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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百三十四話 神速の剣戟

 
前書き
はい!どうもです!

前回の反動という訳ではないですが、今回は少し長めになりますw

では、どうぞ! 

 
翌日、約束の通り二時半に集合したアスナ中心のデュエル見学軍団は、鋼鉄の城の脇をのんびりと飛び上がって、第二十四層主街区《パナレーゼ》に来ていた。パナレーゼは……と言うか第二十四層は、全体的にフィールドの大部分を水面が覆う湖沼フロアで、最上層が近いせいもあってお祭り気味に賑わう街の様子によってか、水面はユラユラと揺れていた。
そんな本島から繋がった幾つもの細い浮き橋の一つの先に有る、、小さな島の水辺。それこそ、寄せる波が足元を洗おうとするほどに近くのベンチに、一組の男女が腰掛けている。
今日も今日とて鴛鴦夫婦な、キリトとアスナである。
肩にアスナの頭の重さが、微かな温かさと共に掛かるのを感じつつ、ゆったりとした気分で湖面を眺めていたキリトに、不意にアスナが言った。

「ね、キリト君……初めてセムルブルグの私の部屋に来た時の事覚えてる?」
「ん?」
聞かれて、キリトは彼女の言う時の事を思い出してみる。頭の中の記憶が鮮明になってきた所で、キリトの口角が無意識に緩んだ。

「自慢じゃないが、記憶力の弱さには自信がある」
「えー」
これは半分本当、半分嘘だ。ゲームの事や好きな事に関してはまぁ沢山覚えられる。が、せめて其れが嫌いな事にももう少し応用できれば、英単語ももう少し頭に詰め込めるだろうに……

「……でも、あの時の事は、ホントによく覚えてるよ」
「ほんとー?」
からかうような、試すような様子でアスナが聞いた。む、其処で疑われるのは心外だ。“好きな事”なのだから忘れようがない。

「勿論、あんときはほら、俺がラグー・ラビットの肉手に入れてさ、アスナが其れ使ってシチュー作ってくれたんだよな。あれは美味かったぁ……今も時々夢に見るし……」
「もう!それご飯の事しか覚えてないんでしょ!」
「あははは……」
口を尖らせ、けれど笑い交じりに朗らかに言う。ばれたか、とばかりにキリトは苦笑した。しかし実を言うと、それ以外にももっとはっきりと覚えている事はある。寧ろこれが一番記憶に残っているのだが……

「いやいや、それ以外にも覚えてるぞ?その作ってくれた人が食事の後俺にナイフをリニアーで……」
「わぁ!ダメダメダメ!それ以上言わないでー!」
しかしその内容を言おうとすると必ずこうなるのだ。顔を真っ赤にしながらブンブンと手を振って来るアスナに、キリトは先程よりも声を大にして笑った。その横顔を、赤い顔のままアスナが口を尖らせて眺める。そんな情景がしばらく続くと、だんだんとこの島に寄って来る妖精達が増えているのが見えた。
その光景を見て気が付いたように、アスナが言う。

「あ、そろそろ時間かな?行かなくちゃね」
そう言いながらも、彼女は惜しむように少しの間キリトの肩に身体を寄せていた。と、少しだけ真剣な表情になって、キリトは言う。

「アスナ、絶剣と戦うんなら……」
「え?」
と、其処まで言って、キリトは口ごもった。少しだけ考え込んだ後に、彼は何故か歯切れ悪く言う。

「えーと……うん、いや、強いぞ?ホント」
少しだけ、キリトは迷っていた。何を言うべきかは何となくわかるのだが、今一、其れをどう伝えた物かが上手く言葉に出来ない。
と言うのも、キリト自身、自分が考えている予想に確信は無いのだ。ただ彼の一VRユーザーとしての、そして剣士として生きて来た数年間の直感が、そう予見しているだけの話だから。
もしこれをまことしやかに聞かせてしまうと、アスナ自身のそう言った感覚を阻害してしまうかもしれない。そう思うと、今一自分の考えを直接的に話す気になれなかった。

「強いのはリズ達から十分聞いたよー。そもそもキリト君でも勝てないくらいだもん。私が勝てるとは思えないけど……でも正直ちょっと信じられない位だなぁ……キリト君が負けちゃうなんて」
少し悪戯っぽく笑って言ったアスナに、キリトは苦笑する。

「いや、今はもう俺より強い奴なんて沢山いるって。まぁ、絶剣はそれでも別格だったけどさ」
まぁ、キリトとしても元トッププレイヤーとして其れなりに意地と言うか、自負と言うか、そんなような物はあるので、其れなりにプレイヤーとしては鍛えてはいるが、それでも既にこの妖精卿には自分よりも実力あるプレイヤーはポンポン居る筈だと思っていた。
そう思っていると、不意にアスナが思いだしたように空……は見えないので、100m上の天井を見上げる。

「絶剣と何か話してたみたい。って皆に聞いたけど、キリト君何話してたの?」
「あぁ、いや……」
アスナの問いがつい先ほどまで言うか迷っていた部分を聞かれてしまって、キリトはまたしても言葉に詰まる。

「ちょっとだけ、気になった事が合ってさ、聞いたんだ。君は、完全にこの世界の住人なんだなって」
「……?完全に?どう言う事?凄い廃人プレイヤーとか?」
「あー、いや、そう言うのとは少し違うんだ。ただ……このALOの事を指して言ったんじゃなくてさ、《フルダイブ環境》って言う世界(システム)そのものの住人。そんな感じがしてさ」
そう言っても、アスナにすぐには分からないだろう事は分かる。
実際彼女はキリトの言葉を聞いて、ますます首を傾げただけだった。

「……どう言う意味?」
「うーん……やっぱり駄目だ。これを説明するのは、少し難しいな……できれば、アスナ自身の感覚で彼女の事は感じてみて欲しい」
「?うん……」
頬を掻きながら苦笑して、キリトはアスナの神を軽く撫でる。アスナにしてみると彼が何を言いたいのか今一よく分からなかったが、こう言う謎めいた事をキリトが言う時は必ず何かしらの意味がある。彼が言うのなら、其れは意味のない言葉等では無いのだろうと信じて、アスナは小さく頷いた。
と、不意に彼等の後ろに、聞きなれた降下音と着地音が響く。どうやら仲間達が来たらしい。

「よっ、お二人さんお取り込み中?」
「兄貴?」
「まったく、アンタ達少し目ェ離すとすぐこれなんだから!」
「り、リズ!」
そんな事を言いながらつかつかと歩み寄って来るリズに、アスナは慌ててキリトから身体を離すと苦笑しつつも何とかリズをなだめる。そんな二人を眺める横で、リョウがキリトに聞いた。

「何話してたんだ?」
「ん、いや……絶剣の事色々、さ」
「あー、なんだ、話したのか?」
リョウが聞くと、キリトは苦笑しながら肩をすくめて首を横に振った。

「いや。アスナに先入観持たせないで話す自身が無くてさ」
「なんだよ?なんか不味いのか?」
「いや。俺の個人的な考え方だけど……あくまで俺達の思ってる通りならさ、彼女は少し特殊な境遇って言うか、立ち位置に居る訳だろ?」
「成程。そう言う相手と接するにゃ自分で、か。ま、良いんじゃねーの?」
ニヤリと笑って言うと、キリトは頬を掻いて言う。

「まぁ、ホントに俺の個人的な考えだけどな」
「忠告なんてそんなもんだ。其れが正しかったかは結果が決めんのさ」
「兄貴はどっしりしてるから良いけどなぁ」
「なんだ、俺は無神経ってか?」
「そう言う訳じゃないけどさ」
苦笑しながら言うキリトに、リョウは楽しげに笑う。そんな事をしている内に、リズとアスナはそろそろ行くと手招きを始めていた。

────

島の中心部に有る大きな木の根元には、既に沢山の人だかりが出来ていた。まだデュエルの様子は見えないが、波のように時に大きく響く歓声が、既に其れが始まっている事を知らせてくれる。と、不意に人だかりの視線が向いて居た先。木の上から「うわぁぁぁ!」という声を尾に引いて、ドスーン!と1人の男が落ちて来た。

どうやらサラマンダーだ。背は高く、武器は大剣。確か以前種族混合のデュエル大会で其れなりに良い所まで行った男だった気がする。しばらくの間、男は大の字になって唸っていたが、やがて上体を起こし、ふらつきながらもホールドアップするように両手を上げると、大声で言った。

「あー、参った!降参!リザイン!」
男の声と同時に、男の言葉がリザインメッセージとして認識され、デュエル終了のファンファーレが鳴り響く。その瞬間周囲から感嘆の声と共に、ぼやきとも取れる声が漏れる。
どうやら連勝に連勝を重ねて今は67勝目だそうだ。今一ピンとこないと言う読者の諸君は、格ゲーを思い出して欲しい。ゲーセンの格ゲーを、初心者で67連勝をしている人物がいるとなれば、殆どの人はそれがすごい事であると分かるはずだ。
それも……今地上へとくるくると降りて来る、小さな少女ともなれば尚更だ。

肌は、暗闇を好むと言う設定で有るインプの特徴である乳白色。紫がかった黒の長い髪は腰のあたりまで伸びていて、エナメル質のような光沢をもつ黒曜石の胸当てに、腰には同じ艶の有る黒の細く長い鞘。
地上に降り立った彼女は、左手スカートの端を片手でつまみ持ち上げながら、右手を胸に当てて芝居がかった動作で軽く一礼する。そうして途端に湧き上がった歓声に答えるように、今度は輝くような笑顔を浮かべながらブイサインを作った。
精悍な顔立ちをしているかと思っていたアスナのイメージに反して、その顔立ちはとても幼い。特にその大きな赤紫の瞳が本当に無邪気な光でキラキラと輝いて居て、強い印象を残す。

「へー」
「?どうした」
「え?あー、ううん。もうちょい強そうな人想像してたから……イメージと違うなぁって……」
苦笑しながら言ったアスナにリョウがふん。と息を吐いて言う。

「馬鹿お前、油断すんなよ?あー見えて」
「そ、そういう事じゃ無い無い!キリト君を負かしちゃう相手だもん。油断なんてできないよ!」
少し焦ったような調子で言うアスナに、リョウは肩をすくめた。

「なら結構。まぁキリトが負けたのは相手が顔の良い女だったからかも知れんが……」
「は?」
リョウの言葉にキリトが疑問の声を上げた瞬間、アスナの笑顔がキリトに向いた。

「キーリートくぅん?」
「いや!無いから!!ホントに本気でした!少なくとも途中からは……」
「あぁ、途中までは顔で手加減する気だった訳か」
「兄貴!!」
「キリトくんちょっとお話が有るんだけどね~?」
いやー、アスナの笑顔が怖い。超怖い。

「もうっ、まぁそう言う冗談はリョウの何時もの手だから何も言わないけど……でも、ホントにイメージと違うなぁ……」
「まぁ、剣の腕って言うのは見た目で決まるもんじゃねぇからな」
肩をすくめたリョウに隣で、キリトがうんうんと頷く。

「世間的にはアスナがレイピアでスター・スプラッシュ撃ってるのも普通にイメージと違うと俺は思う」
「えー?そ、そうかな……」
自信なさげに髪をいじるアスナに、キリトは笑いながら言う。

「まぁ、そういうアスナも綺麗だしカッコいいから、俺は好きなんだけど……やっぱり、見た目で判断はできないよな」
「「…………」」
「……え?何?」
一人で納得したように何度か頷いて居たキリトが隣を見ると、其処に腕組んだままポカンとしたリョウと、何故か顔を赤くして俯くアスナが居た。訳が分からず首を捻るキリトに、リョウが唸りながら言う。

「いや……久々にそう言うの言ったなと思ってな……まぁ良いや」
「は?」
ある意味感心したようにそんな事を言ったリョウに、キリトが疑問の声を上げた瞬間に、今度は恥ずかしがる様な声でアスナが声をかけた。

「キリト君……」
「うん?」
「今度、ご飯作りに行っても良いかな?」
「え?あぁ、大歓迎だけど……」
満面の笑顔で言ったアスナに今一事情が呑み込めないままキリトは曖昧に頷き、どう言う訳か近いうちに桐ケ谷家の夕飯が豪華になる事が決まった。余談だが、隣で談笑しながら歩いて居たリーファ、シリカ、リズ、サチの四人は、キリトの無自覚発言辺りからサチ意外の全員がジト目に成る中、サチだけは終始困ったように微笑んでいたと言う。

と、そんな話をしている内に……

「えーと、次に対戦する人!いませんかー?」
人だかりの中心から、絶剣と呼ばれる少女の声が響いた。容姿に違わず高く可愛らしい声で、無邪気で明るい雰囲気を漂わせている其れは、そ手も67連勝の猛者とは思えない。アバターが女性だと言う事はつまりリアルも女性だと言うことだ。ただ本来年齢やリアルの容姿はアバターには影響しない。それでも話し方や仕草にアバターの容姿に合った幼さがあるのは、リアルでの彼女もまた、アバターの容姿に近い年齢であるからか。だとしたらますます驚きである。

「よしっ……行って来るね」
「おっ、気合い入ってんな」
「きっとキリトにああ言われたからよねん」
「も、もうリズ!!」
真面目な顔つきになって堂々と出て行こうとするアスナの背中を、リョウとリズが茶化すと、途端にアスナは顔を朱くして振り向き、腕をブンブンと振った。台無しである。

「もう、リズさん、からかっちゃだめですよ!」
「大事な試合なんだから!ほらリョウ兄ちゃんも黙ってて!」
そんな二人を、似た物同士な二人が諌める。苦笑しながら四人を見ていると、微笑みながらアスナを見ていたサチの肩の上のユイが、ブンブンと手を振った。

「ふふふ……頑張ってね?」
「ママ!頑張ってください!」
「うんっ!」
元気よく頷き、最期にキリトと目を合わせるお互いに頷き合った後で、アスナは大きく踏み出した。

────

「……やっぱり強いな」
「あぁ」
アスナと絶剣のデュエルが始まってから、一分が経過しようとしていた。
地上戦空中戦を選択させた絶剣に対し、アスナの希望で地上戦になったこの戦いだが、開始初撃の一合の打ち合いで、絶剣の強さを十分にアスナは知っただろう。

何せキリトを含むアスナの仲間の中でもトップクラスの疾さと正確さを持つアスナの二連突きを、“見て”叩き落としたのだ。しかも即座に、それ以上のスピードで斬り込みを返してきた。センスもさることながら、反応速度とVR慣れの錬度が半端ではないのである。

「……さてさて、我らが騎士姫さんはどう切り込むかね?」
「アスナももう通常技だけで決めに行ける相手じゃないって事には気が付いてる。SSを持ってくるしかないと思ってる筈だ」
「問題は、生半可に撃ってもふつーに弾かれる。さて……」
言っている内にもアスナと絶剣は凄まじいスピードで撃ちあって居る。素のスピードで撃ちあって居る筈なのに、最早各々の剣の軌道は霞んで見え、突きと斬撃は甲高い音をひびかせながら撃ち合う。シリカなどは……

「うぅ……ど、どう振ってるのか見えないです……」
「あはは……すごいね、二人とも」
実際、サチの言う通り、二人の戦いは常人の域を遥かに超える物であると言えた。アスナの高速にして正確無比な連続突きを次々いなし、躱す絶剣も本当に大したものだが、その絶剣が返してくる雷光のごとき疾さの斬撃を、相手の身体全体の動きをみる事で先読みして反応するアスナもアスナである。流石にSAO時代からの二つ名持ちなだけはあると言う物だ。
互いの剣が偶発的に相手に化する程度のダメージを与え、じりじりと微量ずつお互いのHPが減って行く。しかしこのままではじり貧なのは見えている。

『さーて、どうする?』
「…………」
ニヤリと笑いながらリョウと真剣な表情のキリトが様子を見ていると、不意にアスナが大きく踏み込んだ。それこそ殆どゼロ距離。仮に相手の動きを先読みしたとしても、ステップ回避は絶対に間に合わない距離だ。そのままの勢いで、アスナが右手のレイピアを一気に突き込もうと構える。当然絶剣は反応し、それを弾く為に剣を切り上げ──る寸前、アスナが突き込む一歩手前でレイピアを引き戻し、代わりにフリーになって居たアスナの左手にライトエフェクトが灯り、その拳で絶剣の胸部をぶん殴った。

「おぉ」
「成程」
驚いたように、それでいて感心したように、リョウとキリトが同時に声を上げた。絶剣は基本的に非常にストレート、かつ単純な攻撃を好む。
その剣速故に誰もが対応しきれず押し切られてしまう故に余り気が付かれていないが、彼女は基本的に対人戦の上級者が殆ど必ずと言っていいほど行うフェイントや牽制と言った動作をほぼ行わず、単純な弾きと回避、攻撃の動作のみで勝利を収めて来た。勿論其れは凄まじい事では有るのだが、同時にそれ自体が彼女自身の対人戦の戦闘経験がそれ程多くない事を示しているようにも思われた。故に、アスナはここにきて、出の早い打撃攻撃による奇襲を試みたのだろう。

「ッ!?」
ヒットの直後、絶剣の瞳が驚きに丸くなるのが、リョウからもキリトからも見えた。当然、アスナにも見えているだろう。そしてそれは、彼女にこれが有効打である事を伝える。
この世界における一般的な対人戦の上級者で有れば当然想定しておく筈の剣対剣の近接戦闘における唐突な格闘技による奇襲と言う手段が、彼女の頭には一切ない故に、唯の牽制から、完全な奇襲と言う形に変わるのだ。

そして経った今出来たこの瞬間こそが、アスナがSSを撃ちこむ最初で最後のチャンス……

「ハァっ!!」
レイピアが朱く発光し、システムアシストを受けたアスナの腕が一気に突き出される。

細剣 四連撃技 《カドラプル・ペイン》

誰もが、その瞬間絶剣へのSSのクリーンヒットを予想しただろう。実際、其れは殆どの者にとって疑いようもない事だと思えた。
……その場に居た、ほんの数名の者達以外にとっては。
彼等其れが分かったのは、彼等が絶剣の“目”を見ていただからだ。その瞳が、間違いなく……

「(いや……!)」
「(おいおい、マジかあの嬢ちゃん……)」
アスナの剣の剣尖を、捕えていたからだ。……その瞬間、残像だけを残すような超高速で、絶剣の剣が動いた。
その全ては、ソードスキルによって速度、威力共に増幅されたアスナの新即と言っても過言ではない四連突きを的確に弾き、反らし、そうして結果的に絶剣は、本当に通常技のみで、アスナのSSを躱し切って見せた。
そしてリョウ、キリト含むその場に居た全ての人物が驚きに固まる中、アスナにほんの少しの。けれど決定的に致命的なスキル後硬直が発生する。

「すぅ……やぁっ!!」
その瞬間、この試合に置いて初めて絶剣が凛とした高い気合いの声を上げ、同時に青紫色の光の帯を引いて引き絞られた剣が、一気に五連続で突き出された。
軌道はアスナの左肩を捕えてから、瞬時に右下への連続突き。片手剣スキルに置いて、この軌道に見覚えは無い。つまりこれは……

「OSS……!」
「おぉ」
「あ、あれ……!」
キリトやリョウが驚き目を見開く中、サチだけが反応が違った。まるで見覚えの有る物を見るかのように硬直した彼女は、一心にその剣だけを見つめる。
五連撃が過ぎ去った直後、アスナのほんの一瞬の硬直が解けた。しかし動き出したアスナの瞳には、未だ発光し続ける絶剣の剣が映って居る筈だ。明らかに、まだスキルが続いている証拠……
其れを目にしても、アスナが防御にまわると言う選択をしないのは、ある意味彼女ならば当然の事だったのかもしれない。
そう、この状況に至ってアスナが選択したのは、あえて前にでる事だった。危険を承知で、敢えて無理に避けや逃げに走るのではなく、可能性が低くとも賭けに出る。SAO時代の彼女なら先ず選択しなかった道だろうが、今となってはその勇ましさはまさしくアスナらしい選択だと思える。

五連の突きの後、再び大きく腕を引いた絶剣に対抗するように、アスナが弓を引くように腕を引き絞る。光を凝縮するような高い音と共にレイピアが青白い光を纏い、直後、喚高い金属音と凄まじい衝突音が同時に鳴り響き、二人の少女の間に青と赤の閃光が次々に閃いた。

細剣 五連技OSS 《スターリィ・ティアー》

互いのOSSが激しくぶつかり、その全てが互いの身体を捕えた。そうして、ほんの一瞬だけ世界が硬直し、静寂が辺りを包む。それでもまだ、二人は立っていた。しかしアスナには悪いが、此処まで観戦していたリョウやキリトは既に、結果にある程度の予測を付けていた。
現時点で絶剣のヒットポイントはイエロー。アスナはレッドだ。

そしてアスナのOSSはあの五連撃で終了だが、あの驚異的な十連撃を繰り出した絶剣のOSSは、もし噂が本当であるならば、もう一撃が発生する可能性がある。
そして、その予想に違わず、再び引き絞られた絶剣の剣には、未だ紫色の光が灯って居た。

「見事」
「あぁ」
感嘆するように、あるいは達観したように、二人の男が言った。そうして一気に突き出された絶剣の剣は──

──アスナに命中する寸前で、その剣尖をぴたりと止めた。

「んん?」
「おっ?」
発生したソードスキルを、プレイヤーが強制的に止めた事で発生した余波によって、周囲に立つ背の低い草花が大きく揺れる中、男二人が上げた疑問の声。をぶち抜くように、高く、可愛らしい声が響く。

「うーん、すっごく良いね!!お姉さんに決ーめた!!!」

────

剣を止めた少女は、呆然とするアスナと周囲の全てをそっちのけに、突然マシンガンのようにアスナに話しかけだした。
その顔は本当に嬉しそうで、まるでずっと追い求め続けて来たレアアイテムをようやく見つけた時のよう……等と思ってしまうのは観察している男二人がゲーマーだからか……

「ようやく見つけたよ!ぴぴっと来る人!!ね、お姉さん、今から時間大丈夫?」
「え?う、うん……まだ、平気だけど……」
「じゃ、ちょっとボクに付き合って!!」
「え……えぇ!?」
その少女はそう言うが早いが突然アスナの腕をがっちりつかむと、羽を展開し、空中に浮かびあがる。
腕を引かれたアスナも慌てて背に翅を展開させるが、その表情と瞳は当然と言うべきか、困惑と疑問の光を強く示している。
しかしそんな事はお構いなしな様子の絶剣は輝くように微笑むと、一機に身を翻してアスナの手を引いたまま急上昇を開始した。

「ち、ちょっとアスナ!何処行くのよ~!」
リズの声に反応したように、アスナが振り向く。彼女の視線の先には当然ながら彼女と同じく困惑と疑問に満ちた表情を浮かべた、リーファやユイ、シリカの姿がある。ただ、サチとキリトだけは、何故か意外そうな印象を持たない様子で穏やかに微笑んでおり、其れが何となくアスナを勇気づける。リョウは……アレは完全に面白がっている。

「あ、後で連絡する~!」
困ったように笑いながらもそう仲間達に叫ぶ。直後絶剣が一気に加速し、アスナと彼女は、あっという間にリョウ達の視界から姿を消した。

「やれやれ……何だかおかしなことに巻き込まれたくせーなぁ。彼奴」
「ははは。まぁ、悪い奴には見えなかったしな……」
「っは、何だその知らん顔は。だいたい予想付いてたくせに」
「うぐ……」
呆れたように肩をすくめながらそう言ったリョウの言葉で、キリトは肩を落として頭を掻く。

「いや、まぁ絶剣(アイツ)は多分、腕試し意外にも何か目的が合ってあんな事をしてるんだろう……っては思ってはいたからさ」
「で、彼奴の探し物はアスナだったってわけか……」
腕を組んでふんっ。と息を吐きながら言うと、キリトは苦笑しながら答える。

「みたいだな。何となく、予感はあったんだけど……」
「ほほう。お前に勘で負けるとは……流石は夫」
「いや勝ち負けじゃないだろこれは……ってか夫って……」
前半呆れ混じり、後半頬を掻きながら言ったキリトに、リョウはニヤリと笑いながら裏拳で胸をポンポンとと叩く。

「今更照れてどーすんだよ。大事にしろよ~?」
「分かってるさ……ったくてか兄貴、最近オヤジっぽくなってるぞ」
「割と元からだったりするんだがな」
精一杯のいやみも、はっはっは。と笑われて一蹴され、キリトは深めに溜息を吐く。と、不意に、少し思い出したようにキリトは空中に視線の走らせた。若干迷ったような表情をした後、コホン、と咳払いを一つ。
いぶかしげな表情で自分の事を見た従兄に、あー、と前置きしてから言葉を発する。

「……そう、言えば、兄貴」
「なんだお前、行き成りコホンだのあー、だの」
「う……」
出来れば突っ込まないで欲しい部分に何故突っ込むのだろうこの男は……吐きかけた溜息を何とか抑え込み、緊張した様子のまま、キリトは歯切れ悪く言った。

「いや、その……昨日の、さ……」
「あ?」
そんなキリトに、リョウは流石に首を傾げ、眉根を寄せて聞き返す。
しかしそこで数秒間キリトは沈黙して考え込むと、今度は一転して笑いながら返した。

「あー、いや。やっぱ何でも無い。忘れてくれ」
「…………」
そう言われるとますます気になる。と言うかまぁ……何をキリトが聞こうとしたのか、リョウは手前の台詞で分かった気がした。

「……成程、電話か?」
「う……」
「っはは。気付いてたか」
「……まぁ、ちょっとレシピ聞くにしては長いような気がしたからさ。やっぱり……何か有ったのか?」
「んー……」
話すべきか否かをリョウが悩むように唸った。特に多くを知って居る訳では無いとは言え、泣いて居たと言うキリトにとっては重大な事実を、果たして本人が望んでいないにも関わらず言って良い物か……しかし其処でキリトは不意に少し大きめの声ではっきりと言った。

「……いや!やっぱ良い!」
「ん?」
「アスナが話さない事を、俺が横から聞くってのは……やっぱりちょっとな」
「……ほう」
キリトのその言葉に、リョウは感心したように小さく言葉を漏らす。

「お前、結構そう言う気遣い出来んのな。気になるんだろ?」
「聞くなよ……意地が悪い。そりゃ気になるけどさ……でも、やっぱり、アスナにはアスナなりに事情が有るんだ。アスナの力に慣れる事なら成りたいけど、出来ればアスナの口から……さ」
「ぷっ……っはっはっは!!」
「う……」
突然笑い出したリョウに、キリトはやっぱりか。と言った様子で表情を硬くする。

「いや。良いんじゃねーの?お前って本当……なんつーか、変な所で(うぶ)っつーか……」
「ほっとけよ!!こう言うのはアスナから教わってばっかりなんだよ……」
うぅむ……と唸るキリトに、リョウは苦笑しながら空を眺める。
不思議と、不快な感覚では無い、けれど何かが起こるような、そんな予感が風に乗ってリョウに訪れていた。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

ようやく(まだ簡易的な感じだけど)ユウキ出せたー!!いやー、ユウキはSAOの中でも大好きなヒロインの一人でして!鳩麦内でのその順位たるやサチと同じか少し上くらいです!
うー、今から上手くかけるか本当に不安で仕方ないのですが……頑張ります!


ではっ! 
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