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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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異なる物語への介入~クロスクエスト~
  遭遇2―Encounter2―

 ―――――ここはどこだ!そしてあいつは誰なんだ!!

 フレイは自らの置かれた状況に対して、心の中で絶叫した。今、フレイがいるのはアインクラッド第三十一層の主街区だ。何か目を引く建物があるわけでもない、観光地にすらならないのどかな街だ。だが今、そこには普段ならいるはずのNPCが一人もおらず、いるのはただ一人、フレイのみ――――

 否。フレイだけではない。もう1人、何者かがいるはずだ。はず、というあいまいな表現になるのは、《そいつ》の姿を視認することができないからだ。

 速い。動くのが、異様に早いのだ。赤い閃光を伴ったまま、高速で移動する。《そいつ》が通過した後には赤い閃光しか残らず、本人の姿を全く見ることができない。フレイの知っている限りで最も敏捷値のステータスが高いのは、情報屋《鼠》のアルゴだが、彼女とてどれだけ敏捷値にステータスを振っても、さすがに視認できないスピードで動くことはできない。確かにその姿はぶれて見えるだろうし、瞬きのうちにはるか遠くまで移動することは可能だろう。

 だが、こんな赤色のエフェクトライトは出てこない。それに、このプレイヤー(おそらく)の移動速度は、それ等とはけた違いのスピードだった。もはやプレイヤーの到達しうる域と、遥か高い壁に隔てられた、その先へと至ったかのような。

 こちらの動きを伺っているつもりなのか。《そいつ》は全く速度を緩めることなく、フレイの周辺を移動していた。このまま眺めていてもらちがあくまい。何か対策を打つことにする。

「しかたない、メモリ使うか……」

 腰のメモリホルダーから、《ガイアメモリ》と呼ばれる、USBにもにたそのアイテムを抜き出す。

 《ガイアメモリ》。《地球の記憶》を封じたメモリで、これを起動させることによって自然現象を始めとする地球で起こる様々な現象を操れるようになる。例えば、《マグマ》のメモリなら火炎を操れるようになったり、《スイーツ》のメモリだったらクリームを噴射したり。

 だが、《ガイアメモリ》には強い毒性がある。麻薬やたばこの様に、使えば使うほど中毒症状が現れるのだ。そう言った者達を『《地球の記憶》をドーパミングした者達』の意味を込めて、《ドーパント》と呼ぶ。

 《ガイアメモリ》の毒性をなくすためには、それをろ過するための専用の装備を使うか、もしくは《ガイアメモリ》そのものを浄化する必要がある。フレイの使用する《ガイアメモリ》は、メモリそのものを浄化した、後者のパターンだ。加えて、毒性をさらに緩和するための装備もある。

 シャツの下に隠れているのは、およそズボンを止めるためのベルトとは言えないものだった。赤い金属製のスロットが中央部分に接続されたそれの名は、『ダブルドライバー』。

 メモリホルダーから取り出した青いメモリの、下部についたボタンを押す。すると、

『トリガー!』

 という声。同時に、待機音が鳴る。ロストドライバーにメモリをセット。すると、右手に《トリガーメモリ》に対応した武器が出現する。即ち……銃。

 《トリガーマグナム》という銘のその銃は、本来ならば『剣の世界』であるSAOには存在しないアイテムだ。だが、フレイはいかなる理由によってかこの《ガイアメモリ》達を入手し、同時にこの《トリガーマグナム》を始めとする特殊な武器も手に入れた。

 さらにもう一つのメモリを取り出す。今度は黄色のメモリだ。それを押すと、『ルナ!』のサウンド。待機音を鳴らすそれをドライバーのスロットにセット。

 フレイの腕に、右側が黄色、左側が青のブレスレットが出現する。《変身》をしていない状態でのフォームを示すアイテムだが、特に色以外の意味はない。

 トリガーメモリをマグナムのスロットに入れ、銃を構える。赤い閃光が通過するその瞬間を狙って――――

『マキシマムドライブ!!』
「トリガーフルバーストッ!!」

 青と黄色の閃光が発射される。それは赤い閃光を的確に追尾し――――

 白い閃光によって叩き斬られた。

「何!?」

 しかし、防御したことによって《そいつ》の高速移動も止まる。出現したのは、黒髪に両目を真紅に輝かせた少年だった。年齢はフレイと同じくらいか。動きが止まった直後、纏っていた真紅の燐光が消滅し、少年の目は黒色に、装備品のコートは黒と白を基調としたものに変わった。
 
 現れた少年もまた、驚愕に目を見開いていた。

「……その武器、銃か?」
「あ?ああ……《トリガーマグナム》って言って、《メモリマスター》スキルの特権」
「ユニークスキル、なのか……」

 少年は考え込む様子を見せるが、ふと何かに気が付いたように、抜き放たれていた刀を納刀した。

「すまないな、観察するようなまねをしてしまって。俺はカイ。君は?」
「そっちこそすごいスピードだったな。フレイだ。よろしく」

 カイと名乗った少年と握手をする。

「この状況、どう思う……?」
「ああ……プレイヤーも、NPCも一人もいない。BGMもないし、フレンドリストの名前が全部消えている」
「え、マジか!?」

 それは気が付かなかった。フレイは少年が言ったことを確かめるべく、メニューウィンドウからフレンドリストを開いてみる。表示されたのは、SAO開始初日以来のまっさらな画面。キリトの名前もアスナの名前も、それ以外の知り合いの名前も一切存在していない。

「どういうことだ……?」

 その時だった。《ソレ》が起こったのは。

 
 バシィッ!!という効果音と共に、アインクラッドの空が光った。アインクラッドの空は次層の地面を天蓋としているため、基本的に偽物だ。だが、たまに《偽物の天体現象》が起こったりする層がある。

 この三十一層はそんなものは無かったはずだが……。

 直後。

「うわぁぁぁぁぁ!?」
「はわわわわわわぁっ!?」

 絶叫の尾を引きながら、《ナニカ》が二つ落下してきた。

「ふぐっ」
「はうっ」

 どさり、と地面に着陸したのは、二人のプレイヤー。

 ひとりは、茶色い癖っ毛の男。緑色のバンダナを巻いているが、不思議とクラインの様なセンスの無さは感じない。むしろセンスがいいように思えてしまうのだから不思議だ。

 もう一人は、長い水色の髪の少女。巫女服と陣羽織を組み合わせた様な不思議な格好だ。下敷きになった男との間に挟まれて、形を変えている胸が大きい。

「な!?」
「プレイヤー!?」

 フレイ、カイともに武器を構える。カイは装備した刀を再び抜き放った。フレイは腰のメモリホルダーから、銀色のメモリを抜き出す。『メタル!』のサウンドと共に、トリガーメモリと《メタルメモリ》を入れ替える。すると、左手のリングは銀色に変わり、同時に《トリガーマグナム》の代わりに《メタルシャフト》という名の棍棒が出現する。

 しかし――――

「うわわわわっ、待った待った!!」

 バンダナの男が手をぶんぶん振る。

「え……?」
「敵じゃない!多分敵じゃない!!……ハクナ?頼むから早く退いて?」
「ふぇ?あ、はい!」

 水色の髪の少女が、バンダナ男の上からぴょいっ、と退く。「いててて」と呟いて立ち上がった男は、予想したより背が高かった。童顔なので同年代かと思ったら、どうやら20に少し届かないくらいのようだ。

「ごめんごめん、なんかびっくりさせちゃったらしいな。俺はセモン。こっちの娘はハクナ」
「よ、よろしくお願いします……」
「は、ハクナだぁ……?」

 青年……セモンと、少女……ハクナの自己紹介を聞いて、カイが頭を抑える。

「どうした!?」
「いや、なんでもない……知人のプレイヤーネームと同じだったから気がめいっただけだ……」

 カイは肩を落とすと、「何でこんなところまで来て奴に束縛されにゃならんのか……」と呟いた。より正確には呟いた気がした。ハクナがおどおどとし、「あの、なんだかごめんなさい!!ごめんなさい!!」としきりに頭を下げている。

「とりあえず……セモン、だっけ?お前はどこから来たんだ?」
「ん?んー……多分ここSAOだよな?」
「おう」
「で、まだSAOはクリアされてない、と?」
「ああ。当然だろ?」
「あー……」

 なるほど、とセモンが頷く。全然まったくなるほどらない。何がどうなのかさっぱりだ。

「いや、たぶん俺達二人はタイムスリップ的なことをやらかしてしまったんだな。俺がいた世界じゃぁ、SAOはもうクリアされてるんだ」
「はぁ!?」
「なん……だって……!?」

 驚愕の叫びをあげると、隣でカイも同じく叫ぶ。

「で、俺は……そうだな、《ナーヴギア》の後継機みたいなやつの実験に協力してたんだが……何があったのか……」

 あいつまだ懲りてなかったのか……?とぶつぶつセモンが呟くが、やはり何のことなのかさっぱりわからない。

「たぶん電波の混信的な物が起こってしまったんだろう。……フレイとカイは、これからどうするんだ?できれば俺達もご一緒出来ればな~なんて」
「ああ……」
「いいぜ。とりあえず、まずは別の層の確認だ。転移門が使えないから、迷宮区を突破することになる。いいよな、フレイ?」
「俺は別にかまわないぜ。セモンとハクナは?」
「オーケー。ハクナもいいよな?」
「はい。大丈夫です」

 よし、と呟く。

「それじゃぁ行こうか。……一応パーティーを組んでおこうぜ」

 メニューウィンドウを開き、パーティー申請。『【Kai】にパーティーを申し込みますか?』との表示に【Yes】を選択。HPバーが表示される。しかし、問題はセモンとハクナだった。

 パーティー申請が出来ない。加えて、今気が付いたのだが二人にはカラーカーソルもHPバーも無いのだ。

「な……どうなってるんだ……?」
「き、機種が違うせいなのか……?ごめん、俺にも詳しいことは分からない。ああくそっ、秋也か陰斗がいればな……」

 がりがりと苛立ち交じりに頭をかくセモン。

「と、とりあえず、その《迷宮区》に向かってみましょう!あの、何かわかるかもしれませんし……」
「そうだな……」

 ハクナの意外な落ち着きぶり(落ち着いているのかは謎だが)に感心しつつ、フレイはうなずく。

「それじゃぁ、迷宮区に向けて出発だ!」 
 

 
後書き
 フレイ君に勝手にダブルの知識を植え付けてしまった……ごめんなさい!


 次回は再びハリン君&アツヤ君&天宮兄弟に戻ります。 
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