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エターナルトラベラー

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エイプリルフール番外編 【IS編】

 
前書き
エイプリルフールですので、書いてはみたけれどもろもろの理由によりお蔵入りしていた物を掲載します。例年のごとく、本編とは関係がないIFの話ということで楽しんでいただければ幸いです。 

 
ようやく未来へと戻った俺達は、得た権能に振り回されないように訓練をつんでいた。

とは言え、過去での最後の戦いで得た権能に置いては訓練でどうにかなるものでは無いので、なのは達は未だ掌握できていない物もあるが、進化を遂げた自身の念能力に関しては十全だろう。

世界は紛争も有るが、大方平和に過ぎていた日常。しかしそれが一変しかねない事態が起こった。

日本に向けてハッキングされてしまったらしい多くのミサイルが放たれたのだ。そしてそれを単騎で全て撃ち払った何者かの存在。後に白騎士事件と云われる事になる事件である。

パワードスーツのような物を纏い、空を自由に駆け、ミサイルを大口径の砲撃で半数を、もうその手に持ったブレードで切り裂いてしまったらしい。

当然各国から突如現れた突如現れたそれを捕獲または撃破しようと躍起になったが、その何者かは相手を殺す事も無く無力化し、簡単にその場から逃げたそうだ。

そして世界に発表されたインフィニット・ストラトスと言う兵器。

現行兵器では全く歯が立たないそれは、開発者曰く宇宙進出を目標として設計された物のようだが、実情は兵器への転用が可能と言う爆弾を世に送り出されてしまったような物だ。

その後、その兵器に対する様々な法令が施行されることになるが…この兵器、外装は今の科学力でも開発出来るようだが、そのコアは開発者である篠ノ之束(しのののたばね)博士しか作られないらしく、国による量産は事実上不可能。さらにその機動は女性限定であり、男性では指一本動かせないらしい。

これにより社会は女性優遇へと移り変わるのはほんの少し先の話だ。

さて、今日は久しぶりにソラやなのは達を交えた夕飯だ。夕ご飯を食べ終えると、父である冬馬さんがゴトリとソフトボールよりはでかくマスクメロンよりは小さいくらいの宝石のような球形の何かを机の上に転がした。

「それは?」

そう俺が代表して問いかけた。

「みなさんはもうインフィニット・ストラトスをご存知と思いますが、これはそのコアです」

うわぁ…なんて面倒くさい物を持ってきたんだ。

「それで、それをこんな所に持ち込んでどうしたんですか?」

と母さん。

「これの作成は篠ノ之博士しか出来ないと言う事なのですが…これをみて皆さんの意見も聞いて来いと上司に言われまして…いやはや、サラリーマンは辛いですなぁ」

「……解析データは有るんですか?」

適当に誤魔化しても良いけれど、実の父親だしね。多少の事は融通する。

「はい、こちらに」

と渡されたのは大容量のUSBメモリ。それを俺は受け取ると、専用の機械に差し込み、そのデータをソル達デバイスに転送すると、リビング一杯にウィンドウボールを開き、そのデータを参照する。

この立体投影技術も、IS技術の流入で急激に科学技術が発展している昨今では俺達だけの技術では無くなってしまう日も近いかもしれない。

さて、改めて皆でウィンドウを注視する。

ウィンドウをスクロールしながらデータを斜め読み。あ、母さんは見てもいない。どうやら俺達に任せると言う事らしい。

まぁ、こちらの方面は母さんはからっきしだし良いか。

「うーん…」

「アオ…これって…」

「だねぇ」

と主語も何も無くソラの言葉に返す。

他の皆も気がついたらしい。

「ブラックボックスになっている所は解析できていないみたいだけど…」

「物質の量子化に慣性制御術式とオーラ系の防御フィールドの形勢…」

「うん…まさかこんな物が開発されるとはね」

なのは、フェイト、シリカの呟き。

「…えっと、結局これは何なのでしょうか?」

と自己完結している俺達に父さんが問いかけた。

「これは魔導炉内蔵型デバイスコアだね」

「…魔導炉内蔵型デバイスコアですか…それって…」

おや、流石父さん。少ない言葉で気が付いたようだ。

「似たような物が目の前にあるでしょう?」

そう言って俺の視線は自分の胸元へと移動する。

「やはりソルさん達と同系統の技術ですか」

「…分かった事は、これは周りにある魔力素を吸収、蓄積してエネルギーに変換。その流用によっての慣性制御と防御フィールドの形勢する補助具だね、これ以上となると…ソラ」

俺はおもむろにISコアを掴むとソラの方へと放り投げる。

「ん」

了承は一言で、右手にソラはアンリミテッド・ディクショナリーを顕してその口でISコアを飲み込んだ。

「ああっ!?」

父さんの絶叫。

ビクっと誰もが一瞬硬直する。

「何?」

「いやぁ…それは借りてきただけで返さなければならない物なのですが…ソラさん、返却できますか?」

「…無理」

と、非情の一言。

うん、無理だよね…ゴメン、俺も浅慮だった。

ソラのアンリミテッド・ディクショナリーに食わせた物が何処に行くのかは俺達ですら不明な上、返って来たためしが無い。

「…始末書で済めば良いのですが…」

ごめんなさい、そこは頑張ってください。いざとなれば協力しますから…

とは言ってもカンピオーネの名前を使って馨さんあたりに圧力を掛けるだけだけどね。

今度はソラのアンリミテッド・ディクショナリーからページが浮かび上がり、詳細なデータが表示されていく。

もちろんブラックボックスになっている部分のデータも開示された。

それに眼を通す。

…結構量があるぞ。

余りに時間が掛かる作業にアテナ姉さんなんかはすでに母さんの膝の上で寝ていた。

アーシェラが時折持ってきてくれるお茶を飲みつつさらに解析する。

「どうですか?複製出来そうですか?」

と父さん。

「父さんはさ、男も乗れるISが欲しいの、それともISに対する抑止力が欲しいの?」

どちらが欲しくて俺達に見せたのかだ。きっと俺がこう問いかける事も馨さんあたりなら察してそうだ。

「そうですなぁ…両方と言いたい所ですが、どちらかと言えば後者ですか」

良く分かっているね。両方は俺が提供しない事を。

とは言っても…

「動力は魔力素だから、AMF結界で無効化出来るだろうけれど、うーん…」

「何か問題が?」

「この時代に居る人たちが開発した物じゃ無いから、やっぱり教えられないな」

「何故ですか?」

「人間は答えだけを教えられても何も学ばない。この時代にある変動に答を出すのはこの時代を生きる人の役目だよ。それがどれ程理不尽であり、その世界を改変し、また破壊したとしても、その答えを出すのは当事者でなくてはならない。…そこに居て、俺達は結局傍観者でいなければならないのかもね…悲しいけれども。どれだけ抑止力を持っていたとしても、それを行使する事を俺は躊躇う」

この時代で出来上がった技術を使うことに躊躇いは無いが、この世界に無いものを社会に広める事はしたくない。

「なので、上司への回答はこう答えてください。『何事も完璧な物はありません』と」

「無力化出来ない事は無い。つまり自分達で見つけろと言う事ですね」

「そう言う事です」

「とは言え、それならばせめて無くしたISコア一機分のコア位は製造してもらいたいのですが…」

「むぅ…」

父さんの立場を危なくするのも何なので、俺達は箱庭内のラボへと移動、コアの作成に取り掛かる。

「構造は第五世代以降のデバイスを参照、後はデータ通り組み立てれば…」

デバイス構築技術、またその装備を持っていた俺達には類似品であるISコアの組み立ては比較的容易に終わる。

「後はこのコア・ネットワークだけど…さて、どうした物か…」

ISコアに内蔵されているデータ通信ネットワークだが、うーむ…

「プロテクトを掛けた上で、このコアは研究用と言う事で外に出さないように…いえ、もっと言えば私達預かりと言う事にしましょう」

とソラ。

「それが良いか。まぁ最悪そのまま渡しちゃっても問題ないか。今の科学技術でコアの再現は出来ていないみたいだし、外装の開発研究用に回してもらえば問題ないかな」

と言うか、魔術結社関係(カンピオーネ)に持ってこられた以上相手も理不尽を覚悟しているはずだしね。

「しかし、ISか…」

「何、アオは興味有るの?」

とフェイトが聞いてきた。

「まぁね。機動力だけなら俺達を上回るね。理論上音速を超えても防御フィールドでパイロットには影響をもたらさない」

「まぁそんな速度で戦ったらお互いに攻撃が当たらないんじゃないかな。エンカウントなんてそれこそ一瞬だろうしね。ぶつかりでもしたら体がバラバラになりそう。それと、別にわたし達も出来ない訳じゃないよね」

と、なのはが言う。

まぁソニックブームなどの影響もあるから気軽には使わないし、使う機会も無いのだが、既存魔法の組み合わせで別にやって出来ない事も無い。…それとは別に神速系の権能ならばもっと速いかもしれないし。

「各種スラスターも魔法で同じ事が出来ますしね」

そうシリカも言う。

圧縮して炸裂させたエネルギーを推進力へと変換する。高度な制御を要するそれもソル達が居れば容易だった。

「つまりは、結論は要らないって事だね」

はい、と皆が口にした。

「一応AMF発生装置は用意しておこうかな。必要ない方が良いとは思うけど」

「備え有れば憂いなし、ね」

「そう言う事」

とソラに返すと作業に取り掛かった。

さて、数日を要したコア作成も終わると箱庭を出てコアを父さんに渡すと、それっきり、ISの事については考えるのを止めた。



それからの世界情勢は一気に女尊男卑へと傾いていった。

最強の機動兵器であり、一機で一国の軍隊と渡り合えるISを操れるのは女性だけであり、その地位はいつしか男女が逆転した世界になってしまっていた。

現存するISは全部で467機。

コアは各国のパワーバランスを考えて配布され、国ごとに所持できるコアの上限は決まっている。

これは開発者の篠ノ之博士がそれ以降の開発をせず姿を眩ませた為だ。

まぁ、それは賢い選択だろう。こんな物が際限なく作られてしまったら世界そのものが危ない。

一応平和利用の観念からスポーツへと展望している一端もあるが、開発者の意思などがどうであれ、兵器転用できる物の全てを兵器にしてしまうのが人間である。結局は軍事力であり、その操縦者と武装が高度であれば有るほどその国の軍事力足り得るのでその外装の開発、そしてそのパイロットの育成に余念が無い。

ISが世に出てから10年が経とうとしているが、未だにコアの複製には至ってないようだ。

さて、高校受験が控えた一月の中旬。父である冬馬さんが俺達に対して無茶振りをしてきた事でまた俺達は波乱染みた騒動に巻き込まれてしまう事になる。

「はぁ?IS学園に入学して欲しいだって!?」

いつもと変わらない夕食時、爆弾を落としたのは冬馬さんだった。

「ええ、まぁ…」

「どうしてまたそんな事を?」

「一種の示威行為ですかね?年々我々の権力は落ち、逆にIS関連者の優遇により魔術結社関連は肩身の狭い思いをしているのですよ」

古来より国家権力の裏には魔術結社が居たという事も、最近は知らない政治かも多いらしい。

まぁ、それも時代の移り変わり、仕方の無いことかもしれないが…ただ、ここで完全に魔術結社が政治の裏から撤廃されてしまうと、まつろわぬ神に対する国家的隠蔽も出来なくなってしまうだろう。

まつろわぬ神を倒せるのはカンピオーネだけ。さて、それもいつまでもつか。

昨今のIS能力の飛躍的向上により、それらはすでに並みの魔術師では歯が立たない物になっている。もともと裏の組織に属していた人たちも、魔術を捨て、新しい武力にISに乗り換える家も有るとか。

ただ、超自然的現象であるまつろわぬ神や神獣は、いくらISに乗っているとは言えただの人間がその姿を捉える事はまだ出来ていないらしいので、本気のまつろわぬ神を相手に出来るのは魔術を齧ったIS乗りだけなのだろうけれど、さて…

「失う権力に歯止めを掛けるべく、カンピオーネであるアオくん達にIS学園に通ってもらおうと言う事になりましてね…」

人の口に戸口は立てられない。つまり、派手に動いたつもりは無いが、隠蔽しきれる物ではなく、結局俺達がカンピオオーネである事は各国の魔術結社にバレてしまっている。とは言え、基本的に他国への介入は殆どしないので、日本に住んでいる俺達は護堂さんをトップに据える形で形成された組織を隠れ蓑にそれなりにうまくやってきたのだが…

俺達ねぇ…それはつまりこの場には居ないがソラ達にも同じ話をするのだろう。そして彼女達への影響力が強い俺をまず一番に説得に出たと。

「て言うか、IS学園は女子高だけど?」

「そこはほら、アオくんなら問題ないでしょう?」

むぅ…確かにTS能力は持ってるし、そもそも変化の術でも代用できるが…

「例え俺達がIS学園に入ったとしても、状況が改善するとは思えないけど?」

「いえいえ、そこはほら、カンピオーネであるアオくんですからね。魔王方々は不発弾の導火線に火をつけるのがお上手だ。きっと現状を大きく変えることになるだろうと…それと、まぁ、アオくん達にISの国家代表になってもらって、並居る各国代表の一般人を打ち倒してもらえれば、それだけでもカンピオーネに太刀打ちできないという意識が再び思い出されるでしょうからね」

どう転ぼうとも現状は打破出来ると考えているらしい。それにこの決定の裏には高名な未来視の術者による宣託も有ったそうだ。

その辺はやはり魔術結社だと言う事だろう。

現在のトップは護堂さんなのだが、事なかれ主義の彼が良くGOサインを出した物だ。…いや、カンピオーネである彼はただの柱であり、そういった雑務には直接関わっているわけではないのかもしれないが…

「アオくん達も騒動の火消しをしてくれる組織が無くなるのは困るでしょう?」

むぅ…俺達としては好き好んで騒動に巻き込まれているわけではないのだが…事実結構面倒な後処理が必要な事態に陥る事もある。…アテナ姉さんも結構騒動を起こすしね…主に神様関連だが。

「それに、このまま組織が解体されてしまったら私の勤務先がなくなりますしね…まだ退職まではまだまだありますし…この歳で無職と言うのは…」

むむぅ…

父さんに懇願されて、俺は様々な葛藤の末、その話を受ける他道は無かったようだ。

「と言うわけで、入試については問題ありません。各国の魔術結社も協力してくれるようで、IS学園に入試無しで捻じ込むそうですので」

権力は衰えているとは言え、まだ切れない関係各所への圧力が有るらしい。彼らも必死なようだった。

「それと、これを覚えておいてください」

と渡されたのは電話帳もかくやと言う程にページは薄く背丈は分厚いIS関連書だった。

「これを覚えろと…?」

「お願いしますね、あ、それと、一応専用機をと言う話も有るのですが…どうしましょう?」

「外装であるIS装甲は…一種のデバイスのようなものだし、それはソルが嫌がるよね」

と胸元で光る宝石に問いかける。

『断固拒否します』

「だって」

自信のアイデンティティを脅かす存在を認めるほどソルは寛大では無いらしい。まぁ、俺の相棒は彼女だし、彼女の嫌がる事は極力したくは無いのだが…

「まぁ、訓練機の使用くらいはガマンしてくれよ」

『…………』

返答は無い、しかし、まぁそれくらいはソルも譲歩してくれるだろう。

「困りましたなぁ…一応、我々の威信が掛かってますからなぁ。既に発注はしているのですよ…一度研究所の方にも顔を出して頂かない事には…」

なんかもうそんな所もまで話は進んでいて、最後に俺の了承を取り付けたと…また面倒な事を…

「仕方ないですね。断っておいてください」

「そこを何とか、一度だけでもお会い出来ませんか?」

私の顔を立てると思って、と冬馬さん。

俺はにっこり笑って一言。

「できません」

だって、ソルからの無言のプレッシャーを感じるんだもの…

さて、翌日からソラ達を交えてのISの勉強会が箱庭内で開かれる。時間ももったいなかったので、箱庭+影分身で熟読。

最終的に、何度かクリアしてグリードアイランドでゲットした『記憶の兜』を使って覚えこむと、その知識を元に冬馬さんが持ってきた各種データを照合して試しにラボへと移動すると、IS用パーツの開発を試みた。

「この独立浮遊型のスラスターは小型化すれば便利そう…と言うか、似たようなのがどこかにあったような…」

「データだけならブラスタービットに類似するかな。それを推進エネルギーとして噴射している感じね」

とソラ。

「あ、そうか…この資料にあるBT兵器なんかは殆どブラスタービットそのものか」

深板達が居ればドラグーンシステムとでも言っていそうだが…

「うーん…わたし達に必要なのはスラスター補助装置くらい?」

「ですね。それで機動力が確保できれば、後は魔法で何ともなりますから」

と、なのはの言葉にシリカが応えた。

「大きいと戦闘の邪魔だし、格闘戦には向かないし、あんまり役にたたなそうだけどね」

と、フェイト。

「そこだよね。幾ら小型化したとしても、補助スラスターが独立浮遊している限り破壊は容易だろうし、だからと言って背面装着でも変わらない…と言うか、むしろ邪魔だし…うーむ…やっぱり要らないかな?」

「どこまで小型化できるかでしょうね。コブシくらいの大きさならばそこまで邪魔にもならないでしょうし、複数個用意して格納領域に待機させておけば破損によるリスクもまかなえるわ」

そうソラが言う。

「ただ、俺達は技術開発者じゃないからね…既存の技術の組み合わせは出来ても、それらを発展、進化させる事は苦手な部類だ」

例えるなら、家電の小型化は研究者が心血を注ぎその技術を完成させてくれるのだろうが、一旦小型化に成功した物の量産は容易い。難しいのは小型化するまでである。つまりはそう言う事だった。

知識があれば、俺達なら少しのアレンジを加えて類似品を作り出す事は容易なのだが、新しく作り出す事は苦手なのだ。今回の場合はスラスターの小型化だが、既存の物を小型化しつつ出力を維持する事は携帯電話の進化と同じくらい日進月歩な技術の向上が必要だった。

「けど、結局どれも魔法で出来るよね」

「なのは…それを言ったらお終いだよ」

となのはの言葉にフェイトがつっこんだ。

「いや、まぁなのはの言うとおりだね。AMF空間内で使えるくらいなら実用性も有るけれど…その場合動力の見直しをした方が有意義だね。魔力素に頼らないエネルギーでの飛行、推進、重力慣性制御(PIC)が出来る補助装置ならそれこそいざと言う時の保険になるが…クリーンエネルギーとしての次点は今の俺達だとオーラかな?」

「確かに様々な物にエネルギー変換できるけど…個人の素質に左右されるから。私やアオ、フェイトみたいに先天的に雷への性質変化が行えるとかならまだ違ったアプローチも出来るだろうけれど…」

「画一的なエネルギー変換が課題と言うわけだね」

とソラの言葉に頷いた。

どの道俺達では難しい事には違いない。



さて、そんなこんなで月日は過ぎ、IS学園へと入学した俺達。

俺としてはトランスセクシャルしての登校には余り乗り気では無いのだが、一時のガマンで長い平穏を得る為にガマンしなければならない。

クラス分けは俺が一組、ソラが二組、シリカが三組で、なのはとフェイトは四組のようだ。

IS学園は全寮制で、部屋割りは俺はルームメイトがおらず一人部屋、後はソラとシリカ、なのはとフェイトの二人部屋だった。

そう言えば、この四月からこの女性しか扱えないはずのインフィニット・ストラトス世界で唯一動かした男性がIS学園に入学するらしい。クラス表を確認した結果、織斑一夏(おりむらいちか)と言うらしい彼は一組…つまりは同じクラスだ。…これはカンピオーネの勘と言うわけではないが、すごく面倒くさい事になりそうな気がする。

そして入学式直後のホームルーム。クラス全員の視線を釘付けにする一夏はすごく肩身の狭い思いをしている事だろう。

好奇の視線を止められない生徒を制御できずに困っているのは副担任の山田真耶(やまだまや)先生。

まさか名前が回文とは…両親は何を思って彼女に損な名前を付けたのだろうか…

そしてクラスメイトの自己紹介を促す山田先生。

唯一の男である一夏は織斑と言う事もあり、結構最初の方に自己紹介の機会が訪れたのは自明の理。

クラス全員の視線に怯む一夏だが、それに気圧されたのか挨拶は普通よりも短い物だった。

まぁ、仕方ないかな。

と、そんな一夏の自己紹介が終わる事、扉を開けて入室してきたのは一夏に良く似た大人の女性だ。

担任である織斑千冬(おりむらちふゆ)であり、世界的ISの大会であるモンド・グロッソの初代チャンピオン。世界で唯一ブリュンヒルデの称号を持つ女性である。

つまり、現代社会でいえば世界最強女子と言う事だ。

そして一夏の態度とその名前から二人が姉弟である事は皆が察した所だろう。

一夏がものすごく慌てふためいていた所を見るに、何か家族間で認識の違いが有ったようだが…まぁどうでもいいか。

その後、入学式のその日からカリキュラムが開始され、普通に授業が始まる。IS関係の事を専攻に、通常の高校生としての勉強も受けるIS学園には削れる時間など少ないと言わんばかりだ。

クラス委員を決めるという段階になって、女子の多数が織斑一夏を推薦した。まぁクラスに一人の男子が珍しく、アイドルのような感覚なのだろう。

しかし、それに不服をもつ者が一人。イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットだ。

彼女の金髪ロールの髪型がまさしくお嬢様と言う感じを引き出しているが、実際大企業のお嬢様らしい。その彼女が女尊男卑の風潮に染まったこの世界で、男である織斑一夏がクラス委員をするより、自分の方が適任であると主張したのだ。

まぁ、俺にしてみればクラス代表などどちらでも良い。なんか二人で決闘してクラス代表を決めると言う段取りになったようだが、セシリアは代表候補生で専用機持ちで、数百時間を越える機動訓練をしているのに対して一夏はこの間ISを起動したばかりで、それも訓練機を少しだけ操った程度。これでは相手にはなるまい。

試合は一週間後と言う事だが、セシリアが勝つだろう。

一夏にはどうやら唯一の男性操縦者と言う事で、専用機が贈られると言う事らしいが…さて、どうなる事やら。

ガチャリとドアを潜り自室へともどる。

「ただいま」

と言っても誰も居ないのだけれどね。適当にカバンを部屋の隅へと投げると、後ろの扉が開かれた。

「あー、まさか初日から授業をあるなんてね」

「うん。さすがに最新兵器の訓練学校だね」

「そうですね。クラスの人たちも全国のトップレベルの人ばかりですし」

「なんにせよ、普通の学校じゃないわね」

と、さも自分の部屋のように入ってくるのはいつものメンバー。上からなのは、フェイト、シリカ、ソラだ。

「それじゃ、ご飯をつくるから、もう少しまっててね」

当然とソラが厨房に立つ。

「あ、今日はわたしも手伝う」

「それじゃ二人に任せようかな」

「お願いしますね」

となのはも厨房へ。他の二人は邪魔しないようにとダイニングへと移動する。

この部屋はもともと管理人用の部屋なのか、他の生徒の部屋と違ってダイニングキッチンが併設されていて、キッチン設備に加え、風呂が併設されている。

そこを元々が男である俺に気を使った魔術結社の横入れにて獲得したのだった。キッチン施設も最新式で使いやすく。また火力も強そうだ。これならどんな料理でも作れるだろう。

ダイニングには色とりどりの夕食が並ぶ。その後夕食を食べながらみんなにどうだったかを尋ねれば、それぞれに戸惑う事はあった模様。とは言え、初日に決闘騒ぎがあったのはうちのクラスだけのようだった。

しかし…なんか俺、一番面倒なクラスに入れられたな…誰かの策略では無いだろうか。

世界唯一の男のISパイロット織斑一夏。イギリスの代表候補生で専用機もちのセシリア・オルコット。さらにはあの篠ノ之束の妹である篠ノ之箒まで一緒のクラスなのだ。さらに担任は世界最強女子の織斑千冬である。

一年で専用機を持っているのは二人。一組のセシリア・オルコットと、四組の更識簪(さらしきかんざし)の二人だ。そこに一夏も専用機を得るとなると、クラス間パワーバランスが偏るような…まぁ俺が考える事ではないか。

「そう言えば、みんなは何の部活に入るか決めた?」

「うーん…まだ」


「うん、わたしもまだ…ただ、運動部は無理だと思う」

と、フェイトとなのは。

「カンピオーネになって以降、試合とかそう言う関係になると体が勝手に高揚してコンディションが最適化されるようになりましたからね」

そうシリカが答える。

「だよねぇ」

「まぁ文科系の中から選ぶしかないわね」

そうソラが纏めた。

文科系か…まぁ無理して入る必要も無いのかもしれないけれど、折角久しぶりの高校生なのだ。彼女達には精一杯楽しんでもらいたい。…俺もTSしていなければそれなりに楽しむのだけれど…うーむ…

一週間後。

一夏とセシリアの戦いは、なんと言うか…善戦したが、一夏の敗北で終わる。

一夏の専用機は届いたばかりで未調整のまま実戦。しかし何とかセシリアにくらい付き、実戦の最中に最適化を済ませた後に一瞬攻勢に出たかと思ったところでエネルギー切れ。

まぁ、良くやったんじゃないかな。

しかし、何を思ったのか、セシリアがクラス代表を辞退。結果一夏がクラス代表へと繰り上がった。

…その後、セシリアは一夏を何かとかまっているようだ。結果、何故か篠ノ之箒と諍いになっているが、当事者であるはずの一夏は気付かず。見るからに鈍感主人公を地で行っているかんじだ。

その後、盛大に食堂で一夏のクラス代表就任パーティーが開かれて、さて、そろそろクラスも落ち着くかと思った頃。二組に転校生がやって来た。

凰鈴音(ふぁんりんいん)と言うらしい彼女は中国の代表候補生で専用機もちであるらしかった。そして、一夏の幼馴染で有るらしい。事あるごとに彼女も一夏に突っかかっているが、これは好意の裏返しだろう。

さて、IS学園でのカリキュラムは箱詰めの上、どんどん消化されていく。

今度、クラス代表によるトーナメントが行われるようだ。とは言え、直接的には俺には関係の無い事ではあるし、観戦するくらいしかする事がない。


ピンポーン

いつもの様に自室で皆と夕食を取っていると、チャイムが鳴らされた。

「はい、どちら様?」

と、俺は食事を中断して、ドアを開けると、そこにはショートの髪で意志の強そうな表情をして一人の女性が立っていた。

「あら、魔王様方が皆おそろいのようだね」

魔王。その呼び方で俺達を呼ぶのは魔術に関係する者達だけだ。しかし、魔術結社の人たちはこんな態度で俺達に接しはしない。腫れ物を扱うように恐縮に恐縮を重ねて敬うのが普通だ。

「誰が来たの?」

と、中からソラ達も出てくる。

「誰?」

と、ソラが問いかけた。

「私は生徒会長の更識楯無。ちょっと付き合ってもらえないかな?」

と、有無を言わさないような態度で俺達を引っ張っていったのはIS訓練用のアリーナ。すでに訓練用に開放されている時間は過ぎており、そこは無人だ。本来ならこの時間に生徒が立ち入る事は許されていない。

「それで、俺達をこんな所に連れてきて、いったい何の用事があるのですか?」

楯無は唯我独尊と言う態度を崩さずに答える。

「更識家は代々日本の暗部を司ってきた家系。当然それは呪術をもってなされて来たのだけれど。でも時代は変わった。幾ら魔術師とは言え、ISには敵わない。でも裏社会の伝説、カンピオーネ。神殺しの英雄ならと実家のジジどもがうるさいのよね。どんな魔術師も彼らの前では無力で、人間が敵う相手では無いと、一昔前までは言われていたけれど、IS乗りの誰もカンピオーネとの戦闘経験は無いのよね。だから試してみたいの。今のこの世界でも果たして最強足りうるのか?ってね」

と言うか、裏社会の人間が、カンピオーネに臆さずに物を言えるようになるまで時代が変化したと言う事だろう。今まではその存在を知っている者の中でISを操れるようになった人間が居なかっただけだ。

「つまり、俺達と戦って、ISが世界最強であると証明したいと?」

「そこまでは言ってないわ。ただ、どの程度のものなのか、確かめておきたいだけよ」

「お断りする事は…」

「出来ないわよ」

そう言うと楯無さんはアリーナの防御フィールドを起動。これで内側からは逃げられなくなってしまった。さらについでとばかりに彼女の専用機を起動する。

「ミステリアス・レイディ。それがこの機体の名前」

水色にカラーリングされた楯無のISミステリアス・レイディ。武装はぱっと見では右手に持った突撃槍だ。

それと、彼女の体を水が覆っている所をみると、水を操る能力も有るのかもしれない。

「ええっと…IS同士の模擬戦がしたいんですか?」

「いいえ。私はISを使うけれど、あなた達は何を使ってもかまわない。もちろんISを使いたいと言うのであれば格納庫に打鉄(うちがね)とラファールが用意してあるわ。でも、それで負けて魔王の能力を使ってないと言われても面白くないわね」

「つまり、素の俺達と戦いたいと。うーむ…」

「何?やっぱりISと生身では戦えない?」

「いえ、そう言うわけでは無いのですが…ねぇ?」

とソラ達を振り返る。

「うん」

「はい…」

「そうですね…」

「IS同士の模擬戦ならまだしも権能を使った戦いでただの人間が勝てるわけ無いもの」

フェイト、シリカ、なのはと頷いて、ソラが答えた。

「なっ!?…余裕そうね…それで、誰が相手になるの?」

と少しむっとした後、楯無さんが言う。

「誰が行く?誰でも良いけど、面倒だなぁ」

「シリカとかじゃ権能を使った瞬間相手は終わっちゃうね」

「ですね…」

と、フェイトの言葉にシリカが同意する。

世界そのもののルール変更の能力へと進化を遂げているシリカの「理不尽な世界《ゲームマスター》」だが、脳波制御による伝達キャンセルが元もとの能力だ。行使された瞬間相手は手足すら動かせなくなる。神やカンピオーネ、また高位魔術師ならばレジストされて運動能力のキャンセルまでは及ばないが…さて、目の前の彼女はどうだろうか。

見た感じ高位の魔術を修めているとは思えない。IS操作にその時間を割いた結果だろう。

「わたしの権能が一番ISに対して相性が悪いかな。…でも負ける気はしないけど」

なるほど、なのはの権能、グラビティフォースは物質加重と重力制御の複合能力。確かにPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)があるISには相性が悪いかもしれない。

「へぇ、私も舐められたものね。それじゃあなたからで良いわ。前に出てきてちょうだい」

「ええっ!?あたしっ!?」

「挑発まがいの事を言うからだよ、なのは」

「うう…フェイトちゃん…」

「まぁ、がんばって。なのは」

「頑張ってください」

「良かった。俺じゃなくて」

「みんな…」

なのはは皆に背中を押されてしぶしぶアリーナ中央へと移動する。

「じゃあせめて封時結界はお願いね」

「それ位ならお安い御用」

一応監視モニタは落ちていると言う事らしいが、破壊すると面倒なので、空間を切り取る。

瞬間、色彩が鈍く、輝きが消えた風景へと変わり、現実と隔離された。

「なっ!?これはっ!?空間を切り取ったというのっ!?」

驚く楯無さんだが、この反応は今更新鮮味もない。

「仕方ない、がんばろうか、レイジングハート」

『スタンバイレディ・セットアップ』

一瞬の発光の後、ピンクの竜鱗を纏い、突撃槍のようなデバイスを持ったなのはがそこに居た。



わたしはバリアジャケットを展開しレイジングハートを構え、背中から妖精の羽のような形をした飛行魔法を行使していつでも飛び立てるように準備する。

「武器の量子化はISコアにしか出来ないはずだけれど…騎士甲冑のような装甲に突撃槍…それがあなたのIS…なのかしら?」

「わたし達はISなんて持ってないよ。これはわたしのマジックデバイスが持っている能力です」

「マジックデバイス?魔術補助具と言う事で良いのかしら?それにしては機械チック過ぎる気がするのだけれど」

「過ぎた科学は魔法と大差ないって言葉くらい聞いたことが有るんじゃないですか?いまのISだって既に魔法みたいな物でしょう?」

「確かに…だけど、だとしたら、あなたたちはいったい…いえ、それはこれから確かめる事ねっ!」

さて、互いに準備は出来ただろうと、楯無さんはISのスラスターを展開して距離を詰める。どうやら試合開始のようだ。

さて…

わたしは迫り来る槍に臆さずに前へ。

神速を発動さて、凝で視力を強化し、相手の点の攻撃を避けてこちらも点の攻撃を穿つ。

「っ!?」

自分の攻撃がかわされた瞬間に楯無さんはスラスターを全開。機体の制御が出来なくなるのをかまわずに錐揉みしながらわたしの攻撃を回避。その推進力のままにすれ違い、距離を取った。

あたしは地面を蹴るとそのまま上下さかさまになるように体を反転。そのまま魔法を行使する。

『アクセルシューター』

「シュートっ!」

放たれる12の魔力球。スフィアは狙いたがわずに錐揉みしている楯無さんを襲う。

「はぁっ!」

どうにか着弾手前で機体の制御を取り戻した楯無さんは横薙ぎ一閃に蒼流旋(そうりゅうせん)を振るい、直撃するスフィアを打ち消すと、残りのスフィアは回避する。

わたしは逆さまになっている体のまま飛行魔法を行使、そのまま空中へと上がると、それを追うように楯無さんも空中へ。

「なるほど。流石にカンピオーネ。空くらい飛ぶわよねっ!」

まぁ、高位の魔女でも目的地を定めない飛行は出来ないのが普通。そこに行けば十分に驚愕するはずだが、ISは普通に飛べるし、そこまで予想外でもなかったらしい。

再び突撃の構えを取る楯無さんだけど、甘いよ。

12有ったスフィアの内3つは後ろへと回していたのだ。それを操り、楯無さんを襲わせる。

が、しかし。そのスフィアを彼女は見もしないでかわしてみせた。

…なるほど、ISが持っているハイパーセンサーか。ふむ…どうやら常時『円』をしているような物だろうか。

楯無さんは蒼流旋に付属されている四門のガトリングから弾を撃ち出してわたしを攻撃する。

『ロードカートリッジ・プロテクション』

ガシュと薬きょうが排出され、魔力が充填されるとガトリングなんて通さない硬度でプロテクションを展開。撃ち出されたその全てを弾き飛ばす。

「はぁああああっ!」

気合と共に蒼流旋をわたしのプロテクションに打ち込むが…

「か…硬いっ!」

『ブラスタービット・パージ』

レイジングハートの刃先の後ろに付いている四機のブラスタービット。そのうち二機を飛ばし、弧を描くように飛翔させるとプロテクションを回避して楯無さんの後ろへと移動した二機のブラスタービットはそれぞれにアクセルシューターを撃ち出し楯無さんを攻撃する。

「なっ!?BT兵器っ!?」

すぐにスラスターを展開し、回避行動へと移る楯無さん。

『バスターカノンモード』

ガシャンとレイジングハートを射撃モードへと変更し構え、さらに二機、ブラスタービットを射出、砲身を楯無さんへと向ける。

『ディバインバスター』

三門の砲身に魔力が集束される。そして…

「シュートっ!」

最初に撃ち出した二機のブラスタービットからシューターを飛ばし、楯無さんを囲い込み、さらに後から展開した二機で威力を調整したバスターを撃ち逃げ道を無くす。

「くっ!?」

そして、最後。レイジングハートの砲身から撃ち出される本命。

ピンクの本流は確実に楯無さんを捉えた。

「手加減したつもりだけど…まさか防がれるとはね」

閃光が止むと、そこには蒼流旋に幾重もの水を纏わせ、巨大な槍を形成すると共に、その膨大なエネルギーを持ってわたしのディバインバスターを裂いたのだ。

「くっ…今のでエネルギーが…なら、このまま決着を着けるっ!」

そう言うと楯無さんは巨大な槍、ミストルテインの槍と言うらしいそれを構え、残りのエネルギーを推進力に変え突撃してくる。

「わああああっ!」

繰り出される、ミストルテインの槍をわたしは『流』で刃先を強化したレイジングハートで打ち払う。

ガキンガキンと鈍い音が響き渡る。その最中もブラスタービットからアクセルシューターを展開発射するが、楯無さんは着弾もかまわずと攻めてくる。

楯無さんはわたしに強引に取り付くと、ミストルテインの槍の全力攻撃。

『プロテクション』

「っ…ならばこれでっ!」

ゼロ距離からの四門ガトリングのフルバースト。

ちょ、それはちょっと…

「あぶないなぁ…」

『プロテクションバースト』

プロテクションを破壊する衝撃で弾道を吹き飛ばし、楯無さんを揺さぶる。さらに、レイジングハートを横なぎに振るい、楯無さんへと叩きつけると、その衝撃で地面へと向かって落ちていく。

さらにわたしはそれを追うように飛翔すると、ブラスタービットの砲撃を援護に楯無さんへと迫り、IS装甲を斬りつけながら破壊していく。

「うっ…くっ…」

そのまま踵落としで地面へと楯無さんを打ちつける。未だISの絶対防御が発動していないのは幸か不幸か。

ドーンっと音を立てて地面に打ちつけられる楯無さん。

「まぁここまでだね」

そう言うとわたしは楯無さんの前へとゆっくりと降りてくる。

「ま、まだ…」

そう言って蒼流旋を構えようとする楯無さんだが…

ポロリと手から落ちた蒼流旋は音を立てて地面へとめり込んだ。

「なっ!?これは…重くなっている?…まさかっ!?」

そう。ずっとわたしはグラビティフィールドを使い続けていた。それはどんどん楯無さんを重くしていったのだが…ISの能力からかなかなか効果が現れなかった。それも今の連撃で直接打ち込んだことで解消され、楯無さんは地面から動けずにいる。

「まぁこれがわたしの権能、グラビティフォール。見れば分かったと思うけど、能力は物質の加重及び重力制御。パッシブ・イナーシャル・キャンセラーが働いているISとは相性が悪いけれど…処理能力以上の重さをかけてやればどうって事は無いね」

「これが権能…神を倒した者だけが得る能力…じゃああの飛行能力や射撃能力は…?」

「それは元々わたし達が持っている能力です。それ以上はお答えできません」

「あれが元々…」

「さて、まだやりますか?やるのであればさらに加重させますけど…」

時間と共にさらに加重されていく。これ以上はIS能力の限界とエネルギー切れと共にトマトを潰したようになるのだけれど…

「いや、止めておくわ。私の負けね」

「そうですか」

模擬戦は終わりとわたしは権能を解除する。

「…人の身で有りながらISを凌ぐ能力。…それがカンイオーネ。古くから魔術師達が頭を垂れた存在。ねぇ、最後に答えて欲しいんだけど」

「何ですか?」

「私は手加減されたのかしら?」

「…………」

幻術系、捕縛系を使わなかったし…影分身も使用していない。「貫」や「徹」も使わなかった。「隠」を使った念攻撃なんてそれこそにわか魔術師には対処できまい。その上大規模攻撃はバスタークラス一発だったからね。ブレイカークラスは流石に使用を躊躇うよ。

「なるほど…その態度で分かったわ。つまり随分手加減されたと言う事ね…はぁ…まったく。誰よISが地上最強兵器と言ったやつは…人類最終兵器(リーサルウエポン)の前じゃ霞むわね」

とため息一つ付いた後、楯無さんはISを解除して膝を付いた。

「数々の無礼をお許しください。私の敗北で今後、我ら更識家は魔王様方の助力を惜しみまぬ事でしょう。立場上、校内での態度はお許しください」

「あ、あの…そんなに畏まらなくても良いです」

「そう?それじゃあ、学園内にいる間はもっと砕けた感じでも良いかしら」

「それでお願いします…わたしも、皆もたいして気にしませんから、そう言うの」

畏まられると言う事は、それに対する義務を果たした者だけだ。半ば放棄しているわたし達は相応しくないだろう。

「ISを相当壊しちゃいましたけど…大丈夫なんですか?」

「それはやっぱりやばいわね…でも、こちらが仕掛けた事だし、仕方がないかな」

それでもやはり修理に隠蔽に大変なのだろう。

「仕方ありません。壊したのはわたしですし、アオさんに直して貰いましょう」

「へ?いやいや、そんなに簡単に直る物では…」

「大丈夫です。アオさんなら一瞬ですよ」

「それも権能…と言う事ですか?」

「そう言う事です」

とウィンクして見せれば楯無さんは困ったようにはにかんだ。

「デタラメですね…」

「はい、アオさんはデタラメですよ」

「いえ、あなたも十分デタラメですが…」

楯無さんは何かを小声で呟いたが聞こえなかった。

「え?何か言いました?」

「いえ、何でもないです」

「そうですか。それじゃ移動しましょうか」

「そうね、そうしましょう」

わたしは楯無さんを連れてアオさんの所へ戻り、楯無さんが持ち込んだ模擬戦は終わりを告げる。



楯無さんとなのはの模擬戦はなのはの完勝。念や権能などの見えない攻撃に対処が出来ないのだから当然か。

どうやら更識家は俺達に反発する事はなくなるようだが、さてどうなる事やら。

そんなこんなでクラス代表対抗トーナメントが開始される。初戦は一組対二組。つまり、織斑一夏対凰鈴音である。

俺達各クラスの一年生はそれぞれアリーナで観戦中だ。俺達はいつものメンバーで固まって観戦中。どうやら一夏はようやくIS白式(びゃくしき)を操る事に慣れたようで危なっかしくはあるが、それなりに戦おうと言う姿勢が見て取れた。

しかし、開始早々、アリーナ上空から乱入する単騎の起動兵器があらわれ、その場を騒然とさせる。

見かけはフルスキンタイプのISに似ているが、パイロットが乗っているようには感じられない。つまりオーラが見えないのだ。

「きゃーーーっ!?」

行き成りの事態に場は混乱し、みなこの場から駆け去るべく逃げ惑っている。しかし、相手は世界最強の起動兵器。生身の人間が敵う相手では無いので逃げるのは正しい選択だし、先生方もそれを助けるべく声を荒げていた。

さて、俺達も関わらないように移動しようとした時、乱入者は一夏と鈴音に一撃ずつ加えると、全速力で此方へと駆けてくる。

「こっちきたよっ!」

「な、なんで!?」

フェイトとなのはの声。

「シールドで護られているとは言え、上部にもあるはずのそのシールドを突き破って来た相手にこのアリーナのシールドがもつかね?」

「冷静に分析してる場合じゃないですよっ」

と、シリカ。

乱入者…敵ISはその手からビームを発射、遮断フィールドが揺さぶられ、その衝撃の全てを打ち消す事はできずに、一部遮断フィールドが吹き飛ばされ、その爆風で一般生徒は吹き飛ばされながら中を舞う。

「きゃあーーーっ!?」

「くっ…」

無防備に打ち上げられている生徒達数人を俺達は協力して空中でキャッチ、俺も空中で一人生徒を捕まえると体を捻って着地、衝撃を受け流し、どうにか怪我も無く着地する事に成功した。

が、しかし、その安堵もつかの間。今度は敵IS本体の攻撃が迫る。

「きゃーーーっ!?」

再び地面を蹴った俺が抱きかかえていた女生徒が悲鳴を上げる。もはや悲鳴を上げる事しか出来ていないが、まぁそれも仕方の無い事だろうか。

敵ISは俺に目標を定めたのか、執拗に追い回して来る。

「ごめん、ちょっと邪魔っ」

「え、あの…きゃあああああっ!?」

何をするのかも前置きも言わず、俺は抱えた女生徒を放り投げた。もちろん、その先にはソラが居るのを確認している。彼女なら怪我も無く受け止めてくれるだろう。

「このっ!何なのよ、あなたはっ!」

そう言ってアリーナから駆けてくるのは鈴音の駆るIS甲龍(シェンロン)だ。

さて、俺はこの目の前の敵ISに追い回されているのだが…このまま観客席に居るのは宜しくない。俺は破られた遮断フィールドからアリーナに降りると、敵ISもアリーナへ。

「ちょ、ちょっとっ!?」

入れ替わるように観客席に突入した鈴音とアリーナへ降りた俺達。その後、何故か遮断フィールドは形状を戻し、またアリーナを遮断する。

「なっ!?遮断フィールドっ!?」

鈴音がコブシを叩きつけるが、フィールドを突破するのには時間が掛かりそうだ。

期せずして敵ISを交戦せざるを得なくなった俺は途方に暮れていた。

…どうしろと?

俺に向かってビームを放つ敵IS。

「御神さん、あぶないっ!」

と、ISの機動力のまま俺を押し倒す一夏。今まで言わなかったが、素性隠蔽の為、苗字は二つ前の物を皆使用している。そこは仕方がない所だろう。

ガクカクと揺れる体を必死に繋ぎとめる。そこはカンピオーネとしての頑丈な体に感謝するとして、何を考えていやがるんだこいつは…と言うか、防御フィールドの無い生身をISの重量、機動力で押し倒したら普通死ぬ。死なないまでも複雑骨折は免れまい。

「なんだよ、千冬ねぇっ今はそれどころじゃ…え?」

真っ青に染まった表情で俺を見下ろす一夏。

どうやらISの通信能力で織斑先生と通信していたようだ。そこでタックルをかました俺が無事な訳がないと聞かされたのだろう。

衝撃を緩和されるのはIS搭乗者だけ。それはISでの常識であろうに…俺が普通の人間なら死んでいたよ?…まぁ普通じゃないんだけど。

「だ…大丈夫っ!御神さんっ?」

「大丈夫だから退いてくれると助かる」

「あ、ああ…」

敵の攻撃よりも、一夏のタックルで制服は擦り切れてボロボロ。

「ほら、相手も待ってくれている訳じゃないんだよ?」

と言う俺の言葉で振り返れば、敵ISの次射が開始される所だった。

「くっ…どうしたら…」

ISの加速能力なら射軸から逃れる事は可能なのだが、その時の推進力を生身の俺が耐え切れる物か、先ほどの通信で躊躇いが生じたのだろう。

「いいから…じゃまっ!」

「なっ!?うわぁぁあああ」

俺はオーラで強化した脚力で力いっぱい一夏をISごと蹴り上げると、宙に舞う一夏を尻目に地面を転がるように体勢を整えると自身も地面を蹴ってビームを回避する。

途中、どうしても生身では回避出来そうに無い物はクロックマスターですり抜けているが、最小に押さえているし、まだ気が付かれまい。

「うおおおおおおおおっ!」

状況を打破しようと、一夏が上空から手に持った白式の雪片弐型を袈裟切りに構えて特攻。此方に向いていた敵ISの注意が一夏に向いた。

む…ここは一夏に無難に倒してもらおう。そう思った俺は一瞬で隠を使ったスサノオを行使、その腕を敵ISに伸ばしてその体を押さえつける。

敵ISは突如として体の自由が奪われた事に、何が起こったか分からずにその動きを拘束された。

「はぁっ!」

気合一閃。一夏の雪片二型が放つ零落白夜(れいらくびゃくや)が敵ISのシールドエネルギーの結合を分解。その刃が敵ISを貫いた。

「はぁ…はぁ…」

疲労困憊の一夏と、動きを止めた敵IS。一夏の活躍で襲撃は終焉を迎えたが、あの敵IS、確実に俺達を狙っていた。

これはどういう事だろうか?







巻き込まれた俺に待っていたのは織斑先生による尋問。だが、それは理不尽だ。ちょっと運が良くISのビーム兵器を回避できただけですと、一言だけ言うと退出。身体検査をと言う彼女の言葉も突っぱねる。精密検査なんてされたら結構ヤバイのだ、俺の体は。

何を言っても無視だ無視。退学になるのなら、別に俺は構わない。入学して義理は果たしているし、冬馬さんが首になっても持ち越した宝石類を売却すれば生活に困る事は無いのだから。

さて、そんな事件の後も、喉元過ぎればなんとやら。何事も無かったかのように時は過ぎ、今度は学年別個人トーナメントが発表された。

これは個人によるトーナメント形式の勝ち抜き戦で、これまでのIS技術の履修と言う事らしい。とは言え、専用機もち以外はこの学園に来てからようやく本格的に稼動させたような連中だ。戦いははなから専用機もち同士の決闘となるだろう。

そんな浮き足が立ち始めた今日この頃。なぜかうちのクラスに二人の転校生が加わる事になった。

シャルル・デュノアとラウラ・ヴォーデリッヒの二名だ。それにまたうちのクラスは大絶叫。なぜなら、その一人が男性だったからだ。

シャルルと名乗ったフランスの代表候補生の彼。世界で二人目の男性ISパイロットらしい。

代わってラウラの方はと言うと、挨拶の後、何故か一夏を強襲、ぶん殴った。初対面のようだが、何やら彼女には我慢ならないことがあったらしい。

普段から騒がしいクラスが、この二人の登場でさらに騒がしくなったようだ。

しばらくすると、個人トーナメントがタッグトーナメントに変更されると言う知らせが届く。

むぅ…どうしよう。誰と組んでも良いようだが、さて…ソラ達に聞いたら、それぞれソラとシリカ。なのはとフェイトでタッグを組んだそうだ。

やばい…俺は親しい友達がいないよ…会話には困らないんだけどね。なんか避けられているような…男口調を変えるべきか…しかし、ううむ…

まぁ最悪タッグが決まらなければ学園側で抽選組み合わせになるようだから、別に良いか。

そして迎えた大会当日。

「あ、あの…」

「君が俺のパートナーって事で良いのかな?」

「あ、はい…」

目の前にはおどおどしたショート髪におとなしめの眼鏡とは裏腹に主張する髪飾りをつけた女生徒が立っている。

「俺は御神蒼。今日はよろしく」

「更識…(かんざし)です…あの、先日は助けていただき、ありがとうございました」

む?うーん。ああ、良く見ればあの襲撃事件の時吹き飛んでいたのを抱きとめた彼女か。

「あ、ああ。いや、特に感謝されるような事でもないよ」

目の前で死なれては流石に気分が悪かったからね。たいした手間でもなかったし。

「まぁ、適当に頑張ろう。負けたって別に構わないでしょう」

「…そうですね」

あれ?そう言えば更識って…聞くのも野暮か。

そして始まる一回戦。

一夏、シャルルペア対箒、ラウラペアの試合が開始される。

何だかんだで一夏も成長しているようで、シャルルの援護もあり、相手の連携不足も相まって結構良い勝負をしていた。

と言うか、ドイツの最新式ISシュバルツェア・レーゲンを駆るラウアを追い詰めていた。

しかし、あと一息と言う時にラウラのISが暴走を起こした。そう、暴走だ。

後になっても詳細は語られなかったが、アラスカ条約で使ってはいけないとされた技術が組み込まれていたらしい。

その暴走を一夏とシャルルが押し止め、なんとか事件解決となったのだが、結果タッグトーナメントは中止。一回戦だけデータ取りのために行うらしい。

相手は…あらら、ソラとシリカか…

「まさかアオと戦う事になるとはね」

「本当に」

「でも、手加減しませんよ」

使用ISは俺とソラが打鉄シリカと簪はラファールを選択していた。

「あの、お知り合いなんですか?」

そう遠慮がちに簪が問いかけた。

「お互いに誰よりも知っている仲だよ…だからこそ、戦いにくい相手だ」

「そうなんですか」

「あなたが今回のアオのパートナーね。お互い頑張りましょう」

「よろしくお願いしますね」

「…あ、…はい。こちらこそ…よろしく」

お互いに挨拶を交わすとアリーナへと移動する。

ISのハイパーセンサーが接続され、視界がクリアになっていく。

ISの右手に刀のようなブレードを持たせ左手はハンドガンを装備して準備は完了。武器はシールドと二本の刀。近接特化だ。簪は若干のミサイルポッドとライフルで重火器戦の構え。

ソラ達を見ればソラはハンドアックスにショルダーカノン。シリカは機動性重視の軽装で両手にハンドガンを装備している。

ビーっと言うブザーと共に試合が開始されるとPICを起動し、空中へと飛び上がる。

俺と簪は今日が初対面。連携なんて取れるわけは無いから、臨機応変に頑張ろうと言う方向で話が纏った。

ブーストを駆使してソラへと接敵。そのまま刀で斬りかかる。

「ふっ!」

「なんのっ」

振るった刀はソラの打鉄のシールドに止められる。カウンターとばかりにハンドアックスが振るわれるが、ブースターを展開し、錐揉みするように回避、そのまま再度刀を振るうが、くるりと蹴り上げた脚部パーツで弾かれてしまった。

やるね…

簪の方をチラリと見れば、シリカがツインハンドガンでちまちま追い詰めていく所が見える。

俺はソラに注意を裂きつつ、左手に持ったハンドガンでシリカを狙い撃つ。しかし、ぐるんとシリカは後ろに眼があるかのように回避してみせた。

ハイパーセンサーによる補助で視界はほぼ360度だから出来る芸当だね。…まぁ無くても俺達なら似たような事が出来るけ。とは言え、ハイパーセンサーだけでなく高レベルの空間認識能力が無くては出来ない芸当だろうけれど。

しかし、その援護で簪は窮地を脱したのも事実。肩に積まれたミサイルポットからミサイルを連射。シリカへと撃ち出した。だが、攻撃力はあるが、射撃の正確性の高いシリカのハンドガンの前に全て撃ち落とされてしまっていた。

さて、俺も俺でソラとの戦いを続行しなければならない。開いた距離を利用するかのようにソラはショルダーキャノンを構え、俺に向かって撃ち出した。

ブーストを左に右に点火させ、砲撃を避ける。俺は上下逆さまのままソラへと迫り、刀を振るうが、そのインパクトに会わせる様にソラもハンドアックスを振り上げる。

ギィンと響く鈍い音。火花が塵、一瞬の鍔迫り合いの後、互いに距離を取る。

その隙を逃さずソラはショルダーキャノンを発射。

「くっ…」

堪らずシールドで受けるが、反動で吹き飛ばされ、さらにシールドエネルギーを削られてしまった。

スラスターを噴射、姿勢を制御すると、吹き飛ばされた勢いのまま反転し、落下する位置エネルギーも利用して一気に反対側に居るシリカの方へと距離を詰める。

左手のハンドガンは後方にフルオートで発射してソラを牽制。俺はそのままシリカへと翔け、斬り上げるように刀を振るうが…

「おっとと…」

剣筋はラファールの装甲を滑るように掠めただけだった。

しかし、シリカの攻撃はキャンセルできたみたいで、俺はそのままシリカと簪の間に踊り出る。

「大丈夫?まだいける?」

シールドエネルギーは幾ら殺傷能力の低いハンドガンとは言え、そのシリカの実力も相まって、かなり被弾していた。

「まだ行けますっ!」

力強い、負けたくないと言う感じの表情で返事をする簪。

良い返事だ。

「それじゃぁ、もう少し頑張ろうか」

「はいっ!」

簪がライフルを構える。俺はその前に出てソラとシリカを警戒すると、二人は左右に展開して俺と簪を分散させる考えのようだ。

左右からソラとシリカが砲撃を開始する。

俺と簪は背中合わせで円軌道を描きながら上昇、そのまま回避行動を取りながらソラとシリカへと発砲するが…簪もけしてIS操縦者としてレベルが低いわけではない。だがしかし、戦闘者としての技量は二人の方が段違いだった。

ソラの突撃をシリカがハンドガンで援護する。駆けて来るソラへ簪もライフルを発砲。しかし、クルリクルリとスラスターを最小で噴射させて錐揉み状に回避。俺の放つハンドガンはシリカのそれと相殺させられる。…神速を使ってるね。銃弾を銃弾で撃ち落すなんて芸当、常人なら出来ようはずも無い。それも長い研鑽の成果だった。

「ふっ!」

「くっ…」

ブーストの推進力も乗ったハンドアックスの重い一撃。それを何とかシールドを前面に押し出して防御。しかし、今度はゼロ距離のショルダーキャノン。

ドォーン

その衝撃に吹き飛ばされると、飛ばされた方向には簪がやはりシリカに翻弄されている。さらにソラはショルダーキャノンを連射。スラスターで回避行動に移ると、簪に直撃するコースだ。

…これは回避は出来ないな。装備武器の関係でソラのショルダーキャノンを相殺できる武器は持ってないし…

俺は右手の刀を力いっぱい後ろへ投擲。刀はシリカの脇を掠めるが…それまで。俺のISのシールドエネルギーが切れて撃墜扱い。

「あらら…」

「私の勝ちね」

「みたいだ」

「アオさんっ!?」

叫ぶ簪だが、状況は俺が倒された為に二対一の状況。シリカのハンドガンで追い詰められた後、ソラのハンドアックスが首元へと突きつけられる。

「くっ…」

「ここまでね」

「はい…」

悔しそうな声を上げ、しかし、試合は終了。

最後はあっけないものだったが、戦闘なんて実際はそんなものなのかもしれない。

試合終了後の格納庫にて、簪がすまなそうな声で謝った。

「ごめんなさい、私の所為で…」

「いや、簪の所為じゃないよ。あの二人を相手に善戦したほうだ」

「でも、私がパートナーじゃ無かったら…」

「だから、簪はうまく戦ったよ。あの二人が相手じゃ仕方ない。俺も一人で片方を押さえるのが精一杯だった。一対一に持ち込んだ時に相手を撃墜できなかったんじゃ仕方ない」

「でも…それでも…」

と、簪はしょんぼりしている。

「錬度の問題は確かにあっただろうね。彼女達はそれこそ古い付き合いだ。互いの長所短所を良く知っていた。こればかりは中々埋めようがない。うん…済んだ事は気にしてもしょうがないし。また次、頑張らないとね」

「…そうですね。また一緒に頑張りましょう」

「うん」

「…私、頑張りますからっ」

あれ?今何か言葉が変じゃ無かった?まぁ良いか。

簪は、若干吹っ切れたような感じまでテンションが回復したようで。ラファールを次の選手へと渡すと更衣室へと戻っていった。

そんな感じで取り合えず、模擬戦は終了するのだった。

そんなこんなであくる日のHR。一組に転校生がやって来た。

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

と、ぺこりと頭を下げた女の子。シャルロットは…つまりはシャルルは女の子だったと言う事だ。盛大なカミングアウトだが、さて、その反響は凄まじい。主に男性と言う事で同居していた一夏への一部からの風当たりが強い事。

ついに何故か折檻と言う実力行使へと移る者達まで居る。なぜか隣のクラスの鈴音まで来ているし…彼女やセシリアはなぜかISを部分起動している。

あわやISによる公開私刑が執り行われると言う瞬間。割り込んだのは銀色の黒ウサギ。ラウラがISを起動して、せまる攻撃から一夏を護った。

おお、先日と態度が違いますね。アリーナで助けられて以来、一夏に対して何か思うところがあったのだろう。ラウラは一夏に振り返るとその唇を強引に奪った。行き成りキスは発展しすぎだと思うのだが…そして、それは男の役目だと思う。

ああ、女の嫉妬が眼に見えそうだ。何故かシャルロットの機嫌が急降下。ISを部分起動させると、一夏に攻撃していた。

一夏はその攻撃でノックアウト。

しかし、あれだ。彼女達は人殺しの道具を手に持っていると言う意識は無いのだろうか?…無いのだろうな。剣と包丁はどちらも刃物だが、片方は武器、もう片方は調理具と似たような物でも認識には差が生まれる。

俺にとっては兵器であるISも彼女達にとってISは包丁と代わらないのだろう。この認識の差はいかなものだろうか…

それと、好意の裏返しの暴力が許されるのは小学校入学前までです。そんな精神的に未熟な彼女達がISなんていう兵器を所有しているのは国家代表候補せいとしてどうなのだろうかね?

それよりも、大会が終わってからの各国からの勧誘がうざったい。どうやら先日のあの模擬戦、少しやりすぎたようだ。各国のスカウトマンが居たらしいのだが…あの試合は俺達五人へのアプローチが開始されてしまう結果をもたらした。何処の国にも帰属する意思は無いと突っぱねているのだけれど…専用機を用意するから是非とうるさい。こう言うのはスルーするに限る。








さて、二泊三日の臨海学校行事が始まった。

一日目はまず目的地へと付くなり自由時間。海で泳いで日ごろの鬱屈をリフレッシュしろと言う事なのだろう。

さて、仕方が無いから水着に着替えようとして…くっ…何でビキニが入っているっ!?と言うより、競泳水着は何処に行ったっ!?

はっ!?もしかしてソラ達かっ!?

くそっ!彼女達の悪ふざけが成功したような表情が今やっと分かったよっ!

更衣室の奥で唸っていると後ろから声が掛けられた。

「あら、まだ着替えてなかったの?」

「ソラか、と言うかソラ達だろう、この水着っ!」

「あはは、やっと気が付いたんだ」

「持ち物の確認はするべきだと思うよ」

と、なのはとフェイト。

「あたしは止めたんですけどね」

「えー?シリカちゃんも楽しそうに見てたじゃん」

「それは…その…」

なのはの言葉にしどろもどろ。同罪ですよ、シリカ…

「ほらほら、さっさと着替えちゃいなさいよ。なんなら、私達が手伝ってあげるから」

「ちょ、まっ…アッーーー」

しくしくしく…何が悲しくてビキニなんて…


合宿二日目。

何故か珍妙なウサミミのファンシアーな服装の女性が乱入していた。

名前は篠ノ之束。そう、ISを開発した天才である。

彼女は自身の妹である箒に専用機を持ってきたようだ。渡される『紅椿(あかつばき)』は現行のISを越えたスペックを誇るらしい。

第三世代ISが各国が躍起になって完成させようとしている所に軽々と第四世代ISを完成さて、投入したのだ。…天才のやる事は良く分からん。

その篠ノ之博士だが、自身の興味のある事以外は丸で路傍の石のようで、まるで相手にしていない。と言うか、人間の区別が出来ているか不明だ。そんな感じにふわりふわりとたゆたって、現実世界を斜めに見ている。

が、その瞳が俺を射抜く。とても興味深そうに。

ふわりとかろやかに生徒の間をすり抜けて駆け寄ってくる篠ノ之博士。

「あなたが魔王様?ふーん、ふむふむ…」

こいつ、俺がカンピオーネである事を知ってる?

と言うか止めてくれないかね、回りでヒソヒソと「魔王?」などと囁かれているのだけれど?

「人類最強とは言っても、これならちーちゃんの方が強そうだけどなぁー…まあ、良いか」

そう言うと彼女はクルリと回転し、織斑先生の所へと戻った。

さて、演習が始まるという時、山田先生が血相を変えて乱入し、カリキュラムの中止が宣言され、一般性とは旅館で待機。専用機もちは集まるようにとのお達しだ。

何かきな臭い雰囲気だが、関われる立場じゃないし、しょうがない。俺は旅館へと戻り、待機するのだった。



仮説の指令室では三人の人物がモニターとにらめっこしていた。

その人物とは織斑千冬、山田真耶、篠ノ之束の三人だ。

今回の授業中止は、アメリカ、ハワイで稼動実験をしていたIS「シルバリオ・ゴスペル」が制御を離れ、暴走。その機体が丁度この辺りを通過するという情報があったからだ。

この暴走ISに対し、これを撃破、また拿捕する為にこの学園の専用機もちの人たちが集められていたのだ。

千冬と真耶は祈るような気持ちで、出撃して言った一夏と箒の無事を願う。

しかし、二人は無事のようだが、シルバリオ・ゴスペルにより返り討ちにあったらしい。

「うーん、いっくんも箒ちゃんでもだめかぁ…ああっ!この機体この旅館に向かってきてるよ?何でだろう、でも問題ないよね」

「問題ない、だと?」

束の軽口のような発言に千冬が若干怒気を強める。

「まぁまぁ織斑先生…この旅館は先生方が訓練用ISで防御に当たってますし、他の専用機もちも待機してくれていますから…」

と、なだめる真耶。束は真耶の言葉を無視して続ける。

「そそ、問題ないない。人類最強が此処にはいるんだから」

「悪いが人類最強女子(ブリュンヒルデ)は今は居ない」

「違う違う。人類最強女子(ブリュンヒルデ)じゃなくて人類最強(カンピオーネ)だよ、ちーちゃん」

「カンピオーネ、だと?チャンピオンのイタリア語か?選手、または勝者、そんな所だろう。だが、生徒の中に他の専用機もちは居ないはずだ」

「だから違うよ、ちーちゃん。エピメテウスの落とし子の事だよ。魔王、ラークシャサ、堕天使、羅刹王なんかとも呼ばれる事が有るけど、そうだねぇ、一番意ちーちゃんが分かる言葉で言うならば「神殺し」だよ。でもまぁ一般的にはカンピオーネと言うらしいけど」

「神殺し?ふん、神など居ない。そんなもの殺せる訳ないだろう」

「むむ、その認識は間違っているよ、ちーちゃん。実際に私も神様は見た事は無いけれど、カンピオーネは実在する。ねぇちーちゃん。ISをどう思う?空を自由に駆け回り、ビーム兵器を自由に操り、ブレード兵器は戦艦すら切り裂く世界最強兵器?」

「そうだな。たった一機で、世界が変えられたほどの代物だな」

「そうかもね」

そうつぶやく束はどこか自嘲気味だ。

「昔の人が空想して、それでもこの束さんくらいの天才じゃなければ実現は出来なかったと思うよ。…でもね、ちーちゃん。ISなんて物は実際は猿真似でしかないんだよ?」

「は?」

何を言っているんだと表情の千冬。

「ISに使う動力元も彼らが使ったエネルギーの残滓を研究して得られた物だけど、私にはエネルギー変換以上の事は殆ど出来ていない」

「意味が分からないが?」

「つまり、生身でISに渡り合える存在は実在するんだよ。…そして、彼らにしてみればきっとISなんて玩具も良いところ。ねぇ、ちーちゃん。そのカンピオーネの実力を見てみたくない?」

「束、お前は何を言っている」

「いや、なんでもないよ、ちーちゃん」

そう言う束とシルバリオ・ゴスペルに一夏達が敗北し、その緊張が高まったのは同じくらいで、それ以上会話を続ける余裕は千冬にはなく、矢継ぎ早に各方面に指示を出さなければならなくなった。


「ええいっ!なぜシルバリオ・ゴスペルは行き成り目標を変えたのだっ!」

シルバリオ・ゴスペルの進路がこの旅館へと向いていた。

「教員を総動員して絶対防衛線を確保、破られるなっ。オルコット達も防衛にあたらせろっ!」

「はいっ」

真耶がコンソールを弄りながら各所に指示を出している。

「だから、ここはカンピオーネの出番だよっ!私は彼らの実力が見てみたいっ」

「それが今回のお前の目的かっ?」

「えー、違うよ。ちゃんと箒ちゃんへの紅椿を届けにきたのが目的だって。ただ、ついでにどんなものなのかなーと言う興味があるだけ」

「防衛ライン、割られましたっ!」

「くっ…目標は?」

「こちらに向かって接近中。くっ…広域殲滅、来ますっ!」

その時、ドーンと言う音が響き渡った。



大広間の一室に集められ、待機を命じられた俺達は、かしましくも命令どおりにその場に留まる以外の選択肢はなかった。

外で何が起こっているのかについての情報は一切もらえず、ただ待機を命じられるだけの時間に、みなそれぞれ携帯を取り出したりして暇を潰していた。

しかし、そんな時間が一変する。

一瞬で旅館の外壁が吹き飛ばされ、あちこちで爆炎があがる。

生徒の絶叫が響き渡るが、その衝撃は凄まじく、悲鳴を打ち消すほどの轟音を奏でる。その何かは旅館の天井を倒壊させ、大部屋に集まっていた生徒達は絶体絶命だ…一瞬の事でもはや逃げ場もない。

もはや押しつぶされる、そんな時、ソルが明滅する。

『プロテクション・パワード』

くそっ!何なんだよっ!何も知らないままに死ぬ所だったぞ。いや、カンピオーネの体はこれくらいじゃ死なないけれど…

張られた大きめのサークルプロテクション。それは広間の生徒達を包み込み、押しつぶされる外壁から護っていた。

自分は大丈夫でも周りまで無事とは限らない。ISを持っていない一般生徒なんてひとたまりもなかっただろう。

「何なのよ!」

「一体何がっ!?」

「神様関係じゃ無いと良いんだけどね」

「IS関係であるほうが面倒だよ…」

と、ソラ、シリカ、なのは、フェイト。

ソラ達もプロテクションを張ったのか、防御は五重。結構な強度だ。

「これは…遮断フィールド?」

「え?ここってそんな設備があったの?」

なんて周りの生徒が騒ぎ出している。ちょっとマズイか…でも現状プロテクションを解除するのはマズイ。

咄嗟に広域でプロテクションを張ってしまったが、彼女達は見捨てるべきだっただろうか…いや、俺もそこまで堕ちていないつもりだ。やってしまった事に後悔は無い。

だから、これからどうするかが先決だった。

「取り合えず、外側二枚をバーストさせて瓦礫を吹き飛ばす。それから考えよう」

「はい」

外側の二枚はどうやら俺とフェイトの張ったプロテクションだった。その二枚をバーストさせて上に乗っかった瓦礫を弾き飛ばすと、空が見える。

そこに悠々と浮かんでいる一機のIS。

「IS…」
「そんな、まさか…」

再び喧騒が響き渡る。ISによる襲撃。その絶望に女生徒達は発狂寸前だ。

制御の利かない団体は時として危険だ。今が正にそれ。爆発しかねない程に彼女たちの感情が恐怖に染まっている。

そしてISシルバリオ・ゴスペルから放たれる無数のエネルギー弾。

それが俺達に向かって放たれるが、張ったプロテクションにより阻害された為にいまだ実害は無い。

とは言え…

「抜かれるとは思わないけど…彼女たちがなぁ」

周りを見渡せば、この閉鎖空間内でパニックを起こし、出口を求めて彷徨い始めた。この中に居た方が安全であろうとは思うが、言って聞くような物では無いだろうし…どうするか。

そう思っていた時、現状を動かす何者かが登場する。

それはこの間IS学園を襲った無人のIS。それよりも幾らか進化したそのISが二体現れ、砲撃を開始したのだ。

「なっ!?」

「これは…」

「まずいですよっ!」

ソラ達の言葉。それに呼応するかのように生徒たちの絶叫も深まる。

封時結界内に連れ込んで撃破するか…いや、敵があの3機とは限らない。増援があれば俺達が離れた彼女たちが危ない。

そうすれば…

結局、俺達では何もかも全てを護るなんて事は不可能なわけで。今回の事では俺達の素性の漏洩と女性との命、その両方を護ることは不可能っぽい。

さて…選択の時だ。

皆に視線を向ける。…力強く頷かれた。

まぁ、仕方ないか。

「それじゃあ、一度全部のバリアをバースト、閃光と衝撃を眼くらましにして三人…俺と、フェイトと…それとなのはが出たら再度障壁を展開して増援に備える、で良いかな?」

「はい」
「それで良いと思います」
「うん」
「仕方ないわね」

さて、それじゃあ、行きますかっ!

『『『バリアバースト』』』

閃光が辺りを包み込む。障壁の切れた一瞬で俺達は駆けぬけ、再度展開されたシールドの外へ。瓦礫を駆け上がりISと対峙すると、その目標が俺へと移り変わったようだ。先ほどまでの生徒への攻撃は止んでいる。

これは…もしかして目標は俺達なのか?

しかし何故?と考えて止めた。今は必要ないだろう。

『スタンバイレディ・セットアップ』

一瞬で銀の竜鎧を着込み、右手にはソルを構える。なのは、フェイトも同様にバリアジャケットを展開してデバイスを手に持っていた。

さらに写輪眼を発動して、万華鏡写輪眼・桜守姫へとシフトチェンジ。油断無く相手を見据える。

3対3の構図だが、しまった…一番外れ籤を引いたらしい。他の二機はオーラの感覚から無人なのに対して、俺の目の前のIS…後で聞いた名前はシルバリオ・ゴスペルと言うらしいそれには搭乗者が居る。つまり有人なのだ。

これは破壊すれば終わりと言う訳には行くまい。搭乗者の自由意志のような物は感じられず、暴走しているようだ。これを殺さずに無力化するのはちょいと面倒だが…まぁ、やるしかないか。

上空から再び広域殲滅攻撃が降り注ぐ。

『フライヤーフィン』

地面を蹴って飛び立つと、降りかかる閃光を左右に回避しながら距離を取る。

攻撃は36門ある砲塔からの一斉射が基本らしい。距離を取りつつ攻撃し、その圧倒的なまでの範囲と攻撃力で相手を殲滅する。また機動力にも優れ、にわかには近づけない。

強引に近づいてみればブースターを燃焼させてスライドするように距離を取られた。

だが、その一瞬はどうしても攻撃に隙が出来るようで…

『アクセルシューター』

「シュートっ!」

12個の魔力球をシルバリオ・ゴスペルへと向けて放つ。

シルバリオ・ゴスペルが旋回し、再びシルバーベル…大量の砲撃を開始する。

「アクセル」

撃ち出された相手の攻撃を回避しつつ、シューターを操り真後ろへと誘導、そのままアタックさせる。

とは言え、ハイパーセンサーを完備しているISに死角は存在しない。スラスターの噴射で避けられてしまった。が、問題ない。相手の攻撃をくじければ此方の攻撃チャンスが増える。

『フォトンランサー』

「はっ!」

これも12個撃ち出す。

直射されるフォトンランサー。今度は相手もかわさずに撃ち落す事を選択したのか。俺の攻撃を上回る量の閃光が撃ちだされ、着弾前にフォトンランサーは迎撃されてしまった。さらにその数に物を言わせた攻撃が俺へと迫る。

『プロテクション』

前面にシールドを張りながらジグザグに後退。しかし、相手はそれを追うかのようにシルバーベルで執拗に追う。

一定距離を取った所で相手はスラスターを使い此方へと向かってくる。…なるほど、このあたりが命中率敵に攻撃有効射程と言う事か距離を取れば密だった攻撃に粗が見えるのは当然の事だった。

さて、俺はそのまま最大速度でシルバリオ・ゴスペルを引き離しに掛かる。当然ブースターに物を言わせて相手は追撃してくるわけだが、俺が何も罠を仕掛けていないわけがない。

「そろそろだね…その高機動力が仇になるよ」

『ヴァイヒ・スツーツ』

突然、いくつもの突起物が空中へと現れる。その突起は衝突物を柔らかく受け止める物であるのだが…相手の速度が問題であった。

高速度で飛翔するシルバリオ・ゴスペルは突然現れた支柱に対処する事が出来ず、その勢いのままぶつかった。ぶつかったシルバリオ・ゴスペルはそのまま跳ね除けられ、次の突起へとぶち当たり、しかしまだ速度を減じきれず、制御不能のまま次の突起へとぶつかる。

その衝撃が勝手にシルバリオ・ゴスペルのシールドエネルギーを減少させていくが、まぁ自業自得だろう。最後は海へと墜落していき、盛大に水しぶきが舞う。墜落のその衝撃は例え海に墜落したのだとしても飛行機ならばバラバラになるほどだ。

相手の攻撃で魔力も良い具合に充満していたブレイカー級も撃ちやすいだろうけれど…そこまでは必要ないかな。

ザパンと水しぶきを立てて空中に浮上してくるシルバリオ・ゴスペル。しかし、見るからに消耗し、シールドエネルギーは後いかほどの物か。

墜落でかなりのエネルギーを使ったもみえるね。

不利を悟ったのか、シルバリオ・ゴスペルは反転して俺から距離を取るようだ。もしかしたら退却だったのかもしれないが…

『ライトニングバインド』

すでにそこは罠の中。その四肢を拘束する事に成功した。

『ロード・カートリッジ』

薬きょうが排出され、術式の準備を開始する。

『トライデントスマッシャー・マルチレイド』

三つの魔法陣が逆三角形に展開され、魔力が充填されると、今か今かと俺の号令を待っている。

「シュート」

放たれる九つの閃光。

それはシルバリオ・ゴスペルの左右の羽を貫通し破壊。本体に突き刺さるように着弾したそれはシールドエネルギーをゼロまで追い込み、そのまま魔力ダメージでパイロットを気絶させた。

外装はボロボロなまでに大破したが、パイロットは無傷。とっとと、飛行能力を失ったパイロットを俺は慌てて駆け寄りその手を掴んで受け止めた。

次の瞬間、ISは光と共に量子化し、待機状態へと以降。完全に無力化に成功した俺は彼女を抱えて陸地へと戻った。




「これでは生徒達がっ!」

「大丈夫大丈夫、あそこにはカンピオーネが居るんだか、これくらい問題ないない」

「良く分からんが、ISも持っていない連中に今の攻撃が防げるものか」

と、束の物言いに食って掛かる千冬。

「でもでも実際皆生きてるし。良かったね、彼らが良心的な存在で。私だったら見捨てちゃってたかも?」

なんでおどけて言うが、いつの間にか立体映像装置を取り出した束はあたり一面にいくつものモニターが現れていた。

そのモニターには何やら遮断フィールドのようなもので護られている生徒の姿が見える。

「近辺施設のカメラは今の攻撃で全て死んだはずだが?」

「束さんを侮っちゃいけませんよ。こんな事も有ろうかとっ!て言うやつだよちーちゃん。それに見なよ。彼らはISも無しにこんな物を作り出せるんだよ」

「むっ…それに、この学園に入学していたカンピオーネはまさか一人じゃなかったとはね。一度に五人も居るなんて、まさかの事態だよ」

「言っている意味が分からんな。もっと噛み砕いて説明しろ」

「えー?そんな事より、敵の増援が来たみたいだよ?」

「かなりタイミングが良いな。誰かが操っていそうだ」

「誰だろうね?」

「ふんっ」

「それよりもモニターを見てみなよ。これだけの攻撃を凌いで余裕ある防御シールドの形勢。…さてさて、どう出るかな?」

「どうもこうも、生身でISに勝てる訳が無いじゃないか。直ぐに国連に連絡して増援を…」

「必要ないって言っているのに…ほら、出てくるみたいだよ」

そう束に言われて千冬はモニターを再び覗きこむ。

「誰かが出たな…誰だ?」

「御神蒼、高町なのは、フェイト・テスタロッサの三人だね」

パパっとモニターに三人のIS学園でのデータが映し出される。

「お前、またハッキングを」

「束さんに掛かればこんなの軽い軽い。ああ、でもこの記載されているデータは嘘っぱちだね。過去の足跡を洗えば卒なくねじ込まれているけど、改ざんの後が見えるからね」

「…何処かの国のスパイだと言う事か?」

「何処かの国…と言うよりは魔術結社だね」

「また、非現実的な物を言う」

「非現実的なら良いんだけど、事実なんだなぁ。…さぁ、始まるよ」

モニターに視線を移せばいつの間にか甲冑を身に纏い、その手に各々の武器を携えた騎士が立っていた。

「物質の量子兵装…あれはISなのか?」

「違うよ、彼女達にISなんて必要ない。ISに匹敵する…ううん、それ以上の内部機関をすでにその体に持っているんだからね」

「どういう事だ?」

「さあ?観測してみた結果、エネルギーを集束する機関が丁度心臓の横当たりに存在すると言う程度しか分からない。それに、アレを見てちーちゃんはどう思う?」

そう言って振られた千冬がモニターを再確認すると、テレビアニメに出てくるような魔法陣が展開し、翅が生え、空を自由に飛んでいるではいか。

「現IS…それこそ私の自信作である第四世代の紅椿、その能力すら超える能力を彼女たちは人の身で持っている。彼女達にISなんて必要ないんだよ。…と言うか、ISは私が彼女たちに対抗する為に彼女達を真似て作り出しただけに過ぎない」

「なっ!まさか…だが彼女たちはまだ15歳なのだぞ?」

「だねー。でも彼女たちの親は?」

「む…」

「私は見たことがある。妖精の翅を光らせ、漆黒の竜の鱗の鎧を着込み、両手の刀で強大な何かを撃ち滅ぼしたのを…」

「束…」

千冬がモニターに視線を戻せば、蒼がエネルギー弾を誘導して背後から襲わせていた。

「BT兵器まで…あれはようやく実験機が実装されたばかりなのだが…」

「彼女たちからしたら『魔法』なんだろうけどね。空を自在に飛びながら物体を自在に操るなんて、どんな頭の構造をしているのか、想像も出来ないよ」

「そうか…」

さらに、彼女たちはいとも容易くISを追い詰めていく。無人機の方はものの数分でただの鉄くずへと変貌している。シルバリオ・ゴスペルはといえば、突然現れた障害物に激突し、大きくシールドエネルギーを削られながら海へと激突していた。

「ほら、止めだよ」

そう言った束の言葉どおり、浮上したシルバリオ・ゴスペルは銀色に輝く九つの閃光で射抜かれて撃破されていた。

「あーあ。中々権能は見せてくれないか」

「権能?」

「神様を倒した者が得る超能力なんだって。一体どんな理不尽なのやら」

「まて、それでは今までのあれは彼らの固有技術であって特殊能力では無いのか?」

「特殊能力は特殊能力だろうね。体内にISが使うエネルギーを蓄積できる人間が普通の人間な訳ないじゃない。…ただ、何人か魔術師と呼ばれる人にも会ったけど、彼らと同じ反応はなかったから。彼女たちが特別なんだろうね」

もう束はここに居る事も無いかと帰り支度を始めている。

「最後にちーちゃんに忠告。彼女達を余り刺激しない方が良いよ?」

「どういう事だ?」

「魔術師たちにしてみれば暗示や洗脳なんて簡単な事なんだから。てまぁ、現代科学で似たような事は出来るから束さんも可能なんだけどね。彼女たちはそれこそISの補助もなにも要らないだろうし」

「ならばどうすれば…」

「無視が基本だよ。いまはまだ」

といい終えると束は何処かへと消えていた。後には沈黙だけが残る。

「どうしろと言うのだ…」



ふよふよと陸地へと戻ると女性を波打ち際に放置。そのまま何食わぬ顔で避難している最中の生徒の中へと混ざる。

どうやら臨海授業は終了。今日中にIS学園へと戻るらしい。まぁ宿が全壊なので仕方ないだろう。

事件に関しては緘口令が敷かれたらしい。

俺達が出張った事に対する隠蔽をと父さんに打診してみたが、騒ぎ自体を隠蔽し、教員がシルバリオ・ゴスペルを撃ち落したと正式に見解したそうだ。

何処かからいち早く圧力がかかったか?俺達の事についての言及に及ばれない所は良いのだが、何処と無く不気味だ。だがまぁ、あの状況下では仕方なかったと自分自身に言い訳をする。



夏休みを終えて二学期が始まると、学園は文化祭の準備に追われる事になった。

「それで、アオのクラスは?」

と、ソラが俺のクラスの出し物を聞いてくる。

「メイド喫茶に決まったよ。当日俺は裏方でお菓子作りかな」

とは言え、前日までに作りおきしておいて当日はサボる気満々ですが。

「へえ。私のところは中華喫茶みたいね。私も裏方なのだけど」

点心をふかせば良いように作りおきをして当日はサボるわとソラ。

「あたしも当日は忙しくない予定なんで」

「あ、わたし達もかな」

「うん。だからみんなで学園祭をまわろうよ」

と、シリカ、なのは、フェイト。

皆がもてなすよりももてなしを受ける側に回りたいようだった。まぁそう言う参加の仕方も良いんじゃないかな?

文化祭前日。第一調理室を借り切ったお菓子の作成は紛糾を極めた。

「きゃー、砂糖入れすぎちゃったっ!」

「あーん、またスポンジが丸焦げにっ」

「シューが膨らまないよっ!?」

「て言うかそのスポンジ、ガチガチで食えたもんじゃないわよ?」

「マカロナージュてこれくらいで良いの?」

悲喜こもごも。なかなかどうしてうまくいっていない。まぁお菓子作りは難しいからね。レシピ通りにやってもなかなかうまくは出来ない物だ。

「ああっ!デコレーションって難しいっ!えーいやり直し」

と言いながらクリームを潰しているなんて光景も良く見る。

俺はと言えば隅のほうでこっそりと自分のノルマをこなす。

ショートケーキのホールを二つ。シュークリームを二ダース。マカロンを二ダース。

本当はシュークリームなどは明日作りたいところだが、時間の関係上仕方ないか。

まぁこんなもんかな。

「わぁ、あーちゃん凄いじょうず~」

そう言って声を掛けてきたのは布仏本音(のほとけほんね)さん。いつも丈の余るような服装をしていて腕を出しているところを余り見た事がない。そんな少女だ。

「わ、どれどれ。わ、本当だ。凄い、プロみたいっ」

と、他の女生徒も寄ってきた。

いや、実際プロのようなものだが…

「おお、すごいな。一つ試食させてくれよ」

そう言って現れたのは織斑一夏。さっそく此方の了承も得ないで手を伸ばす。

おい、止めろ、勝手に食おうとするな。

抗議の言葉はシュークリームを掴んだ瞬間に飲み込んだ。…手遅れだしね。

「こ…これは…うまい…学生が作れるレベルじゃないぞ」

「あっ、一夏さんっ!わたくしのシュークリームも食べてみてくださいっ!」

「いや、私のケーキをだな」

「僕が作ったブッセなんかも食べてくれると嬉しいな」

「食えっ!」

一夏が褒めるものだから、彼に好意を抱いているであろうセシリア、箒、シャルロット、ラウラが一夏に詰め寄った。

「ちょ、ま、まてお前らっ!」

と抗議する一夏だが、完全には拒んではいないような感じで押され気味。しかし、運の悪い事に詰め寄った彼女達の体重は支えられず、一夏はセシリアたち諸共俺が作ったケーキの上へと倒れこんでしまった。

「あたたたた…」

「いたた、男子たるもの女子を受け止めること位はしませんと」

「そうだよ、一夏」

などと、一夏に詰め寄る彼女達。

そんな事よりも、俺が作ったケーキ達が大惨事になっているのだが……ちょっとイラっと来たよ…

俺の怒りでボンッとオーラが膨れ上がる。

「ひっ!?」

ゾクゾクゾクっとオーラを操れない人も、俺のオーラに包まれた瞬間にイヤな気配を感じたのだろう。一瞬で教室が静まり返る。

「あー、あのな、御神…えーと、その…」

しどろもどろと言い訳を考える一夏。

「俺のノルマは達成したから…帰る…」

俺はその惨状をそのままに調理室を出て行った。俺の怒気を感じ取ったのだろう。出て行くまでクラスメイトは無言だった。


「おーい、御神、待ってくれ」

後ろから大声が掛けられる。振り返らずとも男はこの学園に一人しかいないのだから分かる、一夏だ。

「何?」

「さっきはすまなかったな…その、ケーキを台無しにしてしまって。その、あいつらも悪気が有ったわけじゃないんだ、だから…調理室に戻ってきてくれないか?」

ふーん。悪気の有る無しが問題じゃないと思うんだが…

「お断りします」

「…え?」

何を呆けた顔をしている。許してもらえて万事解決するとでも思ったのか?

「散らかした器材を片付けろというのなら、そのまま俺の分は放っておいてください。明日にでも片付けます」

では、と踵を返す。

「ま、待ってくれ。ケーキの数が全然足りないんだ、その…手伝っては…」

食い下がる一夏。

「あげませんよ。自分たちがやった事の責任は自分達で取ってください」

取り付く島も与えませんよ。ええ、俺は今怒っているんです。



とぼとぼと調理室へと戻り、扉を開ける一夏。

「あ、織斑君、御神さんは…」

と、中から誰かが尋ねた。

「…調理器具はそのままにしておけってさ。明日にでも片付けるって…御神、もしかして凄い怒ってるかな?」

「そりゃ、怒っているでしょうね。完成直後に壊された訳だし」

「そうか…そうだよな…」

「一縷の望みをかけて男子である織斑君に行ってもらった訳だけど、にべも無く断られたか」

織斑君でなびかないとなると、これは強敵だなぁと女生徒。

いったい何が強敵なのだろうか。

「うまうま」

「ちょっと本音、何を食べているのよっ!」

「だってもったいないじゃない。それに、これすっごくおいしいよ」

と、布仏本音、通称のほほんさんが落ちたシュークリームを拾ってパクついていた。

「そ…そんなに?」

「うん、うまうま」

今度はつぶれたケーキにフォークを伸ばすのほほんさん。

「うわ、これもおいしい」

「わ、私も食べるっ!」

と、のほほんさんにつられて手をつける女生徒。

「こ…これは…」

「え?なになに?」

「す、…すごくうまい…ケーキってこんなに上手に焼けるものなんだね…」

「だよねー。わたし達が幾らやってもこの味は出ないよ。デコレーションも上手だし…惜しい人をなくしたねー」

いや、アオは死んでいないのだが…

「ど、どれどれ…」

その言葉でわらわらと手を伸ばす生徒達。

「これは…」

「おいしい…」

「くっ…」

「この焼きあがりでこのデコレーション技術…ああ、この被害は甚大だわ…何も無ければこれが明日の喫茶店に出せたのに…きっと集客率も跳ね上がったわ」

だってこんなにもおいしいもの、と誰かが言う。

そして一斉にこの被害の責任は誰であるかを求めて視線が向かう。

「うっ…」
「あ、その…」
「くぅ…」
「ご、ごめんなさい…」

皆に睨まれて、うなだれ小さくなっているのはセシリア、箒、シャルロット、ラウラの四人だ。

そして視線が一夏へとスライドする。

「どうして御神さんを連れ戻せなかったのっ!」

「いや…彼女はもう聞く耳を持たなくて…」

「もう一度行って来なさいっ!そして拝み倒すのよっ!」
「土下座よっ!」
「もう切腹ものだわっ!」

「わ、わあああーっ!?」

女子の勢いに押しやられ、一夏は逃げるようにアオを探しに調理室を出るが、結局見つかる事は無かった。



しばらく校内を歩くとようやくクールダウン。さて、ああは言ったものの、あの調理室の状況を見るに、明日は市販のお菓子に市販のドリンクサービスになりそうだ。まぁティーサーバーはあるようだから、紅茶や後コーヒーはどうにかなるかもしれないが。メーンのお菓子は全滅しそうだった。

だいたい素人がケーキを作ろうと思うのが間違っている。…いや、そこまで難しいという代物ではないのだが、まぁ市販の物に近づけるのは中々難しい。何度も失敗を繰り返す中で、加減を覚え、上達するのだ。素人が一朝一夕で出来る物ではない。

仕方ない。食堂の厨房を借りよう。今の時間なら貸してくれるだろう。

そう思った俺は一学年の食堂へと向かう。その道すがらソラ達3人と合流した。

「うん、アオどこ行くの?」

と、ソラ。

「ちょっと厨房にね」

「何で?」

そうなのはが問いかける。

「ちょっとケーキを作りに。…本当は調理室で作ってたんだけど、バカどもに壊されてキレて抜け出してきちゃったから」

「ああ…あのオーラはそう言う事だったんだね」

そう言えばソラは隣の第二調理室で点心を作ってたんだっけ。

「ま、それでも自分の分くらいは作っておこうかとね。厨房を借りようと思って」

「そうなんですか。うーん、それじゃああたしも手伝います」

と、シリカ。

「うん?別にいいけど…」

「なんか久しぶりにケーキを作りたい気分ですし、ね?」

とシリカが皆に目配せ。

「そうだね。たまには良いかな?」

「うん、そうだね」

と、なのはとフェイト。

「決まりね」

ソラが纏めると、俺を強引に捕まえると厨房へと入っていった。


「はい、これデコレーションお願い」

「はーい」

「あ、そろそろマカロンの乾燥も終わりですよ。焼き始めないと」

「そっちはお願い。俺はこの隙にガナッシュを作っておくよ」

「あ、はい」

なんて、いつの間にか流れ作業でケーキの作成が進んでいた。

「あれま、あんた達、プロのケーキ屋さんみたいだねぇ…」

と、管理している厨房のおばちゃんが感嘆の声を洩らした。

「しかし、作りすぎじゃないかい?」

「あ…」

おばちゃんの声で我に返ると、ずらりと並ぶお菓子の数々。

「あはは…」

「久々だったから…」

「楽しくてつい…」

まぁ仕方ない。俺もいつの間にか楽しくなっていたのは同じだからね。

この中から3ホール。クラスに持って行くとしてもなお余る…と言うか余りすぎる。

「久々に喫茶翠屋でもやる?」

と、なのは。

「でも、場所がないよ」

そうフェイトが言う。実際催しの数々の全ては事前の打ち合わせで場所が決まり、もう開いている場所もあるまい。

「うーん、だったらこの食堂でするかい?まぁ、こんな所じゃ人は来ないかもしれないけれど」

とおばちゃんが提案してくれた。

「良いんですか?」

「いいのいいの、文化祭当日は食堂は例年開店休業みたいなものだしね」

「どうする?」

と俺は皆に問いかける。

「良いんじゃいかな?」

「良いと思います」

「うん」

「久しぶりにそう言うのも良いかもね」

意見は纏ったかな。それじゃあ…

「お借りしても宜しいですか?」

「はいよ。当日はあたしもお客として来ようかねぇ」

「是非いらしてください。出来れば他の従業員も一緒に」

「美味しいケーキを期待しているよ」

「はい、任せておいてください」

結局もてなす側で文化祭を楽しむ事になってしまった俺達。でもまぁ、良いのかな。

「そうと決まれば、軽食の仕込みをしないとね」

「はいっ!」

「わたしはじゃあハンバーグの下ごしらえを始めるよ」

「私はじゃぁカレーね」

「ミートソース、仕込んじゃいますね」

なんか、いつかの感じで、本当に楽しい。


あくる日。

ホールケーキを三つ教室に持って行ったのだが、教室には誰も居ない。

他に思い当たる所も無いので、俺は第一調理室へと移動。勇気を出して扉を開けると、そこは死屍累々…厨房施設は破壊されまくり、クリームは飛び散り、オーブンは真っ黒こげだ。いったい何をどうしたらこんな状況になるのか。

その教室の中に疲れたように折り重なって倒れこむように寝ているクラスメイト達。

これは…本当にいったい何が?

テーブルの上にはかろうじて数個のホールケーキと、1ダースほどのシュークリームがあるが…形はものすごく歪だ。

俺はどうしようかと考えた後、見なかった事にして教室へと戻った。

「あれ?御神さんお一人ですか。みなさんはどうしたんですか?」

と真耶先生が出欠を取る段階で戸惑っている。俺は見なかった事にすると決めたのですっとぼける。

「さあ?昨日のお菓子作り、自分のノルマが終わったので退出したので分かりません。もしかしたらまだ調理室に居るのかも?」

「そ、そんなぁ…御神さん、皆さんを連れてきてください」

「あ、俺も忙しいんで。俺は当日のシフトに入ってないので、失礼しますね」

「ちょっとっ、御神さん、御神さーん」

戸惑う真耶先生を無視して教室を抜けると食堂へと向かう。

そこには既にソラ達が待っていた。

「久しぶりの翠屋、だね」

と、なのは。

「うん。みんな、今日はがんばろうね」

「そうですね」

と、フェイトとシリカ。

「ほら、開店の時間。早く厨房に火を入れないと、大変な事になるよ」

「あ、はいっ!」

さて、久しぶりの喫茶店営業。頑張りますかね。


喫茶翠屋、開店です。

「来たわよー」

お客さん一号は食堂のおばちゃん達だった。

フェイトが接客に出る。

「いらっしゃいませ。お客様は何名様ですか」

「お一人よ」

「カウンターとボックスシート、どちらになさいますか?」

「カウンターで…って、あなた達本当に慣れているわね…」

「ええ。実は以前に喫茶店でお手伝いをしていた時期が有るんですよ」

「そうなの。どうりで慣れていると思ったわ」

フェイトが再びお冷とお絞りを持って席へと向かう。

「メニューは此方になっております。ご注文がお決まりでしたら及びください」

「はいはい。あ、注文良いかしら」

「はい。どうぞ」

「あたしはこのAランチセットでお願い」

「はい、Aランチがお一つですね。オーダーは入りまーす。A一つお願いします」

と、フェイトの声で厨房も活気づく。

「A了解。さて、頑張りますかね」

と、俺はコンロの前に立った。


最初、宣伝もなにもしていないこんな場所での営業で人は中々入らなかったのだが、おばちゃんが宣伝してくれたのが、ちらほら客が増え始め。11時を過ぎるころには満席に。12時前には行列が出来ていた。

「はい、四番テーブルB二つ、C一つ出来たよ」

「はーい」

「次、六番、A三つです」

と、今は接客をかわったなのはの声が響く。

「はいよって…ここ喫茶店だよね?なんかトラットリアかなんかと勘違いしそうなんだけど?」

「それは仕方ないですよ。メニューはランチの三つだけ。食後のケーキとドリンクもセットにしちゃったのが敗因ですね」

と厨房に居るシリカが答える。

「こんなに流行るとは思わなかったからな…」

「ええ、おかげで二時前には終了しそうですよ。クレームが来なければ良いのですけど」

「そこは諦めてもらうしかないな。しかし、丁度良いだろう。二時からでも学園祭を皆でまわろうか」

「はい。それじゃもうひと頑張りですね」

「あ、ローテーションで今度はアオが接客だから」

とソラが厨房に入ってきて一言。

マジか…

気を取り直して接客業務へと移る。

「あー、あーちゃんだぁ。ここってもしかしてあーちゃんのお店?」

「本音か。まぁそんな所」

「あれ?かんちゃんはなんで隠れてるのかな?」

のほほんさんの後ろに隠れるように縮こまっているのは更識簪だ。この二人、知り合いだったのか。

「あの、お久しぶりです。アオさん」

「ん、ああ。そうだね。四組とは合同実習になる事もほとんど無いからね。タッグマッチ以来か?」

「はい…」

「ランチしかないけど、食後にドリンクとケーキは付くから。楽しんでいってよ」

「あ、はい…楽しみです」

と、恐縮しているような感じの簪。

「あー、もしかして食後のケーキってあーちゃんが作ったやつ?」

のほほんさんが少しぷりぷりした感じで言う。

「俺も作ったが、まぁ知り合いの五人でだな。ちょうど今この翠屋を切り盛りしている」

「むぅ、きっとその所為だよ。あーちゃんのケーキがある内はおりむーの人気も有って繁盛してたのに。開始一時間ですっからかん。もう閑古鳥が鳴いているよ」

聞けば寝坊して開始は10時を過ぎていたそうだ。そこから一時間がピークで、11時辺りからはこちらも満員御礼だったから…ふむ…

「ここもすっごい待たされたんだから。ささ、席にあないするが良い」

「ちょっと本音、少し失礼じゃない!?」

「はいはい、此方へどうぞ。お嬢様」

「わーいっ!」

「簪もお昼ごはんがまだならどうぞ。今の厨房は俺の担当じゃないけど、ケーキは俺が作ったのを見繕って来よう」

「あ、あの…ありがとうございます」

「ま、後でオーダーを取りに来るから。楽しんでくれたら、まぁ…うれしいかな。それじゃ」

まぁ、久しぶりに楽しんだのだと思う。結局二時前には完売御礼。並んでくれた人たちには早めに売り切れを伝え、帰ってもらう事をしなければならなくなったのは心苦しいが、まぁ仕方あるまい。

厨房の後片付けを後に回すと、俺達は学園祭を見てまわる。

先ずは一組のメイド喫茶…なのだが…

客入りはまばら。あの惨状が有ったのだ、仕方ないだろう。うん、面倒そうだ。近づかないでおこう。

失敗も経験。馴れ合いと協調は別の物。それくらい分かって欲しい物だ。

取り合えず、他の催し物を楽しんでいたのだが、学園に響く突然のアラート。ISによる襲撃が有ったらしいが、いつもの如く詳細は知らされない。講堂の方が騒がしかったと言う事くらいで、何も分からなかった。

毎度何かイベントが有るたびに事件が起こるのはいい加減やめてもらいたいのだが…
 
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