る。

「くっ…スサノオっ!」

現れるのは巨大な肋骨。それがあたしを包むように凶悪な犬歯から護った。

ガツンと犬歯と肋骨がぶつかり合う。

防御されるとカレンはその身を翻し、距離を取ると、フルフルと水を弾き飛ばす動物のように身を震わせると天照の炎は纏っていた魔導書が剥がれ落ちるようにその部分だけ剥がれ落ち、分離させた。

天照の黒炎は分離した部分を燃やし尽くした後鎮火する。

「まったく、あなたには驚きね…消えない炎だけじゃなく、まだ訳の分からない能力を持っているとは…」

獣が口を開く。

「でも、あなたの黒炎は今のあたしには効かない。燃やされた部分だけを分離すれば良いだけだもの」

今のカレンは大量の紙片に覆われたような状態なのだろう。その分厚い壁を全て取っ払わなければ本体に傷を付ける事は出来ない。

再び地面をけるカレン。

今度はあたしの護りの薄そうな所目掛けて食い込んでくる。

それをあたしはスサノオの腕を生やして上から押さえつけるように叩き付けた。

「まだまだっ」

ドンッと膨れ上がるようにカレンの体が膨張する。体長が倍程度大きくなり、力強さも増したのかスサノオの拘束を抜け出してしまった。

弾かれるスサノオの右腕。あたしはその勢いを利用して飛ばされるように自らジャンプしてカレンから距離を取ると再び身構える。

スサノオは巨大な髑髏の骨格を現している。

飛ばされるあたしにカレンはそのアギトを開いたかと思うと、口元に何かのエネルギーが集束、あたしに向かって撃ち出された。

ヤバイヤバイヤバイっ!直撃するっ!プロテクションでは多分意味が無い。だったら…速く…左腕だけでもっ!

そう思って突き出された左腕に呼応するように動いたスサノオの左腕の肘から二つ目の腕が生えてくる。その腕は雷球を握りこんでおり、その雷球から瞬時に雷光が走りカレンの砲撃にぶつかり、相殺させた。

互いの砲撃の爆風で視界が分断される。

煙が晴れるとカレンの姿が変わっていた。機械的なフォルムを有した巨大なドラゴン。いつか見せてもらったヴォルテールに近いだろうか…

対してこっちはまだようやくスサノオが肉付いてきた頃合。

「グオオオオオオオッ」

唸り声を上げるとカレンは両翼を広げ、翼の左右と口元に魔法陣が浮かび上がる。

マズイっ!?

あたしはスサノオの右腕に二つ目の腕が持っている炎球から黒炎を飛ばすと、集束している魔法陣を燃やしに掛かる。

何とか両翼の魔法陣は燃やせたが、口元の集束は止められない。

「くっ…」

あたしはスサノオの左手を前に出して、雷球から雷の塊…スフィアを幾つか浮かび上がらせると互いに連結させるように磁場を形勢、腕の前に盾を作り出し砲撃に備える。

相手の砲撃より一瞬速く盾をくみ上げきれたあたしは衝撃に備えママをぎゅっと抱きしめた。

カッと撃ち出される砲撃を何とか耐えようとするが…耐え切れず貫通。どうにか射線上からは逃げれたようでスサノオの左腕一本を抉り取られるだけで済んだようだ。

が、しかし、息つく暇を与えてくれるほど相手は容赦してくれない。

抉られた左側へと駆け寄ったカレンは鞭のようにしなる尻尾で攻撃してきた。

肋骨を貫通するほどの威力は無かったが、あまりの威力に耐え切れずに吹き飛んでしまった。

ズザザーと土埃を上げ周りの物を破壊しつつ転げまわり、ようやく停止。

「はっ!?」

しかしすでにカレンは目の前まで迫っていた。

肉付いている右腕と、ようやく骨の状態まで再生させた左腕でカレンと取っ組み合い。

カパリと開いた口からは集束されている砲撃。

右手の炎球から天照を飛ばすと、堪らずとカレンは飛びのくが、カレンから放たれた砲撃でスサノオの頭が吹き飛んだ。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

息が荒れる…

ママを抱えていて両手が使えないのがネックだ…魔力による攻撃はレジストされてしまう今、バインドなどは使えない。…今のあたしは攻防の全てをスサノオに頼らなければならない状況だ。

「炎龍っ!雷龍っ!」

スサノオの両手の炎球、雷球から形態変化させた二匹の龍が現れる。

「あぐっ……うっううっ…」

この術はまだあたしには早すぎるのか体を締め付ける痛みが酷い…しかしまだここで止まるわけには行かない。

二龍を操りカレンを攻撃する。

触れたらヤバイと感じ取ったのか、カレンは二龍に接触せず、砲撃で削っている。…正しい判断だよ…。

あの二龍は触っただけでも相手にはダメージが通る。天照とタケミカヅチの塊なのだから当然だ。

若干の猶予が出来たのであたしは紋章を発動、輝力を合成するとスサノオの頭部を再生、最終段階へと移行する。

スサノオの周りを鎧が包み込むと威圧感のある益荒男が完成した。

あたしのスサノオの回りに時折虹が幻視される。これはヴィヴィオの眼を移植した事で発現した『聖王の鎧』と呼んでいる能力だ。

これの防御力は絶大で、生半可な攻撃では決して通らない堅固な鎧だが、如何せん消費が激しく維持するだけでも莫大な量の輝力が必要だった。

今の状態を維持しつつ攻撃を行うとなればあたしが気力が充実している状態で3分。…今の状況じゃ1分もてば良い方だ。

だから、後1分で決着を付ける。

炎龍、雷龍を打ち破ったカレンが再び集束に入るのが見える。

あたしは炎球、雷球からそれぞれ炎と雷を伸ばし形態変化させると二本の刀を形作ると地面を蹴った。

あたしのスサノオに恐怖を感じたのか、カレンは集束途中で翼からの二発を発射。着弾するが構わずとあたしは突き進む。

攻撃の全ては聖王の鎧が弾いていた。

構わず駆けるとようやくスサノオのもつ炎剣、雷剣の射程に入った。

「あああああああっ!」

気合と共に炎剣を振り下ろす。

「ガアアアァっ!」

放たれる口元の砲撃を切裂き燃やしつくし、ついには頭部を一刀の元切裂いた。

「なっ!?」

さらに横薙ぎに振るわれる雷剣は竜の胴を真っ二つに切裂き、中に居たカレンさえも分断する。

「かっ…かはっ…」

纏った紙片はプラズマで燃やし尽くされ、中からは上下に泣き別れたカレンの姿が現れる。

あの状態でも死んでないのは流石にエクリプスウィルス感染者だろうか。

とは言え…

「あ、あぐ…はぁ…はぁ…はぁ…」

ヤバイ…体が痛い…さらに意識が朦朧としてきた。

スサノオの行使はまだあたしには様々な反動をもたらす諸刃の剣だった。

「姉貴っ!?」

アルと呼ばれた少女がサイファーをカレンに駆け寄ると、その分断された体を抱きかかえ此方を睨みつけると、悔しそうに顔をしかめた後転移準備に入った。

「ちっ…管理局員のお出ましか…このままじゃちょっとマズイか…。…てめぇ…ぜってー許さねーからなっ!」

襲われたのはあたしの方だと思う。それは一方的な因縁だよね?

彼らの気配が完全に消えるとあたしもスサノオを解いた。

…そう言えば、とはっきりしない頭でサイファーが取り落とした武器を探す。

何となく、あれを回収しなければと思っただけだ。

「…あった…」

ママを横たえるとサイファーの武器を回収。ソルの格納領域に仕舞い込むと流石に限界。

あたしの意識はそこで闇に染まった。







再び意識が覚醒するとあたしは教会系の病院のベッドの上だった。

周りにはヴィヴィオ、コロナ、アインハルトさんの姿が見える。

「コロナっ!良かった…コロナ、リオのお父さん呼んで来て。リオのお母さんの所に居るはずだから」

「う、うんっ!」

ヴィヴィオに頼まれてコロナが病室を出て行った。

「ここは…」

「病院。リオ、道端に倒れていたんだって。その近くには殺害されたらしき人も居たから…」

ああ、あの黒服の人たちの事か…

「リオっ!良かった…無事でよかった」

バタンと病室の扉を開いて駆けつけたパパに抱きしめられる。

「い、痛いよパパ…」

心配かけてしまったようだ。

「リオちゃん起きたんやって?起きて早々で悪いんやけど、何が起きたか話してもらえへんかな?」

と、遅れて入ってきたのははやてさんだ。

なるほど、あんな事件の後にこんな事件に巻き込まれたのだ。はやてさんが気にかけて他の捜査員にごり押しであたしの所に来てくれたんだろう。

「はい…でも、何で襲われたのか分からないんですけどね」

それでもと状況を説明する。

説明をし終えるとはやてさんから言葉が返ってくる。

「おそらく、リオちゃんを誘拐しようとしたのは2グループある。リオちゃんのお母さんに暴行した相手と、それを殺して奪い去ったもう一方。一つはおそらくフッケバインファミリー、リオちゃんのママを強奪してリオちゃんの前に現れたやつやね。リオちゃんの証言と殺されていた黒服の誘拐犯の殺され方からしておそらくその彼女が殺したと診て間違いない。それで、街中で切り殺されていた黒服の殺され方とは異なる。この事でリオちゃんの殺害の容疑はほぼ晴れたと言ってええ」

それはよかった。

「フッケバインファミリーだけでも頭が痛い言うんに…もう1グループ、リオちゃんを誘拐しようとしたグループがおる。こっちはまだ確定できるだけの情報はあらへん。…やけど、確実なのが一つだけある」

「…あたしを狙ったと言う事ですか…」

「そうやね。相手はどうやらリオちゃんのあの事をどういう経緯か知りえた相手…それが誰かは分からないけれど、おそらくあの事件をけし掛けた相手なのは間違いないやろ」

あの二人組の男達の依頼主の事だ。二人を無力化して逃亡した相手が居るのは明白なのだ。

そしてウィルス散布地から生きて帰ったと言う事も容易に想像がついてしまうのだろう。

「それでな、リオちゃんには悪いんやけど…」

そう断ってから話されたはやてさんの言葉であたしは六課預かりと言う事になり、事件が解決するまで学校は休学することになった。

これは六課預かりになった事で人質との交渉は無駄だと言うアピールと、あたしの保護と言う名の監視だろう。

パパやママには別途に管理局の護衛がついているらしい。

特務六課の主力フォワードメンバーには大体面識が有るのだけれど、二人ほど見た事の無い女性が混じっていた。

「あれ?リオ?どうして特務六課(こんなところ)に」

六課隊舎内の見学をとフラフラ歩いていた時、前から三人の人影が。その中の一人から声を掛けられた。

「トーマさん、お久しぶりです。トーマさんこそどうしてこんな所に?」

「いろいろ有ってね…俺は今局員見習いだから」

「へぇ」

「リオは?それにその眼…」

「いろいろありまして…あたしは今特務六課で保護と言う名の監禁中です」

「監禁?」

と問いかけるトーマの後ろから声が掛かる。

「トーマ?」

「その子は?」

「あ、ああ。この子はリオ・ウェズリー。なのは部隊長の子供、ヴィヴィオのお友達だよ」

「へぇ。あたしはアイシス・イーグレット。トーマと同じくこの部隊で厄介になってるんだ」

そう言って手を伸ばしてきたアイシスさんと握手する。

「あ、はい。こちらこそ、アイシスさん」

「呼び捨てでいいよ」

「あ、はい」

「わたしはリリィ。リリィ・シュトロゼックです。よろしく」

握手しようと伸ばされたリリィの手。

「この子…」

触れた瞬間リリィさんの表情が変化した。

「リリィ?」

いぶかしむトーマくん。

「この子、エクリプスウィスル感染者だ…」

「え?」

バッとトーマくんとアイシスさんの視線が向く。

え?

詳しく話を聞けば、トーマくんは最近エクリプスウィルスに感染して、大変な目に有ったらしい。

その時に知り合ったのがリリィとアイシス。

リリィはリアクトプラグと言われるエクリプスウィルスの感染源であり、生態制御装置…まぁ融合騎みたいなものらしい。

「じゃぁ、リオもシャマル先生の治療を受けているの?」

立ち話もなんだしと喫茶スペースに移動したあたし達。

「いいえー?」

そうトーマの問いに答えた。

「なっ!?じゃぁ殺人衝動とかは!?」

バンっと立ち上がる勢いでアイシスが詰め寄る。それをトーマが落ち着けと手を引いているのが見えた。

「無いですね」

「なっ…」

「それ本当っ!?」

ガバッと乗り出してくるアイシス。

「…はい…」

余りの勢いにタジタジ…

「それってエクリプスウィルスを克服したって事?」

「…多分」

「へー。良い事を聞いたわね。エクリプスウィルスって克服できるんだって。トーマ、リリィ、あんた達も頑張んなさいよ」

「う、うん…」
「が、がんばる…」

「あ、皆こんな所に居たんだ」

そう言って現れたのはなのはさんだ。

「もうそろそろ午後の訓練だよ。準備して」

「「「はいっ!」」」

元気良く答えるトーマくん、リリィ、アイシスの三人。

「がんばってー」

「何言ってるの?リオちゃんも見習い扱いなんだよ。一緒に訓練するよ」

「え?」

聞いてないですよ?いつの間にあたしは見習いになったのだろうか…

「はいはい、皆いそいでー」

え?ちょっ!本当に?







午後の訓練とやらは何故か実戦形式。

なのはさんがなんか凄いゴツイ装備を装着して空中に浮いている。

フォートレス装備と言うそうだ。

重厚なカノン砲を片手に持ち、翼のような四枚のシールドが浮いているし、何でこんな事に…と考えているあたしを置いてドンパチ始めちゃってる。

あたしはバリアジャケットを装着すると、でっかいハンマーを渡された後強制参加。

ウォーハンマーと言うらしい武器は何処と無くヴィータさんのデバイスを思わせる。

それにしても…なんかトーマのバリアジャケットは悪人にしか見えないね…黒騎士って言ってたっけ?

そしてディバイダーと言う銃剣型のデバイス。

魔力結合を阻害する能力を持っているらしい。そのためなのはさんの攻撃もどちらかと言えば質量兵器の感がするプラズマ砲だ。

同様にあたしが持っているウィーハンマーもこの質量でぶっ叩けば人なんて簡単に殺せるだろう。

魔力結合分解に対抗する為なんだろうけど、これは良いのだろうか?

トーマくん達の戦いは大量の魔導書のページが舞ったり、煙幕を撒き散らしたり、ディバイダーからの砲撃が飛び出たりと結構凄い事になっている。

まぁそれをいなしているなのはさんも流石ではある。

「こらっ!リオっ!サボってないで援護しなさいよっ!」

アイシスさんからの怒声。

「あ、あはは…」

とは言ってもどのレベルで動いて良いのか分からないのです。

実際模擬戦と言えばヴィヴィオ達か、もしくはアオお兄ちゃん達と言うある種の絶対的な存在には全力で戦えていたのだが…

なんて言っている内に三人とも撃墜。

残りはあたし一人だ。…とは言っても戦いに参加してなかっただけだけど。

「あとはリオちゃんだけだね」

「そうですね、なのはさん」

「どうして戦闘に加わらなかったの?」

「どの程度の動きをすれば良いのか分からなかったので…」

「あぁ…アオくんの弟子だもんね…」

そう言う事です。

「じゃあまぁ、適当に行きますっ!」

「適当って…」

あたしはウォーハンマーを担ぐと空を翔ける。

エクリプスウィルス感染者が仮想敵でもあるので、使うのはプラズマ砲がメイン。

なのはさんは手に持ったカノンを構えると、滞空していた二枚のシールドを自身から分離し、備えられた砲身から三方向からの射撃。

あたしは魔力を薄く球形に伸ばすと、相手の攻撃を感知、着弾までの間に安全地帯の先読みで攻撃を避けていく。

なのはさんに近づこうとすると左右からの弾幕が濃くなって近づけない。

これは飛翔しているシールドから対処しないとかな。

『ヴァイヒ・スツーツ』

柔らかき支柱の魔法を飛翔するシールドの一つの周りに幾つも行使。

「えええっ!?」

柔らかく跳ね返る支柱がシールドの軌道を妨げる。

「まだまだっ!」

さらに限界まで柔らかき支柱をスタンバイ。順次行使していく事で空間を埋めていく。

障害物の多さにシールドは機動力を失い、逆にあたしはその支柱を足場に空中を駆ける。

そして接触。

「はっ!」
「くっ…」

手に持っていたシールドであたしのハンマーを受けるなのはさん。

硬いね…無強化のただ振り下ろしただけのハンマーじゃ抜けないか。

でも多分本来はジェット噴射による威力の増強。ゼロ距離からのプラズマ砲での攻撃と言うコンボがあるんだろうなぁ。

グリンッと手に持ったカノンをあたしに向けようとして…なのはさんはやめた。

「わたしの負けかぁ…防御を抜かれない自信はあるけど、プラズマパルスの直撃を受けてからの反撃はさすがに無理」

首を振ってからなのはさんはため息を吐いた。

「はぁ…昔のアオくんを相手にしているようだよ」

そりゃ、あたしはあの人たちの弟子ですからね。

「あ、そうだ。データの収集はしないから、そのウォーハンマーでこのシールドを思いっきり叩いてみてくれないかな?…もちろんリオちゃんのもてる技術全てで強化したヤツで」

と、飛んで戻ってきたシールドを指差すなのはさん。

「え?」

「エクリプスウィルス感染者の攻撃は生半可じゃないからね。リオちゃんの攻撃で壊れるようならまだまだ強化しないと」

「…まぁ良いですけどね。…データ記録は止めてくださいよ?」

「大丈夫、約束する」

と言うと観測機器の全てをオフにするなのはさん。

「それじゃぁ…」

紋章発動、輝力合成。

練った輝力の全てをウォーハンマーに集約、硬での強化。さらに貫通力を持たせるために雷遁で雷を纏わせる。

ヂッヂッヂッヂッヂと放電する音が聞こえてくる。

「まっまって…レイジングハートっ!もしかして二枚じゃ足りないかなっ!?」

『全てをぶつける事を提案します』

「う、うんっ!」

残りの二枚も急いで操ると四重に強化されたシールドが現れる。

「全力全快っ!トールハンマーーーーーっ!」

技名は適当。

あたしはウォーハンマーを振り下ろすと一瞬の拮抗もなくシールドのすべてを砕き壊していた。

「あはははは…これは始末書ものかなぁ…」

『お手伝いします…マスター』

「ありがとう…レイジングハート…」

あ、なのはさんが現実逃避している。

まぁ今の技は威力は極限に高いけれど、溜め時間は長いし、防御に回す輝力分も全て使っているから実戦では使えないんだけどね。

そんなこんなで模擬戦のような訓練は終了した。


模擬戦は有意義だったけど、あたしには今課題がある。

スサノオの持続時間が少ないのだ。

どうにもあたしのスサノオは両手に形態変化させている炎球と雷球の所為か消費が激しいらしい。

輝力でもって構成しても持続時間が短いのだ。

どうにかしてスタミナをつけなければならないのだが…

「ぶっちゃけあたし一人が考えても何も浮かばない」

「何をいきなり言い出しているの?リオ」

と、ヴィヴィオ、アインハルトさんと一緒に六課にあるあたしの部屋に遊びに来ていたコロナがあたしの呟きに突っ込んだ。

「この間の襲撃であたしは地力不足を思い知ったのだ」

「地力?輝力を合成してもまだ足りないくらい?」

と、ヴィヴィオ。

「全然足りないよ…」

「そう言えば、アオさん達のオーラ量って桁違いですね。…わたし達が輝力でようやくと言う術もオーラで軽々やってのけられてますから」

何かを思い出したようにアインハルトさんが言った。

「そうだね、何か秘密が有るのかな?」

「ヴィヴィオ…まぁあの人達の事だからまだ何か隠してそうだよね」

「ヴィヴィオもコロナも酷いよ…」

「ですが、あの人たちなら…と」

「アインハルトさんまで…いやまぁあたしもそう思うけどさっ!」

あの人達の奥底はまだ見えていないんじゃないかと言う疑念と、いつまでも越えられない目標でいてもらいた憧れとが混ざっている。

「次のフロニャルドへは行けないかも知れないし…うーん…」

どうしよう。

「じゃ、じゃあアオお兄ちゃんを逆に呼んじゃう?」

「ええっ!?」

ヴィヴィオの言葉に驚くコロナ。

「怒られないでしょうか…」

とアインハルトさん。

「だってリオはすぐにでも地力を増やしたいんでしょ?」

「まぁね」

うーん…

「そんな方法は無いかもしれないけれど、聞ければすっきりするしね」

とコロナが追随する。

なるほど、確かにあたしも悶々としている。皆も実際に有るのでは無いかと疑念を持っているようだ。

六課の訓練場をヴィヴィオ達との演習目的と偽り借りる。ここが何気に監視の目が一番少ないのだ。モニタ関係を全てオフ。観測機を切ってしまえば外部への魔力遮断効果もあり、結構何をやっても見つからないような穴場なのだ。まさに灯台下暗しと言う事だろう。

「それじゃ、ソル。口寄せ術式の補助をお願い」

『了解しました』

「それじゃ…」

ピッっと右手の親指を切裂き血を流すと、そのまま印を組み、右手を地面に押し当てた。

「口寄せの術っ」

ボワンと煙と共に現れる人影。

「誰だよ…こんな時に呼ぶのは。なぁ?久遠」

「くぅん」

と、煙の中から現れたアオお兄ちゃんは早々に悪態を吐いた。

接触していたのか久遠ちゃんも一緒に口寄せされたようだった。

「リオ?それにヴィヴィオ達も一緒か」

「お久しぶりです、アオお兄ちゃん」

「「「お久しぶりです」」」

取り合えず挨拶。

見ればアオお兄ちゃんの雰囲気が若干違っている。2Pカラーと言いますか、何と言うか、そう、リインさんがユニゾンした時のような感じだ。

と言う事はクゥちゃんとユニゾン中なのかな?

「訓練中でしたか?」

「まぁね…それで、俺を呼び出した用事は?」

「あ、はい…」







「なるほど、また襲われたのか…それで地力の底上げを…」

「あたしも…ううんあたし達も努力は怠っていないと思っているんだけど、やっぱりアオお兄ちゃんと比べちゃうと」

「何か出来る事は無いんですか?」

と、ヴィヴィオがあたしの言葉を引き継いだ。

「地力の成長は年齢と共に増加するものだけど、個人差もあるし、確かに個々の限界値と言うのもある。それを言えば君達は早熟だからそろそろその限界値に上っているのかもしれない」

「それは…」

日々の努力が報われたと言うよりも、単純に限界を突きつけられただけと言う事だ。

リンカーコアの資質などは生まれもったものであり、ランクを大幅に伸ばす事は不可能と言われているこの世界で結構な魔力量を持っているあたし達は他の人たちよりは恵まれている事に感謝しなければならないのだろう。

アオお兄ちゃんの言葉を聞くにオーラの方もどうやら上限らしい。

だけど、それじゃ困る。

どうやら顔に出ていたらしい。

アオお兄ちゃんはため息を吐いた後、「だが…」と言葉を続けた。

「リオ達の運用はまだまだ無駄が多い。技を出す時に平均で二割ほどロスしている。確かに魔力量やオーラ量が多いリオ達には余り関係ないかもしれないが、このロスを無くせば?」

「今よりも二割、地力が増えるって事ですか」

とアインハルトさん。

「集中力を向上させ、技の無駄を省く技術を『食義』と言う」

「ショクギ…」

一体どういう意味の込められた言葉なのだろう。ミッドチルダの言葉ではないから多分地球の言葉なのだろう。

ソルに検索してもらうとテーブルマナーでは無いかと言う回答が返って来たが、さすがにそれは無いんじゃないかな?とその時は思っていたのだけれど…

「どうする?結構辛い修行になるけど教えて欲しい?」

あたし達は互いに視線を合わせた後、異口同音で返事をする。

「「「「はいっ!よろしくお願いしますっ」」」」

あたし一人だけでもと思ったけれど、抜け駆けはさせないとの事らしい。

それではと持ち出されたのはいつもの箱庭。

これを使わないと短期間でのレベルアップは不可能だからね。…歳はとるけど。

訓練場の端っこに移動すると人目のつかない所にアオさんは箱庭を取り出すと中の時間を加速させるとあとは宿泊の準備だが…その辺りは全部アオさんに任せることにする。

きっとあの道具袋に色々入ってるから大丈夫でしょう。

準備が出来たので全員で箱庭内にIN。食義の修行が楽しみだ。







「さて、取り合えず、リアクト・アウトだ」

リアクト?それってリリィさん達と同じ?

「え?嫌だ?…ロザリアもそろそろ人見知りを直そうね。この娘達なら大丈夫だよ」

しぶしぶと言った感じが伺えるその会話を終えるとアオお兄ちゃんの中から一人の女の子が現れた。

その姿はやはりどこかリリィさんを思わせる。

「その子は?」

「ほら、挨拶」

ぐっとアオお兄ちゃんの袖を掴んでその影に入りながら、此方を盗み見るように視線を寄こす少女。

「……うっ…」

緊張しているのか中々言葉が出てこないらしい。

その緊張を破るようにヴィヴィオが前に出て自己紹介を始めた。

「あたしは高町ヴィヴィオ。13歳です。あなたの名前は?」

「ロザリア…ロザリア・クゥ・シュトロゼック・フリーリア…14歳」

「クゥ?」

それはアオお兄ちゃんのユニゾンデバイスである猫さんの名前だ。

「ん…ちょっと事情が有ってねこの娘はクゥでもあるんだ」

まぁ詳しい話はその内話してくれるだろう。

「ロザリアね。あたしはリオ・ウェズリー。ヴィヴィオと同じ13歳」

「わたしはコロナ・ティミル。わたしもヴィヴィオと同じ」

「私はアンハルト・ストラトス。ちょっと皆からは年上の15歳です」

自己紹介が終わってもまだロザリアの警戒は解けなかったようでアオお兄ちゃんから離れようとしない。

とは言え、あたし達は修行に来ているのだ。

アオお兄ちゃんの修行が始まる。

食義の修行は感謝に始まり感謝に終わる。

食材に感謝をが基本理念らしく、技術を教えてもらうのではなく。どちらかと言えば精神修行。

しかも食べると言う事柄に特化している修行だ。

感謝の念以外の雑念を感じるとその炎が消えてしまう「たいまつくし」の炎を消さないように持続させる修行から入ったのだが、これがまた難しい。

思考を分割するマルチタスクからは真っ向から反対方向。

一つの事に全力を傾ける事がこんなに難しい事だなんて…

まずは30分燃やしてみろと言ったアオさん。しかし実際は一分と燃やせませんでした…

ようやく継続して炎を燃やせる事になるとすっかり夜。

夕ご飯と差し出されたのは一粒の種と鉢植え。

「これは?」

「何かの種ですよね?」

「いったいなんですか?」

と皆疑問を口にする。

「ローズハムと言う。感謝の念で育つ植物だ」

「あ、はい…それで…?」

「それがご飯だから、感謝の念が強ければ直ぐに成長する」

こんな風にねと見せてくれたアオお兄ちゃんの鉢植えからはバラのような植物が急成長して花を咲かせた。その花の花びらの部分がロースハムのような芳しい匂いをたたせていて食欲を誘う。

「それじゃ、がんばってっ」

そう言ってアオお兄ちゃんはすたこらさと離れていった。

唖然としているあたし達。でもまぁ…

「とりあえず、頑張る?」

「うん…」
「はい…」

「これを咲かせないことには夕ご飯にありつけませんしね…」

あーっ…とても深刻です。







結局朝まで頑張ってやっと芽が出た程度でした。

…しかもアオお兄ちゃん、本当に何も食べる物を寄こさないし…

ぐーっ…

空腹でめまいが…

「あ、まだ咲いてないんだね…じゃぁ今日の修行は継続してローズハムに感謝の念を捧げる事だね。はやく花を咲かせないと本当に飢え死にしちゃうかも」

「ええっ!?」

「朝ごはんは…」

「当然ありません」

「がーん…」

「うっうう…」

「死ぬ…絶対死んじゃうっ…」

「いえ、きっとこれには意味があるんです。皆さん頑張りましょうっ!」

励ますのは年長者であるアインハルトさん。

「お、っおー…」
「がんばろー…」
「はい…」

ダメだ、お腹が…







結局花が咲いたのはその日の夕方でした。

ローズハム…すごく美味しかったです。


さて、その後も出来なければご飯が食べれないと言う地獄のような修行が続く。

長い箸で何メートルも向こうの豆粒を掴んで食べるとか、つまむ力が少しでも強すぎるれば割れてしまう卵のようなコメを一粒一粒掴んで食べる修行とか。

食べれないストレスと、食べた時お幸福感。食材への感謝もだんだん自然と行えるようになってきた。

「ですが、こんな事で本当に修行になっているのでしょうか…」

意味を考えた結果、分からなくなってしまったのか、いっぱいいっぱいになってしまっているアインハルトさん。

「ん?あ、ああ。まぁそろそろ修行の成果も現れるだろうよ。アインハルト、あの木に向かって断空拳を放ってみて」

「え?あ、はい。分かりました」

すっと既に何千回、何万回と繰り返した彼女の技。

しかし、今回の彼女はその立ち方がすごく自然体で、技に入る流れもすごく綺麗で無駄が無い。

「断・空・拳っ!」

ゴウっと撃ち出される空圧は衝撃波を伴い木々をなぎ払っていく。

「「「うそっ!?」」」

「これは…」

あたし達もびっくりしたけれど、アインハルトさん本人が一番ビックリしているだろう。

「修行の成果。無駄な力が抜け、動きに繊細さが増した結果、その威力が跳ね上がったんだ」

「これが無駄を無くすと言う事ですか…」

「無駄を無くした結果、同じ技でも消費エネルギーが格段に下がっているはずだ」

「はい…半分以下の力で倍以上の攻撃でした」

「そんなにっ!?」

「リオ達も後で試してみればいいよ。…だけど、そろそろこの修行も最終関門だな」

「最終…」

「まだ有るんですね」

と、コロナとヴィヴィオが洩らす。

「本当に次が最後。…だけど、心して。この修行は本当に死んじゃうかもしれないから」

「え?」

「ここまでで止めても成果としては十分だと思うし、強制はしないね」

「ちなみに、その修行を受けると…」

どうなるんですか?とアインハルトさんが控えめに問いかける。

「人間としての限界を超えるね…とは言え、神や神殺しまでは行かないけど」

後半の不穏な言葉は取り合えず無視。

「人間としての…」

「限界を…」

「越える?」

「それって人間を辞めちゃうって事ですか?」

あたし、ヴィヴィオ、コロナと呟いて、最後はアインハルトさんが問い掛けた。

「いや、ちゃんと人間さ。ちゃんと寿命で死ぬよ」

寿命以外ではどうなのか、問い詰めた方がいいのでしょうか…?

でも…

「あたしは受けるよ…」

「リオ?」

「ヴィヴィオ…あたしは最初からもっと強く、それこそ自分の限界を超える為に来たんだもの」

「リオ…」

「リオさん…」

コロナ、アインハルトさんも心配そうな声を上げる。

「うん、わたしも受ける」

「ええ、私もです」

「皆に置いていかれるわけにはいきません。当然わたしも受けますっ!」

ヴィヴィオ、アインハルトさんコロナも決意する。

「そう…辛くなったり、止めたくなったら直ぐに俺に言って。すぐに修行を中止、助けてあげる。…だけど、たぶんチャンスは今、この一度きり。ここで止めたり、諦めたら多分二度目は無いよ」

「「「「はいっ!」」」」

「それじゃ…木分身の術」

アオお兄ちゃんの尻尾の付け根辺りから現れるアオお兄ちゃんそっくりの分身。アオお兄ちゃんも最近覚えたらしいチート忍術、木遁の木分身が四体現れる。

「ここからは皆それぞれ一人で俺の分身に着いて行ってもらう」

「全員一緒じゃないんですね」

「辞めるかい?」

「いいえっ!」

気合を入れなおす。

「それじゃ皆、また後で」

「うん、また」

「はい、また後で会いましょう」

「その時はみんな限界を超えてだね」

と、皆で激励しあった後、アオお兄ちゃんに着いてそれぞれ歩き出した。

アオお兄ちゃんはこれを着けてただ着いて来いと一言だけ言うと前を歩き出す。渡されたのは両手足に着けるタイプの加重装置。ただそれがオーラと魔力を吸い上げて重くなっていると言う代物。これが結構重い。アオお兄ちゃんの速度は決して速いわけではないが、それでも散歩と言うには速い。

重りが重く、なかなか着いて行くのがやっとの速度だ。

周りの景色はふわふわと目印になるものが見当たらず、つかみ所が無いため、今自分がどこを歩いているのかさえ、数時間前にとうに分からなくなっていた。

ただ着いて来いと言われたからあたしは歯を食いしばってでも着いて行く。

だけど、じょじょにアオお兄ちゃんはペースを上げてきていた。それに追いつくには念や魔法で身体を強化しなければならないほどだが、重りにも使われているためにその量のコントロールは精密に多すぎず少なすぎずコントロールしなければ追いつけないし、長時間維持できない。

これが修行かとも思ったけれど、どうやら違うのかもしれない。

休憩も食べる物もいや水さえも口にする事もなくすでに何時間歩いただろうか…だんだん重りも魔力と念を吸い取って重くなってきている。すでに何トンあるだろう。

出発前にリオが一番この修行は危険かもしれないとアオお兄ちゃんが言っていた意味がようやく分かった。

あたしの体内にあるエクリプスウィルス。宿主の危機にその活動が活発になり、押さえられているはずの破壊衝動すら再発してしまったのではないかと思えるほどだ。ウィルスへのエネルギーが滞ってきた事でウィルスが宿主であるあたしを食い殺そうとする作用。対消滅と言うらしいそれに抗う。

ただ歩いているだけなのに、地獄のような時間が過ぎていく。

ただ生きて、歩いている。それだけもすごく困難だ。

生きているなんて事は当たり前のことで、食べ物を食べるなんて事も当たり前の事だった。そんな当たり前の事が尊い事だと気付かされる。

人との繋がりもそう。

アオお兄ちゃんに知り合えたからこそ、フロニャルドで色々な経験が出来たし、いろいろな人と知り合えた。命を救ってもらったこともある。…と言うかそれが切欠だったか。

人々との出会いにも感謝を…

あれだけあたしを食い漁っていた挙句に、それでもあたしを生かすために消滅しかけるまで縮小しているエクリプスウィルス。ギリギリの所であたしを生かしてくれたらしい。

そして、まだ生きている事に感謝を。

ああ、そしてあたしを生かしてくれていた全てのものに感謝します…

限界を超えて歩いていたあたしも、ここらでついに体が動かなくなってしまってつんのめるように倒れてしまった。

「……よく、がんばったね」

アオお兄ちゃんの声が聞こえるような気がする。

カシャリと音を立ててあたしの四肢に付いていた重りが解放されると、ズドンと音を立てて地面にめり込んでしまった。…どんだけ重かったのだろうか。

「これを飲んで。きっと落ち着く」

そう言って抱き上げたあたしの口元に寄せられたのは一杯のお猪口に入った液体。

コクリと嚥下する。

「…おいしい…」

その一口であたしの体に活力が戻ってきた。それは徹夜明けに飲んだ滋養強壮ドリンクなどよりも強烈にあたしの体を駆け巡る。

「虹の実のジュースだよ。どうやら無事に食没を覚えたようだ。このジュースはまぁ頑張ったご褒美だね」

もっと…とせがむあたし。

それに苦笑しながらアオさんは虹の実のジュースをあたしの口に運んでくれた。

「続きは屋敷で頂こう。どうやらリオが最後のようで、皆待ってる」

とアオさんが言うと一瞬で景色が歪み、見慣れた森へと変わる。

どうやら幻術に掛かっていたようで、同じ所をぐるぐると歩き回っていただけのようだ。

「はい…」

アオお兄ちゃんはあたしを抱き上げて立たせると、一緒に屋敷へと戻る。屋敷はすぐそこだった。

「リオっ!どうだったっ!?」

と屋敷に着くと一番にリオが問い掛けた。

「むしろそれはあたしが聞きたい。皆はどうだったの?」

三人の表情を見れば一目瞭然だった。

「そっか…それじゃぁ」

あたしの口角も上がる。

「うん。全員食没を覚えたよっ!」

「はい」
「うん」

いぇーいっ!と皆で抱き合い喜びあった後、アオお兄ちゃんが用意してくれた料理を食べる。

「おかわりっ!」
「わたしもっ」
「あ、わたしも」
「私もです…」

「みんな…食べ過ぎ…」

ロザリアちゃんが呆れてる。

「だねぇ。とは言え、それが食没を習得した者の証か」

とアオお兄ちゃんは知っているために驚かず。追加の料理を配膳していく。

ようやく腹が満たされた頃、変化は如実に現れていた。

「これは…」

「オーラ量が自分の限界を超えている?」

と、コロナとヴィヴィオ。

「いえ、それだけじゃありません。魔力量も増えています…」

アインハルトさんが感じたままに言った。

「それが食没の効果だよ」

「どういう事でしょうか?」

とアインハルトさん。

「体内に入っても感謝し続ける事で食材の方も何倍もの効果を発揮すると言う…とは言え、そんな事を言っても漠然としかわからないだろうけれど。そうだな…効果だけを簡単に説明すると…」

と取り出したのは容器に入ったトウモロコシ。

「それは?」

とヴィヴィオが問う。

「これが、オーラにしろ、リンカーコアにしろ、そこに蓄えられているエネルギーだとしよう。今のこの状態が普通の人間の限界だ。とうぜん、これに更にトウモロコシを入れようとしても入らない」

まぁそれは見れば分かるね。

容器を渡されたので取り合えず持ってみるけれど、まぁ重さもこんなものかな?

「で、こっちが…」

と言ってだしたのは同じ大きさの容器。その中身は白い粉末が入っていた。

「これは同量のトウモロコシを粉にしたもの。これが食義を極め、食没を習得した人の状態」

え?

「同じ容器、同じ量のはずなのにこれだけスペースに空きが出来る」

「器が同じでも、蓄積方法が変わればその分容量がふえる?」

「正解」

ヴィヴィオの答えに頷いたアオお兄ちゃん。

「魔導師の魔力量を増やす為に付加をかける方法があるね。リオ達にもやってもらってたけど、これは容器の大きさを大きくする方法。個人的資質が大きく出る所でもあり、増やし辛い所でもある。まぁ、成長期にあわせて付加をかければ、そこそこ伸びるものだけど…絶対的な限界はある」

とは言え、やはり先天性資質に左右されるものだ。

「でも、食没は蓄積密度を操っている。器の大きさが大きい事に越した事は無いけれど、その密度を細かく、純度を上げていけば、桁違いの魔力が蓄積できるだろうね」

「それが食没…」

誰の呟きだっただろうか。確かにこれは普通の人間をはるかに越えたと言う事だろう。

「まぁ、食没の習得は俺達がいつかはと思って時間を掛けて仕込んできた結果だよ」

今までの修行はこの修行をこなせるようになるための物も含んでいたと言う事だろう。本当にアオお兄ちゃんは…もう。

「この技術はいつ習得したのもなのですか?」

「いつ…ね。その質問に意味があるのか分からないけれど。リオとヴィヴィオに初めて会った時には覚えてなかったな。…古代ベルカを生きた時にはすでに覚えてたけど」

「そうですか…」

と一人納得したアインハルトさん。

さて、お腹が膨れたら眠くなってきました。まぁハードな修行にあの食没を得る為の試練と過酷に過ぎた。

「奥に布団を用意してあるから、ゆっくりお休み」

「はい…」
「失礼します」
「…zzz」
「コロナっそんな所で寝ると風邪引くよっ!」

重たい体を引き摺って布団まで行くと、直ぐにまぶたが落ちる。その日は久しぶりにゆっくりと眠った。
 
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